IPEの果樹園2003

今週のReview

11/3-11/8

*****************************

今週は書きたいことがありませんでした.アンテナがさび付いたのかもしれません.今朝(11月1日)の朝日新聞をめくれば,オウム裁判結審,カレー事件,ロシアの石油王逮捕,ニューヨークの停電もカリフォルニアの山火事も天罰,日本人留学生の寸劇に西安学生抗議,阪神応援団会長ら逮捕,・・・

「宇宙人を呼んでくるように」と,ゼミ生たちに私は提案します.ユートピア小説やSFは,しばしば遠くの島や国,あるいは遠い過去や未来を舞台として語られます.地球人には当たり前のことを,宇宙人なら変だと思うからです.

SF原作の『バトルフィールド・アース』というビデオを観ました.しかし,惑星サイクロンから来た宇宙人に征服されている地球にも,地球人たちの反抗にも,まったく感心しませんでした.この映画では,アメリカ原住民に戻ったような地球人たちが,合衆国の独立宣言やフォートノックスの金,戦闘機や核爆弾を使って,遂に宇宙人を出し抜き,彼らの異次元転送装置により惑星サイクロンをも壊滅します.しかし,そのアイデアがどれも陳腐で,浅薄なのです.

経済学が宇宙人を描いた例は,たとえばD.H.ロバートソンの『貨幣論』です.宇宙人なら,失業者にあふれる地球の表面に,彼らを雇用するための貨幣が余っていることを知って,地球人はなんと愚かな奴らだ,と思うでしょう.また,クルーグマンとオブズフェルドの『国際経済学』では,なぜ各国の国際収支の総計が大幅な赤字なのか? と問い,それは異星人と貿易しているからだろう,と書いてあります.もちろん,冗談として.

サイクロン人の技術で,唯一,関心を持ったのは「教育」です.惑星サイクロンでも,特に優秀な者だけがアカデミーへ入学し,異星人の惑星を多くもつ,この宇宙の支配方法を学ぶようです.しかし,各種の言語や歴史,数学のような「基礎的な知識」は,すべて圧縮して催眠?転送装置で学習します(『マトリックス』でもそうでした).この技術は,彼らが滅ぼした異星人の一族が保有していたようですが,その一族もサイクロン人の破壊=戦争力には及ばなかったわけです.

サイクロン人の地球統治司令官は,もう一つの意味で同じ「学習」という言葉を使います.それはアカデミーでも,催眠転送装置でも学べない,他者を支配する技術です.異星人の好物は何か? 異星人が執着する感情(愛情や憎悪など)は何か? その原則とは,相手の弱みを握ること,です.スパイを利用して情報を手に入れ,その後,スパイは抹殺する.

サイクロンの司令官は,自分も帝国のシステムによって権力を得ていることを良く知っています.だから,このシステムを動かすパワー・ゲームを学習し,それに地球人や地球環境,そして宇宙を従わせるのです.

大教室の授業で,私語が気になるとき,彼らが少し静かになったのにはわけがありました.「もし私が独裁者なら」,と,私は彼らに話しました.教室の各所に屈強な監視員を立たせて,私語する者をつまみ出し,廊下で縛り首にするでしょう.独裁者は,生き残った者を恐怖で支配するために,できるだけ残酷に殺すのです.

他方,もし私が「経済学者」なら,いわゆる価格や報酬を介して,学生たちを動機付けようとするでしょう.抜き打ちテストを繰り返し,成績の最下位50人は即時退学.次の50人からは授業料を3倍取ります.他方,成績上位50人は授業料を免除.特に最上位10名には,毎月10万円の奨学金を出します.

しかし,同志社の先生の多くは,そのような方法を好まないでしょう.むしろ,たとえば,こうした学生たちが「良心碑」の前に立って,自ら反省することを希望します.

近代的な支配は,合意されたルールに従い,裁判所によって公正に行うことが求められます.しかし,その条件が,単に,法律や裁判所,客観テストである,とは誰も思いません.私のゼミのテーマは,IPE的想像力,です.そして教育と支配は,永遠にユートピアのテーマなのです.

*****************************

ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune


ST OCT 24, 2003 FRI

To know fate of Palestinians, look in 'mirror' that's N. Ireland

By GWYNNE DYER

(コメント) イスラエルはパレスチナをフェンスで隔離し,同時に,占領しています.しかし,両者がいっそ同じ国になって,民主的な投票を行えば,ユダヤ人であることやパレスチナ人であることが軍事行動やテロの報復合戦をもたらす事態から,完全に異なる道へ進むのではないでしょうか?

DYERは,現在のイスラエルが20年か30年前の北アイルランドである,と言います.1925年にイギリスは,プロテスタントの強欲な強硬派に従って,広域の北アイルランドを境界線として合意しました.結果として,その内部には,出生率の高い,多くのカソリックが含まれたのです.

北アイルランドの独立を求めたIRAは,5年前にthe Good Friday Agreementで武装闘争を放棄しました.それでも武闘派の権威を守る者たちは,武装解除について情報を明確にしません.プロテスタントはIRAの行動に不信を強めています.合意は,中東和平が失敗したのと同じように,崩壊するのでしょうか?

否,IRAが武装闘争に戻る心配は無いだろう,とDYERは考えます.なぜなら,2001年の国勢調査によって,40年前には63%を占めたカソリックが,今では53%という,わずかな差の多数派を占めるに過ぎず,さらに2010年までにカソリックが多数派になることを知ったからです.彼らはイギリスの支配を終わらせるために,IRAの武力ではなく,シン・フェイン党が選挙に勝てば良い,と理解しました.イギリス政府も,その結果に逆らいません.国民の46%はアイルランドとの合併を認めており,イギリスのものだと思う者は21%に過ぎません.

それは今のイスラエルにおけるユダヤ人550万人と,パレスチナ人450万人にも当てはまるでしょう.遅かれ,早かれ.


ST OCT 24, 2003 FRI

Keeping Russia's finances well oiled

By ROBERT SKIDELSKY

(コメント) 石油は,安全保障にも,景気回復にも,欠かせない重要な資源です.それが輸入国だけでなく,むしろ輸出国にとって経済安定化の重要な要因であることは,メキシコ,ロシア,ヴェネズエラが示しています.

ロシアの財務大臣が石油ファンドを設立したい,という計画を示したことについて,SKIDELSKYは興味深い考察を行っています.@石油への課税が歳入の大部分を占めている国にとって,国際価格の変動が,財政政策を介して,経済の不安定化につながるのは問題だ.しかし,A石油基金は価格の変動にだけ対応して安定化を目指すべきだ.Bその他の政治的な目的に流用されないよう,ノルウェーのように,中央銀行が管理するべきだ.C「オランダ病」の対策にはならない.なぜなら,石油価格ではなく,投資によって為替レートは増価しうる.過度に増価するときには,対外債務を返済すればよい.D石油輸出への依存を減らすためには,健全な国内金融システムを整備して,銀行が低金利で融資し,さまざまな分野の新しい中小企業が拡大できる環境を保つことだ.


NYT October 23, 2003

The Mullahs and the Bomb

By GARY MILHOLLIN

WP Thursday, October 23, 2003

Playing Games With Pyongyang

By Jim Hoagland

(コメント) イラン,イラク,北朝鮮という,ブッシュ大統領にとっての「悪の枢軸」が,その後にたどった国際関係と対米政策は,9・11以後の国際秩序に一定の見通しを与えるでしょう.国際協調による核の廃棄や,アメリカの軍事力と地域的な安全保障体制が,再編されています.


FT Oct 22 2003

Lex: China

WP Thursday, October 23, 2003

A China 'Bubble'?

By Robert J. Samuelson

(コメント) 中国は,宇宙飛行士を作るために巨額の投資を行い,3650億ドルの外貨準備を保有して,国内金利は低すぎるようです.それでも,さらにドル建とユーロ建で国際的な債券発行を非常に有利に推進します.こうしたシンボリズムに,FTは危険を感じます.中国企業の内容は分からず,彼らが外貨建ての債券発行を急いでいるわけでもありません.民間部門は,正しい債券発行と債務の管理について学ぶ方が先ではないか,と.

20年前にはほとんど貿易していなかった中国が,今では世界で第5番目の貿易国であることに,Samuelsonは注目します.そして,ブッシュ氏の求めた人民元切り上げは,中国の貿易拡大が世界経済にとって好ましいのかどうか,先進諸国の物価や賃金を圧迫していないか? という問題を提起した,と考えます.もし中国の拡大が不安定化要因であれば,北朝鮮の核問題を始め,アジアにとって非常に深刻な意味を持ちます.

なぜ中国はこれほど急速に貿易大国になれたのか? もちろん,多国籍企業が生産拠点を中国に設けたからです.東芝,モトローラ,デルなどが,中国へさまざまな部品を輸入し,それを組み立てて先進諸国,特にアメリカ市場へ輸出します.中国からの輸入増加は,他のアジア諸国が行ってきたものに代わった部分が多いでしょう.それでも,その分野が拡大し,貿易理論が言うような相互利益を実現するかどうか,アメリカの労働者には中国に対する不満が募るのです.

メキシコ,カナダ,ヨーロッパなどに比べて,アメリカは中国市場を奪えるのか? あるいは雇用を失い続けて,政治家たちが保護主義に走ればどうなるのか?

そこで,先に,人民元を切上げさせてはどうか? あるいは,WTO加盟で約束した市場自由化を実行し,輸入を増やすのか? いずれにしても,中国政府は国内の雇用維持に最大の関心を持ちます.それゆえ,国内の金融緩和と信用拡大を続けています.それは,日本がかつて経験したように,保護主義を回避するためのバブルへの道です.


The Guardian, Friday October 24, 2003

Iran has made its promises. Now the west must, too

Martin Woollacott

LAT October 24, 2003

Slap Iran With Stiff Inspections

By Richard G. Lugar

(コメント) イランとの合意は,国際安全保障の新しいモデルとなるのでしょうか? 何のためにイランや北朝鮮は核兵器を保有したがるのか? それは核が,近代化(技術水準),国際的な対等の地位,そして最終的な安全保障(イスラエルに対して),を意味するからだ,とWoollacottは指摘します.もし,核兵器を保有する以外の方法で,これらを達成することを彼らが納得しないならば,核兵器の開発を諦めることもないでしょう.

核技術は,たとえ平和利用であっても,容易に軍事用に転換されます.今回の合意は,それが実行されるなら,イラン政府が不断に情報を開示し,IAEAの査察を受け入れなければなりません.同時に,先進諸国はイランに三つの目標が核兵器を放棄したことで,いっそう,確実に実現できると,今後も,確信させねばなりません.イラン政府は,ヨーロッパやアメリカの反応に,いつも注目しているのです.その最も重要な条件とは,敵国ではなく,友好国として,世界市場や国際投資の中に招き入れることだ,とWoollacottは考えます.

ブッシュ氏の先制攻撃・核拡散阻止政策は,それが周辺諸国に破壊的な影響を及ぼす場合,必然的に,地域の主要国と多角的な交渉を進めなければならない,という矛盾をもたらします.ところが,アメリカは自国への脅威だけを排除すべきだと主張し,友好国や同盟国の核は無視します.イランや北朝鮮が,国際システムに頼って目標を遂げられる,と信じるでしょうか?

しかし,この合意によっても,アメリカの一方主義は変わらないでしょう.イギリス・スランス・ドイツが保証したから,イランは一時的な凍結を認めたに過ぎないのです.核拡散防止条約(NPT)に調印しておきながら,それに違反し,またIAEAはそれに気づきませんでした.このような国際システムを,アメリカも受け入れません.国際査察を強化し,安保理が強力に実行を迫る必要がある,と考えます.さもなければ,NPTが信用を失うでしょう.


NYT October 24, 2003

Failing Teachers

By BOB HERBERT

(コメント) 「教育とは,社会的な進歩と改革の基本的な手段である」と,ジョン・デューイは述べました.

ニューヨークの学校が荒廃している真実を伝えることから始めよう,とHERBERTは考えます.多くの教師たちと話し合い,学校が荒廃する原因は,親も,子供たちも,政府も,学校に真剣に取り組まないことだ,と主張します.何より,多くの教師が問題を避けているのです.彼らの話によく言及される,「教室の後ろで」という表現は,学校が子供たちを無視し,子供たちが学校を無視している場所を示します.問題に取り組もうとする教師は居ますが,彼らは少数で,孤立しています.


WP Friday, October 24, 2003

Globalization's Lessons

By David Ignatius

イラク統治の混乱やオサマ・ビン・ラディンの映像にもかかわらず,今,明確になったのは,経済的なグローバリゼーションの進展である.

ブッシュ大統領のアジア歴訪は,ついに10年来の不況を抜け出しつつある日本から始まった.市場の力が,日本経済の活動を阻止してきた保護の壁と非効率性とを破壊し始めたのだ.たとえばビジネス・ウィークの記事が示すように,国際的な市場圧力に応じて,2000年以来,松下電器産業は世界中で30の工場を閉鎖し,日本人の労働者を20%削減した.その利潤は最近の四半期で27%増加している.合成繊維のトーレは,この1年間でコストを1億2000万ドル削減し,職場の多くを中国に移転した.その利潤は最近の四半期で23%増加した.

かつて膨張し,慢心していた銀行部門も,まともな評価に縮小している.1987年に,日本の株式市場における評価額で24%を占めた銀行部門が,この4月には2.3%に過ぎなかった.外国資本はようやく歓迎されるようになった.1989年,東京株式市場における外国人保有比率は9%であったが,今では32%である.

こうして世界化した日本は,再び成長している.日経平均は今年になって(ドル評価で)38%も上昇しているし,2003年の経済成長率は約2%と予測される.

そして中国だ.もし楽観主義を語るとしたら,今の中国しかないだろう.新指導部は,順調に,経済超大国へと中国を移行させている.経済は約8%の成長を実現し,再分配や社会的公正を主張できるほど豊かになった.

中国が世界の工場となったことは,貿易黒字が示している.この経済力を危険視する者も居るが,私は,外国企業と名目的な共産中国とのネットワークが広がっていることを重視する.21世紀初頭の課題として,近代化する中国を安全に世界経済へと導くべきだが,それは成功しつつある.

ロシアは1990年代の混じりあったケースであった.しかし,ロシアでさえ,グローバリゼーションは共産主義後の腐敗を転換しつつある.特に石油産業は世界経済に統合された.BPはTNK,エクソン・モービルはユコスに資本参加した.ロシアの新興寡頭制は,窃盗より,世界金融市場で金儲けすることに決めたようだ.

世界金融市場は残酷な,しかし再生処理をともなう治療を,病気の各国経済に施した.1997年の金融危機により,タイと韓国はダイエットし,鍛えられて再登場した.最新のアルゼンチン危機は,変動制に移行したことで,投資家に我慢できないほど魅力的に見えるまで,通貨を安くした.アルゼンチン経済は,2002年に11%のマイナスを示した後,今年は9%の成長を見込む.株価のドル評価額は,世界の主要市場で最も大きな,100%の上昇を遂げた.

もっとも貧しい成果となったのは,当然ながら,グローバリゼーションに逆らった諸国であった.たとえば,フランスとドイツの政治家たちは,その硬直した労働市場を改革することを話し合う.しかし,保守的な労働組合を変えて成長を遂げるには,まだ一世代かかるだろう.ヨーロッパの城壁をくぐるトロイの木馬は,新規にEUに加盟する低賃金の10ヶ国だ.それはヨーロッパの社会・政治構造を粉砕し,いずれにせよ,世界的プレーヤーとする.

世界経済にきざす最大の不安は,矛盾したことに,その本拠地であるアメリカにある.現在の「ジョブレス・リカバリー」は,1990年代のバブル経済で行われた過剰投資の緩やかな焼却であり,アメリカ版の健全なリストラだ.しかし,政治家たちは貿易赤字や財政赤字を膨らませることができると信じており,グローバリゼーションが万人に強いるルールを無視している.

ブラジルの社会主義者であり,大統領となったルール・ダ・シルヴァでさえ賢明にもそれを学んだ.ブッシュ大統領とアメリカ議会も,厳格な処罰を受ける前に,グローバリゼーションの教訓を学び取るよう,願うしかない.


NYT October 25, 2003

Japan Succumbs to Its Own Pork

(コメント) 日本がグローバリゼーションの教訓を学んだから成長を再開できた,というのは単純すぎるかもしれません.日本政府は,農民を守るためにはメキシコとのFTAを犠牲にする覚悟を示しました.記事は,日本政府が社会を犠牲にして,農民に対する保護主義を維持した,と批判しています.このことは,メキシコで生産する日本の自動車産業にとって特に重大な損失となるだろう,と.

これもまた,選挙が終わってからにしてくれ,ということでしょうか? そして記事も指摘するように,トヨタや日産は,日本政府の保護主義に対する代償を得るでしょうが,これまで世界の貿易自由化を遅らせた日本は,発展途上国の貧しい農民や零細企業にコストを押し付けるのです.


NYT October 26, 2003

Expanding Club NATO

By THOMAS L. FRIEDMAN

私はNATOの拡大にずっと反対であった.組織が弱められると心配したから.しかし,今やNATOは26カ国に膨れ上がった.では,いっそ,なぜもっと拡大しないのか? NATOが対応しなければならない将来の脅威は,東(ロシア)からではなく,南(中東・アフガニスタン)から来る.NATOが本気でヨーロッパの安全保障を考えるなら,それがヨーロッパにとどまることはできない.新しい加盟国が必要だ.その通り! イラク,エジプト,イスラエルの加盟だ.

まず,重要な問題は,イラクにどの程度の軍隊を持たせるか,である.イラク軍はイランの軍隊を抑止しなければならない.しかし,サダム・フセインがやったような軍隊の拡大は民主化を妨げ,周辺地域にとって脅威となる.こうした規模の軍隊を管理する最善の方法は,それがNATOに加盟することである.巨大な軍隊を持たずに,十分な抑止ができる.

イラクが民主化しても,政治的な不安定さは長期にわたって残るだろう.特定の政党や個人がシステムを乗っ取らないように,イラクの民主主義を保証する,ある種の軍事的担保が必要だ.理想的には,こうした軍隊が多国籍軍として,アラブのイスラム教徒を含むべきだ.イラクがNATOに加盟することは,その意味で望ましい.

エジプトが加盟する理由は,その人材と兵員の活用である.NATO軍は,140万人を擁するが,海外展開できるのは5万5000人に過ぎない.それ以外はデスクに座ってソ連を抑止する作戦を練っていただけで,その多くが労働組合によって週末に働くこともできない.他方,エジプトには余剰の兵隊が多く居る.アラブ系のイスラム教徒がNATOの兵士として活動できれば,アフガニスタンやイラクでの平和維持活動が容易になるだろう.またエジプト軍を支援し,彼らを西側に強く結びつける.不安定な東部に拡大し,たとえば,ラトヴィアの民主化を守ることも重要だが,NATOはイラクやエジプトの民主主義と安定を維持することで,ヨーロッパのより大きな安全を確保できる.

また,イスラエルをNATOに加盟させることで,中東の安全保障を強く意識させ,和平を進めることができる.それはNATOのバランスを考えても必要だ.もしイスラエルとパレスチナが和平に合意したら,治安の維持には,アメリカが主導する部隊よりも,エジプトとイスラエルが加盟したNATO軍を,イスラエル国民やパレスチナ人は支持しやすいだろう.

もちろん,私はNATO本部で彼らの話を聞いていたに過ぎない.脅威は南にある.しかし,兵員が足りない.そうなのか? では,動かせばよい.


NYT October 26, 2003

Bush's Reagan Moment

By PETER J. WALLISON

(コメント) レーガンを見習って,ブッシュ大統領は基本政策を変えるべきではない,とレーガン政権の顧問であったWALLISONは主張します.それによって,レーガノミクスはアメリカ経済を再生し,軍備増強でソ連邦を壊滅できた.たとえ不況が多くの労働者を失業させ,世界各地の紛争がアメリカ兵の命を奪っても,基本的な真実を貫く大統領の姿勢が重要なのだ,と.

小泉=竹中式の構造改革も? 基本政策は変えない.間違いは常に敵や他者にある.これは権力者の常道ではないでしょうか?


NYT October 26, 2003

FRANK RICH

Why Are We Back in Vietnam?

NYT October 30, 2003

It's No Vietnam

By THOMAS L. FRIEDMAN

WP Thursday, October 30, 2003

Vietnam It Isn't

By Richard Cohen

(コメント) イラクとヴェトナムとの比較は,どこまで有効でしょうか?

RICHが指摘するのは,マス・メディアの利用です.また,FRIEDMANは,冷戦と民族解放ではなく,既得権からの解放である,と考えます.Cohenは,類似点があるとしても,決定的な相違点を見るべきだ,と言います.特に,結局,ヴェトナムはアジアの辺境であり,共産主義化のドミノを引き起こす可能性など無かった.だから,撤退することにも問題は無かった.他方,イラクは,中東世界の民主化がかかっている.この地域は実際にはるかに重要であり,アメリカがこのまま短期に撤退してはならない.その点が違う,と.


ST OCT 27, 2003 MON

Why state and religion should not mix

By Janadas Devan

(コメント) なぜ,旧世界の教会が政治に口出すことを嫌ったアメリカにおいて,三人に一人が,毎週,教会へ祈りに行き,ヨーロッパでは20人に一人しか居ないのか? なぜ,宗教が非常に重要だ,と答えるヨーロッパ人は21%しか居らず,アメリカでは60%がそう答えるのか?

イスラム圏における宗教の影響力に関するある研究は,それを宗教と国家との弁証法的な関係,と呼びました.すなわち,国家が宗教に関与すると,人々は個人の信仰に介入する国家を嫌い,教会や宗教組織から離れてしまいます.他方,国家が宗教を切り離すと,人々の不満は教会に集まり,強い信仰心と抵抗運動の政治的拠点となるのです.

かつて,哲学者のホワイトヘッドは,「宗教とは,個人がその孤独を癒すものである」と,述べたそうです.破綻国家では,「孤独」が心理的な不安にとどまらず,政治的,経済的,社会的な疎外をも意味するだろう,とDevanは注意します.


FT October 27 2003

China is no threat to America

By Michael Cox and Jahyeong Koo

ST OCT 28, 2003 TUE

Re-read Kissinger on China, Mr Bush

By TOM PLATE

(コメント) 製造業の時給が,アメリカでは16ドル,メキシコで2ドルに比べ,中国では65セントしかないことに憤慨し,人民元を切上げろとか,保護主義で対抗しても,中国の台頭を阻止することはできないだろう,とアメリカの専門家も分かっています.ダラス連銀の二人のエコノミストは,アメリカ企業がもっと積極的に中国の工業力や市場を取り込むような,投資と貿易をふやすべきだ,と主張します.それが,世界の工場となった中国を,敵ではなく,一緒に繁栄できる国にする唯一の有効な対策だからです.

他方,PLATEは,安全保障を含めて取り上げます.中国の扱い方は,ソ連よりも難しいだろう,と.アメリカは,中国を合理的な国益の追求に正直な国として,彼らを教育できる,と思っています.他方,中国の政治システムにおいて何十年も権力闘争に勝ち残ってきた指導者たちから見れば,ブッシュはほんの青二才にしか見えません.キッシンジャーが理解したように,中国には戦略的なトレード・オフがなく,むしろ長期的な目標を決して譲らず,何十年もかけて実行する強靭さが,その外交の本質だ,と指摘します.

中国とアジアへのブッシュ政権の対応は,ソ連の「封じ込め」戦略を決めたのと同じ,外交構想の新しい転換を示すかもしれません.


The Guardian, Monday October 27, 2003

Miami or bust

Naomi Klein

(コメント) FTAAをめぐる会議が,政治的亡命者と経済難民・移民の町,フロリダのマイアミで開かれます.マイアミは,人口の60%以上が移民で占められ,その移民層は,世界各地の自由化と一致しています.メキシコでもロシアでも東欧でも,中国,東南アジア,ラテン・アメリカでも,自由化が行われれば,それはアメリカに向けて移民の波を起こしました.そして,その後,政変が起きれば,保守派の政治的亡命を招くのです.


BG 10/28/2003

Putin's KGB politics

(コメント) プーチン大統領は,テロリストを襲撃するような特殊部隊を送り込んで,シベリアのチャーター機を襲わせ,ロシアでもっとも裕福な市民であるコドルコフスキーMikhail Khodorkovsky氏を逮捕しました.

この事件は,たとえ後ろめたい方法でコドルコフスキー氏が80億ドルの資産を築いたとしても,プーチン氏のあからさまな強権体質をより多く示したようです.コドルコフスキーは,12月に,モスクワに対抗する自由主義政党を支持するという「失敗」を犯しましたが,逮捕はコドルコフスキーに対する警告でした.もしユコスの経営を将来も続けたいのなら,政治には口を出すな,と.

ロシアでは,二つの勢力が権力闘争を担い始めたようです.一方は,旧KGBに集まった,プーチンの政治・治安管理のプロたちです.彼らは反対派を許しません.テレビ局,新聞社,人権団体,政党,それらをすべて,政府のあらゆる機関を通じて解体しました.

コドルコフスキーとその仲間たちは,ロシアを不正のない資本主義にしたい,気まぐれに怒り狂うクレムリンから自由になりたい,と思いました.その条件とは,多元的な民主主義であり,市民社会に実権を与えることです.

コドルコフスキーは,彼ら寡占体制の富裕者たちが,ソビエト時代の国家資産を競売で手に入れたことを認めています.しかし,今や,彼らも平等な競争のルールを望んでいるのです.しかし,プーチンとその仲間は,なんとしても権力を手放そうとしません.


NYT October 28, 2003

Tax Changes May Slow Export Tide From China

By CHRIS BUCKLEY

NYT October 29, 2003

China Is Told Again to Open Markets

By CHRIS BUCKLEY

FT October 30 2003

Making Beijing a trade scapegoat

(コメント) 貿易摩擦のコスト転嫁が帰するところは,しばしば,弱い中小企業や外国企業です.中国政府は,輸出を抑制するために,輸出企業への戻し税(リベート)を減らしました.それは,人民元切上げと同じように,中国からの輸出品価格を上げるでしょう.それは輸出を減らさず,ますます厳しい競争により零細企業の利益を削るだろう,と予想されています.それは中国の輸出額増加を今年30%,来年15%も削る,とモルガン・スタンレーのAndy Xieは言います.あるいは,アメリカのEvans商務長官が主張するように,知的所有権などの点でWTOの合意を厳しく守り,国内市場をより大きく開放して,輸入額を増やすことでしょう.

米中の貿易戦争は,誰よりも,中国に生産拠点を持つアメリカの多国籍企業や,参入を目指す金融ビジネスが望まないはずです.彼らが,中国政府と一緒に,アメリカ議会の雇用対策を中国非難や保護主義と切り離すよう,明確に,議会に対して働きかけるべきです.


WP Tuesday, October 28, 2003

Taking Satan Seriously

By E. J. Dionne Jr.

(コメント) 信仰と自由主義は両立するのか? とDionne Jr.は自問します.Boykinが,アメリカの敵をサタンと呼んだとき,多くの聴衆は,その通りだ,と頷いたはずです.それは単に,何百万人もの信仰篤い福音主義のキリスト教徒たちが,日ごろから思っていることを言っただけのことです.そして,ブッシュ大統領自身もそうでしょう.Boykinは,個人的な信仰を外交政策と区別できない点で,辞任するべきかもしれません.しかし,ではアメリカの大統領や,彼を支持する集団は,同じ理由で政治から退場すべきなのか? とDionne Jr.は心配します.無心論者にとっては,そうだ,少なくとも,明確に分離せよ,と簡単に言えることが,彼らには言えません.

信仰心と,異なる信仰・異教の神との平等,国際的な協調などは,理想的な信者にとって解決不可能な問題となるわけです.

******************************

The Economist, October 18th 2003

Economic reform in Nigeria: Shock therapy

(コメント) ほとんどのナイジェリア人にとって,安価な石油は生得の権利なのです.アフリカ最大の石油産出国であり,その石油収入は一握りのエリートに独占されていますが,国民には電気も,きれいな水もありません.政府が国民にくれるものは,唯一,安いガソリンだったのです.最近まで,ガソリンはミネラル・ウォーターより安かった,と言います.

オバサンジョ大統領は政策を転換し,9月30日からガソリン価格の上限を引き上げて,競争を導入しました.その結果は,カオスです.労働組合はゼネ・ストを呼びかけましたが,ガソリンの小売価格を引き上げないという約束で,延期しています.しかし,価格は上がりました.ラゴスでは,一晩で25%も上がったのです.組合員たちはスタンドを封鎖し,店員たちを脅して安く売らそうとしました.こうしてガソリンは手に入らなくなりました.

これは4月に再選された大統領の経済改革でした.すでに経済は低迷し,ガソリンへの補助金額は年間10億ドルを超えていました.何よりも,こうした補助金は腐敗の源となり,国営石油会社が汚職にまみれました.ガソリンは賄賂によって,より高価な買い手へと運ばれ,町から消えたのです.政府も官僚も,大統領専用機が7機あるように,はなはだしい無駄を重ねて予算の8割を食い潰しています.

大統領が経済学者たちを集めて改革を始めた,ということが,ナイジェリアの希望になるかどうか? まだ分かりません.


Mohamed ElBaradei: Towards a safer world

(コメント) 国際原子エネルギー機構(IAEA)のエル・バラダイ委員長は,核拡散防止条約(NPT)とその監視体制を実効力あるものにするため,抜本的に見直すことを,求めています.

なぜ秘密裏に核兵器を開発・保有したがるのか? それは核保有がもたらす特権を手に入れたいからです.すなわち,世界が一部の特権的な核保有国の地位を認める限り,秘密の核開発も終わらない,ということです.

もし核による抑止の無い安全保障を考えるなら,それは集団的な安全保障体制となるでしょう.テロリスト集団の登場は,彼らが報復されるような軍事拠点や都市を持たない以上,核の抑止力を無意味にします.世界のすべての国々を平等に扱い,核兵器に頼らない,集団的安全保障体制が必要なのです.

1970年のNPTは不完全なものでしたが,それは次第に是正されていくと考えられました.何よりも,すでに核を保有していた5カ国(米・ソ・英・仏・中)が核兵器を独占する体制を固定化しました.しかし,他国にこの条約を批准するよう説得する力は弱く,抜け道によって,インド,パキスタン,そしておそらくイスラエルも,核兵器を保有しました.

完全な核軍縮を進める中で解決されるはずの体制が,1996年に延長され,その後,7年を経ても,核の脅威を排除できません.NPTを認めても,その査察機関であるIAEAを認める合意をなかなか受け入れません.一国が受け入れなければ,それに対して他国も受け入れないのです.

各国は原子力産業を育成することに拘り,その技術を輸入しようとします.こうした重要な技術の移転は禁じられていますが,その効果はますます怪しくなっています.技術は,容易に,平和利用から軍事的に転換できます.政治的魂胆や経済危機で,原子力技術者は外国に流出します.1992年以前のイラクでも,ウランの濃縮処理や機材,原料の輸入など,核兵器保有がさまざまな方法で並行して追求されていました.

NPTは,プルトニウムの扱いについても触れていません.今や,平和利用で核物質を保有している国が,NPTに違反せず,数ヶ月以内に,核兵器を保有できると言われています.このような国が35〜40カ国もある世界では,新しい安全保障体制が求められます.

エル・バラダイ氏の提案は明確です.

1.   核兵器に転用される可能性がある物質を処理する施設は,すべて,国際管理下におくこと.その場合,ルールの透明性とその物質を利用する正当性が示されねばならない.

2.   核エネルギー・システムは軍事的にも利用されるので,それを防ぐような装置を施設に内蔵しなければならない.そうした装置があれば,平和利用を効率的に監視できるだろう.

3.   放射能廃棄物の管理と処分は,国際機関が行うべきである.さもないと,多大なコストをかけて,小国が施設を保有することはできず,核の保有や開発に非対称性が残る.国際機関により,核技術の利益がより多くの国と人々にも享受できるだろう.核分裂物質の供給を,世界中で,止めるべきだ.

4.   この体制は,いったん発効すれば,国際法の決定的な力を持って,どのような国の離脱も認めない.それは,政府や議会が変わっても,永続的である.

広島,長崎の恐怖の記憶は薄れつつあり,核兵器がテロリストや独裁者の手に入ることを心配する.それは民主主義国の戦争にさえ使用されるかもしれない.各国の,国際機関の,市民社会の,指導者たちが協力して,恐怖と,安全保障の崩壊という流れを逆転させてほしい.


Indonesian banks: Friends and family

(コメント) インドネシアの金融危機は,結局,史上空前の処理コストを国民に残しそうです.インドネシア銀行再生機構(IBRA)は,来年の2月までに処理を終えて閉鎖されます.そのために必死で売却を急いでいます.しかし,その販売額は,税金で投入した資本をまったく回収できません.銀行部門の資本強化に支払われた額は,この6年間で,650兆ルピア(770億ドル)です.IBRAが回収できる見込みは,わずかに20億ドルだ,と推定されます.もう一つの心配は,投資の質,です.結局,IBRAが再生しながら,銀行の多くは元の所有者やその親戚,仲間に買われてしまいます.多くの不良債権を処理したのに,なぜ買い手が居ないのか? 外国の銀行がそれを買わないのは,クローニズムを嫌うからです.IBRAも,銀行部門の近代化に外銀の買収を求めています.しかし,クローニズムを排除する力は無いのです.