IPEの果樹園2003
今週のReview
4/21-4/26
*****************************
今回も,Reviewの多くは戦争です.暖かい春の陽気に,花見を楽しむには人ごみが面倒だし,時間も無いな,と悲観するような私が,爆撃による阿鼻叫喚や焦土の臭いを実感するのは,実際,困難です.
夜間外出禁止令のソウルや,崩壊する前の東ベルリン,あるいは崩壊後のモスクワ,中央アジアの雰囲気は,決して戦争の恐怖に似ていません.爆弾が降ってくる.瓦礫に押し潰される.水や食糧を奪い合う.暴徒の略奪やリンチに遭う.疫病に苦しむ.こうした戦争の恐怖の方が,軍隊が対峙して支配地域を争うよりも,人々に大きな影響を及ぼすでしょう.
ヒトは,戦争をするし,赤ん坊も殺す.ヒトでも食べる.しかも,それは狂気ではなく,「食人文化」として.生態人類学者のマーヴィン・ハリスは,戦争と女児殺しはともに,人口圧力に対する社会の自己維持システムである,と考えました(『ヒトはなぜヒトを食べたか』早川文庫).もしそうであれば,避妊技術の発達や環境保護意識の高まりによって,社会システムとしての戦争は時代遅れになるはずです.ただし,人々が無限に豊かになれると信じて資源制約を強め,戦争をふくめた人口抑制の手段に頼る,ということが無くなり,恐怖を社会の自己維持システムの一部から取り除くことができれば.
初期の部族間戦争ではなく,国際システムが理由となる近代の国家間戦争は,たとえば二度の世界大戦がそうであったように,平和的な国際交渉が途絶え,国際債務の相互依存関係が破綻するとき,起きます.戦争と債務はしばしば循環し,以前の債務が戦後にどのような形で継承され,処理されるのか,その条件が,領土や資源の支配とともに,国際秩序(と次の戦争)の出発点となったのです.
もし可能であれば,たとえ一時的にでも,世界の資源と債務を集中的に国際管理した方が,戦後の復興や生活の改善に役立ったでしょう.実際,イラクの戦後復興には,こうしたモデルが一つの基準となります.しかし今度もまた,強者が資源や債務を私的に占拠,所有して,市場が処理すると思います.市場における「集団的な」意志は,民主主義の意志決定と基本的に矛盾し,軍備がそうであるように,資源や資産も,その私的所有権(民営化?)を通じて,構造化された不平等を再生します.
次の戦争,もしくは「解放」は,中東ではなく朝鮮半島で起こるのでしょうか? 以前と違って,アメリカと中国の間には多くの取引材料があります.それゆえ,三者会談の結果を予想することはますます難しくなります.条件次第では,強硬策が合意されることもある,と思います.もちろん,平和的な封じ込めや,漸進的な体制転換が摸索されるでしょう.実際,北朝鮮に資源や債務は無いに等しいのです.孤立国家として,軍備を除けば,その重要性は無視できるでしょう.しかし,もし確かな軍事情報(核兵器やミサイルの位置)を得て,3週間で戦闘は終わると思うなら,中東の民主化より朝鮮半島の「解放」の方が,ブッシュ氏の次の選挙運動にふさわしい材料です.
イラク戦争について,独仏がロシアと同盟してアメリカに反対したように,北朝鮮に関しては,日韓が中国と同盟を結ぶかもしれません(オーウェル!).あるいは,SARSの影響で通貨や景気に不安が広まっていることも問題解決に影響するでしょう.ペンタゴンの強硬派が中国をしきりに説得しているかもしれません.香港の政治や経済の不安定化から関心をそらせ,中国国内の過剰在庫を解消し,アメリカとの協調を演出できる.そして何より,米中共同覇権体制を担って,アジアの問題は中国に任せよう ・・・と? もちろん,これは空想です.
石油がいよいよ枯渇すれば,しばらくは戦争が増えるかもしれません.戦争とともに,人類は何千年かを過ごしました.しかし漸く,私たちは人口圧力を減らして,肉食や都市を抑制し,再び,分散した小集団の遊牧民となって,平和な暮らしを発見するでしょう.そして焦土の向こうに,規範やルールをゆるやかに共有した文化が始まるのです.もちろん,空想ではなく.
*****************************
ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg, FEER:Far Eastern Economic Review, CD:China Daily, BG:Boston Globe
WP Tuesday, April 8, 2003
Messy Democracy
By Thomas Carothers
ブッシュ大統領とその顧問たちは,イラクに民主主義を求めている.しかも,その政府が西側寄りで,アメリカの政治・安全保障・経済に関わる利益を反映することも.この二つの目標が当面は矛盾するとしたら,どうするのか?
例えば,対イスラエル政策だ.新しいイラク政府がイスラエルを承認するのが好ましい,と国務次官補は述べたが,イラク民衆の多数が,そのような政策を支持するか?
もし民主的な政府がアメリカ政府の政策に反対するなら,非民主的な迎合的政府をワシントンは望むだろう.だが,そのような政策が中東で何をもたらしたか? 9・11は友好的なアラブ・エリートを支援することが長期的なアメリカの安全保障を損なうことを示したのではないか?
中東に限らず,世界中で,ブッシュ大統領の民主主義支持は,所詮,勝手なレトリックでしかない,と疑われている.過去において,アメリカは偏狭な国益を追及する際にも民主主義を口実にした.もしアメリカ政府が子飼いの現地政府にしか関心が無いなら,戦争の正当性は得られず,中東の民主化もばかげたことになる.
数ヶ月で政府を入れ替えるには,国防総省の言うようにアメリカ寄りの亡命イラク人を立てるか,あるいは国務省の言うように,国連の下に包括的な暫定政府の組織化を目指すか,選択しなければならない.後者を選べば,時間がかかり,混乱が予想される.けれどもイラク内で正当性を高め,真の多元的民主主義と参加を実現する基礎になるだろう.
その場合,ボスニア,カンボジア,アンゴラ,インドネシア,エル・サルバドル,アルバニア,その他の経験が重要な教訓を示している.
1. 民主主義は,外部の権力が押し付けた人物によって生み出せない.それは新しい政治仮定と制度を創り出す.その中で,交渉と妥協が行われ,主要な国内勢力の合意が形成される.外から押し付けた制度は,占領が終われば維持できない.
2. その国の政治エリート達をきれいに民主派と反民主派に分割し,後者を政治から排除することは間違いである.
3. 新しい憲法を押し付けてはならない.新しい憲法に至る政治的な交渉と合意形成が重要なのである.草案を押し付けずに,交渉を促すべきである.
4. 選挙を焦ってはいけない.民族・宗教対立に支配され,民主主義の経験が無い地域で選挙を急ぐと,勝者がすべてを独占すると思い込むから,政治対立が激化する.むしろ占領統治に時間をかけ,主要なグループが互いに共同し,妥協するような多元主義を育成して,参加と開放性を促す制度が必要だ.
5. 民主的な移行は混乱した過程である.それは後退や欠陥を多く含む.しかし,再び独裁的な体制に戻るよりも良い.
アメリカが真にイラクを支援するなら,決断と繊細さ,そして権力を保持することが重要だ.そして,アメリカ政府に従うか,イラク民衆の望みをかなえるか,という難しい選択に直面した際には,まず大きく息を吸って,ブッシュ政権が自ら立てた民主主義の高い基準に照らして,その姿勢を示すべきである.
NYT April 12, 2003
Aftermath: The Bush Doctrine
(コメント) NYTは,戦争が早期に勝利できたことは歓迎しつつも,ブッシュ・ドクトリンの行く末を案じています.この戦争に勝利したことで,先制攻撃が正当化されるわけではない,と.特に,アメリカが好戦的な軍事大国となって,バクダッド,ダマスカス,テヘラン,ピョンヤン,へと戦火を拡大することを正当化するものでは断じてない,と主張します.アメリカが正しい価値を掲げて世界を改善するという姿勢は,これまでの歴史でもありました.しかし,ブッシュ・ドクトリンはそれを一国だけでも行う,と主張します.しかし,国際体制の内部で,同じ目的を追求するべきだった,とNYTは批判します.世界中で独裁者の銅像を引き倒せるとしても,その土地に平和と繁栄をもたらせるとは限りません.
NYT April 13, 2003
Oil's Pressure Points
By NEELA BANERJEE
(コメント) 世界は石油資源に依存しています.そして,イラクに限らず,石油の供給は政治的な不安定さに左右されます.それが重要であるのは,石油会社がその金融的な負担を嫌って,できるだけ備蓄を減らしてしまうからです.また,世界の主要な需要者であるアメリカと中国が,今後も旺盛な消費を続けるからです.IEAは,2030年に中国の石油輸入が現在のアメリカの水準を超える,と予測します.世界は,ますます破綻した国家の支配する油田と関係を深めるしかありません.たとえば,戦争して占拠するのです.
ブッシュ政権は,石油の供給地域を中東から分散し,新しい供給先を求めています.たとえばニジェール川の流域.あるいは,ヴェネズエラ.しかし,ナイジェリアの選挙は人種暴動に転化し,ヴェネズエラではチャヴェス大統領の支配が揺らいで,アメリカの石油輸入を混乱させました.アラスカの石油も,アメリカの国内政治に翻弄されています.結局,世界は石油の供給を管理する唯一の国,中央銀行としてのサウジ・アラビアに,今も大きく依存しています.
この記事は,それでも新しい供給の開拓はロシアなどで成功しており,特に技術進歩によって,カナダのオイル・サンドやより深い海域の油田も開発できる,と希望を記して終わっています.もちろん,もっと画期的な技術革新があれば,たとえばThe Economist が紹介したようなバイオ・テクノロジーでエネルギーを再生できれば(?) 全く違います.
The Guardian, Saturday April 12, 2003
Are tyrants shocked, awed or stocking up on nukes?
Jonathan Freedland
(コメント) イラク戦争の意味は,三つの側面から理解できます.すなわち,@デモンストレーション効果,A北朝鮮オプション,Bネオ・コンの魂,です.
ブッシュ政権はイラク戦争により,フセインに対してだけでなく,世界中の独裁者に対して,圧倒的な軍事力の行使を示しました.国連査察を無視し,安保理を無視することも,いわばアメリカの政治ショーです.アメリカがやると言ったら,それは言葉ではなく,実際に一国でも軍事力を行使することだ,と示しました.
他方で,北朝鮮の指導者は,人気のテレビ・ショッピングに登場するでしょう.「ハ〜イ! 僕は金正日.北朝鮮の独裁者だよ.友達のサダム・フセインは核兵器を持っていなかったから,ひどい目にあったね.でも僕は大丈夫.もう核兵器を持っている.アメリカは退散したさ.もし君たちも「悪漢国(a rogue state)」なら,今すぐ,お電話してね.核武装しようよ.そしたらアメリカは手を出せない.僕が保証するよ.」
絶大な軍事力を中東に展開した今こそ,ネオ・コンの魂は中東の大改造を求めているでしょう.イランは周囲をアメリカの軍隊に囲まれて,北朝鮮の電話ショッピングに一番興味を示したはずです.しかし,問題はイラク内部に二つの国が存在し,改革派を支援する方がアメリカにとって得策かもしれない,ということです.他方,シリアもアメリカの要求に譲歩して軍隊をレバノンから引き揚げたりしましたが,北朝鮮のように核武装するのは困難です.ネオ・コンの魂が命じるなら,戦争が始まるかもしれません.
LAT April 13, 2003
A Democratic Iraq? No
By Shlomo Avineri
フセイン後のイラクが民主的な社会である,と思うのは,とんでもない幻想だ.
東欧の経験が示したように,民主主義とは選挙をすればできるわけではない.まず,民主的な文化が,あるいは市民社会と呼ばれているものが無ければならない.それはたとえば,自発的な組織,集団からの逸脱や多文化主義への寛容さ,個人の尊厳に対する共有された信念,経済活動の自律性,宗教的権威と政治的権力との分離,異教徒の権利,である.こうした価値や規範,制度は,容易に輸出できない.西側社会が何世紀にも渡って,多くの過ちを経ながら,発達させてきたものだ.
民主主義を確立できた国には,共産主義下でも市民社会が存在したし,それが無かった国では,自由で,開放された,民主的社会への移行は,良くてもイバラの道だった.ロシアはその典型だ.エリティンの混乱を収拾したプーチンが達成したのは,「親愛な」権威主義体制である.
中東のアラブ世界が示す支配的な政治文化は,イラクの民主主義を悲観させる.さまざまな国があるにもかかわらず,民主的な国や民主化を目指す国は無い.それはイスラム教と関係ない.トルコやインドネシア,パキスタンは,イスラム教国でも,政治的な前進を示した.それゆえ,残忍な独裁体制から,アメリカの軍事力で解放され,占領されたイラクは,民主化を目指す最初の国になる.1990年代に,イスラエルが占領することで,パレスチナを民主化する希望が語られた.しかし,実際には自爆テロの政治が広範に受け入れられただけだった.
確かに,イラクには多数の中産階級が存在する.しかし,ナチス・ドイツを支持したのは,ヨーロッパでもっとも教育の高い中産階級であった.独裁体制下でも反対派が見当たらず,フセイン以前に民主主義の伝統も無く,亡命者の組織に印象的な民主的指導者もいない.
最後に,イラクの人口動態が民主主義に抵抗する.オスマン帝国からイギリス帝国の支配において,イラクはさまざまな民族や宗派のパッチワークであった.もし民主主義が,スンニー派から多数派のシーア派やクルド人に権力が移行することを意味するなら,それはシーア派の隣国イランに似た原理主義国家に向かうだろう.さらに,突然の権力移行は,アルジェリアのように,原理派と世俗派との武力抗争に発展する危険がある.
イラクの民族や宗派を「連邦制」で調和させることはできるか? 連邦制が機能するのは,アメリカやカナダ,スイスのように,民主的価値が浸透した国だけである.連邦制が民族対立や宗教戦争を解決する答えにはならない.
では,どうすれば良いのか? イラク復興・人道支援局は,その目標を現実的に可能な水準に抑えている.人道的支援やインフラ整備,石油施設の近代化,などは緊急の課題である.他方で,戦後のドイツや日本の占領をモデルにするのは間違っている.長期の軍事的占領や,冷戦の圧力無しには,それらは成功しなかった.
より現実的なモデルは? 穏健な権威主義体制で安定したエジプトか,穏健ではないが現実的な権威主義国家のシリアであろう.それは失望させる目標である.ユートピアの理想は,その反動をもたらす点で危険である.
NYT April 13, 2003
A Walk on the Supply Side of a New Iraq
By EDMUND L. ANDREWS
ブッシュ政権は,予算案をサプライ・サイドの経済学で擁護したのと同様に,イラク再建も低コストで見積もる.イラクには石油があり,アフガニスタンと違って人口は都市化され,インフラが発達し,国連の制裁を解除すれば経済が急速に回復するはずだ.対外債務も関係諸国が免除して,信頼できる金融システムを早急に取り入れるだけで良い.
しかし,彼らはマイナス面を無視している.クウェート侵攻に対する補償金1720億ドルをイラクはまだ支払っていないし,フセインは他にも多くの債務を残した.国連の「食糧交換計画」では,石油輸出収入の28%を債務の返済に充てていたが,それは年間40億ドル,年収2500ドルの国民一人当り166ドルに相当する.
アメリカは第二次大戦後のドイツ復興をモデルにしたいようだが,むしろイラクは,1991年に共産主義体制が崩壊した後のロシアに近いだろう.ロシアには,イラク以上に資源があったし,教育あるエリートたちもいた.しかし,全体主義,軍国主義,政治的腐敗の根は深く,経済活動を崩壊させた.1990年代半ばに経済水準の3分の1を失い,1998年には金融システムが瓦解した.労働者の実質賃金は,今や,かつての半分である.
ST APRIL 14, 2003 MON
For better or worse, wars remain with us
By VALENTINE ANTHONY
戦争の恐怖が私たちにのしかかる.
ソビエト連邦が崩壊して,冷戦が終わったとき,核戦争の恐怖から免れたかに思えた.しかし,その後も紛争は続いた.戦争は真空で起こらない.現在は193の主権国家からなる国際システムの中で起きる.それらの行動が国際関係に影響する.国際関係における軍事力の行使は,主権国家の手段である.国家は外交交渉もするが,戦争もする.Hedley Bullは戦争を「政治的単位による相互の組織された暴力行使」として定義し,「共通の目標を形成するために行動を是正すること」と述べた.
1480-1941年に278回の戦争が起き,19世紀に210回,20世紀に617回の深刻な地域紛争が起きた.1945年以降も,約70回の戦争が国連憲章を無視して加盟国間で起きた.戦争の多発は国家の数が増えることと関係している.1820年代には23カ国,1990年代には165カ国,そして2003年には193カ国である.
戦争は事実や数値に依拠してではなく,誤算と誤解,野心や尊厳によってもたらされる.二つの世界戦争も,その関係諸国はあのような戦争が起きることを理解していなかった.サラエボの暗殺事件,英の対独宥和政策,マジノ・ライン,V2ロケット.多くの誤認が戦争を拡大し,長期化した.日本が真珠湾を攻撃したように,小国は軍事的に優越する大国に対しても戦争を仕掛ける.なぜなら,互いが譲らないような国益を誤解している.
核兵器やミサイルは抑止力と言われ,毒ガスは大量破壊兵器(WMD)と言われる.アメリカは1万発の核弾頭を保有し,イスラエルは400発,それに比べて北朝鮮は1発,イラクは1つも持っていなかった.南アフリカは国連によって即時に核武装を解除したが,イランやリビアはまだ疑わしい.毒ガスの使用は道徳的に非難されるが,戦争には正しいものも間違ったものも無い.戦争は避けられない.
人類が価値や目標を争う限り,正義であれ不正義であれ,戦争は我々とともにある.トルストイは,「すべての平和が良いとは限らないし,すべての戦争が悪いとは言えない」と書いた.もしお好みなら,こう言い換えても良い.「すべての平和が悪いとは限らないし,すべての戦争が良いとは言えない」.それが私たちだ.
WP Sunday, April 13, 2003
A Chance to Reshape the U.N.
By Anne-Marie Slaughter
(コメント) アメリカを多角主義に復帰させるための的確な論述です.
「今こそブッシュ大統領は国連に戻って,実効力のある,持続的な多角主義の実現に向けた歴史的機会を掴むべきだ.彼はアメリカを世界の支配者ではなく指導者にできるし,アメリカは国連を国際秩序の効果的な保護者に作り直すことのできる良い位置にいる.」
どうやって? 「国連の,人権擁護の側面を,安全保障の側面と,結び付けることによって」です.新しい安保理は,次の三つの条件によって武力行使を認めるわけです.@大量破壊兵器.A人権抑圧.B(テロを含めた?)他国への脅威.
なぜ他国はアメリカの提唱する国連改革に同意するのでしょうか? その理由は,アメリカを含む国際機関が彼らを守ってくれるからであり,アメリカへの衝撃は世界経済への衝撃でもあるからであり,国連だけがすべての国にアメリカの代表との交渉を可能にするフォーラムだからです.反米感情の高まりに対して,アメリカは国連に戻ってこれを改革し,人権と平和を実現する目標を示さねばなりません.
FT April 14 2003
China's banks need a decisive bail-out
By Fred Hu
(コメント) 筆者のHu はa managing director of Goldman Sachs and a senior fellow of the National Centre for Economic Research at Tsinghua University in Beijingです.彼は,中国の漸進主義は金融改革にふさわしくない,と主張します.日本の"muddling through" approachが失敗したことを意識して,中国の新指導部に"big bang"を提言します.
すなわち,すべての不良債権を報告させて明らかにし,それを政府が処理すると約束するのです.救済融資はモラル・ハザードを含みます.しかし,もう救済融資はしない,と脅しても,国営銀行や国営企業を倒産させるはずが無い,という確信を変えることはできません.
ポイントは二つです.一つは,処理しなければならない金融機関を正確に確定し,経営陣の解職を含む厳格な条件を課すことです.もう一つは,これによって政府の公的債務がGDPの100%以上に膨らみますが,中国の高い成長率と貯蓄率,今後の民営化を考慮すれば,資本市場の信頼を損ないはしないだろう,ということです.
どちらも日本にはできなかったことです.中国指導部に政治的な意志があれば,確かにできるかもしれません.
The Guardian, Monday April 14, 2003
Bomb before you buy
Naomi Klein
国連が主導するイラク占領体制では,水と食糧,そして医薬品が供給される.しかし,さらに占領は続く.この空白国家にワシントンの新自由主義が理想の国を再建する.完全民営化,外国人による所有,企業活動も開放する.
ウム・カスルの港や空港の再建が競争入札されて,アメリカ企業が落札した.水道,輸送,電話,学校,道路も,もうすぐ入札される.これは形を変えたイラクの国際的民営化ではないか? もちろん石油も.ブッシュ政権は,大っぴらにイラクの油田をエクソン・モービルやシェルに売却したりしない.元イラク石油相でワシントンに気に入られたチャラビのような連中が,それを行う.「われわれには資金が要る.この国に資金をもたらす唯一の方法は民営化だ」と,チャラビは言う.
この戦争は石油のためではない,と言う者がいる.その通りだ.石油だけではない.水も,道路も,列車も,電話も,医薬品も,港も,「自由なイラク」は何もかも売り払う.
多国籍企業はイラクに殺到する.イラクと違って,世界中で民営化は嫌われている.ブッシュのFTAAはラテン・アメリカ諸国に嫌われ,WTOの知的所有権,農産物,サービス貿易もEUとアメリカの間で紛糾している.それなら成長に取り付かれた超大国はどうすれば良いのか? 先制攻撃で市場を獲得してしまえ? 主権国家同士の交渉がこれほど面倒なら,爆撃して占領し,気に入るように再建しよう.ブッシュは今も自由貿易を掲げている.ただし,新しいドクトリンでは,「買い付ける前に,爆撃を!」
パッテンやブレアが国連の統治に関してあれこれ提唱するのは的外れだ.民主的な政府の無いイラクで,誰が多国籍企業と交渉するのか? 一方的に民営化が行われている中では,アメリカが一方的に統治しても,アメリカ,ヨーロッパ,ロシア,中国が多角的に統治しても,同じではないか? それは賠償でも,再建でも,蘇生でもない.強奪だ.
国民は飢え,病気に苦しみ,戦禍に遭って,なお賠償を強いられる.その挙句,彼らの国は売り尽くされた,と彼らは後で知るだろう.彼らの新しい「自由」は,まだ爆弾が降り注ぐ中で,企業の重役会議室で決められたものだ.それから彼らは新しい指導者に投票する.ようこそ民主主義の世界へ!
NYT April 14, 2003
The Best Defense
By WILLIAM SAFIRE
ST APRIL 15, 2003 TUE
After Iraq: Fear the fear that may rule US foreign policy
By K. KESAVAPANY
LAT April 16, 2003
Victory Aside, the Invasion Was a Bad Idea
By Arianna Huffington
LAT April 16, 2003
A Day of Bullets and Chocolate
By Uwe E. Reinhardt
(コメント) SAFIREは,先制攻撃の効果に満足します.北朝鮮は態度を変え,アジアのミサイル防衛構想も進展します.中国やロシアも,アメリカの主張に寄り添ってきます.韓国との不和も問題なし.攻撃しなくてもシリアは火遊びを止めるし,パリ・ベルリン・モスクワのみみっちい三角同盟は無視されます.攻撃は最大の防御なり.
KESAVAPANYは,イラク戦に対する世界の見方が大きく分裂していることを確認します.そして,アメリカの外交政策がイラク戦の勝利によってどのように変わるのか,世界はそれを怖れている,と結んでいます.
Huffingtonは,反戦運動は正しかった,と主張します.ラムズフェルドらが予想通りの大勝利に満悦し,ほら見ろ,言った通りだろ,と繰り返すのを,反戦運動は許しません.イラクの軍事力がこれほど脆弱であれば,強硬派が戦争の理由として挙げた「イラクの脅威」は嘘だったのです.アラブ民衆がこの戦争を全く違ったものとして観ていることを忘れてはなりません.この侵略行為,市民の死傷者,アラブ系ジャーナリストの死,秩序の崩壊,略奪,殺人,アメリカ企業の進出.しかも,フライシャー報道官はこの戦争を十字軍とみなしました.反戦運動が怖れたように,この戦争はブッシュ政権の残忍性を示し,さらに強める結果となったのです.
Reinhardtは,アメリカ兵が訪れた子供の頃を思い出します.彼は戦線を逃れて難民となり,ボンの近郊で家族と学校の教室に隠れて暮らしていました.アメリカ兵とその戦車が現れた日,殺されると思ったのに,学校に押し入ってきたアメリカ兵は彼らを撃ち殺さず,家に返します.子供たちは戦車を見るために近寄り,兵士からチョコレートやガム,ラッキー・ストライクなどの入った箱をもらいます.彼の母や祖母は,アメリカ兵が何のために来たか,また,彼ら自身の身を守るために発砲することさえ,理解していました.そして,この負けた戦争を続けるように強制する市長をむしろ嫌っていました.
FT April 15 2003
Restructuring, not forgiveness
(コメント) FTは,イラク再建の順序を示します.1.人道援助.2.石油の輸出.3.IMFの条件を満たした通貨の回復.4.寛大な条件での債務の支払再開.こうしてイラクは国際経済秩序に復帰し,経済再建が可能になります.ドイツが降伏したときも,1947年にマーシャル援助が始まり,翌年にドイツ・マルクが導入され,債務の支払は1953年まで合意されませんでした.債務免除を急がず,この順序を守るべきだ,とFTは考えます.
FT April 16 2003
The euro could help Iraq's economic recovery
By Steve Hanke
(コメント) Hankeは,特に安定した通貨の供給を重視します.しかし,どのような計画も,イラクの歴史を踏まえなければなりません.イラクの中央銀行は1947年に設立されましたが,その通貨ディナールは財政の穴埋めに使われて,不安定でした.このような通貨が国際取引に使用されることは無く,外国通貨が用いられました.サダム・フセインは外貨を仲間内で独占し,彼らだけがディナールを3.22ドルと交換できました.他の人々は闇市場で3000ディナール以上支払って1ドルを得ました.
オスマン帝国の領土であったときも,公式の通貨オスマン・ポンドは流通せず,人々はイギリスのポンドを使用しました.それゆえ1932年に独立後は,ポンドによるカレンシー・ボードが導入され,通貨は安定しました.それゆえ,Hankeは,イラクが二つの通貨秩序の選択するべきだ,と言います.一つは,正統的なカレンシー・ボードに復帰することです.もう一つは,ユーロを正式に採用すること,ユーロ化です.ユーロをアメリカやイギリスは採用していないことが,その信用を高めるでしょう.
信用できる,国際的に交換可能な通貨を持つことは,非常に重要です.
BG 4/17/2003
War without the 'hell'
By Ellen Goodman
(コメント) その戦争は,テレビに流血のシーンが写りません.それはアメリカ政府が望んだから? 確かに視聴者の心を傷つけないような配慮は必要です.しかし,リンチ女兵士を救出したり,サダム・フセインの銅像を引き倒したりするシーンは大きく報道されて,傷ついた市民や殺されたイラク軍兵士,虐待されたフセイン政権の幹部,などは写りません.これほど多くの報道記者が戦場にいながら,彼らは軍隊に組み込まれています.戦争は愛国心や国家の威信を高める行為である以上に,毒薬なのです.戦場では,我々自身が彼らと同じ暴力をふるうしかない,と誰もが知っています.それを見えなくした,この報道姿勢は根本的に間違っている,という疑問が残ります.
NYT April 17, 2003
Dictatorships and Disease
ST APRIL 18, 2003 FRI
Nixon and Deng to 'blame' for Sars outbreak
By Janadas Devan
(コメント) 遠くの戦争に匹敵するのは,SARSの恐怖です.そして共通するのは,独裁,です.独裁政治は飢饉の原因になりますが,SARSのような伝染病についても致命的である,とNYTの論説は言います.中国政府は漸くSARSの発生地帯にWHOの調査が入ることを認めました.しかし,今まで中国政府は,SARSの感染者を偽り,大幅に過少に報告していました.その結果,病院や検疫体制は感染が拡大するのを防げず,死者を増やしたのです.同じことはAIDSについてまだ言えます.
他方,STの論説は,SARS感染拡大に最も貢献した人物は,リチャード・ニクソンとケ小平である,と言います.中国が世界に輸出したウィルスと言えば,それ以前は,政治思想だけでした.それに感染する者は一部の知識人でしかなく,発見や隔離は容易でした.ニクソンは12億の人口を世界市場に受け入れたのであり,通貨危機もSARSも,グローバリゼーションが容易に政府の管理や規制には従わないことを示しました.政府の能力を超えたグローバリゼーションは,大きな不幸をもたらしかねません.片側6車線の高速道路には,速度を抑制する工夫が必要であり,特にその入口と出口は慎重でなければなりません.
9・11もSARSも,アジア通貨危機以上にグローバリゼーションを減速させるでしょう.そして,通貨危機でもSARSでも,世界的な調整支援メカニズムがあれば,あれ程大きな危機は起きなかったでしょう.WHOは,中国に強制調査を行う権限を持ちません.
LAT April 18, 2003
Reelection? Father Didn't Know Best
By Robert B. Reich
NYT April 18, 2003
Running for the Exits
By NICHOLAS D. KRISTOF
(コメント) Reichの議論は,少し単純化し過ぎだと思いますが,真実を含んでいます.選挙対策本部長であれば,ブッシュ氏にダマスカスを攻撃せよ,と進言するはずだ,というわけです.その理由は,@中東の大改造計画を実行する.A経済不況から関心をそらせる.Bテロとの戦いに勝利できないことを先送りする.C国民は国連に関心が無い.Dアルカイダとの関係はともかく,ハマスやヒズボラが一杯だ.E民主党は戦争になれば腰抜けだ.Fメディアは戦争が大好き.G反戦派のユダヤ人票はもう離れたが,強硬派の票を集めることができる.
こうして選挙本部長はブッシュに囁きます.「バクダッドを諦めたお父さんはどうなりましたか? 失業したのですよ.ペンタゴンの強硬派は戦争に大賛成ですし,パウエルは軍人だから決定には従います.大丈夫.国家安全保障委員会もやる気ですよ・・・」と.
KRISTOFは,兵士たちの死を無駄にするな,とブッシュに中東地域への関与を求めます.第一次湾岸戦争後に,クウェートの民主化は進むように見えました.しかし,アメリカが関心を失うと,この地域は伝統的な男性支配や部族の分割,宗教的な過激派に埋め尽くされてしまったのです.アメリカの兵士たちは何のために390名も死んだのか? かつてナチス・ドイツを倒し,ベルリンを占拠したアメリカ軍は,50年後に,この国を平和で繁栄した国に変えることで,自分たちは正しかったと認められたい,と考えたのです.湾岸戦争も,アフガニスタン侵攻も,その意味では,まだ終わっていないのです.米英軍もイラク人も,彼らは民主主義のために死んだ,と言います.
******************************
The Economist, April 5th 2003
SARS: After the outbreak
(コメント) まるで趣味の悪いSFホラー映画のように,香港の通りに手術用のマスクで顔を覆った人々が行き交っています.この映像を見た外国投資家が香港を逃げ出すとしても,仕方無いことです.住民の一人は,カミュの『ペスト』を思い出す,と言います.マスクの下には中国政府,特に広州政府への怒りが渦巻いている,と記事は指摘します.彼らは情報を隠し,今も報告は遅れています.
私たちは,口蹄疫や狂牛病に冒されたイギリスの対応と,炭疽菌やテロに冒されたアメリカの対応,SARSに関するアジア諸国の対応を比べます.そして,狂牛病やSARS,AIDS,金融危機,外国人に対する日本人の対応も.
Economics focus: The perils of convergence
(コメント) EUの新規加盟諸国がユーロを自動的に採用する,と考えるECBに対して,ヨーロッパの専門家たちが反対しました.
もしユーロを採用しようと思えば,新加盟国はユーロの参加基準を満たさねばなりません(この参加条件を新しく交渉することは非常に困難です).すると,ユーロの外でERMの為替レート調整を行い,安定した関係を維持しなければなりません.それが,まさに投機の標的になる,と心配されているのです.
ECBは,ユーロ成立と同じように,実質的な経済状態の収斂を重視し,構造調整を行えば,問題ない,と主張します.しかし専門家たちは,むしろ各国の一方的なユーロへの固定化,もしくはユーロ化を行えばよい,と考えます.なぜなら,新加盟国にはユーロ参加に対する資本流入が起きて,中央銀行は金利を下げるしかなく,インフレ抑制に失敗するばかりか,最終的には投機や資本逃避,通貨危機に遭うからです.資本規制を禁じたERM2の失敗を繰り返すな,と彼らは主張します.
急速に成長する小国では,輸出部門の生産性上昇が速く,賃金上昇によって国内部門を苦しめます.為替レートを変更できなければ,インフレが高まり,いずれにしても参加条件を満たせません.むしろ,一方的に適当なレートでユーロに転換すれば良いわけです.小国ならカレンシー・ボードを採用できます.
ユーロ誕生がそうであったように,ユーロの拡大も,市場によるドル化より,整然とした制度化の途を進むかもしれません.