IPEの果樹園2003

今週のReview

3/31-4/4

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アメリカ先住民と分かる3人の精悍な男たちが密林の中を疾走する.その印象的な光景で始まる映画,「ラスト・オブ・モヒカン」をNHK・BS2で観ました.雄大な自然と,静かな深いテーマ曲に導かれた,素晴らしい映画でした.戦死者が増え,イラク戦の長期化を予想させる報道が続く中で,クイズやバラエティー番組など観たくないな,と思っていたとき,この映画を観ました.

男たちは無言で,狩りのためになすべき仕事を分かち合い,助け合って,獲物を追い詰めます.遂に,巨大な鹿が一発の銃弾で仕留められたそのとき,二人の兄弟を率いる父親,チンガチュクは,その獲物に跪いて勇敢さを称え,森の兄弟を殺したことを,精霊に詫びます.

これは,戦争に生きることの全体を,凝縮して描いた物語です.

男たちの一人は,チンガチュクに育てられたイギリス人の若者,ホーク・アイでした.この物語に登場する先住民は,モホークとビューロン(?)の二つの部族であり,モホークは自分たちの生活様式と自由とを重視し,イギリス軍と一定の協力をして,フランス軍を追い出そうとします.他方,ビューロン族はフランス軍と協力し,他部族を制圧するとともに,できるだけ有利な条件で白人との交換を支配しようとします.

ホーク・アイは,貧しい入植者の子供でした.金の無い者は辺境の土地しか買えず,軍隊に守られることもありません.森を切り開き,畑を耕して自由に暮らせますが,先住民とは協調し,あるいは殺されます.彼一人が生き延びて,チンガチュクに拾われたのです.ホーク・アイは,イギリス軍の提督の娘,コーラを愛し,異なった社会を背負いながら,ともに生きる道を選びます.

ビューロン族の戦士,マグワは,その家族を提督(灰色の髪)のイギリス軍に殺され,復讐に生きます.そのためにフランス軍と協力し,イギリスの支配する砦を攻め落としてから,撤退するイギリス軍を襲って皆殺しにします.コーラとその妹,そしてコーラの許婚は戦利品として部族に連れ帰り,最も勇敢な戦士として自分を認めてくれるよう長老に求めます.そして自分なら,より多くの毛皮と土地を他部族から奪い,白人たちとの交換を有利にできる,と主張します.

戦争はなぜ起こるのか? なぜ暴力によってしか目的を実現できないのか? たとえば復讐.たとえば国益.

コーラは叫びます.法律? そんなものはご都合主義の正義でしかない,と.多くの歴史家や社会学者が指摘するように,宗教やナショナリズムが戦争を非常に残酷なものにしたと思います.土地と血,裏切り,命をかけて家族・仲間・恋人を守る意志.コーラに愛されない許婚は,火あぶりになるコーラの身代わりとなって愛を示します.ホーク・アイの弟は,コーラの妹を救い出すために命を落とし,その妹も彼を殺したマグワの奴隷になることを拒んで,崖から身を投げます.

ビューロン族の長老は,白人が来て,我々の未来は闇に包まれた,と嘆きます.その闇とは,白人たちの銃や帝国,交易でした.チンガチュクの「白い息子」,ホーク・アイは,マグワのやり方を非難してその長老に訴えます.もっと多くの毛皮や土地を他部族から奪うのか? それでは白人と同じではないか! と.最後に,マグワを葬り,息子の仇を討ったチンガチュクは,雄大な自然の中で,精霊に祈ります.そして祖先のもとへ行った,死んだ息子にも,自分が来るのを静かに待つよう,呼びかけるのです.

日本の映画界も,朝鮮半島の植民地統治や中国大陸への侵略に関する映画を,諸国民の共感を得られるような人間のドラマとして,歴史的な複雑さを逃げることなく描けるでしょうか? ナジャフで,イラク兵300人が死亡し(殺害され),アメリカ側は一人の死傷者も無い,と報道されました.もし法の支配がなければ,彼らの復讐はその息子たちが行うでしょう.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg, FEER:Far Eastern Economic Review, CD:China Daily


LAT March 19, 2003

We Have a Winner

By Arianna Huffington

誰がこの戦争の勝者か? 既に一つだけはっきりしているのは,アメリカ企業である.軍需産業とともに,イラク再建のための投資がアメリカ企業のものになる.もっと爆撃して潰してしまえ!

アフガニスタンやコソボでは国連が再建を監視した.しかし,イラクはアメリカのものだ.戦後のイラクは「メイド・イン・アメリカ」にする.ホワイト・ハウスには,青写真も赤写真も一杯ある.最初の爆撃が開始しされて,24時間もたたないうちから,ホワイト・ハウスは再建計画への申し込みが殺到し,オークションが花盛りだ.

こうした「非常時」であるから,その競争条件は勝手に操作できる.自由市場なんて,糞食らえ! ブッシュ政権を支えてきた企業が受注側に招待される.誰が呼ばれるかを知っても,「ショックと恐怖」などあるはずがない.もちろん,チェイニー副大統領のハリバートン社も漏れるはずが無い.政治家に寄付することほど儲かる商売は無い.

しかも,今やっていることなど子供だましだ.ブッシュ大統領はイラクの国中を作りかえる計画だ.教育,保険・医療,銀行システムを,何もかも作り直す.その資金は納税者が出し,それを得るのはアメリカ企業だ.利潤のためのマーシャル・プラン,と思えば良い.たとえば1億ドルを用意して,イラクの2万5000の学校を整備する.410万人の生徒のために本などを提供する.

しかし私は知っている.オレゴン州では学校が財政難で閉鎖されているし,カリフォルニア州では生徒たちがテキストや教師の質の悪さについて訴えを起こしている.公的な医療制度についても同様だ.100万人以上の貧しいアメリカ人が公的な医療機関から排除されている.他方で,大統領はイラクの医療機関を整備するためのアメリカ企業への発注を続けている.あるいは爆撃のあとでイラクの金融システムを復興することには熱心だが,国内の金融改革は忘れている.アメリカにおける企業の不正会計や株式市場のバブル再発防止はどうなったのか?


WP Wednesday, March 19, 2003

Economic Darwinism

By Robert J. Samuelson

(コメント) 生産性の上昇が続いているから,アメリカの家計は所得を改善し,消費を増やすことで景気を回復させるのか?  Samuelsonは,そのようなニュー・エコノミー型の楽観論を否定します.生産性の上昇が意味することは,経済状態によって変わってくる,と.生産性を高めた企業でも解雇を増やし続けており,それでも倒産する企業や,投資を縮小して生き延びている企業が多い.技術革新がそれを支えている,というけれど,大恐慌のときもそうでした.大規模なスーパーマーケットが小商店を駆逐し,電力の普及は電球や冷蔵庫の売上げを急増させていた,と言います.それでも不況は終わらなかったのです.

生産性上昇は所得を増やさずに,雇用を減らすことでも実現できる,ということです.2001年,2002年に起きたのは,実際,これでした.ニュー・エコノミー論が賞賛した90年代の設備投資も,それが過剰な設備であれば,いくら生産性を高めるはずであっても,無駄だったのです.情報革命で痛みの無い生産調整が可能であると主張したニュー・エコノミー論を,アメリカの景気については,今も聞かされています.イラク戦が早期に終結し,力強い景気回復が見られるはずだ,と.しかし,生産性上昇の意味は景気回復に掛かっているのであって,その逆では無いのです.

生産性上昇を実現したけれども,停滞から抜け出せない国がある.それは日本だ.


WP

The Lesson Of Rwanda

By Richard Sezibera

Wednesday, March 19, 2003; Page A31

(コメント) ルワンダのアメリカ大使は,国際社会がその責任を果たさなかったことを証言しています.1994年にルワンダで大量殺戮が起きた際に,安保理は介入しませんでした.100日にわたって,100万人が殺された,と言います.それでも世界はまだ議論していたのです.その中身は,ルワンダ国民に理解できないし,関係ないものでした.

大使の考えでは,結局,ルワンダが戦略的に重要な国ではないから,安保理は介入しなかった,というわけです.虐殺を行った政府の代表が引き続いて安保理で発言し,現状維持と停戦を議論し続けました.しかし選択は,戦争か平和か,ではなく,虐殺か戦争か,であったのです.既得権のある政府は国連の介入を嫌い,反政府軍が優勢になってから,安保理は急遽フランスを中心とした軍隊を送りますが,それは虐殺を実行した軍隊に生き延びる時間を与え,隣国ザイールへの難民キャンプへ逃亡させて,その後のゲリラとなる機会を保証したのです.

ルワンダ大使は国際社会に,待つことではなく,その責任を果たして行動するように求めます.


FT March 20 2003

Philip Stephens: Different routes to security

By Philip Stephens

FT March 20 2003

John Plender: The sinews of war are Asian

By John Plender

LAT March 20, 2003

The Nation at War

By Andrew J. Bacevich

NYT March 20, 2003

Ready for the Peace?

By BOB HERBERT

(コメント) Stephensは,ブッシュの戦争には憤慨しますが,ブレアの主張には共感します.それは二つの異なった戦争です.ブッシュは,圧倒的な軍事力で「ショックと恐怖」を撒き散らします.ブレアは,新しい国際秩序を求めています.戦争目的は重要です.ブッシュの考えによれば,この戦争は9・11を二度と起こさないためのテロリストを育て,庇護するような専制国家に対する先制攻撃(その最初の一つ)なのです.ブレアは,ブッシュを突き動かす新保守主義の考え方を理解しつつ,それを新しい国際秩序に織り込むことを目指しています.しかし,内閣を去ったロビン・クックが指摘したように,ブッシュの戦争はブレアにも止められないでしょう.それはホッブス的な世界であり,力だけが正義なのです.

Plenderは,ブッシュの戦争を支えるもう一つの柱,資金,を考えます.勝利は常に資金によって決まる,と太陽王ルイ14世は考えたようです.ブッシュもドルが頼りです.しかし,バブル崩壊後,アメリカの金利は低下し,成長率も下がり,ドル価値が不安定化し,下落しています.にもかかわらず世界の中央銀行はブッシュ救援に馳せ参じ,特に,日本,中国,香港,台湾,シンガポールの外貨準備合計は1兆1000億ドルに達し,そのほとんどがアメリカ財務省証券などのドル建債権です.もちろん,各国は利他的な動機ではなく,自国の危機回避や競争力維持のためにそうしています.しかし,アジア経済がアメリカ以上の成長を実現する中で,これが持続するとは思えません.

ブッシュ政権は通貨市場を人質にとって,調整を拒むアジア諸国を抱き込み,ユーロ高を進めて,戦争に反対したフランスやドイツを苦しめます.しかしヨーロッパは,これを解決するために,金融緩和を躊躇させている硬直性や,安定化協定を解決しなければなりません.こうして当分は軍資金を得たブッシュ氏も,それだけでは平和を得られないことを忘れてはいけない,と言います.

Bacevichは,アメリカが軍事力を「最後の手段」ではなく,最も重要な外交政策の手段として利用し始めた,と指摘し,このような政治体制を「軍国主義」と呼びます.もはや国際主義も,国際的なルールも,自衛権でさえ,アメリカが自国の安全を確保し,自分たちのイメージに従って世界を破壊し,再建することに対して,異議を唱えることができないのです.それは,植民地から独立したアメリカが,建国以来,育ててきたイメージと全く異なります.イラクはアメリカにとって,一連の「悪」との戦争を始めた出発点に過ぎません.この道はどこに至るのか?

HERBERTも,ブッシュ政権が選択した戦争を,もっと良い選択肢があったはずだ,と批判します.この戦争は,国民が9・11のショックに苦しみ,フセインをその犯人に関わらせてイメージしたことや,ブッシュ氏が救世主のように振る舞い,その価値観で世界を再建できると吹聴したことによって,選択されたのです.爆撃と同時に,再建のための受注競争がアメリカ企業に起きて,石油資源にも幻惑されています.ヴェトナム戦争の痛ましい記憶を持つHERBERTにとって,こうした選択は受け入れがたいものです.


FEER March 27, 2003

Korean Unification Is Affordable

By Victor D. Cha

(コメント) Georgetown University のCha教授は,韓国の盧大統領が北朝鮮に対する矛盾した政策を改めるように説得しています.その根拠は単純です.韓国政府は,究極的に,朝鮮半島を再統一することが,北朝鮮の核武装を容認することよりも,コストが大きい,と考えている.これは間違いだ,というわけです.実際には,やり方によってドイツ再統一よりもコストを抑制することができるだろうし,北朝鮮の核武装を認めた場合のコストは甚大である,と説明します.特に,通貨や株価の下落,格付けの悪化,アジア域内の核軍拡競争によるコストです.

ブッシュ政権の新保守主義には受け入れられるとしても,この説得は失敗すると思います.韓国政府は,ブッシュ政権による軍事的なエスカレーションを拒んでいますし,同時に,北朝鮮の核開発も拒んでいるでしょう.国際機関や近隣諸国と協力して北朝鮮に圧力をかけ,平和的な移行を促すために経済援助を提供するつもりです.ブッシュ政権がこうした時間のかかる,自分の思い通りにならない選択肢を好まないとしたら,在韓米軍を引き上げるかもしれません.韓国政府と近隣諸国は,それに備えておくことでしょう.


NYT March 20, 2003

The War After War With Iraq

By TIMOTHY GARTON ASH

この戦争にも,新しい側面と古い側面が混じっている.スター・トレック型のハイテク兵器が飛び交い,原初的な兵士の闘争心が試される.アメリカはその軍事力に強い自信を持つが,国連に示される国際政治は過去の外交と同じだ.冷戦の頃の西側政治同盟は崩壊しつつある.イラク戦後の世界について,三つのモデルが考えられるだろう.

1.   ラムズフェルド型世界: アメリカの軍事力が正義だ.しかし,軍事力で戦争に勝てるが,それだけで平和は得られない.

2.   シラク=プーチン型世界: アメリカへの一極集中は悪だ.ヨーロッパは,オーウェル的な多元世界を目指す必要がある.しかし,中国やロシアは民主主義を重視しない.フランスはヨーロッパを一つにまとめられない.

3.   ブレア型世界: アメリカとともに戦い,アメリカに意見する.西側政治同盟を拡大できる.しかし,ブレアは余りにアメリカ政府に従いすぎた.ラムズフェルドとシラクが合意しなければ,ブレアの居場所は無い.


FT March 21 2003

Debating how to put Iraq back together again

By Stephen Fidler and Guy Dinmore

NYT March 21, 2003

After War, Let Iraqis Triumph

By NICHOLAS D. KRISTOF

WP Friday, March 21, 2003

Don't Go Back to the U.N.

By Charles Krauthammer

IHT Tuesday, March 25, 2003

Bush must spell out a real plan for postwar Iraq

James Schlesinger and Thomas Pickering

The Guardian, Wednesday March 26, 2003

The Garbo doctrine

Jonathan Freedland

WP Thursday, March 20, 2003

An Air of Empire

By Leon Fuerth

(コメント) 戦争を始めた理由や選択過程とともに,戦争を終結させ,再建を組織する目標や決定過程によって,この戦争の意味が問われるでしょう.しかし,各論説は浅い記述に留まり,本当の対立や意味を探り当てるのはもっと先のようです.

Fidler and Dinmoreが言うように,アメリカの占領計画は,これまでの国連型再建策とは異なり,戦後の日本占領に近いものです.他方,イギリスは国際法に依拠することを望んでいます.

KRISTOFの論説は,クウェートの超現実主義的な情景とアメリカの錯乱したイメージとを,うまく重ねて捉えています.ミサイルの警報サイレンが鳴る中で,ホテルの枕にはミントの香りが撒かれています.そして傍らに,政府の小冊子.「化学兵器による攻撃を受けた場合の防御策」.ヒルトン・ホテルのエアコンが効いた部屋に座って,アメリカ軍の軍人たちがラップトップ・コンピューターを開く.その脇には防毒マスク.

ブッシュ氏の希望通り,フセインを追い出した後,民主的で繁栄したイラクと中東地域が誕生するためには,二つの原則を守ることです.1.この勝利はアラブのものにすること.イラクでは政治的に冷遇されてきたシーア派を早急に政府代表として据えるべきです.2.石油利権に手を触れないこと.再建のコストは膨大だが,アメリカは油田利権を得ることが目的だ,と思われています.この汚れたイメージを転換することです.イラクの油田では決して再建費用を賄えません.戦後の最重要課題は,ガス・マスクをつけても,ミントの香水を撒いても拭えない,アメリカの戦争イメージを清めることです.

強硬派のKrauthammerは,戦後の再建策について国連を関与させてはならない,とブッシュ大統領に進言します.安保理において外交的に敗北させられ,多大なコストを払って国連に背を向けた末に,単独のイラク攻撃へ踏み出したことは,それによって新しい国際秩序を築く一歩であった.自分たちの血で勝ち取る安全保障の姿について,それに反対してきた諸国が口を差し挟む権利は無い.既にアメリカ国民は国連の正体を知って,それを見限ったのだから,と.

戦後再建にアメリカが,同盟諸国と相談して,自ら正しいと思う条件を示すべきだ.国連は世界的なマザー・テレサではなく,各国政治家の集まるソーセージ工場でしかない.50年以上も前の同盟諸国で作った組織など捨てて,新しい同盟諸国が緊密に助け合えば良い.北朝鮮に対してアメリカが交渉すべきだ,と一方的に押し付ける,中国などの勝手な言い分を聞く必要はない.国連を離脱し,破壊する必要すらない.放っておけば良いのだ.あんなところに戻るな,と.

Schlesinger and Pickeringは,具体的に四つの分野を示して,再建計画を求めています.@アメリカの長期的な関与と物的・財政的な支援を明確にする.Aイラクの民間人を守り,治安を回復する.Bアメリカの主導権を維持して,再建に関する国際協力を受け入れる.Cイラクの国民を移行過程の主役にする.こうして旧政権の復活や残滓を懸念することなく,アメリカに対して友好的な民主政府を前面に出し,国際的な復興支援も受け入れ可能になる,とアメリカは考えます.

Freedlandは,アメリカ政府が国際機関や国際法も役に立つことを思い出しつつある,と言います.捕虜を人間的に扱え,とか,写真を撮るな,とか.グァンタナモの米軍基地では忘れていたし,米軍のイラク人捕虜には適用しないけれど.戦後再建策でも,国連を看板にした方が正当性を得易い,と計算しているようです.しかし,だからといって政権内部の保守派の確信が修正されるわけでは無いのです.

Fuerthは,ブッシュがアメリカを「帝国」化する,と考えます.国連決議によってフセインを追放できたにもかかわらず,ブッシュ政権は戦争を望みました.強大な軍事力と強大な経済力,占領したイラクに基づき,事実上,OPECも支配するでしょう.アメリカがその意志を世界に示すとき,国際的なルールをすべて無視し,軍事力を使ってでも実現するのか? ということが問われています.それは諸国の共存するCommonwealthが終わり,Empireに従うことを意味する,と.イラクの戦後再建と同時に,国際的な共存のメカニズムを,早急に再建しなければなりません.


LAT March 21, 2003

For Arabs, a Cruel Echo of History

By Rami G. Khouri

(コメント) もし民主主義を問うなら,アラブの民衆が何を考え,何を望んでいるか,を知らなければなりません.彼らはブッシュの戦争を「解放戦争」とは見ていません.むしろ,これまで何世紀にも渡って繰り返されてきた,西洋列強により意図された,不正義で,不必要な,地域を破滅させる,戦争の一つなのです.アメリカが,いつ,誰を,なぜ,どのように政府から追い出すのか,アラブの民衆には説明されず,理解もできません.イスラエルが各地を占領したこととどこが違うのか? 多くのアラブ民衆にとって明確なのは,また西洋の軍隊が民衆を殺している,ということです.欧米からの介入が各地で試みた政治経済秩序は,民衆にとって不毛な,不幸なものでした.それは一部の追従者に富と権力を集中するものでした.アラブ民衆は,こうした現実を打ち壊し,改革,民主主義,近代的生活を得たいと願っています.しかし,それはアメリカ軍の銃口から生まれるものではないのです.


LAT March 21, 2003

Shocked, Awed and Grateful?

FT March 23 2003

Shock and awe and a clash of cultures

By Harlan Ullman

(コメント) アメリカ軍が採用した"shock and awe"戦略の起源は,広島・長崎の原子爆弾です.原爆を正当化する,アメリカでもっともポピュラーな理由が,それによって日本政府は本土決戦を諦め,戦争終結のために日米双方で生じたであろう戦死者が大幅に減った,というものです."shock and awe"戦略は,この「成功例」に依拠しているようです.

パウエルやラムズフェルドに支持されたHarlan Ullmanの著書"shock and awe"は,こうした原爆と同じ効果を持つ攻撃が,敵の戦意そのものを壊滅させるだろう,と主張するのです.原爆無しに「広島」を作れる,というわけです.多分,できれば,原爆の犠牲者も無しに.しかし,軍事的な優位が予め明らかでも,戦争の結果は予測できません.広島は,非戦闘員を含む都市全体を壊滅させ,大阪や東京に及ぶことを日本政府に覚悟させたのです.そして,核軍拡競争と非軍事的な諜報・反政府活動,第三国による代理戦争,あるいはテロと暗殺が,戦闘に代わって,主流となったように思います.

国連は,数万の戦死者,130万人の難民,イラク国民の半数(1200万人)の水不足,を予測します.しかしアメリカ政府は,戦意を失ったイラク軍と解放を歓迎するイラク民衆を期待します.それが幻滅に終われば,テロリストを葬るために,強硬派は原爆を倉庫から持ち出すでしょう.

Ullman自身は,こうした論調を抑制します.それは戦争の全体を捉えていないし,成否はイラクの戦後再建に懸かっている,と.この戦略の重要さは,人命を守ることにあるのです.ところが,イラク戦をめぐる欧米の文化的対立で,フセインはまるで悪者ではなく犠牲者の一人と見られています.戦後に,フセインの支配体制と,アメリカのもたらす平和と安定性とが比較されて,初めて戦争は終わるのです.


The Guardian, Saturday March 22, 2003

Military mind games

Mark Lawson

WP Tuesday, March 25, 2003

Shock, Awe and Overconfidence

By Ralph Peters

(コメント) この戦争は,もちろん,これまでにないような宣伝戦propaganda warです.Lawsonは,フセインが英米軍に紛争した暗殺部隊を組織している,という噂を流し,また,英米軍の攻撃計画として"shock and awe"戦略を喧伝し,実際は,フセイン暗殺を図ったことを,ジャーナリストたちを戦争広報室に囲い込んだpropaganda warの始まりと見ます.そして第三の領域,インターネットを巡っても,この戦争は拡大するでしょう.

Petersは,"shock and awe"戦略が実際の戦闘に代わるわけではないことを強調します.この戦略は,ナチス・ドイツが用いた電撃攻撃に似ています.それはベルギーに対して有効でした.しかしフセインのような恐怖政治を敷く国家の軍隊に対して,"shock and awe"をもたらすものとは,敵を殺すことだけです.いくら軍事施設を空爆して力の差を示しても,最終的には陸軍が都市を占拠し,抵抗する軍隊を殺すか,捕虜にして,制圧しなければなりません.短期の,死傷者を伴わない戦闘は,ほんの初期だけです.二つの文化,二つの原理が戦争しているのです.少なくとも,ブッシュとフセインとの間では.


LAT March 23, 2003

U.S. action is crucial to maintaining world order

By Gary Schmitt (executive director of the Project for the New American Century, a Washington think tank

(コメント) 強硬派のSchmittは,ブッシュの戦争がその目的によって正当化できる,と考えます.アメリカが圧倒的な軍事力を持って平和を維持している以上,その軍事的優位を危険であると非難するフランスのような意見は愚かなものです.ゲーリー・クーパーの映画"High Noon."で,平和な町の人々が保安官を非難し,追い出したことで,悪人どもが再び現れ,復讐し始めたのと同じことだ,と言います.今,退治しなければ,将来の被害はさらに大きくなる,と.ブッシュの戦争目的は,独裁を終わらせ,民主主義を実現することです.それゆえ,多くのイラク民衆もこの目的を歓迎している,と言うわけです.


LAT March 23, 2003

Good Foreign Policy a Casualty of War

By Arthur Schlesinger Jr.

我々は戦争を始めた.第二次世界大戦のように攻撃を受けたからでも,ヴェトナム戦争のように少しずつ踏み込んだのでも無い.我々の政府が選択したのだ.アメリカの外交政策は,平和裏に勝利した冷戦から,ブッシュ・ドクトリンに転換した.「予防的な自衛」という方針は,真珠湾を襲った大日本帝国が掲げていた醜悪な方針にそっくりだ.それゆえ,9・11のテロに遭ったアメリカへの同情は失われ,世界中で反戦の声が高まっている.ジョージ・W・ブッシュは,サダム・フセインと同じように,平和への脅威だ,という世論が主要諸国で示される.

ブッシュ・ドクトリンでは,アメリカが判事と陪審員と処刑人を兼ねる.しかし,こうした自薦による地位は,必ず腐敗を招く.すでに,宗教的に偏った司法長官が,憲法で保障された市民の権利を奪い,さらに法を曲げるだろう.

この戦争は,今までに無いほど,事前に詳しく議論が尽くされた.しかし,ブッシュ氏が戦争を決断した理由は天候であった.昼の陽射しが強まれば我々に不利であるから,夏までに戦争する.アメリカほどの軍事力を持って,このように瑣末な,愚かな理由で開戦を決定するのか? しかも,ブッシュ氏は勝てる相手だから戦争を始めた,という疑いを抱かせる.アル・カイダは発見できず,北朝鮮は核兵器を保有する.

ではなぜ議会は戦争を回避できなかったのか? なぜ民主党は崩壊し,反戦派は幼稚な左派に偏ったのか? その主な責任はアメリカのメディアにある.議会は果敢にブッシュ氏に論戦を挑んだ.エドワード・ケネディーやロバート・バードのような民主党の上院議員たちが,激しく,思慮に富んだ,反対演説を行った.しかし,メディアはそれを無視したのだ.他方,アメリカ国民の多くは今もフセインを9・11と間違って結び付けているし,フセインを倒すことがテロとの戦いに勝つことだと思っている.

フセインは疑いなく暴君だ.フセインが核兵器の開発に近づいていたという証拠も無い以上,人道主義的な国際介入が戦争の理由なのか? しかし,ブッシュ政権の幹部たちは,かつてイラン政府を牽制するために暴君としてのフセインを支援した者たちである.それでも本気で,世界中の専制君主を追放することがアメリカの新しい任務だ,と信じるのか? 

ケネディー大統領がかつて述べたように,私たちは事実を見るべきだ.アメリカは全知全能ではない.世界人口の6%でしかない国が,人類の94%を自分の意志に従わせることなどできない.アメリカが,世界中の問題の解決策では無いのだ.


NYT March 23, 2003

Factories Wrest Land From China's Farmers

By ELISABETH ROSENTHAL

CD 03/25/2003

Policy provides food for thought

(CHONG ZI)

(コメント) 中国農民の苦境を伝えるNYTの記事です.都市との所得格差は拡大する一方であり,人口移動が望ましいというのは分かっていますが,農民はどうやって土地を売り,その生活を保証し,新しい職場を見つけるのか,誰にも分かりません.土地の所有権は確立されておらず,農民たちは厳しい税金を負担しながら,地方政府の意向で,突然,土地を奪われます.開発区に指定したから耕作を止めて出て行け,と言われるのです.農民たちの多くは,そのような不正な売買を認めません.

都市の中間層はますます豊かになるのに,地方の農民は貧しいままです.土地を開発した利益は少数の者に集中しています.開発区への投資も非常に偏っています.土地を失った農民たちは町へ出て職を探しますが,しばしばゴミ集めのような仕事しか無いのです.

これに対して,CDの記事は,深?経済特区the Shenzhen Special Economic Zoneは,移民労働者に安価な医療が受けられる権利を認めました.中国政府は,移民労働者の待遇を改善することを決めており,この深?の政策転化が他の地区でも取り入れられることを望んでいるようです.しかし,それが成功する保証は無いでしょう.


WP Tuesday, March 25, 2003

A Fair Payment for War

By William H. Gates Sr. and Chuck Collins

(コメント) Gates Sr. and Collinsは,アメリカが戦争を始める一方で富裕層のための減税を行うことに警鐘を鳴らします.不動産税の廃止に議会が執着していることは,特に,歴史的な異常さを示しています.なぜなら,Gates Sr. and Collinsによれば,アメリカは戦争に応じて,国民の不動産や所得に税金を導入することを認めてきたからです.

もちろん,一方では,関税や物品税に頼ってきた初期の財政が,自由化によって維持できなくなったことがありました.フランクリン・ルーズベルトは,ヒトラーと戦うためには犠牲を分かち合うことが重要だ,と理解していました.今もまた,アメリカの若者が命を危険にさらし,国内では雇用や貯蓄が失われ,不況が深まる懸念もあるときに,議会は富裕層の税金を減らしたがっているのです.お金ですべては解決できないけれど,不況対策や公共支出に地方財政は財源が不足して,大幅な支出削減を進めています.ところが,戦争への議論で国民が税金問題を忘れている間に,議会は増税ではなく減税に奔走している,と批判します.


LAT March 25, 2003

Robert Scheer:

The Wraps Come Off Bush's Colonialist Agenda

戦争の行方はますます錯綜しているが,平和はさらに恐ろしい.なぜならブッシュ政権は,分裂し,重武装したイスラム教徒がいる国で,何万ものアメリカとイギリスの軍隊を数年間も駐留させ,テロリストたちの標的にさせるからだ.それは世界中にイスラム原理主義の革命を輸出する拠点となるはずだ.

もし武装解除するだけなら,数ヶ月の駐留で済む.大量破壊兵器の証拠を見出せないブッシュ政権は,戦争目的を武装解除から「国家再建」にすりかえた.しかし,この「体制転換」と中東の再編こそ,ブッシュ政権の新保守主義が目指してきたことであった.カーネギー財団の最新のパンフレットは,こうした経緯を整理して,組織された小集団が,多くの官僚や政治家が彼らを軽蔑しているにもかかわらず,大国の政策を決定してしまう典型的な事例だ,と述べている.

ブッシュはテキサスの田舎のことしか知らないが,今や,パックス・アメリカーナの粗野で危険な計画を採用した.彼は軍閥の支配するアフガニスタンを既に「民主的」と思うくらいだから,イラクがアメリカの軍人たちと,チェイニーの古巣,ハリバートン社やその他の軍事産業に支配されても,「イラク解放作戦」の成功を祝うだろう.しかし,世界の誰も支持しない.

サダム・フセインと彼のバース党は,この40年間,アメリカによって育てられたのだ.フセインが1988年に自国民を毒ガスで虐殺してからも,アメリカ政府はその責任をイランに転嫁し,ブッシュの父はイラクに12億ドルの追加融資を与えた.レーガンとブッシュの父が大統領であった時期に,アメリカ企業はイラクに炭疽菌やその他の生物・化学兵器を供給していた.イランとの戦争に勝てるように,今では大量破壊兵器と呼ばれている武器を使用するイラクに対して,ラムズフェルドがアメリカからの支援を特使として伝えた.

大量破壊兵器が戦争の原因ではなく,この政権の帝国願望が戦争の真の原因である.その証拠が見出せなければ,それを捏造してくることさえ,この政府の幹部ならやるだろう.

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The Economist, March 15th 2003

Saddam’s last victory

(コメント) The Economistは,アメリカが安保理を無視して戦争を始めたことで国連の役割が損なわれる,という考えに反対します.フセインは安保理に分裂を持ち込むことに成功しました.この短期的な成功が,彼の政権を延命できる結果にはならない点で,この独裁者の運命も尽きたのです.それは好ましいことです.

国連による査察が十分な成果を上げるためには,さらに時間を要したでしょう.The Economistは,それがフセインの分裂策と延命策でしかないなら,戦争することも支持できる,と言います.そして,今の査察や経済制裁を組み合わせた複雑なシステムが,多くのイラク国民にとって有害なものである,と指摘します.フセインの言葉は信用できないし,中東地域への脅威は疑い無いのですから.アメリカの偽善や,地域の安定性をむしろ損なう,という反対論にも同意しません.

問題は,なぜ安保理はフセインの武装解除で意見を一致できず,アメリカは安保理を回避して攻撃を決めたのか? です.The Economistによれば,安保理の合意が重要となったのは,アメリカが軍事的な支援を必要としているからではなく,政治的な支持を求めたからでした.しかし,先制攻撃やイラクに始まる一連の戦争計画は,国際社会を不安にしました.また,フランスの対応も不適切でした.フセインではなくアメリカに大量破壊兵器の証拠を求め,ヨーロッパ諸国やロシアを誘って反対派を組織しました.一極型よりも,多極型の世界を望む外交姿勢は,イラク戦の問題と区別して争うべきであった,と考えます.

The Economistは,二つの神話を批判します.1.アメリカも,他のいかなる国も,安保理に主権を譲渡したわけではなく,それゆえ開戦の決定は戦後の多角的国際システムや国際法を破壊するものではない.2.国連安保理は,各国議会が持つような政治的正当性を持つ機関(国際社会の代表)ではない.実際,安保理が承認した戦争は,第二次世界大戦後,三つしか無いのです.1950年の朝鮮戦争と,1991年のイラク(湾岸戦争),2001年のアフガニスタンです.その他のすべての戦争は,良かれ悪しかれ,国連安保理の外で行われました.アメリカのイラク攻撃は,決して一国ではなく,イギリス,スペイン,イタリア,オーストラリア,日本,クウェートなどに支持されています.しかも安保理では,常任理事国など,改革が進んでいません.

唯一の超大国としても,アメリカは友好と同盟を求めています.そのためには,各国が意見を交換し,戦わせるフォーラムが必要です.その有効な場所として,国連やNATOが改革されるでしょう.EUも,イラク戦をめぐる対立を克服しなければなりません.それらはすべて,戦後の課題なのです.


Charlemagne: Still sclerotic, after all these years

Economics focus: Revitalising old Europe

(コメント) ヨーロッパを,「古い(老人の)」国と「新しい(若い)」国とに分断したラムズフェルドの発言は,非常に効果的でしたが,重要な点で間違いでした.それは,若いヨーロッパも急速に高齢化していることです.ヨーロッパで福祉国家や社会市場論が放棄されることは無いだろうが,スウェーデン型の改革が避けられない,と議論しています.そのためには,労働組合の狭い利益に従っている政治が終わることだ,と.また,経済運営としては,@生産性を上昇させる,A移民を大量に受け入れる,という選択肢もありますが,現実的ではないでしょう.実際には,できるだけ多くの雇用をもたらし,年金制度を改革して引退を遅らせること,を重視しています.


Asylum: A strange sort of sanctuary

(コメント) 世界の難民受け入れは,時代錯誤に陥っている,とThe Economistは考えます.ナチス・ドイツからの亡命者を念頭に置いて,戦後の亡命者保護は認められました.しかし,移民への圧力は非常に強く,難民の審査は時間も費用もかかります.難民収容所や国内の反対は,現在のシステムを維持できなくしているのです.The Economistは,難民申請者に就労の許可を与えない試みや,流出諸国に援助を与えて協力する試みを支持しています.さらに,各国が難民審査の基準を多角的に調整・合意し,難民が流出する国の近くに国際的な避難所を設けて,その後の帰還を促すメカニズムを展望します.