IPEの果樹園2003

今週のReview

9/22-9/27

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ノート・パソコンを修理に出すしかなかった上に,腰痛で行った病院で自分のレントゲン写真を見る内に,すっかり悲観的になりました.

個人でも社会でも,価格に従って損得計算するという意味で「合理的」なだけでなく,肉体的・物質的にも頑健で,若く,野心的な場合.そして弱い者をかばうことも無く,旧来の制度やわずらわしい規範に縛られることも無い,十分な知識や熟練を持った労働者で(産業が)あり,同時に優れた投資家で(資本市場)もあるような,そんな個人が集まった社会(そして世界)であれば,市場は好ましい資源配分と社会的にも正当な報酬を各個人にもたらすだろうと思います.

しかし,修理の費用や治療費,あるいは天気の損得を決めるのは,テロリストの掃討や破綻国家の再建と同様に,むしろ社会的・政治的な問題です.

土曜日は小学校の運動会でした.台風が接近するあいにくの天気でしたが,早朝からお弁当を味見したり,ビデオのバッテリーやテープを点検したり,…Yahooの天気予報は午後3時から雨です.シートやパイプ・チェアなどが入った重たい袋を下げて,私は最後に出発しました.すでに小さな雨粒が落ちてくる空を睨んで,ともかくも荷物と格闘しつつ,小学校へと向かいます.

子供というのは,何故あんなに真剣に運動会に参加するのでしょうか? 子ども達が懸命に走ったり,踊ったり,応援合戦をする様子は楽しく,自分も子供に戻りたいな,と思います.しかし,私の運んだ旧式のビデオ・カメラは,重いばかりで,いざ録画し始めると画面が飛び,数分で完全に消えてしまいました.すっかり落胆しつつも,忙しい?運動会見物から解放されました.雨を避け,弁当を広げる場所の確保や,子ども達を映そうと駆け回り,携帯電話で情報交換しつづける親たちの狂騒もまた,運動会です.

時間があったので,私の空想はいつものように散歩し始め,アジア運動会支援ファンド,というNGOを考えました.アジアの貧しい内陸部や農村で,村の運動会を支援してあげてはどうでしょうか? 子供は未来への希望であり,新しい社会をつなぐ投資であると思います.親たちが生活の改善や,社会的な平穏と公平性を願い,公共の精神を高める上で,運動会を組織し,皆で楽しむことは大いに役立つでしょう.そして,彼らを支援できることで,私達も運動会の楽しみを世界中に拡大し,きっと違った視点からグローバリゼーションを考えます.

夏休みの最後に,ゴードン・チャン『やがて中国の崩壊が始まる』と,何清漣『中国現代化の落とし穴』を読みました.私自身は,中国の経済成長が幻や詐欺であるとは思いません.しかし,急激な社会変化や富の増大と分配が,深刻な社会的分断と政治的混乱をダムのように蓄積し,制度に亀裂が走っているという警告には,真実が含まれていると思います.

…労働者は家畜のような扱いを受け,朝の4時から夜8時まで,16時間も働かされる.食事はすえたカビご飯,一人当たり居住空間は1平方メートルにも満たない.何か言うと監督や見張りの鉄拳が飛び,腕を折られても治療してもらえないため障害者となった者もいる.労働者には辞める自由も無く,終日監視された.…

…農村社会の中間組織が空白状態になった中で,血縁関係の義務と利便性に惹かれた農民は,これまで行政の指導に寄せてきた信頼を,同族,同姓の有力者や宗教組織に移すようになった.…従来の幹部は資質が低く,閉鎖的で保守的であったため,経済改革以降の情勢に適応できない.…近隣との所有権争いから発展した宗族間の械闘(武器を使った集団乱闘)は,組織立っており,規模が大きく,戦闘が激烈である.…

地方幹部とマフィアとが結託し,土地や利権を農民から奪い,勝手に私物と化した.法を無視し,コネや親族で地方政府そのものを占拠してしまう.…私兵を組織し,掟や序列を定め,縄張りを分け,誓いを立てて当地で新天地をつくると公言した.そして周辺の町や村で窃盗,強盗,婦女暴行,集団乱闘などを繰り返し,警官を装ってトラブルを多発させた.…

都市ではテロ行為が頻発し,国有企業の資産は略奪され,犯罪発生率が急上昇している,と言います.社会から阻害された最下層は凶悪犯罪に走り,エリート達は子弟を海外に留学させ,資本逃避に励む.イラクであれ,ラテン・アメリカであれ,中国であれ,叛乱と義賊,革命の時代は終わらない,と思いました.社会や心が崩壊したとき,それを再建するのは何でしょうか?

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, CD:China Daily, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune


NYT September 13, 2003

Cancun Targets Cotton

FT September 15 2003

Crushed at Cancun

By Guy de Jonquieres

ST SEPT 16, 2003 TUE

World trade talks collapse

By Roger Mitton

ST SEPT 16, 2003 TUE

Cancun sees world split

NYT September 16, 2003

The Cancun Failure

(コメント) カンクンで行われた交渉には,さまざまな問題が関わっていました.例えば,アメリカは国内の綿花生産に補助金を与えて,世界の綿花生産者を貧しくしている,と批判されました.綿花栽培は,政治的に重要で,裕福な,2万5000軒の農家を維持する政策であり,年間30億ドルが費やされます.他方,それによって過剰になった綿花の国際価格は下落し,1000万人の西アフリカ農民はさらに貧しくなります.

あるいは,繊維製品や衣服の関税を引下げ,市場を開放することに豊かな諸国が同意すれば,これらをもっぱら輸出できる貧しい諸国は大きな利益を受けるでしょう.しかし,他方で,豊かな国では失業者が増加し,彼らが新しい職場を見つけるまで生活や職業訓練を政府は支援しなければなりません.

なぜ交渉は,突然,決裂したのでしょうか? EUはもっとも難しい問題,投資と競争についての優遇や規制を禁止する問題,を棚上げする妥協案を示していました.しかし,これにもっとも強い関心を持つ日本と韓国はこの妥協を受け入れなかったようです.議長はもっと農業問題に重点を置くべきだった,とも言われます.あるいは,こうした問題で不必要なまでに発展途上諸国と対立し,EU内部の規則を守ったことが破綻の起源だ,とも言われます.

米欧が示した農産物自由化の提案も,妥協を促すより,ブラジル,インド,中国など,発展途上の20カ国から新しい対抗案をもたらしました.アメリカもEUも内部の複雑な利害関係に拘束されている上,交渉相手として各国はますますさまざまなグループを構成して条件を錯綜させたわけです.

アメリカの代表は,綿花への補助金を交渉で取り上げることは拒否し,西アフリカ諸国にさまざまな援助手段で支持を取り付けようとしました.これこそ,世界市場で比較優位を拒み,政治交渉に委ねる見本として,嫌悪されたわけです.他方,アメリカのゼーリックらから見れば,ますます発展途上諸国が多数を占めるWTOは,彼らがタダで有利な条件を引き出す場所になってしまう,と恐れました.あるいはEUのラミーは,WTOが148カ国の合意を形成する手段を持っていない,と分析します.

二国間や地域的な貿易ブロックへの動きを懸念する声が強まるのは当然です.ゼーリックは二国間のFTA交渉を自由化への早道として推進しています.しかし,WTOで解決できなかった問題は,ここでも扱われません.他方,EUが同様の動きを示すかどうかは不明です.一方では,こうした交渉は無駄が多く,管理できない問題を増やします.また,EUは域内の貿易増加に関心が強く,国際的には多角主義のリーダーを演じたいでしょう.

STは会議の混乱ぶりを伝え,貿易交渉が二国間や地域内で重要になる,というシンガポールの閣僚が示す見方と,多角交渉の再開に向けてアメリカやEUが責任ある役割を果たすべきだ,という期待を表明しています.もしかしたら,ブラジルが発展途上諸国の意見を集約するグループ化に成功したことが,舞台裏の交渉を米欧に断念させたのかもしれません.勝利を宣言する反グローバリゼーションの運動家たちと,会議を紛糾させたもっとも貧しい諸国の貿易問題は,ともに問題を見誤っています.彼らは,もちろん,豊かな国の政治家が国際会議を操作することに抗議したかったのでしょう.

NYTは,国内の農業団体が持つ政治力に支配された日本とEUの代表が,カンクンの農産物自由化交渉を破綻させる戦略が成功したわけだ,と言います.そして,この点で,アメリカは明確な立場を示せなかったことも重要です.ブッシュ政権は,補助金に頼る農家と,農産物市場自由化による利益との間で,明確な姿勢を示せなかったのです.その意味でも,これは間違った大西洋同盟であった,とNYTは考えます.

次に何が起こるのか? 世界貿易の拡大が犠牲になったことは確かです.自由化が実現すれば得られたはずの貧困の解消も葬られました.しかし,産業界や労働者,納税者,消費者の不満は高まるでしょう.彼らは貿易を通じた成長の道を支持するはずです.多角交渉は続くでしょうし,WTOにおける国際的な交渉グループの形成がさらに模索されるのではないでしょうか?

NYT September 14, 2003

Protesters Swarm the Streets at W.T.O. Forum in Cancn

Janet Jarman/Contact, for The New York Times

By GINGER THOMPSON

The Guardian, Monday September 15, 2003

Mexican standoff: the west is rumbled

Larry Elliott

IHT Thursday, September 18, 2003

The real losers are the poor

Supachai Panitchpakdi

IHT Thursday, September 18, 2003

The Cancun circus: A worn-out act by rich nations

John Audley

LAT September 18, 2003

Cancun's Bitter Harvest

(コメント) もっとも明確にWTO反対を叫んできた運動家たちは,この勝利によって何を得たのでしょうか? 帝国主義は撃退され,農民達は救済された?

Elliottは,カンクンで貧しい諸国が議場を去ったことは,完璧に正しい選択であった,と賞賛します.グローバリゼーションを貧しい人々のためにも役立てる,という裕福な国の代表立ちが繰り返すお経にもかかわらず,彼らは貿易交渉を自分たちの利益だけで動かしてきた.憤慨した貧しい国からの抗議で,彼らは対話やパートナー,共存という文句を繰り返すようになったが,本当に行動するのは別問題だ,と.

ブラジル,インド,中国を含むG21が行動しました.それは労働組合と同じように,団結,規律,対決の力を示したのです.EUやアメリカは,口では提案を歓迎しながら,分断化を模索しました.インドやブラジルだけでなく,そこに中国が加わったことが重要です.中国を回避した交渉はできないからです.そして,そこには多角主義の基礎がある,と考えます.

カンクンには三つの教訓がある,とElliottは指摘します.@貧困の解消について,南北の見解には天と地ほどの開きがある.A労働組合がストライキなしに交渉を行えないように,貧しい諸国もG21の行動なしには交渉を行えない.B豊かな諸国には,個の新しい政治的現実を受け入れる用意が無い.マーシャル・プランを唱えるような政治家は,決して貿易交渉に現れない.

WTO総裁のPanitchpakdiは,異なった教訓を示します.もちろん,自由化を進めることは貧しい国の利益でした.問題は,各国の政治家たちが正しい妥協の道を見つけられなかったことです.そして,もっとも貧困と戦うべき発展途上諸国が,最も妥協を拒んだ,と考えます.そこで,交渉参加国が余りに長い時間を自国の立場に固執すれば,妥協できなくなる,という見解を示します.また,交渉の立場が共通する諸国はあらかじめ緊密に協力して,他の問題で交渉上の優位を得るために,不必要な強い抵抗を試みることがないよう,抑制できなければならない,と示唆します.

Audleyは,貿易交渉が国際政治の一つの頂点を意味したのではなく,三つのリングからなっていた,と考えます.その一つは,デモ参加者たちです.彼らはカンクンから隔離されましたが,それでも世界中で,さまざまなアイデアによる反対運動を展開しました.第二のリングは,貿易自由化がもたらす環境や生活に及ぼす影響を調査した政策研究機関や分析家たちでした.自由化によって貧困が解消できるという前提がいかに疑わしいものであるかは,会議が開催されているメキシコ農民の現実が良く示しています.

そしてもちろん,堅固な鋼鉄の盾に守られた国際政治の頂上会談が三つ目のリングでした.アメリカとEUのトップ交渉にもかかわらず,彼らは補助金や農産物保護に明確な自由化を提案できず,開発のための自由化という名目を損ないました.これに対して,発展途上国自身が新しいリングを形成しつつあります.特定の農産物ではなく,農業補助金全体の撤廃を求め,投資や貿易に関するWTOの規制に反対します.彼らは世界人口の半数以上を代表し,発言力を増すでしょう.


IHT NYT  Saturday, September 13, 2003

The ugly exploitation of Sept. 11

Paul Krugman

9・11後の最初のコラムで,私は,議会の関係者なら誰でも知っていることに言及した.あの惨劇からわずか数日で,その党派的な利用が始まった,と.

私は怒り狂ったメールの波に見舞われた.アメリカが衝撃と恐怖に脅かされている折に,その指導者がそこまで皮肉な見方をしているなどという考えには,とても耐えられない.「私の幼い子供に何と言えば良いのか?」と,あるeメールは憤慨していた.

私は,彼らが今どう思っているのか,と考える.アメリカ国民やメディアは,ついに,反則だ,と叫ぶ決心がついたのか? アメリカの政治的未来は,その答えに懸かっている.

新聞はブッシュ政権が9・11を利用していると指摘することを躊躇しなくなった.それは余りにも顕著なやり方であったから.ワシントン・ポストも指摘したように,ブッシュ大統領はこの6週間に,イラク政策や南極の油田開発だけでなく,減税にも,失業にも,財政赤字にも,選挙資金問題でさえ,9・11を持ち出した.他方,政府のあからさまなプロパガンダは,戦闘服に身を固めたブッシュ氏が登場したり,9・11のブッシュについてばかばかしいほどのテレビ映画を用意したり,と支持者の笑いも固まるほどだ.

これでブッシュ氏の9・11利用や,批判者への反愛国者呼ばわりが終わると考えるのは,明らかに,間違っている.彼らが国旗に隠れることが以前よりも難しくなったとしても,その動機は更に強まったからだ.すなわち,より大きな権力への欲望ではなく,それを失うことの恐怖に突き動かされている.

政府の顧問達は強欲にも,あらゆるものを9・11によって手に入れた.減税の増額から大気浄化の骨抜き,そしてイラク侵攻まで.何でも愛国心に訴えればよかった.

今やその全てが失敗している.赤字は5兆ドルを越えるだろうし,経済は今も雇用を減らしている.イラクでの勝利は灰燼に帰し,ブッシュの支持率も9・11前の水準に戻った.それでもこの政府の幹部たちは紳士として負けを認めたりしない.なぜなら,そこにはスキャンダルの兆候が溢れており,もし権力を失えば,全てが白日の下にさらされる.

その結果は,醜い,おぞましい選挙キャンペーンである.アメリカ史上最悪のものとなるだろう.ブッシュ氏が戦闘服を着るだけでなく,今や,対立候補のディーンはサダム・フセインに擬せられる.ラムズフェルドは,政府を批判することは,敵を助け,喜ばす行為だ,と言明した.

この政治的な醜さは,政策の失敗につながる.この2年間,政府は酷かったが,もっと,もっと酷くなるだろう.


FT September 14 2003

How to promote change in the Mideast

By Rouzbeh Pirouz and Mark Leonard

(コメント) イラク侵攻によって,中東地域で民主化の「ドミノ効果」が発揮される,と予想した英米軍は,バクダッドの通りに希望をもたらし,そして失わせました.ペンタゴンの軍事的な手段による短期間での民主化も,EUの漸進主義的な支援計画も,ともに実際には無効でした.Pirouz and Leonardは,民主化に向けた改革を条件として,EUは対アラブ諸国との政治・経済関係を見直すべきである,と主張します.そして,アメリカも協調することで,外からの民主化計画を,最も効果的に推進できるだろう,と.


NYT September 14, 2003

Good Economy. Bad Job Market. Huh?

By LOUIS UCHITELLE

(コメント) 生産性上昇が雇用をもたらさないことについて,アメリカでは論争が起きているようです.生産性が上昇しなければ賃金上昇は続きません.しかし,生産性上昇だけでは,雇用を減らすことになります.もし雇用が減る中で利潤や配当として投資や消費が刺激されるなら,ついには雇用も増加する,と政府は我慢を説きます.前衛劇の,ゴドーを待つように.しかし,それまで分配の不平等は拡大し,政治的な反発も強まるでしょう.


ST SEPT 15, 2003 MON

Why China should not devalue the yuan

By LINDA LIM

CD 2003-09-15

Maintain rate, experts urge

ZHAO RENFENG

NYT September 17, 2003

Manufacturers Press China on Currency

By REUTERS

ST SEPT 18, 2003 THU

New US bogeyman

(コメント) LIMの論説は主要な論点を見事に整理しています.@中国は人民元をドルに釘付けした.それゆえ,アジア通貨危機の際には競争力を失い,デフレと戦ったし,今ではドル安に連動している.人為的に操作しているのではない.A中国からの輸入増加がアメリカの失業の原因ではない.それはアメリカの輸入額の10%以下,GDPの2%より遥かに少ない.アメリカの経常赤字は貯蓄不足や財政赤字によるだろうし,失業増加は企業が生産性上昇により雇用を増やさいからである.B中国の経常黒字は国内の成長を促し,輸入を増やす.特にアセアン諸国に対して大幅な赤字である.他方,アメリカへの輸出は,主に,台湾や韓国の輸出を奪っているに過ぎない.C中国の競争力は労働力や資源の安さによるのであって,人民元レートとは関係ない.アメリカの消費者も,アメリカ企業も,これによって利益を受けている.D中国の生産は世界市場と緊密に統合しており,人民元を切上げれば,それはアメリカ企業のコストやインフレにより,アメリカの景気回復にマイナスである.E中国の外貨準備は,日本についで,アメリカの財務省証券を購入しており,アメリカに低い金利を可能にしている.

もちろん,LIMは,人民元切上げが中国にとっても不利益である,と言います.@中国にとってGDPの25%を占める輸出は重要である.成長が損なわれれば社会不安に至る.A中国の金融システムを不安定にする.B適切な切上げ幅は誰にも分からないために,一端,切上げをすれば,更に切上げが予想されてしまう.

中国の英字紙China Dailyは,ノーベル経済学賞受賞者のRobert Mundellも人民元切上げに反対だ,とその意見を歓迎しています.しかし,何故そう言ったのか,は説明がありません.ゴールドマン・サックス(アジア)のHuが,FDIなどによる中国の生産性上昇を強調するに留まります.

NAM(National Association of Manufacturers)こそ,アメリカ政府に対して,中国が変動レート制に移行し,ルールに従った公平な競争を行うべきだ,と強く主張する代表的な組織です.中国は人民元をドルに固定することで不当な競争力を得ており,最近のドル安で更に価格を引き下げている,というのです.これは,もちろんドルとの交換レートを固定していますから,不可解な主張です.選挙を控えたブッシュ氏が,自分以外に,失業の責任を負わす議論を歓迎するのはもちろんでしょうが.そして301条による不公正貿易の審査も始まりました.

STは,Limの論説と同様の論拠により,アメリカの政治的な背景を指摘します.それは,テロとの戦いや北朝鮮が解決できたら,中国との対立が表面化する,ということです.ちょうど13年前に日本がアメリカの敵役であったように.今回も,アメリカはその力を利用できるでしょうか?


BG, 9/15/2003

The limits of US force

By William Pfaff

(コメント) 軍事力がテロへの答えではない,ということをブッシュ政権も学ぶべきです.軍事力は,それが行使されるよりも,行使されないから,交渉で条件を有利に作用できるのです.実際に軍事力を行使すれば,その欠陥や限界は明白になり,予想もしない抵抗を招きます.アメリカは軍事力も「ソフト・パワー」の一部として活用しました.しかし,今やアメリカの軍事力に誰に向けられるか分かりません.また,アメリカ自身にとっても,兵站や人員の問題を白日の下にさらします.北朝鮮に限らず,EUも,独自の防衛力を模索し始めています.


The Guardian, Tuesday September 16, 2003

A threat to the rich

George Monbiot

(コメント) EUの貿易代表であるパスカル・ラミーに,Monbiotは,架空のノーベル偽善賞を進呈します.ラミーは言いました.WTOは「われわれを,法律の無いホッブスの世界から,よりカント的な世界,たとえ恒久平和とまでは行かなくとも,少なくとも通商関係を法の支配に従わせる世界に向けて,移行を助けるだろう」と,ラミーが述べたからです.

なぜこれほど強い非難をラミーは受けるのでしょうか?  Monbiotから見れば,世界の貿易や投資のルールは,豊かな国が自分達の都合だけに合わせて決めたものです.今回,カンクンで発展途上諸国が団結すれば,豊かな国は分断工作に没頭しました.またWTOのルールとは,各国政府よりも多国籍企業の自由を重視するものです.Monbiotから見れば,貧しい小国も,自分達に合った貿易や投資を選択できるはずです.すでに破綻した多国間投資協定の試みを復活させたことに憤ります.


WP Tuesday, September 16, 2003

Don't Rush to Disaster

By Fareed Zakaria

イラクをイラク人による正当な政府の統治に戻す,という点で,ついに全ての意見は一致した.しかし,何故今ごろ国連のアナン事務総長はイラク人による政府が,ボスニアでさえも6年かかったことを,イラクではたった1年でできると信じるのか? 統治評議会は政府になれない.彼らは互いに協力してイラクを統治する気が無い.イラクの経済はまだ機能しない.アメリカの軍事力,アメリカからの援助は,今後ともイラクで民主的政府が誕生するまで,死活的な条件となる.国民による政府を樹立する,という目標を追及してきた点で,アメリカはフランスに負けない.それが憲法であれ,革命であれ.そして,アメリカは,この200年間に5つの共和国と2つの帝国,1つの独裁国家を経験したフランス以上に,これを上手く行えるつもりだ.


WP Tuesday, September 16, 2003

Wall Street Wiseguy

By Richard Cohen

(コメント) アメリカの企業や組織の幹部は,強欲に駆られて,互いの報酬を引き上げつづけます.組織が大きく,取引額が大きければ,その上限は途方も無く高いようです.これこそ,コーエン氏のおじいさんが憤慨する記事でした.…

いつものように,私は閉じた窓から突然の隙間風を感じて目がさめた.カーテンが不吉にはためき,誰かが寝室に居るようだ.見るまでもなく,私はそれがずっと前に死んだ祖父の幽霊であると知っていた.彼は社会主義の思想と,彼が良識と呼ぶ知識を持つ移民であった.

「おじさんだね?」

「当たり前だ.K. Loだと思ったのか?」

K. Loじゃなくて,J. Loだよ.」

「それくらい知っとるわ!」と,彼は言った.新聞を持っていた.「お前はこのグラッソという奴を知っているか?」と新聞を指差した.

「ええ,知ってますよ.ディック・グラッソ.ニュー・ヨーク証券取引所の会長です.彼はおよそ1億4000万ドル(155億円)の報酬を受け取って,激しい非難を浴びています.スキャンダルですね,もしあなたがそれを尋ねるとしたら.」

「そんなこと尋ねとらん.」彼は反発した.「醜聞でもない.貧乏人は縛り首.自分で稼いだ金なら文句は無い.一体いつから,アメリカでは大金を稼ぐことが不正になったのだ?」

「余りに巨額ですよ.」と,私は言った.「彼が規制している相手の誰よりも多くの金を稼いだ.賢明な論説がどれも非難しています.正当な水準を越えている,と.新聞の言うことは常に正しいでしょう.」

…さて,おじいさんが憤慨したのは何に対してか,と言えば,どうやったらそんな大金を稼げるのか? ということです.自分の周りに真面目に働いてもそんな大金を得た者は一人も居ない.奴らは何の価値も無いもので,莫大な取引を行い,それから利益を得てきた.働く者,貧しい者,孤児や未亡人たちをエサに生きてきた.グラッソが問題なんじゃない.このシステムが間違っている.

いや,それは違うよ,とコーエン氏は反論します.しかし,少なくとも証券市場を外部の者が監督する必要は認めます.メディアは新しい監督に聖人を求めています.

それでもおじいさんは納得しません.ウォール街の外でも,企業の幹部は悪人ばかりだ.奴らは金儲けの点ではいつも共謀する,と.…聖人だって? 馬鹿な! 奴らが信仰しているのは市場だけだ.ウォール街とマフィアが違うところと言えば,そのスーツがピカピカかどうかだけだ.それを忘れるな!


FT September 18 2003

Asian currency manipulation comes under fire

By Alan Beattie in Dubai

FT September 18 2003

US companies must stop blaming China

By Chen Zhao

(コメント) IMFのケネス・ロゴフが言った喩えは見事です.要するに,「世界経済という飛行機は,エンジン(アメリカ)が一つしかないという意味で危険な飛行を続けているが,さらに車輪(ヨーロッパ)が一つしかないという意味で危険な着陸となる」,と言うわけです.

日本もヨーロッパも停滞しつづけるなら,世界経済の景気を回復するには,アメリカのエンジンが強く刺激されるしかないわけです.しかし,その場合アメリカの経常赤字が累積します.それは,いつか大幅なドル安を招くでしょう.もしアメリカの経常赤字を十分に減らすほどのドル安が実現するとしても,アジア諸国がドル安を受け入れずに介入すれば,ユーロだけが増価しなければなりません.それゆえ,ドルとユーロとの調整は非常に大きくなるでしょう.アメリカだけでなく,ヨーロッパの政治家も,アジア諸国に通貨の増価を受け入れて,中国政府や人民銀行をG8に参加させようと動き始めました.

他方では,中国に人民元切上げや関税を課すことは,アメリカからの資本流出やドル暴落,インフレ懸念と高金利をもたらし,現在の脆弱な株価上昇,景気回復をくじくかもしれない,と恐れる人も増えています.

両者の関心と利害,政治的なバランスが,内外で微妙な均衡を生じ,かつて日米間の政治家達が舞台の裏で手を握ったような,アメリカと中国との取引が行われるはずです.しかし,それが「プラザU」と呼べるようなものかどうか,その条件は異なると思います.

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The Economist, September 6th 2003

Asian currencies: Snow business

Stockmarkets: Looking up?

(コメント) スノー財務長官の人民元切上げ論は危険なゲームである,という判断です.@中国の銀行システムこそ危険だ.A輸出依存を続けて国内景気の過熱を無視するアジアの通貨介入は危険だ.Bアジアが購入する財務省証券をもてあそぶのは,アメリカにとって危険だ.

それは例えば株価です.アメリカの景気がヨーロッパや日本よりも早く回復し,より高い成長を実現できる,という予想は危険です.なぜなら,それは経常収支の赤字が更に増大することを意味するからです.アメリカの成長は,企業や家計,そして政府の赤字と債務に支えられています.巨額の資本流入が維持されるとしたら,それに見合って金利が高くなるか,資産が安くなる(すなわちドルが安くなる)しかありません.どちらの意味でも,株価が上昇することは無いのです.


Inequality: Would you like your class war shaken or stirred, sir?

(コメント) ブッシュ政権が行った富裕層に手厚い減税策や,失業の増加,所得分配の不平等化を,Krugmanや民主党の大統領候補は激しく批判します.しかし,The Economistは同意しません.@相対的にはより不平等でも,絶対的な基準で貧困は減っている.A賃金は増えなくても,消費は増えている.B格差は大きくても,所得を増やし,社会的に上昇する可能性は高い.Cアメリカの超富裕者は,ビル・ゲイツやスポーツ選手のように,その個人に帰属する.遺産として引き継いだ理由に拠らない.D失業や貧困が増えた理由は,他にある.E批判している者自身が,こうした不平等を上昇してきた.など.


World trade talks: The Cancun challenge

(コメント) The Economistの論調は,両面批判です.アメリカやEUの姿勢,日本の姿勢,発展途上諸国の姿勢に,カンクンの貿易自由化交渉が破綻する芽を見ています.何よりも,裕福な諸国は農産物補助金を削って,自由貿易の範を示すべきでした.アメリカは不況業種に輸出補助金を与えたことで,自由化を指導する資格を損なったはずです.ブラジルやインド,中国などが,世界の農民の60%を代表して自由化を求めました.それに対しても,The Economistは,発展途上諸国同士が自由化を行うことで大きな成果を得られるだろう、と指摘します.

その評価が大きく分かれる新分野のルール作りについては,明確な判断を示していないように思います.農産物保護に代わって,投資規制や競争力政策(反ダンピング規制)などが,アメリカや中国との交渉に重要な意味を持つでしょう.それは何よりEUや日本,韓国が求めたテーマのはずです.他方,アメリカは知的所有権や金融分野のサービス取引を自由化させようとします.一体,どこに開発や貧困解消の看板が生きているのか? と不安になるわけです.

開発ラウンドを呼びかけたカンクンは,結局,崩壊しました.