IPEの果樹園2003
今週のReview
10/20-10/25
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田辺キャンパスで講義の準備をしようと車を走らせていると,緩やかなカーブで看板を持った料理人のおじさんを見ました.「ランチ・セット 680円」 と大きく書いた板を持って,道路わきに立ち,次々と走り去る自動車に目を注いでいます.お昼前の,空腹を感じ始める頃でした.
汚れたエプロンと白い帽子をかぶったまま,看板を持って歩き回る無言のおじさんの姿に,「商売は大変だ!」と思いました. …なかなかお客が来ない.用意したスープ・ストックや材料が無駄になる.無愛想なおじさんは必死に考える.時間によって割引にしようか.お昼の特別メニューも考えよう.割引券や回数券を配って次も食べに来てもらいたい.火曜日は餃子を半額,とか,水曜日は焼き飯を半額,とか.とにかくお客がいないなら,自分が表に立とう.そして看板を持って歩く.奥さんも,レジで精一杯の笑顔を見せる.絶対,また来てね,とお願いする.…
残念ながら,既に車は通り過ぎた後でした.自動車を停めるスペースもほとんど無さそうです.店の主人にとって,自動車が止まってくれるかどうか,が問題です.いつまでも,真剣に運転手たちを見つめています.駐車スペースが無いと,小さな食堂はお客さんが集まらず,潰れてしまうでしょう.もし彼が美味しいランチ・セットを食べさせてくれるなら,5年で大きなお店を持てたらいいな,と私は思いました.市場のダイナミズムが,その社会を活気付けてくれるから.
NHKのニュースで,マレーシアの金貨鋳造が紹介されていました.かつてイスラム圏で盛んに国際貿易が行われていた頃,国境を越えて人々が使用した金貨を復活させたい,ということでした.それは,引退を決めたマハティール首相が,将来は,ドルの価値から独立して貿易を拡大したい、と願ったからです.通貨危機を回避し,しかもイスラム圏の経済統合と政治統合,アメリカへの対抗を示すために,金による共通通貨を提唱したわけです.
まるで戦間期の金ブロックのようですが,金本位への復帰といえば,レーガン政権時に保守派が主張していたこともありました.どちらの場合も,インフレと為替レートの不安定化がきっかけだったと思います.しかし,デフレになれば金に束縛された通貨政策は政治的に維持できず,結局,破棄されるのです.もしアメリカの財政赤字が途方もなく増えて,ドル暴落からインフレによる危機が頻発するなら,あるいはアメリカと中国との通貨・貿易戦争が激化するなら,金ブロックが現実的な選択肢になるかもしれません.
通貨や為替レート制度の選択問題は,合理的な計算というより,人間の情動に喩えられることがあります.もし固定レート制が一夫一婦制!であれば,バスケット通貨は一夫多妻制?であり,変動レート制はフリー・セックス!?を意味する …わけです.一夫一婦制の社会から見れば,他の制度は極端に不道徳に見えます.しかし,もしフリー・セックスの社会が実際に機能するのであれば,それは理想的で,合理的かもしれません.現実には一夫多妻制やさまざまなインフォーマル交渉が,男女間で繰り返されるわけです.
もちろん,問題は人が幸せかどうかであり,また,人々が社会として安定と協調関係を合意(調整)できるか,ということです.どれほど重要であっても,結婚やセックスだけが人生ではありませんし,社会関係の全体を支配するとも思えません.
金ブロックは,言ってみれば,生涯唯一の伴侶しか持たない,という信仰家族制度です.それが必ず不幸であるに違いない,と断言する根拠は無いと思います.社会の安定と活気を取り戻すために,イスラム圏の人々が共通に信仰する通貨を得るとしたら,憎しみを共有するよりも,素晴らしいことだと思います.マハティールのユダヤ人非難とイスラム礼賛という歪んだ保護主義には反対です.反ユダヤ主義より,イスラム圏の共通関税を模索することです.
良質の自治政府は,ゆったりした共通の駐車スペースを設けたり,共通通貨や市場を整備したり,人々が協力できる社会的な紐帯を,日々,革新し,再生するために,公共心に溢れた少数のスタッフによって組織されるでしょう.
次は,あの小さな中華食堂に寄って,昼食を食べてみよう …
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, CD:China Daily, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune
NYT October 9, 2003
Currency Rumors in China Shake Hong Kong
By KEITH BRADSHER
ST OCT 10, 2003 FRI
Steering a speeding bullet
By Eddie Lee
(コメント) 香港経済と香港ドルは,アメリカと中国とをつなぐ蝶番のように機能するよう求められていました.実物面ではますます本土に統合しながら,通貨面ではアメリカ・ドルに固定している世界を,米中間の通貨摩擦が強まる中で維持することなど出来るでしょうか? 香港の不況対策として自由化された個人旅行は,本土から金や不動産を買いに来る観光客を増やし,人民元を大量に香港で支払っている,というTVニュースを観ました.これは,中国が心配する資本逃避や通貨投機の条件を育てることになるでしょう.
香港通貨庁はどうするのでしょうか? カレンシー・ボードにもかかわらず,通貨庁は為替レートの上限を保証しているわけではありません.その意味では香港ドルが増価するのは無視できるわけです.しかし,香港経済はデフレと不況が続き,誰もが香港ドルを切下げるに違いない,と信じていました.ところが市場で増価する香港ドルにより,投資家は大幅な損失を被っている、と言います.投機的な目的で増えてきた香港資産購入も,ある程度,抑制されるはずです.
US・ドルは減価し,人民元は切上げが予想されるとき,US・ドルに固定された香港ドルは人民元に対して大きく減価することが予想されます.もし不況を脱し,生産や雇用を増やしたいなら,それは歓迎できます.しかし,他方で,香港の中間層はアメリカやカナダの不動産を購入し,老後の蓄えにしています.減価はこうした海外資産の取得や利払いを難しくして,政治不安をもたらすと言われます.あるいは,香港通貨庁や金融界は,US・ドルと人民元との取引を香港ドルとは切り離して扱いたい,と願うかもしれません.
市場による増価も,カレンシー・ボードのまま切下げすることも,政治的なリスクが大きいし,そうかといって変動レート制にもできません.トレーダーが香港政庁を倒す力が無ければ(人民元に投機が波及せず),増価と資本流入をある程度許容することで,人民元が少しずつUS・ドルに対して切り上がるのを待つつもりでしょう.それが,政治的にも経済的にも,米中複本位制によって生きてきた香港人の次の活力になるのかもしれません.
とはいえ、中国経済が過熱して不動産投機の末に破綻した場合,香港の安定性は失われます.人民元の切上げを拒んで通貨介入し,香港でも中国でも銀行融資がバブルを生じているのに,消費より設備投資が活発で,デフレを強めている,と言います.銀行は不動産部門に過剰な資産を保有しており,将来,それらが不良債権となるのは確実です.他方,国内消費や農村部の貧困解消が主要な政治目標となるのは当然です.
Morgan StanleyのAndy Xieによれば,今年の末までに2兆3000億人民元の融資により12億平方メートルの建設が進められている、と言います.「不動産部門が更に2年もGDPの3倍の速さで拡大するとしたら,金融危機が起きるだろう.」
香港が通貨システムに不安を抱えるとしたら,それは主に,中国の資源配分が上手く機能していないことの影響を,国際面で集中的に負わされるのが香港だからです.株式であれ不動産であれ,価格は長期にわたって大きく上昇するほど,突然,急激に下落するでしょう.
しかし,とFTの記事においてAndy Xieは指摘します.中国はキャッチ・アップ過程の大国経済である,と.たとえバブルが(何度か!)崩壊しても,労働者はさらに上海や北京に流入し続ける.彼らが安価になったアパートを満たし,ヨーロッパや日本,アメリカからの投資は続くだろう、と.香港だけでなく,日本も含めたアジア諸国全体が,このサイクルに乗るわけです.
WP Thursday, October 9, 2003
A Likable Terminator
By Richard Cohen
WP Friday, October 10, 2003
Where's the Outrage Now?
By E. J. Dionne
(コメント) シュワルツネッガーの勝利によって,Cohenは現代の政治家に何が必要かを考えます.それは,その政策がどれほどいやな者でも,誰からも好かれてしまうような人柄である,と.クリントンがそうであったように,シュワルツネッガーも女性問題を批判されました.しかし,反対派のキャンペーンに対して,クリントンのようにスキャンダルを否定しつづけるより,それをある程度認めて謝罪し,心を入れ替えて改善する,と答えたのです.
彼の勝利は,共和党にも,民主党にも,内部の軋轢を生じているようです.元映画俳優として,レーガンとの比較も多くなされました.彼らは現実に映画通りの人物であり,現在を満足できるものとして輝かせる,スターの魅力がありました.たとえ憲法が拒んでも,次にリコールされるのは旧式な条文ではないか?
勝者はシュワルツネッガーただ一人であるとしたら,敗者は誰か? Dionneは、シュワルツネッガーが選挙戦で用いた女性スキャンダルへの反撃,デイヴィスや左派の陰謀説,を重視するとともに,右派であれ,左派であれ,政治的なモラリスト達が敗北したのだ、と考えます.
BG, 10/10/2003
Sharon's road to more vengeance
By H.D.S. Greenway
映画「アルジェの戦い」に,カスバのイスラム教徒の女性たちがヨーロッパの服装を着て,髪形も変えた様子が映っている.1957年にアルジェリアのアラブ人たちは武器を取って、フランスの植民地支配に対して,叛乱を起こした.アラブの女性はヨーロッパ人の居住区に小包を運び,それを混雑したカフェに置いた.そして爆発によってフラン人の男女が飛び散った.
同じように,パレスチナ人の27歳の女性,Hanadi Jaradatは西側の服装で,イスラエルの監視を潜り抜け,西岸からハイファへと入った.アラブ人を含む19人が死亡したが,アルジェと違って,爆弾は彼女の腰に結ばれていた.それはパレスチナ人の新しい抵抗のシンボルであり,イスラエル人の恐怖となった.
ユダヤ教の最も神聖な日の前夜に起きた凶行に対して,多くの人は悲しみ,終わりのない暴力に犠牲となった人々は惜しまれる.
しかしHanadiの父はその苦しみを訴えなかった.「私たちはHanadiの行ったことを正しいものと信じている.想像してみるべきだ.あなたの息子や,あなたの甥をイスラエル人が殺害し,われわれの家が破壊されていく様子を.彼らは私たちを追いやって,私たちがこうした行為に訴えるように,挑発している.」Hanadiは彼女の弟がイスラエルの侵攻中に撃ち殺されたことで,怒り狂った.
Hanadiの行為は正当化できない.しかしパレスチナ人たちは,まさにイスラエル人たちが報復や攻撃を正当化するのと同じように,それが正しかったと信じつつある.報復が報復を呼ぶ.
Hanadiの家族はその住宅を破壊された.しかし,シャロンの公式の報復は,表面的には,限られていた.誰もいないシリアのゲリラ・キャンプを爆撃したのだ.これは明らかに,アメリカが仲介した1974年の停戦合意にも違反する.シャロンは,他国で死者が増えることも厭わない、と述べた.また一つ,危険な境界を越えたのだ.
問題は,シリアを爆撃して,イスラエルや世界はより安全になるのか,ということだ.和平交渉が進むのか? シャロンの全人生は,イスラエルの問題を軍事的に解決することに費やされてきた.若くして境界を越えて攻撃に向かい,20年前にレバノンの破滅的な戦争に関わった.彼はイスラエルを暴力から守ろうとしたが,それは軍事力と制服によってであった.
今,明らかにすべきことは,イスラエルの問題に軍事的な解決策は無い,ということだ.唯一,政治的な解決だけが可能である.30年前の祭日のように,シリア軍はイスラエルを脅かしていない.爆弾を詰めたベストを着るのに,シリアで訓練を積む必要は無い.
そして,アメリカの利益は何か? シリアは複雑な国である.その諜報機関はアル・カイダに関してアメリカに協力したが,イラクについては拒んだ.イスラエルとの国境では周到に平和を維持するが,レバノンとイスラエルの国境では紛争を煽った.国連決議でイラクの査察を要求するアメリカを支持し,ブッシュ・シニアの湾岸戦争にも味方として加わった.しかし,現在のブッシュ政権は保守派と一緒に一方主義とイスラエル寄りの中東再編を目指している.
ブッシュ政権が,シャロンと同様に,軍事的な解決しか見ないのは悲劇である.外交的,政治的な解決策や機会が無視されている.ブッシュ政権内の一方主義と多角主義との対立はアメリカの政治的指導力を損なっている.テロとの戦いとしてイスラエルが行うことには,全て支持を表敬するブッシュの言葉や,先制攻撃の原則が意味するのは,一層の緊張と暴力である.
イスラエルでもパレスチナでも,多数の人々は領土的な妥協を望んでいる.しかし,どちらにも非妥協的な人々は暴力に訴える.イスラム原理主義者はイスラエルを消滅させることは無いし,イスラエルも隣人たちを爆撃しながら武力で平和を達成することも無い.
フランス人はアルジェリア植民地で軍事的な解決策を押し付け,アルジェの戦いに勝利した.しかし,入植者がアルジェリアを去り,占領を止めるまで,問題は終わらなかった.
LAT October 10, 2003
'Jewish State' Has Become an Anachronism
By Tony Judt
FT October 11 2003
Israel extends nuclear weapons capability
By Dougles Frantz, Los Angeles Times
NYT October 10, 2003
The U.N.'s Better Idea on Iraq
NYT October 10, 2003
Hard Sell on Iraq
By BOB HERBERT
WP Friday, October 10, 2003
The Real Fight . . .
By Jim Hoagland
(コメント) なぜアメリカはイラクの統治と再建を国連に委ねないのでしょうか? NYTも言うように,そのほうが統治や再建に対する国際社会の支持を得やすいですし,イラク国民にも受け入れられるでしょう.軍事的・財政的なコストも抑制し,多国間で分担できます.
パウエル国務長官は多角主義に戻るため,ブッシュ政権と国連とを,同時に説得しなければなりません.しかし,国連ではアメリカ政府の方針に制約されて交渉が進まず,アメリカ政府には国連の承認が遅いと急かされます.
既に多くの職員を失った国連は,アメリカのこうした態度に,強く批判的です.アメリカは国連の管理を認めず,占領政策を国連の名で正当化しようと目論み,失敗の責任を国連に押し付けます.次第に,イラク統治は難しくなり,アメリカ国民にも,国連にも,これを売りつけるのはますます困難になるでしょう.タバコのように,その本当の害については,何も言わないままなのです.
もしかしたら,ブッシュ氏はこの問題の混乱を楽しんでいるのかもしれません.なぜなら,彼にとって重要なのは再選されることだけです.チェーニーが,ライスが,ラムズフェルドが,パウエルが,ブレマーが,チャラビが,トルコが,クルドが,CIAが,…イラクを正しく扱えないとしたら,ブッシュ氏はこう言うでしょう.「イラクなんて,もうどうでもよい!」と.イラクがどうなるかではなく,それが彼の国内的な支持率から切り離せるなら.
WP Saturday, October 11, 2003
Free-Fire Zones -- Baghdad and D.C.
By Colbert I. King
ST OCT 13, 2003 MON
Lessons for Iraq from life under occupation in Europe
By RALF DAHRENDORF
ST OCT 13, 2003 MON
A lesson from a place closer to home
By PAUL SALEM
(コメント) バクダッドでは治安が悪化し,若者は盗賊団を組織し,外出するには弾丸が飛び交い,レイプが発生する通りを避けて歩かねばなりません.彼らが犯罪に走るのは,何よりも雇用が無いからです.それでもブッシュ氏は,「生活が日々改善されており,それは皆さんが思っているよりもずっと良い状態にある」と述べました.ただし,同じ日に,警察署への自爆テロで8人が死亡し,スペイン大使館の職員が暗殺されました.
Kingは、ワシントンD.C.と同じである,と言います.D.C.でもホワイト・ハウスから10分ほど北に歩けば,ブッシュ氏は弾丸が飛び交い,若者が窃盗団を組織する16番街に行ける,と.警察はここでも,銃の氾濫や失業の増大を指摘するでしょう.そしてウィリアムズ市長は,ここでもコミュニティーを再建し,隣人同士が助け合えるように,と主張します.ただし,バクダッドもD.C.も、窃盗と銃撃を増やしているネオ・リベラリズムの確信はそのままに.
占領で最も重要なことは,それが何を目指しているのか,占領されている国民にとって希望であるような何かを,統治者が共有できるか,ということです.ドイツの占領では,例外的に,それが可能となる条件を満たせたのです.
FT October 12 2003
Free markets demand protection
By Richard Epstein
(コメント) 市場を擁護するには,労働市場と保護主義に関する正しい理解が必要になる,とEpsteinは考えます.
労働市場は,最低賃金や失業手当て,その他の社会保障制度で,さまざまな規制を受けています.それは外部の労働者を市場から締め出し,企業はコストの高い労働者を減らすような投資を行います.規制された労働市場に対抗して,移民が流入し,あるいは安価な財が輸入されます.そこで,経済学者は軽視しますが,保護主義が強まるわけです.
保護主義は,政府が他の集団から富を再分配するにもかかわらず,個人にはそれが見えません.他方,自由市場のメリットが生じるには時間がかかり,短期的には失業の痛みが目立つわけです.指導的な政治家がこうした問題に正しい理解と長期的な見通し,社会的利益を支持しなければ,保護主義は市場を食いつぶす,と.
NYT October 12, 2003
Who Wins and Who Loses if the Dollar Keeps Falling?
By JONATHAN FUERBRINGER
NYT October 15, 2003
In Japan, Bush Faces Tough Sell on Dollar
By KEN BELSON
(コメント) もし暴落しなければ,このドル安は誰の利益になるのか? 経済学者は,@貿易収支における利益,と A資本収支における利益を予想します.FUERBRINGERは,実際にドル安の進んだ最近の株式市場のパフォーマンスからRiskMetricsが示した分類を紹介します.上昇した分野は,金などを含む金属・鉱山が14%で最大,電機,半導体,ソフトウェア,通信機器,情報設備,そして履物,ホテル,ロッジングが6〜9%上昇した.他方,下落したのは,航空,電信電話,写真でした.
日本が,余りに長くドル建の輸出に成長を依存してきたために,円高は日本経済を破壊する,少なくとも,そのような心理を強める,と言います.それゆえ,アメリカはニクソン以来,選挙前には日本の為替市場介入を批判し,頃合を見て妥協してきたわけです.ブッシュ氏も,選挙前に小泉氏との協力関係を誇示しますが,しかし,日本の選挙前に過激な円高要求はしないでしょう.二人にとって,互いが政権を維持するために駆け引きできる要素は多いのです.
The Guardian, Monday October 13, 2003
Policy made on the road to perdition
Larry Elliott
バルバドス、ガーナ、マラウィは,世界市場を開放してくれる元宗主国の努力に感謝した.自分達も市場を開放して,豊かになる機会を受け入れたい、と.ここには,グローバリゼーションを歓迎する者と,その猛威にさらされる者との,大きな認識の差がある.なぜアメリカが「構造調整」を迫られているときに,アフリカにまでネオ・リベラリズムが輸出されるのか? ザンビアのような小国がIMFの計画から外れると懲罰され,フランスが安定化協定を破っても何も問われないのか?
グローバリゼーションと言えば、いつも,民主主義や自由貿易,技術進歩の利益を普及させることばかり話している.現実には.エリートたちの支配,重商主義,利己的関心が全てである.裕福な諸国はその地位を失いたくない.中国やインド,ブラジル,ロシアのような国でなければ,小国は外部からの開発計画に依存するしかない.こうした政策勧告では,安定化,自由化,民営化,が繰り返し主張される.
西アフリカのセネガルのような小国に,ネオ・リベラリズムの政策が何をもたらしたか? 農業の自由化は農民達から家畜を失わせ,栄養状態は悪化し,一日2ドル以下で生活する人口が80%に達する.セネガルはまさに債務免除を受けるべき国であるが,IMF・世銀は政策変更を受け入れることを条件としている.すなわち,より一層の民営化,自由化,規制緩和,である.
輸出能力が無いザンビアで貿易自由化が与えたインパクトも,逆にGDPに占める輸出の比率を減少させた.普通,輸入は輸出よりも急速に増加し,国際収支は慢性的な赤字になる.IMFの処方箋は,より厳しい緊縮政策,である.アフリカにおけるショック・セラピーの結果は,自由化が頓挫するか,腐敗によって埋め尽くされるか.貧困と腐敗は社会に定着する.しかし,経済発展には清廉な政府が必要だ.
異なる処方箋を信じるときだ.1.アメリカや日本,ヨーロッパだけでなく,アフリカでも成長に依拠した戦略が重要だ.2.債務は年々増加しており,免除は繰り返されるべきだ.3.貿易自由化は,貧しい国に多くの自由化ではなく,逆に,豊かな国が多くの自由化を進めるべきだ.4.アフリカは多くの資本を必要としている.ゴードン・ブラウンが提唱した1000億ドル債券発行計画について,主要国は合意するべきだ.5.エイズは,ヨーロッパの黒死病と同じように,アフリカの発展を損なう.緊急に行動するべきだ.
The Guardian, Monday October 13, 2003
Arnie's beloved Hummer
John Sutherland
Oct. 14 (Bloomberg)
Who Is Governor Arnold? George Shultz's Hunch
Andrew Ferguson
LAT October 14, 2003
Aging Actor's Sacramento Curtain Call
By Sean Mitchell
BG, 10/15/2003
Austria's Arnold love-fest
By Scot Lehigh
Oct. 14 (Bloomberg)
So Who's Stealing China's Manufacturing Jobs?
Caroline Baum
(コメント) 中国に対して通貨戦争を求める製造業の労働者は間違っている,とBaumは考えます.1995年から2002年に,Joe Carsonの研究では,中国が製造業で失った雇用は1600万人,15%に達します.同じ期間に,アメリカは200万人,11%を失いました.世界中から雇用を奪っているように見える中国の低コスト工場が,雇用を失っているとしたら,誰が雇用を増やしたのか?
1995年から2002年に,世界の製造業は産出額を30%増やしたが,2200万人の雇用を減らしました.雇用が増えたのは5カ国で,メキシコ,カナダ,スペインのように,貿易や通貨の統合による利益を受けたことがその主な理由でした.アメリカの雇用減少は,むしろ緩やかな変化です.それでも議会は中国からの輸入品に保護関税を準備しています.
中国が人民元をドルに固定したことで輸出を伸ばした、というのは間違いです.25倍という工場労働者の賃金格差を埋める,どのような人民元の切上げも合理的ではありません.中国の方が急速に雇用を失っているにもかかわらず,アメリカが自国の雇用喪失で中国を責めるのは間違いです.
1979年にピークに達したアメリカ製造業の雇用が減少するのは,20世紀に農民が辿った過程と似ています.ともに生産額は増加しますが,雇用数は減少しつづけたからです.それは,一人当りの所得が増えたことを意味します.人々は安価な農産物や工業製品をより多く購入し,さらに新しい他の商品やサービスを消費したわけです.
もし狩猟・採取経済に戻れば,私たちは完全雇用を実現できるでしょう.しかし,非常に貧しい生活水準で.中国であれ,世界中のどこであれ,安価に作られた商品を消費することが,私たちの生活を豊かにしています.
BG, 10/14/2003
A blank check for Iraq?
By Thomas Oliphant
IHT Tuesday, October 14, 2003
Why the French back sovereignty for Iraqis
JeanBeno Nadeau and Julie Barlow
NYT October 15, 2003
Holding Our Noses
By NICHOLAS D. KRISTOF
ST OCT 15, 2003 WED
SM's take on N. Korea, Taiwan and Arnie
(コメント) リー・クァン・ユーの見た現在の世界像です.
Q:ASEAN諸国は,北朝鮮が核による脅迫を繰り返すのを,止める助けになるでしょうか?
SM(上級相リー・クァン・ユー):問題は,参加者の利害が異なることだ.韓国はどのようなコストを払ってでも平和と再統一を望んでいる.北朝鮮が核兵器を持つかどうか,は重要ではない.もし保有していたとしても,いいじゃないか,それは統一韓国のものになる.
アメリカ人は,北朝鮮が内部崩壊することがより単純な解決策だと思っている.北朝鮮は経済的に衰退し,ついにはCIAも加わって,反乱が起きる.北朝鮮の体制は崩壊し,その後,まあ,人道的援助がなされる.しかし,西ドイツが東ドイツを吸収した2倍か3倍も大きな問題を,そのとき韓国は抱えるだろう.
日本人は,北朝鮮が核爆弾を持つことに非常に混乱させられるだろう.それは彼らに対する挑戦であり,共存しなければならないか,排除しなければならない.もし共存しないなら,彼ら自身が核武装しなければならない.それは中国・韓国・日本・アメリカの関係を全て変えてしまう.
中国は,北朝鮮が崩壊することを望まない.なぜならアメリカ軍が北上して来るから.しかしまた,中国は北朝鮮が核武装することも望まない.そうなれば日本が核武装する,ということを嫌うのだ.
では、どうやって彼らは問題を解決するのか? 彼らはこの問題について強力な思索をめぐらせており,私は勝手に推測を述べたりしない.私は,それが彼らにとってどのように見えるか,を示した.彼らの最大の利益が一致していないことは明らかである.
…・・他にも,リー・クァン・ユーはいろいろ述べています.地域統合は進むか? 中国も成長の末に民主化するのか? 台湾とのFTAは? インドの民主主義は機能しているか? シュワルツネッガー!
FT October 15 2003
An obsession with rogue states
By Quentin Peel
(コメント) アメリカのJohn Bolton国務次官が,「アメリカはプラトニック・ガーディアンではない.われわれはアメリカの利益を代表する.」「われわれにとっての問題は,アメリカと,その友人,同盟者に対する脅威である.」と述べました.それ自体は結構なことだ,とPeelは考えます.ただし,アメリカの国益や,彼のいう脅威が明確に定義されていれば.そして,この点でアメリカは批判されています.
アメリカの政策は「無法国家」に注目し過ぎています.そして,「悪の枢軸」を「イラク,イラン,北朝鮮」と一気にまくし立てます.アメリカはイランや北朝鮮が核兵器を持つことを許しません.しかし,イスラエルやパキスタンが過去に核兵器を開発したことには触れません.その違いは,アメリカの敵か,味方か,です.もし彼らが核を保有するなら自国の防衛のためにイランも保有したい,という主張を退けます.
しかし,敵か見方かは時とともに変化します.世界を固定した二元論で捉え,自国にとって都合の良い勝者を決める,という冷戦思考では,現実の国際システムを指導できないでしょう.こうしてアメリカはテロとの戦争でも国連を無視し,同盟国や友好国を離反させました.クリントン政権時の国務次官Strobe Talbottは,「アメリカの権力が問題と見なされ,…封じ込めるべき対象とされる世界」を心配します.
FT October 16 2003
'Yet to come to grips with a clear policy on China'
By James Harding and Peter Spiegel
BG, 10/16/2003
A US-China space race could mean trouble
By Toshi Yoshihara
FT October 16 2003
How to help the renminbi find its own level
By Haruhiko Kuroda
Oct. 16 (Bloomberg)
Can Bush End Asia's Escalating Currency War?
William Pesek Jr.
(コメント) 黒田氏は,人民元の為替レートを調整すべき理由を三つ挙げています.@1994年に約30%切下げてUSドルに固定して以後の変化,Aアジア諸国が通貨危機以後には変動レート制に移行したこと,B為替レートを固定することによって,中国の通貨当局自体が抱える問題,です.
USドルの為替レートが変動する中で,中国がそれに固定したままであるのは,インフレ率が異なり,急速に成長し,貿易部門の生産性も上昇する中で,中国にとっても,国際経済の調整にとっても,長期にわたって適切なレートであることは難しいのです.特に,ますます競合するアジア諸国の貿易や投資が,中国の対ドル固定化によって撹乱されます.そして,何より通貨市場への巨額の介入は中国国内に投機圧力を高め,資本規制にもかかわらず,通貨政策の効果を奪ってしまうでしょう.
黒田氏は,完全な変動レート制への移行ではなく,主要通貨のバスケットにより,年7〜10%の増価を許すとともに,広めの変動幅を設けた「クローリング・ペッグ」制,を推奨します.それはまさに,国際的な調整や国内の経済改革の推進を可能にし,しかも安定した成長を維持するような,固定でも変動でもない,中間の制度です.
言うまでもなく,これは通貨危機の原因となるから,決して採用してはならない,とアメリカの通貨当局やIMFがアジア諸国に主張してきた制度です.黒田氏は,この制度を維持可能とする条件を示しています.1.資本規制を維持すること.2.中央銀行は為替レートの維持に必要な通貨政策を採用すること.3.アメリカと日本を含む,国際社会がこの制度を維持するために強力な支援を行うこと.
そして,3.の国際社会は,いつ・どのように中国が資本規制を撤廃し,どのような通貨政策を取るべきかについて,G7に中国を加えてマクロ経済の安定化政策に関する情報・意見交換を緊密に行うのです.逆に,現実の競争力から乖離した為替レートが,投機的圧力を高めたまま維持され,主要国間で意見が対立して,国際支援の実行が不明確になったとき,次の危機が起きるわけです.
Pesek Jr.は,ブッシュ氏が中国の人民元を非難するだけでは,そのアジア訪問は外交的な失敗に終わる,と懸念します.なぜなら,日本政府は自国の経済改革を延期するために円安を維持する介入を続けていると言うのに,アメリカはそのことを放置し,中国とアジアの成長を妨げてまで,ブッシュ氏は再選のために利益団体や労働組合を懐柔することに忙しいからです.他方,中国はアジア諸国に対して,FTA交渉など,為替レートに限らない貿易と発展の道を示しています.ブッシュ氏がアジアの競争的な通貨の減価を阻止すると意気込んでも,アジア諸国の支持は得られそうに無いのです.
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The Economist, October 4th 2003
Tony Blair’s leadership: Bruised, but bouncing back
(コメント) ブレアの政治生命もこれまでか? ブッシュの戦争を支持し,サダム・フセインの脅威を誇張し,関係者の情報を漏らして自殺に追い込んだ,狡猾な狐で,しかも恥知らずなブッシュのプードル?
しかし,The Economistは開戦の演説に示された指導者としての主張に,国民がいかに高い評価を与えていたか,を思い出させます.また,政権の命運を決めるのは選挙であり,それはイラクではなく,イギリスの年金や医療制度を立て直すことに懸かっている,と指摘します.ブレアは果敢な指導者として,正しいと思えば,支持基盤である労働者に敵対しても,学校や医療機関に競争を取り入れる覚悟です.
ブレアのギアは後退に入らず,前進するのみです.しかし,労働党がそれについて行けるか?
Airlines: Open skies and flights of fancy
Latin American fisheries: Tangled nets
(コメント) テロによって傾いたものの,旅客航空産業が政府の規制と補助金によって成り立っていることは有名です.まさに,軍需産業と情報産業を混ぜたみたいに.あるいは,民間航空産業を国債管理するIATAと,カツオを獲る網にイルカが混ざらないことを規制・監視するIATTCとの違いは何でしょうか?
航空産業に変化が起きたのは,EUが各国のM&Aを促進し,エア・フランスとKLMの合併を認めたからです.戦後の旅客航空市場は各国の航空産業育成のために自国から第三国への旅客輸送を認めず,各国は二国間で合意によって空港の使用や便数,さらには空港料金まで決めていました.IATAはこうした規制が確実に実施されていることを監視し,料金格差をプールする機関(空中の「道路公団」!)だったわけです.
EUが空の統一市場を形成し,アメリカと合意すれば,一気に,空は開放へと向かうでしょう.アメリカ国内や大西洋航路で示されたように,規模の経済性が発揮され,航空業界は大きく再編されますが,最大の受益者は利用者です.航空運賃は低下し,旅客数は大幅に増えるでしょう.
そして,最大の被害者は,空港管制官やパイロットの組合,自国の旅客機に乗ってナショナリズムを感じる政治家,あるいは地球環境や,地方のまじめな観光地・勤勉なビジネスマンかもしれません.