IPEの果樹園2003

今週のReview

6/16−6/21

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世界は,「最適通貨圏」だけでなく,「最適政策圏(政治ブロック)」という視点から,考えることができます.そして言語は,貨幣や市場以上に,人々の想像力を支配し,社会的な統合を担う媒体となります.

イスラエル政府が,もしユダヤ教の特定の信仰集団による入植地拡大を許し,彼らを守るためにパレスチナ人の居住地域まで軍事的に制圧するなら,交渉による和平が進展する見込みは無いと思います.

「いつも,問題を起こすのは大陸で,それを解決してやるのは英語を話す国民(english-speaking people)だった」と,かつてマーガレット・サッチャーは咆哮しました.サッチャーの言辞を云々するつもりはなく,私は,日本が他にも日本語を話す国と互いに比較し合い,競争して,社会モデルを革新できれば良かったのに,と思うのです.

いつも問題なのはアメリカで,その「解決」を押し付けられ,コストを支払うのは世界だ,というグローバリゼーションへの不満は,ヨーロッパでも,中東でも,東アジアでも,南アジアでも,ラテン・アメリカでも,安全保障と貿易・金融の地域的協力・監視制度を摸索する原動力となります.

しかし,問題が起きて,暴力的な衝突が広がれば,私たちはアメリカに仲裁を求めます.軍事介入と占領の地に広がる声は,「ヤンキー・ゴー・ホーム!」「でも,私を連れてって!」 ・・・世界は今も,アメリカ以外に,正当な権力を見出せないのです.

「危機になる前に,なぜ通貨を切下げなかったのか?」 しかし,切下げによって多くの政治家が政権を追われ,独裁者が失脚し,投獄,処刑されたことを思えば,誰が切下げを政策の選択肢にできるでしょうか? いっそ,ドルに統合してしまえ!

政治学者は,地域間の制度や政策によって移住が行われることを,「足による投票」と言います.社会学者は,都市の中心部に貧しい有色人種やホームレスが増え,裕福な白人が郊外に転出することを,「白人の逃避」と言います.そして経済学者は,「市場の規律」を重視し,グローバル・スタンダードを強制する「資本逃避」を擁護します.

小国は,自分たちの言語や文化が,この世界で支配的になれないことを自覚しています.彼らは生き残るために,国境を閉ざすのではなく,常に多言語を操り,多文化を許容します.しかし,彼らの政治制度は成長のダイナミズムと社会的な安定化とを意識的に設計し,その言語や教育,文化の改善に,積極的に投資します.

ダム,高速道路,大運河 ・・・中国が農村部で大規模な公共事業を行い,農民の都市における雇用を増やすために成長率を維持したい,と思うのは理解できます.国営企業改革や不良債権処理を行うためにも,輸出向けの外国企業を誘致し,人民元を安くする政策が必要だ,と思うのも理解できます.ただし,もしそうなら,日本の社会も根底から変化するでしょう.

あるいは,中国を分割し,貧しい農民の国と,赤字を累積する国営企業の国,不良債権を抱えた銀行の国,外国企業と組んで活発に輸出向けの投資や雇用を拡大する国,などに分けて考えるべきでしょう.それらの諸国が,香港や台湾,シンガポール(そして世界中の中華街?)も含めて,中国語圏という政治ブロックを形成しているわけです.

貧しい農民の国は入植地を海外に求め,他方,国営企業のために国内市場を保護する国と,財政赤字や企業の債務を支え続けて,突然,予想もしないような形で通貨危機やインフレを爆発させ,社会・政治混乱を起こす国々とが,互いに通貨政策や貿易問題で紛争を外部に輸出し始めれば,最悪の場合,アジア地域は戦争状態になります.そのときになって,アメリカに介入や救済を求めるのでは,アジアが次の中東やラテン・アメリカになってしまいます.

日本語の政治ブロックを再生するために,日本の一部を独立させてはどうでしょうか? 社会や政治の制度が異なる,日本語を使う国家がもう一つあれば,互いに社会的革新を行う点で刺激となるでしょう.私たちは,好ましいと思う国へ移住できます.あるいは,日本のいくつかの市町村で,率先して,日本語を使う外国人の居住率を高め,政治的発言権を強化し,各種の社会団体の代表にも一定割合以上を彼らに参加してもらうよう,奨励してはどうでしょうか?

かつて日本が貧しい小国であった頃,安全保障も貿易も,国際的な枠組み無しには考えられなかったでしょう.そうした感覚を持たなくなった日本の若者たちが,世界各地で,たとえばパレスチナやイスラエルで,住民と同じ生活を体験するために合宿してはどうでしょうか?

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, BL:Bloomberg, CD:China Daily, IHT:International Herald Tribune, ST:Straits Times


BG, 6/4/2003

Bush's reckless economics

By Robert Kuttner

なぜブッシュ大統領は何度も何度も減税するのか? それは共和党政権が減税して財源不足にし,政府の責任をより広く考える民主党政府に社会福祉を削らせたり,将来の増税の責任を押し付けたりするためだ.

これは仕組まれたゲームなのだ.ほとんどの経済学者は,ブッシュ氏の減税が景気を刺激しないことを認めている.もし景気刺激を目的とするなら,減税額を最初に集めて,しかも所得の少ない労働者に対して減税するべきだ.ブッシュ氏は,そんなことを無視して,総額を減らして「慎重さ」を演出し,もっぱら富裕層に減税しながら,養育費に減税して「思いやり」を演出する.

この減税策は基本的に正気を失ったものだ.国民は,減税するよりも社会保障や医療保険を改善するよう願っている.にもかかわらず,ブッシュ氏は経済を危機に導く博打に興じる.景気が悪化しないのは,連銀が低金利を続けて,住宅投資や消費を刺激しているからである.しかし,低金利を続けられないようなインフレが,将来,起きないのか? 過去において,インフレは石油価格や農産物の不作,医療費の増額など,予想しない形で現れた.

構造的な財政赤字が増えるという予想は,長期金利を上昇させる.なぜスノーやマンキューはそのことを知りながら,反対しないのか? 政府の中にはシニシズムが満ちている.オニール前財務長官は,Financial Timesの内部調査に対して,減税のもたらす財政赤字を44兆ドルと予測した.調査は封印され,オニールは政権を去った.


LAT June 4, 2003

The Iraqis Must Have Jobs

(コメント) 政権を崩壊させてから治安の維持に失敗しただけでなく,アメリカの占領軍は,雇用を見出せないイラク国民の不満が高まる中で,社会的な信用を失いつつあります.イラクでは,政府雇用や生活援助が国民の3分の1に及び,その生活を支えていました.アメリカ軍は,フセイン政権と一緒に,これらを破壊したのです.バクダッドでイラク軍に属した兵士たちが占領軍司令部に集まり,雇用を求めたのは当然です.アメリカ軍は10万人を新たに集める予定ですが,それには時間がかかり,しかも40万人が仕事を得られません.LATの論説は,イラク再建の費用を,戦争反対の理由の一つに掲げました.大統領選挙が近付く中で,国内の失業者が増えているのに,ブッシュ政権はイラクに対して支出を増やすのか? と,不興を買うでしょう.しかし,アメリカはイラク政府を武力によって排除した以上,その社会の治安を維持し,雇用と生活を回復させることに長期的な責任を負うはずだ,と言います.


FT June 5 2003

When the people should decide

By Samuel Brittan

WP Wednesday, June 11, 2003

The Good, the Bad and the Complicated

By Robert J. Samuelson

(コメント) この論説で,Brittanは,ユーロ採用とEU憲章の国民投票について述べています.単一市場議定書でも,マーストリヒト条約でも,政府は意識されないまま国民投票によって権力をEUに移譲してきました.今回の,成功するとしたら,そうなるでしょう.

Brittanは,集合的な意思決定について,市場モデルの限界を指摘します.経済学者は,しばしば政治を軽蔑し,市場によって毎日投票できることの方が素晴らしい,と信じています.しかし,公共サービスや法律,安全保障など,集合的な意思決定が必要な場合はあります.

他方で,代表を決めて彼らにこうした意思決定を委ねる必要は,情報技術の発達によりなくなりました.全ての問題をいつでも国民投票にかけられるのです.その場合,問題はシュンペーターが指摘したように,専門的な知識の無い有権者が決定に伴うコストを十分考慮しないことです.その結果,競争的な投票システムは財政を破綻させます.

Brittanは,シュンペーターの現実的な代表モデル,政策を決定するチームを競わせて,国民投票で決定する方式に賛成します.そして,その統治の枠組みを大きく変える問題についてだけ,直接に国民投票にかけるのです.

あるいは,Samuelsonが言うように,政治とは複雑な経済過程を単純化したスローガンに置き換え,本当は重要でも有権者が聞きたくない問題は互いに議論しないシステムとして,生き残るのでしょうか?


FT June 5 2003

Resona's bailout gives Takenaka a test case

By Richard Katz

FT June 5 2003

Japan's FSA at bay

FT June 8 2003

Banking on state subsidies

By Francesco Guerrera in Brussels

FT June 12 2003

Resona could transform role of Japanese auditors

By David Pilling and Michiyo Nakamoto

(コメント) りそな銀行についてKatzが注目したのは,その監査法人と国会の調査が関係者を舞台裏で合意させてきた官僚の思惑を機能させなくなったことでした.日本の不良債権(NPLs)が解消しない一つの重要な理由は,金融行政に関わる官僚たちが,責任問題を恐れて,現状の大幅な変更を認めず,それゆえ関係者を裏で合意させて問題を公にしないで隠蔽してしまうことだ,と思われます.Katzは,こうしたNOLs維持システムが内部から崩壊し始めた,と指摘します.なぜなら,監査法人は,アメリカのアーサー・アンダーセン事務所のように倒産したくなければ,今までのような監査を続けられません.また,国会が問題を公に議論し始めたことで,政治家たちの選挙に影響し,少数の利害で問題を処理できなくなったのです.竹中氏の方針も,こうした動きを牽制してきました.

では,竹中改革が進むのでしょうか? Katzは,今後の処理に注目します.もしNLPsを抑える悪質な債務者に手を付けないなら,りそな銀行が再建されることもありません.日本では零細企業を罪の無い地元の商店や工場と見なしがちですが,海外では「ゾンビ企業」と呼びます.それは特に,価値の大幅に下がった不動産を抱える建設業界でしょう.もちろん,地元の政治家,自民党が関わります.竹中氏の政治力は乏しく,そこにまで手をつける改革を進めることができません.この問題を残したままであると分かれば,今後,税効果会計の問題が主要銀行全てに問題を生じるでしょう.

FTの論説は,より率直に,りそな問題を個人的衝突と政策の混乱がもたらした末期症状と見なします.日本では今も,こうした金融行政が行われている証拠を見せられた,という,ため息が聞こえます.そして,監査法人が踏み出したように,竹中大臣と小泉首相,そして金融庁も改革方針を一致させて,主要銀行の行動を促すべきだ,と主張します.

もし私がヨーロッパで生き残るために苦闘する銀行だったら,りそな銀行の救済に日本政府が2兆円を出すと聞いて,怒りがこみ上げてきただろう,とGuerreraは書きます.EUは,政府が企業や銀行に競争して補助金を与えないよう,厳しく取り締まっています.2兆円といえば,イギリスが一年間に全産業に与える補助金と同じです.アメリカの取締りも不十分であり,州政府はふんだんに,気に入った企業に補助金を与えます.りそな銀行が国際金融市場でヨーロッパの銀行から融資を横取りするわけではないにしても,もし失敗しても政府が補償してくれるなら,日本の他の銀行がやるだろう,と疑います.

フランス政府がこれを見れば,ヨーロッパの金融サービスに同様の補助金を与えるでしょう.ドイツには目配せすれば良いのです.他方,ベアリング証券が崩壊したときも,決して「救済融資」を口にしなかったシティやイギリス政府は,こうしたやり方が無駄に終わると信じています.結局,補助金から育つ企業が競争に勝ち残れるわけではない,と.Guerreraは,逆説的な表現で,政府に補助金を許さない姿勢をEUが堅持するよう求めているわけです.

朝日監査法人がりそな銀行の監査を下りたのは,若い公認会計士であった平田氏が「自殺した」ことと関係あるはずです.FTにも,David Pilling and Michiyo Nakamotoの記事が載りました.寒左方人が倒産するより,自殺? あるいは殺されるような日本では,不良債権が政治家とヤクザの商売になっている,という海外雑誌の解説に,反論する自信がありません.


LAT June 5, 2003

Blair and Bush Aren't That Stupid

By Max Boot

BG, 6/6/2003

Bush's deceptions on Iraq intelligence

By Derrick Z. Jackson

(コメント) Bootは,フランスの新聞やNYTのKrugmanの論説に見られるような,ブッシュとブレアを嘘つき呼ばわりする主張を批判します.アメリカの得た情報が不正確で,十分でなかったと批判されるのは当然です.しかし,フセインが化学兵器を戦闘で実際に使用し,それを保有していたことは事実です.彼がその廃棄を確認する国連の査察に協力せず,核開発計画も持っていたことは事実です.テロ攻撃がある前に,これを阻止することは,アメリカが安全保障に加えた新しい要素であり,これを事前に証明することが困難であることは,むしろ情報収集を改善し,大量破壊兵器の生産を未然に阻止する監視手段や介入手段が必要であることを示します.他方,それら全てを無視して,戦争に反対したことが正しかった,ブッシュとブレアは嘘をついて,間違った戦争を引き起こした,と主張するのは愚かである,と.

Jacksonは180人のアメリカ兵と数千のイラク人が死んだのは,ブッシュ氏が,間違ったことを,真実だと断言したせいであった,と批判します.クリントンはモニカとの関係で嘘をついたことを公に認め,弾劾を免れました.ニクソンは嘘をついて,失脚しました.フセインがアフリカからウランを買った,という情報も,ナイジェリアの元閣僚がでっち上げた嘘だったと分かりました.国務省を最近退職したアナリストのThielmannは,CIAのいいかげんな情報に無念さと憤懣が渦巻いている,と語っています.ブッシュ氏やラムズフェルド氏は,明らかに戦争を決意してから,それを支持する情報だけを国民に伝えようとした,と元国務長官オルブライトは指摘します.この戦争がどのような情報によって支持されたのか,全ての情報を開示する責任が彼らにあります.


NYT June 5, 2003

Dealing With Deflation

By HAL R. VARIAN

(コメント) デフレの何が悪いのか? デフレは単なる症状でしかない,とVARIANは考えます.モノが安くなった方が,われわれは嬉しい.もちろんそうだ.デフレは必ずしも悪いことではない.答えは,その原因が何か? によるのです.

VARIANによれば,供給の増加と,需要の減少によって,デフレは起きます.前者は良いが,後者は困る.前者は,たとえば,南北戦争後のデフレでした.生産性が上昇したにもかかわらず,金本位制によって通貨の供給は増えず,物価が下がりました.特に農産物の価格が下落し,農民たちは借金が返せなくて苦しんだのです.だからこのとき,ブライアンが有名な「黄金の十字架」演説を行い,銀を本位制に加えて,金融緩和するように主張したのです.他方,1930年代のデフレは,需要が減って起きました.このとき,金融恐慌で銀行が閉鎖され,失業者も急増して,需要が大幅に減少したのです.

現在,われわれは供給の増加と需要減少を経験しています.しかし,以前と違って,連銀はデフレを起こさないように金融緩和する姿勢を明確に示しています.それでも,過剰投資や生産性上昇があったために,金融緩和の効果がいつまで続くか,心配されています.デフレは症状であり,その原因は投資の落ち込みです.治療法は金融緩和ですが,さて,患者は回復するのでしょうか?

VARIANは,金融緩和だけで十分な需要が喚起できないまま,輸出部門だけに投資が起きている,と言います.しかし,ドル安によって輸出が伸びるだけでは,ヨーロッパが報復するでしょう.むしろ,一時的な投資減税や,低所得者層への減税が必要です.ところが,実際にブッシュ氏が試みるのは,頭痛の患者の足を温めるだけなのです.


FT June 6 2003

Lunch with the FT: Milton Friedman

By Simon London

(コメント) サンフランシスコのthe North Beach RestaurantでLondonはミルトン・フリードマンにインタビューしました.バブルとデフレ,マネタリズムの限界,巨額の減税政策,企業スキャンダル,ユーロ誕生,ドルの減価・・・ 現実を見れば,フリードマンの確信も覆るのではないか? さあ,帽子をしっかり抑えてください.驚いて,落としてしまわないように・・・

「通貨供給量を目標とした政策は成功しなかった」と,フリードマンは認めます.1980年代,彼の主張によって,世界の金融政策は金利から通貨供給量に目標を替え,サッチャーやレーガンは大胆な改革を進めたのです.しかしインフレを抑えるために,大幅な失業者を出しました.ただし,彼が論争の名人であったことは,忘れるわけに行きません.

世界は再び,通過供給量からインフレ目標政策に変わろうとしています.しかし,フリードマンの影響力は失われていません.彼が妻と『選択の自由』を書いてから10年経って,社会主義体制が崩壊しました.ただし,それが小さな政府をもたらした,とは言えないでしょう.ブッシュ大統領も巨額の減税を繰り返し,景気を刺激しようとしています.

フリードマンは,「減税は良いことだ」と言います.「議会は支出を減らすしかなくなる.」「どんなイデオロギーよりも,財源を失うことの方が政府を小さくする」と考えるからです.また,企業に社会的責任を求める議論を一蹴します.「企業の目的は,利潤を上げることだけである.」企業スキャンダルやグローバリゼーションへの抗議が高まっても,フリードマンは動揺しません.「ステーク・ホルダー」というのは間違った考え方だ,と.それは社会主義の発想であり,労働者が企業を経営する,という発想で,必ず失敗する.企業を最も効率的に動かすには,経営者にそれが彼の利益であると教えるしかない.被雇用者の利益とは一致しなくても,だ.

「しかし,あなたが疑っていたEMUは成功し,ユーロが誕生して,今ではドルの顔を踏みつけていますよ」と,Londonは尋ねます.「その点では私が間違った.しかし,10年から15年で,ユーロ圏は分裂すると思う.イギリス政府が参加しないのは,結局,賢明なことなのだ」と,彼は自信を示します.

フリードマンほどの確信を持って,その考えを述べる経済学者は,今は居ません.どうしてなのか? とLondonは尋ねます.「若い頃に得た信念は,その後の人生でも変わらないものだ.私の考えも全く変わらなかった」と,フリードマンは答えました.


FT June 7 2003

Testing time for Britain and the euro

FT June 8 2003

Martin Wolf: Divergence justifies reticence on euro

By Martin Wolf

The Observer, Sunday June 8, 2003

I've been betrayed on the euro

Will Hutton

The Observer, Sunday June 8, 2003

Far-sighted investors need Euro vision

Heather Connon

FT June 9 2003

The perfect result for a sceptical nation

By Martin Wolf

The Guardian, Tuesday June 10, 2003

A tight Treasury fist still grips our European future

Hugo Young

June 11 (Bloomberg)

Gordon Brown Puts Blair's Euro Dream on Hold

David DeRosa

(コメント) 「月曜日の決定」,「五つの経済テスト」,「歳月の浪費」,「不決断」・・・ ユーロ採用の国民投票を延期するという大蔵省の発表は,さまざまな失望や落胆をもたらしました.マクロ経済の実態が異なっているから,異なる金融政策が必要なのか? それとも,永久に確実でない将来の完全な収斂を口実に,選択を先延ばしにするだけなのか?

今,統合するには,ポンドの対ユーロ為替レートが高すぎる,イギリスに起きている住宅バブルを処理するには独自の金融政策が必要だ,あるいは,安定化協定がユーロ圏の失業率を高くしている,という反対には根拠がありそうです.しかし,ブレアはユーロに参加して,交渉と参加によって解決を目指すと訴え,ゴードン・ブラウンは決定を選挙後に延期すると主張しました.

ユーロ採用が不確実になったことで,イギリスへの投資は減るでしょうか? スウェーデンやデンマークにも影響し,ユーロ圏が再び大きな混乱へと滑り落ちるのでしょうか?

Youngが言うように,もし労働党政府が本当にユーロを採用したいなら,住宅市場や為替レートに関して,収斂を促す政策を打つべきでした.サッチャーがEUを罵倒しながら,実際には,ヨーロッパ市場統合を進めたように,ブレアの言葉と行動も全く逆向きです.ただし今度は,「イギリスの未来はEUにある」と断言しながら,それに背を向けているのです.

こうした矛盾こそ,1991年にジョージ・ソロスが「イングランド銀行を倒した」背景でした.もし為替レートの変動を,貿易や成長の障害であると考えるなら,ブレアのように完全な統合を目指すべきでしょう.他方,DeRosaはゴードン・ブラウンに,6つ目のテストを追加せよ,と言います.それは,為替レートの変動がイギリス経済にとって不利益である,と証明することです.


NYT June 7, 2003

New Tools for Arms Control

LAT June 8, 2003

Surprise Kim With a Solution

By Rajan Menon

FT June 11 2003

Pyongyang squeezed

(コメント) 核兵器や大量破壊兵器が拡散するのを防ぐには,新しい手段や制度が必要です.特に核兵器やミサイルの技術が拡散することを,主要国は防止するべきだ,とNYTは主張します.外部からの支援無しに,こうした兵器を開発できた例はないから,国際的な監視を強化し,強制力のある査察や取締りを合意するべきだ,と考えます.

北朝鮮は,ミサイルや麻薬の輸出を含めて外貨収入を断たれ,日本との取引や現金の輸送も制限されつつあります.ブッシュ政権は,一定の多角的な枠組みと交渉による解決策を進めています.もし北朝鮮政府が政治的な面子を保てる形式を示せば,事態を劇的に改善させる合意が示される可能性もあります.

金正日もブッシュ大統領も,イラクの教訓を正しく学んだ,ということかもしれません.しかし,多国間協議の制度を確立して,強化する努力を怠れば,監視体制を欺いて戦争を準備し,些細な衝突から危機が暴発する条件は解消されないのです.


FT June 8 2003

Deflation holds unknown perils for the Fed

By Alan Ruskin

BG, 6/8/2003

The growing specter of deflation

By Nicholas G. Carr

(コメント) アメリカ連銀がインフレ抑制ではなくデフレ阻止を目標に金融政策を行う前に,五つの問題を解決しておくべきだ,とRuskinは言います.@Fedは財務省証券の利回りを決めることができるのか? Aそれから,どのように民間の長期利回りをコントロールするのか? B金融政策の大きさや,実物経済への影響を測れるのか? C資本配分の歪みは? Dその政策を終える戦略はあるのか?

日銀でも連銀でも,政府の債券を購入することはできます.しかし,それをどのように保有すれば,金融政策として有効に目標を達成できるのか,が分からないのです.市場が購入したがらないときに,そのような債券を中央銀行が買っても良いのか? また,債券を購入するときに反対する者が少なくても,売るときに強く反対する者が居たら,売れないかもしれません.民間部門のデフレは,このリフレ政策でインフレ期待をよほど高めないと,相殺できないでしょう.また,債券市場の基準となる国債の価格が操作されれば,市場が混乱する危険もあります.

Ruskinが指摘するように,為替レートであれ,金利であれ,中央銀行が固定すれば市場による資源配分をゆがめる結果になります.債券市場がこれより悪いとは言えません.しかし,政策のルールを変更することで,たとえば住宅購入に際してリスクをヘッジしていたはずの人々が損失を被るかもしれません.グリーンスパン議長が信頼されてきたことによって,逆に,その衝撃は大きいのです.

私たちがデフレの何を恐れているのか,Carrの論説は示しています.19世紀後半の生産性の上昇と自由貿易の拡大によって,安定した所得のある消費者は豊かになっても,企業や労働者,商人は苦しみました.Eric HobsbawmやD.S. Landesによれば,その時代に物価が下落し続け,「将来の無限の進歩を期待していた気分が,不確実さと苦悩に代わった」ということです.


June 10 (Bloomberg)

Toyota, Honda, Nissan Get Subsidy From Tokyo

William Pesek Jr.

(コメント) 日本の自動車会社はアメリカ市場でシェアを拡大しています.しかし,それは日本政府が外国為替市場で大規模な介入を行い,円安を促し続けているからです.すなわち,Pesek Jr.は,こうした日本企業は政府の補助金で外国(特にアメリカ)市場を侵食している,と述べます.5月の介入額はほとんど4兆円に達し,りそな救済の2倍です.どちらも下落する債券を購入し続けているわけです.それは,「日本株式会社」の産業政策であり,円安による利潤の確保と,そこからR&Dを支援して,二重に戦略産業を政府が育成している,と批判します.デフレで儲からない国内市場によって,企業が倒れないように,政府は出稼ぎさせている,というわけです.もし本当に円安だけが望みなら,日本は貿易黒字を消せば良い.日本が改革を進めて,景気を回復するまで,アメリカ市場が我慢するかどうか?


BG, 6/10/2003

Fallibility, democracy, and war

By James Carroll

(コメント) SAMMY SOSAのコルク詰バット!. 投資コンサルタントMartha Stewartの起訴! でっち上げ記事とThe New York Times編集者の辞職! 前大統領の妻Hillary Clintonの暴露本!

アメリカの民主主義は嘘で一杯です.むしろ,それが民主的システム盛況の理由でしょうか? 誰もが過ちを免れないからこそ,間違いを犯した人は交代する? 民主主義は,全ての人が社会に平等な責任を負う政治システムであり,同時に,全ての人が過ちを犯すことを前提に,彼らをその社会的地位から追放し,訴えることもできるシステムです.しかし問題は,その地位に選ばれた人が,しばしば全体の利益であると確信して過ちを犯す場合です.彼らの地位が高く,権力が強大であればあるほど,その過ちは深刻な影響をもたらします.しかも戦争は,しばしば過ちを許しません.指導者も過ちを認めません.たとえば,イラク戦争のように!?


FT June 11 2003

Mortgage mayhem

(コメント) アメリカの金融システムにおいて,ファニー・メーやフレディー・マックが果たしている役割を見直す動きが,どのような影響を持つのか,今後も注目したいです.

「ファニーとフレディーは,今や,アメリカ金融システムの監督におけるブラック・ホールを代表している.政府が保証し,国民に保有させる,オープンな金融市場で競争的に取引しながら,ほとんどの基本的な報告義務を免れている,世界最大のモーゲージ市場を支配しながら,金融的ショックに対して余りにも脆弱である,これらの機関は,崩壊が来るのを待っている.今こそ,この混沌に秩序を与えるべきだ.」

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The Economist, May 31st 2003

The latest Bush tax cut: Disingenuous and risky

(コメント) これも選挙循環なのか? 新しいラッファー・カーブ? 資本流入とバブルを奪い合って,中国市場に危機をもたらす? ・・・そんな空想を刺激します.

誰もこの減税策で株価が急上昇し,景気を回復させるとは信じていません.要するに100万人の失業者を増やした状態で,次の選挙は戦えない,と? 長期的な財政危機は,社会保障や医療保険の支給を削ることによって達成するしかないようです.ベビー・ブーマー世代を抱えたレーガノミクスには,何か特別なアイデアでも持ち出さないと支持を得られないはずです.


Property prices: The next bubble to pop?

(コメント) 「株式なんて投機ですよ.でも,住宅は大丈夫.これは人々が住む物ですから.もし価格が下がっても,値上がりするまで住むことだってできます.安全確実な資産です.」

確かに,最近は都市のマンションを分譲する仲介業者が,こんな宣伝文句を言いそうです.この記事を読んでから,買うかどうか? 考えましょう.株価と同じように,もちろん住宅価格も,人々の所得が上昇するより早く上昇し続けることはできません.金利が低くなれば,他の金融資産と同じようにバブルになり,暴落の危険が高まるでしょう.少なくとも,バブルが破裂した世界で,住宅だけが確実に値上がりするわけは無いのです.


George Bush and the peace process: Like Nixon to China

(コメント) ブッシュ氏は,レーガンを真似るだけでなく,ニクソンにも学びたいのでしょうか? 保守派の指導者の方が,国内税制でも国際通貨制度でも,あるいは安全保障政策でも,大胆に制度の変更ができるようです.その理由は,この世界や支配的な制度を動かしている保守的な人々にとって,彼に頼る以外に,好ましい選択肢が無いからです.

2月26日のAmerican Enterprise Instituteにおけるブッシュ氏の演説は,会場を静寂に陥れた,と記事は伝えています.ネオコンの牙城であり,指導的なユダヤ人知識人が集まるこの研究所で,ブッシュ氏は最も嫌われるアイデア,「パレスチナ国家」と「占領地域への入植阻止」を明言したからです.

ユダヤ人の票を失う? 否.ユダヤ人の影響力は誇張されており,しかもその多くが民主党を支持している.民主党はもっとパレスチナ寄りだ.ネオコンのユダヤ人指導者たちに保守派を説得させれば良い.シャロン首相との強い絆で,「強硬」な,「毅然とした」パレスチナ対策を演出しよう.ニクソンが,その完璧な反共主義ゆえに,中国を訪問できたように.


Economics focus: Freeing the airwaves

(コメント) 電波は土地か? それとも海か? つまり,所有権を認めて分割し,売買するべきか? それとも共通の規制だけ決めて,自由に利用させるべきか?

とても面白い考察です.所有権や市場の制度が,一定の条件で誕生し,あるいは破棄されることは,土地や海で問題にできます.共有地や公海が分割され,失われてしまうだけでなく,The Economistが注目するように,技術革新によって豊富さが再生される場合もあるのです.有益なものでも十分に豊富にあれば,他人の利用を排除する理由はありません.取引費用を問題にした「コースの定理」に言及します.

しかしThe Economistは,共通の規制が既存の制度によって,一定の歪みを押し付けている,という問題を追加します.技術が急速に変化する時代には,二つの原理を共存させる方が良い.すなわち,電波は土地であり,海でもある,と.