IPEの果樹園2003

今週のReview

4/7-4/11

*****************************

戦争を,国際紛争や権力維持の手段としないために,できることなら,フセインを裁判にかけ,ブッシュを選挙で落選させたいです.フセインは多くのイラク国民を政治的に弾圧し,実際に,殺害したと思われます.他方,ブッシュはテロに遭ったアメリカ国民に,その悲しみや怯えを,軍事力による国際紛争の平定で拭い去れる,と思わせました.彼らは,その行いに相応しい結末を,政治的にも個人的にも迎えるでしょうか?

「社会」が大きくなれば,不平等は拡大します.そして,しばしば不公平や不正義も拡大します.しかし,その不平等な社会が,平等化を求め,公平性や正義を尊ぶためには,その規模に耐えうるほど,政治的な意識と社会制度が成熟しなければならないのです.

今や,入学式もインターネットで公開され,イラク戦争とネット上で競い合っています.第一回の同志社英学校では6名であった学生が,128回の今年は5000名を越える式典となっています.5人や10人となら,多分,ゼミ形式で楽しく話し合えます.しかし,50人以上では無理です.

まだ50人なら,重要なテーマに絞って,私たちは直接に議論を深め,民主主義的な決定に自分で参加することもできるでしょう.しかし500人では,グループの代表を決めねばなりません.さらに,拡声器や演台があれば,500人を相手に講義や演説をする才能をもった人もいますが,5000人の群集に一定の方向を与えることは難しいでしょう.大学でさえ,有能な事務官と複雑な履修体系が必要なのです.

社会組織は,その目的と技術条件に応じて,さまざまな手段を開発しました.軍隊や工場なら5000人から5万人でも動かすでしょう.官僚制度は,一定のルールや規制を強制し,あるいは税金や補助金で人々を誘導します.しかし,都市は50万人を超え,500万人以上にも達します.おそらくそれは,市場によってのみ(機能的に)統合される,バラバラな粒状の流動体です.政治的な意志は失われ,むしろ「大衆」の雰囲気を嗅ぎ分けて,それに一定の方向を与える「精神」や「信仰」を持った,優れた政治家(宗教家)が必要です.

確かに市場が拡大し,情報技術やメディアが発達した結果,5億人でも一つの市場や視聴者,利用者として分類されます.しかし,民主主義の実行や意思決定の権利行使を,的確に,5000万人が行える方法など無いと思います.彼らは何よりも空間的に隔絶され,経済的・社会的にも,運命を共有する感覚をもはや持たないのです.

市場がさらに拡大し,軍事技術や輸送・情報伝達技術も発達して,5億人や50億人が一つの政治的な「意志」を示すというのは,本当に可能でしょうか? それは,想像力の領域において展開される覇権戦争です.「運命を共有する感覚」を人工的に作り出すことで,市場を拡大し,政治的支持を固め,軍事的な緊張を緩和もしくは抑制します.その内部では,アイドル歌手やニュース・キャスター,映画俳優,プロ野球選手などが政治家に転身し,あるいは,特殊な組織の合従連衡が繰り返されます.もちろん,それは「民主主義」ではありません.

戦争によってイラクの民主化を唱えるブッシュ氏自身が,アメリカの民主主義解体を常に意識し,利用し,抵抗しなければならないことでしょう.もしかしたら,結末は逆かもしれません.ブッシュを裁判にかけ,フセインを選挙で落選させる方が,世界は民主主義に近付くはずです.

かつて紹介したことのある香港映画『流星』のレスリー・チャンが自殺したことを知って驚き,私は瞑目しました.人の結末は,本当に不公平です.

戦争によって日本経済の危機から関心が分散していますが,重原氏の包括的な政策転換の提案は優れています.これらを今すぐ実行することを,私は強く支持したいです.

*****************************

ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg, FEER:Far Eastern Economic Review, CD:China Daily, BG:Boston Globe


NYT March 26, 2003

Scorecard for the War

By THOMAS L. FRIEDMAN

イラク戦に勝利できるかどうか判断するのは,フットボールの試合を観るほど容易ではない.以下の六つのことが起きれば,アメリカは勝利すると思う.

1.   アメリカとイギリスの軍隊は,市民から激しい抵抗を受けずに,バクダッドを占領できるか? フセイン個人ではなく,この政治体制を完全に排除しなければならない.

2.   サダム・フセイン自身をどうするか? 殺害するか,捕虜にするか,追放するのか? 独裁者が完全に権力を失わない限り,イラク国民は本心を語らない.

3.   激しく抵抗するイラク国民をどのように説明できるか? 特権を失いたくない特別共和国防衛軍だけか? シーア派に権力を奪われたくない,サダムに協力したスンニー派か? サダムを愛国者と思い,自国が外国の軍隊に征服されるのを恐れるイラク国民か?

4.   イラクの領土的な統一を守れるか? トルコの南進や,クルドの独立を阻止できるか?

5.   アメリカ軍占領下で,真正のイラク・ナショナリストが現れ,政府を指導するか? それは亡命者よりも,サダムの支配下を生き抜き,独裁にも外国の支配にも,断固たる拒否を示す人物であろう.

6.   イラク国民とイスラム教の近隣諸国が新しいイラク政府の正当性を受け入れるか? 国連が承認した戦争で無い以上,新しい政府は,「そのやり方は気に入らないが,アメリカが支援した新しいイラクが自分たちの隣国となったことを歓迎する」と言うかどうか?


FT March 27 2003

America meets the ghost of the Tet offensive

By Victor Mallet

1970年代にジンバブエのゲリラと戦ったローデシアの退役軍人たちは,より優れた装備と訓練で,戦争に勝つはずであった.もし「血に汚れた政治」で乱されなければ.

まさに,軍事的抵抗ではなく政治こそ,バクダッドを目指す米英軍の主要な問題だ.その解決策は見つからない.軍事的にはイラクの領土を大部分制圧し,制空権も握った.「友軍」の砲撃で犠牲になる以外は,死傷者も驚くほど少ない.

政治的には,事態はより複雑だ.ローデシア人と同じように,アメリカ人とイギリス人は国連で主要諸国から強く反対され,世界の世論を敵にした.さらに,イラク国内でも反政府の声は起きていない.

米英軍はジレンマに陥る.イラク民衆の支持を得るためには,この戦争を当初に計画された「限定的な戦争」にしなければならない.そして大量のイラク軍捕虜を受け入れ,民間施設を破壊せず,人道的援助を行い,バース党を含むイラク国民と協力して復興する.

しかし,軍事的な抵抗に直面した以上は,イラク内の反対派の支持を得るためにも,攻勢を強めなければならない.バース党を壊滅し,政府の建物やバスラのような都市の中枢も破壊する.そのような戦略は,反対派を支援するかもしれないが,都市を爆撃し,イラク軍の死者が増えることで,米英軍への恨みが増すだろう.特に,もしフセインが忠誠な人々を民間人に紛れ込ませるとすれば.

米英両政府の政治的な失敗は,アラビア語を話せる者が部隊におらず,兵士たちが解放すべきイラク人と会話できないことだ.その結果,互いの戸惑いと疑念が広がっている.それは1968年の北ヴェトナムにおけるテト攻勢と比較できる.

アメリカ軍は敵の兵士を多く殺害し,戦闘に勝った.しかし,その心理的な影響は,ヴェトナム国内でも国際的な世論でも,アメリカの敗北となり,結局,撤退した.今週,ヴェトナム政府は,同じことがイラクで起きている,と短いニュースを発した.「膨大な兵器を用いて,アメリカは軍事的な勝利を得るだろう.しかし,政治的な敗北は免れない.」と.


BL 03/27 08:47

Iraq War May Curb Mexican Exports, Stunt Latin Growth

By Michael Smith

(コメント) アメリカが戦争を始めたことで,ラテン・アメリカ諸国はその影響を受けています.アメリカの消費者が弱気になって,アメリカ向けの輸出が減り,アメリカの投資家が慎重になって,ラテン・アメリカ向けの投資を減らします.石油の価格は上昇し,金利は上昇し,ドル安とともに為替レートは不安定化し,それでも各国は不況を回避するために金利を下げ,インフレと通貨不安が再燃する危険を冒します.たとえばメキシコは石油を輸出していますが,戦争が長期化すれば,貿易や投資の方が重要です.

ドルとリンクした通貨政策をとれば,ラテン・アメリカ諸国は通貨が減価し,金利も下がるでしょう.アメリカが不況にならず,アジアやヨーロッパが景気を維持できれば,たとえばブラジルは輸出を増やせます.しかし,ドル安はいつまでも続かず,アジアやヨーロッパも戦争の影響で不況になれば,ラテン・アメリカの脆弱な回復は危機を招きます.テロ対策で妨げられる相互の貿易や観光も,重大な損失を生むでしょう.


LAT March 27, 2003

How Many Lives Is This War Worth?

By Peter Singer

(コメント) 戦争は,深刻な道徳的問題を提起します.この戦争によって何がもたらされるのか? その良いことと,悪いこととを,私たちは戦争の政治算術として,道徳的に計算しなければなりません.

ブッシュ氏は,独裁者フセインを取り除くことが,アメリカを含む国際社会にとっての脅威を取り除き,イラク国民を解放することだ,と戦争を正当化しました.しかし,その戦争目的は,どの程度までの犠牲を正当化できるのか? とSingerは問います.戦闘は民間人の犠牲を伴うでしょう.ラムズフェルドやフランクは,アメリカ軍が民間人の犠牲を最小に留めるように優れた技術を駆使していることを強調します.しかし,アフガニスタンでは1000から1200名の民間人が死んだと思われます.アルカイダや一部の武装勢力を掃討するために,アメリカ政府はその民間人たちが死ぬことを正当化したのです.

2001年11月1日に,アフガニスタンの村に駐車していたタリバンのトラックが標的となって,この村が爆撃され,村人12名が死亡し,14名が負傷しました.しかし,実際はトラックが走り去ってからこの村に爆撃したことがわかりました.ペンタゴンは,それでも,この村が軍事目標になったことを正当化したのです.こうした爆撃で,イラク国民や国際社会の尊敬を得ることができるでしょうか? そのトラックは,民間人が死ぬかもしれないと分かっても,攻撃しなければならない標的だったのでしょうか?

この戦争が,新しいテロリストの補充に役立つのではないか? 人類にとって貴重な,古代文明の遺跡を破壊してしまうのではないか? 何よりも,アメリカ軍はアメリカ人兵士の命だけを,イラク人よりも,重要視しているのではないか? 戦争のコストを計算するとき,国籍が重要ではないはずです.

独裁者を倒すために行われた戦争でも,その犠牲者に対する責任を免れることはできません.戦争に関する国際社会の政治算術を行えるのは,多くの欠陥はあっても,国連と安保理しか無いのです.そしてアメリカ政府は,開戦を決定し,具体的な戦術を決めたことについて,特に,アメリカ人の命をイラク人の命よりも重要視したことについて,道徳的に弁解できない罪を負うでしょう.

犯罪捜査において,特に人種差別への配慮から,その過程をビデオで記録し,人権を守り,権力の濫用を防ぐことが,アメリカ国内では行われています.国際社会が,戦闘行為と,その政治的な選択過程に関わる政治家・軍人の言動を正確に記録することもまた,非常に重要になると思います.


NYT March 27, 2003

Casualties at Home

By BOB HERBERT

(コメント) 戦争の犠牲者として,HERBERTは,ホワイト・ハウスに近い高校を挙げます.なぜなら,そこの生徒や先生は,食堂も,体育館も,学生用のロッカーも,まともな電気さえ無いような校舎で,毎日,勉強しているからです.先日は,100年以上もたった建物の屋根からレンガがはがれて落下しました.教室では雨漏りがします.

そして政府は,とんでもない富裕層への巨額の減税を行い,外国で戦争をしています.国内では失業が,特に長期の失業が,重要な問題です.しかし地方政府は財政が赤字で,対策をとるどころか,それらを削減しています.ブッシュ政権は,こうした問題を正しく扱おうとせず,それに触れることも「愛国的でない」と非難します.貧しい家族への支援や老人の医療費についても同じです.

これらもブッシュ氏は,戦争の政治算術,に入れているはずです.しかしそれは,アメリカ国民が望むような形ではないでしょう.


NYT March 27, 2003

Is War a Generator of Expenses or an Economic Stimulus?

By VIRGINIA POSTREL

(コメント) 戦争が始まって,ブッシュ政権は議会に750億ドルの追加支出を認められました.不況が心配される中で,この追加支出は景気を回復させる手段ともなるか?  POSTRELは,そのような期待を退けます.

軍事支出が不況からの回復を助ける,というのは,ケインズ主義と大恐慌の記憶,特にハンセンの解釈によるものでした.現代のマクロ経済学では,こうした見方を支持しません.なぜなら,ハンセンは,景気循環に関わり無く,需要の維持を説いたからです.第二次大戦時には,アメリカ経済が大量失業と遊休設備に溢れており,自動車部門も生産能力の半分しか利用していなかった,と言います.これらの設備を稼動させ,ヨーロッパに輸出するだけで良かった,という意味で,戦争は大恐慌によって可能になったのです.

しかし,1970年代の財政赤字は経済を停滞させ,1990年代は財政黒字とともに好況を持続したため,ハンセンの慢性的停滞論は放棄されました.また,今回の軍事支出の規模は限られており,短期の戦争では在庫だけで処理されます.むしろ戦争による不安や,財政赤字の見通しの方が,経済に重要な影響を及ぼすでしょう.


BL 03/28 00:13

A New Worry for Investors -- Is the Roof Leaking?

By David Pauly

CD 03/28/2003

Prevent housing credit risks

(DONG YUEXIAN)

(コメント) アメリカでも中国でも,住宅市場が問題となっています.アメリカの住宅価格は,この5年間で,40%も上昇したようです.金利が下がらなくなっても,雇用と所得が維持されているなら,住宅価格の上昇を期待する人はいます.住宅の供給が過剰になり,失業が増えるときが,いつになるかは分かりません.

他方,中国では,同じ事態をまるで逆に見ています.既にアパートの空室率が問題になっています.このままでは,銀行の不良債権にもなりかねません.ところがその解決策とは,欧米や日本に倣って,中産階級にもっと融資し,住宅の購入を促すことなのです.

中国政府は狂っているのか? そうではないでしょう.中国の住宅事情は,まだまだ改善されねばなりません.一部でバブルがおきていますが,建て替えるべき住宅も多く,ミス・マッチの解消を問題にしなければならないはずです.


LAT March 28, 2003

Beyond Slaughter: Memories of '45

By Jorg Friedrich, Special to The Times

ドイツが降伏するちょうど8週間前,1945年3月12日の真昼に,バルチック海沿岸にあるドイツの都市Swinemuendeを1000機のアメリカ軍機が攻撃した.そこは,赤軍によって民族虐殺や組織的な暴行を受けた東ドイツからの難民で溢れていた.アメリカの爆撃機は彼らを無慈悲に爆撃し,機関銃で掃射した.

その町の2万5000人が殺されたが,2万3000人は一晩で殺された.同じことはビュルツブルグでも起きた.225機のイギリス軍爆撃機が,1100トンの爆弾を投下し,17分間で由緒ある都市を燃やし尽くした.6000人の民間人が,その晩に殺された.

それは「衝撃と恐怖」どころではなかった.5年に及ぶ連合軍の空爆は,最後の数ヶ月間で,ドイツの諸都市を焼き尽くした.ドイツの産業力とヒトラーの戦争機械を壊滅するためであった.それはイラクではなく,ドイツに対して行われた.「衝撃と恐怖」作戦とは逆に,民間人の死傷者ができるだけ増えるように行われた.ハンブルグでは5万5000人,ドレスデンでは5万人,ベルリン1万2000人,カッセル1万人,フランクフルト5500人,などである.フォルツハイムでは,人口6万3000人の3分の1が1945年2月の一晩で焼き殺された.戦争の終結間近であったにもかかわらず.

毎晩,毎晩,都市と人が燃やされていた.それは原爆を使わない広島と長崎であった.

近代以前に,これほど民間人が軍事的な標的にされたことは無い.5年間で,ドイツの161都市,800の村に50万トンの爆弾が落とされ,7万5000人の子供を含む50万人の市民が死んだ.同時に,7万8000人の奴隷労働者と戦争捕虜が殺された.この行為によって罰せられた者は一人もいない.勝者が,自分たちを戦争犯罪で告発したりしない.

戦争の目的それ自体は正しくとも,その手段は想像もできないほど不正義であった.しかも,この爆撃は失敗であった.ヒトラーは弱められたが,降伏はしなかった.士気を挫くことも,叛乱を誘発することも無かった.7万5000人の子供を殺されたドイツ人たちは,連合軍と戦う決意を固めた.

ドイツ人も,英米人も,この空爆による破壊と弱者の殺戮について,相応しい叙述をしてこなかった.先週,記者会見で,ラムズフェルドは現在の作戦をドイツへの空爆と比較した.馬鹿げた比較だ.戦時下の空爆を,バクダッドの喧伝された精密誘導爆撃と比較するのは無意味だ.その違いとは,現在,民間人を攻撃すると「失敗」と言われるが,当時は,それが「成功」だったことだ.

連合軍の空爆に対する正しい比較対象は,サダム・フセインの大量破壊兵器である.もし彼が生物・化学兵器を使ったら,彼はまさしく,イギリス軍の「爆撃王」,ハリスの末裔である.


NYT March 29, 2003

Argentina Will End Freeze on Bank Savings Accounts

By TONY SMITH

アルゼンチン政府は,選挙に向けて金融システムの改善をアピールするために,2001年に導入された預金封鎖を解除した.これによって55億ドルの資金が封鎖を解除される.ペソは今週,ドルに対して値上がりし,2002年の経常収支も90億ドルの黒字となった.昨年のペソ切下げと,ドル預金のペソ化にもかかわらず,預金者たちは約80%の現金と国債を受け取れた.彼らは全額ドルで引き出すことを求め,裁判所に訴えているが,その費用や時間のせいで,多くの人が政府の提案を受け入れるだろう.ただし,銀行への補償はまだ決まらない.


FT March 30 2003

A credible promise to the United Nations

By Robert Keohane

(コメント) Keohaneは,アメリカによるイラク攻撃について安保理が合意できなかったのは,国連が軍事力を持っていないこと,それゆえ国際秩序を守る武力の行使を大国に委ねるしかないが,国連として大国による攻撃がどのように行われるかを監視し,チェックする制度が無いことが問題だ,と考えます.安保理が「白手形」を渡してしまえば,その戦争がどうなってしまうか,国連軍の責任を問えないのです.

民間人の死傷者について,戦争目的について,戦後再建について,安保理はアメリカに一定の約束を求めますが,その約束をアメリカが守るという確信を持てないのです.それなら,正式に,安保理と国連軍の指導国とが協定を結んではどうか? というわけです.そこに含まれるのは,たとえば,@すべての国が参加できる国連による査察.A戦争に関する国際法やその目的を逸脱した行為に関する賠償責任.B難民協定など,関連するすべての国際条約の遵守.C占領国の経済資源に対する権限を速やかに国連に移譲.D占領軍から必要な軍事的支援を受けつつ,速やかに国連統治と民政へ移管.などです.

なぜ指導国は,そのような協定を受け入れ,守るのでしょうか? それによって,指導国の約束は国際社会の信用を得られ,それゆえ国連軍を組織できるからです.たとえアメリカが単独の武力行使でも十分であり,あるいはコソボのように関係諸国の事後的な合意で十分であるとしても,国連軍を国際秩序の維持に,実際,機能させるためには,こうした枠組みが必要でしょう.


The Guardian, Monday March 31, 2003

Bombs and biscuits

Madeleine Bunting

血まみれの兵士や民間人に代わって,イギリス軍兵士から飲料水のボトルをもらう群集の歓声が伝えられる.繰り返し告げられたように,これは心を救う戦いなのだ.しかし,怒りと絶望で染まったイラク人の心ではない.子供を殺しておいてから,数時間の渇きを癒す水を配って何の意味があるのか?

ウム・カスルを制圧して,軍事物資の輸送とともに,人道的援助も始まろうとしている.今やイラク国民の福祉は米英軍の責任である,とコフィ・アナンは述べた.しかし,彼らが求めている心はこの醜い陰の世界には無い.むしろ自国の視聴者であり,世界に広がる戦争の視聴者である.その目的は支持を拡大し,反対派を挫くことだ.今のところ,イギリス国内の支持は順調だ.

援助とそのTV中継という問題は,そもそもこの戦争が何であったかを考えさせる.石油や大量破壊兵器ではなく,アメリカの力を誇示し,9・11以後に相応しい恐怖と敬意を世界に印象付ける必要があった.イラクはそのために適当な舞台であった.危険すぎず,強すぎず,石油の褒美がある.メディアは,アメリカ政府の望む二つの教訓を得る.アメリカの圧倒的な軍事力.パックス・アメリカーナの善意.

イギリスの首相が宣言した解放戦争は,イラク国民を何千人も殺害して「自由を強いる」.解放は近い? 彼らの背筋を恐怖が走る.ブレアの矛盾した言葉と行動を見るからだ.都市は焼かれ,砂漠には黒焦げの死体.20世紀は,正当化された暴力によって自由が唱えられた時代だった.全体主義的な独裁者の時代だ.今や,黒を白だと言うことのできる政治指導者たちは,その伝統を受け継いでいる.ブッシュ大統領はこの戦争で「世界をより平和にする」と言う.怒りに燃えるイスラム圏では,何と愚かな主張であるか.

20世紀は,多くの民間人を戦争の犠牲者にした.21世紀の最初の重要な戦争でも兵士と市民の区別は溶解している.病院に横たわるすべての子供たちは,サダムの最後の兵器である.家で椅子に腰掛けた我々は,道徳的な痛みに耐えられずチャンネルを変えるか,自分と関わり無いものとする.私たちの子供が,一世代後に,イラクの人々に謝罪するのか? 彼らは,なぜ我々がそのことを放置したのか,と聞くだろうか? 私たちには家族もあり,なすべき仕事もあって,などという言い訳が,彼らの詰問に耐えられるか?


FT April 1 2003

The world relies on America's deficits

By Martin Wolf

(コメント) Wolfは,Wynne Godleyの分析に依拠して,世界経済を破局から救うには,日本とヨーロッパが財政赤字を増やして景気を刺激しなければならない,と言います.

財政赤字が増えることは,通常,望ましいことではありません.アメリカは日本やヨーロッパよりも高い成長率を実現しています.すると,経常収支赤字がさらに増えるわけです.アメリカが十分な成長率を達成するには,2008年に財政赤字がGDPの9%,貿易赤字もGDPの6〜7%,対外債務はGDPの60%,金利ももとに戻るだろうから経常収支は8〜9%に達するだろう,とGodleyは予測します.

その原因は,バブルが崩壊して民間部門がバランス・シートを回復しようとするからです.もし民間部門が支出を減らせば,公的部門が支出を増やさなければ不況になる,とケインズ以後の経済学は教えています.ただし,それは閉鎖経済,もしくは世界を一つの経済圏と見なした場合です.アメリカは既に大幅な貿易赤字を出しています.それを資本流入で賄ってきたのです.それゆえ,財政赤字を増やすことで需要を維持する政策が次第に資本市場を不安にさせるのです.

Wolfの結論は,これ以上,民間資本の流入が増えることに期待できないのだから,公的部門が赤字を増やすためにも,アメリカの貿易収支は改善しなければならない.そのためにはドル安と日本やヨーロッパの成長加速が必要である.すなわち,日欧の財政赤字が拡大することを必要としている,というわけです.しかし,日本もヨーロッパも,それを重視するようには見えません.サミットにおける国際政策協定が,再び,注目される時期が来たようです.


FT April 1 2003

A weaker currency will make Japan stronger

By Kumiharu Shigehara

短期金利は事実上ゼロになり,莫大な資金供給が行われたが,日本経済はデフレから抜け出せない.銀行改革を加速し,財政刺激策を採っても,問題を解決できないだろう.日本は,貿易相手国の協力を得て,通貨の減価による刺激策を採るべきだ.

世界の商品貿易に占める日本のシェアは,1993年の10%から昨年の6.6%へと低下した.他方,アメリカもドイツもシェアを維持している.円高による日本の高賃金や高コストが輸出を減らし,日本企業の直接投資を増やしている.賃金を削り,価格を下げるのは,非常に難しい.それは債務者のバランス・シートを悪化させ,銀行に新しい不良債権を発生させる.通貨の減価は,よりコストの低い手段である.

長期的には,円安が日本の貿易相手国に与える影響は小さい.なぜなら日本経済は輸出によってジャンプ・スタートし,景気が回復すれば輸入も増えるからだ.しかし,短期的には,円安が貿易相手国の収支に調整を強いるだろう.

こうしたことを念頭において,日銀と日本政府が以下の諸政策を一致して採用するように提案する.

1.日銀は,銀行の準備金総額に対する目標を定め,名目GDPの望ましい成長,たとえば5%に合わせて,それが増えるようにする.ただし,準備金に対する予想外の需要には,日銀が名目短期金利をゼロに維持するように,対応する.

2.政府は,ドルに対する為替レートの目標圏を,たとえば150円〜160円と明示する.釘付けしても良い.さらに,日銀は,為替市場でドルを購入したことによる円準備の増額を,自動的に準備金の目標値にも加える.過去においては,財務省の市場介入を日銀の国内通貨政策が打ち消してきた.

3.外国企業との摩擦を回避するために,政府は,円安で「予想外の」利益を得る大企業に対して,為替レート調整特別税を課す.

4.政府は,これまで保護してきた分野でも,日本企業と外国企業との競争を促進する.競争に生き残れないような産業や企業を保護してはならない.

5.特別税による歳入増加は失業者への支援に充てる.

6.政府は,構造的な財政赤字を減らすために,信頼できる中期計画を示す.

7.政府がこうした政策を示せば,日銀も2年間で達成する物価水準を明示し,それが達成できた後で,インフレ目標を採用することを公表する.物価予測は,財政政策と円の名目為替レートを明示的に前提して,公表される.

8.日本は,アジアの貿易相手国に対して,為替レートの調整にともなうショックを吸収できるように,円のウェイトを高くした通貨バスケットを採用するよう助言する.

9.日本は,ユーロ圏に対して,財政政策の弾力性を高めるよう助言する.これによって,ユーロがドルや円に対して増価することで輸出が減少することから生じる不況を回避できる.

10.日本は,ウルグアイ・ラウンド後の貿易自由化を指導する.一層の市場自由化により,日本の国内需要の輸入弾力性が高まる.

こうした政策には,実行に痛みが伴うものもある.しかし,為替レートと通貨政策によって景気回復を達成するためには,これが日本の貿易相手国から支持を得るために可能な唯一の道である.


BL 04/01 10:01

`Third-Rail Bond Market' Sizzles in Japan

By William Pesek Jr.

(コメント) 重原氏は,Wolfの望んだドル安ではなく,円安を求めました.それは,優先順位と時間軸の違いです.それはアルゼンチンの政策転換に似ています.重原氏の支持するような包括的政策転換を示して,一定の時間内に決定的な政策を実行に移すことで,日本の政策枠組みと市場の雰囲気が変わると思います.変わらないのは,政治家と支持団体の意識です.

外国の投資家は日本国債をもはや買わない,とPesek Jr.は言います.発行額がGDPを40%も超えて,しかも利回りは異常に低い.すでにバブルであるが,国民はそれを知らない.もし1ドルが150円になる,という政府と日銀の説明を国民が信じれば,国債を売って外貨建資産に乗り換えるでしょう.

重原氏の提案では,短期金利以外がどうなるのか,分かりません.多分,国際競争と金利の上昇(正常化)によって,銀行と企業の淘汰が加速するでしょう.それを経て,国内的にも経済が回復する条件が見えてくる,ということでしょう.


LAT April 1, 2003

Robert Scheer:

'Terror' as the Ultimate Excuse

「私の政府は,今日,世界で最も激しい暴力を行使する政府です.」と,マーティン・ルーサー・キングJr.は暗殺される1年前の説教で,悲しく話した.それはヴェトナム戦争におけるナパーム弾などの使用について述べたものだった.このイラク戦では多くの新しい武器が使われるが,「意図しない」結果が,われわれの「救う」市民に及ぶのは同じだ.

テロリストたちが市民を盾に使っている.テロリストたちが川を汚染した.他方,私たちは際限なくアメリカ軍の広報担当者の説明を聞かされる.市民の犠牲が出ないように「最大の配慮」を払っている,と.言葉がすべてであり,その高貴な目的によって,すべてが許されるのです.

フセインはゲリラ戦術を採っている.我々は予防的に先制攻撃を始め,大量破壊兵器が見つからないと,軍備に劣るイラク軍がゲリラ戦術を採っていることで民間人に死傷者が出ている,と正当化する.しかし,アメリカが植民地であった頃,イギリス軍に対してゲリラ戦術で戦ったことも忘れたのか?

ヴェトナム戦争も,ケネディー大統領が1万3000人の「援助」作業員を南ヴェトナムの自衛を助けるために展開して始まった.10年以上経って,無数のヴェトナム人,ラオス人,カンボジア人を「じゅうたん爆撃」で殺害するようになっていた.

テロは,圧倒的な暴力を行使する側が都合よく定義する,道徳的な判断を含まない概念となった.


BG 4/2/2003

Bush benefits from decay of democracy

By Robert Kuttner

(コメント) 民主主義の衰退が,ブッシュのでたらめな政策転換や戦争を続けさせている,とKuttnerは考えます.衰退の主な理由は,次の5つです.@投票率の低下と政治資金.政治団体は,地域住民ではなく,ワシントンから組織され,貧しい者は労働組合のような発言の場を失いました.Aメディアにおける保守派の攻勢.逆に,リベラル派は慎重で,微温的です.特にテレビは,人々の関心を戦争映像や選別された話題で独占し,細部に拘りません.B9・11による支持.Cブッシュの幹部たち.Dどこにでもいる素朴な良い男,そしてタフ・ガイという見せかけ.

こうした要因はいつまでも続きません.しかし,ブッシュが支持を失っても,民主主義が回復するかどうか,それは分かりません.

******************************

The Economist, March 22nd 2003

Argentina’s presidential election: Hard times, same old politics

ブエノス・アイレスでは,今も,ヨーロッパの裕福な都市のような外観が保たれており,着飾った人々が通りを行き来している.しかし,夕暮れとともに,整然と組織された,ゴミをあさる貧しい人々が現れる.自動車で45分の郊外には,人口130万人の産業地帯があり,成人の80%は正規の職に就いていない.多くの子供たちは栄養失調だ.

債務不履行とペソ切下げを宣言して14ヶ月が経った.ドアルデ大統領の暫定政権は,経済危機が破局的なインフレになるのを食い止めている.回復の兆しも見え,Lavagna経済大臣は,今年の成長率を4%と予想する.しかし,生活水準は大幅に低下している.失業率は18%,昨年,賃金は40%も下がった.国民の58.5%,2200万人が貧困状態(4人家族で月収が750ペソ・242ドル以下)である.極端な貧困も28%に達し,1年前から倍増した.

これほどの悪化を招きながら,なぜ暴動が起きたり,政府が転覆されたりし無いのでか? 既に国民は大統領を二度も交代させ,政治家すべてを憎んでいる.伝統的な政党は死滅した.そして,今や非正統的な街頭占拠による抗議活動にも,国民は失望してしまった.4月27日には,大統領選挙がある.彼らの多くは投票するだろう.しかし,その5人の候補者は,3人がペロニスト,2人はラディカル(デ・ラ・ルーアの政党)である.

ラディカル党から,右派では,前大臣で新政党を起こした自由主義派のRicardo Lopez Murphyがいる.左派には,街頭行動を何度も組織し,ブラジルのルーラ新大統領を見習ったElisa Carrioがいる.しかし,実際に有力なのは前大統領のネメムと,現大統領が支援するパタゴニア州知事,Kirchnerである.皮肉なことに,経済危機が深刻なほど,政治的選択としてペロニズムの価値は高まる.

ドアルデ大統領は,貧者に援助をばら撒き,支持率を回復した.ネメムは,経済危機の条件を創り出したにもかかわらず,彼が大統領であった頃の繁栄を取り戻せると主張し,支持を増やしている.いずれにせよ,選挙後の政府はポピュリストだろう.しかし,財源は無い.まず,国債をめぐる内外の交渉が必要である.しかしドアルデは,投票日まで何もしようとしない.新しい政府には,その選択肢も無い.


Hedge fund in Japan: Growth industry

日本の政治家はヘッジ・ファンドが嫌いだ.最近の株安も,ヘッジ・ファンドが空売りしているせいだ,と憤慨する.しかし実際には,日本のヘッジ・ファンドの数は増加し,資金も流入している.2001年に40%,100億ドル近く増加した,という推計がある.日本に注目したヘッジ・ファンドで120〜150億ドル,世界的なファンドが日本に投資している額が80〜150億ドルに達する.

世界マクロ型ファンドが3年前に解散されて,ヘッジ・ファンドを増やした,と言われる.経験を積んだファンド・マネージャーたちが自分のファンドを作った.彼らは主に,個別企業の見通しによって投資する.すなわち,見込みのある企業には投資し,見込みの無い企業の株を空売りする.日本の機関投資家,特に生命保険会社は,小さな利益を得るためにも,喜んで保有株を貸し出す.だから,空売りする株はいくらでもある.

しかし,政府の見方とは逆に,ヘッジ・ファンドの多くは株を買い増している.最大の売り手は,ヘッジ・ファンドではなく,損失を減らしたがっている国内の機関投資家である.外国投資家のヘッジ・ファンドが多いが,日本国内でも機関投資家がヘッジ・ファンドに投資しつつある.特に巨大な年金基金は莫大な額の国債を保有しているが,その利回りは低い.年金基金は,国債と同じリスクで,利回りの良い投資先を探している.

ファンド・マネージャーたちは,日本の株式市場の売買が低迷していることと,規制が加えられることを心配している.もし,政府が規制を突然変更して,ヘッジ・ファンドを潰してしまえば,それは日本にとって不幸なことだろう.彼らが見通しの良い企業に投資しているにせよ,生き残れない企業の株を空売りしているにせよ.


Economics focus: Risk management for the masses

Robert Shiller

(コメント) このShillerの論述をどのように理解したら良いのか? アメリカ人のジョークに,大丈夫だ,私は保険に入っているから,と答える幾つかのパターンがあります.アメリカはチャンスとリスクの国であり,政府や制度的な補償に期待するよりも,個人で保険契約を購入することが伝統的に発達してきたのだと思います.

この記事によれば,技術の急激な変化で不利益を被る人が増えている一方で,それは情報の蓄積と保険技術の応用も可能にしているから,個人の責任や能力差による得失で無い部分を,保険がカバーするようになる,と言うのです.その結果,バブルやグローバリゼーションによって不当な困窮に苦しめられる人はいなくなるはずだ,と.

Shillerが挙げている例は,石油を購入する企業や,ユーロ建の資産を持つ企業が,石油を購入するオプションや,ドル建再建とのスワップを,予め購入することで,リスクを回避できる,というものです.同じように,たとえば個人にとって最も重要な資産である,住宅価格の変動リスクを回避できるでしょう.また,ヴェンチャー資本家が,突然の環境変化で失敗するリスクも,回避できるはずだ,と考えます.

住宅価格はともかく,どうしてヴェンチャー資本家まで倒産するリスクを回避できるのか? それは,多くの事例をストックして,どのような場合に倒産するかの予測を基に,専門的な保険契約として提示できるからです.それは個人にも提要できる,と言います.もし個人のキャリアに伴うリスク(技術変化や国際競争による減給や失業)を保険で回避できるなら,人々はもっと自由に創造的な職業や独創性を発揮して,転職し始めるし,それにより経済成長が高められる,とShillerは想像します.

しかし,私の直感は,これを支持しません.最後に,Shillerは,ダービーのようにさまざまな条件を付けたキャリアの競争を予測して賭けるデジタル市場を紹介します.このイメージに拠れば,およそどのようなリスクも保険の対象であると分かるのです.しかし,すべてをダービーのように画一化されたレースに擬制することは,現実の世界を見誤っている,と私は思います.