IPEの果樹園2003

今週のReview

10/27-11/1

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道路公団の藤井総裁解任問題や,田中真紀子の離党,中曽根康弘の定年制反対,など,自民党の人事問題が選挙の焦点になることを心配します.小泉氏は,こんなくだらない!問題で,わざわざ国民に選択を示してほしいのですか?

もし日本が世界の政治経済システムを革新する先頭に立つ国であれば,選挙の争点はおそらく以下のような問題に集中するはずです.すなわち,あなたたち日本の政治家は,

1.   核兵器廃絶についての国際的枠組みを示し,それを日本としてどのように支援するのか?

2.   アフガニスタンやイラクの政治・経済再建をどのように進め,国際的に分担するのか?

3.   年金・保険・医療(そして老人介護)制度の改革と財政健全化をどのように進めるのか?

4.   労働市場(そして労働組合)を活性化し,教育制度や新技術の研究開発体制を改善するために,何をするのか?

5.   行政の簡素化・効率化と腐敗防止,資本や土地・住宅の供給メカニズムを改善して,民間部門活性化のために,何をするのか?

6.   世界の貿易と開発の促進,為替レートの調整と資本移動の円滑化,危機回避のために,国際機関や各国は何を行い,日本として何をするのか?

もちろん,それらは北朝鮮,自衛隊,国債発行,消費税,失業率,学校,銀行,中国脅威論,道路公団,零細企業,農業,地方経済,円高,日銀批判,国際貢献,アジア地域主義,対米追随批判,などの形で,いくらか,議論されています.しかし,争点は狭く,浅く,近視眼的で,もっぱら特殊利益に配慮し,彼らを投票へと誘導します.

それのどこが悪いのか? と,政治家は思うでしょう.それ以外に政治は機能しないのです.そんな遠くの,複雑な問題ばかり議論して,政治家が目の前の有力団体に利益誘導しないとしたら,それはまるで戦場において丸腰でお経を唱えろ,と言うようなものです.

だから,産業はさまざまに保護され,軍備は拡大し続け,ロケットの試射や核開発が後を絶たず,補助金や公共工事は膨れ上がり,労働組合も学校も,地道な研究開発も見捨てられ,中国への工場移転や円安誘導,ゼロ金利に頼り,世界の辺境において絶望した人々への国際支援は後回しで,調整や「危機の回避」より「封じ込め」だけが合意されます.一体,いつまで?

ビートたけしや文珍,伸介と一緒に怒ったり,笑ったり,悪態をついたりしながら,多くの人が「本物の政治家」を探し求めています.しかし,「ホワイト・ハウス」のようなTVドラマなら見つかっても,現実の政治家にそれを見出すことは至難でしょう.

政治システムは,さまざまな政治家を競争させます.正しい政治家は,その言葉によって,社会を結束させ,正しい社会的目標を示すでしょう.そして本物の政治家であれば,たとえ既存の特殊利益団体が反対しても,彼らを説得し,あるいは国民に向けて社会的な目標を訴え,政策や制度を転換し,協調をもたらす新しいシステムを誕生させます.

かつてドラッカーが書いたように,歴史的な経験から日本を考えるとき,外からのショックと有能な官僚制度が組み合わさって,人々の活力を社会的に高めてきたと思います.ある意味で,日本経済が外からのショックに強くなり,富の再分配をめぐる政治家と結託することで官僚制度が「有効に」機能する,と誤解したことが,今の「多臓器不全」なのです.管氏は,官僚制度を攻撃することに執着し過ぎている,と私は思います.

他方,小泉氏は,自民党の内部から,党や官僚制度を変えることに成功したかもしれません.しかし,それは曖昧で,あまりにも遅く,不良債権処理でも,民営化でも,誰の利益を誘導しているのか,国民に不信感を残します.それゆえ大胆な改革は進まないでしょう.いっそ,自民党そのものに「定年制」を適用し,次の政権を管直人と民主党に委ねたい,と私は思います.

これほど重要な時期の選挙です.政治家たちの「本物の議論」が聞きたいです.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune


ST OCT 16, 2003 THU

How vital is free trade? Frankly, it's overstated

By Eddie Lee

(コメント) 1961年の就任演説で,J.F.ケネディーはこう述べました.「もし自由な社会が,あなたたち多くの貧しい人々を助けることができないなら,それは豊かな少数者をも助けられない.」

Leeは,しかし,ASEANが夢見る市場統合に冷淡な態度であり,自由貿易だけを重視していません.世界のGDPに対して貿易額が占める割合は,決して,グローバリゼーションの利益や,世界恐慌の深刻さを説明するほど大きくないからです.将来,自由貿易によって世界が繁栄する,というより,むしろ世界貿易の増加はEUやNAFTAのような地域統合によって起きます.世界はいくつかの貿易ブロックに分かれて,その内部の貿易が増えるでしょう.

また,グローバリゼーションの実現する利益は,貿易よりも,資本移動や移民によるほうが大きい,とLeeは主張します.なぜなら,貿易と同じように,その利益は価格差と量によって測られるからです.Wintersの試算によれば,OECD諸国が労働力の3%に相当する移民労働者を受け入れるなら,受入国と送出国の双方に発生する利益は年間1500億ドルに達する,と思われます.

もちろん,先進諸国は大規模な移民流入を嫌うでしょう.しかし,彼らが作った安価な生産物を輸入する形で,すでに大量の移民労働者が先進諸国の経済過程に組み込まれています.1962年にケネディーは,自由化交渉の結果,増加する輸入品によって仕事を失う部門や労働者に対して,貿易調整支援法,を制定しました.

実際には,移民労働者に政府がこんなことをしています.景気循環が上昇するとき,政府は移民労働者を受け入れ,職業訓練もします.しかし,下降し始めると,彼らに荷物をまとめて故郷へ帰れ,と言います.円滑な資本移動と移民のシステムを築くことの方が,貿易の地域ブロックを歓迎するよりも重要なことなのです.


ST OCT 16, 2003 THU

Revisiting the devaluation delusion

By Brigitte Granville

(コメント) ブッシュはニクソンと同じ事をしている,とGranvilleは批判します.貿易赤字の原因は財政赤字なのに,ドル安によって解消しようとしているからです.さらに,失業の原因を中国からの輸入増加に責任転嫁します.しかし,このブッシュの政策も,1970年代にそうであったように,成功しません.というのも,日本もヨーロッパも世界の成長を担うことができず,輸出に依存した諸国は常に通貨を安く維持してアメリカ市場に向かうからです.各国通貨が競争的に引き下げられる危険があります.

まず,アメリカが財政赤字を削るべきだ,とGranvilleは考えます.これによってアメリカへの投資が回復します(ドル安は止まります).また(赤字削減でアメリカが減速すれば),世界はアメリカ市場への輸出に依存した成長を是正します.世界の流通,生産システムは,特に日本と中国の輸出依存は,ドル安だけで是正できないでしょう.彼らがアメリカの国債を大量に購入している間は,なおさらです.

大統領選挙前に増税なんてするものか? もちろん,そんな政府は存在しないでしょう.だから,今は問題を押し付けあって悪化させないように,と言うだけです.


NYT October 17, 2003

Bush to Face Asian Fears of New U.S. Unilateralism

By ELIZABETH BECKER

FT October 20 2003

Apec leaders in search of a purpose

Oct. 20 (Bloomberg)

Hot and Bothered in Bangkok

William Pesek Jr.

(コメント) APECでブッシュ氏にシンガポールが臨んだのは,貿易自由化を推進する強いメッセージでした.しかし,実際に彼が示したメッセージは,@安全保障こそ経済的繁栄の基礎である,Aだからイラクとアフガニスタンの復興に資金援助せよ,というものでした.そして,B特に中国と日本に対して,為替レートは開かれた市場で自由に変動させよ,と.

しかし,テロリズムは貧困がもたらす病気ではないか.世界でもっとも成長を遂げているアジアにおいて,ブッシュ氏がそれを妨げるような口をはさむ事に,政治家たちは反発を覚えるでしょう.そして,中国の通貨をアジア諸国との貿易自由化における障害として意識させる作戦・・・? アジアにおけるアメリカの一方主義は,貧困をもたらします.

しかし,APECの存在意義や方針も問われています.貿易自由化や地域主義? 安全保障? あるいはアメリカや中国に対して一定の発言権を確保したい? どれもある程度は真実ですが,そのために必要な制度も,政治的指導力も,共通の理念も無いのです.むしろ,APECをめぐってアメリカと中国が政治的な競争関係を持続することが,そのもっとも本質的な意味かもしれません.

6年前は金融危機で,雨の降るバンクーバーに集まったAPECの人々が,将来の悪夢に憑かれていました.いまや,この地域は世界から投資を吸収し,アメリカは失業増加に苦しんでいます.しかし,改革が進展したとはいえ,アジアの株価上昇は行き過ぎだ,とPesek Jr.は注意します.アジアは成長の潜在力とともに,バブルを繰り返す危険をも秘めています.


Asian Wall St. Journal Oct. 17-19 2003

Bush Pushes Protectionism on Asia

Hugo Restall

ジョージ・W・ブッシュは日本へ向かう.そしてAPEC加盟諸国の指導者たちに初めて会う.これは,カンクンの貿易自由化交渉決裂後,それを再開する大きなチャンスである.しかし,ブッシュ氏が「不当に過小評価された」通貨の調整を再び迫って,会議をぶち壊す危険もある.

ブッシュ政権が,ある意味で,保護主義者の旗振り役になった,とすでに誤解されている.労働者たちの怒りは通貨価値の不均衡という曖昧な概念に向かう.もちろん,議会は保護政策をとらないだろうし,景気が回復すれば,誰も選挙前のドタバタなど覚えていない.

しかし,思っているほど,貿易反対の感情は容易に消え去らないだろう.にもかかわらずブッシュ氏は保護主義者に加勢し,中国や日本の重商主義を非難して,海外の自由貿易に関する空気を腐らせた.

さらに,ブッシュ政権が円高を求めることが市場参加者の心理を動かし,日本政府もそれを阻止できなくなっている.しかし,日銀が狂ったように円を供給してインフレを起こすことに成功すれば,それはアメリカも含めて,すべての者に有益なのだ.なぜなら,日本の消費者が支出し,アメリカの貿易赤字を減らし,日本が世界経済の成長のエンジンになれるから.ところが構想改革はまだ初期の段階にあり,良好な日米関係や日本経済回復の芽を円高でつぶすことは,アメリカ経済自体を傷つける.

中国にも同じ問題がある.中国は世界市場に統合化する道を選択し,WTOに加盟した.その中国を人民元の過小評価で非難することは,非常にまずいメッセージとなる.また,たとえ今,中国が資本規制を撤廃し,為替レートを変動させても,その価値はおそらく低下するだろう.アジアから見れば,ブッシュ政権の言い分は自由貿易の偽善である.自分に都合が悪くなればルールを変えるくせに,中国がルールを守る理由などあるのか?

幸いなことに,中国政府は一方的な貿易自由化の正しさを認め,国内の成長を高める手段と見ている.すでにGDPに占める貿易の比率は日米よりずっと高い.貿易黒字は,重商主義政策の結果というより,将来の成長を見越して直接投資が殺到した結果であり,その成長により中産階級が育てば,彼らは外国製品の輸入や海外旅行を求めるに違いない.

財務省も理解したようだが,国営企業の倒産と銀行システムの支払い不能問題は,中国を危機に陥らせるほど深刻なものだ.だから変動レート制は選択できない.中国では,アメリカよりも急速に製造業の雇用が失われ,同時にデフレに苦しんでいる.10%で成長しても,それでようやく失業者の増加を抑えるだけである.世界市場に漕ぎ出したボートが傾き,経済を侵食すれば,中国政府は正当性を維持するためにナショナリズムに訴え,予想もつかない恐ろしい結果を導くかもしれない.

ブッシュ氏は,鉄鋼や農業を保護することで,国内の保護主義運動を宥和しているつもりだろうが,そのような行為が持続的な政治的利益にはならず,反対を強めるだけであると理解していない.外国人を自分たちの問題の原因だと主張するような連中に反撃せず,大統領は自由貿易の利益やWTOを犠牲にし,二国間・地域交渉を刺激した.それらは貿易をゆがめ,不必要な制限を増殖させている.

ブッシュ氏にはまだチャンスがある.この流れを逆転し,日本や中国は,デフレを止めて,銀行システムを強化してから,市場による長期的な通貨の調整に取り組むのだ.それは,アメリカがアジアなどの発展途上諸国とともに,貿易自由化交渉を進める頭金となる.そして来年,アメリカと世界経済が回復すれば,ブッシュ氏は再選されて,その指導力を確立できるわけだ.


BG, 10/17/2003

Will the US one day regret its post-9/11 excesses?

By H.D.S. Greenway

(コメント) 9・11に対する過剰反応がアメリカ政府の政策をいかに歪めてしまったか,歴史的な例にさかのぼって,批判する論説です.第二次世界大戦が始まれば,ドイツ系アメリカ人は殴打され,日系アメリカ人は収容所に隔離されました.マッカーシズムは多くの有識者を破滅させました.冷戦期には,アメリカ政府が,CIAなどを使って,イラン,グァテマラ,チリ,キューバの体制転覆に加担しました.そのような事例が,グァンタナモの米軍基地に囚われたタリバン兵士たちに繰り返されています.ジュネーブの戦争捕虜に関する国際協定を無視し,アメリカはすべての法よりも優越する,という姿勢を示します.恐怖は,再び「悪党の時代」を呼び戻します.


WP Friday, October 17, 2003

Thirty Years of Petro-Politics

By Daniel Yergin

1973年の石油禁輸は,その数日前に始まった第四次中東戦争(Yom Kippur War)において,アメリカがイスラエルを支援したことに対するアラブ世界の報復でした.それはまた,西側世界に対して,中東紛争でアラブを支持せよ,という圧力でした.しかし,それ以前に試みられた禁輸が成功しませんでした.1973年には世界経済が好調で,特にアメリカの需要が増大し,石油の供給能力が限界に達していたから危機が起きたのです.

禁輸は世界経済を震撼させましたが,その上,流通会社が争って石油を奪い合い,さらにはアメリカ政府の価格統制などで市場の過不足を調整できないような失敗を積み重ねて,事態を悪化させたようです.国際秩序が全体として崩壊に瀕し,経済だけでなく,政治が介入する問題となったのです.「石油ダラー」の大洪水が輸出国に渡って,国際政治において「石油権力」が築かれたことを厳然と示しました.

石油価格は4倍になり,さらに数年して,イラン革命で倍増しました.石油危機は戦後の好景気を破壊し,1970年代を,大恐慌以来の,最悪の十年にしました.同時に,石油が永久に枯渇し,1バレル100ドルに達する,と恐れられたのです.しかし,事態の進展はまったく異なります.10年もせずに石油は過剰に転じ,そのことは,石油輸出に依存したソ連が崩壊した最重要な要因です.

多くの教訓があります.各国は,信頼できる,合理的な価格での石油供給が,その福祉にとっていかに重要かを知りました.石油は国際政治問題となり,エネルギーは重要な公共政策となりました.ひとつの教訓は,たとえ激動する条件でも,市場は必ず作用する,ということです.アメリカなどの工業諸国は石油を節約し,OPECに加盟しない新しい国々で石油が採掘されました.世界は,石油以外のエネルギー源に目を向けました.

第二の教訓は,エネルギーの安全保障を達成する方法は,その供給源を多様化する,ということです.アメリカは供給国を増やし,戦略備蓄を行い,IEAを通じて他の諸国と協力しました.また,こうして技術が権力となることを教えました.石油消費の効率を改善し,より幅広い製品を生み出し,深海でも油田を採掘しました.

輸出国も厳しい教訓を得ました.顧客を大切にすることです.価格が急騰するとき,輸出国は市場シェアを失いました.顧客には他の選択肢があったのです.価格が暴落して,再び輸出国は信頼される供給国としての信用を得ようとし,石油は政治から切り離されました.消費者は供給の安全保障を懸念しますが,生産国も需要の安全保障を懸念したのです.

石油は今も卓越した戦略的商品です.市場が逼迫すれば,再びショックや混乱に対して弱くなります.どれほど弾力的に,速やかな反応を市場が示しても,中東地域の深刻な紛争には世界を再び震撼させる力があります.

1973年,ニクソン大統領は,エネルギー自給を目指して「アメリカ独立計画」を立てました.30年経って,アメリカはその目標に近づくより,むしろ遠ざかっています.しかし,エネルギーの独立よりも,多様化,効率化,技術開発と他の多くの供給諸国との安定した関係こそ,われわれの従属を制御できる鍵なのです.


LAT October 17, 2003

Can the Crusader

WP Sunday, October 19, 2003

With God on Our Side

BG, 10/21/2003

Warring with God

By James Carroll

WP Tuesday, October 21, 2003

Rumsfeld's Crusader

By Fareed Zakaria

(コメント) 新しく任命された情報担当の国防省次官補,William G. "Jerry" Boykin中尉と,マレーシアのマハティールMahathir Mohamad首相が,その宗教戦争を誇示する世界観ゆえに注目されています.「十字軍」対「ユダヤの陰謀」.

Boykin次官補は,自分たちの敵はサタンである,と言い,ジョージ・W・ブッシュは神によって指名され,イスラム原理主義者がアメリカを憎むのは,キリスト教を信仰するからだ,と述べました.キリスト教は本物の神であるが,他は偽者だ,と言い,あるいはこんなことさえ言ったとか.ソマリアの航空写真に写った黒い影を見せて,「あなたたちには理解できないかもしれないが,それはモガディシオの上空を襲った悪魔の影だ」と.これはスティーブン・キングのホラー小説でも,Xファイルの撮影現場でもなく,アメリカ政府に現れた高官です.そして,21世紀の宗教戦争!?


WP Saturday, October 18, 2003

The Gordian Knot of Middle East Terrorism

By Colbert I. King

BG, 10/19/2003

A new twist on a long military tradition

By Doug Brooks

BG 10/19/2003

SHELDON M. STERN

The wrong model for Iraq war

(コメント) 安全保障や戦争,テロが,現実以外のものの力,それはイメージや信念,思考モデルによって定義され,現実を動かすことを考えさせます.


FT October 20 2003

The world must stamp out nuclear blackmail

By Harold James

BG 10/20/2003

Enriched security

(コメント) Jamesは,ブレトン・ウッズ体制が安全保障を含まなかったことを後悔しているようです.ブッシュ大統領がイラクの脅威に対して先制攻撃を行ったことは正しかった,と考えます.ただし,それが国際システムにおいて正式に承認されるべきでした.なぜ安保理は機能しなかったのでしょうか?

Jamesの議論は,アメリカが核を保有するロシアや中国を例外的に宥和政策で取り込んだことに批判的です.核を保有してしまえば,世界を脅迫して利益が得られます.北朝鮮もイランも,その教訓に従いました.そこでJamesは,経済システムと安全保障の明示的なリンクを目指します.核による脅迫を断じて許してはならない,と.

しかしこれは,経済制裁とIAEAによる査察,国連安保理による制裁や国連軍,といった手続きではないでしょうか? Jamesは,これにIMFと世銀をリンクさせるわけです.たとえば,インドネシアや韓国,ロシアのように? 私には,むしろ,アメリカがテロリズムを恣意的に解釈し,国際的な合意を尊重しない姿勢に問題があったと思われます.

アメリカは通常嫌いますが,国際機関は,イランのケースに示されたように,機能する場合もあるのです.


WP Monday, October 20, 2003

The Debtor's Empire

By Kenneth Rogoff

(コメント) 債務者の帝国,とは何か? メキシコ? ロシア? インドネシア? いや,途方も無い借金をして,返せなくなったら,いつも塩漬けの日本か? もちろん,もっと巨大な権力を握った債務者,アメリカです.

Rogoffが心配するのは,アメリカの対外債務です.アメリカ国内で債権債務関係が積み重なることは,いかに特定の個人や会社が,たとえば日本のように,返すはずも無い莫大な債務を抱えても,国内政治の問題です.しかし,アメリカのように外国人がアメリカに投資することで債務を維持し,そうしなければ経済規模を維持できない場合,資本流出=ドル暴落=アメリカ発の世界恐慌,が予告されます.

Rogoffは,この正しい市場の常識に,アメリカの異常さを加味します.今年は,一日1ドルか2ドルで生活する者が多いインドや中国のような国からも,5000億ドル以上の資金をかき集めること.しかも,彼らより低い金利で.ローマ人は帝国からの徴税に苦心したのに,アメリカは外国人が資金を勝手に持ち込む結果として,世界一裕福な国なのに対外債務を2兆ドルも積み上げていること.そしてアメリカでは,老人が増え,州の財政が逼迫し,消費者はどこよりも貯蓄しない.

どれほど豊かであっても,所得を超える消費の結果は,同じである,とRogoffは言います.そして,それでもアメリカは債務を維持できるさ,という政治家たちに,現実と向き合うことを勧めます.アメリカが沈没すれば,ヨーロッパや日本が助けてくれる? いや,一緒に沈みそうです.中国のように高い成長率を示しても,日本のように国内貯蓄を積み上げても,それはアメリカの助けとなっていません.アメリカ人が貯蓄すること,特に政府が財政赤字を減らすことでしか,解決できないのです.

そうすれば,世界はもう少し正気を取り戻す,と.


Oct. 21 (Bloomberg)

`Thaksinomics' -- Asia's Future or Debt End?

William Pesek

(コメント) ケインズ革命より「タクシン経済学 Thaksinomics”」が世界を変える? 少なくとも,アジアから.地元ではノーベル経済学賞への推挙や,株価が80%も上がって,フィリピンがそれを模倣し,マレーシア,インドネシアもその教えを乞います.

タクシンが目指すのは,輸出も国内需要も,という「デュアル・トラック」戦略です.アジア通貨危機で通貨価値が大幅に下がっても,その後,バブルを再発せずに「資産リフレ」に成功しました.しかし,それは従来の通貨増発と大して変わらない,とPesekは言います.少し違うのは,単なる「チープ・マネー」政策に加えて,政府系金融機関で農村への融資を増やした程度です.

では,この債務依存型成長は,いつまでも続くのか? 銀行の不良債権は? ミニ・バブルでは? たとえタクシンが言うように,タイは貧困問題を解消すべきであるにしても,バンコクの富裕層が消費を増やすだけでは? 6300万の人口のうち,5500万はバンコクの外に暮らし,非常に貧しいのです.タクシン経済学は,現金をばら撒くインスタント・ポピュリズムに,タイ人意識を鼓舞するナショナリズムを加味しています.

それは本当に,輸出依存の成長戦略を超える新しい道なのでしょうか? たとえば,最近まで韓国が,1997年のアジア通貨危機後,急速に回復した優等生でした.しかし,その中身には住宅バブルへの無謀な融資が含まれており,その整理に苦しんでいます.タクシンの自信にも,同じような怪しさがある,とPesekは示唆します.


Oct. 21 (Bloomberg)

After Iraq, Bush Turns His Gaze Toward Cuba

Andrew Ferguson

IHT Tuesday, October 21, 2003

Restricting contact with Cuba

The Boston Globe The Boston Globe


NYT October 21, 2003

Rethinking the Town That Toyota Built

By KEN BELSON

(コメント) 2002年に9450億円(86億ドル)の記録的な利益を上げながら,トヨタは初めて労働者の基本給を引き上げることを拒みました.価格競争は厳しく,工場の海外移転が進んでいます.為替レートの変動や,各国の保護政策による影響を受けないために,トヨタは世界中の市場で工場や部品供給業者を組織していくでしょう.韓国やその他の西側諸国では,工場閉鎖に対して激しいストライキが起きます.しかし,日本の企業別に組織された労働組合は協力的です.

トヨタは企業として,よい自動車を作り,できるだけ安い価格で各市場に供給します.その能力を疑う者はいませんが,国内で生産される自動車は前年より3.9%増えても,まだ1994年より少ないのです.他方,海外で生産された自動車は1994年から倍増しています.カナダの工場で最新型のレクサスを生産する,と発表し,中国,ポーランド,メキシコでも生産を拡大します.北米だけで130億ドルを投資して工場建設しました.他方,日本では1992年以来,新しい工場を建てていません.

価格引下げを求められる下請け・孫請け企業は,設備投資による生産性の上昇でそれを実現できるでしょうか? あるいは,労働者の賃金を削り,正社員を解雇し,パート・タイム労働者やブラジルからの日系人を増やして生き残るしかないのでしょうか? それとも,設備を中国やメキシコに移転して,新しい下請工場を海外でも再開する? 十分な資本が無い中小の工場は,後継者がおらず,今の労働者が引退すれば閉鎖するのです.

豊田市も,トヨタと一緒に繁栄することを断念するしかないでしょう.地元企業の技術開発を支援し,サービス部門の新規雇用を開拓しなければなりません.デトロイトやミシガンがそうであったように,もはや自動車産業はこの地域を支えてくれないからです.


NYT October 19, 2003

Islamic Anti-Semitism

NYT October 21, 2003

Listening to Mahathir

By PAUL KRUGMAN

マハティールは,狂人でもなければ,愚か者でもない.彼の発言は,国内のイスラム教徒や聖職者に対して,新しい知識や科学を取り入れ,先進的な教育に参加せよ,と警告するために行った演説の中にあり,計算された表現だ.

アジア通貨危機においても,IMFの強制する自由化や緊縮政策を受け入れず,資本流出を阻止した際に,反ユダヤ発言が含まれていた.その背景には,多民族国家のマレーシアが発展を続けるには,華僑系のビジネスを繁栄させるしかないが,その見返りに,マレー人を優遇する政策や,民族ごとに計算された国内政治バランスを維持する必要があった.これらを破壊するIMFの介入にマハティールは挑戦し,マレーシア経済の落ち込みを回避することに成功した.

数ヶ月前に,マレーシアはテロとの戦争に協力する優等国であった.もしマハティールの発言が過激であったとしたら,それはブッシュ政権の進める反イスラム主義がどれほど世界から憎まれているか,を示すものでしかない.

ST OCT 22, 2003 WED

What did Mahathir really mean to say? (II)

TOM PLATE

WP Tuesday, October 21, 2003

Wrong and Divisive

WP Tuesday, October 21, 2003

Return to Wannsee

By Richard Cohen

世界は大きく変わったが,マハティールの発言が,1942年にWannseeでナチが開いたユダヤ人抹殺会議を思い出させる,とCohenは言います.彼が批判するのは,マハティールではなく,国際イスラム教会議に集まっていた聴衆です.彼らが立ち上がってマハティールの熱弁に拍手した様子です.

反ユダヤ主義は,ユダヤ人には不思議な力があると主張することで,自分たちの敗北を言い逃れるアラブの政治家に利用され,各国の独裁者や政治的腐敗が弱さの原因であることを隠します.そして,その過激なレトリックにより政治的な支持を得た者たちが,実際にナチのように,たとえば原子爆弾を使ったイスラエルの最終的な抹殺を試みることにつながるだろう,と.

FT October 23 2003

Mahathir's tirades


ST OCT 21, 2003 TUE

Bush offer is do-able

FT October 21 2003

A multilateral deal for North Korea

By Victor Cha

NYT October 21, 2003

Trying Diplomacy on North Korea

FT October 22 2003

North Korea's turn to talk peace

BG 10/22/2003

New sense on North Korea

WP Wednesday, October 22, 2003

See No Evil, Stop No Evil

By Anne Applebaum


BG, 10/22/2003

Can government save manufacturing jobs?

By Robert Kuttner

(コメント) Kuttnerは,アメリカから有名な製品ブランドが生産を海外に移転してしまうことを嘆きます.労働組合や政府に何かできるでしょうか? 工場移転に対して政府が何もできないとしても,少なくとも,伝統的な職場が消滅するスピードや,労働者たちの苦境に対して,また新しい職場や賃金に対して,政府は何かしなければならない,と考えます.

貿易,生産性,企業の経営陣の対応,経済全般の状況など,製造業の雇用が失われることに影響する重要な要因はいくつかあります.たとえば,中国は貿易によって多大の利益を得ていながら,そのルールを侮辱している,と批判します.社会主義ではなく国家資本主義の経済において,その取引は透明性を欠き,通貨や賃金を人為的に安くし,政府が外国企業の投資分野を指定し,大企業には金利を操作します.すべてがルール違反です.

生産性が急速に上昇したことも,労働者から雇用を奪いました.鉄鋼でも自動車でも,以前ほど労働者を必要としません.つまり,本当の問題はどんな職場を残し,どの職場は減らすか,という選択です.完全な答えは無いとしても,政府にできることはあります.職業訓練などで労働者の質を高め,税制を通じて企業の流出や生き残りを選択できます.政府は組合に対して協力することも,敵対することもできるのです.新しい職場は生じるでしょう.しかし,誰もウォルマートのレジから始めたいとは思わないのです.問題は,技術開発を促して,新しい,よい職場を供給することです.

ブッシュ大統領がこうした問題について示した姿勢を,すでに労働者たちは味わっています.


FT October 23 2003

This is not a time for Boy Scouts

By Samuel Brittan

(コメント) E.H.カーの理想主義批判を思い出します.Brittanは,それを「ボーイ・スカウト」と呼んでいます.

かつてGeorge Kennanは,アメリカの「道徳的で,立法主義的な」外交政策を批判しました.単純な国益を追求する外交に比べて,こうした姿勢は国際関係に有害であった,と.しかし今また,そうした批判を逆転する二つの動きがあります.すなわち,ネオコンと自由主義的帝国主義です.

イギリスで盛んな自由主義的帝国主義とは,国外の人権侵害や貧困にも政府の責任を求める主張です.彼らは破綻国家への直接の介入や,国際機関の支援を主張します.しかし,Brittanは二つの欠陥を指摘します.1.政府は領土内の住民に対する責任を持つにとどまる.2.他国がどうなっているのか,その住民が何を望むのか,正しい情報は常に得られると思えない.

他方,アメリカのネオコンも,介入主義的な社会政策やジョンソン政権の「偉大な社会」に失望した後,逆に,自由社会の追及を道徳化しました.国家再建も唱える彼らと自由主義的帝国論との違いは,国際機関を軽視することです.

Rumsfeldは,ネオコンのWolfowitzと異なり,この両者に反対します.Brittanには,この姿勢だけがまともな外交政策である,ということです.すなわち,辺境からの伝統的な脅威に対してだけでなく,テロリズムや宗教的な過激派からの攻撃にも対抗して,自国の住民を守る,というものです.それはできる限り抑制され,短期間でなければならない,と.

私ならこれを「アメリカニズム」,もしくは,グローバリゼーションに依拠した「合理的帝国主義」と呼びます.


FT October 23 2003

The world needs a new body to monitor migration

By Jagdish Bhagwati

(コメント) 相互依存する世界に欠けているもう一つの構造とは,国際移民を保護し,各国の移民政策を監視する,国際移民機構(WMO)です.もちろん,移民はまだ約1億7500万人,世界人口の3%に過ぎませんが,かつてのような広大な新開拓地域ではなく,旧工業地域や豊かな都市の底辺において増加しています.こうした移民に対して,反移民感情も強まっています.

WMOは,各国の政策や意識の違いから,一気にWTOのような組織として誕生することは無いでしょう.しかし,たとえば,各国は無権利状態の移民を大量に抱え,移民の流出入を勝手に規制しています.こうした政策が移民たちの人権を損ない,各国の労働市場にも間違った効果を及ぼしていることに,人々は次第に気づくでしょう.

Bhagwatiは,二国間,多国間で移民に関する国際合意や規範が形成され,時とともに国際協定に集約されるだろう,と考えます.WMOは,加盟諸国の移民政策を監視し,それが正しい方向に向かうように支援します.こうした世界において,初めて,移民たちもグローバリゼーションに完全な形で参加し,正当な利益と発言権を得るでしょう.


IHT Thursday, October 23, 2003

NATO's future: A history lesson for the allies

William Pfaff

LAT October 23, 2003

The Muscle of Diplomacy

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The Economist, October 11th 2003

Russia: Putin power

Russia and Chechnya: Vote for the devil

(コメント) 二つの選挙を見れば,ロシアの民主主義というものがどれほど冷笑されたジョークでしかないか,理解できます.アフリカの独裁者にも匹敵する不正選挙によって,チェクニアではKadyrovが当選し,セント・ペテルスブルグではMatvienkoが当選しました.もちろん,彼らはプーチンがそれを許したから勝てたのです.

自由な選挙!? 主要なTV局を政府が次々に乗っ取り,いつも,プーチンの政治行事ばかりを放送するロシアで,ソビエト時代のように,安全保障の秘密警察が膨張し,その同窓会が政府機関を占領しているロシアで,旅行や移動も厳しく制限された,人権運動や外国の援助団体も近づけないような土地において,「自由な選挙」が行われたと信じる者などいません.

たとえテロとの戦いで重要な同盟者であっても,ロシアの民主主義を賞賛する必要など無いのです.西側の指導者たちは,チェクニアの問題を無視してはならない,とThe Economistは主張します.Akhmad Kadyrovは,かつて分離独立主義者でしたが,この3年間はモスクワの指名した行政官であり,チェクニアの反政府運動家,元警察,兵士を集めて,私的な軍隊を作りました.そして,町では誘拐や殺人が頻発しています.選挙で彼に敵対した候補者(やその家族)は,襲撃され,買収され,脅迫状を受け取り,実際に暗殺されました.

政府職員は彼に投票しなければ職を失うと言われ,投票所の職員は反対派に同情する人々の家を訪問しました.そして,年金や戦死した家族への補償金を失うぞ,と脅したのです.テレビ局は他の候補者を一切無視し,裁判所は法律が保障した候補者の権利に対する苦情を受け付けませんでした.

それでも投票日は,休日にもかかわらず,グロズヌイの町から人々の姿が消えました.敵対する候補がいないために,有権者の関心は低く,投票率は下がるだろう,とKadyrovの選挙チームも認めていたのです.Kadyrovに投票するくらいなら悪魔に投票する方がましだ,というわけです.しかし,その投票率は驚異的な高さ(たとえばグロズヌイでは98%)であると発表され,しかも90%がKadyrovを支持した,という結果でした.すばらしい結果だ,と中央選挙管理委員会は賞賛しました.


A safety measure or a land grab?

(コメント) 私の町にも,パレスチナの村人とイスラエルが建てた壁を招待してはどうか? と思いました.テロリストの爆弾から完全に守られるために,イスラエル国民はシャロンの政治的野心を満たします.

たとえば京都市をさまざまな小路や溝,警察署の配置などで分離し,その曲がりくねった境界線に,高さ8メートルのコンクリート製の壁を築くのです.子供たちは学校や病院に行けず,人々は職場や畑に行くために,早朝から何時間も検問所に行列します.荷物をかき回され,ボディー・チェックを受け,何人かは理由も無く連行されてしまうのです.友人や家族にも自由に会えず,仕事や畑を失って絶望した人々が,次々と,小さな村を捨ててしまえば,最後は,それに抗議する人がいなくなり,こうして領土問題も平和的に解決される,というわけでしょうか?


Immigration: The natives are restless

(コメント) なぜ関心の高い移民・難民問題が選挙の争点にはならないのか?

反移民感情が強いのは,しばしば移民や難民がほとんどいない,地方の白人たちの町です.貧困や失業問題,公共住宅の問題が移民問題と結び付けられ,それをメディアが煽動しました.反移民感情によって支持を増やすのはBNPのような極右政党だけであり,既成政党はその政策を部分的に真似て対処しています.また,若者は移民に対して寛容であり,多くの有権者が移民の流入を制限無く行うことの是非と,反移民感情とを,区別しています.


Home improvements in China: Doing up the Middle Kingdom

Asia’s consumers: A billion boomers

Global economic rankings: Follow the yellow BRIC road

(コメント) 中国の住宅改善ブームや,アジア(もしくはBRIC)における中産階級の消費意欲,人口動態や成長率,為替レートをみれば,将来において,世界経済が彼らの消費に依存する日が必ず来る,という話です.BRICとは,ブラジル,ロシア,インド,中国,です.もちろん,こうした予測は外れるものです.それが当たるかどうかではなく,政治的なリスクや経済調整の長期的課題を知っておくために,その数値には意味があるのです.