IPEの果樹園2003
今週のReview
9/8-9/13
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デジタル・カメラも良いけれど,撮った写真のネガが手元に無い.それでは不安だ,というので,取り出そうとしました.長時間(!)苦心した末に,データをパソコンに入れ,それをZipに移し,Zipを2階のノート・パソコンに持って上がり,そのノート・パソコンでCD−RWに保存できました.・・・これでいいの? もし,このまま,コンピューターに編み込まれた作業が増え続けるなら,私たちはコンピューターに付随する作業を担当する人々と,それを回避する人々に分かれるのではないでしょうか.
映画<マトリックス>のシリーズでは,世界がコンピューターに支配され,人間は乾電池として栽培されながら,頭脳への電子信号でさまざまな仮想生活に耽ります.コンピューターは支配や権力の手段となるでしょう.しかし,付随者と回避者とに二極化するというより,先端的かどうか,支配的かどうか,で各層内部の両極化が進むように思います.すなわち,@支配的回避者,A先端的付随者,B非先端的付随者,C被支配的回避者.
こうした社会では,集団化と同盟化の原理が変化し,分業や制度の改変は従来の社会を異なった境界で分割し,再統合化するでしょう.
浜名湖の近くで,友人たちとIPE研究会をしました.一応,共通テーマは「ワシントン・コンセンサス」.それは,ベルリンの壁やソ連が崩壊し,天安門事件が起きた1989年に,ワシントンと世界の開発・成長モデルが一致し,アメリカ政府・ウォール街・IMF=世銀による世界開発計画が広く支持された頂点で,マネタリストとケインジアン,他の非正統的言説が開発をめぐって和解した10年の成果を謳ったものだ,と感じました.
佐藤さんが訳したW.A.ルイスの紹介を聞きながら,私もその内容を思い出しました.無制限労働供給があれば,投資は大きな利潤を再投資に向けて急速に近代的部門(あるいは生産的労働)を拡大し,生産性を上昇させます.他方で,生産性上昇が輸出部門の拡大を支えるとしたら,その利益は輸出財価格の下落(もしくは交易条件の悪化)として,流出するでしょう.それゆえ1950年代のルイスや開発論の開拓者たちは,インフレによる強制貯蓄も,保護主義や補助金による輸入代替・輸出拡大も,決して貧しい国や世界に非効率をもたらす,とは考えなかったのです.
そんなことを,ウナギ丼を食べた後,歩きながら話し合っていました.ワシントン・コンセンサスは,おそらく,1979年から89年の開発モデルをめぐる世界的合意形成の試みでした.しかしそれは,核心における市場の安定化政策と国際間調整メカニズムという目標だけ残して,再び,全面的な論争と各地域の摸索に戻ったようです.
たとえば,今や自由貿易をゆがめるのは,一方で,金融市場によって決まる為替レートであり,通貨危機ですし,他方では,自国の失業率や政治的な事情を為替レートの水準に反映させようとする主要国の姿勢・政治圧力です.しかも,急速な技術革新や輸送コストの要らないコンピューター・ソフト産業,ますます増大する国際資本移動と国際移民が,比較生産費説の前提となった世界を侵食しています.
ある領土内で正当性を持つ政治的単位が,優先的に経済と社会の調整を組織する方が,世界単一市場より望ましいのはなぜでしょうか? 市場の調整過程を正しく理解し,それを政治的に受け入れ可能な形に転換することが代表政府の機能であるなら,比較生産費説はグローバリゼーションと市民社会とを繋ぐ政治的な空間を考えさせます.
トム・マクナブが書いた『遥かなるセントラル・パーク』を大いに楽しみ,満足して読み終えました.彼らはアメリカ横断6000キロを3ヶ月かけて走るのです.プロ・ランナー,失業者,イギリス貴族,踊り子・・・大陸を駆け抜けた彼らの感動にコンピューターは介在せず,彼らの心には国境も階級もありません.
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, CD:China Daily, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune
Aug. 27 (Bloomberg)
China's Central Bank Takes Away Punchbowl
William Pesek Jr.
FT September 1 2003
Snow in Asia
NYT September 3, 2003
Blaming Beijing
NYT September 3, 2003
China Resisting Pressure From U.S. Treasury Chief to Ease Its Currency Policy
By JOSEPH KAHN
CD 2003-09-03 07:55:19
US blaming of yuan misplaced
YAN XIZAO
NYT September 3, 2003
China Agrees to Eventually Allow Currency to Trade Freely
By JOSEPH KAHN
NYT September 4, 2003
Economic Worries in China as Companies Pile Up Debt
By KEITH BRADSHER
Sept. 5 (Bloomberg)
Snow Spotlights Japan's Hypocrisy on Yuan
William Pesek Jr.
IHT Friday, September 5, 2003
A stronger yuan could help China
Philip Bowring
(コメント) 中国経済の急成長を,人民元が安すぎるからだ,と非難する政治家が増えていますが,他方で,中国における不動産バブルと不良債権の累積を見れば,金融危機と国際的な波及の方が深刻な脅威だ,という声も強いのです.
しかし,もちろん,中国やアジア諸国が輸出を維持するためにドル安を嫌い,ドルを買って自国通貨の価値を抑えている限り,アメリカの経常収支不均衡はなかなか調整されず,しかも,アジア諸国ではドル建資産による外貨準備が累積します.輸出が伸びることを期待して,中国国内ではますます巨額の設備投資が行われ,富裕層の不動産や奢侈財の消費がバブルやインフレを招くかもしれません.
こうした循環の一角が崩れれば,中国企業は過剰設備とデフレ,銀行は土地や資産価格の下落と不良債権に苦しみ,直接投資の流入も途絶えるでしょう.中国が金融危機に至れば,アジア諸国や日本,アメリカ西海岸など,世界経済に深刻な影響を及ぼします.
貿易不均衡や失業が増加するのは,まるで人民元がドルに固定しているからだ,と言わんばかりの不振企業の経営者や労働組合,不況地域の主張に,アメリカ政府が便乗し,通貨政策を保護主義の代用品にするのは間違いです.中国に流出したオモチャ工場を,再びアメリカや日本が,国内で低賃金労働者を集めて,本気で再開したいのでしょうか? また,人民元の変動制移行や切上げに慎重な中国政府の姿勢は,通貨危機や金融破たんの続いたこの10年を見れば当然の配慮です.
しかし米中の利害は,金融改革と金融サービスの自由化において重なります.アメリカは為替レートの変動を円滑に処理する金融部門の改革や技術導入に中国と協力するでしょう.他方,中国も,国有企業や銀行の再編・整理に,一定の管理された形でアメリカ資本が参加することを,企業や個人の資本取引自由化に向けた条件整備と考えています.
他方,塩川財務大臣が人民元を非難する姿勢は,「円の価値を操作するために,多くのアジア諸国にとってそのGDPを越える市場介入をおこなっている」国の偽善を暴く,とPesek Jr.は憤慨します.人民元が安いと言うなら,日本円が安いことの方がアジア諸国に多くの損害をもたらす.それも,日本が国内経済改革を長く失敗してきたからだ,と.しかし,これほど大きく変動する円/ドル・レートに振り回されて,アメリカではなく日本だけが介入し続ける仕組みに疑問を感じます.
人民元を切上げることは,アメリカや日本の利益ではなく,中国にとっても利益なのです.国債政策協調の条件は,それが双方の利益を増大させることです.アメリカや日本が失業(特に製造業の貿易部門)やデフレに苦しんでいるとすれば,中国は国内の行き過ぎた金融緩和を抑制し,金融改革を進めたいと考えているのです.人民元高は,もちろん中国国民の消費水準を安価な輸入品で引き上げ,周辺のアジア諸国にも通貨の増価や金融政策の余地を与えるのです.
FT September 1 2003
Winds of change will follow Snow in Beijing
By Hugh Peyman
ジョン・スノーの北京訪問は,1989年の天安門事件後に,父のブッシュ大統領がスコークロフトを秘密訪問させて以来の,最も重要な米中会談である.それは1973年に毛沢東とリチャード・ニクソンの歴史的怪談を準備したキッシンジャーの行動にさえ比肩しうる.米中は長期的な4つの長期的問題を話し合うだろう.@人民元切下げ,A原油調達,B貿易不均衡,C北朝鮮.
選挙を意識するブッシュ政権と,権力確立を目指す中国の新しい指導部が,最も重視するのは通貨問題だ.アラン・グリーンスパンが上院で証言したように,中国は国内経済を危険にさらすことなく固定レートを続けることはできない.中国がドル建の準備資産を累積することは持続不可能である.なぜなら,それは中国の通貨システムを機能できなくするから,と.
中国の官僚たちは,財であれ,サービスであれ,通貨であれ,市場が機能しないことの問題をよく知っている.グリーンスパンの警告に対して,中国は人民元の安定性を擁護した.しかし,「金融改革を進めるに連れて,人民元為替レートの決定メカニズムを完成させる」と答えた.
こうした考え方は以前から中国の中央銀行にあり,2001年のAPEC上海大会前に,江沢民が切上げを発表する手はずとなっていた.しかし,9・11によって,またアメリカの不況と中国の輸出減退を懸念して,非常に重要な第16回全国人民代表大会までに,こうした危険な決定は行えなくなった.
しかし,大胆な発想と果敢な行動を中国の指導者は選択できる.ケ小平が市場改革を進め,毛沢東がニクソンと同盟を結んだように.彼らは,長期的な利益を目指して,短期的なコストを犠牲にできる.新指導部が同様に大胆な選択を示すかもしれない.すなわち,第2プラザ合意(プラザU),である.
もちろん,今回の米中会談で多くのことが示されはしない.しかし,穏便な切上げ,たとえば10〜15%の対ドル切上げを,2004年半ばまでに行うのではないか.それから,その影響を分析して,2005年から2006年にかけて,さらに10%の切上げを行うかもしれない.それとともに,人民元をユーロや円を含むバスケットに固定し,変動の幅(バンド)も拡大するだろう.
アメリカの選挙を考慮すれば,そこで失業や中国への雇用流出が争点となるから,ブッシュ大統領は人民元の切上げで得点できる.中国もブッシュ氏も,いますぐ切上げることは望んでいない.そんなことをすれば,2004年11月までに,雇用や外貨準備にとって,僅かな切上げが重要でないと分かるだろうから.
中国でも,学者たちはすでに累積する外貨準備の必要性を疑い始めている.中国政府は今も,切上げを全く拒否している.しかし,政府はいつもそう言うものだ.彼らの言うことを信じてはいけない.
NYT August 27, 2003
U.S. Corn Subsidies Said to Damage Mexico
By ELIZABETH BECKER
FT August 28 2003
Held hostage by the anti-development round
By Robert Hunter Wade
(コメント) WTOが自由貿易を実現しようとしても,豊かな国の農産物市場は貧しい国に対して閉ざされています.貧しい国が生産できる,限られた商品のいくつかが,こうして世界貿易から締め出され,世界の貧困を悪化させている,という批判が起きます.それは農民たちが悪いのでしょうか? あるいは,彼らの弱さを選挙基盤とする政治家たちの企みでしょうか?
一日1ドルか2ドルで生活する農民たちが,アメリカからの安いトウモロコシの流入で市場を失います.NAFTAによって流入するアメリカのトウモロコシは,100億ドル以上の補助金を得て,生産コストを大きく下回る価格で販売されるからです.ところが,アメリカの農民はメキシコの低賃金や安い土地に比べたら,補助金なんて問題じゃない,と反発します.
Oxfamの報告書「国境無きダンピング:アメリカの農業政策がいかにメキシコのトウモロコシ農家の生活を破壊しているか?」やthe International Food Policy Research Instituteのパンフレット,世界銀行の分析などが,裕福な国にできる最も有効な貧困救済策は,農産物補助金を止めることだ,と指摘します.なぜなら,それは貧しい農民の作る作物の価格(それゆえ所得)を引き上げ,市場(それゆえ雇用)を拡大するからです.
Wadeは,WTOにより発展途上諸国が豊かな国の農産物市場に参入できるなら,それは望ましいだろうが,同時に,工業化して産業基盤を拡大しなければ,特定の商品作物に偏った経済構造を強め,交易条件の悪化に苦しむだけだ,と指摘します.もちろん,それは1950年代の開発論が見ていた問題です.
ところが,WTOは発展途上国が工業化する手段を奪います.Trips,Trims,Gatsにより,特許や技術,ブランド,などの知的所有権や,金融,情報,観光などのサービス取引を世界的に管理し,部品を国内に求めよとか,特別な免税措置や補助金を与えるような,投資に関する各国の差別的取扱いを禁止するからです.それこそ,今の工業諸国が,また,これまで東アジアや中国が採ってきた開発政策でした.
保護や産業政策は,いまでも裕福な国が国内で多用し,その影響は貧しい諸国に及んでいます.貧しい諸国が経済構造を改め,活性化するときにだけ,多国籍企業や銀行の利益を守り,市場の開放を強制するようなWTOの姿勢こそ,農産物自由化交渉以上に問題だ,とWadeは考えます.
The Guardian, Tuesday September 2, 2003
The worst of times
George Monbiot
世界は革命前のフランスのようだ.正確な統計は無いが,今日ほど分配の較差が大きかったとは思えない.世界で最も裕福な5%の人々が,最も貧しい5%の人々の114倍を得ている.世界の最も豊かな500人は1兆5400億ドルを所有しており,アフリカの全GDPよりも大きい.
現在も,当時と同じように,貧しい者の苦しみは豊かなものの穢れた奢侈と対応し,それでも世界の貴族たちに雇われた連中が,大学やシンクタンクや新聞,雑誌で,この世界が可能な最善の世界であると賞賛する声を聞く.訴追も裁判も無いまま囚人となった者がひしめくグァンタナモ基地は,現代のバスチーユ監獄だ.
ヴェルサイユの宮廷のように,世界の富と光輝に包まれた新しいアンシャン・レジームは,飢えのはびこる悪臭のスラム街から遠くない,メキシコのカンクンにおいて,世界貿易会議を開く.晩餐会やシャンペンが続く中,会議を主催するパスカル・ラミーとロバート・ゼーリックは,貧者たちの訴えを,もったいぶった傲慢さで退ける.革命前と同じ腐敗,同じ対称が,ここにある.
その意図からして,非現実性がWTOの宣言を支配する.議長は,開発の問題こそ交渉の核心だ,と述べる.貧しい諸国を助け,貧困を解消したい,と.しかし,あらゆる点で反対のことをしている.貧しい者の要求は省みられず,豊かな者の要求は無慈悲に追求される.
たとえば,貧しい国は関税を引き下げるように求められ,それを実行した.貧しい国は豊かな国からの多国籍企業を受け入れた.しかし,豊かな国は農産物関税や補助金を撤廃しなかった.「開発ラウンド」と称して彼らが求めるのは,外国の企業と国内企業とを同様に扱い,貧しい国の公共サービスも多国籍企業が行いたい,ということだ.貧しいゆえに,経済の全てを売り払う.
たとえWTOがどれほど腐敗していても,多角的な国際機関として,貧しい諸国は集団的な交渉力を発揮できる.それさえも豊かな諸国は嫌い,もっと効率的な意思決定や,交渉が決裂すれば,個別合意を目指す.
しかし,フランスがそうであったように,それはいずれ革命をもたらすだろう.革命が起きるのは,世界的な生存の危機が,たとえば穀物の不足や,化石燃料の不足が,現れたときだろう.この新しいアンシャン・レジームが崩壊するまで,フランスの貴族がしたように,豊かな者は貧しい者から奪い続ける.
NYT August 27, 2003
Japan Is Spending Heavily to Pursue a Weak-Yen Policy
By JONATHAN FUERBRINGER
FT August 31 2003
The yen is the Asian currency to watch
By Michael Newton
(コメント) なぜ円/ドル・レートを日本は操作できるのか? その介入規模が余りに巨額で,ヘッジ・ファンドも嫌がったのか? 日本の景気回復に他の適当な手段が見当たらず,アメリカ政府は長期金利の上昇を抑えるために,日本による債権購入を容認したからか? 基本的に,主要通貨の中央銀行が為替レートを安くしたいと望めば,それは誰にも止められない,ということでしょう.
しかし,見ようによっては,アジア通貨全体が増価を拒否しているようにも見えます.Newtonはこれを,日本が主導した「コンボイ・システム」(アジア通貨の護送船団)だと指摘します.世界の景気が回復しなければ,アジア諸国は通貨の増価を許容しないでしょう.しかし,介入によって増価を抑えれば,国内でインフレが起きるか,不胎化して介入し続ければ金利が上昇し,資本流入が起きます.為替レートを長期にわたって操作することはできないのです.
中国の通貨は,しばらく,為替市場の圧力や周辺の政治的不安定性から影響を受けることが少ないでしょう.だから,この成長と為替レートとのジレンマを束ねるのは,日本の景気回復と為替政策である,とNewtonは考えます.もし日本が景気を回復し,円高を容認できれば,アジアのコンボイ・システムは動き出す,と.
FT August 28 2003
The Manchurian candidate
By David Hale
アメリカは,前例の無い経常収支の赤字を出しながら,どのようにして超大国の役割を果たしうるのか?
統計によれば,今では世界の外貨準備の70%を東アジア諸国が占める.それは1970年代前半に21%,1990年でも30%でしかなかった.アメリカが巨額の対外赤字を出せるのは,東アジア諸国の中央銀行が1兆6000億ドル以上も使ってドルの為替レートを維持してくれるからだ.彼らのほとんどが外貨準備の8割から9割をドルで持つ.中国と香港は過去17ヶ月に960億ドル,日本は5月以降500億ドルを購入した.
ヨーロッパからアジアへの黒字国のシフトは,アメリカにより大きな行動の自由を与えた.1960年代には,フランスとヨーロッパの同盟諸国がアメリカの政策を批判した.当時,彼らは世界の外貨準備の40%を保有し,東アジアはわずか21%であった.
フランス人は,ドルの準備通貨としての役割がアメリカの覇権を強めている,と考えたのだ.アメリカ企業のヨーロッパの企業を買収して急速に拡大し,アメリカは経常赤字にもかかわらずヴェトナム戦争を続けていた.フランス政府はドルを売って金に換えることで,ワシントンを脅迫した.アメリカの軍事的防衛コストの見返りにブンデス・バンクがドルを累積していたドイツも,この批判に加わった.
フランスとドイツの批判は,民間のドル売りを招き,金1オンス35ドルの固定レートで金との交換を約束していたアメリカ政府を苦しめた.ヨーロッパのドル売り圧力を抑え込む3年の外交努力を経て,アメリカは1971年にブレトン・ウッズの固定為替レートを放棄した.なぜならアメリカは,この制度がアメリカの経済政策や軍事支出を制約することを嫌ったからだ.世界は変動レートに移行したが,それとともに高度にインフレ的な通貨政策が採られ,1973-74年には原油価格が4倍に上昇した.
ヨーロッパ諸国はアメリカが変動制に移行したことを不快に思ったが,アメリカの持続的な国際収支赤字を非難することで,むしろそれを加速した.第二次世界大戦から20年間は,アメリカの赤字が世界に好ましい流動性を供給した.その後,アメリカの過大な金融権力に対する不満が強まってきた.
30年経って,ワシントンは東アジアの中央銀行にその支持に対して感謝を示してこなかった.イラク戦争を支持した日本に対して,ジョン・スノウ氏と財務省は為替レートの安定化介入を是認した.しかし,中国には通貨の切り上げを求めた.彼らは対中貿易の赤字増大を重視し,日本を上回る中国の不良債権問題や,WTO加盟による輸入の急増を無視したのだ.
東アジアとアメリカとの高度な経済統合化により,中国や他のアジア諸国がドルの準備資産をワシントンへの外交的武器に使うリスクを抑制する.アジアの外貨準備がもたらす新しい金融的勢力均衡は,アメリカの外交政策にとって非常に有利に働くだろう.中国は外貨準備をユーロや金に換えると発表して,意図せずに,通貨危機を引き起こした.しかし,1050億ドルの貿易黒字を出して,アメリカの消費拡大を望む限り,1960年代のフランスのようには行動できない.
東アジアの中央銀行がいつまでドルを買い支えるのか,その点は不明である.1980年代後半に,日本は通貨政策をドル買い支えの犠牲にし,1990年代の長期不況をもたらすバブル経済に至った.中国のドル買いは,今や通貨供給を20%で拡大し,大幅な資本のミス配分をもたらす投資ブームが起きている.
アメリカの権力を守る為の財政政策や外交政策が,中国と日本に新しい金融的相互依存をもたらすのは皮肉な結果である.両国は再選の統一候補としてブッシュ氏を押すかもしれない.アメリカの国際経済関係により大きな透明性を要求し,中国と日本の中央銀行を共和党の支持者に登録しても良いだろう.
* 旅行前で時間が足りず,ノート・パソコンが故障しました.要約できません.悪しからず.
FT August 28 2003
Chinese checks
NYT August 28, 2003
China's Growth Creates a Boom for Cargo Ships
By KEITH BRADSHER
CD 2003-08-28 08:00:02
Step forward in securing rights
XUN FENG
(コメント) 中国は,巨大なエンジンとなりました.アメリカ西海岸がその回転によって潤い,ブレーキ・ペダルも踏めるように中央銀行は練習します.あるいは,都市の開発に酷使されてきた農村の労働者にも,政府は主要都市の連絡体制によって,労働条件を保護し,改善する仕組みを模索します.
LAT August 29, 2003
Deepening Doubts on Iraq
LAT August 30, 2003
Increasingly, U.N. Is Needed
NYT August 31, 2003
Policy Lobotomy Needed
By THOMAS L. FRIEDMAN
NYT August 31, 2003
Who's Losing Iraq?
By MAUREEN DOWD
NYT September 3, 2003
Nice War. Here's the Bill.
By DONALD HEPBURN
BG, 9/4/2003
UN role won't fix the US mess in Iraq
By William Pfaff
LAT September 4, 2003
Iraq Mire Is a Global Issue
NYT September 4, 2003
A Bigger U.N. Role in Iraq
WP Thursday, September 4, 2003
Back to the United Nations
BG, 9/5/2003
Appeal to UN for help in Iraq is long overdue
By H.D.S. Greenway
(コメント) アメリカは国連において支持されない戦争を行い,勝利したとはいえ,その後の占領において十分な戦略を欠いていたようです.イラクの社会が自立して,経済状態を回復できなければ,占領を解除して逃げ帰っても,反米政権が成立する恐れがあります.
社会生活の自立化と経済取引の活性化に向けて,各地域の治安維持や社会インフラの再建にはイラク国民がもっと活躍できるはずです.アメリカではなく,むしろ国連が中心となることで,イスラム諸国の援軍を組織し,イラク国民の自治組織を支援し,EUや日本からの財政支援と経済取引がアメリカ以上に増える可能性があると思います.
アメリカ政府は独裁者を追放するために,テロリストや大量破壊兵器の拡散を防ぐために,経済制裁よりも軍事力の行使を選択しました.9・11以後の安全保障に対する主要諸国の関心と姿勢の違いは,国際協調の枠組みを深く傷つけましたが,イラク占領を合意する可能性もあったはずです.
パレスチナ,コソボ,ルワンダ,シエラ・レオネ,…アフガニスタン,イラクでは戦争がまだ始まったばかり,ということでしょうか?
FT September 3 2003
Cool countries prosper
By John Kay
FT September 4 2003
The lucky country
By John Plender
(コメント) なぜ豊かな国は涼しく,貧しい国は暑いのか? とKayは尋ねます.これはヨーロッパで熱波が収まりかけたときに,こんなに暑くちゃ経済活動も成り立たないよ,と誰もが答えたであろう質問です.しかし,Kayは,熱波が経済活動に与えた影響は小さい,と考えます.熱波によって損なわれた活動もあれば,刺激された活動もあるからです.まさに市場が適応するわけです.
Sachsがアフリカの貧困を病気やエアコンのせいにしたのは,私も首をかしげた主張です.さらに,Kayは農業の違いも原因ではない,と否定します.病気でも,気温でも,農業でも,それが貧困を意味するのは,貧困の原因ではなく,技術や制度が発達しなかった結果である,と.彼は,経済発展に好ましい環境を探すより,ヨーロッパで発達した市場経済が世界に拡大した移民の流れを説明原理と考えます.ヨーロッパからの移民は,自分達の気候と似た地域か,より温暖な土地へと移住したわけです.それとともに,経済発展の源泉となる技術や社会制度も移植されました.
もちろん,植民地化され,あるいは今でも貧富の格差を押し付けられている人々から見れば,いささか能天気な説明です.
たとえば,オーストラリアについて,Plenderは交易条件が改善し,資本流入が維持できることを,他の先進諸国を越える成長の理由と考えています.中国などのアジア経済の成長は,二重の意味でオーストラリアの交易条件に有利でした.一つは,彼らが資源を必要としたこと.二つには,彼らが工業製品を安くしたことです.これによってオーストラリアの生活水準は上昇しました.
また,オーストラリアは先駆的に独立した中央銀行によるインフレ目標を掲げてインフレ期待を制圧し,財政の均衡も実現しました.その高い成長率が有利な債券を発行して,世界から資本と技術を安定して吸収できる条件ができたのです.もちろん,こうした変化はオーストラリアが温帯か亜熱帯に属することと関係ありません.
FT September 1 2003
The emerging truth of going global
By Eswar Prasad and Kenneth Roggoff
(コメント) IMFが通貨危機や資本自由化について修正した意見を,実証的に確認でした,という趣旨の記事です.金融統合によって成長は加速するが,通貨危機のリスクも高まる,という,これまでの経験が整理されています.それに対して,腐敗が少なく,金融監督の確立された国では,こうしたリスクが抑制できる,というのがIMFの回答です.
資本自由化を選択的に行って,成長の源泉として取り込む一方,危機の源泉としては隔離する,そんな政策や制度を設計したい,と思うのは共通の目標です.
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The Economist, August 23rd 2003
Budget deficits: Dicing with debt
Budget deficits: The rising tide of red ink
(コメント) 不況の時期に財政赤字を増やして景気を刺激することは,もし好況の時期に財政黒字を確保できるなら,責められることではありません.もし責められるとしたら,好況の時期に幸運がもたらした黒字を過度の投資や減税によって消尽し,不況になっても債務を増大して過大な消費や債務を支えるような,長期的見通しの無さが,また,同じ景気刺激策であれば,もっと貧しい労働者に向けた,雇用を拡大するような減税や投資促進ではなく,富裕層への減税や戦費によって赤字を増やしたことが問題なのです.
The Economistは,こうして財政赤字を擁護しながらも,アメリカやヨーロッパや日本が,景気循環,成長率,年金,資産の保有者など,様々な点で正確な評価を必要とすることを強調しています.
Homelessness: Gimme a roof over my head
(コメント) アメリカでも日本でも,多くのホームレスが居ます.The Economistは,それが一つの問題ではなく,慢性的なホームレスと経済的苦境によってホームレスになった者,という二つの問題と見ます.住宅政策や福祉政策,地方の財政問題など,ホームレスをもたらした要因は様々です.理想としては,彼らに満足な住居と雇用の機会,職業訓練を与えるべきでしょう.身体や精神に障害があって,労働に耐えられない者は,家族や地域社会が面倒を見てきました.こうした相互扶助を解体したのは,しばしば経済的苦境であったのです.