IPEの果樹園2003

今週のReview

9/1-9/6

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ガザ地区に侵攻したイスラエル軍の戦車やヘリコプターに素手で立ち向かう若者たち.ミサイルによる反対派の指導者暗殺.イラクのバクダッドでは国連事務所の建物が崩壊し,ナジャフでは親米的なシーア派指導者と信者約100名が爆殺される.そして大阪では,もっと殺しておけばよかった,と放言する宅間守の冷血.・・・ペットのホテルは一泊2万4000円?

マンガや週刊誌,風俗ドラマではなく,現実そのものが妄想や悪夢に乗っ取られたような,それゆえ,現実だという感覚も失ってしまう毎日の情報に接し続けると,人間の感情や動機,合理的説明の質が変わってくる・・・ なんてことは,ないでしょうか?

菊地秀行の『淫殺街 コマンド・ポリス』を読むと,新しい麻薬「エンジェル・ダスト」や,東京という巨大都市そのものが,人間を狂わせる仕掛けに使われています.人々は,一瞬の激情に駆られて暴力を振るい,復讐のために薬や武器を乱用します.

<東京>では,殺人と破壊が日常的に行われ,暴力団が乱立し,抗争し,殺戮を極めます.しかし,実際には暴力団ではなく,誰もが略奪のため,征服のため,セックスのため,人殺しの快感や,自分が敗者や奴隷ではなく,生きていることを実感するために,暴発し,凶行に走ります.都市の育てた,肥大した妄執に憑かれる砂状の個人は,何を欲するか? ほとんど全ページが,流血と性行為の描写に費やされています.

ポール・アードマンの『無法投機』を読んで,金融市場と投機が結びつく暗黒面に納得しました.投機の蔓延する社会では,情報や時間だけが「富」を創る,という思想がはびこり,富を持つことが「理性」や「支配」を証明し,正当化する,という傲慢がともないます.

サルディニア島の資産家貴族から大金を預かったスイスの弁護士,ツビーバッハは,高級倶楽部に集まったヘッジ・ファンドの「天才」運営者,ボンビルが断言した金価格の上昇に賭けます.ボンビルが金相場の急落に注目し,今こそ,金を安値で買い戻すべきだ,と告げたからです.なぜか? 「インフレの再燃が懸念されるからです.」 だれが懸念するのか? 「米国の通貨当局です.」 どうして,それがわかるのか?

ボンビルの説明(もちろん,アードマンの考えた説明)は見事です.FRBは政策を転換したがっているからだ,と.「FRBはインフレを抑えるために,もう一段の金利引上げを行うと,誰もが予想していました.ところが,いま,FFレート,公定歩合のいずれも引き下げようとしています.なぜでしょうか? そうしないと現在のアメリカ経済の回復がつまずく恐れがあると考えたからです.」FRBに加えて,欧州や日本の中央銀行も,リセッション(不況)を恐れています.世界各国で金利が下がり,投資家たちは,中央銀行がもはやインフレ抑制を放棄した,と結論します.だから,インフレ・ヘッジとしての金が買われるだろう.金価格は上昇する! と.

ここで欲望や狂気を解き放つのは,先物やレバレッジ,スイスの秘密口座,タックス・ヘイブン,フロント・ランニング,などです.ツビーバッハは金の先物を買いますが,一時的に急騰した後,金価格は下落し始めます.彼は心配になって,友人のスイス国立銀行総裁兼BIS総裁のシュバイツァーに電話します.あいにく,FRBは金利を下げずに上げることを,シュバイツァーは知っていました.そして,ツビーバッハが預かっている口座の持ち主が,自分と愛人とを結び付けたサルディニアの貴族であることも知るのです.

彼らは通貨市場の投機によって莫大な富を得ますが,BISの監視チームが不正取引に気付きます.中央銀行総裁の絡んだインサイダー取引が発覚したとき,貴族はツビーバッハとシュバイツァーを殺させます.まさか,こんなこと無いだろう? とは言えません.インサイダーや会計操作は,ベアリングズ銀行のニック・リーソンに限らず,どこでも起こることだからです.

ブック・オフに行くたびに,峰隆一郎の<人斬り弥介シリーズ>を買ってきました.既に12冊! 小田丸弥介は浪人を斬るため奉行所に雇われた人斬りです.一人目を肩から腰まで斬り離し,二人目は腰から上下を腰断し,三人目の首を飛ばし,あるいは手足や頭蓋骨の鉢を飛ばします.妻子を人質に取られたまま,何百人も斬り殺しては,女を抱きます.

ウォシャウスキー兄弟の『マトリックス・リローディッド』では,欲望も殺人も幻です.

これらが現代の『ファウスト』なのです.この世は欲望を充足するためのゲームだ,と子供たちに教えるのは間違っています.たとえ,それが合理的であっても.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, CD:China Daily, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune


The Guardian, Tuesday August 19, 2003

Poisoned chalice

George Monbiot

(コメント) ハンガリーという国の富を,そっくり奪ったのがIMFだ,とMonbiotは批判します.なぜ,アジアでも,ロシアでも,ラテン・アメリカでも,東欧でも,同じことを繰り返すのか?

Pongrac Nagyがハンガリーに関するIMFの介入を研究した結果,ハンガリーが以下に間違った選択をしたか,とMonbiotは嘆きます.なぜなら,IMFは崩壊した共産主義システムに対して,急激なインフレを警戒し,厳しい引き締め政策を求めたからです.ハンガリー政府には経済運営の知識がなく,IMFによる資本主義の導入を信用しました.

IMFがハンガリーに求めたのは,通貨供給を抑制し,融資を減らすこと.外国資本に国境を開放し,公的な資産を売却すること.政府支出を削減すること,でした.その結果はどうだったか? まず,VAT導入や補助金の廃止でインフレが抑えられず,IMFはありもしない「超過需要」をさらに抑制しようとします.金利は高騰し,売上げが減り,融資は減って,企業も銀行も破産しました.1990年から93年に,GDPが18%も減少した,と言います.

IMFは,しかも,対外債務を削減することなく支払い続けるために,財政支出を削り,国有資産を民営化します.その結果,経済部門全体が,外国企業や銀行に身売りされた,とMonbiotは憤慨します.労働人口の30%,150万人が職を失い,雇用されているものの賃金も21%減少し,年金は31%減った.

この政策は1996年,何の説明もなく,突如,転換され,金融緩和と生産が急速に回復します.つまり,IMFの薬を飲んだ途端,患者は激しい苦しみと衰弱を続け,薬を捨てた途端,急速に健康を回復したわけです.アジアでも,東欧でも,IMFの薬を拒んだ国(マレーシア,ポーランド,中国)は,このような激しい症状を免れました.

なぜ,繰り返し,このような狂気が受け入れられるのか?  Monbiotは,二つの理由を挙げています.@決定が秘密に,しかも,各国の自主的な決定(もちろん,本当は強制)として行われた.AIMFは,1ドル=1票制の決定システムであるから,その国の豊かな者,国際金融コミュニティーの声を強く反映する.

ツツ大司教は,かつて,こう述べたようです.「宣教師たちがアフリカに来たとき,彼らは聖書を持ち,われわれは土地を持っていた.彼らはこう言った.「さあ,目を閉じて,祈りましょう!」 われわれが目を開けると,彼らは土地を持っており,われわれは聖書を持っていた.」 ハンガリーも,IMFの修道士たちがもたらした正統派の経済学を受け入れた.目を開けると,外国の企業と銀行が国を支配し,労働者は絶望的な状態であった.Monbiotは,こうした過ちを繰り返させてはならない,と主張します.


WP Tuesday, August 19, 2003

Bush's Neverland Economics

By David Ignatius

(コメント) アメリカの財政制度として,連邦政府は赤字を出せば債券を発行できますが,各州は基本的に単年度で予算を均衡させなければならないようです.これは当然,財政による景気循環の悪化を予想させます.なぜなら,不況によって税収が減れば,州政府は支出を減らすからです.

ブッシュ氏は大幅減税も,イラクの戦費も,都合のよい予想と楽観論で先送りできますが,各州の財政はすぐに均衡しなければなりません.しかも,その大部分は学校や病院など,容易に削ることのできない支出です.彼はイラクとワシントンD.C.の,すなわちネバーランドの大統領だ,と批判します.その一方で,アメリカ各地の学校は校舎を修理できず,病院は閉鎖され,刑務所も劣悪で脱走者を増やし,高速道路が穴だらけになります.

アルカンサスの知事は保守派の共和党員ですが,連邦政府に病人や老人の面倒を見ろ,と激しく要求する姿はニュー・ディーラーです.これに対してワシントンの陽気なイラク予算は,今後3年間で1000億ドルの支出を見込んでいます.ただし,ブルッキングズ研究所は3000億〜4500億ドルを予想します.ヴェトナムの教訓をたった一つ上げれば,それは戦争を始めれば財政負担は莫大であり,増税しなければ,激しいインフレを招く,ということです.

それでも,ブッシュ政権だけは経済法則の外にあるようです.選挙までは何でもする.後の結果は何とでもできる.


FT August 20 2003

America or oil?

アメリカ東北部とカナダが大停電で騒いでいるけれど,アジアのエネルギー危機はどうなのか? 東京の官庁街は電気を節約して冷房を止めて我慢し,上海では製鉄所や自動車工場が電力不足に合わせて生産調整する.

日本や中国は,どうやってアメリカの戦略的な利害を損なわずに,自分たちの中東原油に対する依存を減らすことができるだろうか? この問題は,イランと契約しようとした日本企業に対して,アメリカ政府が警告を発したことで明白になった.アメリカはイランの核開発を牽制している.

原油の大量消費国は産油国に対して甘くなる.たとえアメリカが日本を阻止しても,イランは中国と契約できる.既にシベリアの油田をめぐって,日本と中国は争奪戦を繰り返している.原発は政治論争になるし,インドネシアの天然ガスは不安だ.今後とも,中東の原油をめぐって,アメリカの外交・安全保障政策とアジアのエネルギー不足は切り離せない.


Aug. 21 (Bloomberg)

Japan Grapples With Financial Cannibalism

William Pesek Jr.

FT August 21 2003

Is Japan's sick economy at last making a recovery?

By David Pilling and Barney Jopson

(コメント) 日本の株価が上昇すれば,国債を売って資金が株式市場に向かう.しかし,それは金利を上昇させる.しかも,さらに資金が海外から還流すれば,円高になる.もし,国内需要が自律的に回復し続けなければ,株価上昇は次の暴落につながります.株安,債券安,円安.・・・まるで,経常収支赤字や対外債務を抱えた発展途上国や,アメリカのように? 赤字でも,黒字でも,資本が国境を越える時代には起きるようです.

Pesek Jr.はこれをFinancial Cannibalism,あるいは「巨大な椅子取りゲームa big game of musical chairs」と呼びます.投資家同士が互いに食い合い,政府がすることと言ったら,借金の付けを支払わず,たらい回しにして先延ばしし,改革が必要なくなるのを待っているだけだ,というわけです.もし回復するとしたら,@金融システムを整理し,A世界的に見た企業の競争力を再生し,B改革によって日本の持続可能な成長率が高まった,と投資家たちが革新できたときです.

たとえアメリカやアジアの需要が拡大しても,日本への刺激は抑えられます.輸出が伸びて,円高や株高,金利上昇が起きるからです.日本の投資環境はゼロ・サム・ゲームだ,とPesek Jr.は言います.どこかが上がれば,他を潰す.たとえ株価が上昇しても,債券は下落し,日本経済は回復しない.

「お盆」のことを Festival of the Dead” と呼ぶのは,どうも変ですが,Pilling and Jopsonの論説は強気の見方を的確に示しています.日本の株価上昇が持続すると考える主な理由は,@大蔵省と日銀の官僚のトップが替わった.そして不胎化介入による金融緩和が実施されている.A企業の改革・整理が進んだ.中国の生産拠点拡大などで,デフレを競争の利点として取り込み,資源再配分を進めている.B円高が輸出や景気回復を妨げないように,通貨当局は大幅な介入を続けて,市場にその意志を明確に示した.Cしかも輸出だけでなく,国内需要,特に消費が拡大している.日本人は貯蓄よりも生活水準の維持を重視し,政府は「りそな銀行」救済で安心感を与えた.

しかし,不安要因は決して無視できません.デフレは成長を蝕んでいますし,日本の人口減少・労働力減少が成長を抑えるでしょう.にもかかわらず,政府は巨額の財政赤字と公的債務を,今は,低金利で維持しています.


The Guardian, Wednesday August 20, 2003

Arrogance of empire

Paul Foot

(コメント) ポンペイは,ローマ帝国で最も栄えた都市でした.Footは,イラクや停電に見舞われたアメリカもしくはイギリスで政府を,同じ「帝国の傲慢さ」による破局の兆しと見ます.おそらく,Footが主張するのは,社会の利益と企業の利益は一致しない,ということです.サッチャーが国民の資産を売却し,一時的な,しかし莫大な利益を実現した民営化に対して,国民が本当に必要とする水や電気を長期的に供給できなくなる,と言って激しく反対した当時の若い労働党議員は,今やイラク戦争を導き,民営化を継承した,トニー・ブレア,その人です.


NYT August 20, 2003

How America Created a Terrorist Haven

By JESSICA STERN

(コメント) ブッシュ政権は世界から取り除くと宣言したテロの温床,揺籃の土地を,大規模に再生しています.軍事介入は一時的に独裁者の追放を演出しました.しかし,その後の勝利は幻です.アメリカは戦争する能力ではなく,治安を維持し,正統な政府を組織し,民衆の生活を回復させる能力を欠いているのです.イラン・イラク戦争の間でも,国民は水や電気を心配していなかった.ところが今や,彼らの心配は,娘が通りでレイプされ,息子が市場で誘拐され,あるいは自分も爆弾テロに巻き込まれることです.

職の無いまま,乞食か略奪によって生きる人が増えるばかりです.もちろん,彼らはテロリストの温床です.宗教的指導者の中でも,穏健派より急進派が台頭し,資産家はアメリカの占領を嫌って反米運動に寄付します.絶望した若者たちはテロ集団の組織に就職します.アル・カイダの影響力は強まっている,と言います.

テロの原因は一つに絞れませんが,社会から孤立し,恥辱を強いられ,政治的にも経済的にも機会が閉ざされている,と絶望した若者の中から,テロリストは生まれます.彼らは過激な主張に影響されやすくなり,政府が弱体化して,「聖戦」に資金を提供する者がいれば,爆弾を抱えて走るのです.

それゆえ,彼らと戦う最善の方法は,過激な宗教・政治思想や彼らの運動を大衆から切り離すことです.アメリカにできることは,治安を回復し,イラク人による政府機能を再生することです.彼らに仕事を与え,他国からの援軍を増やして,占領はアメリカによる石油の略奪だ,という過激派の宣伝を孤立させることです.アメリカの主張と行動は,アル・カイダよりも好ましい,と人々が信じるように.


FT August 21 2003

Euro-scepticism

Aug. 27 (Bloomberg)

A Swedish `No' Would Be a Heavy Blow for the Euro

Matthew Lynn

(コメント) デンマーク国民が “No” と言ってEMSが崩壊しました.今度はスウェーデン国民(あるいはイギリス国民)が “No” と言ってユーロを解体するのでしょうか?

スウェーデンのGoran Persson首相は,ユーロ採用を求めて国民投票を9月14日に行いますが,その結果は予想される限り,反対です.スウェーデンの人々はユーロを利用しないままで公共とインフレ抑制に成功しており,わざわざユーロ圏で不況の仲間入りをしたくない,ということです.そこで,首相は戦術を変え,経済的な利益よりも,否決した場合の政治的なコストを強調しています.EUにおいて完全な発言権を持つには,また,スウェーデンにとって重要な中東欧のEU参加に自分たちの意見を反映させるには,ECBにも席を得ておく必要がある,というわけです.

このままスウェーデンやイギリスが参加を否決されれば,ユーロは非加盟の三カ国と長期(永久?)に分裂してしまいます.しかも,彼らの方が,フランスやドイツ,イタリアよりも高い成長率を示せば,ユーロの保有者や投資家は不安になるでしょう.もちろん,スウェーデンは世界的な企業が経済を動かしており,熱烈にユーロを支持したはずです.それでも,国民は企業の将来とスウェーデン経済とを結び付けませんでした.企業が国民への影響力を失っただけでなく,国民は企業を失うかもしれません.

ユーロの外で国民通貨を維持する選択肢が,これほど大きな国で,半永久に続くことを,誰も予想していませんでした.もし,アメリカの中でいくつかの裕福な州がドルを放棄し,独自の通貨を持つとしたら,人々は今までと同じようにドルを受け取らないだろう,とLynnは言います


NYT August 21, 2003

A Price Too High

By BOB HERBERT

われわれがイラクで愚かにも始めた戦争が,悲劇的で,非人道的で,勝ち目の無い,大失敗であると納得するまでに,どれくらいの時間が必要か? どれほどの命と資金を無駄にするのか?

「ここは聖戦の理想の地である」と国連の高官は言う.イスラム世界の隅々から,兵士たちが復讐のために集まってくる.「テロリストたちにとっては好都合だ.アメリカはアラブの国に入り,イスラムの土地を冒している.テロリストは土地を知り尽くしており,アメリカは知らない.アメリカは文化的なシンボルを理解できず,言葉を話せず,通りの表示さえ読めない.」

アメリカ人はまだ,なぜ自分たちがイラクにいるのか,明確に理解できない.軍隊は明確な使命を持たない.ペンタゴンが見たことも無い,通常兵器で戦えないようなゲリラ戦を戦う.誰もが敵であり,どこにでも潜む.ロイター通信のカメラマンMazen Danaがアメリカ兵に殺されたのも,兵士たちがロケット・ランチャーの照準にロックされた,と思ったからだ.身元が確認できずにアメリカ兵はイラク市民を,子供まで殺す.暴動,待ち伏せ,銃撃,自爆テロ,サボタージュなどが増加し,アメリカ兵は憎まれる.

われわれは何のために,これほど高い代償を支払っているのか?

ヴェトナム戦争が制御不能になって拡大した理由の一つは,アメリカの政治指導者たちが使命を明らかにせず,彼らが何を行っているか,国民に明確に説明しなかったからだ.ケネディー,ジョンソン,ニクソンは,初めから破綻していた政策について,真実を隠し続けた.戦争のコストも.

同じことを聞いたような気がするって?

今や,われわれは世界で最も不安定な土地の真ん中,イラクに足を突っ込んでいる.短期間で勝利すれば,感謝に満ちたイラク国民がわれわれを歓迎してくれる,という幻想は消え去った.砂漠に民主主義が繁栄するのではなく,われわれは流血とテロの続く現実に直面し,幻と嘘がもたらした政策の付けを支払う.

ジョン・マッケイン上院議員らは,兵士をもっと送れ,という.もっとアメリカ人の血を見たいのか? われわれはもっともっとヴェトナムに兵士を送った.それでも十分ではなかったが.

アメリカは勝利を自慢などしていられない.今すぐ,同盟諸国や再建計画が必要だ.この国を本物の国際協調に委ね,アメリカが国連を支持するべきだ.アメリカ単独でイラク再建はできず,悲劇は増加するだろう.


BG, 8/21/2003

The unbearable dullness of economic writing

By Jeff Jacoby

(コメント) 魅力的な題名ですが,それほど内容はありません.アラン・グリーンスパンの議会証言は非常に退屈で,何が言いたいのか分からない.ルイス・キャロルなら,もったいぶったネズミに経済学の知識を話させただろう.しかし,文学作品から経済学の知識と同じ内容を引き出す本がある. "The Literary Book of Economics", edited by Michael Watts これがなかなか面白い.Jacobyは,経済学も人間を扱っているのだから,こんな風に書けるはずだ,と考えます.


ST AUG 22, 2003 FRI

Learn to face globalisation, even if your tent's gone

By Janadas Devan

(コメント) グローバリゼーションは,資本移動だけでなく,職の移動を意味します.かつてはブルー・カラーだけがそれを味わうはずでしたが,今ではホワイト・カラーも避けられません.インドが,中国が,フィリピンが,ヴェトナムが,世界市場に参入して裕福な国から職場を奪っています.インドにコール・センター(消費者からの苦情処理など)が移るだけでなく,インターネットやe-メールは,ホワイト・カラーの仕事を大部分,海外に移転させます.アメリカの映画も,ハリウッドよりインドのボリウッドで製作されるでしょう.アメリカの会計士が年間6万ドルを要求し,インドの会計士が6000ドル(あるいは,フィリピンなら3600ドル)を要求するのであれば,競争の結果は明らかです.

グローバリゼーションの中でも,労働者たちは自分たちを守ってくれるよう,政府を頼ります.しかし,保護主義は長期的に見て自殺行為です.


CD 2003-08-22 07:53:31

Learning from the Yen

LI CHANGJIU

ST AUG 23, 2003 SAT

China will resist pressure to revalue the yuan - for now

By Leslie Fong

Aug. 24 (Bloomberg)

No `China Accord' Afoot in Currency Markets

William Pesek Jr.

(コメント) 日本の通貨・円がたどった失敗を,中国の通貨当局は回避したいと考えます.日本は,戦後,安定した為替レートの下で高い成長率を実現しましたが,1985年に,先進諸国と合意して円高を進めてから,成長率が低下します.それどころか,1987年に行った巨額の財政刺激策(1兆円の減税と5兆円の公共投資)と金融緩和(金利を5%から2.5%に下げた)は,他国の景気回復とともに,日本をバブル経済に舞い上がらせて,その破綻によって1990年代の衰退を今も抜け出せない,とCHANGJIUは要約します.

中国が学ぶべき教訓は二つです.@通貨の増価を決定するには,それによって成長が損なわれないように,慎重な検討が必要だ.まだ将来もドルだけが外貨準備として君臨するなら,国内需要にあわせて為替レートを調整できるのはアメリカ政府だけであろう.メキシコや東南アジアが陥った危機を見れば,通貨の切上げも切下げも,非常に慎重に行わなければ危機につながる.A貿易や投資における国際摩擦を処理できる手段を握っておかねばならない.日本は対米黒字が累積して,アメリカのさまざまな圧力を受けた.円高を受け入れた上に,巨額の損失を被る結果となる対米投資を行った.どちらも,中国政府は拒むでしょう.

アメリカ大統領選挙の影響で強まる切上げ圧力に,中国政府は反発します.人民元の安定は,アジア危機においても,今も,世界経済に貢献している,と.実際,アメリカや日本の企業は,中国からの輸出によって利益を得ています.人民元を切上げれば,彼らも苦しむでしょう.中国に輸出している東南アジアも苦しむでしょう.それでも,通貨市場の投機を待っているわけには行きません.輸入を増やし,資本輸出を自由化するかもしれません.将来の為替レートは弾力化するはずです.しかし,今は国内金融改革に取り組むべきだ,と考えます.

Pesek Jr.が結論するように,中国政府がアメリカや日本の圧力で政策を変更する余地はないでしょう.8%の成長を社会主義から資本主義への安定した移行に必要な条件として死守するつもりです.為替レートが不安定では,中国企業の投資が損なわれる,と心配します.もし人民元を切上げるとしたら,二つのことを確信したときです.@人民元の増価が,多くのメリットをもたらしつつ,決して成長を損なわない.A世界経済が完全に回復し始めた.


FT August 24 2003

Economic rescue by Gesell and helicopter

By Nick Ricciardi

銀行を国有化して資本を増強する.不良債権を処理するために,日銀は実質金利をマイナスにする.ここですぐに日銀がインフレ目標を示すと,それが実現できないことで「信認」が低下してしまう.そこで,日銀ではなく,政府が貨幣を発行する.その心理的な衝撃は大きいはずだ.ただし国債価格が暴落しないように,Silvio Gesellが唱えたように,貨幣に税金を課す.すなわち,名目金利もマイナスにする.こうして「マイナスのバブル経済」を破壊する.その後,日銀がインフレ目標を採用する.日本経済は2年で回復するだろう.


The Observer, Sunday August 24, 2003

Alone, the US will fail

Will Hutton

NYT August 24, 2003

Fighting 'The Big One'

By THOMAS L. FRIEDMAN

The Guardian, Tuesday August 26, 2003

Beware the bluewash

George Monbiot

FT August 25 2003

Only self-rule will bring stability to Iraq

By Gareth Evans

(コメント) イラクの占領・復興計画を実行するためにHuttonが強く求めたことは,この過程を国際化し,正当性を与えることです.すなわち,アメリカの戦争ではなく,国際社会によるイラクの民主化と再建を,国連や多国間の協調で行うことです.そのための人材と物資を主要国が与え,イラク国民が新しい秩序を選挙によって支持することです.

FRIEDMANは,アメリカの占領がテロリストを増やしているから失敗だ,という意見に反対です.テロリストが集まり,アラブ諸国や民衆がアメリカを憎しみ,その腐敗した政治体制を正当化するとしても,アメリカが介入したのはそのためだった,というわけです.つまり,アラブの文化に隠れた腐敗や不正義を破壊するため.ブッシュ氏は国内の減税と中途半端な一方的介入で,この戦争に勝とうとしたから失敗している,と.

他方,Monbiotは,ブッシュの自己破滅的な計画を国連が救済するのは間違いだ,と言います.ブッシュの戦争,ペンタゴンの勝利宣言,アメリカの戦略的・経済的利害のための介入と占領,民間人の犠牲や多国間合意を無視して省みない政治姿勢を,救済してはならない,と.

International Crisis Group(ICG)のEvansは,折衷案を示します.米英軍は,安保理に治安回復のための限定的な承認を得て,軍事的な治安維持にあたり,法と秩序を回復し,インフラを整備します.国連は,国際警察を編成し,民主的な選挙による政治的な移行を準備します.そして,イラク統治評議会は,社会サービスや経済復興,国際関係における日常的な行政を担当します.こうした機能的な政府の分割案も,実行可能であれば,試みられるでしょう.

NHS・BSで放映された「昭和の戦争と平和」は,カラー・フィルムで日本人の生活を伝えていました.戦争シーンでは,サイパン島で崖から飛び降りる女性や波間を漂う死体,沖縄でアメリカ兵から水をもらっても全身の激しい震えが止まらない襤褸をまとった子供,被爆後の広島では手を振って見送ってくれた妻の焼け残った死体を弔う夫の手記,帰国を待ち望んだ末に,ミンダナオで戦死した夫の遺骨を受け取った女性の「子供三人のために,これから自分は男になろう」という言葉,など,いくつも息の止まるような悲しい映像を観ました.

戦争の進め方や記録の仕方,戦争における選択や決定の責任や戦後の武装解除,征服や再建過程について,私たちの理解はもっと進んでも良いはずです.もしできれば,戦争学,というものを調べてみたいです.


FT August 25 2003

A modest proposal for China's renminbi

By Morris Goldstein and Nicholas Lardy

(コメント) IIEのGoldstein and Lardyは,政治的な議論を排して,中国の長期的利益に立つ「中間的な切上げ(15〜25%)」を提言します.

35%もの切上げを求める者は,二国間の貿易不均衡を為替レートで解消しようという間違った発想を持っています.資本勘定自由化も,FDIへの関心が強いために,中国からの資本移動を過大評価しています.外貨準備が投資機会を無視した無駄な貯蓄だ,というのは,中国の投資や融資が十分に活発に行われている事実と矛盾します.WTO加盟で関税を下げても,主要な輸出品である衣料の輸出増大は,市場開放により続くでしょう.

むしろ,人民元の過小評価は,金融部門の改革を遅らせることが問題だ,とGoldstein and Lardyは考えます.また,確かにドル安によって調整を進めたいアメリカには,人民元が固定されて,アジアとの貿易不均衡が続くことは不満でしょう.中国は消費者物価も上昇し,成長予測もFDIも強気なので,日本のようなデフレの心配は無いだろう,と言います.しかし,このまま為替レートを調整しないなら,金融部門の膨張は続き,国際的な貿易摩擦も過熱します.むしろ,中間的な調整を行うことこそ,長期的な利益である,と.


FT August 26 2003

Sharing jobs as well as goods

By Brad Delong

(コメント) グローバリゼーションに関するDelongの考察は,輸送費の減少と輸送できる財の増大がグローバリゼーションを加速することです.かつての鋼鉄製蒸気船と同じように,今や,インターネットがサービスを世界中に低コストで移転します.これがグローバリゼーションの新しい富と政治対立の源泉となるでしょう.

財であれ,サービスであれ,貿易は富を増やすのであって,雇用を奪うわけではありません.もし中央銀行が十分な通貨を供給し,適度な成長を実現できれば,貿易によって失業する以上の雇用が国内で生まれるでしょう.しかし,民主主義の政治家は,国際競争からの保護や,補償を求める労働者の声を無視できません.

Delongは二つの例をあげて警告します.アメリカの製鉄所の所有者と労働者は,イギリスからの鉄鋼輸入を阻止しました.それは彼らの富を増大し,J.P.モルガンやアンドリュー・カーネギーのような莫大な資産家を育てました.しかし,それは鉄道の建設を高価なものにして,農民や牧場主にコストを強いました.彼らの負担でカーネギー・ホールができたわけだ,と.また,ドイツではユンカーが,アメリカからの安い穀物に憤慨しました.彼らはイギリスと競争する製鉄所主らと手を組んで,穀物価格を引き上げ,軍人や貴族の政治的発言を強めました.そして生活水準の悪化した労働者との死闘は,20世紀の不幸な政治史をもたらしたわけです.

先進諸国が公共である間は,誰もグローバリゼーションと失業を結び付けない.しかし,失業が増えれば,再び保護主義が強まるでしょう.たとえ民主主義が政治的な介入を求めるとしても,その補償や支援は,保護主義としてではなく,社会保険の充実によって実現するべきだ,と.

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The Economist, August 16th 2003

Show the way to go home

America and empire: Manifest destiny warmed up?

(コメント) The Economistはアメリカ「帝国」説を一時的な流行でしかない,と考えます.

オサマ・ビン・ラディンの意図に反して,アメリカは二つのイスラム教国に侵攻して占領し,5000万人以上を抱える植民地を建設してしまいました.アメリカ人はこのことを喜んでいません.ブッシュ氏が勝利宣言してからも,イラクで60人近くのアメリカ人が殺され,戦争に対して既に650億ドル,イラク再建にさらに6000億ドルも要すると言われます.

アメリカは超大国として,いやいやながらの帝国主義を実践するしか無いのでしょうか? そして,帝国主義が無能であれば,誰にとっても不幸を増やすばかりです.アフガニスタンでも,イラクでも,今のところアメリカの占領政策はめぼしい効果を挙げていません.それは,結局,アメリカのユニラテラリズム(一方主義)が招いた代償なのでしょうか?

他方,国際主義や高く主義が全てを解決するとは思えません.唯一,アメリカだけが軍事的・経済的な負担を担えるのです.アメリカは,こうした植民地から撤退するために,一層の介入を強いられるのです.植民地が安定を確立し,民主化されれば,帝国は祖国に帰還できます.これは帝国ではなく,「帝国の化石」だ,と言います.

多くの知的な流行がこの「化石」を解説します.アメリカほどの軍事力や経済力があれば,それは「アヒル」だと自分で言わなくても,「アヒル」のように歩き,「アヒル」のように鳴くのです.保守派のナショナリストと革新派の国際主義が収斂して,民主的な帝国,新しい種類の帝国,を支持する者が増えています.要するに,アメリカに代わる指導力は無いのです.

かつての大英帝国を「国際政府」のモデルとして扱う研究もあらわれました.それは最小の流血によって近代社会への革命を実現した,と帝国を称えます.ネオコンが言うように,これはまだアメリカによる民主化計画のほんの一歩でしかないのでしょうか? しかし,アメリカが示した三度の帝国化(アラスカやメキシコへの国土拡大,ブッシュ氏の好きなテディー・ルーズベルト,ドイツと日本への占領政策)も,決して帝国として長くは続きませんでした.

今度の「帝国」(The Economistは,化石とか,死んだ,と形容します)も,それが新しい国際秩序にはならない,と考えます.理由は二つです.植民地住民がそれを愛さない.そして,アメリカ国民が帝国を愛さない.

アメリカの帝国主義は,本来,民主主義と矛盾します.帝国は,階層的な秩序と,支配=従属関係を意味します.アメリカ人が失うのは,死体の入った袋と,赤字の予算だけではありません.植民地のアメリカは,植民地から解放され,自由を支持して戦う,民主主義国家であるという自覚を傷つけられるのです.イギリス人は,かつて,帝国を経済的利益や人種差別主義,宗教的な使命,などで粉飾し,民主主義を遠い先に押しやりました.それは国際商取引の確保でした.こうした情熱は,ブッシュ政権も含めて,アメリカ人を動かさない,とThe Economistは考えます.

「帝国」論は流行に過ぎず,ネオコンでさえ次の植民地戦争を望まない.アメリカは軍事的支配ではなく,商業や思想,情報の開放を求めるのです.


Who’s carrying the can?

(コメント) 銀行システムからリスクを排除した,非常に安全な国際金融システムは,そのリスクをどこに隠したのか?

お世辞など言いそうも無いアラン・グリーンスパンが,議会証言で手放しに金融システムの健全さを賞賛したことに,The Economistは不安を感じます.確かに,エンロンとワールド・コムが破棄した借入だけでも340億ドルに達したのです.かつてであれば主要な銀行も含めて破綻や取り付けが起き,金融システムが麻痺したはずです.ところが,今やシティ・グループは43億ドル,J.P.モルガン・チェイスは18億ドルの利益を上げています.

確かに銀行は代わったのです.彼らはリスクを取らず,融資を証券化して,リスクと一緒に売却してしまいます.ではリスクは無くなったのか? それが問題です.リスクはなくなりません.もし,リスクを正しく評価できる者が,銀行よりも分散した形でそれを保有し,損失に対応できるのであれば,金融システムは改善されたわけです.しかし,実際は逆です.

大手の銀行は,債務国への債権放棄や再交渉に応じて,また,BISなどの自己資本規制に応じて,債権とそのリスクを売却し,それを売買するビジネスに利益を求めました.誰が買ったのか? 金利が低下する中で,生保や年金,地方の金融機関,そして個人も,証券化された債券とリスクを保有し始めたのです.彼らはリスク評価の専門知識をもたず,格付け会社を頼りました.そして,格付け会社は銀行からの収入により,このビジネスを育成したのです.

The Economistは,この仕組みは危険だ,と感じています.銀行だけを規制し,彼らが本来担うべきリスクを他者に転売し,デリバティブの売買で利益を上げること.リスクを評価する能力がなく,その損失を公表したり,報告したりする十分な規制も無い者がリスクを保有していること.それは,金融システムの健全さを確保するために,経済全体を危険な状態に向かわせる,と.