IPEの果樹園2003

今週のReview

6/30-7/5

*****************************

政府が「骨太の方針」として掲げた 1.経済活性化,2.社会保障改革,3.財政再建,は本当に重要な目標です.しかし問題は,誰にそれが実現できるのか? です.

イギリスの首相,トニー・ブレアも窮地に立っています.私は以前,このReview(3月24日)でブレアの開戦の言葉を賞賛しました.彼はその中で,「1.戦争の目的は,サダム・フセインを権力の座から追放し,イラクの大量破壊兵器を取り除くことである」と述べた後,次のような意味で,新しい戦争を正当化したのです.

2.新しい安全保障の構築.3.戦闘に参加しない者へも脅威.4.イラク国民の解放.5.戦後の人道的な秩序(民主主義と石油の富).6.イスラエルの安全とパレスチナ国家の復興に基く中東地域全体の平和.7.貧困,環境保護,病気の撲滅.

私がトニー・ブレアについて思い出すことと言えば,イギリス全土の牛に口蹄疫が拡大しつつあったとき,決してひるむことなく,その対策と被害農家への補償に邁進した姿です.空を覆う煙と異臭を発する家畜の焼却作業を指揮することは,政治家にとって最も困難な仕事であったと思います.そんな中でも国民の支持を失わなかったことに,私は驚嘆しました.

彼はまた,イギリス保守党から政権を奪っただけでなく,宿敵サッチャーの政治スタイルや弁論術をも奪い,旧来の労働党のイメージと権力基盤を破壊,再編した,と言われます.その意味で,個人的な人気も含めて,サッチャー元首相のように嫌われ,恐れられている指導者です.ブレアを嫌って,「私はオールド・レイバーだ」と,憤然と語ったケンブリッジの知識人がいました.

子沢山の庶民的なスタイルと,ダンディーで,ビジネス界にも支持を拡大する姿勢は,クリントン前大統領と少し似ています.しかし,ハリネズミのように自身の政治的信念を貫いたサッチャーやレーガンと比べて,ブレアは多くのことを知り過ぎた狡猾なキツネだ,と言われます.サッチャーの信念とブレアの雄弁さを,日本の政治家にも与えて欲しい,と私は願いました.

ブレアはEUを支持し,ユーロ採用への情熱を繰り返し国民に訴えてきました.それは,イギリスがヨーロッパの一員として生き,EUを内部から改革するのだ,という決意から生じました.しかし,他方で,ブッシュの唱えた「テロとの戦い」に,プーチンとともに真っ先に支持を表明し,その政治的本能と狡猾さを示したわけです.

「ブレアはブッシュのプードルだ」と,非難する声が高まっています.The Economist, June 7thは,政治指導者には決定的な瞬間がある,と書きました.サッチャーが導入した人頭税に対して,各地で暴動が起きたとき,・・・父のブッシュ元大統領がスーパーマーケットで庶民生活についての無知を露呈したとき,・・・ジョン・メージャーがERMから離脱し,保守党には経済運営能力が無いと分かったとき,・・・ビル・クリントンが,ドレスのDNA鑑定を前に,その道徳意識にウジ虫がわいていることを示されたとき.・・・そして,トニー・ブレアにもその瞬間が訪れたのでしょうか?

政治家は,矛盾した性格をその本質とし,しばしば病的な嘘つきです.それでも国民が彼/彼女を信用するのはなぜか? それは,この危険で,腐った世界において,正しいことを実現するために,彼/彼女は矛盾した行動を選択し,嘘をつくしかなかった,と国民が信じるからです.

小国の政治家は,最悪の事態を回避するために,悪魔でも説得できる人物でなければなりません.他方,多くの日本の指導者は,自民党の内部を説得することに汲々として,国民や世界の声に耳を傾けません.しかし,本当に難しい問題を解決するためには,それを国民投票にかけ,繰り返し衆議院を解散することで,国民の声を代表する正当な政府=権力が政策を担っていることを示すべきです.

ブッシュ大統領の新しい国際安全保障とどう付き合うのか? 日本経済のデフレ脱出と構造改革とをどう進めるのか? 北朝鮮の核開発と拉致家族をどう解決するのか? 選挙の前に,全ての政治家が質問状に答え,戦争や金融危機の後には,公聴会を開いてほしいです.

*****************************

ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, BL:Bloomberg, CD:China Daily, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune


FT June 18 2003

Lula needs a lift from America

By Moises Naim

(コメント) アメリカは世界秩序の要です.ブッシュ大統領は,イラクで民主主義の再建を唱え,中東ではイスラエルを抑制してパレスチナとの和平を勧める役割を担うと宣言しました.しかし,大量破壊兵器の発見や治安維持に失敗し,それに行き詰まる中で,EUやロシアとの軋轢を利用し,北朝鮮やイランの核問題,キューバ,パキスタン,ミャンマー,ジンバブエ・・・を持ち出して,アメリカの軍事力と発言権を世界に確認させる展開となっています.

ブレア首相がブッシュをネオコンの呪縛から救出する作戦は,いかさま?のリンチ救出劇と違って,難しい局面に入りました.他方,このNaimの論説は,ラテン・アメリカにおいてブッシュをネオコンから解放する提案です.ワシントンを訪れるブラジルのダ・シルバ大統領とその貧困撲滅政策を,ブッシュ氏は強く支持するべきだ,というわけです.

国内では富裕層に偏った減税やマイノリティーへの冷遇を政策とし,保守派に支持基盤を求める政治家が,ダ・シルバの左派的な社会改革を歓迎するのか? それは矛盾していますが,ブッシュ氏の世界秩序にとってプラスでしょう.あるいは,ブラジルに気に入った大統領を押し付ける力が無い以上,ラテン・アメリカの民主化と市場改革を促す方が,政治的混乱と危機の波及を招くより良いわけです.

ブッシュ氏にとって,その政治的資本を試されるのは,矛盾したイデオロギーを選択するときではなく,市場自由化に反対する国内の特殊利益を切り取るときだろう,とNaimは考えます.


FT June 19 2003

A gap in our knowledge

By Samuel Brittan

(コメント) ユーロ採用の論争に乗じて,イギリス大蔵省とゴードン・ブラウンは新しい財政政策の目標を示したいようです.確かに,もし金利や為替レートが調整手段として奪われるなら,財政政策を利用する必要があるでしょう.

しかしBrittanは,生産や雇用の水準を目標として消費税率を変更できる,という着想に反対します.物価水準を金融政策が目標にするなら,なぜ失業率を財政政策が目標にしてはいけないのか? その理由は,「持続可能な生産=雇用水準」が分からないから,です.

Brittanは,なぜ需要管理政策が繰り返し失敗し,人々はNAIRUを議論し始めたか(しかも,フリードマンは現状がNAIRUのどちら側にあるかを決して答えなかった),なぜイギリス政府はポンド危機を招き,IMFに頼るという醜態をさらしたか,そして1980年代にはサッチャーが労働管理を強化し,失業増大を招いたか,などを指摘します.

政治家が経済状態を正しく知っていると前提して政策を変更することは,むしろ経済過程を混乱させるだけだ,とBrittanは批判します.中央銀行も,大蔵省も,インフレや財政均衡の名目値を目標にするだけであり,需給のギャップを解消するには市場の調整を円滑にする政策が必要だ,と主張します.失業を減らしたいなら,サッチャーのように組合を打倒するか,ブラウンのように就労促進を図るしかない,と.


June 20 (Bloomberg)

Bush Displays Some Skills as a Stock-Market Timer

Chet Currier

政治的景気循環論を信奉する者には,最近の株価上昇が単なる偶然ではないはずだ.それは,アメリカが大統領選挙に向かう数年前に示される,長年の相場上昇パターンである.

歴史は大統領たちに,再選したければ株価を上昇させろ,と教える.2004年に2期目の大統領就任を目指すブッシュ氏は,このことを痛感しているようだ.

2004年の投票日に向けて,あと1年半を切った今となっては,金融政策と財政政策のスロットルを全開にしている.株価は2年半の弱気相場を脱し,刺激策に反応した.ある資料(the Hirsch Organization's Stock Trader's Almanac:年報)では,大統領の就任3年目に相場が下落したのは1939年に遡る.

「大統領選挙は,長年,経済と株式市場に重大な影響を及ぼしてきた.」と年報は語る.「戦争,不況,弱気相場は,任期の前半に始まり,後半は好景気と株価上昇が続く傾向にある.」

このことを,極端な陰謀説と考えることは無い.現代の大統領は事態を完全に支配できなくなっており,そのタイミングを決めることはできないだろう.1987年の株価暴落は選挙の前年であった.しかし,S&P500は年末に2%の上昇となり,共和党は88年選挙で政権を維持した.逆に,父のブッシュがそうであったように,選挙前の好景気は必ずしも再選を意味しない.

ブッシュ・シニアやジミー・カーターが再選されなかったのは,投票日までに経済に十分な活気を与えられなかったからだ.この失敗を,ブッシュ氏は断じて犯したくない.選挙前の相場上昇は良いことだが,それが生産や消費にまで拡大しなければ,有権者は喜ばないのだ.

金利引下げや減税,ドル安が,それをもたらすために動員されるだろう.


NYT June 19, 2003

Still Blowing Bubbles

By PAUL KRUGMAN

(コメント) KRUGMANは,株価の上昇は景気回復を予測させるのではなく,バブルを再生しただけだ,と考えます.アメリカへの資本流入が細り,財政赤字が拡大すると予想されても,金利は下がる一方であり,これは民間投資が回復していないからである,と.人々は,相場が上昇するから買っているだけだ.そして,バブルはいずれ破裂するしかない,と予想します.

このようにKRUGMANは,アメリカの財政政策も金融政策も間違っている,と考えます.おそらく,企業スキャンダルの一掃と低所得層への減税,失業者や地方への財政的移転を優先すると思います.ハバードやマンキューとの論争を待ちましょう.


BG, 6/21/2003

Don't draw that map yet of the new American Empire

By Georgie Anne Geyer

あなたや私は,突然,帝国の一員になったのか? メキシコへ進軍し,ホンジュラスに水道橋を築く? 深夜,基地に忍び込んでは,こっそり,シーザーやハンニバル,ナポレオンの衣装に身を包む? もしあなたが,そうだ,と言うなら,ブッシュ政権の強烈な帝国建設欲に賛同し,新アメリカ帝国の出現に満足するだろう.

私は,冷笑しないまでも,懐疑的だ.そして,アメリカが世界を支配し,ブッシュ式の「民主主義」を誰にでも押し付け,アメリカの特殊部隊があらゆる谷や海に派遣されるという話が,最近は趣を変えてきたことに気付いた.この数週間,アフガニスタンでもイラクでもアメリカのやり方に反抗する動きが現れ,ワシントンで疑問の声が上がっている.

出て行けといわれて出ていく帝国なんてあるか? NATOも出て行くのか? アメリカは投資や債務を外国人に依存している.これらが失われたらアメリカ帝国は生きていけない.アメリカは,伝統的な帝国の病である対外的な過剰拡大というより,内的に過剰膨張している.福祉や健康を支えるシステムでさえ,外国からの投資無しには維持できない.

ブッシュ政権のめざす帝国建設は,その致命的な生存条件さえも理解できていないという意味で,過渡的な現象だ.軍事力にさえ,内部から疑問の声が上がっている.現状の支配を維持する戦力もおぼつかない.アメリカが他国の経済や文化を作り変える力には限界がある.「民主主義」は論争の技法であって,共産主義やイスラム原理主義のような支配を正当化できるイデオロギーではない.かつて帝国が示したような,他国が望む文化的支配力を,アメリカは持たない.

アフガニスタン政府は民主主義によって国家を再建できず,アメリカに地方の治安回復を求めている.帝国とは,地方の支配者を決めて,好きなように振舞うものではなかったのか? ブッシュ政権は人々を殺すほど真剣に帝国をめざす.しかし,長期のまともな計画は持たないのだ.思慮の無い,行き当たりばったりの,拡張主義者たちだ.

これが本当にアメリカ人の望むものなのか?


June 23 (Bloomberg)

Is China Scrapping Dollar Peg? Not So Fast

William Pesek Jr.

FT June 24 2003

Asia's currency free-riders must pay their way

By Desmond Lachman

(コメント) 中国政府が政策のタブーとしているのは,不確実性とリスクです.だから,人民元を変動レートにするような選択は行われない,とPesek Jr.は考えます.確かに,アメリカのドル安容認に連れて,中国の輸出が不当に強い競争力を示すでしょう.しかし,同時にWTOに従う自由化が国内で多くの失業を生みます.金融システムの改善が行われるまでは,市場によって為替レートを決めることなど考えない方が良いのです.

もし変動制が望ましいと言うのであれば,発達した金融システムを持つ香港が中国に返還されたときに変動制を採用するべきでした.しかし,香港でさえアジア危機の影響で固定レートを維持し,大幅に割高となった為替レートをデフレによって調整しています.中国政府は,今,動かない方が良い,と思うでしょう.

アジア諸国は,アメリカの為替レート調整に「ただ乗り」している,という批判が,既に保守派のシンクタンクAEIの研究員Lachmanから発せられています.かつて日本は円高と資本自由化を繰り返し,ついには過剰投資とバブルに至りました.中国はどうでしょうか? あるいは,ペッグする政策を変えない場合,かつてのタイは通貨価値の過大評価から暴落へと進みました.市場改革や資本自由化を慎重に行う,という場合,中国は貿易摩擦や資本規制に新しい工夫を必要とするでしょう.


WP Sunday, June 22, 2003

The Bush Doctrine At Risk

By George F. Will

FT June 23 2003

Bush must not be allowed to rewrite history

Ivo Daalder and James Lindsay

(コメント) このまま大量破壊兵器(WMD)が見つからなければ,アメリカの新しい外交政策が,その核心に据えた「ブッシュ・ドクトリン」とともに,維持できなくなるでしょう.ブッシュ・ドクトリンは,テロやWMDの存在を事前に正しく知ることができる場合にだけ,先制攻撃を認める国際秩序として有効なのです.アメリカ国民が勝利を祝っても,他国に納得できないような「証拠」を示すだけでは,戦争を正当化する手続きとなりえません.

クリントン政権のCIA長官であったJames Woolseyは,サダム・フセインの行動をこう考えます.フセインは,湾岸戦争の経験から,アメリカが長期の空爆期間を経て,漸く地上軍を送り込む,と計算したのだろう.すなわち,WMDを処分してから空爆に耐えて,ヨーロッパなどで戦争反対の世論が強まるのを待ち,停戦交渉を結べば良い,と.この判断は,トミー・フランクス将軍が「パットン戦車隊」のように,空爆と同時に地上軍を猛スピードで展開したことにより,完全に失敗した.そして,ブッシュ政権の思惑も外れたわけです.

戦争についても,ブッシュ政権の一方的な対応は,予想されたような結果を決してもたらさないことが示されました.圧倒的な軍事力の独占は,世界を思い通りに支配する幻想に過ぎません.

Ivo Daalder and James Lindsay も,ブッシュ氏の言い換えに反対します.WMDは見つからなくても,独裁者を追放し,民主主義をもたらす正しい戦争であった,と強弁するのは,歴史をねじ曲げるものだ,と.むしろ,民主主義はアメリカで危機に瀕しています.大統領が嘘や誇張による情報を国民に示し,自分の意思を押し付けるなら,ヴェトナム戦争が示したように,国民は大きな苦しみを味わうでしょう.

WMDの情報や戦争に至った意思決定について,彼らは独立の調査委員会を求めています.それについては,レーガン政権がイラン・コントラ事件で任命した先例(the Tower commission)があります.すでにイギリスのブレア首相が政治的な非難を浴びているのを見ても,イギリスが二度とアメリカの指導する「先制攻撃」に加わるとは思えません.WMDの疑惑をアメリカ政府が無視するようなら,他国がアメリカの戦争を支持することも無いのです.


FT June 23 2003

Signs of maturity

FT June 23 2003

Hungary's challenge

(コメント) 新興市場であれ,ハンガリーであれ,国際投資家は高い成長率と健全な財政状態を維持できる,危機に陥らない経済運営を求めます.しかし,一方では投資家の不安心理が,他方では主要国の経済運営によって決まる世界の金利水準が,新興市場の経済運営を難しくしてきました.そんな中でも,投資家は成熟した投資態度を取れるようになった,とFTは賞賛します.

株価だけでなく,新興市場の債券でも6ヶ月以上の上昇が続いています.その水準はすでにバブルであるかもしれません.しかしFTは,ブラジルやアルゼンチンへの市場の反応を指摘して,新興市場が1997−98年の危機が起きた市場とは違うものだ,と考えます.

しかし,ハンガリーが危機を事前に切下げで回避しようとして,逆に,為替レートの暴落を招いたことは,通貨危機の悪夢がすぐそばにあることを教えています.それは,ユーロへの新規加盟が,狭い変動幅に為替レートを安定化し,さらに財政赤字を減らすことを求めた結果,ユーロへの移行が高金利や失業を意味し,改革を頓挫させるだろう,という不安を生んだからです.

市場が整備されるだけでなく,投資家の冷静な判断や,貿易自由化や市場改革を支援する諸政府の協力が,通貨危機を回避するためには不可欠であると言えます.


NYT June 22, 2003

Into the Politics of Economics

By DAVID LEONHARDT

The Observer, Sunday June 22, 2003

So now Friedman says he was wrong

William Keegan

(コメント) 経済諮問委員会の委員長はR. Glenn Hubbard からGregory Mankiwに代わりました.彼らがブッシュ政権の政策決定に協力し,素人にも分かるように,その政策が正しいことを経済理論によって説明する役割を担った,という記事に,私は経済学の曖昧な性格を感じます.

他方,Sir Douglas Wassという人物を,私は知りませんでした.しかしKeeganは,彼が亡くなったことを惜しみ,イギリス大蔵省でサッチャー時代に猛威を振るったマネタリズムに刃向かい,孤立や無視にも負けなかった人物であった,と言います.そして,先週Reviewでも紹介したミルトン・フリードマンのインタビュー記事に,Keegenは過去のマネタリズム論争を思い出します.マネタリズムは,それまでの政策論議を無効にし,マネー・サプライが何であるか誰にも分からないまま,これを目標に市場を放置すれば,失業も消えてなくなる,と主張した学派でした.Keeganは,当時,J.K.ガルブレイスとM.フリードマンにオブザーバー紙上で論争を依頼しましたが,フリードマンが受けませんでした.そして,サッチャーのような不況時の財政赤字削減を支持しない,という言い訳だけを送りつけたのです.

フリードマンは,マネタリズムが間違っていた,と漸く認めました.こんな奴に昼飯(フリー・ランチ)を食わすのも嫌だ,とは書いていませんが.


FT June 24 2003

Affirmative action

LAT June 24, 2003

Negatives vs. Affirmatives

By Jim Sleeper

NYT June 24, 2003

A Win for Affirmative Action

(コメント) 人種差別を是正する黒人・マイノリティーへの優遇策が,アメリカ憲法に照らして合法であることを,最高裁が判決として認めました.アメリカの大学では,学生の入学であれ,教員の採用であれ,人種や性別による是正基準を決めて,偏った構成が持続しないように強制するルールがあるのです.

「もし最善の世界であれば,是正策は必要ない.仕事でも,教育でも,社会一般でも,肌の色を気にしない.しかし,21世紀初めのアメリカは,そのような所ではない.だから是正策は必要であり,それが目立たないように使われているなら,歓迎すべきことだ.」

1960年代に公民権運動が是正策を求めた理由は,人種差別をなくすことでした.しかし,それ以後も社会的な分断,不利益はなくならず,むしろ人種的な多様性を尊重する考え方も支持されるようになりました.文化的な差異をプラスと考えるのです.それと同時に,白人の貧困層や保守派からの批判が現れました.実際,人種的な境界線は曖昧になったのです.Jim Sleeperは,こうした「多様性」や,分離の自由,という主張に反対します.

保守派が学ぶべき真実とは,人種差別が深刻な被害をもたらし,子供や初等教育への公共投資を必要とすることが,市民の統一性を維持する.軍に多様性を維持することが,兵士たちを人種差別から免れさせる,ということです.

リベラル派が学ぶべき真実とは,差別された者に大げさな優遇を行うことではなく,統合された社会の要請やモラルを示すことが重要だ,ということ.また,社会的な上昇が期待できなければ,貧者はますます固定し,不道徳になって,保守派に反対の口実を与えてしまうことです.

しかしその票決が意味するのは,人種差別の是正策が,次にブッシュ氏が最高裁判事に指名する人物によって,覆される可能性が高い,ということです.


June 25 (Bloomberg)

Brunei, Asian Utopia, Frets Life Without Oil

William Pesek Jr.

(コメント) 税金が無く,犯罪も無い,年金が保障され,教育も医療もレジャーも全てが無料,というアジアのユートピア.石油と天然ガスを産出する34万5000人のブルネイも,不安を抱えています.その輸出の94%を占めるこれらの資源が20年で枯渇する,と予測されているからです.

ブルネイ政府は経済を多様化しようと考えています.ブルネイは,資源が豊富な国に多い腐敗や内乱とは無縁です.政府は富を生産的に使い,国民に分配しています.牧畜,米,材木,ゴムなどが,石油に代わる産業です.発電所を建設し,工業化も目指します.しかし今まで,中央銀行や株式・債券市場も無かったのです.

アジアの諸国が示したように,経済を活性化することは可能です.しかし,容易ではありません.ブルネイが投資家から注目されるような産業を見出せないのであれば,その富は他所へ向かうでしょう.あるいは,ブルネイが東南アジア開発銀行を設立して,その富を周辺地域に投資するのでしょうか.石油の富によるユートピアも虚像です.


CD 2003-06-24

Real estate market affected

CHEN QIDE, China Daily staff

上海の不動産開発業者は,住宅市場が金融引締めの犠牲になることを恐れています.中国人民銀行は,地元の銀行に不動産融資を慎重に行うよう,自制を求めました.上海市には2000以上の不動産業者が存在し,その多くは小規模の資産しかない民間企業です.もし融資が抑制されたら,住宅市場は問題に直面します.

いくつかの不動産開発計画が途中で放棄され,いくつかは価格を下げて販売されました.上海市が昨年分譲した2000万平方メートルの新規と中古の住宅のうち,134万平方メートルが空室のままです.住宅市場の売買では,その一部が市民による投資としても購入されています.上海市は,価格の高騰を是正するために,低所得者向けの住宅供給を増やそうと考えています.しかし,住宅業界のフォーラムでは中所得者に向けて供給することを求めています.


The Guardian, Tuesday June 24, 2003

I was wrong about trade

George Monbiot

FT June 25 2003

Justice in trade

By John Kay

(コメント) Monbiotのように,反グローバリゼーションの運動家や環境保護の団体は,しばしば貿易や国際秩序に反対し,それを改革する提案を行います.他方,経済学者はそのような提案が間違っている,と主張し,貧困や不公正を無くすには,より多くの貿易と法の支配が重要だ,と主張します.グローバリゼーションに反対して,何でも地域で自給できる,という主張から距離をおいたMonbiotは,WTOを改造し,ブッシュ政権の政策を監視する,と主張します.

「公正貿易」という運動は,中世にも,近代にも起きた,反市場主義の運動です.豊かな者たちは貧しい者を犠牲にし,搾取している.大企業や富裕な工業国は,零細企業や貧しい農業国の産物を市場で不当に買い叩くし,弱者に不当な価格を押し付ける.貿易によって,貧しい国はさらに貧しく,豊かな国はさらに豊かになる.貿易の利益は豊かな国だけに発生する.

こうした主張をKayは退けます.豊かな国が富を得るのは,貧しい国との貿易によってではない.貿易の多くは富裕諸国間で行われている.貧しい国こそが豊かな国の市場や技術,資本を必要としている.どれほど貧しい国にも比較優位は存在し,貿易の利益は発生する.貿易によって成長できた多くの国がある.

Kayは,公正貿易運動に参加すべきでない,と言います.市場は効率性の基準であるから,分配や正義の問題を価格に含めることは,経済学者として認められない,と.しかし,世界の貧困を解決したい,という道義的な要請に,市場主義はしばしば反対してきたと思います.世界は,市場によって急速に統合されているけれど,社会は分裂したままです.

こうした市場=自由主義の主張だけで,「公正貿易」運動を止めることはできない,と思います.道徳的な要請と,市場のメカニズムとをつなぐ論理が欠けているわけです.


NYT June 25, 2003

Russia's Economy Building on 3 Years of Solid Growth

By JAMES BROOKE

NYT June 26, 2003

Keeping Vladimir Putin on Track

(コメント) プーチン大統領は,ロシアの共和党指導者,ブッシュ大統領のように,減税と規制緩和で高度成長を実現する,と約束します.しかし,実際の成長は石油価格の上昇と外資の流入に依存しており,ロシアはサウジ・アラビアとアメリカとの混合品種です.2003年の5ヶ月の成長率は,昨年の2倍である,7.1%を実現しました.近代部門の成長を引っ張る機関車は石油と天然ガスの生産であり,11.5%の成長を示しています.ロシアは,サウジ・アラビアに次ぐ世界第二の石油輸出国です.ロシア中央銀行は,第二四半期に資本流出が逆転し,20億ドルの流入が起きたと推測します.

過去3年の成長率で見ても,日本,アメリカ,ヨーロッパの成長が停滞する中で,インド(5%),中国(7%)と並んで,ロシア(5.4%)が発展途上国の高成長を代表しています.資本流入は株価上昇をもたらします.

しかし,ロシアの経済が石油と天然ガスの生産に依存しすぎていることは明らかです.財政状態や国際収支も,石油価格によって決まります.石油価格が高いせいで,現在,ロシアの輸出額は輸入額の二倍になっています.そして石油部門を除けば,ロシア経済はまだ多くの規制と腐敗がはびこり,インフラも老朽化したままです.

市場経済改革は容易ではありません.投資銀行the Brunswick UBSの調査では,民営化された上位64企業のうち,85%を8つのコングロマリットが占めています.法律の改正により,4000万人の土地所有者が生まれましたが,ロシア農業は停滞し,耕作が放棄される一方で,食糧の40%を輸入しています.

減税とサプライ・サイド経済学により経済が活性化することを,ロシア政府は信じています.現状は,石油価格の上昇と外国からの投資が起き,成長による富裕層の消費も栄えています.しかし,再選されたプーチン氏が財政赤字を抱えたまま,石油価格と資本流入が逆転するとき,その経済がどれほど多様で活気に満ちているか,不安が残ります.

プーチンが国内でどれほど独裁的な政治家であろうと,イギリスは王室をあげて国賓として歓迎しました.ロシアは重要な国際政治の役者であり,プーチンはロシアを統治し,エリツィン時代の混乱を収拾してきたからです.しかし,西側の一員としてロシアを歓待するのは,まだ多くの点でプーチンを促し,改革を実行させるためである,とFTは指摘します.

ロシア最後の独立のテレビ局を閉鎖したこと.チェチェンで多くの民衆が殺されていること.イランの核開発に協力し続けること.北朝鮮の脅迫外交を止めさせる交渉に参加していないこと.街中でビジネスマンや役人が暗殺され続けていること.果てしない腐敗と法の無視,KGB時代の同僚たちが高位の職に就いていること.


ST JUNE 27, 2003 FRI

America will do the right thing ...eventually

By Janadas Devan

WP Thursday, June 26, 2003

Round-the-World Ruling

By Jim Hoagland

(コメント) 「その他の選択肢がすべて尽きたときにだけ,アメリカは正しいことをする」と,かつてチャーチルは言いました.第一次世界大戦も,第二次世界大戦も,冷戦も,アメリカは最後に参加して,戦いを決定付け,戦後の秩序を築いたのです.新しい「テロとの戦い」でもスなるだろう,とDevanは予想します.

問題は,その目的だけでなく,手段です.特に,金融的な基礎が失われるのではないか? 「ヘゲモニーとは,常に,ヘゲマネーであった」と,ヘンな駄洒落を飛ばしたOxfordの教授も居たようです.Devanも,アメリカの経常収支赤字や対外債務が,かつてのイギリスと同じように,資本流出もしくは通貨安(と国内金融引締め)を帝国の限界とするだろう,と指摘します.

なぜ各国はアメリカを助けるのか? 帝国の支出を黒字諸国が融資し続ける理由は何か? WPでHoaglandが,国内ではジョン・ロックの市民の国を唱えながら,世界にはトマス・ホッブスの戦争状態を主張することが,いつまで続けられるか? と問うのは,アメリカのめざす国際秩序の性格を問題にするからです.

そして,人種差別の積極的是正策を最高裁が支持したことについて,世界に向けたアメリカ社会の高い道義性を示した,と歓迎します.沈黙を強いられたマイノリティーは世界各地に居ます.アメリカが,奴隷制の過去を自覚し,人種差別によって強いられた貧困や不平等を無くすために,積極的な公共政策を支持することで,the Guardianも言うように,アメリカだけでなく世界が社会的統合に向けて前進するでしょう.これが,グローバリゼーションにおいて示すべきアメリカの指導力である,と.

******************************

The Economist, June 14th 2003

Extinction of the car giants

Ford’s troubles: One hell of a birthday, Bill

(コメント) 安定した雇用や技術の集積,膨大な裾野産業,人口増加と所得水準上昇,道路や郊外都市の建設,・・・ 経済大国の証明とは指導的な自動車産業を持つことです.否,でした.ヨーロッパでもアメリカでも,自動車産業が苦しんでいます.日本も,いつまで自動車会社の業績を自慢していられるのか?

それはまるで福祉国家を企業にしたように,自動車会社はさまざまな手当てや労働条件,雇用と解雇のルールを,労働組合との協約に定め,福利厚生施設や年金を保障してきました.これは企業の話なのか? それとも国家の話なのか? 炭鉱や製鉄,造船所,などがカンパニー・タウン(企業城下町)を形成したように,自動車産業はそれ以上に両方の要素を含みます.

もし企業であれば,技術革新やコスト削減のための雇用削減を行うでしょう.失敗すれば倒産します.他方,もし国家であれば,直接投資によって生産拠点を外国に設け,雇用を流出させることはないでしょう.実際には,巨額の政府支援を受けて,再編や海外展開を目指します.

アメリカの自動車産業とは,裕福な国にふさわしくない,もうすぐ絶滅種入りする希少生物なのです.日本の自動車産業は,何を目指しているのか?


Britain and the euro: No again

(コメント) この記事が面白いのは,ゴードン・ブラウンとイギリス大蔵省がユーロ採用に向けた積極的な準備と野心的な政策を報告書に描いた,と指摘する点です.

1997年以来,五つのテストで合格点を取れないまま,イギリスはポンドからユーロに乗り換える機会をうかがっています.多くの論説は,これをゴードン・ブラウンの裏切りや大蔵省の弁解,保守派の陰謀と解釈していますが,The Economistは違います.経済の統合化や景気変動の収斂,金融市場統合は着実に進んでおり,インフレ抑制後の弾力的な経済をにらんで,イギリス政府は積極的な準備を始めた,と考えます.

その一つは,ユーロ採用を躊躇させている,イギリスの住宅市場と融資形態です.イギリスの住宅価格はバブルを生じており,しかも固定金利のヨーロッパと違って,購入者は変動金利で借りています.そこで大蔵省は,このローンをアメリカのように証券化し,投資家が長期的にリスクを負うように改革しようとしています.また,ゴードン・ブラウンは,さまざまな建設基準を見直して,住宅供給を自由化し,価格を下げようとしています.

さらに,大蔵省は,新しい財政政策の方針を示しました.かつて景気変動を財政政策で平準化するのはケインズ主義の悪しき需要管理であるとして破棄されましたが,ブラウンは,ユーロを採用する際に,これを復活させます.もちろん,財政政策の適切な決定が政治的に困難で,効果を発揮する頃には変動を増幅しかねない点を考慮し,情報伝達の改善と,財政政策の目標を数値化して,人々の期待にも働きかけます.

The Economistは,この政策思想が正しいとしても,政治的に受け入れられないことを懸念します.政府が住宅供給に介入することや,市場を円滑化するためであっても,その税率を変更することは,さまざまな憶測と反対を生みます.資産や賃金が弾力的に調整される経済を政府が望むと聞けば,憎しみを感じる人も多いでしょう.

ドイツでさえ苦悩しているユーロ圏にわざわざ入りたいとは言えないでしょうが,もちろんユーロ圏の景気が回復すれば,収斂が加速し,テスト結果も改善されて,採用が近付きます.もし国民が,さまざまな改革を拒むときにはどうするのか? 彼らが正しい答えに気付くまで,待てば良い,と.


Economics focus: Germany’s euro test

(コメント) 五つのテストをしても,イギリスがユーロを採用すべきかどうかは,意見の分かれる問題です.しかし,はっきりしていることは,ドイツがユーロ圏を離脱すべきだ,ということです.

テスト(1)経済の収斂・景気循環の一致:No! ドイツにとって,ECBの金利も,ユーロの為替レートも,好ましくない水準です.(2)非対称的ショックへの弾力性:No! ドイツは東西の再統合化により,法律や制度も含めた労働市場の硬直化により,弾力性を欠いています.(3)直接投資の流入,(4)金融ビジネス:どちらもユーロ成立後に減少しています.最後に(5)成長と雇用を高めたか? No!

ドイツがユーロを離脱するのは,イギリス大蔵省の提案した五つのテストによれば,明白です.もちろん,ドイツ人はこんな話を戯言だと言うでしょう.グリム兄弟の作ったヘンデルとグレーテルのおとぎ話では,魔女をオーブンに入れてやっつけたけれど,現実にはドイツ人がオーブンに入って焼かれています.