IPEの果樹園2003
今週のReview
10/6-10/11
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日本社会がシステムの変調に弱いのは,システムからの逸脱を抑制し,長期の目標変更にともなうルールの調整を,無秩序な戦争状態のように,極度に恐れるからではないでしょうか? 私たちは,今も,本格的な改革を待望し,同時に,それを恐れています.
それは小口の投資家の態度に似ています.アジア通貨危機でも,アルゼンチンでも,危機の回避を難しくした資本流出を担ったのは,最初は大口のヘッジ・ファンドや大統領の親類,顧問たちであり,最後は銀行に殺到した小口投資家だったでしょう.どちらが「危機の犯人」であり,どちらの方が罪深いか? という問題とは別に,システムを自分たちで調整するためには,その両方に対抗できなければなりません.
大口の投資家は単なるパニックや資本逃避に同調しないようです.「通りが血に染まるときこそ,投資の好機だ.」とばかりに,危機の直後にも現地の破綻した企業や資産家から土地や工場を買い集める,と言います.確かに,通貨危機の直後に最も強く求められたのは,破産法であり,(近代的な!)法律や裁判所の整備でした.そして,変動相場制と資本自由化,です.誰が何を求めているのか?
10年前なら「とんでも本」であったかもしれません.デヴィッドソンとリース=モッグの著作『大いなる代償』には,恐るべき予言的な見出しが並びます.「歪み始めた国境線・弱肉強食・破壊的暴力を抑制できるか・小さな国家は生き残れない・・・大英帝国と同じ運命・王者の怠惰・犯罪率・・・再び下落するドルと日本の試練・異常な不動産価格・驚くべき土地利用と税制の遅れ・・・宗教と民族が復活してくる・鍵を握るイスラム教・石油価格は再び下落するか・・・暴力・犯罪・テロが大都市を襲う・・・忍び寄るデフレ・恐慌を認めたくない政府・・・」すでにソ連崩壊や情報産業のもたらす新しい国際秩序を摸索する試みは,10年以上前から,これほど国際投資家の不安を駆り立てていたのです.
もしシステムの危機を,「市場型」の自由放任=弱肉強食で行うことを日本社会がそれほど強く忌避するなら,日本人は明確にそれ以外の手段を摸索すべきでしょう.私の考えでは,それに必要な要素は,具体的な改革目標,将来への見通し,ショックへの緩衝装置,改革の正義・正当性を訴える真摯な姿勢,指導者たちへの幅広い信頼,事後的な責任と迅速なチェックの実行,などです.
システムを担い,改革を指導しなければならないような人が,たとえば新しい日本政府の首相が,この雑文を読むとは思いませんが,私の希望を述べたいと思います.
1. 住所・職業・階層など,人の移動を活発にする.そのためには教育機関を開放し,職場を開放し,土地・住宅を安価にしてください.
2. 組織横断的・越境的な特命作業班に,期限を決めて強制的に調査させ,問題点・評価・改革案を報告させる.
3. 半分だけの転職・自立開業を法制化し,積極的に促進する.
4. 地域や職種などで大きく異なる,実質的所得格差を抑制する.給与や社会保険の体系を,移動が不利にならないよう,見直してください.
5. 地域の共有資産を増やして,相互の利益・協力を促す.
6. 過去の処理や罰則ではなく,将来に向けた成功報酬によって,現在の改革を促進する.
7. 勤労精神,独立精神,革新性を重視する,文化革命を目指す.
より柔軟で,危機に強い,革新を取り込むメカニズムも備えた,そして異なった意見や生き方を許容し,人々の交流を促せるような社会システム.それを支える民主的な文化の再興.それらを目指して,次の指導者たちに活発に討論してほしいです.
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, CD:China Daily, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune
NYT September 24, 2003
Strong Dollar, Weak Dollar: Anyone Have a Scorecard?
By EDMUND L. ANDREWS
ST SEPT 25, 2003 THU
Currencies at risk
NYT September 25, 2003
Doubts Expressed as Bush Presses Asia on Currency
By EDMUND L. ANDREWS
(コメント) アメリカ政府は明確にドル安を促す政策に転換しました.しかし,それが成功するためには,ドル安を嫌って大規模にドル買い介入を続けるアジア諸国,特に日本と中国の中央銀行を説得しなければなりません.あるいは,一方的に行動する? しかし,それは何であれ,アメリカにとって危険すぎるでしょう.
中国が貿易と雇用面でアメリカのスケープ・ゴートになる一方で,日本はG7の中で孤立しています.アメリカの保護主義を回避し,日本の景気回復を実現するために,アジア諸国で行えることは無いでしょうか? それはもちろん,アジア域内の貿易を拡大し,中国やアジア諸国の通貨不安を解消する金融支援体制の構築に,日本が本気で取り組むことです.すなわち,自国も含めた金融改革に明確な行動を取り,そのための支援に基金を設けることでしょう.アメリカが反対したアジア通貨基金ではないか? もちろん.しかし,アメリカは今なら,それに反対しないでしょう.そして,もちろん中国も.
国際収支不均衡と為替レートによる調整を進めるには,できる限り黒字国が景気刺激策を取って成長を加速することが望ましいのは言うまでもありません.それは日本や中国を含むアジア諸国なのです.そして,彼らが成長を加速できない理由は,国内的な問題です.アメリカやヨーロッパがアジアに改革を加速するよう求めるのは正しいわけです.もし成長を加速するためには,当面,為替レートを安定させることが必要であると言うのなら,資本規制や管理貿易も合意されるでしょう.外圧や国際合意を組み合わせて,国内改革を推進するのは,かつてEMUを実現したヨーロッパの経験を思わせます.
しかし,スノー財務長官の人民元への切上げ圧力には批判が多いのです.まず,もし日本や中国が財務省証券の購入を止めて売却したら,アメリカの金利は上昇します.そして,中国が変動相場制を取ることには,大統領経済諮問委員会の前委員長G.ハバードも明確に反対します.中国の銀行制度が破綻する危険が高いからです.モルガン・スタンレーのS.ローチも,為替レートの変動が中国にもアメリカにも,世界にも,有害である,と警告します.
アメリカ政府は,もし金融・通貨外交が上手く行かなければ,懲罰的な関税を課すかもしれません.なるほど,切上げを拒む黒字国に,ニクソン政権は輸入課徴金を取りました.あるいは日本に不公正貿易を罰する反ダンピング提訴や懲罰的関税を課しました.何よりも,多くの経済学者は,ブッシュ大統領が再選をもぎ取る大なたを振ることを怖れています.
FT September 25 2003
Unrivalled but vulnerable
By Philip Stephens
万華鏡のように目まぐるしく移り変わる景色は,数ヶ月前に語られていた新世界秩序をどこかに吹き飛ばした.アメリカの比類ない軍事力は海と陸を制圧し,空を覆ってバクダッドになだれ込んだが,そのイメージも粉砕された.地政学的な景色は,アメリカのパワーの限界を先鋭に示す.
すべての軍事的なハードウェアは同じようにそこにあるのに.だからワシントンのタカ派はアメリカの富と戦略が世界を好きなように作り変えると主張した.しかし,パックス・アメリカーナはもはや何物も生み出せない.
その理由はイラクの混乱だけでは無い.チェイニーやラムズフェルドの予測は外れ,ペンタゴンはハイテク兵器のオモチャと戯れ,死を厭わない都市ゲリラに怯える.しかし,重要なことは,ブッシュ大統領の大きな枠組みが崩れたことだ.1年前に,ブッシュ氏は国連で唯一の超大国として振る舞い,安保理にメッセージを送った.「やっても,やらなくても,われわれに味方しても,反対しても,そんなことはどうでも良い.」アメリカは単独でも行動するし,それができる.
今度,ニュー・ヨークに戻ったブッシュ氏はアメリカの優位をそれほど明確に示せなかった.イラクの敗北が示したのは,世界が再び危険な複雑さに落ち込んだことだった.アメリカの軍事力が示した堅固な明確さは失われ,イラクがさまざまな脅威の中でもごく限られた処理し易い一つであるという現実が明確になった.昨年,ブッシュ氏は国連に挑戦した.今年,彼はアメリカの負担を軽減して欲しいと頼む.
超大国は今も健在だ.しかし,帝国がそうであったように,その展開自体が弱点をもたらす.海外では,帝国が余りにも多くの辺境を防衛し,諸力に拮抗する.他方,国内では,そのような遠くの見知らぬ土地で,血を流し,税金を消尽することに,有権者がますます反発する.ワシントンは思い出すべきだ.安全保障とは,単に,戦場で敵を撃破する能力によって決まるのではない,ということを.
アメリカ政府が9・11以後に犯した失敗の一つは,(戦場で)無敵であることを,(政治的に)不死身であると誤解したことだ.またもう一つの失敗は,アメリカの特異な役目をどこにでも遍在する不可欠の権力である,と誤解したことだ.
戦争は,ブッシュ氏を強めるよりも,むしろ力を奪った.アメリカは友好国を減らし,他国からの善意を失った.イスラエルのシャロン首相でさえ,ブッシュ氏の和平案に,あからさまな皮肉を言った.ピョンヤン,テヘラン,ダマスカスで,どこも同じような皮肉に満ちている.バクダッドを攻めたことで,彼らは,アメリカ大統領がよそに向ける政治的・軍事的な資本を消耗したと判断するだろう.ブッシュ氏は選挙まで新しい戦争を行えない,と.
イランと北朝鮮の核開発は,アメリカの新しい安全保障である先制攻撃原則の限界を示した.明らかに攻撃の対象となるはずの両国が,アメリカの能力の限界によって黙認されている.むしろ,アメリカの安全保障戦略から追放されたはずの言葉,「封じ込め」,「緊張緩和」,「外交」といった言葉がワシントンで語られている.こうしたアプローチでは,アメリカは同盟諸国の協力を必要とする.ヨーロッパが取り込もうとするイランを封じ込めることはできず,アジアの地域大国を無視して北朝鮮に制裁を加えることはできない.
もちろん,諸外国はアメリカの苦境を笑っているだろう.超大国も格落ちだ.結局,半世紀も西側をまとめてきた国際安全保障の枠組みを破壊したのはブッシュ氏だ.だから,シラク大統領が,正当性の無い戦争だ,と繰り返しわれわれを非難したことも許すべきだろう.
だが問題は,アメリカを脅かす者は,われわれ全てを脅かす,ということだ.もしイランが核弾頭を弾道ミサイルに装填すれば,ヨーロッパは深刻な危険に直面する.朝鮮半島で新しい戦争が始まれば,アメリカにとってと同様に,結局,その他の世界にも破局をもたらす.もちろん,次のアル・カイーダの標的は,ボストンやシカゴでは無く,ローマやパリ,ロンドンであるかもしれない.
もしアメリカが世界の相互依存から逃げ出せないとしたら,ヨーロッパにもできないのだ.そしてアメリカは今も不可欠の超大国である.世界の扮装地域を見渡せば,中東,カシミールなど,ワシントンだけがそれを平和に導く軍事力を持っている.もし万華鏡が一方主義の次に孤立主義のアメリカを映すなら,けたたましい悲鳴を上げるのは間違いなくヨーロッパである.
NYT September 25, 2003
Connect the Dots
By THOMAS L. FRIEDMAN
先週,アメリカはテロとの戦争で手痛いボディー・ブローを食らった.バクダッドでも,カブールでもなく,カンクンの砂浜で.
カンクンは世界の貿易自由化を話し合う最新の舞台であったが,アメリカ,EU,日本は自国の農民に与える補助金を削ることを拒み,綿花や農産物の価格が発展途上諸国の競争できないような低い価格になったため,決裂した.これが悲劇であるのは,貧しい国が成長する唯一の手段は食糧や繊維製品を輸出することだからである.世界銀行のエコノミストたちは,カンクンの合意が実現していたら,2015年までに世界の所得は5000億ドル増え,その60%以上が貧しい諸国で生じ,1億4400万人が貧困から脱出できただろう,という.
もちろん,貧困がテロを生むのではないが,貧困はテロ組織を育てる.なぜなら貧困が屈辱を,挫折をもたらし,多くの人々を伝統的な農村から疎外された都市の貧民へと変える.それらはテロリストを生む条件である.
しかし,ブッシュ政権の誰一人として,カンクンでの決定がテロとの戦争に影響するとは考えなかった,と私は確信する.アメリカはカンクンで農業補助金や繊維製品への関税を譲歩した方が,パキスタンやエジプトのような貧しい国が生活水準を改善し,尊厳を取り戻し,アメリカ製品の良き顧客になったはずだ.しかし,それは政治にとって都合が悪い.アメリカの農家に,彼らが連邦政府から得ているお金(2万5000の農家に年30億ドル)を取り上げ,外国の農家が作った農産物が流入することを意味するからです.
テロに対するブッシュの戦争について私が知っていることは,犠牲とは予備役を含む軍隊について言うだけで,その以外のわれわれにとっては,それが大砲かバターか,という選択の問題だ,ということだ.警察や軍隊の側面について,ヴァイキングの戦士のように振舞うブッシュ支持者たちも,政治的・経済的な犠牲については,おどおどとした弱虫だ.だからテロとの戦争は一面的で,ペンタゴン主導なのだ.それはブッシュ再選までの彼らの道楽に過ぎない.
もしアメリカ人の門番の子供がイラクで死にに行くことでわれわれが守られているなら,アメリカの綿花農家は約100万ドルの補助金を諦めてわれわれを守ることができる.イスラム教徒の,テロリストを生み出す諸国にわれわれの市場を開放し,世界資本主義のもたらす相互依存の網の目により深く取り込むことで,究極的には民主主義に取り込める」と,Robert Wrightは言う.
アメリカとヨーロッパは,たとえ発展途上諸国が直ちに互恵的な行動を取れなくても,一方的に農業補助金を削減するべきだ,とClyde Prestowitzや通商の専門家たちは言う.「それは発展途上国の経済を刺激する上で熱望されるだけでなく,カンクンの失敗が彼らの希望であった,貧困からの脱出を強く脅かすから.」
もしブッシュの顧問たちがそれらの点を結ぶなら,それはテロとの戦争にとってまずいことになる,とPrestowitzは言う.自由貿易を説教しながら,補助金は削らない.パキスタンの農民たちはさらに貧しくなる.そして議会はガソリンを消耗するアメリカ車を助け,サウジ・アラビアからの石油輸入を増やす.するとサウジ家はもっと多くのドルを過激な信仰集団に与え,パキスタンに宗教学校を建設する.パキスタンの農民は農業で食っていけず,息子たちを授業料も取らないし,昼食を食べさせてくれる宗教学校に通わせる.彼らはコーランだけを読んで育ち,近代的な思考を全く受け入れず,アメリカこそ全ての問題の張本人である,と確信する.
農民たちの息子の一人がアル・カイダに入り,アフガニスタンでアメリカ軍の特殊部隊に殺された.われわれは,これをテロとの戦争における勝利と呼ぶ.何と愚かな!
WP Thursday, September 25, 2003
Beyond 'Nation-Building'
By Donald H. Rumsfeld
LAT September 26, 2003
Vietnam's Shadow Lies Across Iraq
By Stanley Karnow
WP Thursday, September 25, 2003
Serving Souffle at the U.N.
By Richard Cohen
FT September 26 2003
Guess who's coming to dinner?
By Gillian Tett
NYT September 28, 2003
On His Shoulders, a Graying Japan
By KEN BELSON
ST SEPT 29, 2003 MON
Japan's protectionism a recipe for isolation
By YOICHI FUNABASHI
Sept. 26 (Bloomberg)
A Big Trade Deficit? Consider the Alternative
Caroline Baum
(コメント) アメリカの経常収支赤字は「持続不可能」だと経済学者は警告し続けてきました.そして,狼が来ると村人を騙した少年のように,ドル暴落が来るぞ,と.
しかし,なぜ「持続不可能」なことがこれほど長く持続してきたのか? 結局,アメリカには豊富な投資機会があったし,日本人は国内に有望な投資機会を見出せないのではないか? では,尋ねてみよう.アメリカと日本のどちらが良い暮らしを送れたか?
人民元をドルに固定している中国がスケープ・ゴートになっています.しかし,これほど大きな賃金格差がある以上,多国籍企業が生産拠点として中国を利用することには合理的理由があるのです.賃金格差を為替レートだけで補正しようと政治的に試みることは,むしろ破局に至るだろう,と批判されます.
アメリカが不況になれば,世界は同時不況になる心配があります.誰もアメリカの不況を望みません.また,経常収支赤字が悪い,ドル安が必要だ,という意見は,アメリカの景気が過熱している,ということを前提します.しかし,その他の世界の成長率が低すぎるのではないか? あるいは,アメリカが貯蓄せずに,借入によって消費し続けているから,世界の景気も維持されているのでは? アメリカンの貯蓄が回復し,それが不況を意味しないように,外国が成長する中で輸入を減らしたい,というのは当然です.
外国からアメリカへの投資は,かつて直接投資や株式の購入でした.今や,財政赤字を賄っています.それゆえ,それが正しい投資かどうか,分からなくなってきます.
WP Friday, September 26, 2003
End the Steel Tariffs
FT September 28 2003
The steel industry must now lead by example
By Guy Dolle
NYT September 28, 2003
From the Highlands to Your Grocer
WP Monday, September 29, 2003
Cut the Farm Subsidies
By Clyde Prestowitz
WP Friday, September 26, 2003
Please, Lend Us Less
By Robert J. Samuelson
アメリカ人は,政府の赤字も,イラク統治の費用も,外国人に支払ってもらえる.こんなに楽しいことは無い? 当面は.しかし,アメリカ財務省の証券を買っている民間投資家も,外国の中央銀行も,その理由は聞くのは楽しいことでは無い.
まず民間投資家は,特に,日本とヨーロッパの自国経済が停滞している.以前はアメリカの株式市場に投資していたが,バブルが崩壊して,今は国債に逃避している.問題は,彼らの経済が弱いと,アメリカの経常収支は赤字が続くことだ.
外国の中央銀行は,貿易黒字を通貨の増価によって調整することを好まず,為替市場に介入して吸収している.それゆえ,貿易黒字が続けば,ますます外貨準備(その多くがアメリカの財務省証券)が増える.それはアメリカ国内の雇用を損なうから,スノー財務長官も労働組合のアジア通貨切上げ要求に同調した.
アメリカに投資するのは,彼らの利己的な理由である.そして,アメリカにも,それを歓迎する理由と,反発する理由がある.こうした矛盾した要求は,アメリカ・ドルが特殊な役割を担っていた政で,これまで顕在化しなかった.貿易でも投資でも,国際的な取引にはドルが常に世界中で需要され,アメリカは赤字でも問題なく支払うことができた.アメリカが完全雇用であれば,ドル高はインフレ抑制に役立った.その結果として,アメリカには膨大な対外債務が残った.
それは,世界金融の歪んだ現実として説明できる以上に進んだ.安定性が脅かされている.一方では,アメリカは生産や雇用を失うほど輸入に依存してしまった.それは景気回復を脅かす.他方では,アメリカの株式や社債,国債への信頼が傷つくだろう.すると資本は流出し,金融危機になる.それは不可避ではないが,起こりうる.
アメリカ人は外国からの借入を減らし,外国はアメリカに頼って成長を維持することを止めるべきだ.
FT September 28 2003
The key to rebuilding Iraq
By Amity Shlaes
イラクの再建に必要なものは,援助では無い.イラクには石油がある.むしろ,石油を掘り出すために投資を受け入れ,それに関連して自由な取引を行えば経済も復興する.重要なのは,指導者と法律であって,外国からの援助では無い.
敗戦後,ドイツが財源に困ったとき,ルードヴィッヒ・エアハルトは,自由な取引と外国からの投資を保証する法律を定めた.占領軍と敗戦国民とは対立していたが,この自由主義的な解決策は,結果として賃金や物価への統制を廃止し,効率の税金を不要にした.ワシントンからの金ではなく,自由主義的な法律がドイツのGDPを10年間で3倍にした.
統治評議会のチャラビ議長も,MITやシカゴ大学に学んだ自由主義者であり,経済に執着する.彼は,イラク国民が必要とするのは,破綻国家を任されたカルザイではなく,アデナウアーやエアハルトである,と知っている.新しい法律ができたが,それは再建のための課徴金を取る点で投資を損なうが,外国銀行に視点を認める点で投資を促す.課税は,香港やロシアのように,単一課税率を採用した.
石油を採掘して販売するには,欧米の石油資本に競売するのが最善であろう.しかし,それは植民主義として,イラク国民の反感を買う.こうして,石油の富はイラクの自由主義を妨げているが,障害は克服できる.援助ではなく,指導者と法律があれば.
CD 2003-09-27 07:59:51
Sorting out China's stock market
BIAN YI
LAT September 28, 2003
Nukes Endanger Asia's Future
By Joseph Cirincione and Husain Haqqani
(コメント) 核軍拡の連鎖反応が起きたら,アジアは手に負えなくなる,と憂慮されています.アメリカ政府は早急に手を打つべきだ,とCirincione and Haqqaniは主張します.@核危機に備えて外交関係を修復するため,イラクに関する意見対立を収拾せよ.Aイラン政府との対話を重視し,核武装しないイランの方が,将来の生活を大きく改善できることを示せ.Bパキスタンを,テロとの戦争の同盟国としてだけでなく,核拡散体制に参加させよ.
FT September 29 2003
Towards a superior stability pact
By Mickey Levy
FT October 1 2003
EU cohesion funds
BG, 9/29/2003
Talk peace in Chechnya
By Ilyas Akhmadov
CD 2003-09-29 07:57:19
EU-style economy for E. Asia?
XU BINGLAN, China Daily staff
(コメント) 中国の世論にも,アジアの経済統合をEUのように実現するべきだ,という意見が強まっているようです.人民元への切上げ圧力は,地域内の為替レートの調整と金融支援を同時に進める理由を与えたようです.地域通貨への明確な移行過程として,金融制度の改革やマクロ政策のサーベイランスも指摘されています.現在の中央銀行間スワップ網から,地域債券市場の育成を目指す案が浮上しています.それはバスケット通貨を導入し,域内の為替レート安定化と調整の基準となるでしょう.民間投資が参加するためには,投資家と企業を結ぶ情報開示や債券の格付け制度も,地域内で整備されるでしょう.こうしてドルとの関係で資本移動が不安定化することから開放され,域内の貿易と投資が増大して成長率を高める,というEUの理想に近付くのです.
WP Monday, September 29, 2003
Negotiating Israel's Fence
FT October 2 2003
Sharon's wall
FT September 30 2003
Martin Wolf: A very dangerous game
By Martin Wolf
(コメント) アメリカの行動に「陰謀説」を唱えるのは日本人だけでは無いようです.
アメリカは経常収支の赤字をこれ以上続けられないと分かると,まず,黒字国の金融市場を自由化させます.そしてアメリカへの投資を促して経常収支の赤字は資本収支の黒字で賄えるようにします.次に,資本流入も維持できないと分かると,貿易赤字を理由に黒字国の通貨を切上げさせます.あるいは,政府によって「過度に安くされた」黒字国の通貨を変動レート制に移行させ,それによって「市場の力」で増価させます.こうして,市場のドル安を利用して債務の一部を帳消しにしてしまうのです.もちろん,余りに急激なドル安が進まないように国際協調を唱えることは忘れません.
いつまで続けられるか? もちろん,何度もできることじゃない.とすると,@調整の先送り,A突然の市場による調整,B円滑な調整過程への協力,を比較しなければなりません.@は,アメリカの消費者や政府が貯蓄を増やさない以上,実現しないでしょう.また,Aは日本やヨーロッパ,アメリカの景気回復を損ないます.つまり,WolfはG7の声明に成功の見込みは無い,と言うのです.
Bの意味は,アメリカと日欧ではなく,黒字のアジア諸国(日本は除く)です.中国を含めてアジア諸国は協調してアメリカ・ドルに対して通貨を増価させます.そして,同時に景気刺激策を取って,国内需要を大幅に増やすのです.
IHT Wednesday, October 1, 2003
Two cheers for Koizumi
Roger W. Buckley
NYT September 30, 2003
Who's Sordid Now?
By PAUL KRUGMAN
(コメント) なぜイラクの占領は失敗し,長期化するのか? それはブッシュ政権の利益供与が親密な企業にいつまでも続けられるからである.たとえ,イラク国民の生活が悪化し,テロが増え,アメリカの兵士が毎日のように死傷し,アメリカの財政赤字が膨らんでも.政府の関係者は莫大な利益を得ている.携帯電話でも,電気事業でも.
KRUGMANは,ブッシュ氏をトルーマン大統領にたとえ,イラク再建をマーシャル・プランと同じように宣伝する支持者たちを非難します.マーシャル・プランはアメリカ政府の利益に左右されず,ヨーロッパ人が管理しました.ブッシュ政権ははるかに「卑しいsordid」人々だ,と.
WP Tuesday, September 30, 2003
Gone With Globalization
By E.J. Dionne Jr.
ST OCT 2, 2003 THU
US losing the war of ideas in Muslim world
ARNAB NEIL SENGUPTA
FT October 2 2003
The next culture wars
By Eli Noam
FT October 2 2003
A force to lift the curse of natural resources
By Deepak Lal
世界銀行が最近発表した潜在的な破綻国家のリストは,イスラム圏とアフリカに多い.ほとんど全てが豊富な天然資源を持つ.恵まれた富が破滅をもたらす.
その理由は,主に,資源からの地代を支配して私物化する強い動機が働くことだ.アフリカの内戦,中東の内戦,カダフィ,フセイン,テロ組織に資金援助するイスラムの宗教組織,大量破壊兵器を開発し,過激な思想を輸出する.これをどうすれば良いのか?
答えは,資源からの地代を非政治化することだ.その一つの方法は,アラスカで行われたように,税制を通じて,これを市民に配分する.しかし,国家も機能しない地域ではできない.国連による,石油と食糧との交換プログラム,を国際的に拡張することは興味深い.しかし,イラク危機以後,アメリカは国連を信用できなくなった.アメリカが行えば,イラクのナショナリストを刺激する.
他にも二つの国際機関がある.世銀とIMFだ.私は,両機関とも,設立の趣旨からすれば廃止すべきだ,と主張した.しかし,国際機関は死なず,新しい役割を得る.それらは,国連よりも,はるかに専門的な官僚機構であり,ポピュリスト的な圧力に従わない.その荷重投票システムによるなら,アメリカは受け入れるだろう.すなわち,両者が合併して,国際天然資源基金(INRF)を創設することが望ましい.
その目的は破綻国家の天然資源から生じる地代を保管することだ.その勘定は資源が属する国の国民だけに利用できる.INRFが現地政府と相談して,承認を与えた目的にのみ,利用できる.それは主に,社会・経済インフラの整備である.こうした計画は国際入札に懸け,その手続きを世界銀行が監視する.こうして,破綻国家の地代は非政治化される.
どのようにして破壊者が鉱山や油井を破壊し,地代を失わせることに,対抗できるか? こうした問題では,帝国や連合諸国の軍事力が必要になる.戦間期の中国では,外国企業に領土を租借したが,それに倣ってINRFへの忠誠を条件に,企業に自衛の軍隊を認めるべきだ.しかし,たとえこのような民営化計画でも,鉱山の制圧を試みる盗賊に対しては帝国の「戦艦とグルカ兵」が必要だろう.
時が経てば,資源からの地代は適切に活用されて半径をもたらし,政治制度も発展する.INRFは地代を現地政府に移管する.アメリカも,イラクでこうした仕組みを作らなければ,国民のために使われるべき地代が盗賊たちに奪われ,むしろ国民の抑圧に利用される.さらには,それが世界的なテロの資金となり,無秩序の源泉となる.
Oct. 2 (Bloomberg)
Would Asia Un-Pegging Hurt U.S.?
William Pesek Jr.
(コメント) アメリカ政府にとって正しい政策とは,低金利と増税である.しかし,選挙が終わるまでは,人民元やアジアを批判して,ドル暴落や金利急騰を引き起こす「火遊び」に耽る.
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The Economist, September 20th 2003
The Doha round: The WTO under fire
(コメント) 会議を決裂させたことについて,フィリピンの代表は意気盛んでした.タンザニアの代表は「とても幸せだ」と答えました.しかし,「私は本当に失望した.・・・これはわれわれ貧しい諸国が自ら招いた最悪の結果だ」と答えて,バングラデシュの通商大臣は涙を流しました.
確かに,シンガポール・イシューは喉に刺さった骨でした.政治スローガンが入り乱れました.しかし,主要な問題は農産物の市場自由化です.そこには,アメリカやヨーロッパ,日本の政治的な事情がいたるところに反映されました.アフリカの代表たちは激怒しました.むしろ韓国が,シンガポール・イシューを交渉に加える点で決して譲りませんでした.中国の台頭を意識したからでしょう.
交渉決裂は,会議を犯人探しと非難合戦に変えました.The Economistの論点はいつに無く不明瞭です.交渉メカニズムの改善を求めることこそ主要な突破口かもしれません.そして,もちろん主要国が農産物市場を自由化し,貧しい諸国に貿易の機会を与えるべきでした.こうした交渉に向かわなかったのは,世界が成長のエンジンを失い,通貨戦争を予感させていたからでしょう.ゼーリックの強気の姿勢にもかかわらず,WTOが死滅するという重大な危険は迫っているようです.
Flying on one engine: A survey of the world economy
(コメント) アメリカという単独のエンジンで飛び続けたせいで,墜落の衝撃はますます強められるはずです.
この特集記事は,斬新な論理展開よりも,むしろ最近の論調を整理した点で優れたものです.成長率と為替レートによる世界経済の不均衡を支える資本市場には不安定な要素があり,それにもかかわらず現代の国際金融には国際的に合意された調整ルールがありません.アメリカが為替レートを意図的に利用し始めた以上,世界経済の危機回避には剥き出しの国際政治が登場します.
The Economistは,同じような例を求めて,1930年代や,レーガンの時代を,今と比較します.あるいは通貨危機以後のアジア経済も,戦後復興のドイツに資本流入が続いたような状態に近いかもしれません.しかし記事は,そのような類推が,現実には今後の調整問題を予測する助けにはならない,と考えます.
問題は,アメリカの対外債務の大きさと,ヨーロッパや日本の成長力です.政策を調整すべき関係国は増加し,金融政策が完全に独立してしまった上に,インフレよりもデフレが問題になっています.どのような微妙な国際協調介入も,相互に外国で保有する累積した民間ストックの転換と金融市場のパニックを予想させます.
ドイツや日本が,アメリカに代わって世界経済の成長のエンジンとなれば,調整の問題は容易になったでしょう.ところが,むしろ国内の政治問題が外国に輸出されることで,通貨・貿易戦争が過熱した1930年代を再現する危険があります.あるいは,急速に台頭する工業力を得た中国とアジア諸国が,為替レートを調整しつつ,世界の成長と自由貿易体制を維持できれば良いはずです.実際,The Economistは資本逃避を懸念して中国の変動制に反対し,人民元をバスケット・ペッグにすることを提案します.しかし,それはアルゼンチンのカレンシー・ボードが崩壊する前にカヴァロが実行した案でした.資本逃避が起きてからでは遅すぎたわけです.
中国との貿易戦争を叫ぶのはアメリカの労働組合であり,再選を目指す大統領です.アメリカは中国とも,アジアとも,ヨーロッパとも,発展途上諸国とも,国内政治の犠牲にする気でしょう.すべては再選されてから修復できるからです.メキシコでは6年毎に大統領が代わり,危機が起きると言いますが,世界も同じような政治的麻痺に向かっています.
The Economistは三つのシナリオを示します.@ドル暴落と金融市場パニック.Aアメリカ議会の保護主義,WTO離脱.Bアメリカの財政赤字削減と低成長,ヨーロッパ,中国,日本の上昇.最後のシナリオ,すなわち単発エンジン世界の改良だけが,破局的な調整を回避できます.しかし,その見通しは暗いようです.アメリカの不均衡は続き,EU・日本は改革に手間取り,アジアは調整を拒むでしょう.世界はアメリカに過大な安全保障の負担を頼ったまま,アメリカもまた財政赤字と保護主義という短期的な改善策に向かう怖れが強いのです.世界は,もっと多くの優れた政治指導者と,優れた国際調整メカニズムを必要としています.