IPEの果樹園2003
今週のReview
7/28-8/9
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今出川のオープン・キャンパスに集まってくれた高校生や父母を前にして,私は二つのテーマを話したいと思いました.一つは,「経済学って何?」 もう一つは,「経済学は,退屈で,平板な,数式の勉強じゃない!」 ということです.残念ながら,私の話は不十分で,上手く伝えられなかったな,と反省しています.
T
しばしば聞かれる質問があります.どんな資格が取れますか? (将来)何になれますか? 経済学って何を勉強するのですか? 数学はどの程度必要ですか?
経済学部を出たから,必ずもらえる資格というのは,何もありません.特定の職業や資格に必要な知識を得るために経済学部に入るとしたら,多くの専門科目は無駄なものに見えるでしょう.しかし,他学部に比べて,高い資格を取る人が少ないとは思いません.資格の取得が多くの学生の動向を示す正しい指標とも思えません.
高校での進路選択によっては十分な数学を学んでいない高校生がいますから,経済学に必要な数学を補習できるのがよい,と私は思います.しかし,たとえ数学を理解していなくても,経済学は学べます.学生の皆さんは先生に質問に行くことです.経済学の説明に必要な数学の知識は,先生の助言や自習によって,必ず獲得できます.そのような熱意溢れる学生は,きっと歓迎され,励まされて,同時に,教える者をも勇気付けるでしょう.
経済学は,おそらく,非常に限定された,乏しいイメージで語られています.さまざまな専門用語,数字の羅列,公式や決まり文句,現実をどのようにも解釈し,後から説明する能弁さ・・・?
「経済学って何?」・・・「経済学を学ぶとは,どういうことなのですか?」 という質問を念頭に,私は市場や貨幣,あるいは価格を問題にしました.私たちの社会が,多くの点で,市場や価格によって導かれていることを,今更,説得する必要はないでしょう.私たちは価格に反応し,より大きな報酬を求めて行動します.しかし,なぜある財貨が一定の価格で取引され,なぜ貨幣が一定の価値を持つのか,それを説明することは困難です.さらに,日本がデフレに苦しんでいるとか,中国からの輸入品が安すぎるとか,ヨーロッパ諸国が(戦争によって強制されたわけでもないのに)自国通貨を廃棄して,共通の単一通貨を採用したことを,正しく理解するのは「飛び切り」難しいでしょう.経済学部に来れば,こうした難問に挑戦できます.
U
経済学とは何か,経済学で何をするのか,が理解しにくいのは,それを五感によって実感できないからでしょう.経済学の対象は,姿が見えず,音を立てず,臭いもしません.触れることも,味わうこともできないのです.テキストによっては,何と,多くの方程式が並ぶ・・・!
経済学を直感的に知ってもらうために,私は想像力を刺激しました.「もし生まれ変われるとしたら」と,クリントン元大統領の側近の一人は述べました.「(世界最強の軍隊を指揮する)アメリカ大統領でも,(世界最大の宗教団体に君臨する)ローマ法王でもなく,私は資本市場になりたい!」・・・ でも,このネタは紹介し忘れました.私は皆さんに目をつぶるようにお願いしました.そして,自分の周りから,人間が作ったもの以外を取り除いてみて下さい,と言いました.あるいは,自分が作った(作れる)もの以外を取り除いてください,と.資本市場は,果てしなく強力で,支配的に見えます.そして,この「豊かな世界」を作ったのは人間でありながら,私たちはそれを自分で作ったわけではなく,どうしてできたのかも知らないまま,その便益を享受しているわけです.経済学は,その背後にある論理,この力を組織するメカニズムを解明します.
私はまた,『シュナの旅』(宮崎駿)や,シエラ・レオネの悲惨さ,アダム・スミスの発見,を説明しました.シュナは,自国の貧しい人々を救いたいと思い,金色の種を求めて旅に出ます.シュナが旅する世界では,人狩りが村々を焼き,都市は奴隷の売買で繁栄しています.脱穀された金色の種は市場で売られているのに,それを作っているところを誰も知りません.商人たちに尋ねても,「人買いに聞け.彼らが奴隷と交換にもってくる」と言うだけです.
その後,シュナは大地の果て,神の地において,ようやく金色の種を見出し,それを持ち帰ります.しかし,もし人買いから救った少女がシュナを助けてくれなければ,死んでいたはずです.
経済学は,こうしたシュナの行動を説明できません.個人の合理的な選択,言い換えれば,私的な利益が追及されるだけなら,人々のために,生涯をかけて,実現できないような目的のために,苦しい旅を続けることなど,ありえないのです.では,シュナはいないのか? と言えば,そうではありません.私は,誰もが子供のために美味しいものを分け与え,美しいものを見せたがることを,指摘しました.親は自分が食べなくても,少々,苦労しても,喜ぶ子供を見れば満足します.
経済学が依拠する「市場の論理」と,シュナが示した「共同体(家族)の論理」とは,社会を組織し,動かす上で,異なった性格をもっています.顔の見えない市場よりも,互いを信頼できる小さな集団のほうがよい,と思う人も多いでしょう.ただし,と付け加えておくべきです.貧しいのは嫌だ,と.家族で食べ物を奪い合い,殺し合うような,それほど貧しい世界があるでしょうか?
シエラ・レオネの母子の映像を,私は思い出します.母親はその両腕の肘から先を失い,足元で泣く幼児を慰めることもできません.今はイギリス軍などが介入して内戦を終結させましたが,かつてシエラ・レオネは世界で最も悲惨な土地でした.そこにはダイヤモンドの鉱山があり,「富」を掘り出すだけで豊かになれるはずでした.ところが政府軍と反政府軍が内戦を続けてダイヤモンド鉱山を奪い合い,住民たちを虐殺したのです.特に反政府軍のRUFは,村人を襲ってその手足を切り落とし,あるいは,両親を殺して子供を連れ去りました.彼らは政府軍の兵士となるかもしれない住民を減らし,自分たちへの恐怖を浸透させ,また,子供たちは奴隷のように,武器を持たして兵士とし,あるいは鉱山労働者として死ぬまで酷使したのです.
社会を豊かにする「金色の種」は,ダイヤモンドや金銀ではありません.そのことを明確に述べたアダム・スミスの『諸国民の富』が,経済学の誕生を告げました.スミスは「社会的分業」を発見し,「生産的労働」について考察しています.ある社会が豊かであるとしたら,それは工場内での分業が労働の生産性を高めるように,社会全体として分業を組織し,労働者の配置や資本ストックを正しく配分できているからです.ダイナミックで,自由な市場は,人々の勤勉さや革新を奨励し,それを競争的に普及させるはずです.
V
経済学者の多くは,しばしば,市場の自由化を支持し,自由貿易を支持します.ところが現実には,完全に自由な市場や自由な貿易は例外に過ぎません.市場は規制され,介入され,歪められています.なぜなら市場は人々の生活を破壊し,社会に混乱や対立をもたらしたからです.人々は,安定した暮らしや仕事への誇りにかけて,不安定な市場を統制し,新しい機械や安価な輸入品を排撃しました.
「市場の論理」は,富をもたらす一方で,「共同体(家族)」や既存の支配秩序を破壊し,ときには人々が自分を市場の奴隷と感じさせることさえあります.市場が,社会対立や内戦ではなく,子供や仲間を大切にできる豊かな社会の一部となるには,さまざまな地域の文化と歴史に見られる,異なった社会制度を理解し,調整しなければなりません.
現代世界の重要な事件が,ことごとく経済の論理を背景として,起きています.それらを正しく理解し,改善するためには,経済学の知識が非常に重要です.経済学は,市場によってダイナミックに変化する社会へのメッセージであり,噴出する社会問題の解決に向けた論争なのです.
もし経済学を深く理解すれば,きっと彼らも経済の変調やフロンティアを予見し,それに耳をすまして,自分の嗅覚を持つことができるはずです.私たちは,世界市場や景気に翻弄されるのではなく,その機会を捉えようとするでしょう.そして,成功するにせよ,失敗するにせよ,本当に優れた経済学者の短い考察にも溢れる,多くの「意味」を味わうのです.
・・・せっかく来てくれた生徒たちが,曖昧で,不満そうな,納得いかない顔をしているのに,「ああ,これ以上話しても嫌われるかな」と思うのは,本当に残念でした.
「ただいまー!」と元気に帰ってきた末っ子の声に,ようやく励まされます.
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, BL:Bloomberg, CD:China Daily, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune
FT July 17 2003
Higher inflation could hurt Germany
By Samuel Brittan
(コメント) Brittanの論説を下から読めば,ドイツ産業が国際競争力を回復するには実質的な通貨の切り下げが必要である.それは同じ通貨圏を構成する他のユーロ諸国よりも低いインフレ率をドイツが維持することだ.だから,デフレばかりを恐れて,低インフレの続く理由を忘れてはいけない,というものです.
Brittanはさらに,ECBだけをドイツの「デフレ」の犯人扱いして非難し,結局,ユーロ圏のインフレ率を高めることによってドイツのインフレ率を高めても,それは問題の解決を遅らせる,と批判します.なぜなら,デフレ懸念や失業者が減って,見かけ上の深刻さが解消されれば,ドイツ政府や労働組合は改革を怠り,長期的な問題を先送りするからです.
東欧圏のインフレ抑制や直接投資による生産性上昇を考えれば,ドイツは通貨を切下げなければならなかったけれど,為替レートは動かせません.そこで,インフレ率をさらに下げるか,労働市場の改革を進めるしかなかったのです.ドイツの「社会的市場モデル」は,すでに社会的でなく,モデルでもない,とBrittanは批判します.
すなわちBrittanに言わせれば,それは労働組合と社会民主党のために,社会的な軋轢を強いる,時代遅れの制約なのです.デフレやECBは,本来の問題を解決できない,したくない者が見つけた,スケープゴートです.
FT Jul 17 2003
Lex: China
FT Jul 18 2003
Lex: Hong Kong
FT July 21 2003
Lex: Renminbi revaluation
(コメント) 中国経済の成長率は,SARSの影響で低下し,第2四半期に年率で6.7%にとどまったようです.しかし,これは結果として良かった,とFTは言います.なぜなら,中国経済の発展はまだ未熟で,成長率が6%を切ると,過剰在庫問題や失業が深刻になります.他方,10%を越えると加熱して制御できなくなるのです.もう一つは,これで,諸外国が求める人民元切上げ要求が緩和されることです.為替レートを合意することが,ますます難しくなったからです.
他方,香港の基本法を改正することに住民が反対したデモ行進で,政治的な緊張が高まりましたが,香港の株価は上昇しています.それは,世界的な株価上昇とともに,香港の民主化運動が中国政府に譲歩を迫り,香港政庁の改革や人民元取引を香港に許すきっかけになるだろう,という期待があるからだ,とFTは伝えます.もちろん,もし中国政府の反応が失望をもたらせば,株価は大きく下げるでしょう.
アメリカ経済の回復が遅れれば,政府はその犯人探しに走ります.そして膨張する貿易赤字と,対米輸出を年33%も増やした中国が標的になります.しかし,アメリカの政治家たちは,人民元気利上げがアメリカにとってのコストにもなることを思い出すでしょう.なぜなら,アジア各国の中央銀行は,自国通貨がドルに対して増加しないように,ドル買い介入を続け,アメリカの財務省証券を大規模に買い越しています.もしこの購入が止まれば,アメリカの金融市場に影響が及びます.また,中国の輸出の半分が外国企業による,と言われるように,アメリカ企業は中国の成長から大きな利益を得ています.中国が人民元を切上げれば,アメリカ企業の儲けも減るのです.
中国政府は現行制度を大きく変えるつもりはなく,人民元の外国為替市場における需給を均衡させるような,目立たない改革を考えています.それはアメリカの政治家を喜ばせませんが,両国にとって最善の策でしょう.結局,世界の経済困難を解決する魔法は,中国ではないからです.
July 23 (Bloomberg)
`Bond Vigilantes' Are Needed to Revive Japan
William Pesek Jr.
(コメント) 日本の国債市場と投資家の役割について, Pesek Jr.は,政府への監視・強制力が働いていないことを批判します.これほど金利が低ければ,普通は,誰も国債を購入しないはずですが,日本では国債だけが投資家に購入できる安全な資産であり,資本逃避は考えられません.なぜなら,外国投資家の保有率が3%しかないからです.
政府は国債の発行が低いコストで行えることを望み,日銀も民間銀行が保有する国債の価格が急落することを回避したいわけです.そして国債が低コストで発行できる限り,日本の政治家たちは本気で改革を望みません.外国投資家が日本国債の保有を増やし,国債の世界「自警団」を構成することで,政府の政策を監視し,規律する力が発揮できる,とPesek Jr.は考えます.
日経平均の上昇は続かず,再び,国債に投資が集中する.だから,今のうちに外国投資家は,売るための国債保有額を増やしておけば良い,と.
NYT July 20, 2003
A Bloody Peace in Iraq
(コメント) NYTは,国連安保理の承認を得ていないイラク攻撃に反対しました.そして,ブッシュ政権がフセインの軍事的脅威を誇張していたことが,今では明白となっています.ブッシュ政権は,イラクの戦後処理について非現実的な前提を措いていました.フセインさえいなくなれば,イラクの国家制度はすべてアメリカに協力し,反対派など消滅する,と考えたのです.しかし,毎日のようにアメリカ兵が死亡している現在,こうしたアメリカ政府の方針は根本的に修正されるべきです.
NYTは,イラクの民主的な再建と経済的繁栄が,中東地域全体の安全保障の要であることを重視します.それゆえ,その負担が非常に大きくとも,長期的に,国際的な枠組みでイラクの民主化を支援し続けるべきだ,と主張します.結果的に,戦後処理への国際支援を難しくした戦争の始め方に対して,ブッシュ政権はその代価を支払うでしょう.それでもなお,アメリカ政府は正しい国際的政治目標を掲げて,長期的にイラクに留まるべきだ,と.
NYT July 22, 2003
The Great Catfish War
カンボジア国境に近いメコン川でナマズを捕って暮らすヴェトナム人のTran Vu Longさんは,今年の漁を喜べない.35歳のこの漁師が,苦労の末に,40トンのナマズを竹の籠に入れて貿易業者に納入したのに,2000ドルほどの損失となったからだ.彼にとっては大きな額だ.「アメリカは自由貿易を唱えておきながら,私たちが利益を得るようになれば,途端にその調子が変わる」と,彼はワシントンの政治家を非難する.
彼の不幸は,豊かな国が自国の工業製品を輸出するときには自由貿易を唱えておきながら,自国の農民が競争にさらされると,途端に,あからさまな保護主義に変身することを示す,一例に過ぎない.ヴェトナムとアメリカとのナマズ戦争は,大国が決める世界貿易システムに対して,影響力を持たない貧しい国にとっての警鐘である.
脱マルクス主義の改革を経て,1990年代のヴェトナムはグローバリゼーションに輝く成功例でした.かつて米の輸入国であったヴェトナムは,今や世界第二の米の輸出国であり,コーヒーの主要輸出国です.地方の貧困層は,人口の7割から3割にまで減少しました.
アメリカとの国交正常化は,アメリカからの通商代表をもたらし,民間企業の増大に結び付きました.その代表の一人がメコン川のナマズに注目し,自然条件と低賃金が高い競争力をもたらすことを教えたのです.僅か数年で,約50万人のヴェトナム人がナマズ貿易に関わって生活し,彼らの輸出するナマズがアメリカの冷凍ナマズ市場の20%を占め,その価格を引き下げました.ミシシッピー農業局が嘆くように,今では地元のレストランもヴェトナムのナマズを料理します.
しかし,まもなくヴェトナムの漁師たちは醜い戦争に巻き込まれた.ミシシッピー・デルタのナマズ農家を代表するCFA(the Catfish Farmers of America)が,ヴェトナム・ナマズを攻撃し始めたのだ.ナマズ農家は巨大なアグリビジネスではないが,アメリカ自身が励ましたヴェトナムの自由企業に対して,自由市場競争のチャンピオンであるべきアメリカが,その競争を捻じ曲げたことは弁解の余地が無い.
Trent Lott上院議員の指導で,議会は科学を覆した.アメリカ議会は,2000種以上あるナマズの中で,アメリカ生まれの種だけを「ナマズ」と呼んでも良い,と宣言した.ヴェトナムのナマズは,ヴェトナム語の「バサ」や「トラ」として市場で売らねばならない! さらに民主党のMarion Berry下院議員は,ヴェトナム戦争によって汚染された土地や河川から来るナマズの危険性を強調しはじめた.あるいは,再びここでは「ナマズ」として,反ダンピングで訴えた.
アメリカ商務省は,ヴェトナムのナマズがヴェトナムでの価格やアメリカの国内コストを下回る価格で売られているかどうかの証拠を持たないまま,要するにヴェトナムは「市場経済ではない」から,アメリカ農民を競争させるべきではない,と宣言した.ヴェトナムのナマズには37%から64%の関税が課されることになった.
こうしてメコン川の輸出業者は,自分たちの利ざやを確保するために,漁師からの買取価格を下げた.彼らは損失を出すような価格でナマズを売ることを拒み,自分たちの投資が無駄になったことを知り,アメリカ商務省が自分たちを自由市場では無いと述べたことに打ちのめされた.さらに,アメリカ通商代表部は,ヴェトナムのナマズがアメリカ農家に被害を与えているかどうかの調査を開始する,と発表した.もしそれが被害を認めた場合,関税は恒久化される.
しかし,ヴェトナムの主張は,ハノイの元捕虜であったジョン・マッケインが率いる上院の半数の議員によって支持された.マッケインは,これがあからさまな保護主義であるだけでなく,共産主義を自由化するために戦略的に貿易を重視してきた姿勢を裏切るものだ,と考える.
ナマズ戦争はアメリカでは注目されていないが,ヴェトナムでは連日トップ記事となっている.ワシントンの政治家たちは,僅か数千の国内農家を保護するために,人口8000万人のヴェトナムに反米感情を甦らせ,帝国主義の嫌がらせを思い出させた.「我々はアメリカとの過去に苦しい思いがある.新しい協力と自由貿易の精神により,新しいものを望んでいたが,彼らが私たちを扱うやり方を見れば,彼らの過去を思い出す.」
国際通商部は,マッケインらの主張を聞くべきだ.さもないと,世界貿易の勝者はアメリカ・ヨーロッパ・日本だけであるように貿易のルールが書き換えられている例として,ヴェトナムも記憶されるだろう.
WP Tuesday, July 22, 2003
Bush the Believer
By Richard Cohen
(コメント) ブッシュ大統領は「嘘つき」ではない.それは,ちょうどレーニンが「便利な愚か者」と呼んだ類いの人間だろう,とCohenは考えます.レーニンは,共産党の方針を丸呑みする,だまされやすい同調者のことをそう呼びました.彼らは言われたことは何でも信じるけれど,それがほとんど全部嘘でした.
フセインが大量破壊兵器を持っているとか,アル・カイダを支援したとか,ミサイルを隠しているとか,核兵器を開発しているとか,ウランを購入したとか,いろいろ言われましたが,今のところ何も見つからず,その情報のいくつかは全くの嘘でした.ブッシュ政権は,こうした問題で国連安保理が果てしなく議論を続けることに我慢できず,「フセインが我々を襲撃する前に,フセインを叩け」という単純な主張に向かいました.
Cohenは,イラク戦争が必要であったと今も感じていますが,開戦の時期や方法には疑問を示します.すでに1998年に,クリントン政権への批判として,今のブッシュ政権を構成する人々がイラク攻撃を主張していました.また9・11の直後に開かれた閣議で,ラムズフェルドはイラクとの戦争を主張したのです.ブッシュが年頭教書の中身を嘘だと知っていた,とは思いませんが,それを事実かどうか確かめたわけではないだろう,と言います.ブッシュは戦争するために,こうしたデタラメを繰り返しました.
戦争は待つこともできたが,ブッシュは待てなかった.なぜなら,ブッシュは白黒をはっきりさせるのが好きであり,クリントンと違うことをしたがったから.大統領は「事実を確認する人ではない」と閣僚も弁解しました.その立場は事実によって崩されてしまい,彼の判断,能力,そして正直さが疑われています.大統領は「嘘つき」でないのです.ただ,この「便利な愚か者」がアメリカと世界を変えることに,誰もが不安を感じるでしょう.
FT July 23 2003
Liberian dithering
A BOSTON GLOBE EDITORIAL 7/23/2003
Mission in Liberia
LAT July 23, 2003
Liberia Is No Place for U.S. to Go Solo
By Manthia Diawara
FT July 24 2003
Liberia does not fit the doctrine
By Leon Fuerth
NYT July 29, 2003
Hearing Liberia's Pleas
By NICHOLAS D. KRISTOF
(コメント) 虐殺は続き,モンロビアのアメリカ大使館の前にも,死体の山が築かれています.国連の派兵要請に対して,ブッシュ氏は応えようとしません.イラクではアメリカ兵への襲撃や死亡が続き,ソマリアへの介入失敗も記憶されています.
しかし,FTはアメリカが軍事介入することを支持します.なぜなら,@ソマリアと違って,アメリカの解放奴隷が建国したリベリアの国民は,アメリカの介入を求めている.A周辺諸国やリベリアの政府,反政府勢力も,原則として介入を要請している.Bリベリアはこの地域の不安定化の元凶である.Cシエラ・レオネへのイギリス軍介入,象牙海岸でのフランス軍介入は,成功した.13年に及ぶ内戦で,銃による支配しか知らない世代が基礎から国を立て直すには,外からの軍事介入が必要である,と.
問題を複雑にしているのは,イラク戦争の後遺症です.リベリアへの人道的な介入と平和維持は,国連がアメリカに要請するものです.しかし,アメリカが同じ理由でイラクを攻撃する際に,安保理はこれを認めませんでした.ソマリアだけでなく,イラクへの介入についても,その後の平和維持にはアメリカの内政が大きく影響しています.リベリアがアメリカからの解放奴隷によって作られた国だ,というのは,アメリカがアフリカの西の端にある貧しい小国に,経済的にも,安全保障上も,重要な利益を見出せないという事情を変えません.
そこで,LATに載ったDiawaraの論説は,アメリカ一国で介入すべきではないし,イギリスやフランスの新植民地主義に加担すべきでも無い,と言います.むしろ,問題を地域の枠組みで解決するように求めます.兵士を送るよりも,新たに組織するアフリカ機構African Unionに武器や資金を援助して,多国間で長期的な支援を行うべきである,と.
Fuerthは,ブッシュ政権に軍事介入の原則を示すように求めています.人道的な介入を認めたのはクリントン政権でした.共和党はそれを批判してきたのであり,ブッシュ氏もそうです.国連とアメリカが軍事力の行使に関する合意を再構築する必要があり,リベリアは重要な事例となるでしょう.しかし,アメリカは世界中に軍事介入を要請されかねないのです.アメリカの戦略的な思考を見失うべきではない,と.
KRISTOFに言わせれば,リベリアはアメリカ外交の失敗の見本です.アメリカを愛する国民,輝く白い砂浜,ヤシの葉が揺れ,ドル紙幣に溢れる・・・ そして,果てしない内戦,20万人の死者,大規模な強姦,AIDSの蔓延.イラク攻撃に反対したKRISTOFが,リベリアには介入しなければならない,と主張します.なぜなら,イラクと違って毎日のように死者が増えている.イラクに駐留する米兵の数%の兵士で十分な成果を挙げるだろう,と.そして西アフリカが貧困と無秩序により,新しいテロリズムの温床とならないように.
FT July 25 2003
Russia will pay twice for the fortunes of its oligarchs
By Marshall Goldman
BG, 7/31/2003
Russia's new oligarchs overstep limits
By Marshall I. Goldman
(コメント) Goldmanが指摘するように,ロシアの石油会社Yukosの幹部が逮捕された事件は,1990年代半ばの民営化が国民から支持されていないことに由来しています.最高権力者のプーチンは,かつて共産党の支配体制を支えた秘密警察の最高責任者であった男であり,市場経済の富は僅か数年の不手際な民営化の過程で,Khodorkovskyのような少数の富豪に集中されました.Khodorkovskyが3億ドルで買収したYukosの価値は,石油価格の高騰で,今や200億ドルに達し,彼は80億ドルの富をもたらしました.
ロシア国民がこうした富豪たちを嫌っている以上,政府は富豪を厳しく監視し,脱税や汚職の容疑で取り締まり,人気を得ようとします.しかしその過程で,近年は投資家の天国であったロシアの印象が崩れ去り,大富豪の所有権さえも翻される国として,内外の投資家を逃避させるとしたら,プーチン自身の利益にもならないのです.
1985年には誰も数年ドルの資産さえ保有しなかったのに,2003年のフォーブズには世界の億万長者リストに17人のロシア人が載りました.少数の手に富が集中する一方で,ロシア経済の規模は1980年代後半に半減し,人口の3分の1は貧困線を下回ったのです.1999年から景気が回復したとは言え,余りに多くの国民が貧しく,余りに少数者が富を独占しています.
政府と富豪たちとの争いは,プーチンの再選を睨んで,ロシアの今後を決めるのです.
ST JULY 24, 2003 THU
Don't tinker with the yuan - yet
By Eddie Lee
July 25 (Bloomberg)
China's Yuan Fixed-Rate Policy Stirs More Outrage
David DeRosa
FT July 30 2003
The Fed is in a dangerous game with China
By Chen Zhao
(コメント) 人民元の切上げが求められるようになって,すでに多くの主張が現れました.アラン・グリーンスパン議長も,人民元がいずれ変動するようになるのは間違いない,と述べています.しかし問題は,それがいつなのか,です.アメリカは不況を脱するために,金利を引き下げていますが,経常収支の赤字が減りません.それは,ドル安が進んでも,ドルに固定している人民元が,中国からの輸出を減らさないからです.他方,偏ったユーロ高はヨーロッパの政治家を憤慨させます.そんな中で,グリーンスパンは人民元を固定することが過度の金融緩和とバブルを招く危険について注意しました.
実際,不動産市場のバブルが破裂すれば,中国の銀行部門が抱える不良債権はさらに増加します.中国人民銀行は,上海の銀行に融資の審査を慎重に行うように求めるとともに,資本規制を緩和して,資本流出を促そうとしています.
それでもLeeは,中国経済がバブルになると心配して変動制に転換するのは早すぎる,と考えます.豊富な労働供給を前提に,金融緩和は景気が過熱するよりも供給の増加をともなうし,国営企業の改革を進めることで失業者が増加するから8%以上の成長率が必要です.中国経済は10%で成長しても過熱ではない,という予測があります.
中国の成長は,すでに東南アジアの輸出を支えており,アメリカに代わる,世界経済の可能な唯一の成長のエンジンです.それゆえ,アメリカにとっては,中国が人民元を切り上げるより,中国経済の成長を持続させる方が,より大きな利益であろう,と.
アメリカのOlympia Snowe上院議員も,「中国は通貨を切下げることで不当に輸出を増やしている」と非難しました.しかし,DeRosaは切上げを支持しません.Snoweは零細企業が特に苦しめられている,と言いましたが,では大企業はどうか? この非対称性をどう見るか? また,人民元はドルに対して固定されている.全く減価させていない.Snoweの発言には政治的な意図がある,と.
中国人民銀行は,これを維持するために大規模な不胎化介入を続け,6月末で3465億ドルの外貨準備を保有しています.再選を目指すアメリカ政府は,この外貨準備を脅威と見ています.中国がアメリカ財務省証券を購入し続けるから,アメリカの金利はそれだけ低く抑えられています.もし中国政府が人民元の固定制を止めれば,このドル建資産はどうなるのか? もし中国政府の人民元を操作されていると非難するなら,アメリカ財務省の債券価格も操作されている.それでも人民元の切上げを望むのか? と.
Zhaoは,この新しい太平洋マネー・ゲームの展開を予想します.アメリカがデフレを恐れてミニ・バブルとリフレ政策をとり,中国は輸出の減退を恐れて人民元をドルに固定する.そのため,中国人の輸出財がアメリカの債券と交換されるのです.アメリカは金利を下げるが,中国は人民元をドルに固定するためにドル債券を購入し,外貨準備を増やし続ける.中国と香港がアメリカの長期金利を低く抑えている,と.
アメリカには経常収支赤字が累積し,中国にはインフレ圧力が累積します.それは,もしアメリカへの資本流入が止まり,あるいは中国がインフレ加速を懸念すれば,終わるでしょう.中国が人民元を切上げ,それがアメリカのインフレを促します.それは静かに終わるのか? それとも政治的な対立や経済的破局として終わるのか?
ST JULY 25, 2003 FRI
US power the bane of the Middle East
EDWARD SAID
(コメント) イギリスも,フランスも,オランダも,なぜ帝国主義国は,一握りの兵士(しかも多くは植民地人)で,圧倒的に多数の植民地住民を支配し続けることができたのか? SAIDは,それを帝国の世界観を植民地が受け入れたことに見出します.
植民地の制度や文化,人間は,帝国に比べて大きく劣っており,その社会は常に混乱しているため,帝国政府の指導や協力によって植民地人のエリートたちが支配するしかない,と思い込んだのです.帝国は善意による支配であり,必要な支配である,と.しかし,いつかは支配者と被支配者との対立が激化し,インドでも,アルジェリアでも,植民地戦争が起きました.
アメリカによるアラブ支配は,まだ長い歴史を刻むでしょう.その理由は,ある意味で,地域の支配者たちが住民に極めて劣悪な支配を続けてきたからです.アメリカが第二次世界大戦後に中東地域に入ったのは,石油を支配するためであり,イスラエルの優位を築くためでした.もちろん,いずれの帝国も,自分たちを以前の帝国とは違うと説明し,住民の教育や解放を唱えました.アメリカと,それに協力するアラブの支配者たちが,この歴史を終わらせるまでには,もっと事態が悪化するはずです.
アラブの問題とはアメリカ権力の介入だ,とSAIDは言います.アメリカがそれを認めない以上,本当の解決は不可能だ,と.
WP Thursday, July 24, 2003
Wisdom of a Renegade
By Robert J. Samuelson
チャールズ・キンドルバーガーが92歳で亡くなったのは,世界がまさに彼を必要としているときだった.キンドルバーガーは現代の経済学を彩るどのような数学モデルにも懐疑的で,その現実からの乖離を嫌った.歴史の重要性を確信し,混沌とした全ての力が,人々や企業,政府を動かしている,と考えた.戦争,収穫,新技術,革命,知的な熱狂,大衆の心理,その他諸々が含まれる.
現代の経済学は過去など見るなと放言する.リスクは新しい手段で回避し,景気循環は制御できる.中央銀行から高度なヘッジ技術まで.歴史など好事家の暇つぶしだ.しかし,キンドルバーガーは異説を唱えた.そして事態は,この偏屈者が正しいことを示した.
彼の最も有名な著作は,1978年に出版された"Manias, Panics, and Crashes: A History of Financial Crises"である.正統的には,マクロ政策と預金保険制度,専門的な投資が行われれば,銀行のパニックや金融危機は起きないはずだった.キンドルバーガーはそれに反対だった.「投機は二段階で起きる.」最初は本物の投資機会に反応して,次は手っ取り早い利益を求めて.1830年代のイギリスにおける鉄道投機.アメリカの土地投機.そして,もちろんITバブルでも.
キンドルバーガーは亡くなる直前に,アメリカの住宅市場についてバブルを心配していた.多くの経済学者はこれを否定した.住宅は株式と違う,と.しかし,キンドルバーガーは言った.a)バブルが弾けるまでは,誰もそれをバブルと言わない.b)いくつかの住宅価格の異常な上昇が見られる.c)低金利の安易な融資が行われている.
キンドルバーガーはMITで教え(1948-76年),三つの外国語(仏独伊)を読み,30冊を超える多くの本を書いた.第二次大戦後にマーシャル・プランに参加し,ヨーロッパへの巨額の援助を見て,政府の決定的な力を知った.1973年に出版された"The World in Depression, 1929-1939"でも,同じ教訓を導いた.自由市場は一般に上手く機能するが,ときに援助する必要がある,というのが彼の結論だ.
歴史は重要だ,という意識を,特に大学にいる現代の経済学者は忘れがちだ.エレガントなモデルや数学的証明,方程式やデータに示されないものは,何でも排除してしまう.だから彼らはITバブルを見分けられず,景気回復の遅れに困惑する.しかし本当に大きな変化は方程式を否定し,政治的,心理的,文化的な意味に及ぶ.
中国が世界市場に参加し,先進国で高齢化が進んでも,経済学は有益な考察を示せない.もっと現実を知り,過去の複雑さを知るべきだ.経済学は真空に存在するのではない.
キンドルバーガーは興味深い歴史の細部を知っていた.1729年の南海泡沫事件で,アイザック・ニュートンは2万ポンド(約150万ドル)も失った.キンドルバーガーの本は,今流行の先端的な経済理論が忘れ去れた後も,楽しく,有益な本として読み継がれるだろう.
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The Economist, July 12th 2003
Asian currencies: Re-orientation needed
Asian currencies: Fear of floating
(コメント) The Economistの基本的な自由主義を主張しています.
アメリカの貿易赤字の元凶や,世界にデフレを撒き散らしている犯人として,中国人民元の切上げを求めるのは間違いです.中国からの輸入はアメリカや日本のGDPの2%でしかないからです.しかし,中国や他のアジア諸国が通貨価値を人為的に低い水準で維持していることは事実です.それは世界経済の不均衡を解消する障害となっています.重商主義の政府は,外貨準備の増加をよいことだと考えるでしょう.しかし,実際には優れた投資機会を失い,資本を浪費しているのです.
特にアジア経済がますます輸出に依存しているのは間違った選択です.また,技術や産業構造の高度化も進みません.アジア諸国の通貨を増価させることが,多くの国にとって利益なのです.ただし,中国は銀行システムが脆弱で,変動制は望ましくないでしょう.資本規制を維持して,切り上げする方が良いはずです.他方,アジアの巨額の外貨準備に支えられてアメリカが景気を回復するのは,当面,好ましい展開に見えても,将来にもっと苦しい調整を迎えることでしょう.
アジア通貨が増価を遅らせることは,その最も重要な成長の条件である自由貿易を保護主義に侵食させる結果となるのです.
The Economist, July 19th 2003
Arab democratic reform: Arab reform, or Arab performance?
(コメント) アメリカのイラク侵攻によって,中東地域の民主化は加速しています.自国が次の標的にはなりたくないからです.しかし,民主化の中身はいろいろであり,ブッシュ氏が思うほどアメリカのもくろみは成功しないようです.イラクの民主化やアメリカはアラブ諸国民の目指すモデルではなく,脅威なのです.たとえ弾圧されている反政府勢力でも,アメリカに侵略されないために,自分たちが民主化を行うべきだと焦っています.
それでも,アメリカのイラク支配が中東政治を動かし始めたのは事実です.
The new geography of the IT industry
(コメント) IT産業が,バブルの後,どのように変化しつつあるのか? この特集記事は地理的な再配置を示しています.単純に言えば,シリコン・ヴァレーからインドへ.しかし,インドのIT産業は世界的なネットワークの一部にしかなれません.そして,それ自体が激しい競争の中で地位を失いつつあります.新しいIT産業の核は,やはり旧工業諸国のIT企業なのです.
シリコン・ヴァレーが沈滞する一方で,インドの電子都市,Bangaloreは活気に包まれています.他方,Microsoftは,500億ドルもの余剰資金を銀行に持ちながら,投資先を見出せません.インドにプログラムやインプットの仕事を移し出したのも,シリコン・ヴァレーのヴェンチャー企業でした.最近はロシアや中国,ヴェトナムにもオフショアの作業工場があります.IT技術が成熟して,次第に新しい技術よりも,より使い易い,安価なソフトが求められるのです.メインフレームの時代はニュー・ヨーク,PCの時代はフロリダ,ヒューストン,そしてシリコン・ヴァレー,インターネットはまさにシリコン・ヴァレーで開花しました.
それはY2K問題や,アマゾン人気でインターネット販売が増え,シリコン・ヴァレーの文化がIT産業を変えた時代でした.でも今は,新興企業や高度な技術ではなく,顧客は既存技術の統合化や合理化を求めています.シリコン・ヴァレーの競争相手として,一方では海外の生産基地が,他方では海外の安価なプログラミングやデータ処理基地が,急速に成長しています.
記事は,この変化をまるでリカードの外国貿易と直接投資の比較,また比較生産費と自由貿易の拡大と同じように説明します.すなわち,さまざまな投資条件の違いを見れば,貿易が完全に国内取引と同じにはならない.また,インドが低賃金であっても,急速に他の地域にも生産基地や処理センターが移転される.最後に,デザインやマーケティング部門は市場に残るから,世界的な連鎖がこうした大市場の中へとつながる,と.
シリコン・ヴァレーは,今も,革新に向かう性質から.バイオとナノ・テクを情報に組み合わせます.しかし何が本当に成功し,シリコン・ヴァレーが生き返るのか,誰にも分かりません.
Economics focus: Of manias, panics and crashes
チャールズ・キンドルバーガーは多くの読者に好かれた本物の経済学者でした.彼は7月7日,92歳で亡くなりました.今や,バブルによって金融理論は責められています.バブルの研究は,経済モデルの外で,あらゆる分野の研究へと拡大しています.しかし他方,バブル理論のバブルが起きている,と揶揄されています.キンドルバーガーが知っていたように,市場はときに,「最後の貸し手」である中央銀行によって助けられます.しかし,それはまた必ずモラル・ハザードをもたらします.それゆえ中央銀行は,いつ,誰を救済するか,明確にしてはならないのです.キンドルバーガーが,今のアラン・グリーンスパンの政策を支持するかどうか,わかりません.しかし,彼なら必ずウィットに富んだ解説をしたことでしょう.