IPEの果樹園2003

今週のReview

9/29-10/4

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天安門で焼身自殺を図った農民と,ニューヨーク証券取引所の辞任した会長とを,その所得や資産で比べれば,彼らの存在がどれほどかけ離れたものであるかに驚くでしょう.それを想えば,これが同じシステムの中に生きる,同じ人間の可能性として,とても公平な姿とは思えないのです.

相互依存関係がこれほど複雑で,世界的に拡大し,人々の自由も拡大すれば,政府が何かを決定したとしても,その結果まで指定することはできません.それでも政府は,人々の集団的な願望を煽動し,世界を思い通りに動かすために対立し,戦争が繰り返され,市場は政治的な意図で操作され続けます.

証券市場でも外国為替市場でも,それが担う社会的な機能と,それによって利益を受ける差別的な集団や個人とは,本来,異質な存在です.かつて,羽仁五郎が理想的に描いたポリスの政治指導者たちは,自分の威信に懸けて集合的な運命を切り開くために邁進し,私的な利益を軽蔑しました.あるいは,中国の大衆的な歴史小説には,腐敗した政治家や官僚に逆らって叛乱を起こし,領地を築く英雄たちが描かれます.

公正な分配をめぐる政治的機関と,効率的な資源配分や円滑な調整と競争を促進する市場の監督機関とが,明確に分離されるでしょう.なぜそれらが一体化するのか,と言えば,それは権力が市場に依拠するからです.軍事力を廃止し,市場の支配を廃止できるような,社会に関する深い理解が,戦争や不況のたびに蓄積されていることを願いたいです.

もし200年後に,新しいシステムの下で,人々がもっと小さな集団の中で平和に暮らし,新しい知識や情報を共有し合っているとしたら,そして集団間を自由に移動することで,同じような所得の人々が,厳しい開拓地の自由も,証券取引所の緊張や責任も経験できるとしたら,それは私も住んでみたい,もう少し望ましい未来です.

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秋学期が始まりました.残念ながら,果樹園を維持する時間がありません.実際,今週のReviewは,要約できなかった記事を列挙しただけの部分も載せています.関心を持たれた方は,直接,記事にあたってください.

こんな広告を出そうか,とも考えました.

「もしこのホーム・ページを読んで下さっている方の中で,英文記事の要約に協力できる・参加してみたいと思う方がいたら,果樹園の存続に協力していただけないでしょうか?」

運営の原則を考えました.@協力の自発性,A匿名性,B著作権,C募集と集約化の手順,などです.一人で続けるには,限界があります.

しかし,どのようにして要約のスタイルや質をそろえるか? という問題で立ち止まったまま,Reviewの改革案を諦めました.どのような制度にも,発言と退出のルールが必要です.それは有志が集まれば,将来,話し合うことにしましょう.

おそらく果樹園は荒れ放題… 春まで,お待ちください.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, CD:China Daily, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune


FT September 18 2003

Why the world needs its Bank

By Nicholas Stern

(コメント) 世界銀行の経済顧問は,当然,そのイデオロギーを表現する使命を担っています.

現代の経済学を意識して,Stern氏は,世界銀行が改革をすすめ,新しい世界経済の枠組みを構築する触媒的な役割を果たせると主張します.特に,世界銀行は積極的に民間組織と貧しい国との連携や仲介を果たし,独立した審査機関によって世銀融資対象のプロジェクトがチェックされることを受け入れました.すなわち,透明性を高め,貧困解消のために現地から提案されたプロジェクトを融資や他の民間取引に結びつけることで,大きな効果を発揮するのです.

Stern氏が示すもう一つの論点は,経済学の潮流に抗して,ケインズを想起することです.1960年代にはGDPの0.5%であった援助額が0.2%へと低下したことを指摘し,貧困救済に対する富者の道義的義務を忘れた現代の富裕諸国を非難します.同じ人間として,幼い子ども達を飢餓から救い,学校へ通えるようにしてやる義務がある,と.

それは,人間性としてだけでなく,貧困,武力衝突,テロ,環境悪化,疫病,麻薬によって,ますます緊密に統合化した世界が危険にさらされていることを確認するに至った9・11以後の私達にとって,さらに切実な課題です.世界銀行は,協力すれば,こうした問題を解決できる人類の力を,1944年にケインズが示したように,再び示すべきだ,と考えます.


ST SEPT 19, 2003 FRI

Why Cancun couldn't

By Eddie Lee

FT September 21 2003

America will not wait

By Robert B. Zoellick

FT September 23 2003

The abominable no-men

By Martin Wolf

IHT Wednesday, September 24, 2003

China's pivotal position for the world economy

Philip Bowring

(コメント) Leeの指摘は正しいと思います.自由貿易は,互いに価格差が大きいほど利益も大きいでしょう.例えば,このドーハ・ラウンドでは農産物の自由化が主要な議題であり,裕福な諸国が補助金を削って貧しい諸国に市場を開放するはずでした.カンクンにおける交渉決裂は,こうした利益を失った貧しい農民達にとって最も深刻な後退であったはずです.

しかし,ますます雇用の失われる景気回復を意識する裕福な諸国が,自国市場の開放によって雇用をさらに失うことを望むわけが無いのです.自由貿易は,それにともなう「痛み」が問題です.農民が失業することを受け入れる交渉など,最初からできない事情にあったわけです.

交渉決裂は筋書き通りだったのでしょうか? 裕福な諸国は,シンガポール・イシュー,を持ち出し,発展途上諸国の政府が競争や投資を選択する権利を規制する国際ルールを求めました.それは,貿易交渉の主題としてふさわしかったでしょうか? 他方,発展途上諸国は豊かな国が移民労働者を合法的に受け入れるルールを求めました.もちろん彼らが受け入れるはずはありません.世界が失業と硬直性に苦悩している時期に,貿易交渉を包括的に行うことは,指導的な諸国の政治的圧力や譲歩も推進力とはならない国際会議に,それぞれが崩壊の舞台を準備していたわけです.

アメリカの通商代表Zoellickは,貿易自由化が多くの発展途上諸国にとって豊かになるチャンスを意味するにもかかわらず,それが失敗したのは政治的な歪曲があったからだ,と憤慨します.貿易交渉によって貧しい諸国は明らかに医薬品を安価に入手できたのであり,豊かな国の農産物市場が開放される道筋を明確にすることができたはずです.交渉において,期限と範囲を定めて,相互に譲歩することから利益を得ようとするのは当然の手続です.その全てを拒むなら,決裂するしかないのです.

実際の会議を支配したのは,豊かな国やアメリカを非難する政治的煽動だった,とZoellickは考えます.反対派は発展途上国と開発諸国とを結ぶアウト・ソーシングや国際ビジネスを非難し,開放や透明性を高めて因習的支配や汚職を撲滅することにもつながる,この会議そのものを否定しようとしました.最後になって発展途上諸国の代表が利益を失うことに気付いたときには,もはや手遅れだったのです.

反対の中心となったインドやブラジルが自ら保護主義に大きく依存していることを見ても,その間違った主張は確認できます.他方,一緒に会議を拒否した小国は,二国間の交渉で大国から得られる特別な利益を失いたくなかったわけです.しかし,こうした二国間交渉は管理貿易を強め,自由化を妨げて,恒久的な依存体制にしてしまうでしょう.あるいは,アフリカ諸国は綿花への補助金を反対のシンボルにしてしまいました.アメリカ政府は綿花への自国の補助金を削ることもできました.しかし,それは交渉がヨーロッパや中国の綿花補助金も取り上げ,また他の品目についても互いに譲歩する場合に,可能な選択肢になったのです.綿花だけが反対理由として注目され,アメリカが非難される中で,単独に譲歩することなどあり得ない,と断言します.

余りに多くの国が,WTOを政治的に抵抗するためのフォーラムに変えてしまったようです.カンクンで示された対立軸とは,交渉できる “can do” と考えるグループと,交渉しない “won’t do” と主張するグループとの対立でした.アメリカは世界の市場を開放し,西半球でも,個別諸国とも,自由化を進める交渉には参加してきました.WTOが考えつづけるうちにも,アメリカは待つつもりなどない.交渉可能な諸国と一緒に,前進する.それがZoellickからのメッセージです.

Wolfも,カンクンの失敗から忌まわしい反対派を追放したい,と願っています.しかし,貧しい国の利益を無視して,貿易交渉は決裂しました.それは世界銀行による自由化の利益予測でも明らかです.Wolfの主張で興味深い点は,Zoellickが二国間や地域的なFTAを戦略的に利用する姿勢を示したことに反対し,こうした失敗が繰り返されないために貿易交渉メカニズムを改善する提案を行っていることです.

まず確認すべきは,WTO加盟国全部が交渉に参加することはできない,という点です.世界の製造品輸入の80%が(EUを一国として)上位20ヶ国に集中しています.50カ国なら92%に及ぶのです.それ以外の国がどのような貿易体制を採用しても,世界貿易には関係ないと言えます.もちろん,すべての国が自由貿易の利益を享受すべきです.しかし,WTOは援助機関で無い以上,彼らが自由貿易を拒むことまで扱えない,と言います.

次に,EUを一国として30ヶ国の代表が交渉する.そして,シンガポール・イシューのような新分野は,より少数の国で合意規則を定めて参加を求め,決して全加盟国を拘束しない.また,市場アクセスについて,多くの小さな発展途上諸国には完全な自由を認めることだ.あるいは,それが難しければ,交渉によって自由化された分野を,無差別の原則で,彼らにも認めればよい,と.

もちろん,こうした交渉メカニズムが整っても,自由化を進めるエンジンとなる主要貿易国,EU,日本,アメリカ,そして中国,インド,ブラジルが既存の障壁を譲らなければ自由化できません.彼らが反対を唱えるだけでなく,指導性を発揮することが必要です.

Bowringは,カンクンで示されたWTOの失敗を,中国のますます重要になった国際的役割が確認された点で重要な事件と考えています.中国は,世界貿易と直接投資が拡大することに,自国の成長を大きく依存しています.実際,中国はWTOに加盟するため,国内の政治力を傾けてきました.しかし,中国はアメリカのように発展途上諸国と敵対せず,ブラジルなどと代表の地位を引き受けることができます.他方,中国は輸出に依存するアジアの成長を為替レートによって調整する指導的な役割も担っています.アメリカが報復的な保護主義を発動する前に,それを抑えるべき地位にあるわけです.


NYT September 18, 2003

More Changes in Store for the Big Board

By FLOYD NORRIS

FT September 19 2003

A fair exchange

NYT September 21, 2003

Fixing a Tarnished Market

NYT September 22, 2003

Big Board Is Far From Forefront When It Comes to Policing

By GRETCHEN MORGENSON

(コメント) ニューヨーク証券取引所(NYSE)のグラッソ会長が,1億4000万ドル(約160億円)の報酬を得たことをめぐって辞任した事件は,資本市場,という制度の恣意的な性格を示しているように思います.世界の証券市場が上昇しつづけていた頃,それ自身が情報投資とさまざまな証券市場間での顧客(株式発行企業と投資家)の奪い合い,吸収合併などで,紛糾し続けていた記事を思い出します.NYSEは,こうしたブームの頂点にあって,支配的な影響力を行使してきたはずです.株式の発行や情報開示,その審査や証券売買の仲介企業,銀行などが,個人投資家から暴利をむさぼる共謀システムを支えていたのではないか? 資本市場が果たすべき社会的な役割を,グラッソのような個人が,NYSEのような利益集団によって,本当に果たせるのか? …


ST SEPT 19, 2003 FRI

War on terror: Who's counting the pennies?

By Janadas Devan

もしケインズに子供がいて,「パパは戦争のとき,何をしていたの?」と聞かれたら,何と答えたか? 「なあに,お金を数えていたんだよ.」

ケインズは本当にウィンストン・チャーチルに次ぐ戦時内閣のナンバー・ツー,事実上の大蔵大臣であった.彼の目的は三つあった.@インフレを起こさずに,戦費を調達すること.Aイギリスの金融的な独立性を維持すること.そうすることでイギリスは大国としての地位を維持できる.B戦後の国際金融システムを構築すること.それは大恐慌の再来を防ぐようなものでなければならない.

ケインズは最初と最後の課題を見事にこなしたが,二番目の課題はある程度しか成功しなかった.彼の努力にもかかわらず,イギリスは戦後に帝国を失った.しかし,彼のおかげで,イギリスは三流国家に堕落しなかった.貨幣を注意深く管理したことで,それこそ最も重要な戦時の要因であるが,イギリスは最悪の結果を免れた.

今日,ワシントンでは誰がカネを数えているのか? アメリカはテロに対する世界戦争を遂行しつつあるというのに? 2年前に,2011年までの財政黒字累積額を5.6兆ドルと推計していたが,2週間前には,政府の予算局が2.3兆ドルの赤字を予測した.

歴史はブッシュの最初の減税を許すかもしれないが,昨年の,二度目の減税は許さないだろう.すでに9・11によってアメリカの財政に大きな穴が空くことは分かっていた.ブッシュと共和党は,それにもかかわらず穴を掘りつづけた.

どうやってその穴を埋める気か? アメリカ人がほんの僅かしか貯蓄しないのだから,もっぱら外国人が埋めるはずだ.もし日本人,中国人,ヨーロッパ人,アラブ人がアメリカの証券保有を減らしたら,アメリカの長期金利は急騰し,成長が挫折して,債務負担は増すだろう.もしこのまま海外からの借り入れを増やし続ければ,5年以内にアメリカはGDPの50%を越える対外債務を負うことになる.

NYTが伝えたように,タリバンの戦士であったHajji Ibrahimは,テロとの戦争がアメリカに何を意味するか,明確に意識していた.アメリカはテロを撲滅するために戦争を拡大する.しかし,タリバンの戦士は飛行機を乗っ取れば良い.あるいは低級な原子爆弾を盗むことだ.テロリストと政府との戦争は,そのダメージが大きく非対称的なだけでなく,その必要資金も余りに非対称的だ.

ヴェトナム戦争の際,ホー・チ・ミンはアメリカの世論を動かして勝利した.それは1960年代や70年代に,アメリカの柔らかい下腹部であった.Hajji Ibrahimやイラクの仲間は,アメリカの債券市場を狙っている.それこそ今日のアメリカが持つ柔らかい下腹部だから.

アフガニスタンとイラクで来年に必要な870億ドルの,1ペニーたりとも,ブッシュ政権は増税せずに借り入れるつもりだ.アメリカ政府はイラク再建に500億から750億ドルが必要だろうと言う.もし同盟諸国が助けてくれなければ,占領はアメリカ人に大きな負担となるはずだ.いつまでそんな支出を続けられるのか? いつまで財政赤字を放置し,戦争を拡大し,国連を無視して単独で行動し続けるのか?

貨幣は戦争のアキレス腱である.Hajji Ibrahimはそれを知っている.ケインズも知っていた.しかし,ブッシュ氏は知っているか?


CD 2003-09-19 07:44:23

Risks increase as real estate bulls run

FU JING and CHEN QIDE, China Daily staff

NYT September 19, 2003

China Insistent on Protecting Currency

By KEITH BRADSHER

Sept. 21 (Bloomberg)

Does Europe Have a Beef Over the Yen?

David DeRosa

CD 2003-09-22 07:53:24

Stable renminbi exchange rate crucial

WANG YUANHONG

Sept. 24 (Bloomberg)

Hong Kong Is Trojan Horse for China Currency

William Pesek Jr.

(コメント) 人民元の切上げをめぐって,なお多くの論説が書かれています.他方で,中国政府・通貨当局は国内のバブル破綻を予防的に行いつつあります.G7が人民元に対する干渉を強める中,1980年代の経験を日銀から聞いて,早期にバブルをくじき,不良債権を抑制するべきだと決定したのかもしれません.

経済学は,貿易収支や為替レートが,必ずしも単独で,国内の雇用あるいは失業を決定する重要な要因ではないことを示しています.その因果関係は複雑であり,条件によっても異なります.しかし,政治家は失業が増えれば貿易赤字を非難しますし,黒字国の通貨が不当に安いと言って騒ぐでしょう.中国でも,アメリカでも,ヨーロッパでも,日本でも,それは政治の問題です.


NYT September 19, 2003

Germany Will Share the Burden in Iraq

By GERHARD SCHRDER

(コメント) ドイツの首相は,イラクへの支援を,国民にどのように説明したのか? 政治的指導者が戦争に対する姿勢を決めるのは,どのような理由によってでしょうか? それは事実とともに,ふんだんにイメージを駆使して,国民と国際社会の世論を動かそうとする試みです.特に戦争は,利害だけで強く正当化できないからです.

ドイツ政府はアフガニスタンに軍隊を送り,NATOやアメリカとの強調を重視します.国際社会の支援が無ければ,テロとの戦争には勝利できず,平和は維持できません.ドイツが平和的に再統合できたのも,彼らの支援があったからです.そして,ヨーロッパ統合も歴代のアメリカ大統領が支持してくれました.われわれは将来に目を向けるべきだ.アメリカの戦争には強く反対したが,平和は国際社会の基礎である.ドイツはイラク再建に協力したい,と.


ST SEPT 20, 2003 SAT

Return of the Dollar Wars

By HAROLD JAMES

失業の増加が懸念され,再選が危うくなって,アメリカのブッシュ大統領は他国を非難し始めた.彼は財務長官を派遣して,アメリカの消費者に外国製品をもっと高い値段で購入させるために,他国が通貨を増価するように要請した.それがスノー長官による最近の北京訪問の目的だったが,その行動は決して目新しい物ではない.彼の前任者である,ジョン・コナリーもジェイムス・ベイカーも,同様に,政治的に見て望ましい為替レートを求めた.

スノーが中国に求めたのは妙な要求だ.店に入って,「自分に物を売るときは,もっと高い値段で売って欲しい」と,頼む客などいるだろうか? しかし,新しい強力な通貨が登場する際には,いつも,為替レートが政治的な理由で利用された.

第二次大戦後の20年間には,戦間期と同様に,イギリスのポンドとアメリカのドル,という二つの国際通貨しかなかった.1960年代末までに,ポンドは衰退したが,それに代わって二つの新しい通貨が重要になった.巨額の貿易黒字を持つ日本とドイツの経済がその通貨を強めたのだ.

アメリカの生産者と政府は,円とマルクが人為的に低く維持されているから,アメリカ人の労働者が職を失っている,と不満を述べた.当時のアメリカ大統領,リチャード・ニクソンの下で,アメリカ政府はドイツと日本が通貨を切上げるように圧力を掛けた.ドイツ人は従ったが,日本人は従わず,コナリー財務長官の怒りを爆発させた.彼は日本をいじめることに全力を注ぎ,日本は「計画経済」であり,ルールを守らない国だ,と憤慨した.

世界経済に最もダメージを与えているのは誰か,について互いに相手を非難する泥仕合になった.アメリカ人はヨーロッパ人と特に日本人を,余りに成長が遅すぎる,と非難した.他方,ヨーロッパ人と日本人はアメリカが世界にインフレを輸出し,ヴェトナム戦争に深入りして国際通貨システムを悪用している,と主張した.

まさに,アメリカの通貨増発は為替レートをめぐる戦争の武器となった.アメリカの高インフレは,ドル本位制を動揺させて為替レート問題を強調した.コナリーは,「ドルはわれわれの通貨であり,それが外国で問題を起こしても知ったことじゃない」と言い放った.

結局,アメリカは1971年8月に国際通貨秩序を破壊して,日本人に通貨を切上げさせた.アメリカ人はまず一方的にドルと金との交換性を停止し,ヨーロッパ人と共謀して,ドルに対する16.9%の切上げを日本人に強制した.

しかし,工業諸国が固定為替レート制度を破棄しても,通貨の意図的操作はなくならなかった.1970年代初めの脚本は1980年代半ばに再演され,主要国の財務大臣が会合を開いて,まず円とマルクをドルに対して増価させ,1987年にはそれを維持しようとした.

こうした歴史的事例は,いずれも,混乱に終わった.1971年のブレトン・ウッズ崩壊は,インフレを止めるどころか,各国の同時的な通貨増発を許した.10年後に,円をアメリカ人の都合に合わせたところ,日本のバブル・エコノミーが誕生し,それが破綻してから日本人の多くがアメリカを非難した.

今日,アメリカ・ドルは二つの新しい通貨から挑戦を受けている.中国の人民元と,ユーロである.1970年代と80年代が示すように,勃興するアジア通貨は,その巨大な貿易不均衡ゆえに,はるかに大きな脅威と見なされている.さらに,アメリカは他国が膨大なドル建資産を保有していることで,強力な武器を握っている.推定に拠れば,アメリカ財務省証券の46%は海外で保有されている.

この事実が両者を瀬戸際外交に向かわせる.アメリカは世界のドルへの関与を政治的に利用する.しかし,他国はドル建資産を売却すると脅迫できる.

中国政府は,1970年代の教訓を学ぶべきだ.その最も重要で明白な教訓とは,アメリカ政府の要求に長く抵抗することはできない,ということだ.特に,アメリカ政府が,保護貿易に向かう強力なロビー活動を行ってきた国内の主要利益集団から,圧力を受けている場合には.

しかし,世界,特にアメリカも,幾つかの教訓を学ぶべきだ.政治的に操作して新しい為替レート制度を作っても,過去の事例は,それが非常に混乱した,それゆえ,国際的緊張を高める結果に終わる,ということだ.感情面でも,為替レートを議論することが,国内経済に悪いことをもたらす何であれ,外国人を非難するようになる.

さらに悪いことには,経済政策でも外国人を非難すること,すなわち新しい貿易障壁を設けることにつながる.それは短期的には上手くいくように見えるが,単に富を破壊し,あらゆる点で雇用を減らすだろう.


NYT September 21, 2003

Europe's Money Talks, but Rich Nations Don't Listen

By MARK LANDLER


WP Sunday, September 21, 2003

Rethinking the U.N.

NYT September 22, 2003

Bringing the U.N. Into the 21st Century

LAT September 24, 2003

More Than Ever, We Need the U.N.

By Stephen Schlesinger


FT September 21 2003

Asia's awakening

By Martin Wolf

FT September 21 2003

Editorial comment: The challenge of Asia


The Observer, Sunday September 21, 2003

Confucius goes to market

Will Hutton

NYT September 21, 2003

China's Strange Hybrid Economy

By KEITH BRADSHER

FT September 22 2003

Can China keep its economy on track?

By James Kynge

FT September 22 2003

Rural areas have reaped a bitter harvest

By James Kynge

(コメント) 最後の記事より.「一人の絶望した農夫が居た.彼は先週,北京の天安門広場にある有名な毛沢東の肖像画の前に座り込んだ.彼の妻も並んでいた.静かに,彼はガソリンの入ったボトルを取って,自分の服にガソリンを注いだ.それから,マッチを擦った.」

彼は警官によって病院へ運ばれ,命を取り留めましたが,その抗議の意味を中国人なら誰でも理解した,と言います.毛沢東の共産党政府をもたらした革命は,農民達によって闘い取られたものです.そして,この25年間の資本主義的改革によって,最も大きな痛手を被っているのが農民達です.彼のように絶望した農民が,貧しい地方の農村に,8億人から9億人も居ます.

「天安門」とは,英訳すれば,” the Gate of Heavenly Peace” というのだな,と感心しました.そこで私が3月に見た毛沢東の肖像画も,まさに温和な「国父」のイメージでした.次の革命家たちが,地方の貧しい村で,拳を固めているのでしょうか.


Sept. 22 (Bloomberg)

Real Estate Market May Show `Irrational Exuberance'

John Wasik

Sept. 22 (Bloomberg)

Richard Grasso, Asia May Have a Job for You

William Pesek Jr.


The Guardian, Monday September 22, 2003

Realpolitik lessons from Sweden

Larry Elliott

IHT/NYT Thursday, September 25, 2003

Meanwhile: What kind of nation do the Swedes want?

Goran Rosenberg


NYT September 22, 2003

Music's Struggle With Technology

By JOHN SCHWARTZ

(コメント) 音楽産業が技術革新によってどのように変化するのか? を知りたいです.


ST SEPT 23, 2003 TUE

The weak dollar's impossible strength

By J. BRADFORD DELONG

FT September 23 2003

Storing up trouble

By Alan Beattie


ST SEPT 23, 2003 TUE

Can rich economies stem the outflow of jobs?

By Eddie Lee


Sept. 23 (Bloomberg)

I Knew Plaza Accord. Dubai Is No Plaza Accord

Caroline Baum

(コメント) プラザ合意の再現か? と,誰もが思うところです.しかし,Baumは違う,と言います.なぜなら,中国が為替レートの調整に入っていないからです.

確かにドバイでG7が開かれた後,為替市場ではドルが売られて,円は111円台に入りました.コミュニケが為替レートについて抱く理想のイメージ(あるいはイデオロギー?)は明白です.「より弾力的な為替レートが,市場メカニズムに基づいた,国際金融システムにおける円滑で広範な調整を主要諸国が促す上で,望ましい」と,強調しました.しかし,現時点で「より弾力的」とは,ドル価値の下落を意味します.

本当に? 誰にとって望ましいのか? ドルの減価が利益になると思われるのは,@再選を目指すブッシュ大統領.A保護主義に走る議会を抑えたいと願う真面目な政治家.B職場を失い続けているアメリカ製造業の労働者.C特に,国際競争で日本車に追い出されるアメリカの自動車業界.

他方,ドルの減価は日本にとって大きな恐怖です.日本の景気回復は,国内需要よりも,輸出に依拠しています.国民のデフレ心理を払拭するためにも,円の増価は決して見たくない数字です.日本政府・日銀は円売り・ドル買い介入を続けてきました.コミュニケに何と書こうが,日本は金融市場のレッセ・フェールなど許しません.

では,アメリカの株式市場はドル安を歓迎しているのか? 全く反対です.たとえドル安がアメリカ企業の海外収益をドル換算で増やしても,ドル安によって投資家を怯えさせることは好ましくないのです.アメリカ経済は,ヨーロッパよりも,その成長見通しを貿易に依存していません.

しかし,モルガン・スタンレーのStephen Roachは,アメリカに政策手段が尽きたことを重視します.金融緩和も財政刺激策も,これ以上は行えません.政府にとってドル安は,アメリカ労働市場を改善する,最後の選択肢なのです.

ところが,中国は除外されています.中国はG7のメンバーでもなく,新興市場として「健全な政策と投資環境を改善する」ように求められただけです.そして,中国が為替レートの調整に動かなければ,アジア諸国も動けないでしょう.

アメリカにとっての長期的な利益がドル安にあるとも言えません.なぜなら,ドル安は高金利を意味し,今や連銀はそれを食い止めようと必死なのです.

ドル安が日本の利益ではなく,結局,アメリカの利益でもないとしたら,誰の利益なのか? ドバイ宣言は決してプラザ合意ではなく,政治家達の利益を示しただけです.


IHT Wednesday, September 24, 2003

The real obstacle to peace is Sharon, not Arafat

Avi Shlaim

WP Tuesday, September 23, 2003

The Choice For Israelis

By Jimmy Carter


FT September 24 2003

An interlinked economy

By Victor Mallet


FT September 24 2003

A plunging dollar needs handling with care

By Avinash Persaud

FT September 24 2003

Dollar doldrums

(コメント) Persaudが示す為替市場の二つの法則は,@為替レートの変化はファンダメンタルズによって決まらない.それを決めるのは政策担当者である.Aアメリカのような証券輸出国にとって,通貨が増価し金利が低下(証券価格が上昇)している時期が最も望ましい.逆に,通貨が減価し金利が上昇することは避けたい.

アメリカは証券を輸出して所得を越えた支出を維持しています.しかし,投資ではなく,消費を増やすための借り入れは,長期的に維持不可能です.これを抑制するには,ドルが減価するか,他国に増価を求めることです.G7によって,なぜドル安は進んだのか? それはアメリカ政府が国内製造業の利益に傾いた選択を行ったことに,為替市場が反応したからです.

今度はドル安を管理しなければなりませんが,それも困難です.アメリカが金利を上げるか,他国が下げる必要があります.これは世界中の消費を刺激し,インフレを再燃させることを意味します.

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The Economist, September 13th 2003

Sweden and the euro: Why the voters are reluctant

(コメント) なぜスウェーデン国民はユーロを拒んだのでしょうか? スウェーデンは,通貨統合の理論から見て理想的な国です.非常に開放された経済で,競争力のある産業を持ち,それゆえ為替レートが安定していることが貿易や投資を維持するのです.

他方,ユーロは正しく設計された政策主体に管理されているとは思えず,ユーロ圏の成長はスウェーデンに劣ります.復,スウェーデンの組織された労働市場や,高度な福祉国家は,国際的な調整に対して金利や為替レートを政策手段として保持する理由を強めます.それゆえ,ユーロの経済見通しがマイナスで,政策手段の適切な運用が期待できない現状では,参加時期を遅らせたい,という意味で反対票が増えたわけです.

ただし,この国民党票には問題があった,と言います.政府は,国民に参加の可否だけを問い,参加時期や参加条件を政府に一任するよう求めました.他方,反対は10年間にわたって参加を拒否する意味を与えたようです.こうした選択の示し方は,政府による行過ぎた賛成誘導であった,と批判されるわけです.また,実際に反対した人々が懸念したのは,ユーロではなくEU統合の将来であった,とThe Economistは指摘します.ユーロに加盟することが,将来はスウェーデンという国を完全に失ってしまうような選択であれば,人々は積極的に支持できない,と感じただろう,と.ヨーロッパの憲法を単一国家の形成と見なす考え方に,The Economistは反対します.


Bagehot: The politics of behabiour

(コメント) イギリスでは若者の「反社会的な振る舞い」について,激しい論争が起きています.それはかつて,両親や家族が教育し,矯正すべき問題であった,とイギリス政府の「福祉制度改革担当大臣」に任命されたFrank Fieldは主張します.こうした振る舞いは,社会から同情心を失わせ,貧困や病気に対する助け合いをそのような者(や家族)に対して拒む理由となります.ところが,福祉制度の拡大は,家族が「反社会的振る舞い」に無関心となり,それを矯正する親たちの権威を失わせた,と言うのです.イギリスの内務省は,初めて,「反社会的な振る舞い」に関する指標を発表します.


Economics focus: Fix or float?

(コメント) 新興市場の為替レート制度をめぐる論争は,次第に,為替レートが固定でも変動でも,国内の経済制度が整備されていなければ上手く行かない,という方向に重心を移しています.

経済学者の多くは,インフレ目標に従って国内マクロ経済を管理し,完全な変動レートを採用すれば(すなわち,完全に為替市場への介入を止めれば),新興市場は通貨危機を恐れずに安定した経済を維持できるかのように主張しがちです.しかし,実際の開放的な小国では,マクロ変数の多くが為替レートの変化によって大きな影響を受けますから,為替レートを安定化する方が重要な場合も多い,という研究が紹介されます.特に金融市場は,為替レートの変化に敏感で,自国通貨建てで借り入れることができない多くの新興市場が,銀行も企業も,外貨建の債務を負っています.突然の資本流出は,こうした債務を返済不能にし,経済破綻をもたらします.

新興市場は,為替レートを選択する以上に,こうした不安定な外資への依存を減らすべきでしょう.そのためには地域的な相互貿易を拡大し,ドルやユーロへの一極的な取引を分散させて,金融的にも地域統合を模索することでしょう.アジアが地域債券市場を育成しているように,貯蓄を自分達で効率的に半分できるシステムを構築する必要があります.また,もとを正せば,政府が財政や中央銀行の原理を確立できないからこそ,その国の貨幣や金融システムが信用されないわけです.では,どのようなシステムが最適なのか? 原則はともかく,実際のシステムは国によって違うだろう,と言います.