IPEの果樹園2003

今週のReview

4/28-5/3

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子供の漫画でさえ,戦いは重層的で,勝利は多義的です.正直で心の優しい獣人が,魔獣になりきれないままカービーと戦い,戦いながら涙を流します.魔獣を造ったのは,個人的欲望に従うデデデ大王と,金銭欲に従うナイトメア社の支配人.しかし,彼らと関係なく,無心に陽気で楽しい星の戦士,カービーこそが主役です.

4月24日のNHK現代ジャーナルは,東京のある公立高校が,土曜日に予備校講師による授業を取り入れた,と伝えていました.大学でも「ダブル・スクール」が増えており,多くの学生が語学学校や簿記・国家公務員・公認会計士・司法試験その他の資格試験の専門学校に通います.

大学は何のためにあるのか? 修道士を育てる? よりよい報酬や昇進のための資格を与える.高度な専門的知識の体系を伝授する.そして,ノーベル賞? 実社会において直面する問題に,より専門的な解決策を提案する.あるいは,年齢,親の所得,教育機会,などで選別された特殊な交友関係と歓楽施設の提供.曖昧な野心と希望,そして真摯な理想追求を許された若者たちの聖域.企業のための人材養成センター.市民のための教養と権利・義務を学ぶところ.大学教員・職員のための所得維持メカニズム.官僚的なエリートや2世3世の政財界人を育て,その後の人脈を作るクラブ.適当な恋人や結婚相手も・・・ など.

人文・社会の問題は,多くの場合,それを定義することも難しいです.主要な大学は,上記のすべてを含んでいます.学生数やキャンパス面積,経済規模だけでなく,社会的な意味でも,大学とは「大きな学校」なのです.しかし,国民的な規模に達した高等教育が,こうして若者を隔離した空間は,もっと「生産的」で,しかも「意味」のある何かであって欲しいです.

NHK現代ジャーナルの話には,二つの「落ち」がありました.まず,公立高校には予備校と違う魅力があり,予備校と同じでは意味がない.それは,学生一人一人への配慮である,と.次に,学校は学生たちにさまざまな可能性を示す,開かれた場所だ,と言います.予備校講師の授業を一緒に見て回る高校教員.受験参考書や予備校の選択の相談に乗る高校教員.そんな混乱した理想が示されます.

授業評価制度の導入は大学でも盛んです.授業や教員を点数化し,学生や第三者によるチェックを制度化し,外部試験や学生の成績判定に共通基準や客観指標を求め,雇用に年限を設け,優秀な教員には特別の報酬を与える.それらは日本の金融不安や,新興市場の通貨危機に対して求められる「基準」とよく似ています.市場の拡大と競争激化により,腐敗や汚職,質の低下がシステム全体の危機に至るからです.

私も,それらは必要であると思います.しかし,さまざまな基準点や達成度がチェックされ,時間を測り,規格を定め,学生は自分の脳ミソを秤で売るみたいに,講義内容の詳細な項目を調べています.高校,大学の中に,塾や予備校,英語学校が間借りし,資格試験の代理店,留学の斡旋業者,海外旅行保険なども並びます.こうして学問を数値化し,大学を「デパート化」して学生を呼び込む方針に,私は反対です.

個人的関心,学問的関心,社会的関心,資格や就職のため,・・・私たちはさまざまな理由で学びます.しかし,学生たちは大学で学ぶことを楽しんでいるでしょうか? 大学の存在理由は,学生一人一人が感じ,彼らに体現される,大学の伝統やキャンパスの雰囲気にあると思います.それは,目的を絞った,限定的な成果ではなく,その世代の共通の経験と機会を,同じキャンパスで享受できた若者たちが発散する,高められた生命力や公共心なのです.

戦争の話は減りつつあります.今度こそ,独裁者を生まない民主主義国家に,国際秩序の指導的役割を委ねたいです.そのためには,独立した批判的メディアが国境を越えて活動すること.異なる意見が社会的均衡を保ち,独立した市民が世界中で交流できる条件を,高等教育が万人に提供することを願います.昔から大学は,革新と社会改革の装置でもありました.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, ST:Straits Times, FEER:Far Eastern Economic Review, CD:China Daily


FT April 19 2003

The Iraqi people must come first

僅かな戦後の余裕も,石油に関わる再建計画の紛争によって失われるかもしれない.ブッシュ大統領はイラクへの経済制裁解除を求めるが,それはロシアやフランスとの外交摩擦をもたらす.問題は,フセイン政権がクウェート侵略後に受けた制裁を解除すべきかどうかではなく,それがいつ,どのような条件で行われるか,である.

ブッシュ氏は直ちに解除することを求めるが,ロシアやフランスはこの問題をイラク再建に果たす国連の役割強化に結び付けて,取引しようとしている.彼らは,また,自分たちが大きく関与しているイラクの石油産業を,アメリカの占領下で処理することが,将来の契約を失わせるのではないか,と恐れている.

ロシアのイワノフ外相は,制裁解除には,安保理決議の条件,大量破壊兵器の破壊を確認するように求める.しかし,アメリカは国連査察団がイラクに入ることを望まない.フランスは,戦争を阻止できなかったことから,外交的孤立を心配している.シラク大統領は,制裁解除の目的を支持するが,法的な明確化を求めている.この問題では,ロシアとフランスに決定を左右する力がある.もし彼らが求めれば,安保理で新しい決議が必要になるからだ.

国連の承認無しにアメリカがイラクの石油を売却しようとしても,買い手を見つけるのは困難である.石油の法的な所有者が明確でないから,それを購入した石油会社が,将来,イラク政府に再び支払を請求される恐れがある.

アメリカは数週間以内に制裁を解除するよう求める.そして国境を開放して,インフレを防ぐために物資を搬入することを求める.またアメリカ政府は,制裁解除で,イラク資産の凍結を各国が解除することも求める.なぜなら,石油収入は債務や賠償と結び付けられているからだ.

ワシントンが妥協するとすれば,国連に石油の販売を委ね,イラク政府が成立するまで,事実上,その売却金を国連に委託することだ.解決が遅れて,国連の役割をめぐる紛糾に飲み込まれるのは危険である.

どちらの側も圧力を感じている.フランスとロシアは,イラク国民から必要な資金を奪った,という汚名を受けたくない.アメリカは,再び国連で,法的・外交的な頭痛を繰り返したくない.問題が解決されるまで,イラクは毎日5000万ドルを失っている.アメリカ,ロシア,フランスは,利己的な主張を譲って,イラク国民のことを第一に考えるべきだ.


A BOSTON GLOBE EDITORIAL 4/19/2003

A blind eye on Chechnya

(コメント) 「テロとの戦い」は,ロシアの大統領に,チェチェンの人権抑圧,選挙妨害,集票詐欺,誘拐,暗殺,エスニック・クレンジング(人種抹殺),ナチス支配下のワルシャワ・ゲットー再現,を弁明する根拠となっています.ブッシュ氏は,独裁者を追放し,イラクの民主国家を再建するために,プーチン氏とは喜んでチェチェンを抹殺する事業に加わったのでしょうか?

プーチンが軍事介入して,市民を殺害した後,残されたチェチェンは,人口が100万人も減った,と言います.殺されたか,難民となって国を去ったからです.BGの論説は,ブッシュ政権がこのような人権抑圧を見過ごしている態度に,恥じを知れ,と非難します(アカデミー賞の授賞式でM.ムーアが叫んだように). ロシア政府は,さらに恥ずべきことに,チェチェンの住民投票を捏造しました.3月23日の住民投票では,実際に残っている住民よりも多くの投票で,ロシアへの帰属が支持されたのです.

有権者は脅迫され,買収されました.プーチンはロシア政府に忠誠を誓うチェチェン人に正当性を与えるため住民投票を利用し,独立を求めて300年間も戦った人々に偽りの服従を求め,全欧安保協力機構の監視下で行われた1997年の選挙が決めた政府を廃棄しました.ブッシュ氏は,プーチンがチェチェン紛争を解決できない限り,民主主義の指導者になれないことを告げるべきだ,と.それは,また,ブッシュ氏への疑念です.


NYT April 19, 2003

De-fense! De-fense! De-fense!

By BILL KELLER

(コメント) 2004年の大統領選挙よりも,余りに早くフセインが逃げ出したので,ブッシュ氏は次の標的を探している? そういった指摘にも真実が含まれているでしょう.しかしKELLERは,ブッシュ政権がシリアにまで攻撃的な姿勢を示すのは,防戦よりも攻撃の方が容易で,しかもずっと格好良いから,と考えます.

自国の港湾を警備したり,化学工場の安全を気遣ったり,ビザ保有者を追跡したり,ガタガタの諜報機関を立て直したり,消防や医療の非常施設を改善したり,国内のテロ対策には「ケーキ・ウォーク」など期待できないのです.しかも,それは成功しても,まるで華々しくない.

戦場においても,いつ来るかわからない攻撃に備えて塹壕を掘るより,司令官たちは攻撃命令を好みます.攻撃においては,その時期や戦場を選択できます.防戦では,どこに最悪の攻撃を受けるか,恐れているしか無いのです.

この戦争でも,攻撃とは敵を武装解除し,多くの場合は殺害することです.しかし,防戦では,企業のロビイストたち,市民活動家たち,アブのようにうるさい査察官たち,選挙区に資金を取り合う政治家たち,労働組合,選挙参謀,弁護士,予算局,官僚の縄張り,権利,物理法則にまで煩わされる,と.こうしたうるさい反対派は攻撃に際しては黙ってしまいます.多分,アラン・グリーンスパンを除いて.

なぜ化学工場は防衛し無いのですか? という記者の質問に,政府は,9・11の対象になったのは空港だから,と答えました.つまり,次にテロがあれば,アメリカ中の化学工場も守らねばなりません.各州は防衛予算の拡大を連邦政府からの資金に頼ります.本土防衛の失敗や欠陥,浪費は,いくらでもあります.そして,ますます国内の民主主義は(ヴェトナム戦争を表現した状態)「泥沼quagmire」に落ち込みます.

そうした問題は,シリア攻撃や中東民主化計画に比べて,ブッシュ氏が指導力を誇示するにふさわしい対象では無いのです.ブッシュ氏は「自信に満ちた男」であり,政府チームに攻撃型の選手ばかり集めました.彼らにとって,チャンピオンシップの日まで,防御は無いのです.


NYT April 19, 2003

Making Peace and Profits in Iraq

By ZACHARY KARABALL

(コメント) イラク再建の契約は,レセップスのスエズ運河建設と似ているかもしれません.1854年,フランスのレセップスがエジプトのサイード・パシャを説得して建設に合意し,1956年,ナセルが支配権を奪うまでの,スエズ運河の困難な歴史にもかかわらず,KARABALLは,それを政府と国際機関,民間資本とが協力して成功できることを示した前例と考えます.

イラク再建と安定した石油供給は,確かに,アメリカの利益,イラク国民の利益,国際石油企業,国際機関,そして関連する諸国と地域の安全保障にとって非常に重要です.多くの厳しい対立が起きるとしても,石油資源を民間資本が開発する方策は,必ず検討されるでしょう.そして,その成否は,政治的な合意や制度が実際に機能するかどうか,にかかっています.


NYT April 19, 2003

Brazil to Let Squatters Own Homes

By LARRY ROHTER

リオ・デ・ジャネイロなど,ブラジルの都市の丘や水辺は,何世紀も,不法占拠民のスラム街によって埋め尽くされてきた.彼らはその父の法的な所有権を求めていたが,今や,新しい政府がそれを与えると約束した.4000以上の不法占拠地における,無数の人々が利益を受ける,と政府は言う.リオのファベーラには1500万人が暮らす.

スラムの住民にとって,それは土地を所有することだけでなく,融資を受けたり,郵便を受け取ったり,さまざまな公共サービスが受けられることを意味する.しかし,これは危険な試みでもある.支持者でさえ,これによってパンドラの箱を開けたと感じ,所有者の確定や犯罪組織の排除をどうするか,と心配する.

しかし,子供の頃,サン・パウロの不法占拠民であったルーラ大統領は,貧しい者のために働きたい,と演説する.スラムの住民に家を持たせる,と.それは,所有者の確定や補償を含む,土地所有の民主化計画の一環である.こうして,この国の1750万人に融資が可能になり,また,低所得者用に23万戸の住宅を政府が建設する.

そのアイデアは,ペルーの経済学者Hernando de Sotoが提唱する「人民資本主義」に似ている.彼は,ラテン・アメリカの貧しい人々が持つ企業家精神を,所有権の確立などで,富の拡大に繋ぐことを強調する.「戸津所有はクレジット・カードのようなものであり,株式市場の株を買うに等しい.」

ブラジル政府やファベーラの住民たちは,この計画が新しいビジネスや経済活動の起爆剤になると期待する.土地所有は銀行融資を可能にし,自営業者を増やし,地元からの供給を増やす.また,住民たちは他の公共サービスにも期待する.

しかしデ・ソトは,地方政府に招かれて,原則の明確な適用と厳格な運営を求めた.この計画自体は新しいものではなく,ブラジルには失敗した同種の計画がいままでもあった.正しく行われないなら,幻滅に終わり,貨幣価値が暴落する.貧しい者が所有権を好まないのではなく,改革のために何をすべきかが分かっていないのだ.

また,細かい土地に危険な建築物が林立するとか,麻薬密売の犯罪組織が土地を支配する,といった不安がある.しかし,コミュニティーの指導者であるEliana Sousa Silvaは,そのような噂を否定する.法律が我々に所有権を与える.それによって我々は市民として生きることができる,と.


WP Sunday, April 20, 2003

The Perils Of Empire

By Paul Kennedy

(コメント) もちろんKennedyの主張は,帝国の過剰な拡張が,国内のリベラリズムと,財政負担をめぐって衝突する,というものです.「イギリスの(高貴な)瞬間」に関する以下の叙述で始まるKennedyの論説は,キップリングの悲嘆で終わります.

86年前,もう一つの強力な侵略軍がバクダッドを制圧した.同時に他の部隊はエジプトから北東に展開し,パレスチナを占拠した.自分たちの戦略と知識人たちの声に促されて,軍隊は即座にダマスカスに向かった.イランとペルシャ湾岸諸国にも強い影響力を行使するつもりであった.解放軍の隠された意図は,サウジ・アラビアとヨルダンの体制転換であった.彼らは,今や抑圧者は敗北し,「全アラブが再び偉大さを取り戻し,繁栄するだろう」と宣言した.全中東に安全と安定とをもたらす民とは,世界を,特に自国の覇権を祝福する国民,すなわち,グレイト・ブリテン(大英帝国)であった.」

しかし,OxfordのElizabeth Monroeによれば,イギリスの支配と栄光は,勝利のほんの「一瞬」でしかなかったのです.崇高な「白人の責務」を継承したアメリカが,イギリスと同じように,憎悪されるしかないことを,かつての大英帝国詩人キップリングなら確信するでしょう.


FT April 20 2003

Behind the bad loans

By David Pilling

(コメント) 多分,少し混乱した論説です.日本はなぜ成長しないのか? 不良債権があるからだ.しかし,銀行の不良債権は企業の債務である.なぜ,あれほど優秀であった日本企業が,これほど債務を累積して返済できないのか? 不良債権問題よりも,企業の整理・再生問題を見るべきだ,という問題提起で始まります.

まず,日本企業は実際に優秀ではないのだ,という話.日本企業とは,輸出できるような優れた企業が一部しかなく,他は多くの非効率な零細企業である.この,いわゆる「二重経済」が,バブルの時期を経て,むしろ拡大した.すなわち,日本経済の優秀さは根本的にバブルによって失われてきた,というのです.

ここで論旨はひねりを加え,日本企業の返済能力を損なっているのは,その収益の低さとともに,やはりバランス・シートであり,それを悪化させてきたバブルであった,というマクロ経済に転換します.こうして,いわば零細企業は整理し,バランス・シートの修復に十分な利益を出せない企業も解体して,企業の再編・整理が必要である.このことに経営者自身が気付き始めた,と示唆します.

政府は,企業の整理を促す法律を作り,企業再生に資金を出す機関を設置する,という混乱した信号を出しています.しかし,後は日銀がデフレを解消できれば,日本経済の回復は準備完了?という,逆説的に少し明るい結びです.


FT April 20 2003

Give Iraq's oil to its people

By Michael Prowse

「石油はイラク国民のために」.それはパウエル国務長官も繰り返し述べてきた.では,どうやって?

石油の株式を国民に配るべきだ.当面,イラク国民が必要としている食糧や医薬品を配るためだけでなく,将来の民主的制度と経済的繁栄を保証するような形で,石油の富を分配しなければならない.すでに,ILOのGuy Standingは,すべてのイラク国民に最低所得を保証して,ソ連解体後の幼児死亡率の上昇を避ける必要がある,と主張した.石油の富の分配によって,民主的な制度への参加も促せる.

石油の管理と販売から利益を得られるなら,国民はそれが慎重に行われ,利益を出すことを望む.政治的な対立でこの利益を損なうような政治家は嫌うだろう.あるいは,すべての女性が男性と同じように株式からの所得を得られるとしたら,男性や家族の支配下に置かれてきた女性たちの政治的発言と社会参加を助け,民主化を加速することになる.

サッチャーが行ったような北海油田の民営化は,イラクで好ましくない.イラク国民は余りに貧しく,市場で株式を購入する力が無い.また,配られた株式が売買されることも禁じるべきだ.なぜなら,株式保有の集中や国外流出が起こるから.さらに,イラク復興には莫大なインフラ投資が必要であり,それが将来は税金によって支払われる.その際,この株式が使われるはずだ.株式の価値が高ければ,その分減税になる.そして,現在のインフラ投資が効率的でなければ,株価も下落し,返済負担が増す.将来の政治家たちが,国民の税負担を互いに真剣にチェックする.


NYT April 20, 2003

The Third Bubble

By THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) これは3番目のバブル崩壊であった,とFRIEDMANは言います.株価が暴落し,アメリカの企業倫理が崩壊し,そしてテロリズムの神話が壊滅されたのです.

FRIEDMANによれば,テロリズムによって世界が変わることなどないのです.アルカイダはソ連ではなく,フセインはスターリンでは無いのです.アメリカとイギリスは余りに多くのことを唱えましたが,実際には,このバブルを破壊するための行動でした.いまや,テロリズムのバブルがもたらした世界の壊滅幻想を振り払うべきです.各国は安全保障を理由とした閉鎖体制を解き,国際機関における協調を回復する必要があるでしょう.アラブ諸国は自分たちにできることが何かを考えることです.

アメリカを含めた過剰な反応と臨戦体制を解くのは,FRIEDMANの言うとおりです.しかし,これは一面の真理でしか無いように思います.テロリズムの深層と破壊力はやはり重大であり,アメリカの国際戦略における転換は容易に修正されないと思います.だからこそ,このような論説を書いたのか?


New Canaan, Connecticut, April 20 (Bloomberg)

Japan's Latest Gift to Its Zombie Companies

By David DeRosa

(コメント) 産業再生機構に,アメリカの批評家が楽しいコメントを書くとは思えません.7兆3000億円(約600億ドル)の不良債権を買って,企業を再生する「閻魔大王」なのか? あるいは自分でそう呼びたがっている「仏さま」なのか? DeRosaは,これがマレーシアの制度と同じ類いの救済策であり,今後どれほど税金で損失を補うのか,分からない,と匙を投げます.

DeRosaが問題にするのは,市場以外に価格は無い,という点です.その企業や資産がどの価格で売られるかは,市場が決めるしか無いのです.それ以外で取引される場合,必ず政治的な分配問題が起こります.それと同時にDeRosaは,日本の企業が国際競争で敗北したことを「政府の投資銀行」が買い取ることで糊塗するもの,と見ているでしょう.

香港でも,マレーシアでも,政府は最後に自国産業を守りました.市場のメカニズムに対して忠実であることだけが正しいわけではありません.しかし,日本政府には他にも多くの手段があったはずです.そのような市場における調整手段を頓挫させてきた政治的駆け引きに,失敗の原因はあると思います.


FT April 22 2003

A shared responsibility for trade

By Martin Wolf

(コメント) アメリカが多角主義の価値を認めている明白な分野は,貿易自由化,です.Wolfは,アメリカの指導する国際体制は,イギリスの時代と似ているけれど,国際貿易においては,イギリスと違って明確な国際法もしくは多角主義の立場に守ってきた,と指摘します.

その理由は,アメリカが1930年にスムート=ホーリー関税法を成立させたことによって,第二次世界大戦に至る貿易戦争と国際秩序の崩壊を決定的にした,という歴史を知っているからです.多角主義は成長を促す点で成功したばかりでなく,戦争を起こさない点でも重要であった,と考えられています.繁栄をもたらすのは軍事力ではなく,生産性と平和な貿易である,という合意が存在したのです.

いまや一方主義を明確にしたブッシュ政権で,ゼーリックはその立場を併用しています.アメリカは,多角主義を追及するが,必要なら一方主義も自由化のために利用する,というわけです.しかし,9・11以後,アメリカ国内では右派のあからさまな保護主義や左派の国内産業優先が明白になっています.アメリカが一方主義を貿易政策に取り入れたことで,世界中にPTA(二国間の優遇的貿易取決め)が急増しています.この事態を,たとえばBhagwatiは,優遇取決めの「スパゲッティ−・ボール」が膨れ上がる,と批判しています.多角的自由化こそ,貿易自由化の唯一の正しい道なのです.

多角主義の将来は,アメリカとEUが貿易の自由化をどこまで支持できるか,に大きく懸かっています.


FT April 22 2003

A case for inflation transparency

By Kenneth Rogoff

(コメント) IMFのRogoffは,日銀も含めて,世界の主要中央銀行がなぜ長期のインフレ目標を明示しないのか? と問います.それを採用することにより,長期金利が予想しやすくなって投資が増えるだろう,という良い点以外,何か悪いことがあるのか? と.特に,日本の長期金利が1%を切っているのは,人々がデフレの不安から逃れられないからであり,長期のインフレ率がプラスであることを示せば,人々を正しい判断に導けるだろう.そもそも,中央銀行がインフレ目標を示すことはその説明原理を明確にし,世界の金融政策を安定させる,というわけです.

反対する理由は,どのような将来の不確実性によっても,自国に必要な金利の変更を行う自由を制約されたくない,というものです.あるいは,他国が間違ったインフレ目標を掲げた結果,市場を通じて不公平な影響を受けるかもしれません.

しかし,Rogoffが強調する「破壊的な曖昧さ」を解消するのは,本当に,インフレ目標なのでしょうか? 私にはそう思えません.数値を掲げたら,魔法のように政治家の介入が排除され,市場の信頼も高まるだろう,などと信じるのは,なぜでしょうか? 特に,既にそれが政治的な干渉であることが明白となっている日本で.


FT April 22 2003

A Korean peace may hurt more than an Iraqi war

By John Edwards

アメリカは北朝鮮の武装解除と体制転換を求め,北朝鮮は食糧とエネルギー,国家の威信を求めているが,それらを得るには核兵器で脅迫するしかない,と信じている.この交渉が困難で,非常に危険であるのは,イラクと違って北朝鮮は,複雑で強大な金融市場を備えた先進的工業経済に接しているからだ.北朝鮮は,繁栄する北東アジア経済を人質にとっている.

確かにアメリカには北朝鮮へ軍隊を送る理由は無い.北朝鮮は地域の支配を拡大しようとしていないし,石油のような戦略的資源も持たない.それは全く世界政治から孤立しており,アメリカも単独行動ではなく多国間の交渉を望んでいる.しかし,暴発の危険があるだけでアジアにとって危機を誘発させる.1997-98年の金融危機が示したように,この地域では金融危機が波及しやすい.北朝鮮の発言で,韓国の経済パフォーマンスが大幅に悪化した.

もちろん,金融危機以後の各国における改善は顕著であった.しかし,他方で,新しい脆弱性も増している.韓国とタイでは内需主導で景気を維持しているが,家計の債務が累積し,不動産ブームが長引いている.もし資本逃避や金融市場の不安が高めれば,金利が急騰するだろう.先の金融危機を免れたシンガポールと台湾も,今はアメリカ,ヨーロッパ,日本の不況によって,ハイテク製品の輸出不振に苦しんでいる.

アメリカは軍事侵攻を考えないだろうが,核施設への空爆は検討しているだろう.爆撃機の朝鮮半島近辺への結集が,米朝どちらかの言動で煽られれば,金融市場は極度に緊張する.発達した金融市場の近隣で行われる,史上初の核兵器に関する世界危機を,我々は経験しつつある.北朝鮮をめぐる利害や戦略は複雑で,こうした交渉における脅迫と反駁に,金融市場の適当な変化を予測することは難しい.市場では,買うか,そのまま持つか,売るしかないのだ.


The Guardian, Tuesday April 22, 2003

The bottom dollar

George Monbiot

(コメント) アメリカの支配に対抗するには,ドルを捨ててユーロを使うことだ,とMonbiotは言います.アメリカの軍事力に対抗することはできないが,その経済は外国からの資本流入に依存している.貿易取引がドル建で行われていることで,アメリカは赤字のまま生活水準を切り詰める必要も無い.しかし,もし石油がユーロによって取引されればどうなるか? アメリカ・ドルは価値を下げるだろう.そして国際通貨として中央銀行の準備に占める割合も大幅に低下するはずだ.そのために北海油田を持つイギリスがユーロに加盟するなら,それが,アメリカの一方的な外交姿勢と軍事的な優位の拡大を阻止するはずだ,と.


NYT April 22, 2003

Jobs, Jobs, Jobs

By PAUL KRUGMAN

ブッシュ大統領の140万人雇用創出計画を知っていたか? 140万人の雇用をもたらす? そんな数字の根拠は,マッカーシーが国務省に54人の共産主義者が居る,と言ったのと同じくらい,何の根拠も無い.でもまあ,ブッシュ政権が本当に7260億ドルの減税で140万人を雇用するつもりだ,と考えてみよう.その一人当たりの費用はいくらか?

費用と言うのは予算額のことだが,この減税のために犠牲にされた,雇用をもたらす他の政策も含めておこう.そうすれば,ブッシュ氏の計画が,実際は雇用破壊計画である,と分かるだろう.

平均的なアメリカの労働者は,年間僅か4万ドルしか収入を得ていない.では,なぜ政府は,その予測によっても,雇用一人当たりに50万ドルも必要なのか? 雇用だけが問題なら,なぜ政府はもっと安く人々を雇用してやらないのか? フランクリン・ルーズベルトの就業促進局(WPA)がやったように?

答えは,現代はWPAのようなものは無いからだ.なぜなら,・・・ そうだなあ・・・ そう,減税は長期的な成長を維持するために不可欠なのだ.そうに違いない.予算局の研究でも,ブッシュ計画は長期の成長にプラスでもマイナスでもなく,・・・ 待てよ.こんな報告は要らない.すぐに,他の専門家を見つけろ!

むしろ,アメリカは事実上,WPAと逆の事をしている.国民全体に,教育や医療,インフラなど,必要なことを1000億ドル以上も削っている.州政府の財政危機がもたらす,こうした支出削減は,ブッシュ減税のいかなるプラス効果よりも,多くの雇用を破壊するだろう.

こうした冷酷な支出削減と,それが生活の質を悪化させる効果とは別に,これらが国民経済全体の重石となるだろう.もし本当に政府が雇用を心配するなら,緊急予算は州政府への財政支援が含まれるべきだ.それは基礎的なサービスの継続だけで良い.イラク戦争に充てられたのと同じ,780億ドルを出してはどうか? だが妥協策なんて不要だろう.富裕層への長期的な減税を最大にするなら,ますます経済を刺激しないが,減税は徐々に増やすことにしよう.

さて,こうして政策の結果を良く見れば,政府の減税崇拝が予算をメチャクチャにするだけでなく,間接的には,悪化する経済への刺激とならず,雇用を破壊することが分かる.庶民の暮らしを助けるためには,政府は何もしない,という確固たる姿勢が良く分かる.


LAT April 23, 2003

Will SARS Be the Chinese Chernobyl?

By James M. Goldgeier

中国のSARSは,ソ連にとってのチェルノブイリ事故になるだろう.

ソビエト連邦には多くの問題があった.経済は停滞し,情報公開で批判が高まり,共産党は正当性を失っていた.しかし,ソビエト政府にとって崩壊が加速し始めた事件とは,1986年4月のチェルノブイリ原発事故であった.当初,政府は何が起きたかを秘密にしていたが,放射能汚染はソ連の領土を越えて広がり,ヨーロッパの諸政府が騒ぎ出した.

既にゴルバチョフによる情報公開と改革が進められていたソ連では,特にウクライナで市民たちが真実を求めた.ゴルバチョフは,事故の責任追及を,保守派の政治的な追放に利用した.そして政府は,ますます事態の統制力を失っていく.

チェルノブイリ事故だけではソビエト連邦は崩壊しなかった.しかし,事故に対する政府の混乱した対応,さまざまな真実を求める声が国民に引き起こした不満の沸騰は,体制を破綻させた.SARSは中国政府に同じようなことを引き起こしつつある.

国際的な感染の拡大と,中国が近代化に失敗しているという印象を,近隣諸国や経済的取引相手が持った.すでに責任者の追放が始まっているが,新政策を実行するよりも,共産党内の暗闘に火がつくかもしれない.

何よりも重要なのは,政府により大きな情報公開を求める声が強まることだ.チェルノブイリの効果は,国民が政府を批判する声を上げることで強まった.それはソビエト政府が進めた政治経済改革の結果であった.真実を独占するいかなる体制も,国民の健康や福祉に対して間違った態度をとれば,弱められるだろう.

これまで中国政府は,経済の近代化と社会的自由を同時に実現しようとしたゴルバチョフの方針を拒んできた.経済改革は情報公開の要求を抑えやすく,共産党の権力を損なわないからだ.しかし,健康な生活を維持できないようであれば,市民の間に政府への不満が高まる.

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The Economist, April 12th 2003

The tipping point

The Iraqi opposition: Waiting in the wings

Managing transitions: The lessons of experience

Oil in Iraq: The people’s oil

(コメント) 急速に変化する情勢を思えば,1ヶ月前の記事が指摘する論点が化石のように感じられます.それは,意味がないのではなく,現在から見て重要な側面を教えてくれるのです.

アメリカ政府が待ち望んだ市民たちが漸く現れて,バクダッドのフセイン像は引き倒されました.しかし,それはベルリンの壁とは違っていた,と記事は伝えます.街中の人ではなく,もっと少ない群集でした.それでも世界中に中継され,アラブ世界を震撼させました.イメージ戦争が終わったのです.少なくとも,フセインと情報相は退場し,次の舞台まで幕間に入りました.

子供たちに未来をありがとう,と米英軍に感謝する人が居ます.しかし,感謝は複雑な色を帯びています.彼らは我々の国を破壊した,と.そして,武装した集団が徘徊し,市民たちは無秩序を恐れます.自分たちの政府はどこへ行ったのか? 一人の女性が救急車の後部から泣き叫びます.10歳にもならない,彼女の3人の子供たちが死体となりました.

フセインの銅像が倒れても,多くの市民は静かでした.少女は記者に,ブッシュとブレアとストローに向けた短いメッセージを伝えました.「あなたたちは,イラク人民を解放に来てくれた.自由な選挙で私たちが政府を作ったら,そのとき,あなたたちは去らねばならない.」

民主国家の担い手はどこにいるのか? バース党の支配は終わったけれど,アメリカの動機は疑われます.占領体制にはイラク人の代表を参加させたい,と米英軍が探しています.イラクのカルザイはどこにいるか? クルド人の指導者たちは尊敬されていますが,人種問題を持ち込みたくない.イラン・イラク戦争の英雄は,残念ながら高齢です.そんな事態の紛糾を抑えようと,ガーナーがポトマック河畔から乗り込みます.

国際機関は,すでに多くの政府再建を手がけました.かつて世界中にあった委任統治領は,国際連盟によって「先進諸国」に信託されたのです.その後,戦争に敗北したドイツと日本は,より徹底した戦勝国による占領と制度改革を経験しました.イラクはこのケースに近いでしょう.

脱植民地化は,世界から信託統治という形式を消滅させたはずでした.しかし近年,それは復活しています.限定的な「平和維持」から「平和再建」に,国際社会の関心が拡大されています.同時に,その複雑さも指摘されています.明確な軍事的な優位をバックに持ち,その委託された政治的目標を常に明確に示し,選挙が望ましい結果(各代表たちによるバランスの取れた民主的政府)をもたらすような条件が整ったことを判断しなければなりません.それは難しい仕事です.選挙は急ぐべきではない.しかし,占領が長すぎてはいけない.

ところで,今,イラクの石油は誰のものか? アメリカ軍? 国連? あるいはイラクの国営石油会社? いっそ,イラクの石油を一気に民営化知ったほうが良い,という意見もあります.それに対して,ロシアの石油会社は神経を尖らせます.とは言え,既に米英両政府は明確に宣言しています.「石油の富はイラク国民の利益にだけ使用できる」,と.

問題は,それをどうやって管理すればイラク国民に最も望ましいのか? です.投資がなされなければ,石油は十分に利用できません.誰が経営者になるのか? 新しい政府との関係はどうなるのか? 新政府が資本市場を使って民間資本を導入するのか? あるいは,採掘権をオークションにかける? 最高の値をつけた石油会社が採掘します.それは国内の企業に限るのか? そもそもそれは合法か? ロシアや中国が契約した採掘権はどうなるか? ロシアの民営化は失敗でしたが,ノルウェイやアラスカの油田は国民の資産となりました.


Economics focus: Epidemics and economics

(コメント) SARS,AIDS,中世の黒死病.伝染病で人口が失われれば,その経済的な影響は破滅的でしょう.しかし,長期的な影響に関して,経済学者の意見は驚くべきものです.

もし耕地や資本に比べて人口が過剰であれば,労働力が失われる損失は,人口圧力が取り除かれて労働生産性が改善される利益によって相殺されます.他方,病気によるある世代の人口減少は,世代間の知識や情報の伝達を断ち,子供たちの将来の生産性を落とします.そうした効果を考慮しても,病気の拡大は長期的に顕著な損失をもたらさなかった,と.