IPEの果樹園2003

今週のReview

7/21-7/26

*****************************

北大のポプラ並木に沿って,キャンパスの緑に包まれ,ひとりで散歩するのは爽快でした.シンポジウムの会場に出席する余裕がないまま,自分に与えられた短いコメント時間をどうするか,図書館や屋外で考えていました.・・・このキャンパスならリスやフクロウが居るかもしれません.でも,すべてが雪に覆われた姿は,想像もつきませんが.

ロシアの研究者(E.ガブリレンコフ氏)は2002年からロシア経済はより健全で持続的な成長に向けて変化しつつある,と主張しました.実質実効為替レートは増価し,資本流出は減って,大幅な経常黒字により外貨準備が増えているのです.金利も低下し,企業は資本財を輸入して,生産性上昇による持続的な高成長を準備しつつある,と楽観論を示しました.

他方,ロシアが1998年に起こした通貨危機とデフォルトに関して,日本の報告者(上垣彰氏)はIMFの姿勢に問題があったと考えます.自由化・安定化・構造改革,というIMFの従来の主張を,現実のロシアの条件に合わせて変更したことを賞賛(?)しつつも,IMFが原則的な資本自由化を支持して,ロシアからの大規模な資本流出を許してしまったことを批判しました.

ロシアの経済構造変化と通貨危機との関係は,二人の議論に明確な形で示されませんでした.ガブリレンコフ氏は,大幅な減価や石油の輸出収入だけに頼る成長メカニズムから脱却しつつある,と強調しました.もっと国内需要に根を張った,投資と生産性上昇,賃金上昇の好循環が生じている,と考えたわけです.「オランダ病」は的外れであり,少なくとも今のマクロ経済条件で,通貨危機が再発することもない,と.

しかし,質問者(V.ポポフ氏)が指摘したように,ロシアの自殺者や犯罪件数が減っていないことは,現在の高い成長率に深刻な問題が含まれていることを示唆しています.私も,ガブリレンコフ氏が楽観するほど,ロシアは発達した市場経済に近付いていないと感じます.アジアのように低賃金を武器に輸出を伸ばすこともできませんが,アメリカのようにハイテクと金融部門が発達して,外国からの貯蓄を吸い上げると期待するのは無理です.

「ロシアはもはやサウジ・アラビアではない」と,私はコメントしました.「しかし,メキシコに近付いたのであり,アルゼンチンでさえあると思う」と.その問題の源泉は,石油の富を支配する者たちの暗闘です.国際価格の数分の一であった石油価格に輸出税を課して政府の歳入にしたことは,混乱した民営化により石油を個人の独占物にする過程とともに,健全な経済活動を犠牲にして,資源の密貿易や脱税,資本逃避,マフィアの拡大につながったのです.

確かに,もし為替レートで石油価格を調整したとすれば,他の産業は輸入品によって壊滅されたでしょう.輸出税はそれを防ぎましたが,「オランダ病」の心配は今も残っていると思います.石油会社に課税し,それによって国内産業の近代化や構造転換に融資する,という発想は,社会主義の呪縛をようやく逃れて「市場自由化」に向かう人々から嫌われたようです.しかし,社会の混乱期に蓄財した桁外れの資産家や独占企業が,社会的な目標を「自由な」市場で達成することはないでしょう.

為替レートやインフレ,石油の富への課税や,その分配,・・・ ロシアの市場と民主主義が機能するまでには,まだ,有能で,社会全体の利益を重視する政府が中心的な役割を担うと思います.その一方で,社会や政治における腐敗と混乱,社会主義的分配に依拠してきた中産階級の没落が,ロシアをますますラテン・アメリカに近づけるのではないでしょうか?

会場の外で,ロシア人の研究者に「あなたはIMFに批判的なのですね?」と言われて,私は「いいえ」と答えました.その後,不満そうな彼に,英語でうまく説明できませんでした.・・・IMFにロシアを動かす力はなかった.彼らは危機管理のために派遣され,それに失敗して引き揚げただけだ.ロシア人だけが,危機のさまざまな原因を自分たちの政治や社会の中に見出し,それを解決する権力や制度を選択できたはずだ.だから・・・

(不規則な仕事と私用により,一週間,Reviewを休みます.悪しからず.)

*****************************

ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, BL:Bloomberg, CD:China Daily, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune


FT July 6 2003

Closing the gap between the regions

By Martin Wolf

(コメント) 世界市場や世界的なネットワークにおいて情報を集中するコアに関わる部分と,そうでない部分とが,イギリスでは地域的な経済格差を拡大し続けているようです.日本でも,こうした変化は起きていると思います.もし田舎の人口が減少して,雇用形態や土地の利用形態が変化することで,より高い生活水準を享受できるなら,こうした変化は必ずしも非難されるわけではありません.

Wolfは,地域間の経済格差解消を目指す「地域政策」が失敗の連続であった,と指摘します.すなわち,過疎地域での雇用創出を促し,あらゆる地域に交通・輸送手段を整備し,大学を建て,地域に権限を委譲したわけです.しかし,最も重要なことは,どのような財源も集権化したがる大蔵省の抵抗を抑えて,財源を地域に移譲することだ,とWolfは考えます.

なぜなら,ロンドンの優位がどれほど圧倒的に見えても,過剰な集中はコストを増大させて,インフラ投資のために追加の財源が必要になります.もしロンドンの地価や税率が非常に高くなれば,産業によってはロンドンからの脱出を図るでしょう.他方,中央政府は,交通など,市民生活に必要なインフラを全国に整備すれば良いのです.平均的な投資額に地域の貧困による財源不足を考慮し,ロンドンの財源不足はロンドンの市民と企業が負担させます.その結果,人口や産業は分散化するはずです.

世界的な規模で地域格差が生じているにもかかわらず,財政的な所得格差の調整は一国内に限定されます.世界的には,貿易による生産と雇用の増大に向けた人口移動が,最も重要なメカニズムとなっています.すなわち,中国のように都市化が加速するのです.国内に成長の極を持たない地方や小国は,政治的な財源移転を得られず,政治的独立を維持できないかもしれません.たとえば,EU統合でも,アメリカ軍の介入でも,香港でも.


NYT July 6, 2003

Workers in Argentina Take Charge of Abandoned Factories

By LARRY ROHTER

(コメント) ラテン・アメリカの「ポピュリズム」を強く感じさせる記事です.ブエノス・アイレスのIMPAアルミニウム工場が,経済危機の結果,労働者自身によって所有され,経営される事態になりました.

多くの企業で,18ヶ月前の危機は,経営者を破産させ,不払いの賃金や借金を残して,彼らは遁走しました.しかし労働者たちは破産を受け入れず,地域の協同組合や,「人民資本主義」を唱える左派グループの助けを借りて,破産法廷を説得し,会社を取得して経営を続けることに成功しました.少なくとも160の工場で,10000人の労働者が,自主経営を続けています.

問題は運転資本を調達できないことでした.銀行は彼らに融資してくれません.そこで,多国籍企業を含む顧客から60日の信用を得て,資金を調達しました.工場は,労働者から選出された管理委員会が経営しています.賃金や労働者の採用を決め,空きスペースを利用して地域文化にも貢献しました.

雇用や税収が失われる危機に直面して,地方政府の好意的な対応も彼らを助けました.放棄された工場を労働者たちが取得し,債権者たちと交渉する権利を認めたのです.倒産させて,資産を持ち出されるよりも,労働者たちに経営を委ねた方が,危機の社会的コストを抑えることができるから,と市議会の代表は言います.

しかし,アルゼンチン経済の回復により,元の経営者が現れて工場の引渡しを求め,暴力事件も発生しています.また今も,彼らに対して長期契約や融資を拒む企業や銀行が多い,と嘆きます.人前に立つことなどなかった労働者たちが,管理委員会に選出され,経営者としての知識や技量を身に付けてきました.彼らは自ら職場を守るために懸命に働き,賃金を引き下げて,その較差も縮めました.

初めて賃金を大幅にカットした際,彼らは牛を購入して,それを工場で解体し,肉を分け合ったのです.企業としての一体感こそ,自分たちの本当の強みである,と彼らは言います.


FT July 7 2003

Remove the arms, not the man

By Quentin Peel

(コメント) 大量破壊兵器(WMD)の発見に躍起となり,あるいはWMDの存在を示す情報が何であったか,誰が,いつ,何を知って,脅威を判定したのか? 国民は欺かれたのか? という論争が過熱しています.

Peelは,WMDが21世紀の安全保障を支配するという論争の前提を批判します.テロや暴力の蔓延,地域の不安定化は,WMDとは別に,もっと深刻な問題です.9・11と結び付いたアメリカの思考が,WMDや核技術の拡散,あるいはイスラム原理主義に注意を向けさせました.

サダム・フセインはWMDを中東における彼の交渉力や権力のシンボルとして保持しました.それゆえ,WMDをアル・カイダに供給することや,他国と分かち合うことは,考えませんでした.同じことは,イランや北朝鮮の核開発についても言えます.

WMDに固執し始めたEUは,もう少し多様な脅威に配慮し,不安定な地域に注意を向けています.効果的な多国間の交渉と,国際制度を重視し,ブッシュ政権の「予防的攻撃」に対抗して,「予防的な組み込み」を提唱しさえします.核兵器の拡散を抑えたように,国際協定によってWMDを抑制するべきだ,とアメリカのシンク・タンクも主張します.

しかし,ブッシュ政権は,間違った方針転換をしました.武器(WMD)を取り除くのではなく,危険な政府を取り除く,と決めたのです.イスラエルは核兵器を保有しても良い.しかし,イランは許さない.インドは保有しても良いが,北朝鮮には認めない.・・・そして,WMDの脅威は感染します.フセインを強く支援してきたアメリカが,WMDを理由に,軍事攻撃を行いました.

Peelは,この偏った,アメリカの不確実な思考にもっぱら依拠する,「新しい」安全保障の考え方を,危険なものと見なします.


FT July 8 2003

Mexico needs a Chinese shock

By David Hale

いつか,メキシコの歴史家にも,自分たちの国を経済的に前進させた幸運と,政治的に前進させた破局について,論じることのできる日が来るだろう.南アフリカの歴史家たちが1930年代について議論するように.たとえばC.W. de Kievietは,19世紀後半の金鉱発見に言及した.メキシコの場合,20世紀の幸運とは石油であった.石油のおかげでメキシコは世界資本市場から借入れ,財政の3分の1を賄った.

メキシコの政治を形成したのは,1910-16年の革命と,1989年の共産主義崩壊であった.革命は内戦をもたらし,単一政党の支配を準備した.制度的革命党(PRI)の下で,メキシコは保護主義と重要産業の国有化,世界経済への限定した関与を特徴とするコーポラティスト経済を発達させた.しかし,債務危機と共産主義崩壊により,1980年代に経済政策は劇的に転換した.1989年に大統領となったカルロス・サリナスはメキシコを外資のためのバーゲンにした.ところが1990年のダヴォスにおける世界経済フォーラムで,投資家が熱狂しているのは新しく自由化された東欧の投資機会であって,ラテン・アメリカではない,と知った.そこでサリナスは思い切った新戦術を採用したのである.北米自由貿易圏NAFTAだ.

NAFTAの誕生はメキシコの経済と政治システムを変えた.輸出はGDPの15%(1985年)から30%(2002年)に増加し,直接投資は10年前に40億ドルであったが,2002年には140億ドルになった.経済自由化によって,メキシコの政治システムもより開放的で民主的になった.1920年代以来,初めて,PRIは1997年に議会の支配権を失い,国民はPRI以外の大統領を選択した.

問題は,民主主義がメキシコを統治することを難しくしたことだ.日曜日の議会選挙前に,フォックス大統領の政党PANは議会の少数派であったため,重要な法案を通貨させることができなかった.議会は,課税ベースの拡大や,エネルギー部門への外国投資受け入れ,労働市場の自由化に行き詰まった.PANが再び敗北すれば,フォックスは権力のない大統領として残りの3年間を過ごすしかない.

長引く政治的混迷に対して,中国の台頭がショックをもたらした.メキシコのエリートたちに,中国がすぐにもアメリカの二番目の貿易相手国になるだろう,という恐怖が広まっている.それが理由となって,メキシコは中国のWTO加盟を承認した最後の国になった.メキシコの心配は正しい.マキラドーラの組立工場は,2000年以来20万人の雇用を失ったが,その理由の一部は生産拠点がアジアに移ったことであった.メキシコの労働コストは中国の4倍である.電気代は2倍もし,その理由は外国投資をエネルギー部門に受け入れないことである.メキシコは景気循環に弱い旧式の商品を生産しているが,台湾企業は急速に中国のハイテク部門を拡大している.メキシコへの直接投資は年に120〜140億ドルであるが,中国へは550億ドル,ハイテク部門だけでも160億ドルに達する.アメリカ,日本,ヨーロッパの企業が中国を世界市場向けの輸出基地として重視し,他国を犠牲にして,中国は貿易における地位を上昇させている.

メキシコの問題は,ダヴォスに出席したサリナスと同じように,中国が経済政策の劇的な変化を加速させるかどうか,である.サリナスは一党支配下のメキシコであったからNAFTAを導入できた.しかし今や,PANはPRIや左派のPRDと協力して,電力民営化や税制改革,労働市場の規制緩和を進め,メキシコ製造業のコストを下げなければならない.さもないと,メキシコはアメリカ市場を失うだけでなく,製造業の職場や雇用も失うだろう.

中国のように民主主義ではない国がメキシコの民主的制度を活性化するというのは,いかにも皮肉である.これもまたグローバリゼーションの優れた機能かもしれない.経済的自由化は政治的な開放をもたらすが,そのためには競争力を改善する経済政策を実行しなければならない.メキシコが今必要としているのは,その完全な経済的能力を発揮し,貿易国として中国に対抗するために,政党間で協力することなのである.


LAT July 8, 2003

Bombings Aren't the Whole Story

By Rajan Menon

(コメント) チェチェンの分離独立を支持する過激派によるモスクワで起きた自爆テロでは16人が死亡しました.昨年10月の劇場占拠でも,129人の人質と61人のチェチェン兵士が,ロシア治安部隊の用いた毒ガスで死亡しました.歴史的に続くチェチェン紛争は,ソビエト連邦崩壊時の独立要求を弾圧することで激化し,完全に鎮圧されたことなどありません.Menonは,大幅な自治権を与える形で,平和的な交渉を支持するチェチェン人の政治勢力と協力することが,プーチン政権に可能な最善の策だ,と主張します.

プーチンは,国内で反政府的な民間TV局を禁じたように,チェチェンからの情報を完全に遮断し,軍隊を送ってゲリラの掃討作戦を行っています.彼らは夜間に住宅を襲って,勝手に決めた「容疑者」を連行し,拷問し,買収し,強姦するだけでなく,民間人を含む大量の行方不明者を,実際には処刑し,その死体を秘密裏に埋葬している疑いがあります.しかし,ロシア政府は9・11に即座に対応して,ブッシュ政権にチェチェン紛争を「テロとの戦争」であると正当化しました.

チェチェンの反政府勢力に発言する機会がない以上,彼らは外国政府や国際機関に訴え,あるいはテロによってでも,ロシアの軍隊やロシア国民に,チェチェン人の味わっている苦しみを教えなければならないと確信する過激派が勢力を拡大するのです.もちろん,チェチェンの経済や社会はロシア軍によって壊滅されました.恐怖と強制移住,極貧生活以外に何も知らない世代が育っています.多くの孤児が居ます.100万人の人口のうち,約20万人が隣接地域に難民として暮らします.しかし,ロシア政府は難民に何の支援も行わず,モスクワのチェチェン人は迫害され,暗殺されています.

こうしたことがテロを正当化するわけではありません.しかし,誰にも知られないまま,迫害とテロの悪循環は続くのです.チェチェンの秩序は見せかけに過ぎず,テロは終息しません.


FT July 9 2003

The obligations of rich countries

LAT July 9, 2003

If We Cared to, We Could Defeat World Poverty

By Jeffrey D. Sachs and Sakiko Fukuda-Parr

NYT July 9, 2003

A Rich Nation, a Poor Continent

By JEFFREY D. SACHS

(コメント) 国連開発計画局が発行した今年の"Human Development Report"は「開発の千年協定the Millennium Development Compact」を唱えました.豊かな国は,もっと援助を行い,国内市場を開放すること.そして貧しい国は,国内の治安を回復し,良質の政府を維持すること.それが世界の貧困をなくすための合意です.言うまでもなく,これは当たり前ですが.

FTは,援助の効率化を支持します.正しい政府に援助を与えることで,彼らの政府を改善できるでしょう.他方で,報告は中国やインドを成功例として誇張している,と批判します.成功した民営化や市場による資源配分を軽視し,政府に過剰な期待を抱かせるのは間違いだ,と.貧困の源が両側の政府にあることは確かです.国内市場を保護する裕福な政府と,国内権力や分配に依拠した貧しい政府です.

世界の開発や貧困問題に発言を繰り返してきたSachsが,この報告に関して意見を述べないはずがありません.彼の意見は,なぜ極端な貧困を大幅に減らす能力が豊かな国にはあり,それを繰り返し公に約束していながら,世界の貧困は減らないのか? と問うものです.その理由は,豊かな国の国民が間違った認識を持っていることと,その優先順位の問題です.アメリカ人の多くは,アメリカ政府が腐敗した政府や独裁者にもっぱら援助を与えながら,貧困や伝染病の対策には僅かしか支出していない,ということを知りません.豊かな国の国民は,そのGDPの僅か1%で世界の貧困を大幅に減らせるにもかかわらず,その程度の援助も行わず,はるかに巨額の資金を見込みのない国内の農業支援に充てています.実際の援助は,貧困を減らすために行われているのではないのです.

あるいはSachsは,アメリカのブッシュ政権に絞って批判します.富裕層への恥知らずな減税を済ませてから,アフリカに赴いて貧困と疫病に苦しむ市民たちを慰めると言うのか? IRSの統計によれば,アメリカで最も裕福な400人が平均で一人1億7400万ドル(約205億円,合計では690億ドル=約8兆2000億円)の年収を得る一方で,ブッシュ氏が訪問する大陸の4ヶ国に住む全人口,1億6600万人が得る収入がそれよりも少ないのは,どうしてなのか?

ブッシュ氏はスーパー・リッチな家族が自分から寄付すると思っているのか? 少なくとも裕福な国の政治家は,この事実を国民に注意し,世界の苦しみや貧困の解消に向けて,率先して発言するべきではないか?


FT July 10 2003

The world has not heard the last of the Third Way

By Anthony Giddens

The Guardian, Monday July 14, 2003

Third-way addicts need a fix

Larry Elliott

(コメント) 「第三の道」の提唱者であるGiddensが,急変する世界に対して,その後退ではなく前進を求めています.

6年前にロンドン近郊で開催された進歩的統治に関する国際会議では,アメリカのクリントンをはじめ,欧米主要国の指導者が「第三の道」を示し,意気軒昂でした.しかし,今の雰囲気は全く違います.ブッシュ大統領に変わって,アメリカの保守主義が強まり,国際協調は軽視され,ヨーロッパでは人種差別や保守派のイデオロギーが目立ちます.「第三の道」は既に終わったのでしょうか?

Giddensは,全く違う,と言います.保守派との対抗や変化する世界への政治的革新がますます必要になっており,それに答える力は「第三の道」,すなわち近代的な社会民主主義にしかない,と断言します.すなわちそれは,政府をより民主的にし,責任あるものにします.福祉国家を改革して,人々が実際に直面している新しいリスクに適用させます.労働市場改革をともなう雇用の創出に重点を置きます.財政規律を守ります.改革を進める公共サービスへの投資を行います.知識に依拠した経済に対して,人的資本形成が成功の決定的要因であることを重視します.市民の権利と義務とのバランスをとります.グローバリゼーションや国際関係において多角主義的アプローチを採用します.

これに対して,ブッシュ氏の「思いやりのある保守主義」は成熟した政治思想ではありません.また,ヨーロッパに広がる極右と結び付いた保守派の台頭は,移民や犯罪,EUによって奪われた国家主権を口実として,人種差別や国家管理を正当化するものです.中道左派の思想だけが,この急激に変化する世界の中で,市民を守り,経済を繁栄させる条件を維持できるのです.

Giddensは,公共圏の拡大を唱えます.進歩的な思想が政府に対する疑いを示す中で,政府は信頼を再生しなければなりません.金融市場のバブルや企業スキャンダルを一掃し,世界的な規模で拡大する不平等に対して行動することで,政府は公共財や公共の利益を実現する能力を示さなければなりません.

反対にElliottは,「第三の道」をオウムのように唱えるギデンスの愚かさを痛罵しています.第三の道は,保守派の市場経済に追随する以外には,何の内容も無い,と言いたいようです.しかし,Elliottに言わせれば,さまざまな規制を取り外して世界化する市場にこそ,問題の根源があるのです.第三の道の世界パーティーを資金援助する大企業の望みどおり,それを信奉する政治家たちは富裕層や企業への減税,会計スキャンダル,バブルや通貨危機,不平等な分配を非難しません.市場が効率的に振舞えるように,政治的な制度調整を行い,危機に対しては無駄な介入をしない,と言うわけです.

「第三の道」経済学によれば,1.市場は天候のように逆らえない.2.市場をゆがめることは望ましくないし,政府はグローバリゼーションとともに生きるしかない.3.政府は企業に好かれるために,通貨・財政・環境・教育・輸送・社会政策を大企業の希望に従わせる.4.労働者は市場に合わせる「弾力性」を求められる.仕事のある職場にかわり,仕事のもらえる賃金を受け入れ,仕事のある地域に移住する.しかし,企業が年金を支払えなくなっても我慢する.


FT July 8 2003

Lex: Japan

FT July 10 2003

Lex: Japan

(コメント) 日本の株価が上昇するたびに,証券会社はバブルの処理が終わって回復に向かう,と繰り返し予測してきました.その度に,株価は再び下落したのです.今度も,いよいよ・・・という話が買いを煽ります.モルガン・スタンレーのロンドン・チームは三つの理由を挙げます.@新しい日銀総裁が金融緩和を明確にした.A日本の投資家が投資のリスクを取るようになった.B小泉首相の改革姿勢に対して政治的支持が強い.しかし,どれも確実に今後の改革と景気回復を示すには曖昧な理由です.1999年に40%も上昇した日経平均に酔って,結局,二日酔いに苦しんだ国際投資家は,日本への投資を減らして,まだ答えを待っています.

「中国の繁栄に力強い声援を」と,日本の資本財輸出部門は内心で強く願っているでしょう.国内の政治家がなびく「中国脅威論」に反して,日本の産業界は東アジア統合論に向かいそうです.なぜなら,中国への資本財輸出は,アメリカへの輸出減退を埋めて余りある拡大を示し,日本のデフレ解消や構造転換に助けとなっているからです.中国からの輸入は,確かに,日本の生産者を苦しめています.しかし同時に,その何倍も多くの輸出が日本の資本財部門に高収益をもたらしました.

昨夜のニュースでは,民主党が自由党との合同を積極的に進め,自民党から政権を奪う戦略を明確にしました.党首討論でも,解散して国民に信を問え,という菅直人氏に,小泉氏は苦笑します.国内の改革が行き詰まって,北朝鮮訪問やアメリカのイラク戦争支持を材料に動きを見せた小泉政権の基盤は,むしろ弱まったように思います.もし合同した民主党が政権を取れば,既得権に依拠した制度や組織を解体するでしょう.構造改革を加速し,財政支出に頼らない景気回復に期待が高まるでしょう.それは,政治と経済のシステムに好循環をもたらします.「痛みを伴う改革」を実現するわけです.


July 10 (Bloomberg)

Folly of Weak Currencies Is Distracting Asia

William Pesek Jr.

アジアは再び新しい通貨危機に直面している.ただし,今回の危機は通貨価値の下落ではなく,その上昇である.皮肉なことに,投資家たちも政府が通貨の安さを維持することに同調する.だが,こんな発想そのものを破棄するときである.

日本を含めて,アジア全体が1997年の危機以来,通貨を安くすることばかりに執着してきた.しかしそれは,三つの理由で成長を損なう.@もっと重要な問題の解決を遅らせる.A外国資本の流入を損なう.B世界経済で最も危険な不均衡,アメリカの経常収支赤字を拡大する.

20年以上もアジアへの投資を行ってきたMarc Faberは,「もし通貨価値の下落が長期的にそれほど好ましいのであれば,ラテン・アメリカは好況で湧いているだろう」と言う.通貨を安くすることが,国内経済の安定化につながる簡便な手段であることは分かる.それは競争力を維持する必要悪なのだ.しかし,通貨安に頼れば,経済の亀裂は修復されずに隠されてしまう.

通貨安による景気維持は,シンガポールに必要な経済転換を担う資本の流入を抑えているし,日本の銀行部門が債務処理するスピードを落とし,超過債務企業の整理に手間取らせている.円安による日本の近隣窮乏化政策は,アジア諸国にドル安と連動した通貨価値の引き下げを促し,長期的により大きな危険をもたらすはずだ.

アメリカ政府がドル安を歓迎し始めた今になって,アジア諸国はもっと銀行の不良債権処理を急がせるべきだったと後悔している.グローバリゼーションの時代には,外国からの資本を吸収できるのは安定した通貨だけである.それは,貿易のために安い通貨を求める以上に重要なことなのだ.高い通貨価値は,インフレを抑制し,金利を下げる.アジアではデフレに苦しむ国もあるが,インドネシア,韓国,フィリピンなど,インフレの加速が心配な国もある.中国は世界中の国に対して貿易黒字を累積し,プラザ合意型の切下げを行うように圧力を受けている.

アジアの通貨価値引き下げは,世界的な不均衡の調整を妨げている.アメリカは既にGDPの5%を超える経常赤字を出しており,近隣窮乏化政策に乗り出す気配だ.これに対してアジア諸国がドル・ペッグを強め,ますますアメリカの消費者にアジア製品を買わせるなら,長期的な損失はより大きなものになる.


ST JULY 11, 2003 FRI

Long and bumpy road to Asian integration

By Lee Kim Chew

(コメント) もしアジアも将来は統合化していくとすれば,ヨーロッパの25カ国が目指すのと同じものであろうか? それは空想であろう,とChewは考えます.

しかし,共通の脅威があれば,アジアの統合化が現実に進むかもしれません.イスラム原理主義? アメリカの一方的覇権? こうした政治的統合化論には,重大な欠陥があります.アジアには,ドイツとフランスのような政治的同盟が形成されていないことです.

あるいは,アジアに形成された通貨スワップや債券保証のネットワークは,脆弱な金融システムを守る共通の基礎にならないでしょうか? これも,時期尚早のようです.アジア通貨基金に対してアメリカがアジア諸国を分断し,日本の提案を受け入れさせなかったように,日本と韓国,そして中国は,どの二国が接近しても,第三の国を不満にします.

もし中国や日本との貿易取引を重視するなら,東南アジア諸国連合ASEANが自由貿易協定の進展を通じて,市場による統合化を加速する基盤となるのではないか? しかし,もしこの自由貿易圏にアメリカが含まれるなら,もう一つの権力中枢を形成する企てに反対するでしょう.また,そうでないとしたら,ASEANは自ら自由の植木協定を積極的に拡大し,実行するでしょうか? それは,彼らが自由化に伴う国内の経済改革を実行できるかどうかに懸かっており,期待できそうにない,とChewは判断します.他方,アメリカが主導するFTAに頼るなら,その参加にはワシントンの政策を受け入れることが条件となります.

もちろん,地域統合はヨーロッパと同じ理由で進むでしょう.相互の貿易が増え,資本移動が行われる結果,いずれにせよ長期的には経済過程が収斂に向かいます.ただし問題は,ケインズが言ったように,その時間です.


July 11 (Bloomberg)

Everybody Is Prodding China to Revalue the Yuan

David DeRosa

FT July 11 2003

Lex: Currency

FT July 14 2003

Asia needs time to adjust to a weaker dollar

By Mansoor Mohi-Uddin

(コメント) DeRosaは何が批判したいのか? それは,人為的な通貨の選択や為替レートの固定化だと思います.中国政府は間違っている.そして,それを批判するECBのドイセンベルグ総裁も間違っている.なぜなら,中国全体にふさわしい通貨政策がなく,為替レートも無いが,ドイツとポーランドやギリシャが同じ通貨政策や為替レートを持つ理由も無いから.しかし,同じことはアメリカのドルや,ドル化する諸国にも,ドル安やドル高の放置や口先介入にも言えることです.では,DeRosaは,何が批判したいのか?

主要通貨間で競争的切り下げが起きる,という心配もあります.今までインフレを抑えるために各国は通貨の増価を受け入れてきました.しかしデフレが懸念されるようになれば,誰も苦痛に満ちた増価を歓迎しません.誰も増価しないなら,誰も減価せず,主要通貨の為替レートは競争的な金融緩和を意味するようになるのでしょう.そして,最も健全な経済状態を維持できている国が,最も高い成長率を実現し,資本流入による増価と輸入を再開するわけです.

それは,再びアメリカなのか? もし可能であれば,アジアが金融緩和で成長を加速し,アメリカへの輸出に頼らない,地域内の相互貿易を増大させることができれば,ドルの減価と世界的な不均衡の調整も可能なはずです.

Mohi-Uddinは,ヨーロッパ(あるいは欧米)とアジアとの為替レートに対する政策の違いが国際対立の焦点となってきたと指摘します.アジア諸国の政府は,日本がリフレ策を拒否して銀行部門の悪化を放置し,香港がドル・ペッグの調整を拒否して株式市場に介入し,マレーシアが変動レート制を拒んで資本規制したように,欧米の政策判断を受け入れませんでした.今また,ドルの減価をユーロだけに押し付けて,ドルと一緒に減価することを望んでいます.

ヨーロッパが望むのは,アジア諸国がドルに固定する政策を捨てることです.しかし,今度もアジアがそれを拒むとしたら,不胎化介入による金融緩和がインフレを他の地域(アメリカ)よりも加速し,名目的にはドルとのレートを変えなくても,実質的にその通貨を増価させる政策に転換することだ,とMohi-Uddinは考えます.こうして,強いドル政策はアジアでも終わるのです.


NYT July 11, 2003

The Next Green Revolution

By NORMAN E. BORLAUG

(コメント) アフリカが,肥沃な耕地と水による農業を基礎として,繁栄することなど,火星に移住するより理不尽な話でしょうか? BORLAUGは,それが夢ではないことを示します.

アフリカの農業が壊滅したのは,土地と水,そして市場が,農業の繁栄にはふさわしくないからです.しかし,土地が不足しているわけではないし,化学肥料によって補うことができます.大規模な灌漑は無理にしても,小規模な溜池で灌漑できる土地は多くあります.彼らにそれを行う資金が無いのは,農産物を消費者まで届ける,安価な輸送手段が無いからです.アイオワから,8500マイル離れたケニアのモンバサまで,1トンのトウモロコシを輸送するコストは,50ドルほどです.ところが,550マイルしか離れていないウガンダのカンパラから運ぶコストは,100ドルもします.

アフリカが豊かな農業国になるには,それゆえ,たとえば肥料を援助して,農民に配るまでNGOが担当することです.あるいは,十分な降水の期待できる地域では溜池の掘り方を教え,支援することです.そして,市場と農民とを円滑に結ぶ道路や橋の建設,トラックなどを援助することです.地域の農業生産が軌道に乗るまで,たとえば学校給食を支援して,地元の農産物を購入することが有効でしょう.アフリカのさまざまな気候に合わせて,湿潤な熱帯地域では米を作り,乾燥した地域ではモロコシやキビを耕作できます.

BORLAUGは,それがアメリカの利益にもなる,と指摘します.ヨーロッパとGMフード(遺伝子組み替え作物)について実りの無い争いを続けるより,アフリカの農業革命にふさわしいGMフードを供給することができます.そして何より,アフリカに広がる多くの農民こそ,地球最大の土地を管理する人々であり,彼らが進む道は,地球環境の保護と両立できるように配慮されるべきなのです.

理想と,技術と,資本と,アメリカの権力が,アフリカの貧しい農民たちを,豊かな緑の土地の管理者に変える,とBORLAUGは夢想します.

******************************

The Economist, July 5th 2003

Israel and Palestine: After the ceasefire

(コメント) テロの応酬によって和平が完全に放棄されたかに見えるイスラエルとパレスチナにも,両者がその内にある暴力の罠を取り除くなら,互いの交渉が始まるはずです.PLOの代表となったアッバス氏が,イスラエルの要求するようなファタハの武装解除を強行できないのは当然です.彼らがそれぞれの村を命がけで守ってきたのです.また,イスラエルの繰り返された攻撃によって,パレスチナの自治警察はその信用と能力を失ったのです.パレスチナの指導者たちも,イスラエルとの和平とハマスとの和平とを,選択するつもりは無いのです.パレスチナ警察そのものが,ハマスやイスラム聖戦機構との武力闘争に踏み切るかどうかも分かりません.

どうすれば良いのでしょうか?

この記事は,端的に,アッバス氏とシャロン氏に対して,暴力的な手段ではなく,内紛に勝利することを求めます.アメリカの示すロード・マップには,パレスチナ人が求めてきた「独立」について明確に書かれています.武装闘争を再開する大儀を掲げる勢力は,住民たちによって反対されるでしょう.イスラエルはアッバス氏を支援するために,道路封鎖や占拠を解除し,パレスチナ人の村や町から軍隊を撤収しなければなりません.

パレスチナの独立を認める「二国アプローチ」を受け入れることは,シャロン氏に内紛をもたらします.イスラエルのすべての指導者は,その理由が宗教的やイデオロギーであっても,パレスチナの領域に入植地を建設するユダヤ人グループを支持してはなりません.それは,入植運動の指導者として政治的なキャリアを重ねたシャロン氏自身にとって苦しい選択です.イスラエル国民の世論として,シャロン氏がそれを実行する条件は,アメリカからの強い説得とアッバス氏の協力なのです.

パレスチナとイスラエルの両側で,穏健派が内紛を制したときのみ,和平は実現するでしょう.


Fund managers: The blame game

Other people’s money: A survey of asset management

(コメント) バブルによって多くの投資家が莫大な損失を被った後に,怪しげな投資コンサルタントで設けた人々だけでなく,ファンド・マネージャーたちの得てきた空前の報酬と,その活動の正当な評価に,投資家や政治家の関心がいよいよ向かい始めました.

たとえば,積極的な売買で儲けを増やすから,彼らの報酬は高額である,という説明は正しいのか? 実際には,多くのファンド・マネージャーが収益を誇張し,株価指数によって機械的に運用されるファンドの収益率を長期において超えることなど無いわけです.それどころか,売買を誘導し,自分たちの都合のよい株を買わせ,あるいは銀行などと,互いに収益を調整するような共謀行為を繰り返していたと言われます.

一方では,政治家たちがヘッジ・ファンドなどにも厳格な情報公開を義務付け,情報開示の形式や表示内容まで,細かく指定する動きがあります.「健康のために吸いすぎに注意しましょう!」という具合に.しかし,金融資産を保有することが,一握りの資産家から大衆投資家に変わったことで,投資の意味や金融商品,ルールも変化しなければならないようです.

どれほど今はファンド・マネージャーが批判され,大量に解雇されても,資産運用に対する需要は長い目でみて拡大するはずです.人々はますます高齢化し,金融資産を蓄え,政府は年金や保険を民間で運用し,あるいは個人に投資を促しています.今までの金融商品は,燃費の悪いがアメリカ車でした.しかし今後は,日本車と同じように,少ない報酬でより多くの個人投資家から好まれるような金融商品が開発されるでしょう.そして,巨額の報酬を当然のよう抜け取ってきたファンド・マネージャーたちは淘汰されるのです.

誰にでも利用できる資産運用形態というのは,伝統的な資産運用の意味を失わせます.極一部しか知らない,秘密の投資戦略で,長期の産業分野や国家,あるいは短期的な企業買収と経営陣の交代,企業再編を目指すような投資は行えないのです.僅かな投資家に説明し,限られた投資機会をものにして,成功報酬を増やすのは,今後は難しいでしょう.

しかし,他方で,個人投資家は感情的な要素,すなわち野心や楽観,慢心,恐怖,妬み,群集心理の餌食です.相場が上昇し始めれば,他にどれほどよい金融商品があっても,投資家たちが求めるのは,もっと強い刺激に満ちた宣伝文句なのです.


Economics focus: A saving grace

(コメント) 日本の貯蓄率がアメリカを下回った! という推計によって,これまでの論争の多くがますます不可解になってきます.何と,1975年に23%となっていた日本の家計部門の貯蓄率は,1990年に14%,2001年に6.9%と下落しました.ある推計では,昨年4%,今年の第一四半期に2%に落ちた,と言われ,アメリカの3.5%を下回ったのです.

The Economistは,考えられる幾つかの理由をあげています.資産価格の下落や,財政赤字の累積は,逆に,日本の貯蓄率が上昇することを示唆します.可能な説明は,ライフ・サイクル仮説です.とはいえ,人口動態やインフレ率は,これほど急激な変化を説明できません.

その理由はともかく,日本の貯蓄が減少したことで,いよいよ長年の懸案事項であった過剰貯蓄と経常収支黒字の累積問題が急速に解消されるのでしょうか? しかしThe Economistは,家計部門の貯蓄率が変化したように,政府や企業も行動を変化させるだろう,と慎重です.政府が大幅に債務を増やしていますが,これは企業が債務を減らそうとして巨額の貯蓄を行っているからです.さらに,たとえ企業が投資を増やす時期になっても,政府は民間部門を支えるための赤字を減らして,好況により歳入が増えると思われます.日本の黒字累積がどうなるか,まだ分かりません.

貯蓄率が低く,経常収支の黒字を嫌い,資本流入やアメリカ型消費に向かう日本を心から称える世代が,日本の管理職や指導者にも増えてきている,ということでしょうか.