IPEの果樹園2003
今週のReview
8/11-8/16
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夏休みになって,授業や会議がしばらく無いと思うと,気ままに文庫本も読みたいですが,運動もしたいです.ふと思い立って,往復20分ほどのジョギングに出かけました.住宅地を抜け,団地の間の坂道を下ると,大きな児童公園に着きます.その中にあるトラックをゆっくり一周し,再び坂を登って家に帰ります.
日頃,まるで運動しないせいか,走ると,最初,手が白くなり,あるいは青くさえなって,息苦しいです.汗はあまり出ません.これはチョット危ないのかな・・・ と思って,坂道の頂点にさしかかった頃から,とぼとぼ歩き出します.そして楽になれば,また,ゆっくり走り始めます.帰宅するまで,こうして何度も歩いてしまうのです.多分,夏休みの間だけでも,私は走るでしょう.
世界市場に中国が再登場し,国営企業を整理するために年金や保険の制度を整備する一方で,日本では急速に少子化・高齢化が進み,生産コストの高騰と労働市場のミスマッチが深刻で,年金・保険の制度は崩壊しつつあります.そうであれば,国際通貨危機,あるいは北朝鮮の核兵器開発や朝鮮半島統一の問題に対処する政府と官僚は,どのような日本,そしてアジアを,心に描いて近隣諸国を説得し,合意形成を図っているのでしょうか?
もし中国の成長に日本が融資や投資を行うことが目標なら,円建ての国際債券市場を整備して中国政府や自治体,企業が債券を発行し,日本の銀行や貯蓄機関がそれを購入することになるでしょう.生産力や職場が日本で失われ,中国で増加しても,日本の老人たちにとっては貯蓄の有効な投資機会は増えるかもしれません.そのため,国際投資の長期的な相互利益を説明し,理解し,長期的に安定した成長が維持できること,特に,通貨の価値を安定させることが重要です.安全保障や国際分業は,両国の安定した通貨関係の条件となるのです.
にもかかわらず,もし中国への債券投資が自由化され,急速に人民元高が進めば,中国は輸出が減って,成長を損ない,場合によっては経済(そして政治)危機を招くでしょう.他方,資本流入を排除し続け,通貨価値を固定するだけなら,景気循環の違いなどによって経常収支の不均衡が拡大し,主要貿易相手国から保護主義的な介入を受けるでしょう.人々が日本の成長を悲観し,中国の成長に過度の期待を抱くほど,こうした不安定な資本移動は増えるのです.
私たちは,仮想的な金融資産に頼って働かずに(!)暮らせる「夢」を吹聴してはならないと思います.また,自国に都合が良いというだけで,経常収支や為替レートを一方的に決めてしまう介入政策は,中国であれ日本であれ,他国から非難を浴びるでしょう.長期的には,いずれの国も持続可能な成長を高めるために,人口や資源に配慮することはもちろん,社会制度の改革を進めて技術や国際環境の変化に対応し,自律的な成長力を再生し続けねばなりません.
豊富な地下資源が内戦や政治的腐敗の源泉となるように,富の具体的生産や技術改善を忘れた「金融資産の市場メカニズム」信仰も,社会の基礎を蝕みます.金融不安がなく,分配の軋轢からも自由な形で,生産の拡大や新技術に積極的な人々を励ます社会制度があれば,私たちは本当に住みたい町の,住みたい景色の中を,颯爽とジョギングできるのではないか・・・?
@金融資産の蓄積,A労働力の国内・国際移動,B統合を維持する社会制度の革新.こうした挑戦は,発達した資本主義経済の特徴です.イギリスも,アメリカも,ヨーロッパも,その向こうに未来を展望しています.たとえば,集団的な土地利用を可能にし,合理的な土地売買と貸与のメカニズムや,贈与を介した土地の社会化を積極的に制度化すれば,日本も「素晴らしい自然」と「経済の活力」を取り戻せるのではないでしょうか.
あるいは,いつまでもこのダラダラした坂道を,青白い顔で走り,トボトボ歩くだけなのか・・・
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, BL:Bloomberg, CD:China Daily, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune
NYT July 24, 2003
Insular Japan Needs, but Resists, Immigration
By HOWARD W. FRENCH
トヨタの姫路工場に勤める「中島夫妻」は,ヴェトナムからの移民であるが,日本語や生活習慣を完全に修得し,日本人らしい名前にも変えた.それでも彼らは,これから先,日本で暮らしていく上で,なお厳しい差別にあうことを心配している.彼らは1982年にボート・ピープルとして日本に来たが,それから21年間,職場以外で友達を作ることはできなかった.
「私のこれからの人生において,日本人であるかヴェトナム人であるかは,重要ではありません」と,36歳のタイヤ工場で働く技術者として,中島氏は言う.しかし,「私が一番心配なのは,子供たちに対する偏見や差別です.」「私たちは他の人と同じように税金を支払っています.しかし,私たちの子供は大企業に就職したり,公務員になれるでしょうか?」
経済学者や人口学者は,日本が中島家族のような移民の心配を取り除けるかどうかが,日本の人口と経済力を長期的に回復することの成否を決める,と言う.日本経済は先進諸国を軒並み抜き去ったが,同時に急速に高齢化して,人口も減少している.1998年に労働力がピークに達してから,減少が加速している.半世紀で日本は人口の30%を失い.100歳以上の人口が100万人を超える.生まれるより80万人が毎年多く死亡し,21世紀の終わりには人口が半分になる,と国連は予測した.
短期的には女性の職場進出が労働力を補うが,人口規模を安定させるには,長期的に見て,大規模な移民流入しかないだろう.もしそれができなければ,労働者の不足や需要の減少だけでなく,年金制度が破綻する.そうした破局を回避するには,2050年までに1700万人の移民を受け入れるべきだ,と国連の報告書は書く.しかし,日本は最も頑強に世界の工業諸国から孤立し,エスニックな純粋性に関する非常に保守的な考えを持っており,専門家でさえも大規模な移民流入は難しい.1700万人とは,現在僅か1%に過ぎない移民人口を,18%に増やすことを意味する.その数字でさえ,朝鮮半島や中国から日本に連れてこられた人々の2世,3世を含んでいる.
筑波大学の駒井洋氏は,「この四半世紀に日本が受け入れた移入民は僅か100万人であった」と言う.「社会は勃興し,消滅する.このままでは日本も消滅するだろう.それは問題ではない.ギリシャやローマも消滅した.」日本が少ししか新参者を受け入れない理由は,保守派の政治家が言うような純血主義ではない,と彼は考える.それは,職場の文化や教育システムなどによって日本が示す社会的限界を,合理的に評価すれば分かる,と.
経団連の奥田碩会長は,アメリカが1990年代にIT革命を成功させた背景にも,「毎年100万人もの外国人の流入があった」と指摘した.政府の高度な専門職への移民受け入れという方針は,きたない,危険,きつい仕事を少ない移入民にやらせてきた日本の伝統に矛盾する.すでに建設などの分野では,実際的な思考が勝って,日本のあちこちに移民コミュニティーが存在する.
移民労働者のための組合を2年前から始めた本田氏は,「日本経済は外国人労働者無しに機能できないところまで来ている」と言う.タイ人やフィリピン人は目立たないので昼間の建設作業に日雇いで働き,アフリカ人やその他は夜の工場で働く.彼らの苦情とは,ヴィザの滞在期間を超えた.負傷や病気のときでも補償がない.約束された賃金を支払われない.・・・
姫路の近郊に,皮革業を営むかつての部落があったが,今ではヴェトナム人が集まってコミュニティーを形成する.地方自治体の公共アパートに住む地元民とヴェトナム人との関係が悪化した.結局,市の職員が何度も訪問し,会合を重ねて,ヴェトナム人の入居率を建物毎に10%以下に抑えることで非公式に合意した.
78歳の未亡人,平田房枝さんは,団地の自治会会長だ.彼女は,「たとえ嫌われても,彼らが間違ったことをしたら叱る.彼らが上手くできたら,褒めてあげる」と言う.「私たちは外国人を拒まない.同じ赤い血が流れており,話し合えるなら,きっと上手くいくよ.」
NYT July 29, 2003
Tide of China's Migrants: Flowing to Boom, or Bust?
By ERIK ECKHOLM
「私の夢は,いつか十分なお金を貯めて,ふるさとへ帰って家を建て,何かの小さな店を始めることです」と,Cai Gaoxiangは言う.「なぜなら,どうしても,移民労働者である限り,多くの差別にあい,多くの不公正なボスに苦しめられるから.たとえ病気でも働かされ,食べ物は粗末で,まずいのです」と.
都市部の急速な発展には,地方から出稼ぎに来る多くの労働者が,安い賃金と厳しい労働条件で,いつでも必要な労働力を提供する.出来高払いの賃金で,一日14時間働き,多いときで週に120ドル,通常は90ドル,仕事が少ないときは50ドルを稼いだ,とCai氏は組立工場の厳しさを述べている.
中国東南部のYiwuにおいて,その発展がどれほど外部の労働力に依存していたかを示す数字も示されている.すなわち,「Yiwuの公式の住民は64万人であったが,都市の内外に50万人の移民労働者がいた」と.
他方,「15年間の激しい労働の末,変化し易い世界市場に適応して,行商人からプラスチック工場主になり,貧しい地域からの50人の移民労働者を雇うまでになった」というJin Xiaoqinさんは,人形の顔を描ける熟練した労働者が足りない,と心配する.
Yiwuの発展を示すのは貿易センターthe Yiwu World Trade Centerである.世界最大のスーパーマーケット,と自称している.中国の発展は,決して外資による輸出だけでなく,小さな町工場の作る雑貨やオモチャによって,その工場を営む夫婦や,雑貨を売る商店,それを買う人々によって実現している.
共産主義の思想に従う貧しい農民の国は消えた.途方も無い貧富の較差が社会を覆うのか,それとも課税や社会的再分配が発達するのか?
FT July 29 2003
The myths and realities of international migration
By Martin Wolf
(コメント) 移民問題について,いくつかの論説が目に付きました.
IOMやOECDの資料を挙げて,Wolfは国際移民の増加をグローバリゼーションの一部に正しく評価したいようです.19世紀の国際移民と違って,現代では貧しい国から豊かな国への移民が中心です.それは,賃金格差とともに,豊かな国が人口の減少や高齢化を経験しつつあり,しかもグローバリゼーションにより情報や輸送手段が安価に普及しているからです.
移民の経済的な影響は,その賛否に影響するほど明確ではない,とWolfは考えます.むしろ,大規模な移民が人口の停滞した都市に集まって入ってくることは,文化や政治にも重要な影響を与えます.そして,移民を制限する動きは,本来の経済移民を難民とし,非合法移民とします.そして,大規模な非合法移民を扱う犯罪集団や,非合法移民の失業増加は,誰の利益をも損ない,社会的なコストを増やしています.
熟練技術者や高度な専門職だけを受け入れたいとか,高齢化する人口の社会負担を移民の流入で緩和したい,という豊かな国の目的は,国際移民の現実を正しく見ていないし,成功する見込みも無いようです.
The Guardian, Friday July 25, 2003
Buddha's wisdom is more use to China than a Honda
Martin Woollacott
(コメント) 中国の若者を魅了する「ホンダ」の自動車よりも,Woollacottは「ブッダ」の経済観を将来の指針とするべきだ,と主張します.
中国の政治指導層が,経済的繁栄を自分たちの正当性の根拠とし,政治的な不満を厳しく弾圧する一方で,高い経済成長や欧米並みの消費,自動車の普及などを「目標」としています.それは,その規模からして,世界を不安定化するでしょう.国連環境計画のKlaus Topferは,中国が20年間で経済規模を4倍にするというのは持続不可能だ,と述べました.中国も,世界も,それほど多くの資源を持たないからです.もしドイツ並みの自動車保有率になれば,6億5000万台の自動車が中国の道路を走ることになります.「ホンダ」を夢見る若者は,その鉄鋼や石油がどこから来るのか,考えるべきです.
中国内部には,成長を加速する右派と,環境の制約を重視する左派がいます.右派にとって,経済規模の拡大は政治的,軍事的な目標なのです.Woollacottは,こうした論争の行方を,今度の香港をめぐる騒動にたとえます.香港政庁の長官は,さまざまな意味で住民を正しく統治できませんでした.住民たちの経済的な期待に応えられず,政治的不満を解消できず,SARSなど,さまざまな問題で対応を誤ったのです.
香港において両立できなかった自由と効率性を,中国が全土で実現できるでしょうか? もしそれに失敗すれば,その影響は世界に及びます.民主主義は,しばしば大衆の欲望を抑制する点で失敗してきました.異なった経済発展について,人々が広く議論し,その利点と問題点とを,深く議論しなければなりません.それに成功するためには,「ホンダ」を称揚するより,「ブッダ」の教えを想起する方が良いでしょう.
FT July 31 2003
Swedes stay cool on euro
By Christopher Brown-Humes
FT August 5 2003
The myth of Swedish superiority
By Carl Bildt
(コメント) スウェーデンのユーロ賛成投票キャンペーンは苦戦を強いられています.EU官僚への反発だけでなく,たとえヨーロッパとの取引を安定させたい企業が多くても,国民の多くはドイツの不況を心配しているから.もし間違った為替レートに縛られ,金融政策の決定権を奪われたら,どうなるか? スウェーデン国民は,自分たちの社会福祉制度を廃棄するつもりはありません.また1970年代や80年代に,競争力を失った産業を助けるために繰り返し切り下げを行い,インフレ抑制に苦しんだ記憶があります.もし多国籍企業が競争力を失ったスウェーデンを捨てて,国内投資をしなくなれば,この地は荒涼とした雪原に戻るだけ・・・?
しかし,ユーロを採用しなければ,スウェーデンはEUの中で取り残されてしまいます.スウェーデンのような小国がユーロを拒んでも,結局,採用時期を遅くするだけのことだ,と言われます.スウェーデンの高い物価を嫌って,国境を越えた店で買い物に行列する人々は,すでにユーロを多く持っているのです.
1991年から94年にスウェーデン首相を勤めたBildtも,この国の戦後の「成功神話」と,現実に進行する「周縁化・限界化」について警告します.もしユーロを拒んで,ヨーロッパの挑む「近代化」や「改革」を無視し,後退するなら,スウェーデンはヨーロッパの「権力構造」から完全に切り離され,経済的にも貿易や投資の流れを大きく損なってしまう,と訴えます.
FT July 28 2003
Europe must spend its money more wisely
By Jean Pisani-Ferry, Andre Sapir and Helen Wallace
(コメント) ヨーロッパは,日本よりも早くから,経済停滞に悩んでいます.キャッチ・アップは終わり,自ら革新を進めて投資を行うことに,ヨーロッパの政治や制度が取り組むべきだと決意しています.社会的統合や安定性のために,ヨーロッパは成長を損なうような取決めを守っていました.しかし,著者たちは,それら全てを停滞する経済によって実現することはより困難なのである,と警告します.
革新や投資を促すには,ヨーロッパの諸制度や諸政府が共同して行動し,マクロ・パフォーマンスやミクロ的な手段を改善しなければなりません.要するに,問題はヨーロッパ政府が無いところで,それらを達成することです.革新への投資を支援し,研究開発を援助し,大学などの人的資本形成にも投資せよ,と主張します.
このヨーロッパ規模の「新しい産業=福祉国家」は,ガヴァナンスに問題を抱えています.各国は財源を奪い合い,政策を決めるたびに,獲った,盗られたと紛糾します.共通の目標を掲げて,ヨーロッパ規模の独立した経済機関を樹立するべきだ,こうした経済ガヴァナンスの改善によって,新しい政治は後からついてくる,と言いたげです.
ヨーロッパも新しい競争の時代を摸索しているようです.
July 30 (Bloomberg)
Forget Reissuing Dinars; Let Iraqis Use Dollars
David DeRosa
(コメント) 昨日(8月9日),NHK・BSで放映されていた番組,ユニセフ特別大使のアグネス・チャンが訪ねた,イラクの戦後報告を観ました.バスラでは8割の大人たちが失業し,犯罪の多発する街頭で,8歳や10歳の子供が靴磨きやひまわりの種を売って歩きます.彼らの父親は,トラック運転手の職を失い,一日中,川で網を打ち,食卓に乗せる魚を得ようとします.しかし,ほとんど何も捕れません.設備も医薬品も不足した病院では,栄養失調や下痢で,多くの子供たちが死に,未熟児や子供のガンが増加している,と言います.
イラクの窮状を救う決定的な方策とは,ドルの流通,もしくは,ドル化でしょうか? イラクが貧しく,破壊されたまま復興できない理由の一つは,確かに安定した貨幣や銀行システムがなく,国内商人間でも,外国商人とも,取引ができなくなっている事情があります.サダム・フセインの肖像を載せたディナール紙幣を廃止したい,というより,今は経済の再生が重要です.
DeRosaが比較しているのは,事実上,進行しているドル化と,中央銀行の暫定総裁が唱えたニュー・ヨーク連銀の保管するイラク石油代金を使ったディナールの安定化,です.DeRosaはドル化を支持します.その理由は,@通貨の発行量や価値を予測できる市場の状態にはない.A介入によって価値を決める政策は必ず失敗する.B貨幣への信用と発達した金融システムの利用とが,ドル化によって一気に手に入る.C主要な輸出品である石油は,国際価格をドルで決めて取引している.などです.
おそらく,ドル化でも,ディナールの安定化でも,イラクの復興は可能だと私は思います.ただし,もしドル化するのであれば,石油産業の管理やその他の分野で雇用を拡大する責任を,政府は負わねばなりません.また,国際金融市場への統合やアメリカの銀行・企業に自国資産を買収される懸念を,政府は明確な方針で内外に説明し,払拭すべきでしょう.イラクが将来,自国の通貨を発行し,安定した成長と中東地域の経済発展に貢献することこそ,一時的なドル化の目的なのです.
他方,DeRosaが言うように,新興市場は繰り返し通貨価値の固定化に失敗し,危機を招いてきました.また,ロシアをめぐるIMFの失敗は繰り返したくないでしょう.しかし,貿易政策や徴税能力の改善,そして何よりインフレ抑制や為替レートの調整を積極的に行っていれば,各国は独自の発展を遂げたと思います.ドル化が答えで,自国通貨の維持・安定化は間違い,と結論する根拠は無いのです.
どちらも,それを成功に導くには何度も政治的な危機を乗越えねばなりません.ヨーロッパであれ,アジアであれ,通貨の選択は,産業や貿易の構造に制約された,しかし何より,政治的な選択の問題なのです.
IHT Monday, July 28, 2003
An obstacle to global recovery
Philip Bowring
FT Jul 31 2003
Lex: Currencies
Aug. 4 (Bloomberg)
Is China Replacing Japan as U.S. Scapegoat?
William Pesek Jr.
CD 2003-08-06 08:04:42
Ono's theory groundless
(コメント) Bowringの主張は説得的です.すなわち,アジア諸国は通貨の増価もしくは切上げを行って,世界の金融的な均衡回復に一定の役割を担うべきである.すでに変動レートを採用したアジア諸国が増価を恐れるのは,中国の通貨・人民元がドルに固定しているからである.それゆえ,中国は人民元の切上げを行い,アジア諸国もその競争力に応じて増価を受け入れ,アメリカの過大な消費に依存する成長から,もっと内需主導の,域内貿易拡大を目指すべきである.
ただし,アメリカの景気変動やヨーロッパのユーロ導入に伴う問題が,アジア諸国の問題と分かちがたく結び付き,互いに非難し始めればきりがないと思います.欧米の不況や世界の金融的不均衡がもっぱらアジアの責任ではないように,アジア通貨が増価しなくてもアメリカやヨーロッパが苦境を脱する他の手段はあるでしょう.彼らがそれを選択したくないから,アジアや中国を非難するわけです.
また,なぜ日本ではなく,中国がアジアの通貨秩序を決めるのでしょうか? Lex: Currencies は,アメリカのスノー財務長官がハーレー・ダヴィッドソンの工場で行った演説に注目します.日本が空前の為替市場介入によって円高を阻止しているにもかかわらず,中国を名指しで批判したからです.その考えられる理由は? @中国との貿易不均衡の方が急速に拡大している.A中国の通貨管理は国内金融システムの問題を悪化させる.B円が増価して日本経済が深刻な不況になれば,アジアやアメリカが悪影響を受ける.C小泉首相のイラクや北朝鮮に関するアメリカ外交への支持は,その構造改革が遅れていることを容認させる.D円/ドル間には,115円から120円の変動幅が暗黙に合意されている.
もし日本経済が健全な成長を遂げており,世界の調整過程にも一定の発言力を示す状態にあれば,もちろんアジアや世界の不均衡を調整する新しい秩序に決定的な役割を担ったはずです.この記事は,そこで,中国にこう薦めます.北朝鮮との交渉を進めて,問題解決に重要な役割を担え,と.なるほど,これも通貨戦争の「一つの」背景です.
Pesek Jr.も,アメリカの人民元切上げ要求は間違いだ,と言います.中国が高度な輸出向けの生産力を得たのは,アメリカやヨーロッパ,日本の多国籍企業がこぞって低賃金労働力や土地の安さを理由に,自国の労働者を解雇し,中国に輸出基地を建設したからです.今になって,中国を非難し,彼らにその多国籍企業をどうしろと言うのでしょうか? また,アメリカの景気は,主としてアメリカの政策で決まります.人民元のレートではなく,FRBやホワイト・ハウスが何をしたか,また,エンロンやワールド・コムのスキャンダルの方がはるかに重要です.
Pesek Jr.は,人民元切上げの利益とリスクを比較します.アメリカ政府がスケープ・ゴーとを得ても,実際に人民元の政策を中国が変えるはずがありません.むしろ,中国がまだ発展途上国であることを思えば,切上げは政策対応や企業の淘汰で解決されるより,政治不安をもたらすかもしれません.アジア諸国も,中国の急速な成長に向けて輸出する利益が失われます.もちろん,日本が円高を回避し続けた挙句,バブルを生じて経済停滞への道を進んだことは,中国政府も意識しているでしょう.その選択を,あからさまに政治家が発言し合うのは危険です.
中国の新聞China Dailyは,特に日経新聞に載った小野善康氏の論説(「需要創出で円安を図れ:「中国の脅威」を解決」7月11日)を厳しく批判しています.中国企業の生産性が高まったのではなく,人民元を切下げて人為的に競争力を高めた,という小野氏の議論に,この論説は憤慨し,反論しています.私も,ここに指摘された小野氏の論説に奇妙な印象を受けました.「為替レート → 国際競争力 → 輸出拡大 → 成長加速」という説明も,「需要拡大 → 経常収支赤字 → 円安 → 国際競争力改善」というマンデル=フレミング風の説明も,「環境規制 → 内需拡大 → 産業構造改善」という説明も.要するに,環境規制によって国内需要を喚起し,経常収支赤字を増やして,円安にすれば良い.環境保護コストによる産業構造の転換が,円安による国際競争力の回復と一緒に進む,と言うわけです・・・!?
小野氏がまったく根拠の無い主張をしているとは思いません.しかし,中国の競争力や成長の原因を切下げだけに求めるのは納得できません.「経済学者は象牙の塔を出て,諸国民の富の本質と原因に関する研究を,「事実から真実を見極める」姿勢で行うべきだ」というChina Dailyの批判の方に,私は共感しました.
NYT July 30, 2003
Do Fence Me In
By WILLIAM SAFIRE
IHT Saturday, August 2, 2003
Tear down Israel's wall
John Dugard
NYT August 3, 2003
Time to Move
By DAVID NEWMAN
(コメント) イスラエルの築く「フェンス」を見た(!)のは,NHK・BS23の広河隆一氏の報告でした.高さ8mのコンクリート製のフェンスが,イスラエルの決めた国境線を何キロも延びています.「国境」付近のパレスチナ人集落や都市は,撤去されたり,フェンスで囲い込まれて「袋のネズミ」状態にしています.高さ8mのフェンスに海への視界をさえぎられ,畑を分断され,商取引を窒息させられていることに,パレスチナ人たちは憤ります.
SAFIREの論説で,このアイデアがシャロンに反対するイスラエルの党派によって,自爆テロへの報復ではなく,安全保障のための分離策として提唱された,ことを知りました.最初は金網や監視カメラを繋ぎ合わせて,警備を厳重にする意味であったと思います.しかし,既に実態は,かつての南アフリカやベルリンであり,シャロン氏による一方的なパレスチナ人の隔離と管理の強制手段になっています.同じような経験をユダヤ人として味わったにもかかわらず?
1967年に定められたグリーン・ラインよりもパレスチナ側に何キロも入った地帯に壁を築き,イスラエルはパレスチナの土地や畑,家屋を強制的に占拠,収用,割譲しています.グリーン・ラインから壁までに住む住民は,病院や学校,職場といったパレスチナの生活機能から切り離されます.壁が長期化すれば,彼らは難民として強制的に移住するしか無いのです.
イスラエルがパレスチナとの紛争を解決できないとしたら,それはイスラエルの存在ではなく,その政策が間違っているからです.特に,パレスチナ人の居住地にユダヤ人入植者を送り込み,住宅建設や生活費を援助し,入植地を守るために治安部隊を送る,という政策は,およそ紛争を解消するのではなく,拡大する効果しか期待できません.イスラエル政府がこうした政策を撤回し,壁の建設を止めて,入植者を国内に再定住化するために補助金を使うこと,そしてパレスチナ人の労働者や商人と平等な関係を認め合うことが重要です.
A BOSTON GLOBE EDITORIAL 8/1/2003
Taunting North Korea
(コメント) なぜ,ブッシュ政権の軍備管理・安全保障担当ジョン・ボルトン次官が,ソウルでの演説で40回も北朝鮮の金正日を独裁者と呼んで非難したのか,外交の鉄則を無視した言動に不安を抱かせます.交渉によって相互に譲歩を得たい相手を,独裁者や愚か者と罵倒することが,交渉を円滑もしくは有利に進めると考えることはできないからです.
一方では,ボルトンが芝居を打った,と見ることもできます.パウエル国務長官が北朝鮮の安全保障を認めても良いような発言をし,他方で,感情的な非難をぶつけることで,北朝鮮政府の反応を評価しているわけです.しかし,あるいは,ブッシュ政権が韓国や日本,中国などの反応を見ること,アメリカの有権者に一定の姿勢を示すことが必要であったのかもしれません.ボルトン氏の更迭や担当変更があるとしても,本当の理由は分かりません.
BGは,その理由が何であれ,韓国や日本をアメリカの同盟国として重視し,外交交渉を進めて,プルトニウムを独裁者から切り離す具体的な策を目指せ,と言います.
The Guardian, Friday August 1, 2003
Hasta la vista, politics
John O'Farrell
ここはカリフォルニアのサクラメント,2004年.財政危機を是正する試みは,福祉予算を削ることに反対する民主党議員の反対に遭い,予算案が三分の二の賛成を得られない.突然,知事には解決策がひらめいた! 彼の莫大なエネルギーを秘める筋肉強化アームから,ロボティック・ロケット・ランチャーが飛び出し,棄権したリベラルな議員たちを議場から吹き飛ばしたのだ.彼らは窓ガラスを突き破って,眼下の石油精製所で燃やされる.「政治なんて簡単だ」と,アニー(シュワルツネッガーの愛称)は言う.今や,動いているのは,彼の共和党ミュータント・ドロイドだけであり,彼らが上院を牛耳って,満場一致の賛成を表明する.
アーノルド・シュワルツネッガーがカリフォルニア知事にふさわしいと考える支持者たちは,無意識のうちに,こんなことを想像する.ターミネーター3が今日公開されたが,映画の中と同じようにアニーは簡単に勝利できるのか?
ロナルド・レーガンが大統領になって以来,あらゆる種類のショー・ビジネスのスターたちが,アメリカ中に選挙事務所を構えた.歌手のボノはグループを離れて立候補し,俳優のイーストウッドは胸のキャメルの煙草バッジを,知事のバッジに貼り変えた.ワールド・レスリング協会のスター,ジェシー・ヴェンチュラはウィスコンシン州知事に当選した.こうしてニュー・ヨークの俳優学校では,レオタードの学生たちが,「有名になって,私は永遠に生きる! 有名になって,私が連邦予算赤字を解消する!」と歌いながら踊っている.彼らは,シェイクスピアのシャイロックではなく,クリントンの性的関係を否認する台詞を覚え,あるいはニクソンのこんな台詞を練習する.「ホワイト・ハウスにはごまかし(whitewash)などありえない.」 こんなに素晴らしい悲劇の演説はめったに思いつかない.
確かに,上手い政治家になろうと思えば,その人は常に良い俳優でなければならない.どうしようもなく複雑な問題を,怪しげな解決策で十分に処理できると,人々に熱心に説かねばならないから.「私はスタンリー・ボールドウィンに投票しようと思う.彼の演説に私は感動して涙を流したよ.その金本位制についての演説ね・・・」
ショー・ビジネスからの人気者が増えるのは,コミュニティーが崩壊し,有権者が,自分たちの近所から政治家になりたがっている奴よりも,TVで良く知っている人物により好感を抱くからだ.しかし,もし民主的な過程と切り離された者が政治家になるとすれば,できるだけ多くの役者が比較されるべきだろう.そして彼らは討論会に参加し,そのために誰かを必要とする.だからジェリー・シュプリンガー(市民たちによる暴露・乱闘・参加番組の有名司会者)が上院に立候補する,というわけだ.
WP Friday, August 1, 2003
The 'Wrong Kind' of Immigrants
By Marcela Sanchez
BG, 8/4/2003
Strawberry field of dreams
By Paula Rayman
ST AUG 5, 2003 TUE
Jobs or free trade? It's a tricky trade-off
By Eddie Lee
WP Monday, August 4, 2003
A Direct Hit to American Workers
By James P. Hoffa(general president of the International Brotherhood of Teamsters)
(コメント) 移民の話を読むとき,世界はとても不公平だ,と思います.孤立し,無権利状態にある労働者たちが,団結し,地位を向上させることが,今も非常に重要である,と知るのです.
たとえば,イチゴ畑の話です.移民の由来やその時々の暮らしぶりは,アメリカなど,受入社会のあり方が変化すれば,それに従って変化します.
「高い価値のあるイチゴのような作物は,背中を折り曲げて,一日に10時間から12時間も働く,貧しい労働者が収穫します.8〜10インチの畑の畝に4ないし5インチの高さにイチゴの実がなりますから,労働者たちは一日中かがんで働きます.」だから彼らの身長はとても低いのです.「彼らの多くは非合法移民です.」だから,ほとんどの権利が認められていません.「年に20〜30週を畑で働き,1万ドル以下の収入しかありません.彼らの平均寿命は60歳に達しません.怠け者,福祉手当の詐欺,などと言われる,このようなカリフォルニアの労働者たちが,食卓に並ぶアメリカンのイチゴの80%をもたらすのです.」
NAFTAは,移民問題に新しい時代を開きました.それまで,自由貿易と保護主義が議論されてきた経済学の歴史に代わって,自由貿易と移民(失業)が議論されたからです.ケインズは,保護主義の台頭が自由貿易の失敗ではなく,不況によるものだと知っていました.それゆえ,たとえ保護主義的な措置をともなっても,積極的に景気刺激策を採るように政府を説得したのです.では,移民排斥や差別,移民の地位向上についても,同じことが言えるのではないか?
トラック運転手の労働組合は,シンガポールやチリとのFTAについて,労働者の権利を高める要求を放棄している,と強く反対します.労働者の自由移動や労働許可書,投資などへの免税を含むFTAの拡大を阻止するため,ブルー・カラーの利益を代表する政治家が必要だ,と訴えます.「自由貿易の狂信者たちはNAFTAの教訓を無視している.すなわち,労働基準の改善がなければ,FTAは労働者の権利を損ない,富を企業のわずかなエリートたちに集中する」と.
FT August 3 2003
China should not rush to float its currency
By Sebastian Edwards
FT August 6 2003
The hypocrisy of bashing China
By Stephen Roach (chief economist of Morgan Stanley)
(コメント) Edwardsは,中国が変動レートに移行(あるいは切上げ)することは望ましくない,と主張します.なぜなら,@金融市場が未発達である.A銀行システムの不良債権がある.さらに,B為替リスクの有効なヘッジ手段が無いから,国営企業などに問題が生じる.Cこうした「為替レート変動への恐怖心」を通貨当局が強める結果,為替市場や貿易への不透明な介入政策を強める結果になる.
そこで,Edwardsが支持するのは,中国の市場開放です.さまざまな非関税障壁で守られた国内市場をさらに開放することで,@中国国民の生活水準を向上させる.A人民元への切上げ圧力を抑えて,世界貿易の不均衡を解消できる,と.
他方,Roachは,自国の改革を怠って,アメリカや日本が中国をスケープ・ゴートにすることは間違いだ,と主張します.中国の輸出は欧米日の多国籍企業が輸出拠点を中国に移したからであり,中国の成長は世界経済の拡大を支えるメカニズムに組み込まれています.人民元を操作した結果ではない,と断言します.変動レートを円滑に維持するには,それに先立つ改革が必要であり,人民元高が不動産バブルや資本流入に結び付く怖れがある,と慎重な移行を求めます.
FT August 3 2003
The Washington consensus fades into history
By Narayan Ramachandran
(コメント) Ramachandranによれば,ワシントン・コンセンサスは,この数年でブッシュ政権が破棄した合意の一つです.その理由は,バブルや9・11が,アラン・グリーンスパンと強気のファンド・マネージャーとの違いを消してしまったことです.言い換えれば,いまやデフレを解消できることなら,各国が何をやっても許されるのです.Ramachandranはこの新しい現象をGGG("get growth going")と呼びます.
タイ,韓国,中国,アルゼンチンでさえ,GGGを開始しました.ブラジルは例外ですが,南アフリカ,ユーロ圏やポーランド,メキシコも参加するでしょう.なぜなら,アメリカが金融緩和と減税を繰り返し,景気刺激策と経常赤字解消に動いているからです.テロとともに,デフレが世界の敵となり,アメリカに変わって支出できるなら,どの国も支持を得るでしょう.ワシントン・コンセンサスよ,さようなら! GGGよ,こんにちは!
この二つは循環的な現象なのかもしれません.しかし,私はWilliamsonの協調的なマクロ経済管理を支持します.ですから,GGGも,テロとの戦争と同じような,ブッシュ政権の新しい国際政治同盟でしかない,と感じます.たとえば,西欧や日本ではなく,今の相手はロシアと中国です.
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The Economist, July 26th 2003
Day-labour cemtres: An answer or a problem?
(コメント) アメリカ全土に日雇い労働者の就業斡旋所Work Centreができたのは,1980年代のカリフォルニアだったようです.なぜ税金を使って,ほとんどが非合法移民の日雇い労働者のために斡旋所を建てるのか? 彼らの利益は明白です.彼らは猛暑や激寒の屋外で立って,民間の仲介人が指名してくれるまで待つ必要が無いからです.必ず仕事に就ける訳ではないですが,斡旋所を介した方が騙されず,病気やケガからも守られます.
しかし,アメリカ国民は税金を使って,非合法移民や自分たちの職場や住宅地を荒らすことに奨励金を出すのか? という不満もあります.町によっては,起こった住民が斡旋所の閉鎖を求めたり,政治家に抗議しています.
公金を用いて斡旋所を建てるのは,1989年のノース・ハリウッドとハーバー・シティが最初であったと言います.彼らの賃金は自給8ドルで,朝5時からの斡旋開始に行列し,建設業や松林の剪定など,肉体労働です.地元の労働組合は彼らに敵対していません.日雇い労働に従事する移民たちも,漸く,経済にとって必要だ,と認められたわけです.
しかし,もし経済がさらに悪化すれば,人々の懸念が強まります.
Mexico’s economy: The sucking sound from the East
(コメント) メキシコの労働者は,アメリカからどんどん職を奪う,とロス・ペローが威嚇した頃と違って,今や,メキシコの職がどんどん中国に流出しています.その理由は,循環的か? それとも,構造的か?
メキシコの有利さは失われておらず,アメリカの景気が持ち直せば,再び成長できる,というより,中国の目覚しい労働者の質の改善,研究開発や教育への投資に比べて,メキシコには熟練労働者や技術者がいない,と指摘されています.そして,本当の問題は,メキシコの生産コストが新しい条件を利用して低下できていないことです.電気,通信,労働法など,少数与党のメキシコ政府は改革を進めることができません.
中国ではなく,階段を登ることができないメキシコに,問題はあるのです.