IPEの果樹園2003

今週のReview

5/12−5/17

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ところで, ・・・ 何か,質問は無いでしょうか? ・・・ そうですね.お答えします.

l         Review 小史

2000年4月18日〜22日の「今週の要約記事・コメント」が最初でした.冒頭には私の余談(?)もなく,記事は全てThe Economistからでした.

最初のReviewは,不思議なほど,現在とテーマが共通しています.それは,@人口問題,A日本経済・敗者の政治,B株価の浮動性,Cメキシコ,D知識と独占,Eイラク問題,Fエル・サルバドルのドル化,Gアメリカの株価,Hグローバリゼーションと政治経済モデル,でした.

2000年の夏休みに数週間と,週末に用事があったとき,何度か中断したことを除いて,基本的に毎週,私はReviewを書きました.

l         最初のエッセー

記事の要約と自分の感想やコメントを書くうちに,二つを分離するべきだと言われました.今も,この分離を,妙な形で試みています.概ね,大幅な要約や意訳は「である調」の要約記事とし,他方,「です・ます調」でコメントや私見を書きます.(しかし厳密ではありません.)

2000年7月後半から,全体の記事とは別に,冒頭のエッセーを書くようになりました.1頁に決めたのは,10月頃です.

l         なぜ,Reviewを始めたのか?

在外研究から帰って,自分の研究スタイルを反省しました.何か,変えねばなりません.

そもそも講義を準備するのは難しく,学生たちを退屈させてしまうのがいつも残念でした.新聞記事を紹介するだけでは,何かが足りません.私はIPEの最良の教材としてThe Economistを要約し,利用しました.それをFinancial Times, New York Times, などへ広げたのです.

現実によって,学生たちの関心を刺激し,自分の意見を持つために,私はこの作業を楽しみました.これは客観的な事実の収集ではありません.さまざまな意見・視点・アイデアの収集です.

l         そのモデルは何か?

ロナルド・ドーアは,私の好きな本,『貿易摩擦の社会学』の中で,こんな風に書いています.

「朝食のときにタイムズ紙を読む.何かが「けしからぬ! 馬鹿!」と癪にさわる.その気持ちがまだグズグズしている間,大学へ自転車ででかける. ・・・足の運動で頭の回転もよくなるのか,相手(つまり憤慨の念を引き起こした本人)をめちゃくちゃに敗退させるような,うまい表現や,理論整然とした論法が,頭に浮かんでくる.大学に着いたら,たまらなくて,仕事を始める前に投書の草案を書く.書いてしまえば,清々する.気が晴れ晴れする.」

「かしこまった論文より,時事問題に反応して,いわば発作的に書いたその文章に,自分の人生観・社会観が,端的にではあっても,よりなまな,凝縮した形で出ているかもしれないと思った.」

「憤慨症候群」とドーアは呼びましたが,私の場合はむしろ「存在証明書」です.

l         何のために,こんなことをしているのか?

インターネットでは,関心があれば,誰でも自由に読むことができます.私の不満は,私自身の,浅薄で,何の役にも立たない知識でした.他方,私は空想するのが大好きです.もし私の空想が,誰かの想像力を刺激するなら,それが私の学んできたことの,社会に対する「存在証明」でした.面白いと思って読んでくれる人が一人でもいれば,それだけ社会は変わる,と思います.

学生たちだけでなく,パン屋さんや八百屋さん,工場労働者や僻地の小・中学校の先生,漁師さんや酪農家の夫婦,デパートの店員さん,町の小説家,遠くの村の,役場の職員さん,看護婦さん,あるいは政治家の秘書や,大企業の重役にも,「なかなか面白いな」と言ってほしいです.

l         どうやって記事を集めるのか?

毎朝,約1時間,インターネットで集めます.週末に2〜3日かけて選択し,要約します.

l         いつまで続けるのか?

私の関心が続く限り.そして,時間と体力が許す限り.いつも,これで最後かな,と思いながら.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg, FEER:Far Eastern Economic Review, CD:China Daily, BG:Boston Globe


WP Tuesday, April 29, 2003

Baghdad Bait and Switch

By Richard Cohen

(コメント) Cohen氏のお爺さんは,もちろん,既に死んだはずですが,夢の中に現れて,孫を叱責します.「よくも,あんな政府のクズどもが言うことを真に受けて,おまえは戦争を支持したな!」という調子で.「大量破壊兵器はどうしたのだ? 原子爆弾の開発はどうだったのだ? スターリン? ヒトラー? たった26日で遁走した奴が,どれほど世界の脅威だったと言うのか?」

「ベルリンの壁が倒れたとき,民衆はそれを壊して記念に持ち帰った.しかし,フセインの銅像を倒したら,バクダッドは略奪と混乱に陥った.」「これで中東が民主化できるって? すでにイスラエルは民主主義国家で,裕福で,自由も享受している.しかしアラブ諸国がそれを模倣するとでも思うのか? アメリカのイラクを?」「それで,結局は,イラクの石油を自分たちが売りたい,と言うのか?」

その通りだよ・・・ と認めつつ,「それでもわれわれは正しいことをしたのだと思う」と,Cohen氏は祖父の幽霊につぶやきます.


New Canaan, Connecticut, April 30 (Bloomberg)

Argentina's Candidates Promise the Moon

By David DeRosa

LAT April 30, 2003

Clear Choice for Argentina

(コメント) DeRosaは,アルゼンチンが海外の投資家に見放されている限り,次の大統領にできることは何も無い,と考えます.決選投票に残った二人の公約は,ともにペロン党の候補として,雇用創出や無秩序の一掃です.現在のドアルデ大統領が指名した後継者のNestor Kirchnerは,サンタ・クルス州の知事であり,公共工事によって失業を減らすことに成功しました.他方,元大統領のCarlos Menemは,自分が返り咲くことで,危機前の繁栄が戻ってくる,と訴えます.

サンタ・クルス州が学校や道路を建てたお金は,石油や天然ガスがあったから得られたのです.同じような資金を,Kirchnerが言うように,脱税の摘発で得られると思うのは,戯言だ,とDerosaは考えます.また,たとえ石油による富があっても,サウジ・アラビアは多くの失業者に困っています.他方,より市場自由化を優先するMenemも,海外の投資家たちに対外債務を長期の債券と交換するよう求めています.大統領選挙では,こうした問題が何も解決できないでしょう.

LATは,通貨危機から預金封鎖や債務不履行にいたって,すでに16ヶ月を経たアルゼンチンの現状を打開する選択を求めます.まず,責任も,透明性も,信用もないMenemを排除します.Menemの過去は余りにも腐敗し,賄賂や犯罪に関わっていました.他方,無名のKirchnerは,経済大臣のRoberto Lavagnaと組んで,知名度や市場の信用を補えます.

ドアルデ大統領は,インフレを抑制し,ペソの価値を維持し,経済の安定化を進めました.それは地道な成果です.しかし,同時に,貧困や不平等は悪化し,銀行システムは今も機能せず,対外債務の手始めにIMFとの交渉を控えています.結局,その後継者が同じ問題を解決できなければ,アルゼンチンは再び混乱に支配されるでしょう.


FT April 30 2003

The danger of being too forgiving

By Harold James

アメリカ政府はウィルソン的なムードに染まっている.民主主義が国際平和の基礎でなければならないという考えは,1918年のウィルソンの信念,すなわち「世界平和を,勝手に,極秘裏に,乱そうとする恣意的な権力は,世界のどこであれ破壊する」必要がある,と彼自身が考えたことに由来する.しかし,ウィルソンの国家建設は間違いであった.ドイツのワイマール共和国など,新設の民主主義国家は破綻した.他の新生国家は,冷戦後に大きな危機をもたらした.すなわち,ユーゴスラビアとイラクである.

なぜ1918−19年の和解がこれほどの破局に至ったのか,考えてみるべきだ.第一次世界大戦後の処理に関する,最も顕著で,しかも驚くべき事実とは,それがヨーロッパではなく,アメリカと国際関係にもたらした結果であった.アメリカ議会は平和条約の批准を拒み,国際連盟に参加しなかった.これはもっぱら,ウィルソンが愚かにも交渉において反対派を排除した結果であった.しかしまた,ある意味で,国際派が単にアメリカの納税者に多くの負担を求めすぎたからだ,とも言える.

ウィルソン主義への第二の脅威は,第一次世界大戦の金融的な結末であった.戦債と賠償の分配をめぐる論争が,国際金融システムを機能不全にしてしまった.それは結果的に,大恐慌の金融的な溶解に重大な影響を及ぼした.賠償は支払い不可能な銃辰に見えたし,その政治的要求は,債務者,特にドイツに,通常の公的および民間債務に対する支払も不可能にした.

ここに,2003年の戦後イラクに関するウィルソン的な状況が見られる.第一に,アメリカはますます株価暴落後の国内景気回復策や,企業スキャンダル,対外赤字の問題に没頭しそうである.そして,それがもしアメリカの負担を意味するなら,国際的な金融安定性を維持することには熱心でなくなるだろう.戦争が終わると,これまで,しばしば成長が失われ,デフレ的な破綻がもたらされてきた.

第二に,イラク戦の金融的な負担をどうするかについては,国際金融システムに基本的な不確実さが持ち込まれる.アメリカの負担は重大なものではないが,イラクに対する請求権が,他の請求権と競合する場合,優先度をめぐって対立が生じる.1990年に侵略されたクウェートへの賠償.独裁や制裁によってイラク社会が被った損害と再建の必要.イラクの外国債権者たち.イラクの債務はその国際債務の一部でしかないが,1920年代のドイツ賠償問題と同様に,たとえ小額の問題でも耐えがたい緊張をもたらし,システムを吹き飛ばすことがある.

債務をめぐる新しい論争は,開戦や戦争中も続いた政治対立による機能麻痺した世界に,持ち込まれる.イラクの最大の債権者は,湾外諸国とともに,フランスとロシアであり,アメリカは彼らに政治圧力をかけるだろう.フランスとロシアは,安保理における主要な反対者であった.

イラクの債務は,その多くが武器の購入により生じており,ロシアの場合,戦争直前まで武器を販売したと推測されている.ロシアによるGPSの妨害装置が,イラク民間人だけでなく,米軍同士のミサイルの誤爆を引き起こした,と報告されている.他方,アメリカに対するイラク債務は少ない.

その結果,世界の超大国として,アメリカはイラク債務の帳消しを求める誘惑を持つ.フランスやロシアが損失を被るのはアメリカ人に小気味良いことであり,悪辣なイラクの政治体制を支援した罰なのである.アメリカ人は強い道徳的な根拠を掲げるだろう.もし独裁者や権威主義的な指導者に融資した者がシステムとして債務の取り消しを迫られれば,世界的な民主化と平和はずっと早まる,というわけだ.同じ論理はイランにも適用される.これは金融的なウィルソン主義であり,融資に道徳的な判断を持ち込んで,より良い世界を建設する,というものだ.

しかし,世界で最も急速に成長する経済,中国にはどうするのか? 対外債務は2001年末で1700億ドルもあり,まさしく,民主主義ではない.その関心はアメリカのものと異なる.「不快な債務」という原則は中国にも適用するのか?

金融的ウィルソン主義の適用は,リスクを高め,国際融資を非常に高価なものにする.1920年代の戦後賠償問題が金融に道徳を持ち込んだように,独裁者に対するウィルソン主義の適用は新しい不確実さと,国際金融のシステム全体に対する新しい脅威を生み出すだろう.


NYT April 30, 2003

Dear President Bush

THOMAS L. FRIEDMAN

ホワイト・ハウスのブッシュ大統領へ

バクダッドの地下壕より

まあ,確かに君は僕の誕生日を台無しにしてくれた・・・.いいさ,君の勝ちだ.イラクをどうぞ.でも,その意味が分かってるのかな? そうは思えないな.もちろん,僕は君が失敗すると思う.しかし,国民はとても苦しんでいるから,イラクを支配するのに役立つ知識を僕が教えてあげよう.君が完全に混乱させる前に.

(1) イラクはイラクだし,僕は僕だった.それに,僕は悪い子だ.しかし,君が今見ているように,イラクはイラクなのだ.鉄拳で制圧するしかない,支配の難しい土地だ.もちろん,イラク国民が僕を嫌いなのは知っていたさ.君だって,じきに彼らに嫌われる.重要な問題とは,彼らが互いに必要としているのか? 鉄拳で強制されずに,クルド,シーア,スンニーが,一緒に暮らせるのか? ということだった.もしかしたら,彼らは自分ではできないかもしれない.強力な指導が要るだろう.要するに,君は明確なアイデアを必要としているわけだ.なぜなら,もしそれが無いなら,誰か他の者がそうするのだから.私の言うことは本当だよ.

(2) もしイラクに自治政府を作りたいなら,「衝撃と恐怖」は戦争をもたらすだけではない,と知っておくべきだったね.ここでは,それが日常だ.勝手にバクダッドの市長を名乗った奴を追い払うのに,なぜ2週間もかかったのか? 他所はどうなのか? 今じゃ,国中の土地を,武装集団やシーア派の聖職者が支配する.僕の軍隊を頭だけすげ替えて,そのままこの土地を支配できる,なんて考えたようだね.でも軍隊が全て崩壊して,治安を維持する十分な部隊が手に入らなくなった.だから君の兵士たちが発砲されれば,彼らは驚いて撃ち返す.僕はイラクを鉄拳で制圧したんだ.君は安上がりに,鉄の爪で引っかくだけ.全然ダメだね.ここじゃ通用しないよ,心の友よ! 君の無力さは,君の権力よりも,この土地では人々を怯えさせるだけさ.

(3) 君が僕の軍隊を滅ぼしたとき,君はこの国のもっとも重要な世俗の制度を打ち壊した.そして,聖職者たちがその空隙に殺到したんだ.良いことも,悪いこともあるさ.シーア派がイラク国民の60%を占めるのだから,誰がシーア派のコミュニティーを支配するのか,が重要だ.それはイラクの将来だけでなく,ある意味じゃ,イランの将来にも関わる.だって,シーア派の学問的・精神的中心はナジャフであって,イランの都市クォムではないから.クォムが聖地になったのは,僕がシーア派を叩き潰したからさ.その間に,ホメイニがイランでシーア派の宗教政治を始めたんだ.

ナジャフのシーア派指導者たちは,ずっと,シーア派の聖職者が政府に加わることに,反対していた.彼らは,それがイランの宗教政治を腐敗させ,人々の憤慨と若者の宗教離れを引き起こした,と考える.君はそんなナジャフをどうするのか? そこには,イラン的な宗教支配と対抗するイラクのシーア派が居る.だから,イランも強い関心を示すのだ.もしナジャフが再びシーア派の中心となれば,しかも政治に参加することを好まないイラクの聖職者たちが支配するなら,イラクの宗教政治は弱体化する.それは,今の中東で最も重要な政治闘争だ.ナジャフのシーア派聖職者は弱く,年長者が少ない.私がやった.しかし,君も自分好みの聖職者を自由に据えつけることはできない.それは自生するしかない.だから君は,学生たちが戻ってくるような環境を整え,イラクのシーア派がイラン人に対抗して繁栄できるようにすることだね.

(4) いつも覚えておくことだ.ここはアラブの国だよ.イラク人はアラブの最高の国民になりたいのであって,二流のアメリカ人になりたいなんて思わない.もしここで正当性のある,近代的な,政治的中心を創りたいなら,アラブ諸国や国連の見せかけや助けが必要だ.イラク人は結局,アラブ世界やメディアが正当と認める政党や指導者を望むだろう.彼らはアメリカの太鼓持に見られたくない.彼らはFox Newsなんて観ないのだから.

ブッシュ君.僕がなぜ,その政治生命を終わらせる戦争に賭けたか,君には分からないのだね.何を考えていたのだ? 誰の言葉を聞いたのか? 教えてあげよう.僕は独裁者だ.誰の言葉も聞かなかった.君も僕の失敗を繰り返すのか?

サダム・フセイン


WP Wednesday, April 30, 2003

CEO Welfare

By Robert J. Samuelson

(コメント) CEOの報酬はどうあるべきか? さまざまな企業会計のスキャンダルで,CEOの高額所得が攻撃されます.一部のCEOたちは不正行為や企業の倒産によって非難され,他方,公然と反論し,高額所得を要求するCEOも現れています.

1991年から2001年までに,アメリカの上位1500社におけるトップ5名は,ストック・オプションで670億ドル(8兆400億円.一人当り平均で10億7000万円)を得ています.1993年から2002年までに,350社のCEOの年俸とボーナスの中央値は,53%増加し,180万ドル(2億1600万円)でした.ストック・オプションなどを含む長期の報酬を含めたCEOの受け取る額の中央地は,3倍になって,1993年の200万ドルから2002年には600万ドル(7億2000万円)になりました.同じ時期に,全労働者の報酬は,わずか3分の1だけ,増加しました.

Samuelsonは,それを当然の権利として得ているCEOたちを批判します.彼らは互いに競い合って,自分たちの報酬を正当化します.CEOの市場などデタラメです.他方で,一部の悪事がCEO全体を非難する風潮にも批判的です.CEOの報酬が「生産的な」動機付けとなっているかどうか,を問題にします.たとえば,CEOがその企業に少ししか投資しなければ,企業の効率改善や利潤追求を十分に行う動機を持ちません.しかし,もし余りに多く投資すれば,会計をごまかして利潤を多く見せ,株価を吊り上げたくなるでしょう.

CEOの正しい報酬に,完全な答えはありません.Samuelsonは,それを公開し,彼らが自分で説明できなければならない,と言います.それが道義的かつ知的な規律となるでしょう.それが無い限り,報酬は重役たちの強欲と,大衆の偏見によって,左右されるのです.


ST MAY 3, 2003 SAT

When democracy can destroy democracy

By Janadas Devan

自由を確保するには,一人の人間が,それに賛成するだけで良いのか? 民主主義は自由主義と同じではなかったか?

たとえば,こんなケースを考えよう.1933年に,ヒトラーは政権に就いた.それは武力によってではなく,選挙で決まった.ナチスは44%の得票率を得て,他の三つの政党を合わせたよりも多かった.彼らは,民主主義を破壊するために,民主主義を利用した.

もう一つ.19世紀前半までに,イギリスもアメリカも,市民が法の下の平等を享受する自由な国となった.しかし,どちらも,現代のような意味で,民主主義国ではなかった.1832年の選挙法改正まで,イギリスの成人のわずか1.8%しか投票できなかった.その後は,2.7%であった.1884年の第二次改正で,12.1%となった.1930年になって,漸く女性が完全な参政権を得た.イギリスは普通選挙の世界的なモデルとなったが,植民地の独立は,その後,こっそり認めた.

アメリカはもう少しだけ民主的であったが,大して違わない.独立して10年は,白人男性で土地所有者だけが投票できた.女性は1920年まで,アフリカ系住民は1964年まで,投票できなかった.アフリカ系住民は100年前に,奴隷解放によって選挙権を得ていたはずなのに.恐るべき制度が,まさに白人たちの支持によって,継続したのだ.それが廃棄されるには,国民投票ではなく,血みどろの内戦と,最高裁の判決,議会の行動が必要であった.アフリカ系アメリカ人は,民主主義であったからではなく,民主主義にもかかわらず,今や権利を得ている.

さらに,もう一つ.1950年代と60年代,西側の知識人たちはアジアやアフリカの自由選挙を行う諸国を賞賛した.そして東アジアの自由選挙を行わない国を非難した.今では,民主主義国の多くで独裁が支配し,他方,アジアの独裁国家は民主主義になった.

いっそ,ピノチェト将軍や朴チョンヒを民主主義の功労者にして称えようか? そんな馬鹿な? でも本当だ.それこそニューズウィークの国際編集長Fareed Zakariaが新著で披露した考えだ.要するに,自由主義が来て,その後に民主主義が来る.「この日程は逆転できない.」すると,自由な秩序を作るのは民主主義ではない.自由主義,すなわち法の支配,独立した裁判所,私有財産,自由企業,市民的自由,そして何より,こうした自由を守る政府.これらが民主主義をもたらす.

革命後のフランスは「国家を社会の上に置き,民主主義を憲法より,平等を自由より,上に置いた.その結果はジャコバンの全体主義的民主主義であった.」20世紀における多くの新興独立国で同じ事が行われ,インドを重要な例外としつつ,その結果は同じだった.すなわち,「自由主義的でない民主主義」である.

Zakariaは,憲法による自由主義が確立される前に,早すぎる民主主義を行えば,その結果は群集による支配でしかない,と論じる.歴史的にも,19世紀のイギリスのように,制限された参政権の方が,普通選挙よりも,自由をより有効に拡大できる.それは1871年にドイツを統合したビスマルクが行ったことだ.

その点で,オサマ・ビン・ラディンは民主主義者であっただろう.「アラブ諸国で選挙をすれば,民衆はヨルダンのアブドラ国王よりも,オサマの意見に近いだろう.」とZakariaは注意する.中東だけでなく,「ユーゴスラビアでも,インドネシアでも,現在の民主主義より独裁者が支配した頃の方が,はるかに寛容で,非宗教的であった.」

自由主義的でない独裁か,自由主義的な独裁しか,他に希望は無いのか? リアリストのZakariaは,われわれが必要としているのは,より多くの民主主義ではなく,より少ない民主主義である,という.それは独裁ではない.「民主主義と自由とのバランスを回復すること」.その際,自由主義の秩序が重視される.

アメリカでは,民主主義の過剰はより大きな自由ではなく,その逆,政党の衰退,金権政治,特殊利益,ロビーイング,政府の機能不全をもたらした.なぜ連銀の方が議会より尊敬されるのか? それは連銀の方が支持者の意見を聞かずに,より長期的な視点を取れるからだ.

世界の他の地域では,法の支配と自由企業システム,富の形成,中産階級の育成を重視するべきだ,とZakariaは考える.そしてバリントン・ムーアJr.の研究によりながら,「ブルジョア無しに,民主主義も無い」と言う.不思議なことだが,カール・マルクスと同じ意見だ.


WP Saturday, May 3, 2003

Following The 'Road Map' to Freedom

By Ghaleb Darabya(counselor for political and congressional affairs at the PLO Mission to the United States in Washington)

イスラエル支配下のガザ地区でパレスチナ人として育った自分が,ワシントンで直接,アメリカ国民に,私の仲間の経験と希望,夢を語っている姿など,夢想したこともなかった.自由を愛し,植民地支配を終わらせるために,若い国家として自ら戦ったアメリカのことを聞いて,私は自由を求めるパレスチナ人の戦いを理解する上で,アメリカ人民ほどふさわしい聴衆はいない,と感じた.

私たちは35年以上も,自分たちの権利,平等と自決が満たされることを待っている.私たちは地球上で唯一の,外国による植民地支配下で暮らし続ける民だ.私たちは人間としての,また民族としての大望を成し遂げるために可能なあらゆる手段を試みてきた.最初のインティファーダ,マドリッド会議,オスロ和平プロセス,ワイ河の覚書,シャメルシェイク会議,キャンプ・デーヴィッド会談,パレスチナ人は平和のためのすべての道に現れ,この地の子供たちに希望のもてる未来を与えてやりたいと努めてきた.

「ロード・マップ」は国際社会がこの31ヶ月の暴力の連鎖を終わらせ,パレスチナとイスラエルとの最終的な平和をもたらす国際社会の明確な努力である.ロード・マップは双方が並行して一連の作業を進め,結果としてパレスチナ国家を,1967年以来,イスラエルが占領している私たちの歴史的な母国の22%において,建設することを示す.この作業は三つの局面からなる.

私たちは,すでに第一局面を進めている.パレスチナの財務大臣Salam Fayyadは,財政を透明化している.IMFはパレスチナの初年度の予算を「世界で最も透明な予算」と呼んだ.

第二に,国際的な法律の専門家に相談して,私たちはアメリカの学者たちも,イスラエルを含めて,この地域で最も民主的だ,と認める憲法を起草した.公衆の議論を経て,それは議会で承認されるだろう.

第三に,3月10日,パレスチナ議会は基本法を改正し,われわれの歴史において最初の首相を認めた.3月19日,Mahmoud Abbas,もしくは通称Abu Mazenが,アラファト大統領から首相に指名された.アメリカを含む国際社会がこの決定を歓迎し,議会も85人中51の賛成で彼とその内閣を承認した.

最初の演説で,アッバスは,イスラエルに対するパレスチナの立場を明らかにした.「私たちは,あなた方との,持続的な平和を望んでいる.私たちは,どのような集団の,どのような形で行われるテロにも,反対する.なぜなら,それが私たちの宗教的そして道徳的な伝統であるから.なぜなら,そのような手段が私たちの正義を支援せず,むしろ破壊することを確信しているから.私たちは,ユダヤ人が歴史的に被った苦しみを無視しないだろう.それと同じように,イスラエル人も私たちの被った苦しみに背を向けないことを願う.」そして彼は,同時に,パレスチナ政府が全ての武器を放棄するだろう,と述べた.

パレスチナ人はこうした改革を進め,平和に賭けてきた.その間も,私たちはイスラエルの完全な軍事支配の下で暮らしていた.私たちの街にはイスラエルの戦車が走行し,人々の移動は阻止され,163箇所のイスラエル軍の検問所により西岸地区は300の飛び地に分割され,31箇所の検問所でガザ地区は三つに分割された.私たちの経済は暴力によって破壊された.世界銀行の資料でも,パレスチナ人の67%は貧困線以下の暮らし,60%は失業,22%の子供が,まったく人為的な理由で,慢性的な栄養失調である.これほど絶望的な状況で進めてきた政治改革は,奇跡的な成果であり,自由の民としてパレスチナ人が築いた創造的かつ鮮烈な制度である.

パレスチナは中東の民主化に向けたモデルとなる力を示した.私たちは,ブッシュ大統領の考えと挑戦に応えるだろう.今度は,イスラエルが同じことをする番だ.イスラエルとパレスチナだけでなく,アメリカにとっても,歴史的な瞬間である.アメリカの自由と民主主義の伝統によって,ブッシュ政権は決定的な行動を取らねばならない.イスラエルとパレスチナが,ともに,平和に暮らしていけるように.


WP Tuesday, May 6, 2003

Road Map vs. Reality

By Gareth Evans and Robert Malley(the International Crisis Group)

(コメント) ロード・マップは決して実現しない,とこの記事は断言します.オスロ和平プロセスの漸進主義を引き継ぎ,政治的な決断や転換をもたらさないからです.その内容は,明確に定義されておらず,検証不可能であり,何の強制力もありません.双方は,互いが何をするべきか,いつ何をしたか,避難し合うだけで終わるでしょう.

しかしロード・マップは重要です.それは,ロード・マップが示されたと言う事実において,双方と国際社会が取り組むべきことを確認できたからです.パレスチナは暴力的な対立を終わらせる点で,またイスラエルは入植者を抑制する点で,自分たちにできることをしなければなりません.それぞれの政治や社会が,その内部で変化し,またアメリカやイギリスなどの国際社会が,それを促すことを,ロード・マップは助けるでしょう.


FT May 5 2003

The price Britain faces for delay

By David Begg

NYT May 5, 2003

Britain's Long Debate on Embracing the Euro

By WARREN HOGE

(コメント) ユーロをめぐる簡潔な整理です.Beggはユーロを採用すべき理由を示しています.他方,NYTの記事はこの論争の背景を説明します.

国家が通貨を放棄する決定を,国民投票に委ねる,ということが正しいのかどうか? 共通通貨の採用を,一時的でなく,永久的に行わねばならない,ということが必要なのかどうか? 歴史的に,通貨が統合されたり,分割されたりするのは,植民地化や帝国の解体を除いて,戦争によるものであったと思います.もちろん,ますます統合化する世界に,各国が何百もの独自通貨を必要としない,という根拠は明確です.最適通貨圏ではなく,最適通貨選択メカニズム(分離であれ,統合であれ,その選択基準と国際支援システム)を準備する必要があるようです.


Seoul, May 7 (Bloomberg)

Michael Milken, a Job May Await You in Japan

By William Pesek Jr.

(コメント) 日本の金融システムを改革するには,ジャンク・ボンドの発明によって金融革新をリードし,最後には犯罪者となったマイケル・ミルケンがふさわしいだろう,とPesek Jr.はまじめに指摘します.何より,日本はジャンク・ボンドで一杯だ! 金融政策や財務省の官僚によっては,日本経済の沈没するイメージは払拭できません.ミルケンに売らせてみては? と.


LAT May 6, 2003

Green-Card Soldiers Don't Pass Muster

By Mark Krikorian

(コメント) アメリカの軍隊が,アメリカ市民ではなく,永住権のある移民によってしか補充できなくなったらどうするのか? 以前から軍隊には黒人が多かったはずですが,大規模な移民が続く限り,予算の限られた国防省は移民たちに依存するでしょう.


New Canaan, Connecticut, May 7 (Bloomberg)

Will U.S. Catch Japan's Deflation Bug?

By David DeRosa

(コメント) アメリカの金融政策委員会が,さまざまなマイナス要因を挙げながらも,金利を据え置きました.その直後から,ドルはまっ逆さまに減価し始め,ユーロが高騰しています.何が市場を怯えさせるのか? 「日本病だ」と,DeRosaは答えます.もちろん,アメリカの物価が実際に下落するかどうか,まだ分かりません.デフレは企業の返済負担を重くしますし,銀行の融資を渋らせます.また連銀の金融政策も,ゼロ以下には下げられない限界に近付きます.それに加えて,「日本病」の恐怖が,アラン・グリーンスパンの「早めに断固とした行動を起こす」という宣言とともに,ドルからの逃避を促しているのではないか?

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The Economist, April 26th 2003

Foreign Policy: The shadow men

(コメント) イラク戦の勝利で,アメリカの外交政策はいよいよ本格的にネオ・コンが支配する,という憶測を,The Economistは否定します.アメリカの政策は特定の思想集団に支配されていないし,ブッシュ大統領は異なった方針を競わせて理想する実際家である.アメリカの政策を,石油の利権や「帝国主義」,ユダヤ人,などで説明するヨーロッパの論調は,アメリカの外交政策決定の過程をまじめに観察していない,と批判します.

ブッシュ氏がネオ・コンを重視したのは,9・11で示された新しい軍事的脅威に対して,旧来の安全保障思想が十分に答えていない,という不満を示したかったからです.彼はその不満を実際に国民に示して,行動に結び付けることに成功しました.何も無くては戦えないのです.それでも,決して予め依拠していたのではなく,時間をかけて選択されたようです.2002年1月の年頭教書演説で「悪の枢軸」を非難し,2月にはAEI(ネオ・コンの拠点の一つ)でイラク再建と中東民主化を唱えました.この頃,ブッシュ氏は明確に方針転換したのです.

ネオ・コンの発生過程や世代,その政権との関係などは,直線的なものではありません.そして,アメリカの外交政策に関わる以上,ネオ・コン自身がアメリカの利益に沿うように穏健化するしかないでしょう.国際機関における和解も政府は進めるしかありません.それは,国内経済が大統領選挙に向けて議論されれば,ますます外交政策を制約する,という点でもそうなのです.ブッシュ氏自身が,決して,ネオ・コンの信念と心中する気など無いでしょう.

これがThe Economistの予想です.あるいは,希望,でしょうか?


Latin America: Wanted a new regional agenda for economic growth

(コメント) 「ワシントン・コンセンサス」は,そもそも1980年代のラテン・アメリカ諸国における経済改革・自由化の共通点を整理するために,J・ウィリアムソンらがIIEで主催した会議で提唱した政策リストです.この用語が,その後は新自由主義批判家たちの関心を集め,ワシントンに依拠する国際機関やアメリカ政府・財務省への不満を集める磁石となってしまいました.

それにもかかわらず,ラテン・アメリカの経済改革は一定の成果を上げた,と言えます.保護主義に基づく工業化やインフレは,今ではどの政府にも支持されていません.しかし,歴史的に定着した弱さ,すなわち,慢性的な国際収支危機,政府債務の累積,教育から破産法まで,さまざまな制度改革,そして不平等な所得分配,などで課題が残されています.

特に,新しい経済改革の焦点は,不動的な国際資本移動の下で,どのように通貨危機や経済の崩壊を招かないように運営できるか,に向けられます.激しい危機を経たとしても,既に各国の為替レートは競争力を維持する水準に安定し,その意味で「調整」を終えたのだ,という意見もあります.後は,どうやって豊かな国からの資本流入を安定的に維持するか,であるとCalvoは言います.もし新興市場が共通の中央銀行を持って,為替レートの調整と流動性を供給できれば,通貨危機は起こらないでしょう.しかし,政治的な意志が存在しません.

危機を回避する手段として,一つは輸出を増やすことです.そのためには,変動レート制が適当ですが,その場合でも,競争力を奪うような,為替レートの急速な増価を回避しなければなりません.特に,資本の流入によって競争力を失い,最終的に危機に至った経験を見れば,資本流入(流出ではなく)を規制する方が良いでしょう.また,貯蓄や融資を外貨建でなく,自国通貨で行えることが重要です.ラテン・アメリカ諸国は,メキシコとチリが指導して,共通の投資ファンドを設け,資金調達しようとしています.

もう一つの危機回避手段は,財政の健全化です.各国政府は財政規律を法律として明確化し始めています.好況時に黒字を蓄え,不況時の公共投資をファイナンスするような制度が必要です.また,富裕層に課税し,地方政府への財政移転は抑制するような改革も必要です.

こうした危機回避に加えて,新世代の改革では,@労働も含めた市場改革をさらに進め,A金融監督や破産処理,新しい産業政策など,さまざまな制度を構築し,B不平等を解消するために,貧しい者の教育改善や土地所有を促すこと,が重要な課題です.

次々に誕生する政府は,ラテン・アメリカの新しい左派政党やペロニズムを引き継いでおり,市場改革自体を否定はしませんが,それ以上の社会的目標を掲げています.かつてのような政府介入と財政による補填や補助金,インフレーションと対外債務,通貨危機の繰り返し,といった歴史に戻ることはないでしょう.しかし,政治的な合意と経済システムの改善に迷いが生じたとき,そのような不安が生まれるのです.