IPEの果樹園2003
今週のReview
5/26−5/31
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先週,ゼミで質問された<りそな>問題については,何も話せませんでした.この数日,新聞を読まなかったことを悔やみました.・・・なぜ新聞か?
<りそな>を実質国有化する? さて,これで何が変わったのか? と,自問したからです.「これまでのReview」にもあるように,アルゼンチンと日本は,いつも,金融危機にありました.スローモーションの金融破綻が起きていたわけです.両者の違いは,金融資産の規模や,ドル建債務を負うか,対外債権国か,ということであり,国際金融システムにおける重要さの違いでした.今回も,政府や日銀が大規模に介入しています.たとえ資本が流出するとしても,その行き先は元気な頃のアメリカではなく,資本流入とユーロ高を歓迎しないヨーロッパです.
日本の金融危機は,若者の心臓に起きた「ショック死」ではなく,肥満した老人が患った「糖尿病」でした.デフレの進行も,企業が債務を負って活発に投資を担っている国であれば,もっと一気に債務処理し,円安・インフレ政策を進めたと思います.しかし,年金や資産の配当,金利で生活する老人が多ければ,デフレに大きな不満を持たず,むしろ企業の倒産や銀行の整理,低金利が大きな不満の種となりました.ゼロ金利には不満でしょう.しかし,日銀は長い時間をかけて,緩やかに金利を下げました(その結果,資産デフレが本物のデフレに進行しました).他方,企業や銀行の整理は,財政負担により,政府が必死に回避しています.
・・・残された膨大な財政赤字は,将来世代に増税するだけだ! 老人に支持された政治家は,都合の悪い改革を,どれも嫌悪します.
銀行株が下落し,株価も下落する.そして,銀行の資産が減少する.まるで香港の通貨危機です.ただし,悪循環を演じるのは日本の民間銀行です.自己資本規制に縛られて,銀行は海外資産を売却して不良債権を処理し,損失を補てんします.すると円高が加速し,円高を防ぐために政府は円売り介入を続けます.外貨準備が積みあがり,それでもアメリカ政府が望む限り,ドル安は止まりません.アメリカの景気回復を待つ間,日本の外貨準備は増え続けます.しかし経常収支が赤字になれば,日本にも通貨危機が迫ります.
政治家は財政支出が好きです.ドル安の世界では,日本の景気刺激策が財政支出に向かうのを避けられません.2兆円の公的資金投入に加えて,補正予算を何兆円?か増やすのです.しかも「日銀の自己資本が不足する?」と心配されています.もしアメリカやユーロ圏,あるいは中国のSARSによる景気低迷が解消されれば,日本からの個人資産流出が加速し,金融システムに打撃を与えるでしょう.同時に,大幅な円安を実現し,漸く景気は回復する,と思います.そのとき政府が,自分たちの都合で財政赤字を唱えるような旧来の政治家を追放し,小さな政府を実現しつつあれば.
問題を根っこから解決しなければなりません.たとえば,日経新聞に載った池尾和人氏の論説も,News 23 に出演した竹中大臣の対談も,立派なものでした.問題の根っこはさまざまな視点から語られてきたし,今も分析されています.解決する手段や,解決に至るまでの過程において,発生する(と心配されている)コストや失業などの痛みをどうするか,指導者たちは合意できないのです.そして日本は国内にも海外にも資産があり,解決しないまま議論している(フリをする)時間が多くあったわけです.―― もしそうであれば,こうしてはどうでしょうか?
1. 銀行・企業の再生を前向きの市場競争圧力に委ねる.
2. 政治家を隔離する:金融システムの再生に公的資金を使う場合,政治家を排除.
3. 公的財源で一気に処理する:事後的なチェックには日銀と若者の代表が関与.
4. 国際資本移動を隔離する:為替安定化基金.
5. 構造改革に新しい発想を歓迎する:時限的・事後査定付き公共投資を活用.
2兆円あれば,100円のおにぎりが200億個買えます.アフリカで飢える子供たちを何人救えたでしょうか? あるいは2兆円で,老人ホームをいくつ建てられたか? 中国から帰国した残留孤児たちの生活をどれほど支援できたか? 都市の埋め立てられたドブ川を自然の美しい河川に甦らせ,小中学校や高校で15人のクラスを実現できたか? 資金繰りに苦しむ零細企業や,仕事が見つからず自殺を考えている父親を,どれくらい救えたか? 美しい文化施設を地方に造れたか? 政府は,自分たちの選択した政策を,彼らに説明しなければなりません.
世界ランク1位の選手と対戦する福原愛さんの言葉に感銘を受けました.「怖くは無いけど,まともにやっても絶対勝てない.ごまかさずに,自分にやれることを全部やりたい.」
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg, FEER:Far Eastern Economic Review, CD:China Daily, BG:Boston Globe
NYT May 13, 2003
Executives Warn Britain Not to Reject the Euro
By ALAN COWELL
BBC Monday, 12 May, 2003
Head-to-head: Business and the euro
(コメント) Ford Motor やRoyal Philips Electronics,Vodafone,Unileverなどが,ブレア首相への書簡として,イギリスがユーロを採用しないことで被っているコストについて苦情を申し立てました.しかし,ゴードン・ブラウン蔵相などは今もユーロに反対です.たとえヨーロッパとの経済関係が深まっても,失業率や経済実績の点でイギリスの方が勝っており,社会福祉などの大幅な変更を受け入れる理由は乏しいからです.
BBCは,支持派と反対派の意見を紹介しています.イギリス最大のパブ・チェーンを展開する企業の会長であるTim Martinはユーロに反対します.ポンドを維持し,金利の決定権を握ることで,経済は安定し,インフレを抑制し,持続的成長と失業の抑制を実現できる,と.大蔵省は五つのテストを厳格に行い,その結果に従うべきだ.むしろ,ブレアが無謀な国民投票を行えば,ポンド危機が起きる,と考えます.
他方,ジーメンスUKの取締役であるAlan Woodはユーロを支持します.もしユーロを採用しないなら,それは国際的な企業活動にとって深刻なコストを意味する,と.80年代,90年代にイギリスに投資した企業は,ユーロが採用されることを前提していた.こうした国際企業はイギリス経済の20%でしかないが,外貨収入の多くをもたらしている.イギリスの景気が良いのは,消費主導の拡大を続けているからだ.それはユーロ採用の是非と関係ない.そして,既に金利はユーロ圏と一致して動いている.また,イギリス国内を見ても,各地の経済実態は大きく異なるが,それでは異なる金利を採用しろ,と言うのか? 反対派はEU官僚の規制を嫌っているが,既にイギリスはEU加盟国として,その決定に加わってきた.規制だけ受けて,その利益を諦めるのか?
FT May 14 2003
Humanity did not justify this war
By Gareth Evans (president of the International Crisis Group and foreign minister of Australia, 1988-96)
サダム・フセインの大量破壊兵器が見つからなくても,まあ,いいさ.アメリカやイラクの周辺諸国に脅威を及ぼす能力や意図が無かったとしてもいいさ.フセインが国連決議に背かなかったとしても心配はない.この戦争はフセインが自国民を恐怖に陥れたことで完全に正当化できるから.バクダッドでは最近も大規模な虐殺の埋葬地が見つかった.戦争は,「人道的介入」として,正当であった.われわれは正しいことを行ったのだ.コソボやボスニアでやったように.また,ルワンダでもすべきであったように.
そうだろうか? もし,答えがイエスなら,人道的介入という名目でほとんど何でもできることになる.世界には他にも,抑圧的な,独裁的な,人民を虐殺する体制が多く存在する.この10年間にサダム・フセインがやったことに劣らない証拠と抗議の声がある.また,こうした介入を行うなら武力行使の規則は大きく書き換えられ,その危険は深刻だ.
問題は,いいかげんな理由で軍事行動が頻繁に取られることだけでなく,むしろ正しい軍事行動があまりに僅かしか取られないことにもある.1990年代に,本当に言語に絶するような人権蹂躙に対してでも,介入への国内的・国際的な支持は得られなかった.だからトニー・ブレアのようなリベラルな国際主義者たちは,イラク戦争に正当性を強く求めたのだ.軍事介入が正当であることを示す原則こそが重要であり,それがイラクに適用された仕方は,将来の軍事介入に菅そる原則を示すものであった.
もしイラク戦争のメッセージが,単に,最悪の人権蹂躙を武力行使で終わらせるどうかは大国の感情やガッツの問題だ,と言うのなら,それが介入にふさわしい事例であったとは決して思えない.それは,国際社会に,虐殺,その他の人為的破局に対して責任ある行動を期待する人々を絶望させる.
1990年代から,こうした論争はあった.1994年のルワンダの虐殺,1年後のボスニアでは,全く不十分な対応しか取られず,1999年のコソボでも安保理は合意できず,落胆させられた.世界の意見が厳しく分裂する中で,カナダ政府は国際委員会を設け,より多くの合意を得られるルールを国連に報告した.そのレポートは今も軍事介入に対する明確な基準を示している.
第一の基準は,軍事行動の許容基準を厳しくすることだ.戦争は常に醜悪である.それは,大規模な人命の喪失や「人種抹殺」のような,例外的ケースに留めなければならない. イラクの場合,これにぎりぎり該当する.ただし,当時は西側が関心を示さなかったが,10年か,それ以上前の方が,基準を満たしていたはずだ.人権を蹂躙する者は,制裁や国際法廷に訴追されるべきだ,と委員会は主張した.戦争を最悪のケースに限定しなければ,合意は失われ,再びルワンダのようなケースが起きても行動できなくなる.
第一の基準を満たせても,次の四つの基準は満たすのはさらに難しいだろう.介入の主要な目的は人々の苦しみを終わらせ,回避することか? その他の全ての非軍事的な手段は尽くされたか? 2500人の市民と1万人の兵士を殺すことが,サダム・フセインの支配を終わらせるために必要な代償であったか? 軍事行動の結果は,行動しない場合よりも悪くないか? 特に最後の問いには,イラクの戦後がどうなるのか,それを見るまで答えられない.イラクの戦後の政治体制や,他の独裁者たちの行動,アル・カイダの復活がどうなるか,を見なければならない.
最後に,正当な権威の問題がある.それは結局,安保理が承認することである.イラクの場合,こうした正当性を持たないが,道義的な正当性が主張された.委員会も注意したように,安保理が明白に道義に背く場合,他のすべての基準を満たすなら,国連のシステムに対する信頼が崩れる.しかし,他のすべての基準を満たすのは非常に難しい要求だ.
イラク戦争が正当であったかどうかは今後長く論争されるだろう.関連する証拠が見つからず,原則に関する反対意見がある.しかし,それを人道的介入として正当化しようと言うのであれば,それは深く憂慮すべき事態であり,穏当な国際秩序に深刻な破壊的影響をもたらすだろう.
New Canaan, Connecticut, May 14 (Bloomberg)
Snow Grapples With U.S. Dollar Policy
David DeRosa
(コメント) アメリカの財務長官は矛盾した発言をしなければなりません.ドルは交換手段としても,価値の保蔵手段としても,最も望ましいものです,と言う.しかし同時に,ドル安は輸出にとって好ましい,と言う.スノーは,ルービンと違って,為替市場への介入を好まない.為替レートの水準には言及しない,と言う.アメリカの財務長官にとって,最も重要な仕事は,ドルがいつ下落すべきか,決めることなのです.どうやって? もちろん,ドル安にしたい,なんて言う訳がありません.アメリカは莫大な債務を抱えていますから.つまり,ドル安が起きても,彼がそれについて何も言わないとき,です.
IHT Thursday, May 15, 2003
Philip Bowring: How SARS could cause a trade war
Philip Bowring
(コメント) ドル安は,アメリカの経常収支赤字を減らすためには必要です.アメリカが無限に対外債務を増やすことはできません.しかし,アメリカが赤字を減らすなら,誰が黒字を減らす(あるいは赤字を増やす)のか? それは日本や中国などのアジア諸国であるはずでした.ところがSARSは人民元の切り上げをG7の話題から遠ざけてしまいました.日本にも韓国にも,それぞれ通貨が一方的に高くなれない事情があります.また,多くのアジア諸国が競争力の低下を心配し,通貨の増価に強く抵抗しています.
赤字国の通貨が安くなれば,黒字国の通貨は増価し,それゆえインフレを心配することなく国内の景気刺激のために金利を下げるはずではなかったか? 1930年代にそうであったように,各国は黒字を奪われることに過敏になり,国際資本移動を恐れています.競争的切下げや保護主義は,その症状であって,病根ではなかったのです.連鎖的な不況になっても,世界の経済運営を合意できないのであれば,不安定な資本移動を抑制し,適当な経済圏を摸索するでしょう.
NYT May 14, 2003
Sudden Pain for Canadians Who Export
By BERNARD SIMON
NYT May 14, 2003
Once-Weakening Peso Rebounds, Creating Economic Commotion
By ELISABETH MALKIN
FT May 15 2003
Can the eurozone avoid recession?
By Ed Crooks and Uta Harnischfeger
(コメント) ドル安は,カナダの輸出業者にとってカナダ・ドルの増価であり,その不満が中央銀行を金融緩和に向かわせるか? といえば,そうとは限りません.輸入業者は儲かっており,アメリカを逃げ出した資本もカナダに入ってくるのです.インフレは抑えられ,景気が悪化することも無ければ,カナダ・ドルの増価を放置し,金利は変えない方が良い,という意見が紹介されています.
他方,メキシコでも通貨危機ではなく通貨の増価が問題になっています.中央銀行は不胎化介入によってドルを購入し,それゆえペソ建証券を売って追加のペソを吸収します.しかし,この証券への利払いが増えるのです.メキシコ・ペソ高は政治情勢の安定化などともありますが,投機的な資本流入も懸念されます.輸出競争力をめぐっては,特に農民が心配されます.補助金を受けたアメリカの安価な農産物に圧倒されてしまうからです.アメリカ経済が迅速に回復すれば,問題は緩和されるのですが.
ユーロ圏にとって,特にドイツにとって,ドル安はさらにデフレの危険を高めています.しかも,アメリカではデフレとなるものが,ドイツでは失業の増加になるでしょう.すでに以前から,ドイツはデフレ状態のある,とさえ考えます.ECBの利下げは,世界経済がアメリカからヨーロッパに軸足を移すために必要です.しかし,各地で賃金や雇用規定をめぐる労働争議が起こる中では,金利の引き下げが景気を刺激するよりインフレになるのではないか? 構造改革を急ぐべきだ,というECBの不安も払拭されません.
WP Wednesday, May 14, 2003
Deflation Boogeyman
By Robert J. Samuelson
(コメント) デフレの何が悪いのか? 結局,デフレを悪者にしているけれど,悪いことの原因はもっと別のところにあるのでは?
Samuelson は,デフレが悪い理由を4つ挙げています.@企業の利潤が無くなり,解雇や賃金カットが増える.A短期金利がほとんどゼロになり,金融緩和で景気を刺激できない.B債務を負った企業や農家が破産する.Cさらに価格が下がることを期待して,消費者がものを買わなくなる.こうして1929-33年,大恐慌のアメリカでは消費者物価が24%も下落し,何千もの企業と農家が破産し,4割の銀行が破綻し,1933年の失業率は25%でした.他方,1870-96年,物価は年1.2%で下落し,企業や農家は倒産しましたが,経済は年率約4%で成長しました.一人当たり所得は年1.6%で増加し,工業化が波及しました.
連銀が日本経済に関する研究で示唆した,「通常の景気刺激策を超える思い切った金融緩和」を本気で行うとしたら,それに対する市場の反応はアメリカを喜ばすかどうか?
NYT May 15, 2003
What the Economy Needs Most Now
By JEFF MADRICK
(コメント) アメリカの景気悪化を止めるには,債務を負った企業や家計には期待できないから,財政赤字が増えるしかない,と考える経済学者がいます.しかし,それだけでなく,ドル安によって経常収支赤字を減らせば,輸出や国内市場シェアを回復することで,アメリカは景気を回復できます.問題は,ヨーロッパやアジアがドル安を受け入れて,自国通貨の増価に耐えられるか? です.
MADRICKは,最善の答えは政策協調である,と言います.結局,1985年のプラザ合意から1987年のルーブル協議によって,アメリカはドルの水準を変えることに成功したのです.ヨーロッパやアジアは国内需要を刺激し,世界経済を浮揚することができるはずです.こうした今は人気の無い政策も,その理由はアメリカ政府の姿勢によって転換する性質のものかもしれません.
FT May 16 2003
Argentina's choice
New Canaan, Connecticut, May 16 (Bloomberg)
Argentina's Kirchner Puts Markets on Notice
David DeRosa
NYT May 18, 2003
Argentina, Turning the Corner, Leans to Its Left
By LARRY ROHTER
(コメント) FTも,他の論説も,メネムの決選投票放棄を深刻に受け止めています.それは,キルチネル新大統領が政治的な多数派を占め,国民投票によって圧倒的に支持されたという正当な強制力を損なうものだからです.ネメムは,最後まで,自らの権力を維持するために,アルゼンチンをさらに破壊しても気に止めない権力者なのです.
正当性の次に問題になるのは,対外債務の組替えであり,成長の回復です.もし債務不履行になった950億ドルの公的債務(対外債務総額は1700億ドル,GDPの130%)を新しい条件で返済できなければ,回復への投資が始まりません.銀行の自己資本や,企業の投資意欲,労働者の雇用を増やす道筋を,新しい大統領は示さなければなりません.
問題は,キルチネルが選挙戦で大幅な公共投資による雇用創出や,海外の債権者よりも貧困層を優先する,と公言した政治姿勢です.彼はこの公約に縛られるでしょうが,遅かれ早かれ廃棄する,とDeRosaは考えます.増税するか海外から借りるしか,アルゼンチンには財源が無いからです.貧者と債権者の利害は,決して対立するわけではない,と.あるいは紙幣を増刷し,ハイパー・インフレーションに陥るか?
NYTが,キルチネルの「新ケインズ主義」を相手にせず,経済大臣と中央銀行総裁の留任,IMFとの交渉優先を予想するのは当然かもしれません.しかし,ここでもドル安によるアルゼンチン・ペソの増価を抑えることが重要です.クルーガーIMF副総裁でさえ,予想もしなかった回復,と賞賛した経済を拡大過程に維持する鍵がそこにあるからです.他方で,新大統領の期待は,AAFTよりもメルコスールに向けられています.
アルゼンチンほど苦しい状況であるなら,政治指導者は全てを試みるしかないでしょう.
ST MAY 17, 2003 SAT
'Downsized' Japan back in favour with US
By Tom Plate
(コメント) イラク戦後の国際秩序において,ブッシュ政権は敵対するヨーロッパの旧政治家たちよりも,アジアの指導者を重視します.日本,韓国,オーストラリア,シンガポール.ブッシュ氏は彼らと歓談し,キャンプ・デーヴィッドや牧場で話し合います.彼らを合わせれば,人口2億,GDPは5兆ドルに達し,しかも米軍基地を自由に使用できます.かつてアメリカ企業を蹴落とした次の覇権国家ニッポンのイメージは遠い昔話です.小さくて,手ごろな日本は,アメリカ人にピッタリのかわいい賛同者となりました.もうドイツやフランスを説得する必要なんて無いのです.この転換において,最大の受益者は日本.最大の被害者は中国ではないか,とPlateは考えます.
なるほど,このように解釈することもできます.しかし,何と目まぐるしい変化でしょうか? 日本は覇者や病人や同伴者であり,中国は次のパートナーや潜在的覇権国です.各国家の戦略が模様替えしても,それに左右されない,安定した民間交流が重要です.
FT May 18 2003
Japan braces for threat of systemic crisis
By David Pilling and David Ibison
NYT May 18, 2003
Experts Wonder if Bailout of Japanese Bank Will Stem Woes
By KEN BELSON
(コメント) FTの記事では,民主党の枝野議員が「少なすぎるし,遅すぎた」と批判し,銀行全てに,一気に,公的資金を強制注入するよう求める趣旨の発言をしたことが紹介されています.また,パニックになれば実際そうなるし,他の金融機関でも税効果会計の問題はあるので,円安・株安が進むだろう,と外資系銀行のアナリストたちは考えている,と紹介します.
NYTの記事も,首相の宣言「金融危機は絶対に起こさない」を取り上げています.日本の政治家や官僚は,言っていることとやることとが矛盾している,と感じるのです.一方では速水前日銀総裁や就任直後の竹中大臣のように,銀行の自己資本は大きく損なわれており,資本注入か整理しかない,と明言しながら,必ず後で言い訳し,微温的な是正策しか取らない.UCLAのRonald Morseは,不可避の結果を遅らせているだけ,と言います.すなわち,より多くの救済融資を繰り返し,実質的な銀行破綻を増やすだけ,と.
NYT May 17, 2003
God and George W. Bush
By BILL KELLER
(コメント) ブッシュ大統領は宗教的な熱意によって動かされているのか? それとも信者たちを政治的に利用しているだけなのか? この問題を扱った興味深い記事です.
KELLERの結論は,アルコール中毒から立ち直るブッシュ氏の改心物語も,演説の最後に「神の祝福を」(これがヨーロッパでは「そして他の奴らを地獄へ落とせ」と聞こえる)と付け加えるスタイルも,アメリカでは特別な意味を持ちません.ブッシュ氏は重要な問題で自分の「良心」に従うだけであり,信仰がその内容を決めるわけでは無いのです.社会政策や宗教的な保守主義者の主張をどこまで政策に反映しているか,というのは判断しにくいですが,結局,保守派が共和党の主流に組み込まれているのであり,資産家や巨大企業と同じように,共和党の政策として調整されて現れるのです.
宗教を持ち出すスタイルを気にせず,彼の行為を,彼個人の性向や資質と選挙基盤から見る,という通常の政治分析を示唆するようです.
NYT May 18, 2003
Euro Beginning to Flex Its Economic Muscles
By MARK LANDLER
(コメント) ドル安・ユーロ高が続く中で,いよいよユーロが世界通貨としてドルに対抗できる,という話も出てくるわけです.世界の投資家や政府は,特にイスラム圏やアジアでは,ドルに代わる通貨をユーロに求めるでしょう.特にアメリカの経常収支赤字や財政赤字が注目されれば.
同時に,ユーロ高は,今後ユーロに参加する国や,既に加盟している国に,複雑な問題を起こしています.
FT May 18 2003
A declining dollar will put Europe on edge
By Moises Naim
1年以上も米欧関係の悪化が議論の種であった.その間,ドルはユーロに対して減価し,2000年後半以来で40%,特にこの数週間は急落している.この事実が米欧関係に与える影響は,他のどんな外交問題よりも深刻だ.
まず,最も顕著な結果として,ヨーロッパはアメリカからの輸入品が溢れ,アメリカにはヨーロッパからの観光客が押し寄せるだろう.彼らはブッシュの一方主義を子供たちがディズニー・ランドへ行く安売りチケットで理解する.アメリカ人も,フランスが安保理で賛成しなかったからではなく,フランス・ワインが高価だから,カリフォルニア・ワインを飲むだろう.
ドル安はヨーロッパ産業を苦しめ,アメリカ産業を競争的にする.アメリカの民間部門はすでに,バブル破綻や会計スキャンダル,9・11テロに対して,容赦の無い,徹底したリストラを行ってきた.他方,ヨーロッパの労働市場は硬直的で,産業が規制され,企業統治が閉鎖的である.それゆえ彼らは世界経済の変化に対して迅速に反応できない.
ドル安は,ヨーロッパの企業の重役たち,政策担当者たち,労働組合幹部たちに,大きな挑戦となる.彼らはかつて無いコスト削減圧力,雇用維持・創出圧力,公的給付の維持圧力を受ける.ユーロ高は彼らの連携を強め,構造改革を延期させるだろう.強烈な社会・政治的再編の痛みに直面して,ヨーロッパの諸政府は補助金と保護主義に逃げ込む誘惑に負けるかもしれない.失業が増えるに連れて,国内雇用が最優先され,輸入や産業移転,移民は犠牲にされる.
ドル安は世界の貿易自由化の将来を曇らせる.WTOのドーハ・ラウンドはすでに停滞しているが,失業の増加は交渉をさらに難しく,乗越え不能にする.悲しいことに,通貨間のレート調整により,ヨーロッパ諸国の農業大臣が漸く成し遂げたEU農業補助金の改革を無駄になる.ユーロ高に保護措置でしか対応できないなら,貿易交渉は辛らつなものとなる.
こうしたことは,通貨の減価が必ずしも弱さの表れではない,ということを示している.アメリカは急激なドル安に対応し,そのマイナスの結果を最小限に留め,その有利な機会を活かす用意がある.アメリカ経済は弾力的で,適応力が高いのだ.特に民間部門は規制に縛られず,株主の利益を重視する.
結局,通貨の為替レートを再調整することにより,われわれ国際情勢を見る目が変化するだろう.1990年代は国際金融が全盛で,従来の安全保障問題など忘れられた.9・11がこうした考え方の愚かさを教え,将軍や軍事専門家たちが前面に登場した.しかし,再び急速に視点が移る.ドル安がアメリカの貿易赤字を減らすだけでなく,アメリカの世界観も変える.
New Canaan, Connecticut, May 18 (Bloomberg)
The Bank of Japan Asks for More Capital
David DeRosa
(コメント) <りそな>を救済する過程で,日銀と財務省は暗黙の合意をしているのかもしれません.それは日銀の黒字を財務省に移転しないことが,実際には,何か具体的な行動を意味するか? という問題です.中央銀行は貨幣を発行し,通貨政策の一環として国債などの確実な資産を保有します.その利子が黒字となって残るので,通常は,財務省に移転します.今回,日銀はそれを多めに残しました.一方では,特融などで日銀自体の自己資本が足りなくなる恐れがあるから.他方では,何か,財務省との合意があったから? ・・・DeRosaの推測に尾ひれを付けて泳がせると.
FT May 19 2003
The false optimists of the emerging markets
By Desmond Lachman
(コメント) 風が吹けば桶屋が儲かる・・・ ではなく,「風が強ければ,七面鳥でも飛べる」というのが新興市場債券市場の格言だ,ということです.なぜ新興市場の債券が値上がりしたのか? それは世界景気が悪化したからです.機関投資家は少しでも利回りを高く維持したいので,新興市場債券を購入します.しかし,世界不況は商品価格を下げ,新興市場の輸出市場を失わせます.世界の流動性供給に煽られ,舞い上がった七面鳥ほど,いつとは言えなくとも,地面に叩きつけられるのは確実です.
FT May 19 2003
Washington's weak dollar policy
By David Hale
(コメント) ドル安は進むが財務省証券は高値を続け,住宅市場が損なわれない限り,アメリカ政府にドル安を止める気は無い,とHaleは言います.それでも最近,ドルが急速に減価したのは,三つの理由からです.@財政赤字.A資本流入に依拠した帝国主義的介入政策.B経済政策の真空状態.実際,ブッシュ政権の権力はホワイト・ハウスに集中し,しかも安全保障閣僚ばかりに重点が置かれています.選挙参謀のカール・ローブが記者会見でドル安を非難しない限り,誰にもドル安を止められない,とHaleは皮肉を言います.
しかし,論説の結末は皮肉どころではありません.減税とドル安によって景気回復と再選を確実にしたいブッシュ氏にとって,住宅市場が傷つかないとしても,すでに世界のどこかが痛みを感じています.アジアがその黒字を減らそうとしない以上,通貨の増価するユーロ圏やイギリス,カナダ,南アなどで,それを緩和するリフレ政策が採られるでしょう.アメリカの景気回復を支えるために,他国がコストを引き受けるのです.1985年以降にドルを安定化するため,たとえば,日本が国内のバブルを放置したように.それでもブッシュは落選し,2004年後半から2005年に多くの国で資産市場のバブル崩壊を残すだろう,とHaleは予想します.
CD 05/19/2003
Time not ripe for fully liberatized exchange rate
YIPING HUANG(the greater China economist with Citigroup, based in Hong Kong)
(コメント) 人民元切り上げの適否を,@自律的マクロ政策,A貿易摩擦・外圧,B変動レートの安定性,という観点から検討しています.そしてHUANGは,切下げを急ぐべきではない,と提言します.その理由は,長期的に中国が自律的なマクロ経済管理を実現し,為替レートの過大評価も過小評価も回避することが,変動レート制によって実現されるべきだ,と考えます.しかし,人民元切り上げを強く求めているのは,日本だけです.東南アジアや韓国は,外貨準備も持ち,競争力を維持しています.アメリカは外交政策への支援を求めるだけです.日本だけが,間違ったデフレや金融バブルの理由付けで,人民元切り上げを強く求めています.しかし,SARSの影響もあって,今後,中国の黒字額はしばらく減少するでしょう.
HUANGが注目するのは,中国の外国為替市場がまだ未成熟なことです.このまま変動させると,取引額が小さく,大きな変動を招くでしょう.それは投資家に間違った判断を植え付けます.まず市場を整備しなければならない,と進言します.
ST MAY 19, 2003 MON
Weaker US$ could hit world markets hard
By LIM SAY BOON
(コメント) アメリカがドル安によって世界の他の地域にリフレ政策を強制しても,投資循環が逆に向かう情勢では,それが成功する見込みは無い,とBOONは批判します.つまり,ドル安の結果は,世界の不安定化と,デフレの蔓延です.
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The Economist, May 10th 2003
Prisoners in Guantanamo: A place in the sun, beyond the law
(コメント) The Economistは,アメリカ政府のグァンタナモにおける捕虜の扱いを厳しく糾弾してきました.アフガニスタンで捕らえた捕虜たちを,アメリカ軍はキューバ基地を意図的に使って国際法の外に置き,安全保障を理由に説明を拒否してきたのです.友好国を含む42カ国からの厳重な抗議を受けて,パウエル国務長官は何人かの解放を求めました.しかし,ここでもラムズフェルドは反対しています.
これは法の支配を明らかに無視する行為です.容易に,凶悪な他国の模倣を生むでしょう.捕虜たちを直ちに国際法上の正当な地位に置かねばなりません.既に多くの時間を費やして,アメリカ軍は情報収集を終わったはずです.彼らを法廷に出す場合,アメリカが言うような安全保障上の機密に触れる場合でも,さまざまな工夫が可能です.独立した裁判官と公平な法規の下で,被告に反論の権利が保証されねばなりません.
テロとの戦いが,法を無視させた証拠として,グァンタナモ監獄を完全に閉鎖すべきです.
Forget asylum-seekers: it’s the people inside who count
テル・アヴィブの自爆テロを実行したのはムスリム(イスラム教徒)のイギリス市民でした.しかも一人はイギリスで生まれたのです.移民たちは世界各地からイギリスに来ますが,長く住むうちにイギリスの価値観を理解するはずです.特にイギリスで生まれ,イギリスの教育を受ければ,彼らは立派なイギリス人になる,と信じられてきました.その前提が揺らいでいます.ヨーロッパは,増加する新しい少数民族を統合できるのか?
行動規範に寛容であったオランダでも,大きな変化が起きています.オランダ人のエリートたちは,庶民が口には出さないが感じていることを知っていました.移民の隣人たちはわれわれの文化を共有していない,という感覚です.そして9・11やFortuynの政治運動が起きました.彼らがそれを発言するようになったのです.ヨーロッパ中で,移民流入に対する不満が噴出しました.
最初は移民・難民規制の問題でした.しかし,EU内には,すでに1200万から1500万人の貧しい国から入ってきた移民が住んでいます.トルコ人,クルド人,アラブ人,アジア人,彼らのコミュニティーは非常に古くからあって,変化せず,その国の文化を拒否しています.彼らは肌の色や言葉,宗教によって,地元住民たちと明確に区別されます.
しかし,その規模や隔離の程度は,定義によって大きく異なります.重要なことは,彼らがコミュニティーを維持する理由が存在することです.言葉や教育問題,閉鎖的な結婚の習慣,など.時間とともに自然に同化する,と信じているヨーロッパ人は,かつてイギリスに来たユダヤ人のように,一緒に住めるようになる,と信じています.しかし,問題は移民過程が変化したことです.
現代では,はるかに大量の移民たちが,母国との関係を維持したまま,短い期間で移民したり帰国したりできます.そしてかつてと変わらぬあからさまな偏見にさらされます.それに対して,かつてのユダヤ人のように分散して身を隠すより,グジャラート人たちは集まって身を守ります.その結果,オスロには「小カラチ」,ベルリンにもトルコ人地区,パリには「マリの第二の首都」ができ,ロッテルダムの小学校ではオランダ人らしい子供を20人に一人しか見られないのです.
オランダ社会は,「人種の坩堝」モデルより,「モザイク」モデルで統合を考えてきました.カソリックとプロテスタントが分かれて住み,互いに尊重し合ったのです.しかし,彼らも9・11に関する雑誌の調査に恐怖しました.それを「悪事」と見るものが69%だったからです.一体,自分たちの社会のどこに,3000人もの罪の無い市民を殺すことが「悪事」ではない,と答える者が31%も居るのか?
一つの結果は,移民規制でした.もう一つの結果は,ムスリムを自分たちに近付けることです.市民の形成が強調されました.子供たちは幼稚園でオランダ語を修得するように求められます.大人たちにも,市民養成コースを取らせ,オランダ社会がどのように機能しているか,どのように考えているか,を教えます.
それは一種のレイシズム(人種差別)です.しかし,敵意によるものではありません.デンマークでも,移民の抑制と統合化が同時に進められています.統合の鍵は,職を得ることです.社会福祉を最初の数年はカットしました.ただし,パート・タイムの就労を権利として認めます.新規の移民たちは市民コースと職業訓練を受ける義務があり,強制的に職場に配置されます.問題は多く指摘されていますが,この方向が定着しつつあります.
ドイツ,イギリス,フランス,スペイン,イタリアは,それぞれが摸索しています.国籍取得の法規改正,多文化主義,住民参政権,コミュニティーの発言制度,各国の移民受け入れ枠とEU政策との矛盾.重要なことは,政治的な発言を認めることです.積極的な市民化政策を,教育や就労によって,ヨーロッパは目指します.
Currencies: Super-euro
(コメント) 野球評論家のように(と言うと野球評論家に失礼ですが),「なぜユーロがこれほど嫌われるのか?」と議論し,今度は,トイレット・ペーパー貨幣からドルに代わるチャンピオン通貨となったユーロを,「なぜこれほど強いのか?」と説明するためにいろいろ工夫します.もちろん,どれも信用できません.この記事は,ドル安とユーロ高を考慮すれば,いかにアメリカが積極的な景気刺激策を行い,ヨーロッパが酷いデフレ政策を採っているか,を批判しています.