IPEの果樹園2003

今週のReview

4/14-4/19

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アメリカ軍の勝利報告ばかりで,イラク軍の様子は何も分からない「TVの中の戦争」を観る限り,米英軍の作戦は非常に成功しているように思います.民間人やジャーナリストの死傷者が増えているとは言え,フセイン独裁を終わらせるために軍事介入する,という彼らの大義名分は正しかったのであり,今後の国際政治を動かす成果となるでしょう.

フセインは既に初期の爆撃で死亡したのでは? イラク軍は,アメリカと戦争を続けるフリをして,逃走の準備か,条件交渉を進めている? あるいは,アメリカ軍をどこかにおびき寄せられているのではないか? たとえば,生物・化学兵器が仕掛けられた地帯へ?

もちろん,もっと長期の安定化について楽観する者はいません.イラク内部の社会対立が深刻化し,周辺諸国からは軍事的・政治的干渉が強まり,世界中でテロが起きるかもしれません.アメリカの国連軽視と国際世論との溝を埋める作業は,ヨーロッパの政治家も持て余しそうです.石油資源や債務の扱い,戦後復興の主導権,など,民主的な制度や経済活動が住民たちの手に委ねられるまでに,何が起きるのか? すでに,米英軍が都市の略奪行為と無法状態を収拾できないことに非難の声が上がっています.積極的な援助計画を進めるとしたら,日本もこうした問題について判断を迫られます.

TVでは,「この戦争は必要でしたか?」と,記者が街頭で尋ねています.先日,田原総一郎氏が「イラク国民のことを思うなら,フセインを亡命させるべきだった」と書いているのを読みました.しばらく山積みにしたままだった新聞をめくると,実際,「フセイン退陣案」はアラブ連盟で採用されかかったのです(朝日新聞,3月15日).アラブ諸国の仲介や地域協力関係がもっと強ければ,戦争を回避できたでしょう.また,「「反米」地鳴りのごとく」(3月16日)を読んで,イラクの民主化を求めるデモも無いのか? と思いました.ガザ地区の「「人間の盾」ひかれ死亡(米23歳女性)」(3月17日)という記事には,米英軍がパレスチナの和平についても明確な行動を示すべきだった,と思いました.

日経新聞でS・ローチは,この戦争がグローバル化とともに進んだ国際収支の不均衡を動揺させ,主要通貨間で切下げ競争が起きる,と危惧しています(3月22日).また,入江昭氏は,J・ジョルの分析に依拠して,第一次世界大戦との類似性を指摘しました(3月25日).すなわち,@大国間の勢力均衡,A軍備拡張,B内政重視,C経済のグローバル化,D帝国主義(資源・植民地争い),E国民心理(ナショナリズム・愛国心)です.そして,イラク戦争がより広範な世界戦争を誘発しないために,国際世論を組織することを強調します.他方,田中直毅氏は,北朝鮮まで含めて,独裁から市場化への転換,を日本の援助政策に求めます(3月27日).

この時期,日本で関心を集めたのは日銀の福井新総裁でした.その背景はデフレ対策をめぐる論争です.インフレ目標の導入に代表される,さらに踏み込んだ日銀の積極的な刺激策を支持するかどうか? 小峰隆夫○・香西泰×・林敏彦×(3月28日)・西村吉正×(3月21日)・竹森俊平○・岩田規久男◎・賀来景秀×(3月18日)・植田和男×(3月17日)などの意見が,目に止まりました(○:支持,×:不支持).最近では,IMFのK・ロゴフがインフレ目標導入を支持しましたが,日本では自民党の(一部)政治家と純粋?マクロ経済学者を除いて,支持されていないのです.逆に「日銀よ,もう国債買うな」(3月21日),「日銀,最大の買い手:国内の株式」(3月29日)を読めば,市場の麻痺に日銀が手を貸しているように見えます.

日本病の深刻さは,市場も政治も機能しない,という現状を無自覚に受け入れていることです.グローバリゼーションの圧力は国際競争や戦争・テロ・病気として一人一人に近付いています.それゆえ,徹底的に議論するイギリス議会を日本でも実現して欲しいです(朝日新聞,3月14日).しかし住民投票に依拠して大洲市で奮闘する中野寛之市議のような若者が政治のメカニズムを作り変えるためには,まだ何かが必要です(「議会よA」同,3月15日).

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg, FEER:Far Eastern Economic Review, CD:China Daily, BG:Boston Globe


The Guardian, Wednesday April 2, 2003

Jobs for the FDR boys

Paul Foot

(コメント) FDRと言えば,もちろん失業や貧困に気を配ったF・D・ルーズベルト大統領を意味しました.しかし,最近はもう一つのFDRの方が重要です.それは,「ラムズフェルドの友人たち」(the Friends of Donald Rumsfeld)です.たとえば,Jay Montgomery Garner,64歳.1月にラムズフェルドから電話があって,「イラク再建・人道支援委員会」の代表となりました.ジョージ・オーウェルが好みそうな「ニュー・スピーク」です.彼が関わっていた会社L3 Communicationsは,アメリカ特殊部隊と13億ドルの契約を結びました.彼が社長をするSY Technologyはミサイルのシステムを構築し,またチェイニー副大統領が重役を勤めたハリバートン社など,他のFRDのこともよく知っています.

もう一人のより有名なFDR,防衛政策委員会委員長のリチャード・パールは,残念ながら,先週,委員長を辞任した.さまざまな軍事契約と彼が関わったことについて,「政府の戦争遂行に差し障ることを防ぎたい」というのがその理由でした.ラムズフェルドは彼を委員として遺留しました.それでもブッシュ氏は,嬉々として,FDRに支配された軍事予算や退役軍人予算を増額しています.

この連中をどうやったら止めることができるのか? どうしてイギリス人やブレア政権は,こんな連中のいかさまに付き合うようになったのか? とFootは問います.それは,1992年の保守党勝利によって,労働党でブレアが頭角をあらわした時期に遡る,と.そのときブレアは,右派と左派の違いなど無意味だ,と宣言したのです.今やブレアには,最低限の集団的原理と,ブッシュやFDRの利益によって戦争することとの違いが分かっていないのだ,と.


NYT April 2, 2003

Come the Revolution

By THOMAS L. FRIEDMAN

アラビア語の新聞を読めば,アメリカの侵略に関する記事ばかりだ.しかし,書かれていないこともある.アメリカ人は本当に,新しい,自由なイラクを再建するのか? という疑いのこもった期待だ.

アラブ人の多くは,アメリカが革命をもたらす力である,という事実に初めて直面している.なぜなら,アラブでは,アメリカ文化は常に革命的であったが,アメリカの権力(軍事力)は現状維持のために,すなわちアラブの王族や官僚制度を守るために存在したからだ.

冷戦終了後も,アメリカは東欧やラテン・アメリカで民主主義を支援したが,アラブは除外されていた.アメリカは安定した石油供給とイスラエルの安全を願って,引き続き,現状維持と結び付いたアラブ諸政府を支持したのだ.

この第二次湾岸戦争は,異なる人々に,異なる影響をもたらしている.まず,まったくの少数派であったアラブの自由主義者たちは,アメリカがその権力をアラブ世界の革命に向けて使うと信じられなかったが,この戦争に衝撃を受けただろう.そして,まさにアメリカがイラクの民主化に成功することを熱望している.

第二に,声無き多数派が衝撃を受けた.彼らはアメリカの権力の革命的な性質に触れたのだ.しかし,彼らは自分たちの解説だけを聞く.それに拠れば,アメリカは現状を破壊し,アラブの秩序を改善するのではなく,アメリカとイスラエルの望むものへと服従させる,という.この戦争は,新しい植民主義であり,帝国主義だ,と繰り返す.

アラブ民衆がどれほど深くメディアに染められているか,は想像以上である.これを変えられるとしたら,新しいイラクが成功し,その姿を示すことによってだけだろう.しかし,ここに第三の人々がいる.たとえば,エジプトの官僚たちだ.彼らは本能的にアメリカを支持しているが,ブッシュ政権がイラクに革命を持ち込んだことに衝撃を受けている.エジプトの官僚に言わせれば,これは全く狂気の沙汰だ.イラクという国は,分裂した,部族国家であり,強権をもってしか統治できない.

アラブの民衆を振り向かせることはできる.しかし,彼らを微笑ませることは容易ではない,とカイロ大学の教授は言う.イラク民衆は,結局,アメリカ軍に抵抗しなくなるかもしれない.しかし,それで戦争を正当化できるわけではない.そのためには,アメリカ軍がやったことは良いことであった,成功だった,と彼らが思わねばならない.

これは,アメリカ人がアラブ世界の内面に入った,最初の「アラブ・アメリカ戦争」である.権力や文化だけでなく,その理想が問われている.アメリカは何のために戦争をしたのか,が問われる.もし事態が悪化し,その理想を実現できないのであれば,大きなマイナスの衝撃を残すだろう.人々はアメリカの政策を責めるだけでなく,その理想がまやかしであった,と言うだろう.できもしないくせに信念を吹聴した,と.

我々は戦争を始めたが,平和を達成することの方が重要なのだ.


BL 04/03 10:01

Asians Look Beyond Iraq War to North Korea

By William Pesek Jr.

Asian Economies Catch the Flu -- Literally

By William Pesek Jr.

(コメント) ブッシュがイラクでの戦闘に勝利すれば,次は朝鮮半島で戦争が始まる.多くのアジア人はそれを心配しています.北朝鮮はアメリカからの譲歩を引き出すために,さらに強い行動を採るでしょう.その度に,韓国から日本の市場までが悲観やパニックに陥るのです.アジア市場だけは,イラク戦が短期に終結しても,不安から逃れることはできません.

アジア経済を覆うもう一つの不安は,急性肺炎(SARS)です.香港の空港,ホテル,レストランはガラガラです.オフィス街さえSARSを恐れて人が減っています.かつて1997-98年の金融危機も「アジアのインフルエンザ」と呼ばれましたが,今回のSARSは本物の風邪です.しかし,情報開示が遅れ,政府の説明責任や対応のまずさが投資家の信頼を短期間で大きく損なっている点は同じなのです.

「もし香港の指導者たちが住民の健康さえ十分に守れないとしたら,投資家たちは彼らにデフレが止められる力があるとは信じられない.ここが投資に相応しい場所であるとも信じられない.融資やメディアも信用できない.そして,北京が香港の政治を操っている,と思うだろう.」

北朝鮮の脅迫がエスカレートしても,SARSの患者が拡大しても,各国政府はなすべきことを確実に,しかも迅速に,国民に説明し,合意を形成しながら行動することです.金融システムの健全化も,政治への信頼回復も,なすべきことを実行することで前進できることは多いはずです.ある意味では,安全保障でも,伝染病でも,現実の危機こそアジアや日本に新しい政治メカニズムを築くチャンスなのです.


New York, April 2 (Bloomberg)

Politics Is Local, Trade Is Global... For Now

By Caroline Baum

New York, April 4 (Bloomberg)

Love Us or Hate Us, They Still Invest in U.S.

By Caroline Baum

(コメント) Baumは,イラクへの爆撃で政治の世界は分裂を深めているが,市場の統合化は逆転しないだろう,と言います.世界31カ国で3万1000人に聞き取り調査したRoper Reports Worldwideの表題は,「新しい世界無秩序?・・・多分,政治の世界は.しかし,世界ブランド商品は生き残る」でした.政治は常に地域に根差しており,それは貿易が世界化することと並行して,今後とも真実なのです.でも,いつまで?

この二つの比較は,国や産業,時間軸の取り方によって異なるでしょう.Baumは,テロや戦争で貿易が妨げられれば,アメリカの利益は増すだろう,と言います.なぜなら(大幅な貿易赤字国ですから)輸入が国内生産に代替されて,雇用が増えるからです.しかし,二次的効果を見れば,アメリカに流入する資本も減少して,金利を引き上げ,輸入代替のための資源を得るために不動産価値を損なうだろう,とCredit Suisse First Boston.の主任エコノミストNeal Sossは言います.

サウジ・アラビアがアメリカとの関係悪化で投資を引き揚げたのではないか,と懸念されていました.しかし,実際の行動は違ったようです.国際的な投資家の判断基準は,反戦か,開戦か,という感情的な問題ではなく,長期的な収益の見込みに回帰したようです.

私は,多くの「ブランド」にそれほどの価値があるとは思いません.しかし,かけがえの無い品質や価値を体現しているのであれば,その意味では,経済学は政治学を凌ぐでしょう.投資が長期の問題であることも当然です.ただし,平和が秩序の基準として,まだ回復力を示している限り,です.


LAT April 3, 2003

He's a Beast, but He's Their Beast

By Walter Reich

(コメント) Reichは,フセインがスターリンを理想として独裁者の統治に励んでいた,と強調します.そして,スターリンについて何より衝撃的なのは,彼が国民の少なくとも1000万人を殺害していながら,それでも彼が死んだときソビエト全土が悲しみに沈み,人々は涙を流したことだ,と言います.第二次世界大戦では,多くの国民がスターリンのために命を捨てて戦ったのです.

スターリンの影響は,その死後も強く残りました.彼についての多くの事実が暴露されても,スターリンこそ国父であり,彼らの防衛者だったのです.それこそが全体主義や独裁者の論理である,と考えるReichと違って,私はブッシュや石原慎太郎にも同じものを感じます.権力者は,正義を僭称し,自分の考えで世界を変えてしまう力を持ちます.

権力者を必要としない水平的な社会が育たない限り,戦後もフセインが英雄として甦る危険を,この戦争は人々の心に残すでしょう.


LAT April 3, 2003

The Iraqis Will Need Trade, Not Aid

(コメント) たとえばLATの論説は,イラクに対する食糧援助を警戒します.もしアメリカやEUが,自分たちの利益のために農産物を大規模に無料で配れば,イラクの農民たちが食糧を生産できなくなるかもしれません.イラクには肥沃な土地があり,食糧自給が可能なわけです.ただし,戦争による混乱を考慮した一時的な支援は必要です.それ以上は,経済制裁によって世界市場から切り離されてきたために,その調整を図るべきであって,無償援助によって逆に飢饉をもたらすような政治構造を生み出してはならない,と警告しています.


NYT April 3, 2003

What Will Be the Model for Peace in Postwar Iraq

By ALAN B. KRUEGER

「たとえヨーロッパの文明社会全体が破滅する種を蒔くのでないとしても」と,不吉な予言者としてケインズは書いた.第一次大戦後にドイツが金融的な賠償を科されたことは「忌まわしく,おぞましいものであった」と.

歴史家は,戦争の成否をその後に達成された平和で判断するだろう.イラクの戦後は,第一次大戦後のドイツの悲劇に似ているのか? それとも,第二次大戦後のドイツの復興に似るだろうか? ブッシュ政権は後者であると言うが,その計画の細部は示されていない.

懲罰的な賠償が無くても,イラクの負った金融的重荷は復興を妨げる.サダム・フセインはイランとの戦争やクウェート侵略,湾岸戦争で巨額の債務を負った.その中でも,国連補償委員会はクウェートに対する賠償として3200億ドルの支払を受けた.国際戦略研究所the Center for Strategic and International Studiesが出したFrederick D. Barton and Bathsheba N. Crockerによる報告によれば,その債務額は3830億ドルに達するだろう.債務問題にこそ,イラク復興の成否がかかっている.

その金融的負担がどれほど重いかは,国民2400万人が,一人当たりにして,1万6000ドルの債務を負うことを考えると良い.イラクの一人当たりGDPは,CIAの推計で,2500ドルである.一人当たりの平均で,その6倍以上を返済しなければならない.

もし将来の輸出収入の半分が債務の返済に充てられるならば,それは第一次大戦後のドイツ賠償金の3倍以上である.石油の輸出が伸びるとしても,返済するまでに35年以上かかる.債務の対GDP比率はアルゼンチンやブラジルよりも大きい.

では,もし占領下のイラクが債務不履行となれば,どうなるのか? 債権者たちは各国にあるイラクの資産を差し押さえる.また将来のイラクに対する債権者が資金を回収するのを阻止し,イラクに投資する者を邪魔する.さらにはアメリカがイラクの石油備蓄をイラク国民のために利用することさえ阻止するかもしれない.

実際,国連はイラクの石油収入の28%をクウェートの補償として吸い上げている.それでも,まだ半分しか支払っていない.今度の戦争で支払は増えるが,同時にイラクのインフラは破壊され,修復を必要としている.国連は,個人や企業,外国政府,国際機関の持つ対イラク債権に対して30%しか支払を認めていない.

イラクの経済が回復する余地を残すために,BartonとCrockerは,対外債務の5年間返済免除を進言している.それはパリ・クラブが2001年にユーゴスラビアに認めたものだ.また,国連が石油収入から資産返済を行わないように求めている.さらにハーヴァード大学の二人の研究者は,正当性のない,抑圧的な政府が契約した債務を,その後の政府が引き継ぐべきではない,と言う.ルワンダやハイチと違って,イラクには外貨を得る力があり,債務免除もしくは償却により,経済が自立できる短期の投資を呼び込める,と.

イラクの債務問題は,640億ドルの債権を持つロシアの経済問題や安保理における拒否権と絡んで,難しい外交問題である.その意味で,アメリカは一方的な債務免除を行わず,他の債権諸国と一緒に,多角的機関を設けるべきだ,とCrockerは言う.皮肉なことに,10年で5.6兆ドルの黒字から4兆ドルの赤字に転じるという財政悪化を予測されたアメリカ政府が,イラクの債務を処理しなければならない.

戦争からの復興にどれほど債務が重荷となるかは,過小評価され易い.しかし,ケインズの警告はその後の20年で真実であると分かった.BartonとCrockerの予測も,重視されるべきだ.


NYT April 5, 2003

The Fragility of Iraq

NYT April 8, 2003

After the War

FT April 4 2003

Legitimising a new Iraq

FT April 7 2003

Legitimacy in Iraq will be everything

BG 4/6/2003

Tough decisions on who will govern postwar Iraq

By Anthony Lake and Eric P. Schwartz

(コメント) NYTは,5日の論説で,バクダッドに混乱は見られず,人道的支援は準備されている,と楽観しています.他方,9日には,アメリカ軍が戦後再建を直接に支配しないよう求めました.傀儡政権と見られるようなAhmad Chalabiの擁立にも反対し,イギリスが言うように,国連主導で再建策を立て,選挙を行うべきだと主張しています.また,アメリカ政府内でもペンタゴンではなく,国務省が中心となって再建に取り組むよう,求めています.

ブッシュ政権に,もしこのような柔軟性が残されているとしたら,アメリカ軍を侵略者や植民地主義として批判する者への最大の反駁となり,アメリカが自由化や民主化のイメージを回復する一歩にもなるでしょう.

他方,FTの4日の論説は,アメリカ政府,特にペンタゴンが,退役軍人を暫定政府の代表にしたがっていることを批判します.そしてアフガニスタンでしたように,イラクでも,イラク人の代表を含む国連主導の再建会議を開いて,再建策や暫定政府の役割,移行過程を透明にすることが重要だ,と主張します.米英軍による実効的な支配が国際社会から正当性を得るためには,アメリカ政府もフランスなどの反米勢力も,抑制した現実主義に回帰することが望ましい.そして,イラク再建のための国際会議を成功させることだ,と.

しかし,ガーナ-を支持するブッシュ政権の強硬派が,どの程度,国連主導の再建を受け入れるでしょうか? Anthony Lake and Eric P. Schwartzは,彼らを説得しています.


NYT April 4, 2003

Iraq's Not Vietnam

By NICHOLAS D. KRISTOF

(コメント) イラクはヴェトナムにはならない.しかし,レバノンになる危険はある,とKRISTOFは言います.米軍の駐留に必要な食糧などの物資をどうやって供給するか? イラク国民への食糧をどうやって調達するか? 「サダムの支配は良かったか?」という問いに,「アメリカの言う自由や戦争よりも良かった」と答える市民がいるはずです.バクダッドなどの都市は,急速にホッブス的な無政府状態に変わりつつあります.

KRISTOFは,1945年のドイツや日本を思い出します.当時,アメリカ軍が日本に上陸したら,母親たちは子供を殺すように命じられていた.また,占領のために初めて入ったドイツの町はアーヘンであったが,誰一人として連合軍に好意的な者などいなかった,と.繊細な配慮と外交的努力によって,日本やドイツの世論は変わったのです.もしアメリカ政府が,平和を築くよりも戦争に勝つことを優先し,チグリスやユーフラテスの河畔よりもポトマック河畔で人気のあるチャラビのような人物を暫定政府に指名すれば,世界の反発を買い,イラク国民の心を離反させる,とKRISTOFは警告します.

イラクがヴェトナムにはならない.しかし,レバノンやガザになる危険はある,と.


NYT April 4, 2003

Gun, Germs and Stall?

By PAUL KRUGMAN

ST APRIL 5, 2003 SAT

US can't fuel overseas ambitions with limp economy

JEFFREY GARTEN

NYT April 6, 2003

The Growth Mirage

(コメント) 戦争が早期に終結すれば,アメリカも世界も景気が一気に回復する,という期待は薄れていくようです.

KRUGMANの見解は典型です.雇用状態に代表されるように,アメリカ経済は戦争前から減速を続けています.イラク戦の勝利で投資家の不安が解消されるという楽観論にKRUGMANは懐疑的です.投資を妨げているのは,むしろ過剰設備,企業の債務,会計スキャンダルだと考えているからです.ネオ・コンの戦争計画が勢い付けば,これで不安が解消されるとも思えません.

さらにもう一つの深刻な不安は,SARSです.KRUGMANは,わざわざWilliam McNeillやJared Diamondの伝染病が与えた歴史的な影響に言及します.SARSがこうした伝染病に匹敵するかどうかは分かりませんが,世界の製造基地となった中国の機能不全は,世界の投資動向に感染するのです.

GARTENは,この戦争もヴェトナムと同じジレンマをブッシュ政権にもたらす,と考えます.戦争の結果として,@ブッシュの大型減税は放棄されます.Aアメリカの生産性上昇と競争力を損ないます.B多角的な経済関係と政策協調を破綻させます.

たとえば,もしブッシュ氏が減税を強行すれば,それはFRBが金融を緩和して債務を吸収しなければ景気を悪化させるでしょう.しかし,こうしたインフレ政策を見れば,海外の投資家はドル減価を心配し,結局,高金利によってしか経常収支の赤字を維持できないのです.さらに,本土防衛構想が生産性上昇よりもコスト・アップに繋がる防衛関連投資を増やし,対外的には膨張した外交・軍事目標と国際摩擦により,アメリカへの経済負担が増すばかりなのです.

そして再び,ジョージ・オーウェルです.ブッシュ政権が「成長と雇用創出計画」という追加予算を議会に提出しました.それは,レーガン時代と同じ,「減税で成長すれば赤字にならない」式の幻想です.他方,カリフォルニアの図書館は支出削減の対象となり,WTOの農産物貿易自由化交渉は停滞して,世界の貧しい農民たちを苦しめます. Speak Up for Libraries in This Hard Fiscal TimeLAT April 5, 2003),Betraying the World's Poor (NYT April 5, 2003)


FT April 7 2003

Lula's 100 days

By Richard Lapper and Raymond Colitt

FT April 7 2003

The poor need a stake in developing countries

By John Williamson

(コメント) ブラジルのルーラ新大統領が国民と市場の両方から支持を得てきた過程は,政治家の役割を考えさせます.労働者政党を率いて左派勢力を結集し,内外の資本家から恐れられていた人物が政権に就いたとき,市場は逃避と恐慌を準備していたはずです.しかしルーラは,貧しい階層からの支持を得ただけでなく,反対派にも人間的な魅力をアピールできました.改革を支援する政治条件を整えて,その上で,財政は本能的に保守的政策を守り,市場の不安を和らげたのです.多くを語りすぎて,具体化しない,と批判されています.しかし,彼が最初の「ハネムーン」を確実な改革実行につなげる手腕をぜひ見たいです.その条件とは何か?

Williamsonは,「ワシントン・コンセンサス」後のラテン・アメリカの経済政策として,@労働市場の弾力化など,さらに広範な自由化を進めること.A自由化に伴う社会制度・市場規制の整備を急ぐこと.B危機に強い経済を目指して,特に財政の健全化を重視すること.最後に,C不平等な分配状態を改善するために,財政的な是正策だけでなく,教育や土地所有,小額融資などで,貧しい者の資産を高めること,を主張しています.


Tokyo, April 9 (Bloomberg)

Hong Kong Stuck Between a Peg and Hard Place

By William Pesek Jr.

(コメント) Pesek Jr.は,デフレ,財政赤字,失業増大,通貨価値の過大評価に苦しむ香港が,SARSの影響も加わって,ドルとの固定レートを離脱する圧力にさらされている,と注意します.しかし,安定を何より重視する中国政府は,香港の通貨危機を望みません.それが人民元にも波及することを嫌うからです.たとえ香港ドルがアメリカ・ドルに縛られて競争力を損ない,不況から抜け出せなくしているとしても.SARSやイラク戦争の影響がなくなり,為替レートの変更がパニックに繋がる恐れがなくなるまで,中国政府は動かないでしょう.

香港の外貨準備と,政府のSARS処理失敗により,投資家は香港ドルを売り始めています.もし経済学を重視すれば,香港ドルは切下げて,貿易取引の比重に従ったバスケット・ペッグが望ましい,ということになります.しかし,香港の問題は,為替レートの調整に留まりません.

貿易や金融における香港の地位を上海が脅かすようになって,香港は高付加価値の分野,より高度なサービスの提供に,資源を再配置する必要があります.そのために,香港の人材や企業家精神を活用するだけでなく,こうした人材が集まるような生活環境を整え,移民政策を変更するべきなのです.切下げは,一時的に不況を脱する助けにはなっても,長期的な香港の再活性化にはふさわしくないのです.


BG 4/8/2003

Humanitarian intervention?

By John Shattuck

(コメント) 人道的介入について,ハイチ,ボスニア,コソボ,東チモール,アフガニスタンと,イラク戦争は同じか? Shattuckは,人道的介入が許される条件を明確にしようと提案します.

1.   市民の人権を守るために体制を変化させる軍事介入を,その地域が広く支持していること.

2.   人権の侵害が,外部からの介入で実際に行われなくなる確かな見込みがあること.

3.   軍事介入による外科的手術が,社会の他の部分に犠牲をできる限り生じないこと.

こうした原理に照らして,米英軍による今回のイラク攻撃は,地域の支持を得ておらず,政権崩壊後の人権維持に確たる保証も無く,軍事介入自体による市民の犠牲は抑制されているが,今後の混乱によって市民生活がどうなるか,厳しい批判にさらされる,と判断しているようです.


LAT April 8, 2003

Robert Scheer:

The View From the Throne

フセインはバクダッドを追われた.ホワイト・ハウスは勝利を宣言するだろうが,アメリカにとって最も危険な日々が始まる.

これからアメリカは奇跡を行う予定だ.ナショナリズム,信仰,部族などで分断され,政治的自由の歴史を持たない国で,民主主義が機能することを示す.民衆を反発させることのないような暴力によって? 失敗の代償は,より多くのテロ,無辜の民の死傷,アメリカ経済の悪化,世界の軍拡競争,混沌とした地域紛争.得られるものは無い.

アメリカが支持するのは,イスラエル首相シャロンの友人であるガーナ-と,自国を知らないイラク人のチャビラ.ブッシュ大統領が9・11の恐怖を,デマゴギーによって,直接の脅威も無い国への侵略を正当化することに利用したときから,我々に勝ち目など無くなった.

民主主義の価値や自由な言論を尊重するなら,我々自身の自由はどうか? 我々の大統領は,民主的な同盟国であるフランスやドイツからも激しく批判され,友好的な外交をぶち壊した.それでも神は,彼にイラク討伐の使命を与えた,と吹聴するのか? 彼がイスラムの国へ赴いて,キリストの神を唱えるなら,我々はその警告を厳しく受け止めるべきだ.

世界第二の石油埋蔵地帯で展開された「イラクの自由・作戦」という空しさ.もしフセインが,国際的な世論の圧力と,国連の査察によって,武装を解除されたなら,たとえそれが資源に富んだ土地の上で行われても,歴史は優れた価値が巨大な力によって啓蒙された,と記すだろう.アメリカの行いは,決して,そうではない.

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The Economist, March 29th 2003

Charlemagne: Drowning in a sea of structural funds?

ブラッセルのEU官僚たちは地域援助を自慢する.2000年から2006年にかけて,貧しい地域へ与えられる「構造」基金と「結束」基金の額は,2130億ユーロ(2270億ドル,27兆2400億円)である.これこそ,ヨーロッパ「連帯」の生きた証拠である,と.EUは,その効果にも自信がある.スペイン,アイルランド,ポルトガル,ギリシャは,基金からの援助を最も多く受け取っている.彼らが成長して,EUの市場を拡大している.これを「ウィン・ウィン・シチュエーション」と賞賛する.

しかし,ある経済学者が会議でこの基金に疑問を投げかけてから,批判の声が強まった.彼には,個人的に支持する,という激励が多く届いた.地域援助がもたらす最大の弊害は,市場の歪みである.この補助金を得るために,市場の本当の需要に応じていない,建設業と職業訓練に投資が集まっている.この補助金を得るためには,地元政府が必要な資金の半分ほどを出す必要がある.ポルトガルのように財政赤字の政府には,「安定化協定」によって引き締めを強いられながら,この資金を失うわけにも行かない.

さらに,構造基金のもたらす汚職が深刻である.補助金を受け取るために,十分な貧困であることを示すよう,公的な統計もごまかすだろう.ブラッセルのギリシャ職員は,EUがギリシャに対して行える最善のことは,直ちに構造基金を打ち切ることだ,と言う.「補助金がギリシャをイタリア南部のように停滞させてしまった.まじめに働く者は愚か者だけだ.もっと簡単にEU補助金で稼げる仕事があるのだから.」あるいは,補助金はしばしば地域の実情を無視して,ハイテクの育成に与えられる.その結果,貧しい地域のより基本的な産業の発展が損なわれる.

補助金が貧しい地域の成長を高めた,というのも間違いだ.キャッチ・アップによる成長加速こそが重要であって,それはEU市場に統合されているかどうかによる.ただし,貧しい国の成長は家族するが,地域間の格差は拡大する.地域によってはEU補助金で貧しくなっているのである.

だから? それでもEU官僚たちが補助金を愛することに変わりはない.スペインやポルトガルではなく,もっと違うところに問題を見るべきだ.官僚たちは補助金の事業を賞賛し,政治家たちは補助金を得ようと奔走する.それが自分たちの有権者以外の税金で賄われるなら,なおさらだ.