IPEの果樹園2003
今週のReview
10/13-10/18
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同志社大学の今出川校地は,南北を京都御所と相国寺とに挟まれています.そこには,私が学生の頃,静かに思索や散歩ができる,ひんやりとした空間がありました.学生たちと散策しながら議論することで,京都には独創的な思想が育った,と言われます.
先日,相国寺の境内を歩くと,地面がアスファルトに覆われ,風情の無い道路になっていました.御所に入っても,砂利を敷きつめた,やたらと広い空き地が土埃を立てているだけで,美しい庭園の緑が迎えてくれるわけではないのです.そう言えば,疎水沿いの哲学の道も,整備された末に,退屈な,観光客のための歩道になりました.
なぜもっと,美しい自然や歴史を残す工夫をしないのでしょうか? 自分たちの住む街や自然を,自分たちの公共投資で,もっと豊かに,そして美しく維持したい,と私たちが願うのは当然です.住民が公共投資の中身や質を直接に決定し,チェックできるような仕組みがあれば,日本の町はもっと美しく,住みやすかったでしょう.人間の活力を社会が吸い上げる仕組みが無ければ,私たちもターミネーターを探すでしょう.
C.W.ニコル氏の『NHK人間講座・森から未来をみる』を観ました.彼は,日本の美しい川や森を回復し,残そうと努力しています.たった一人の力で,美しい森を甦らせ,河川を守り,日本の自然を理解し,育てる努力を続ける彼の理想が持つ力に,きっと多くの人が感動し,協力することでしょう.
ウェールズで生まれたニコル氏が,なぜ日本人になったのか,と聞かれて,こんなふうに答えています.「日本が私の家であり,最も愛する国だからだ.どの国にも増して,私は日本でいちばん多くの時間を過ごしている.家族も友人も世界中にいるけれど,私のいちばん親しい人たちはほとんどが日本人だ.日本は私に衣食住を与え,移動を許し,私を守ってくれている.」
経済学者のリチャード・クー氏や,数学者のピーター・フランクル氏など,優れた外国生まれの人々が日本に住んでいることに,私は驚きます.日本にあるものと言えば,住むには狭く,通うには遠い家,子供を押さえつける学校,信用できない先生や銀行,住みにくい町,衰弱した地方都市,惨めに破壊された自然,腐敗した政治家,そして,いたるところに繁茂する,機能しない組織や制度,さまざまな社会的規範,生きることへの拘束・・・
私のゼミ生が,アメリカから帰国しました.私が大学院で指導していた,たった一人の学生はオーストラリアに留学しました.日本が,彼らにとって再び戻るべき故郷と言えるでしょうか? あるいは,豊かな才能や希望が実現できぬまま埋葬される,不毛の土地なのでしょうか?
政府とは何でしょう? 国際秩序を守るために戦争し,医療や年金を整備し,学校や警察を配置する.そして,雇用を! カリフォルニアではシュワルツネッガー氏が選挙サーカスを勝ち抜き,有権者に次の「パンとサーカス」を約束しています.他方,ワシントンDCではブッシュ氏が「銃とバター」の選択に言及しないで済むよう,他のテーマを探しています.たとえば,中国? それとも,教育改革?
もし可能なら,パレスチナやイスラエルに住む人々も,ロサンゼルスや香港に住む人々も,バクダッドやロンドンに住む人々も,地の社会を選択してみたいでしょう.東京や大阪,上海,シンガポール,バンコック,ハノイ,プノンペン・・・に住む人々も,その町を去って,他所へと移り住むことを,彼らの意志に委ねては …?
NHK・BSでゲイリー・ロスの映画「カラー・オブ・ハート」を観ました.とても魅力的な,不思議な作品です.こうした作品を生み出せるアメリカだから,多くの才能ある人々が向かうのでしょう.良質なアメリカは,常に,世界を開放し,世界を結びます.
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, CD:China Daily, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune
BG, 10/2/2003
Freeing Mideast is worth the cost
By Jeff Jacoby
WP Thursday, October 2, 2003
The Need To Focus On Iraq
By Jim Hoagland
NYT October 5, 2003
An Overstretched Army in Iraq
(コメント) ブッシュ大統領が議会に求めたの203億ドル(もしくはアフガニスタンも含めた870億ドルの一部)は,民主党からも共和党からも非難されています.「イラクの道路や橋を再建するシロ手形を渡す」のではなく,「アメリカの道路や橋に投資しろ」と民主党の候補は求めます.他方,「アメリカ兵は巨額の戦費と人命を費やしてイラクを解放した」というのに,「なぜ再建のためにまで財政負担を強いられるのか」と憤慨します.
しかし,Jacobyは,たとえ870億ドルでも,他に選択肢は無い,と言います.なぜならイラクはもっと大きな戦争の一部だからです.冷戦が第三次世界大戦であったとすれば,テロとの戦いは第四次世界大戦です.ドイツや日本を再建する以外に選択肢は無かったように,イラクを再建することは,たとえその二倍の費用がかかっても,そうするに値します.もしわれわれがそれを行わなければ,ヒトラーがヨーロッパを支配し,フセインが中東を支配し,テロリストが隣人となるような町に,あなたは住むことになる,と.
Hoaglandは,イラクがアメリカ国内政治の焦点となることを指摘します.しかも,それはイラクの再建それ自体が問題ではありません.イラク問題の処理に失敗すれば,ブッシュ政権は他の政治問題においても制約されます.国内基盤が弱まった政府は,しばしば予想外の事態に柔軟な対応ができません.たとえば,雇用問題で批判されると,スノー財務長官が慌てて中国の固定レートを非難し,変動レートにするよう求めました.
なぜ870億ドルもの財源をアフガニスタンとイラクのために要求したのでしょうか? 保守派でさえ,その評価には疑問を示します.ラムズフェルドが軍を再編する計画まで含めたという疑念も呼びます.イラクには石油があるから,こうした支出は,将来,返済される,と期待します.しかし,イラク政府の行方は予想できません.選挙の年になれば,イラクは,さまざまな危険とチャンスを詰め込んだ,アメリカ国内政治のための特別な食卓となるのです.
NYTも言うように,イラク戦争の意味は既に全く変化してしまいました.アメリカ単独でも,迅速な軍の展開により短期間に勝利を得ることができ,速やかにイラク国内の民主化勢力に政府を委ねて撤収し,他のアラブ諸国も次々に民主化に感染する? という予想は実現しませんでした.スンニー派の支配地域では統治が機能せず,抵抗が続き,同盟国からの支援も得られず,駐留が長引けば軍の補充や予算が破綻し,アメリカ軍は世界的な見直しを迫られるでしょう.
4000億ドルという,他の同盟諸国が支払うすべての防衛費を越える軍事支出を行いながら,さらにイラクで多くの兵士や財源が費やされるなら,たとえば朝鮮半島の米軍は縮小して当然ではないか? それは,ブッシュ氏の一方主義がもたらしたアメリカの支払うコストであり,同盟諸国が強いられるコストなのです.
IHT Friday, October 3, 2003
Choosing a template for Iraq
Stanley A. Weiss
クレマンソーは,かつて,「アッチラには悪いが,人間を大量に殺戮するよりも,その生き方を指図する方が,はるかに難しい」と言ったそうです.
サダム・フセインの爪を逃れたと思ったら,今度は多民族社会が昔から苦しんだ問題に直面する.異なる宗教やエスニック・グループが競合する社会を,どうやって一つの国家にまとめればよいのか?
ケベックからバルカン,インドネシアまで,イラクが学ぶべきモデル,そして真似てはいけないモデルは,多くある.その選択とは,おそらく,スイスのような多元的民主主義か,それともボスニアのようなエスニック=信仰集団間の殺し合いか,というものだ.
イラクは長く,人口の60%を占めるシーア派を抑圧してきた.彼らが支配的な役割を果たすのは当然だ.しかし,政治的安定のためには,この国の多くのエスニック・グループや宗派が安全を保証されていると感じることが重要だ.さまざまな代表からなる統治評議会は,そのために存在する.一人の代表を決めることはできなかったが,最も勢力のある9人の代表から,毎月,順に暫定的な大統領がでる.
それゆえ,スイスがイラクのモデルのように言われる.しかし,慎重であるべきだ.イラクはスイスでは無い.連邦主義は「魔法の公式」ではない.世界中で,エスニックや信仰の違いで分割された集団間で権力を共有する試みは失敗してきた.
地理的に固まった少数派が政治・経済・文化的な権利を保証されなければ,中央政府はその信頼や支持を失い,結局は支配権を失う.セルビアが巣路紅者クロアチア,ボスニア,マケドニア,コソボ,モンテネグロを失い,エチオピアはエリトリア,インドネシアは東チモールを失い,ロシアはチェンチェンを留めるために壊滅させたことを思い出すことだ.イラクは,ケベック,ウェールズ,スコットランド,スペインのバスクをモデルにするべきだ.政府は分離独立派に対抗して,政治・経済・文化の自治権を拡大してきた.
チャラビは,連邦主義を「唯一の解決策」と呼び,ドイツをモデルにする.そして,アラブとクルドの二つの州を構想する.しかし,ドイツには独自の憲法と法律を持った16の州が存在する.連邦政府は,防衛,外交,金融(財政)について,特別な権利を持つだけだ.
イラクが成功するには,全ての集団や地域が,統一イラクに留まることに,強い経済的な利益を見出すような形で,石油の売上げを中央政府が管理・分配する必要がある.
もちろん,究極的には統一イラクの将来はイラク人たちの心の内にある.その意味では,ハキム氏暗殺の後,シーア派が報復行動に走らなかったことこそ,冷静さと妥協が求められているというかすかな希望を示した.
NYT October 2, 2003
THE WORLD'S SWEATSHOP: LABOR'S LASHES
Chinese Girls' Toil Brings Pain, Not Riches
By JOSEPH KAHN
(コメント) 中国の工業化が,一面では,近代初期の西洋で見られたような,搾取工場(苦汗工場:SWEATSHOP)によって担われていることを告発する記事です.
中国東北部の町では,韓国の工場Daxu Cosmeticsが生産コストを下げるために少女たちを低賃金で酷使しています.昼夜交代制で,一日14時間も働き,食事は毎日同じキャベツとジャガイモだけ.風呂は週に一度だけ.16歳の二人の少女が,韓国人の経営する付けマツゲの生産工場から逃亡しようとして3階の窓から転落し,足の骨を折って病院に運ばれました.
二人の少女はそこを「監獄」だと言いますが,工場長は労働者を「自分の兄弟や姉妹として扱っている」と言います.窓には格子が入り,逃亡できないように見張られています.彼女たちは北朝鮮との国境に近い村から,政府の職業紹介を経て働きに来ました.しかし,失業者の増大が社会不安を招くと恐れる政府は,雇用を不あやすために,企業による採取を余り気にしません.政府が労働条件の点で工場を罰することは少なく,組合は禁止されています.
テレビに流れた最初の募集条件は,月給120ドルで,農家の娘にとって魅力的な額でした.ところが実際に最初に支払われたのは24ドルに過ぎず,そこから部屋代と食事代として13ドルが引かれました.ボーナスは,大変な割当を超えた者だけに与えられ,誰一人もらえませんでした.契約期間の終了前に辞める場合,58ドルの罰金を取られます.
彼女たちは,政府も企業も,黒社会とつながっている,と訴えます.
NYT October 2, 2003
An Extreme Plan for Iraq
By JEFF MADRICK
(コメント) イラクにショック・セラピーを? ポーランドなど,ロシアと東欧諸国で有名な,一気に市場を開放し,価格を自由化する,というショック・セラピーが,イラクについても議論されています.しかし,イデオロギーだけでは現実は救えません.
Ethan B. KapsteinとBranko Milanovicは,ショック・セラピーの欠陥を批判しています.「改革」を進めた国ほど数年に渡ってGDPが減少し,失業者も急増したのです.何よりも,関税率を一律に5%に下げたり,外国の銀行が参入するのを自由化すれば,経済制裁と戦争とで疲弊した国内企業や銀行は生き残れない,と懸念されます.既に50〜60%が失業しているイラクは,ロシア以上に深刻な経済危機に落ち込む,と.
むしろ,現在は海外からの家族の送金で生活を維持している状態を改め,社会保障を整備しなければならない,と考えられます.インフラの整備と治安の回復は緊急に必要です.それらがマーシャル援助計画と同じような規模で,雇用の回復にも役立つでしょう.それ無しには,急速な自由化のコストを担うのは,自由化の描くイデオロギーだけです.
ST OCT 3, 2003 FRI
Washington's risky dollar brinkmanship
By Janadas Devan
FT October 5 2003
The dollar and the tyranny of the weak
By Amity Shlaes
Oct. 5 (Bloomberg)
What Does Fair Have to Do With Currencies?
David DeRosa
(コメント) なぜプラザ合意は再現できないのか? Devanによれば,その理由は,@日本も西欧も,今は,成長のエンジンになれない.A中国の人民元が調整に参加しなければ,日本や中国はこれ以上の調整を受け入れない.Bブッシュ政権は,二期目のレーガン政権と違って,再選することに制約される.すなわち,アメリカが財政赤字を削らず(国内需要水準の抑制もしくは貯蓄増加を拒み),それゆえ他国も為替レートの調整を認めない.
それにもかかわらず,ブッシュ氏は国内政治的な理由で他国の通貨を云々し,為替市場を不安にしています.これは危険なゲームであり,アメリカからの資本流出も起こりうる,と.
Shlaesは,なぜドバイのG7が発表した「為替レートにより大きな弾力性」を求めるコミュニケが,予想通りのドルの減価と,予想外にも,世界の株価下落をもたらしたか,を考察しています.スノー財務長官のシナリオには,@世界の成長ギャップが問題だ.Aドル(およびアメリカの財政政策)の姿勢は変えない.B他国のサプライ・サイド改革を促す.C中国にとっても,為替レートの変動を受け入れて改革することが望ましく,世界経済の成長を促す,といった判断が含まれていたようです.
しかし,@為替レートは国際収支不均衡を調整できないし,経常収支は重要ではない.A為替レートに介入することは効果が不確実であり,不安定な為替レートは成長を妨げる.B中国の弱体な国内調整能力に制約されて,アメリカの唱える供給側の改革は進まず,成長のギャップが解消されない分,為替レートの不安定さと結果的には成長抑制効果が強められる.だから,株価は下落し始めたのだ,と.
ブッシュ氏が中国に求めた「公平なfair」通貨政策(為替レート)という主張に,DeRosaは,経済学者らしく? 噛み付きます.「慎重な,注意深い,責任ある,通貨政策」は存在するが,「公平な通貨政策」なんて,中央銀行の辞書に載っていない,と.彼は,アジア通貨危機によって確立された二極化説を支持し,政治的介入を拒否するには,中国が唯一の選択肢,すなわち変動レートを持つ,と主張します.
LAT October 3, 2003
Muscle and Meanness
He's the Poster Boy of Trash Politics
By K.B. Forbes
Oct. 7 (Bloomberg)
Buffett, McClintock? Arnold's Choice
Andrew Ferguson
NYT October 6, 2003
Arnold's Biggest Fan
By BOB HERBERT
FT October 7 2003
A No vote for California's recall
BG, 10/7/2003
Recall won't end California's woes
By Thomas Oliphant
LAT October 7, 2003
No on Recall, Propositions
(コメント) カリフォルニアのリコールと知事選挙に関して,事前の論調は何を強調していたのでしょうか?
LATやNYTがシュワルツネッガーに好感を持たないのは,彼が既存政治への不満を吸収するだけで,それを解決する人間ではない,と思うからです.セクハラ疑惑や見識も経験もない立候補に,政治記者や論説委員は憤慨したことでしょう.州議会を叩き壊せ,というメッセージだけで,知事を選んで良いものか!?
そこで注目されるのは彼の政策顧問たちです.Fergusonは,カリフォルニアの財政建て直しにWarren Buffettが何を求めるか,考えます.しかし,Buffettが低すぎる不動産税に言及すると,彼は直ちにそれを,冗談を交えて,非難しました.そしてBuffettを資産家のための飾り物にしてしまったのです.他方,元国務長官のGeorge Shultzを経済顧問に招きました.
しかし,シュワルツネッガーの政策はまるで不明確です.もちろん,減税することはないでしょう.ミネソタ州の知事になったプロレスラーのJesse Venturaは,議会を敵に回して,仕事ができませんでした.企業を誘致するにも,彼が敵対する議員たちを攻撃し,政治につばを吐き続ければ,それが最大の失敗となりそうです.
HERBERTは,シュワルツネッガーがヒトラーを崇拝していたことより,それ以上に自分を崇拝したがっていることに警鐘を鳴らします.「ケネディーみたいに,5万人の聴衆に語りかけ,彼らが歓声を上げる感覚だ.あるいは,ニュルンベルクのヒトラーだ.その聴衆全てがあなたに絶叫し,あなたが言うことは何であれ,完全な同意を捧げる!」 なるほど,これがシュワルツネッガーの賞賛する政治家なのです.
極端なナルシシズムは,他者への配慮を欠くでしょう.ナルシシズムは,誘惑,操縦,権力と支配への欲望につながります.それは,どこよりもハリウッドにおいて繁栄します.しかし,ハリウッドでさえ,シュワルツネッガーは例外です.
シュワルツネッガーはカリフォルニアの人気者です.彼は多くの有権者にとって力強い指導者なのです.しかし実際は,歳を取った,おふざけの好きな愚か者で,ファンの愛するその病的なエゴと,勝ち誇った笑顔,何が適切な行動かもわきまえない,惨めな理解力しかない俳優である.それでも彼は繰り返し,漫画みたいな映画で,強力な指導者を演じてきた.どれほど奇妙に見えても,カリフォルニアの有権者の多くにとって,それこそ彼がこの州の知事になるべき十分な理由なのだ,と.
いっそリコールが成立しなければ良い.リコールでは何も解決しない.政治的な党派と経済的な利害が深く結び付いたカリフォルニアで,有効な妥協を見出せるような選挙にはなっていない.だから政治を否定しても,中身の無いポピュリズムに翻弄されるだけで,もっと大きな損失を市民たちは負わされるでしょう.まさに,自分たちの問題解決をターミネーターに頼るから.
NYT October 3, 2003
Shaking the House of Cards
By BOB HERBERT
NYT October 3, 2003
'Slime and Defend'
By PAUL KRUGMAN
LAT October 6, 2003
Stealing From Our Children
FT October 5 2003
Restoring the transatlantic alliance
By Fred Bergsten
(コメント) 米欧間の貿易と投資は共通の通商的利益を形成しており,世界経済を管理するG2が安全保障に関する不和を越えて再建されなければならない,とBergstenは主張します.日本は経済停滞し,中国は国際的な役割をまだ引き受けられないから,米欧二極で国際秩序を形成する必要があるわけです.
こうした見方は,事実上の覇権体制が有効な唯一の国際秩序である限り,何度でも示されるわけです.しかし,@政府間の合意を重視しすぎている,Aアメリカとそのパートナー,という図式を繰り返すだけである,Bアメリカの問題を軽視している,C米欧交渉で軽視される地域の問題を解決する枠組みが必要になる,という限界を持ちます.
ST OCT 8, 2003 WED
China right not to float the yuan
JOSEPH STIGLITZ
(コメント) スティグリッツは,中国がアメリカの要求を拒むことは正しい,と言います.なぜなら,@国際貿易は比較優位に従うのが望ましく,中国はアメリカに比べて工業製品に比較優位を持つ.Aアメリカの経常赤字はアメリカの貯蓄不足によるものであり,それはブッシュ政権の間違った減税策によるものだ.B中国の貿易黒字はGDPの1%でしかない.Cアメリカ政府もIMFも,産業保護や為替市場への介入を支持しており,決して自由市場を信奉していない.結局,中国は正しい為替政策を実行できる十分な外貨準備をもっており,そのためにこそ,貿易黒字を維持しているわけだ,と言います.
スティグリッツは,また,アメリカが経常収支赤字を続けるのは,外貨準備を増やそうとする諸外国がドルを買う(貿易黒字を増やす)ために,ドルの価値が競争力を損なうまで高くなりすぎる,と言います.それは,G7が協力するか,アメリカが一方的にドル安を選択するまで,持続してしまうのである,と.これを解消するには,中国を加えたG8や,地域通貨統合を目指すしかないのかもしれませんが,スティグリッツは言及していません.
中国(そしてアジア諸国)は貿易黒字を累積するのが正しい,という結論は,おそらく不均衡の拡大による金融不安と,アメリカの失業問題によって,納得の行く結論とは思いません.
NYT October 6, 2003
The Looming Shrimp War
(コメント) ヴェトナムのナマズがアメリカのナマズ養殖農家を守る保護措置で損害を被っていることは,既に,注目されています.同じことがエビで起きようとしています.しかし,エビは,ヴェトナムだけでなく,ブラジルやタイも主要な輸出国であり,保護措置に反対する同盟を形成しています.NYTも,比較優位を失ったのであれば,ダンピング提訴ではなく,一時的な調整コストの補助を求めるべきだ,と主張します.
NYT October 6, 2003
The Last Nuclear Moment
By AVNER COHEN
(コメント) 広島と長崎で使用されて以来,原子爆弾が使用されかかったのは二度だけだ,と言います.1962年のキュウバ危機と,1973年の第4次中東戦争です.この記事は,イスラエルが緒戦において敗退し,軍が核の使用を考えた際に,Golda Meir首相は受け入れず,キッシンジャーも明確に反対し,アメリカ空軍がイスラエルを支援したことで戦局を逆転した,と述べています.たとえ最後の手段としても,核兵器は使用できない,という神話を形成し,イスラエルも国際的に責任ある行動を取る国である,と認められたことを強調します.
私には,むしろ,今のイスラエルのあり方や,アメリカ自身が核の使用も考える姿勢について,次の危機で核兵器が飛び交う様子と結び付けてしまいます.
ST OCT 7, 2003 TUE
Towards an Asean Security Community
By LEONARD C. SEBASTIAN
NYT October 7, 2003
China to Encourage Greater Investment in Southeast Asia
By JANE PERLEZ
ST OCT 8, 2003 WED
Asia's new maxim: Make trade, not war
TOM PLATE
FT October 8 2003
Asean takes the slow road to unity
ST OCT 7, 2003 TUE
Immigrants' cultural conflicts run deep
By SUNANDA K. DATTA-RAY
(コメント) 経済的な,あるいは政治的な理由でイギリスに亡命してきたクルド人の家族に,文化摩擦による悲劇が起きました.娘はイギリス文化に近付こうとし,父親とその伝統文化の束縛から逃れるつもりで手紙を書きました.しかし,父親は彼女の家出を許さず,激情に駆られて彼女を台所のナイフで11回も刺し,彼女の喉を斬り割いたのです.そして,死に行く娘を見ながら,自分も喉を切って,窓から身を投げ,自殺しようとしました.彼は終身刑に問われています.
最近亡くなった哲学者のE.サイードのように,異なる文化を生き抜くことのできる人は多くありません.彼は,アラブでもイギリスでもなく,自分であろうとしました.イギリスの多くの移民コミュニティーは,境界が無くても,この矛盾を生きています.彼らはインドに住んで,イギリスに毎日通う,と冗談を言います.マンチェスターでもロンドンでも,チャイナ・タウンは実は新しいのです.
物理的,そして感覚的に,自分であることを奪われた人々が,新しい生活スタイルとアイデンティティーを得ることが必要です.それが得られなかったことを,父親は深く悲しんでいるでしょう.彼らに,中間の安らかな道は無かったのです.
FT October 7 2003
Rivals and partners
By Martin Wolf
(コメント) 中国とアメリカの関係はどうなるのか? 両国の対立は,経済でも軍事でも,もはや避けられないのか?
Wolfは,@日本との比較,A経済と政治の比較,を強調して,米中両国がその対立を限定し,協調していくことを唱えています.すなわち,日本叩きは不均衡を改善できませんでしたし,中国は日本のような「重商主義」を採りません.また,経済的な利益は相互に協力すれば増大するのであり,人権や民主化のような政治的対立は限定することができるはずだ.もちろん,アメリカ政府がこのことをよく理解して,中国を経済的にも,安全保障面でも,国際システムに参加するよう促すことが重要です.
しかし,現実には,アメリカが中国叩きを再現し,中国は日本以上に確信的な「重商主義」を採用し,経済的利益が政治的な目的によって利用される傾向が強まっています.
WP Tuesday, October 7, 2003
Israel Is Losing
By Richard Cohen
FT October 7 2003
Bombing Syria
LAT October 7, 2003
Pouring Oil on Mideast Fire
BG 10/8/2003
A message to Syria
The Guardian, Wednesday October 8, 2003
Impotence of power
Jonathan Freedland
FT October 7 2003
The public always comes last
By John Kay
(コメント) カンクンの自由化交渉が失敗した理由は,政府が国民全体ではなく企業(保護された業界)の利益を代弁し,反グローバリゼーションの民間組織が会場を取り囲んで反対を叫んだからです.しかし,自由化の影響を冷静に評価して政策を選択する民間組織は,実際に,企業にとって最も手ごわいはずです.
各国は,自国内で解決すべき問題を,国際交渉に持ち込んで解決させようとしました.政府は特定の利益ではなく,国民の利益を代表しなければなりません.EUは共通農業政策を改革しなければなりません.貧しい諸国は安定した,透明性の高い投資を促し,輸出市場を争う以上に,自国内の発展を実現しなければなりません.
それができないから,WTOで問題を転嫁できる,と思ったから,交渉は頓挫したのです.
BG, 10/8/2003
California's failed reform
By Robert Kuttner
流行と気まぐれはしばしばカリフォルニアから始まる.そして,民主主義を脅かす新しい思想も誕生するのだろうか? このリコール選挙は,確信的な改革派の知事,Hiram Johnson.が1911年に始めたポピュリスト的な政治手法が,歴史的な皮肉をもたらしたことを意味する.Johnson.は独占企業に反対し,政府を人民に取り戻し,腐敗と金権政治を一掃するはずだった.
しかし,実際には改革が政府機能を麻痺させた.有権者たちはますます不満を感じて,さらに酷い解決策を支持した.直接民主主義は,組織された右翼活動家による中間層の壊滅を促した.だから,今度のヒトラーへの言及は,まさに恐れるべきことだ.
130人も立候補したサーカス選挙に勝ち残った,ナルシストのボディー・ビルダーが何を騒がれようと,政府はすでに重要では無い.むしろ2003年の選挙は,25年前の住民提案13がもたらした税制改革を完成するものだ.1978年に生じた納税者の反乱は,より公平な課税を求めていた.1970年代のインフレが不動産税を急増させていたからだ.
カリフォルニアのように複雑な税制の下では,知事だけが有効な改革と減税を行えた.しかし,当時のJerry Brown知事は,不動産税を再編せずに,これによる財源をさまざまな政治的免税措置に利用した.提案13は,結局,この不動産税を制限することで,州の財政破綻と税の不公平を拡大した.州政府はこれに対して,公共支出を削り,カリフォルニアの学校や道路はアメリカの最悪水準に落ち込んだ.
これは有権者の望んだことでは無い.しかし,彼らにも一貫した政策が無い.Gray Davisは抜本的な税制改革を避けることで,有権者の怒りをかった.もし政府が有権者の信頼を得たいなら,この問題に真剣に取り組むことだ.
LAT October 8, 2003
An End, a Beginning
Epicenter in Society's Center
By Bill Boyarsky
An Angry Paradise
Peter H. King
(コメント) ナルシストとノスタルジア.彼らを結び付けるのは「怒り」です.カリフォルニアは,怒りの政治,を発明する?
ゴールド・ラッシュ以来,カリフォルニアに来た者は楽園を求めていた.しかし,一世代を経過して,彼らは騙されたと確信する.既に1939年の古典的な小説"The Day of the Locust"で,ハリウッドの暴動を描いた末尾に,Nathanael Westは次のように書きました.「彼らは野蛮で,無情な,何よりも,中年から老年の,退屈と失望に冒された者となっていた.」
「彼らは太陽とオレンジの土地に来た.しかし,一旦来てしまうと,もう太陽は十分でない.オレンジにも,アヴォカドにも,パッション・フルーツにも飽きてしまう.何一つ起こらない.彼らの退屈はますます激しくなる.彼らは騙されたと理解し,それを強烈に恨む.」彼らが,知事のリコールを求めた.
WP Wednesday, October 8, 2003
Repairing California Government
By David S. Broder
BG, 10/9/2003
Arnold's ballot-box-office smash hit
By Derrick Z. Jackson
Voters buy smiles and 'no new taxes'
By Joan Vennochi
(コメント) ケネディーとレーガンをあわせ持った男? 様々な党派を超えて支持を集めた.女性の敵? もちろん,彼の妻は,ケネディーの威光で保証する.タイタニックは氷山にぶち当たった.さあ,どうする? この衝突を利用して,彼はビスマルクに変身する.
皆はゲームに興じている.税金のことなど話したくない.映画,野球,俳優たちの噂話.
LAT October 9, 2003
The Morning After, the Mystery of Democracy Remains Unsolved
By Jane Smiley
NYT October 9, 2003
Overshadowed Blessings
(コメント) リコールの成立とシュワルツネッガー当選を受けて,マスコミの論調は何を求めるのでしょうか? この曖昧な政治選択が意味することなど,誰にも分からない,と言うべきです.彼は,まず支持を得たのです.デイヴィス氏よりも多くの得票を得たことは,彼に正当性を与えるでしょう.そして,民主党も共和党も敗北したことで,彼が両政党の妥協を図る資格を得たわけです.もし,映画でと同じように,賞賛されることを彼が望むなら,政治家としても真の問題を解決する舞台を得たと考えるべきです.
もちろん,政治に失望し,関心を失っていた日本人も,衆議院選挙における論争を真剣に聞こうと思うでしょう.また,この時期に,「ホワイト・ハウス2」が始まったことも朗報です.
FT October 9 2003
The Thaksin way
Oct. 9 (Bloomberg)
Dr. M's Bittersweet Departure
William Pesek Jr.
The Guardian, Thursday October 9, 2003
New world disorder
Larry Elliott, economics editor
1960年代が終わったのは,ウッドストック・コンサートでも,ビートルズの解散でもない.それは,1973年10月6日,ユダヤ教の最重要な祭日Yom Kippurに始まった,全く予想外の第4次中東戦争によって終わったのだ.なぜなら,この戦争はOPECによる石油戦略につながり,戦後世界の政治経済秩序を解体し始めたから.経済政策の目標も,完全雇用からインフレ抑制へと変わった.
莫大な石油代金を西側の銀行に預けた産油諸国は,世界の融資を膨張させ,その後,借り入れに頼った貧しい諸国の債務危機を誘発した.また,西側諸国は高インフレと高失業に襲われ,ケインズ主義や平等,産業国有化を捨てて,均衡財政や民営化を唱える右派が権力を握った.労働組合は賃金交渉の力を失い,サッチャーは鉱山労働者のストライキを打ちのめした.
以前から保守派のシンクタンクが唱えていたマネタリズムを,今や,財務大臣や中央銀行総裁が提唱するようになった.政治的に見ても,政府は労働組合を解体し,減税し,市場を自由化することに権力を用いた.クリントンのような中道左派は,政府が敵ではないことを強調したが,政策的にはレーガン以上に自由化を進めた.
1973年後の世界で,この合意は永遠に続くと思われている.それは,1971年にブレトン・ウッズの固定為替レートが破棄され,危機の前触れとなった際にも,ニクソンが「われわれは皆,今や,ケインジアンだ」と宣言したように.われわれは同様に世界が変化するのを見る.ベルリンの壁崩壊に際して,父のブッシュ元大統領は新しい世界秩序を唱えたが,1992年以来,金融危機が頻発し,労働組合に代わって企業の不正と強欲が注目されている.民営化された部門は債務に沈み,デフレの恐怖が高まっている.
三つの解釈が可能だ.@1973年と2003年とを比較することなど意味が無い.A創造的破壊によって,新しい技術条件に合った資本主義が再生されることを待っている.Bアルゼンチン,エンロン,ドット・コム・バブルの破局により,政治・経済のパラダイムはその寿命が尽きた.
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The Economist, September 27th 2003
Fixing Japan: Kill or cure?
(コメント) The Economistは日本の病名を新しく診断し直しました.政府,官僚,銀行,企業,労働市場,などが機能しないことで,デフレが生じてもそれから抜け出せない,という「ディスフレーションdys-flation」=「機能不全によるデフレ」です.
日銀と政府のどちらが悪いのか? デフレは,日銀さえ明確に宣言すれば,たちまち解消するものか? The Economistは,デフレを阻止する日銀の通貨政策が曖昧で,政府も銀行部門の不良債権処理に対して行動せず,財政刺激策を実際以上に誇張してきた,と考えます.要するに,輸血のための十分な血液を用意して,断固,手術に挑め,というのが,再選された小泉氏への忠告です.
East Asia’s oil: Your pipe or mine?
(コメント) シベリアからのパイプ・ライン争いは中国が勝った,と聞きましたが,ロシアは再び日本のルートに関心を示しているようです.
@費用は2倍かかる.A建設期間も長い.しかし,B販売市場を多様化できる.Cシベリア開発もできる.D資金調達が確か.E中国に独占力を与えない.
Brazil, Argentina and the IMF: Hard or Soft?
Economics focus: Into the valley of debt
(コメント) ブラジルは左派の大統領が金融引締めと財政緊縮策を推進し,労働者に耐乏生活を強いています.他方,アルゼンチンは外国債権者に債権を75%も放棄させ,IMFとも交渉して緊縮策の緩和に同意させました.だったら債務危機になった方が得か?
もちろん,GDPや失業率で見て,アルゼンチンの成功は政治的な見せかけです.ブラジルは投資家の信頼を維持し,緊縮財政を続けるでしょう.社会保障費を増加させることを通じて,耐乏生活を緩和するはずです.投資家がブラジルに投資しても大丈夫だ,と信じるまで,労働者が我慢できるように.
財政と対外債務との間には関係があるから,金利の国際水準や為替レートが新興国に強い影響を与える,とIMFも注目します.新興国は外貨建の短期債務に頼るべきではないのです.そこで,利回りをその国の成長率に連動させる債券を発行して,資金調達してはどうか,と提案しています.
Manufacturing and politics: The misery of manufacturing
(コメント) 政治家は製造業を好みます.ウォル・マートで中国製以外の商品を探すほうが難しい、というときに,アメリカの政治家たちは中国との貿易戦争を叫びます.しかし,投資は賃金格差によって決まるわけではなく,中国に投資している大企業は市場の開放を望んでいます.
中国と競争しても意味が無い,と日本の大企業は理解しています.むしろ,中国に生産拠点を移し,中国市場で販売することの方が好ましいでしょう.アメリカ製造業も,こうした理解に達するべきだ,と逆方向に進むブッシュ政権にThe Economistは注文します.