IPEの果樹園2003
今週のReview
11/10-11/15
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投票日の朝,たとえ雨の降り出しそうな曇り空でも,私は喜んで投票所に向かいました.どの政党が多数を占めても,私の知らない誰が当選し,誰が落選しても,日本の選挙制度には大きな詐欺や脅迫行為,政治的な暗殺はなく,そのような蛮行で政治システムの重要な決定を誰かが支配することはない,と信頼し,期待しているからです.
サウジ・アラビアやロシア,イラクには,石油が豊富にあっても,その住民たちに政治的な発言を保証していません.私は,幸いにして,接岸を拒否されて漂流するボート・ピープルの一人ではなく,国境を越えるために炎熱の砂漠を歩き続ける非合法移民でもありません.私の子供たちは,ロシアやウクライナから西欧やアメリカの覗き部屋,もしくは,ポルノ・ビデオ業者に売られていく少年や少女ではなく,すでに多くの家族をエイズで失い,有効な薬も買えずに,自分が発病するのを待つしかないアフリカの若者でもありません.彼らの不幸に同情し,責任を感じます.
投票日の前後に,多くのメディアが狂騒する選挙結果の予想とは,どの政党が勝つか,に集中しています.そしていつも,自民党がどこまで勝つか,あの人は落ちたか,に話題は終始します.しかし,政党ではなく政策が,政策ではなく政府と官僚の実行が,私たちの生活にとって大切なのです.自民党が勝っても,改革は進むでしょう.あるいは民主党が勝っても,さらなる改革を提唱し,推進するでしょう.諸政党が改革を競い合い,その成果によっては政権を交代する,と訴えるほどに,有権者は政治家たちに強い圧力をかけたのです.
欧米では,人々が新しい政策や制度改革に取り組み,あるいは優れた映画やTV番組を次々と製作することに,彼らの自由な発想と積極的に議論する姿勢を感じます.それはいわば「合議制」の力です.各人が能力と理想に従って集まり,実行計画を立ち上げ,多くの関係者と協議を重ねて,これを実現し,そして去って行きます.
私たちが,ゼミやクラス,委員会や自治会の運営で知っているように,本当の意味で「合議制」が機能するのは5人から7人です.3人以下では情報や意見に深刻な偏りが生じるでしょうし,10人以上ではまったく発言しない者が出てくるでしょう.もし世界で代表制を用いるなら,一人で10億人を代表する,という深刻なジレンマに直面します.
中国やインドの民主主義が,もし存在するとしたら,どのような「合議制」を採用しているのか? ラテン・アメリカやロシアは? インドネシアは? そして,たとえバリ島やサモア諸島,ヒマラヤの渓谷でも,10人以上の集団がどのような「合議制」を採用し,それがどのように機能しているのか? 「合議制」は,民主主義よりもずっと広い概念です.
情報の公開や説明責任は重要です.しかし,政治が多くの人に理解され,誰でも利用できる社会の改善メカニズムであろうとするなら,運営ルールと目標・理念が重要だと思います.機能する「合議制」に,最適なモデルや法則は無いようです.実際の問題を解決し,腐敗を排除し,メンバーを更新しながら,広範な合意のための理念を示さねばなりません.
私は,どの政党や候補者が「勝って」も,その結果を受け入れます.しかし,彼らが示すさまざまな「合議制」の中身と成果に注目するでしょう.新しい政府は,それが自民党であろうと,民主党であろうと,諸政党の連立や再編であろうと,官僚制度を動かし,新しい政策を模索し,協調のための障害を取り除いて,この社会にある資源を動かさねばなりません.
そして,国境周辺をさまよう移民や難民たちも,市場において雇用されるなら,彼らは世界に新しい富をもたらすということを,研究者たちは知っています.彼らの政治的な権利が認められ,さまざまな形で社会に参加し,貧しい子供や病人も保護されることを望みます.
駅前の子供たちが声を嗄らして訴えていたのは,投票の呼びかけではなく,YMCAの募金活動でした.「学校に行きたくても行けない子供たちのために!」 「洪水や地震,戦争で苦しむ人々のために!」・・・と.私は小銭入れから1円玉と5円玉を集め,100円玉と一緒に,男の子の持つ箱へ入れました.私の給与から,銀行の振替システムを通じて,税金を何万円も,何十万円も集める政治家たちは,さあ,これから何をするのか?
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune
ST OCT 30, 2003 THU
Economic policy: Do what the US did, not what it says
JOSEPH E. STIGLITZ
インドネシアからメキシコまで,多くの新興市場は,成功するために一定の行動基準がある,と言われている.それは先進的な工業諸国も行ってきたことだ,と.だから,この先進クラブに入りたければ,たとえ痛みのともなう改革でも,既得権を持つものが抵抗しても,十分な政治的意志によって,これを遂行し,成果を手に入れることだ.
どの国にも改革リストはあるけれど,すべての国が財政を均衡させ,インフレ抑制を最優先するとともに,構造改革を行え,というわけだ.たとえばメキシコの場合,憲法で定められているにもかかわらず,電力産業を民営化せよ,ということになる.それが西側の求める改革だから.
しかしアメリカ政府にかかわった者であれば誰でもそうだが,私はいつも,アメリカが発展途上諸国に押し付ける政策と,アメリカ自身の実践との食い違いに,衝撃を受けたものだ.アメリカだけでなく,ほとんどの成功した諸国は,発展途上国であれ,先進国であれ,同様の「異端的な」政策を追及している.
たとえば,アメリカの両政党は,今や,不況に際して政府が赤字を増やすことは,許されるばかりか,むしろ望ましい,という考えを受け入れている.ところが世界中で,発展途上諸国には命じられる.中央銀行が目標とするのは物価の安定性だけだ,と.アメリカの中央銀行である連邦準備局は,成長と雇用とインフレについてバランスを取る権限があると言うのに.しかも,それは広く支持されている.
自由市場論者は産業政策に反対するが,アメリカ政府は新技術を,長期にわたって,積極的に支援してきた.最初の電信をバルチモアとワシントンの間に引いたのは連邦政府だったし,インターネットを発展させたのもアメリカの軍隊だ.アメリカの技術進歩は政府の資金援助や防衛に基づいている.
同じことは社会保障にも言える.多くの国で社会保障制度を民営化する話がある.しかしアメリカの公的な社会保障制度は効率的で,利用者の要望に沿っている.公的社会保障制度が財源不足になっているが,民間の年金制度も同じである.しかも,公的年金制度は,インフレや株式市場の変転に依存した民間が提供できなかったような,安定性を高齢者にもたらしてきた.
それと同様に,アメリカの成功をもたらした政策の重要な側面が,開発戦略としてはほとんど言及されない.
100年以上も,アメリカは厳しい反トラスト法を保持し,多くの分野で独占を打破してきた.ところが,新興市場では,情報通信分野の独占がインターネットや経済成長を窒息させている.あるいはまた,貿易の独占が競争を妨げ,セメントの高価格で建設費が高騰している.
アメリカ政府は,直接,もしくは政府系企業や民間融資の保証を引き受けることで,金融市場でも重要な役割を果たしている.ファニー・メーは中産階級の住宅ローンを低コストにして,民間の住宅保有率を世界最高にした.零細企業への融資を助けるthe Small Business Administrationは,企業の育成や雇用創出に役立っている.アメリカ人の大学進学も政府が支援している.
時には,アメリカも自由市場イデオロギーによる実験を試みたが,破滅的な結果をもたらした.たとえばレーガン元大統領が行ったS&Lの規制緩和は,アメリカの納税者に数千億ドルの損失と,1991年の不況をもたらした.
メキシコ,インドネシア,ブラジル,インド,その他の政府は,まったく異なるメッセージを受けるべきだ.自由市場経済の魔法を信じてはいけない.そんなものは存在しない.企業でも銀行でも,アメリカの特殊利益が示す賞賛を真に受けてはならない.彼らが自由市場について説教したとしても,アメリカに帰れば彼らだって政府に頼っているのだ.
むしろ新興経済は,アメリカの言うことではなく,そのやってきたこと,アメリカが今日のような工業大国になった過程を,見習うべきだ.そこには,この20年間,非常に成功した東アジアの政策との,顕著な類似性を見出せるだろう.
NYT October 30, 2003
Europe Is Shooting Itself in the Foot
By JEF MADRICK
(コメント) ヨーロッパの低成長と高失業をもたらしている原因は何か?
先月,スウェーデンがユーロの採用を拒んだとき,多くの評論家はスウェーデンがEUの実現を損ない,スウェーデン自身の成長を妨げた,と非難した.ためらうべきではなかった,と.しかし,ヨーロッパの経済学者の中には,これに反対する者も居ます.
ヨーロッパの労働市場や福祉国家を非難するアメリカの経済学者たちと違って,Jean-Paul Fitoussiは,多くの統計が示すのは,アメリカ以上に,EUこそが経済改革を実行してきた,という事実です.GDPに占める労働コストは急速に低下し(78.5から67.6へ),アメリカよりも低くなりました.ではなぜ,低成長や失業が続くのか?
パリからその原因を見るFitoussiやPascal Petitは,ECBの金融政策と,EU理事会の求める財政緊縮策を指摘します.なぜなら,アメリカではFRBが金融緩和を,連邦政府は財政赤字を実行し,また労働者は労働集約的な消費財をふんだんに購入して,自ら雇用を生み出しているからです.あるいは,乏しい社会保障制度により,アメリカの労働者の実質的な生活の水準が低く,長時間の労働を受け入れるしかないのだ,とも言えるでしょう.
もしそうであれば,ユーロやEU,福祉国家は,停滞と失業をもたらす自己破滅的な試みなのでしょうか? そんなはずは無い,しかし・・・ この記事の結末は,フランス人がアメリカに示した不満だけでなく,ドイツにも示した不安,もしくは脅しのようです.
Oct. 31 (Bloomberg)
Snow Takes on U.S. Senators Over China's Yuan
David DeRosa
NYT October 31, 2003
Treasury Loosens Pressure on China Over Exchange Rate
By EDMUND L. ANDREWS
FT November 1 2003
Happy times
(コメント) スノー財務長官が上院でアメリカの対外通貨政策について説明しました.それは,かつてアジア通貨危機の後にIMFと財務省が示した「二極化論」を,今も支持するものである,とDeRosaは言います.中国の人民元を変動制に向けて説得するとしながらも,資本気勢を伴う「ハード・ペッグ」自体には反対しない,という立場ですが,それは,アカデミックなスタイルで,政治的な動機と議会へのけん制をブレンドした印象です.すなわち,ブッシュ再選のためには中国を非難するが,議会に報復関税の口実は与えたくない,と.
議会や民主党議員は,交渉の主導権を得たいと,強硬な報復案を持ち出します.そこでアメリカ政府は,意識して,中国政府が為替レートを操作し,不正に利益を図り,アメリカの労働者から雇用を奪っている,という批判を退けようとします.中国とは「外交交渉で」解決するほうが良い,というわけです.東アジアには懸念材料があります.北朝鮮も,中国自体の経済不安も,日本の金融システムも.そして,貿易摩擦は通貨・金融摩擦に飛び火し,世界からの資本流入に依存する弱小な新興市場から,もしかしたらロシアや,アメリカ自身にも及びかねません.
アメリカの雇用が増大した,というニュースはブッシュ政権や,多分,中国政府を喜ばせたでしょう.問題は,「それがいつまで続くか?」です.耐久消費財の販売は約27%も増加し,輸入は抑制されて輸出が9%以上増加しています.需要増加の65%は消費であり,政府支出は4%に過ぎません.
問題は? もちろん,消費が多ければ貯蓄は少ない,ということです.低金利政策を続けるなら,当然の結果かもしれません.GDPの5%に相当する貯蓄が不足しており,海外からの資本流入が続いています.今後,財政政策は拡大ではなく支出抑制を目指すでしょう.また,金融政策もこれ以上緩和しません.景気が完全に回復し,税収が増加するまで,アメリカへの資本流入は続くのか? あるいは,アメリカ以外の地域が成長を加速させて,世界の景気回復やアメリカの輸出を刺激するのか? そうでなければ不安定な調整と国際対立が表面化します.
LAT October 31, 2003
Putin's Dangerous Path
FT November 2 2003
'A creeping bureaucratic coup'
Stefan Wagstyl, Andrew Jack and Arkady Ostrovsky
FT October 31 2003
Putin threatens Russia's democracy
NYT November 3, 2003
Russia Is Mostly Unmoved by the Troubles of Its Tycoons
By SABRINA TAVERNISE
FT November 4 2003
Putin puts prosperity at risk
By Martin Wolf
WP Tuesday, November 4, 2003
Loot Turned Legitimate
By David Ignatius
FT November 5 2003
Putin's reign of fear must now be challenged
By Vladimir Gusinsky
(コメント) ロシアの産業寡頭制を牛耳る大富豪たちが突然の不幸に見舞われても,同情する者は少ないでしょう.彼らは共産主義体制崩壊の混乱に乗じて国有資産を捨て値で買収し,否,それどころか銀行や国債を操作して詐取した結果として,現在,資本主義ロシアの領主に収まっているからです.
しかし,誰もが感じたように,それがコドルコフスキーを逮捕させたプーチン大統領の恐怖政治を弁解する理由にはなりません.KGB,今のFSS(the Federal Security Service)による政治家や自由な言論,市民団体の弾圧,大衆的な反ユダヤ主義の利用,その他の政治スタイルを改めるべきです.改革を進める姿勢に疑いが強まれば,投資家たちはロシアから資本を引き上げ,アメリカはロシアへの経済制裁も考えるべきだ,とLATやNYTなどは主張します.
これと対照的な反応は,FTに載ったWagstyl, Jack and Ostrovsky の重要な論説です.ロシアはソ連の政治体制に戻りたいわけではない,と彼らは指摘します.プーチンは,自由な民主主義の指導者ではありません.彼が目指すのは,ロシアにおける強固な権力基盤の確立です.彼はKGBのトップであったことから,国家の官僚組織を動かすことで,この目標を達成できると信じています.それは,スターリニズム国家ではなく,国際投資家や西側の同盟諸国と協調できるような,権威主義的国家です.
ソビエトの政治・社会が崩壊する過程では,共産党の復活や軍のクーデター,そして内乱を防ぐために,エリツィンは政治的な分断化を進めました.この政治的な空白・混乱期に,もっとも大きな利益を得た者こそ,コドルコフスキーのような「民営化」にもぐりこんだビジネスマンたちでした.他方,国家の官僚組織は,さまざまな汚職によって彼らから利益の一部を得ただけで,KGBはその支配と富をもっとも大きく損なわれた組織なのです.
2000年に権力の座についたプーチンの目標は,この粉砕されたモスクワの権力機構を再建することでした.「統一ロシア」を支持政党として議会を押さえ込み,反対派は,メディアであれ,企業であれ,ソ連時代の徹底した弾圧手段を用いて破滅させました.新興の富豪たちには,政治に口出ししない限り,不正な手段で富を得たことを問わない,と「合意」しました.それにもかかわらず,メディアを使ってプーチンを批判したベレゾフスキーやグシンスキーは,結局,その資産を持って亡命させられました.
80億ドルと言われる個人資産を持ち,ユコスへの課税強化を政治家への献金で廃案にし,プーチンに反対する政党を資金援助して,自ら2008年の大統領選挙に立候補する意志を示したコドルフスキーが,こうしたプーチンの権力基盤と正面衝突するのは避けられません.
もし,ロシアの投資家が不安を強め,多国籍企業もロシア市場への参加を見送るようになれば,ロシア経済の急速な悪化から,プーチンの再選も怪しくなるでしょう.しかし,Wagstyl, Jack and Ostrovskyの予測では,投資家たちはこの政争が落ち着く先を見守っているようです.西側の政府も,ロシアが急激な開発を行いつつ,権威主義的な政治体制を維持したアジア諸国の例に近い,と考えているようです.プーチンはこのバランスを意識して行動するでしょう.ただし,ロシア国民や,国家の権力機構が,動き始めたらどこまで進むのか,プーチン自身にも分かりません.
FT November 2 2003
The enlarged EU must be free to compete
By Tony Blair and Juhan Parts
(コメント) イギリスの首相,ブレアが,エストニアの首相,パーツと連名で,拡大EUへの要望を明示しました.拡大EUは,各国が対等な立場で参加し,その国民がその経済活動を自由な競争によって促進しなければならない,と考えます.EUの目標は,市民の政治的な自由であるとともに,経済の革新と成長です.そのためには,まず労働市場を改革せよ,と決まり文句を述べる一方で,EUが税制を多数決で統一する動きに強く反対します.EUにおいて,各国家は主権を維持し,政治システムは国民ごとの選挙によって決まります.だから税制について,各国が自由に決めるべきなのです.そして,市場競争によって,その政治システムが優劣を競い,自ら革新し続けるべきだ,と主張します.
Nov. 2 (Bloomberg)
Bank of Japan Sees Deflation Woes Continuing
David DeRosa
FT November 3 2003
Japan and the LDP
Nov. 4 (Bloomberg)
BOJ Should Stop Enabling Japan's Addictions
William Pesek Jr.
(コメント) DeRosaは,デフレを解消することに日銀が失敗してきたのは,金融緩和が足りないと言うより,価格が下落して,企業が淘汰される過程を,政治が邪魔してきたからだ,と考えているようです.自民党が戦後復興のために作り上げた政治組織は,すでに経済改革の障害となっているのです.自民党がたとえ勝利しても,小泉氏は約束した改革を進めて,旧体質を押さえ込むべきだ,とFTも期待します.小泉首相は日銀との協力を訴えましたが,Pesek Jr.はその姿勢を「麻薬中毒患者」と呼んでいます.むしろ日銀は金利を引き上げて,政府にも,企業にも,積極的なリストラと,生き残れない者には破産を宣告すべきではないか? 日経平均が上昇したから,日本はもう大丈夫だ,というのは,その経済が麻薬を打ち続けて走っていることを忘れていないか?
NYT November 2, 2003
China's Factories Aim to Fill the World's Garages
By KEITH BRADSHER
(コメント) 中国の自動車生産・販売台数が急速に増加しています.すでにそれは,ドイツの販売数を超え,韓国の生産台数をも超えました.中国では,すでに400万家族が自動車を保有し,毎年,100万家族が新しく購入する勢いです.その影響は甚大です.
もちろん,交通渋滞や環境破壊が起きるでしょう.中国は部品を海外から輸入していますが,それを自国内で生産できるようになれば,メキシコ,韓国,タイなど,アメリカの同盟諸国が影響を受けます.時給50セントという賃金格差はあっても,中国が部品を国内で調達できるまでには,まだ時間がかかりそうです.また,販売がこのまま伸びるかどうか,不安も抱えています.かつて,ヘンリー・フォードは労働者の賃金を2倍にして,労働者にも自動車が買えるような経営を目指しました.しかし,中国の労働者が自動車を買えるのは,まだ予想もつきません.自動車販売は,都市部のエリートに限定されるでしょう.
そもそも,中国の硬直的な政治システムや銀行システムが,自動車による社会的な移動性や融資の増大に耐えられるかどうか,それは分かりません.
Nov. 6 (Bloomberg)
Asia's Fear: China's Undercooking Its Books
William Pesek Jr.
(コメント) もし中国の統計が,いつも疑われてきたように水増しされているのではなく,逆に,薄められているとしたら? 中国経済の過熱と抑制策,あるいはバブル破綻を,アジアや世界はどのように準備しているでしょうか?
FT Nov 6 2003
China on way to being world trade superpower
(コメント) その引き金は,おそらく中国人民銀行が,賃金ではなく国際商品価格の上昇から,引き締め政策に転じるときではないか? 急速な都市化が進めば,中国は確実に原材料や資本財の輸入を増やし,赤字になるだろう.
NYT November 6, 2003
Credit Agencies Worry About Health of China's Banks
By KEITH BRADSHER
FT November 3 2003
Opportunity or threat?
By Edward Alden
The Guardian, Monday November 3, 2003
Corporate stone wall
Gary Younge
NYT November 5, 2003
Illegally in U.S., and Never a Day Off at Wal-Mart
By STEVEN GREENHOUSE
(コメント) 「この際,お前の目を覚まさせてやろう.」と,よくある人種差別主義者の投書は書き出しました.「トニー・ブレアが最近,難民やその他の望ましくない奴らに態度を変えたのは,アングロ・サクソンが,このイギリス諸島の元来の住民であるわれわれが,自分たちの国を第三世界の乞食どもに乗っ取られてしまい,まるでイギリス的でない何かに変わってしまうのを見るに耐えなかったからだ!」
しかも,この筆者は自分の会社,Skandia生命保険のe-mailを使用し,会社の情報や携帯電話番号まで表示していたわけです.Youngeは,こうした差別の挑発に繰り返し接しながら,生きて行かねばならないことを知りつつも,そのすべてには反駁する意志を持てない,と認めます.ただし,このケースは顕著な「制度的人種差別institutional racism」として,何としても根絶したい,と考えました.
人々が,時に,人種差別の感情に駆られるとしても,それが制度によって助長されたり,増幅されたりしなければ,その過ちを自身で気付くか,仲間たちによって注意されるはずです.しかし,この人物は,おそらく,会社の同僚にもこうした人種差別を公言し,この会社が人事や経営上の決定に人種差別主義を混入するように促したでしょう.Youngeはこれに抗議し,会社の広報担当者が人種差別の誤ちを認めてこの件については謝罪しながら,会社の改善策を公表しない態度に不信感を強めます.
NYTに載ったGREENHOUSEの記事では,ウォル・マートが非合法移民を雇用していたことが問題になっています.ロシア,ポーランド,リトアニアなどから来た労働者たちが,時給7ドル以下で床掃除をしていました.彼らはアメリカ人の雇用を奪い,学校や保険に関する公的な負担を強いた,と地元で非難されています.他方,多くの移民たちが,もっと安い賃金で,人の嫌がる仕事に就いています.
東欧やメキシコなどから来る彼らは,非合法であるため,決して表には現れず,言葉も分からず,犯罪者にだまされても訴えることができず,それでも,ウォル・マートとその顧客に安い商品をもたらし続けるのです.
NYT November 3, 2003
Iraq War III
By WILLIAM SAFIRE
ST NOV 4, 2003 TUE
Alternative to anarchy
By SUNANDA K. DATTA-RAY
(コメント) この第三次イラク戦争に,アメリカはどのように勝利するのか? DATTA-RAYは,多角主義に転換し,イラクの主権を国民に戻すよう,アメリカ政府に求めます.なぜなら,イラク国民が何より求めているのは,自尊心だから.
ST NOV 4, 2003 TUE
Party together to escape that Orwellian ghost
Prime Minister GOH CHOK TONG
(コメント) シンガポールのゴー・チョク・トン首相が警告するのは,アメリカとヨーロッパが競い合って,世界の貿易ブロック化を進めることです.それは,ジョージ・オーウェルが小説『1984年』で描いたディストピアです.他方,アジアは多様な経済構造と発展段階を持つがゆえに,一層の市場統合化と,国際的な開放体制を強く要求し続けるべきだ,と訴えます.
FT November 4 2003
South Africa's 'cappuccino effect'
By John Reed
FT October 19 2003
S Africa tackles discrimination in finance
By Nicol Degli Innocenti and John Reed in Johannesburg
FT October 17 2003
S Africa's bank sector unveils equality charter
By Nicol Degli Innocenti in Pretoria
NYT November 4, 2003
U.S. Subsidizes Companies to Buy Subsidized Cotton
By ELIZABETH BECKER
(コメント) なぜアメリカの綿花に何十億ドルもの補助金が支払われるのでしょうか? 他方で,消費者は高い製品を買わされ,世界の他の綿花生産諸国はアメリカへの輸出を妨げられ,世界の綿花価格は下落して,世界中の貧しい綿花栽培農家がますます貧困に苦しまなければならないのでしょうか? アメリカ政府は,次の貿易交渉までに,西アフリカ諸国が強く抗議して交渉決裂の原因ともなった,こうした疑問に答えねばなりません.
WP November 4, 2003
Iraqification: Losing Strategy
By Fareed Zakaria
WP Tuesday, November 4, 2003
From Bosnia to Baghdad
By Richard Cohen
NYT November 6, 2003
Iraqis at the Wheel
By THOMAS L. FRIEDMAN
(コメント) Zakariaは,早急なイラク国民への主権移譲を行うべきではない,と言います.イラクでの死傷者や,イラク国民の支持は,ヴェトナムと比較にならない.ヴェトナムでは撤退する方策が必要だったが,イラクでは勝利が求められる.ヴェトナムで問題になったのは現地の腐敗した政府や官僚,警察であったが,もしイラクを現地人の混乱した政府にゆだねるなら,それはヴェトナム化へと向かうだろう,と.
Cohenは,イラクのアメリカ兵は,ヴェトナムではなく,ボスニアに居る,と言います.私たちは,ヴェトナムの教訓を忘れてはなりません.すなわち政府は,戦争の目的を明確に知っておくこと,そして,国民に対して正直であること,です.だからこそ,ブッシュ氏が戦争前にフセインの脅威を誇張し,戦争に関して誤った情報を流したことは責められるべきです.
しかし,他方でクリントン政権のオルブライト国務長官は,ヴェトナムを意識して,バルカンの泥沼にのめり込むことを逡巡し続けました.その間,ヨーロッパ諸国は互いを避難し,制裁や安全空域を設けるだけで,この一帯において7000名ものイスラム教徒の男性や男子が抹殺するのを放置しました.Cohenは,ボスニアの教訓はヴェトナムと逆であった,と言います.すなわち,極端な人権蹂躙を止めるために武力を行使することは必要であり,もしアメリカが行わなければ,何も行われはしない,と.
ヴェトナムか? それとも,ボスニアか? われわれは選択しなければなりません.
FRIEDMANは,フランス人に言われなくとも,イラクの統治をイラク人に委ねるべきだと分かっています.「この世界において,レンタカーを洗う者は一人も居ない.」というサマーズの名言?を引いて,FRIEDMANは,イラクという国が,サダムやブッシュからの借り物でしかない,と国民が感じていることを警告します.統治評議会のメンバーを一つの部屋に閉じ込めて,具体的な憲法作成の作業委員会を設置するまで,一人も出すな,と要求します.アメリカは,このレンタカーのインストラクターでしかなく,運転するのはイラク国民です.
FT November 5 2003
Rising UK rates
FT Nov 6 2003
Lex: UK rates
(コメント) 世界の金利は引き上げられる方向へ転換しつつあるのか? では,日本は? もし日本が金融緩和政策をさらに続けるなら,何が起きるのか? イギリスが住宅価格の高騰を気にするのであれば,日本の低下した住宅価格は人々の消費意欲を損なっているのではないか? あるいは,都市の再開発や新規投資,人々の消費や若い夫婦の住宅建設を刺激する要因になっているのか? 新しい雇用に結びつくのか? イギリスの金融政策委員会が説明を試みるように,日銀や政府はもっと国民に,何を目指しているのか,説明するべきではないか?
LAT November 5, 2003
More Than a Moscow Morality Play
By Fiona Hill
NYT November 5, 2003
Siloviki Versus Oligarchy
By WILLIAM SAFIRE
NYT November 5, 2003
Autumn of the Oligarchs?
By ANDREW MEIER
(コメント) ロシアの権力を動かす,silovikiとoligarchsとの関係について,MEIERは雄弁です.ロシアの選挙結果を決めるのは,選挙前の秘密警察や税務署,犯罪組織が結びついたsilovikiの牽制・脅迫行為であり,だれに選挙用の資金を与えるかを決めるoligarchsたちの密談だ,というわけです.
ST NOV 6, 2003 THU
Is Putin self-destructing?
By ANDERS ASLUND
(コメント) 他方,ASLUNDは,ロシアの民主主義がプーチンを見限るときは近づいた,と考えます.このただ一つの行為で,プーチンはこれまでの国民の信頼や国際的評価を失いました.これまでプーチンは,一方でKGBの影を負い,他方で産業寡占体制に対抗して,独立した権力者の地位を認められていました.国民は,毒をもって毒を制するしかない,と考えたのです.しかし,コドルコフスキーの逮捕劇は,プーチンをKGBの帝王でしかないと教えました.すべての産業支配者は,国内投資を控えて,資産の海外移転に向かうでしょう.KGBを動かすだけでは,もはやロシアが支配できないことを,知るときが近づいたのです.
WP Wednesday, November 5, 2003
Russian Revanche
By Anne Applebaum
WP Thursday, November 6, 2003
A Payoff For Putin
By Jim Hoagland
(コメント) また他方,Hoaglandは,プーチンの権力政治を賞賛?しています.プーチンはロシアを,中国と同じように,共産主義のイデオロギーではなく,富の争奪によって動かし始めました(following the Chinese model of robber-baron Leninism.).プーチンは,中国と連携して非民主主義的富の強制蓄積を実行します.あるいは,アメリカと連携して,テロとの戦争における役割を受諾し,チェクニアの虐殺を継続します.あるいは,フランスのアメリカ非難に同調し,多角主義的世界への橋渡し役を買って出ます.また,アメリカ政府の歓心を買う必要があれば,イスラエルのシャロン首相を呼んで歓談もします.・・・野心的で,冷酷な,熟練した謀略家.その目的は,支配!
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The Economist, October 25th 2003
The end of the oil age
OPEC: Still holding customers over a barrel
(コメント) 石油に依存することは,多大のコストを潜在的に伴っています.@サウジ・アラビアとその周辺の小国が政治的な安定を維持することに,世界は,特に輸送分野が石油を燃料とする点で,大幅に依存しています.AOPECは,この30年間に7兆ドルの資金をアメリカの消費者から奪いました.B石油は,環境や人体に甚大な被害を与えるにもかかわらず,自動車への規制は非常に困難です.
The Economistは,規制やOPEC破壊,アラスカの油田開発,などではなく,水素エネルギーへの転換を支援するように求めます.石油との中毒を絶って,水素やエタノールなど,新しいエネルギーに向けた移行を,政策によって決定付けるべきだ,と.あるいは,このままサウジ・アラビアの政治崩壊を待つのか?
China and the world economy: Tilting at dragons
(コメント) この記事は,中国を非難するなんて,冗談ではない.日本やアメリカが,中国の工業生産力や成長にどれほど深く依存しているか,忘れてはならない,と注意しています.通貨を人為的に引き下げているとしたら,それは日本政府であって,日本こそ貿易や投資に対する開放政策を取るべきなのだ,と.
しかし,中国政府も非難されるべきだ,とThe Economistは考えます.生産生の急速な伸びを考えれば,中国の通貨は切り上げるべきです.巨額の外貨準備はそれを示しています.まずは固定する通貨をドルに加えて円とユーロにも拡大し,その後,為替レートの変動幅を拡大して行くべきでしょう.また,こうした為替レートによる調整を回避することで,中国は世界に保護主義を育てています.
もちろん,日本やヨーロッパが改革を率先することこそ,国際協調の基礎となるわけですが.
South African finance: A gradual transfer of power
(コメント) 白人が支配する経済を,南アフリカが黒人との協調システムに作り変えようとしています.ロシアとは逆の,富を黒人にも分散させる一種の民営化です.人種差別主義による富の独占と支配を平和的に終わらせる作業に,関心をもちます.
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<宇宙人と在外日本人への,もっとも短いニュース解説>
今回の選挙結果は,自民党が239議席,民主党は177議席です.自民党と組んだ政党は,創価学会を地盤とした公明党を例外として,いつものように存在感を失い,民主党に合流しなかった野党も,未来に向けた存在意義を示せなかったと思います.低い投票率は残念であり,もっと候補者を集めた討論会や,各学校での演説会を,住民自身に組織させてほしいです.
自民党は,農民や建設業者の保護に頼る世代を引退させて,明確な改革方針を示してください.民主党は,与党の法案通過に抵抗するとか,審議を紛糾させるとかではなく,それを超える対案を常に提示することで,政権交代の意味とその能力を国民に示してください.小泉氏と菅氏が,政治家としての存在感を論争で示すなら,日本の政治システムは革新されると期待します.
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