IPEの果樹園2003
今週のReview
3/24-3/29
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ブッシュは戦争を始めた(小泉はそれを支持した),という意味で,日本の多くの人はブッシュ大統領を非難し,小泉首相を批判します.しかし私は,彼らが有権者の意見を代表し,選挙を常に意識している政治家である以上,他人事のように批判するのは間違いだと思います.
たとえ(絶対に「悪」と言われる)戦争をめぐってでも,彼らの選択を,他の現実的な選択肢と比較して評価する必要があるでしょう.たとえば,その基準は三つです.1.何が政治的な目標か? 2.現在,可能な選択肢は何か? 3.長期的に,可能な選択肢をどうやって増やすか?
戦争は,政治の終わりではなく,継続である,という古典的な議論だけからも,新聞やテレビの論調に私は納得できません.戦争は終わりではないし,戦闘における勝利は,必ずしも戦争に勝利することを意味しないのです.また戦闘と同様に,反戦だけでは独裁者のミサイルやテロを防げない,ということも,彼らは説明するべきです.現代の戦争は,物理的に他国を消滅させるとか,植民地として併合するのが目的ではありません.その住民をすべて虐殺するとか,奴隷として服従させたりすることはないのです.人間性を基本的な価値とする国際秩序の下では,そのようなことは不可能です.
なぜフランスやロシア,ドイツ,イギリス,中国,メキシコ,オーストラリア,トルコ,あるいは韓国や日本,その他の諸国は,はるか遠くの砂漠における「ブッシュの戦争」を,支持したり,反対したりするのでしょうか? それぞれの国が,この戦争の異なった意味を重視しているはずです.石油資源や中東和平,ヨーロッパの政治的結束,国際政治における発言力,台湾海峡や朝鮮半島の紛争処理,アメリカ一辺倒という批判,財政・金融危機の緩和,など,など.アメリカが動けば,他の国と違って,すべての要素が動くのです.
原爆を除いて史上空前の破壊力を持つ,2万1000ポンド爆弾,「すべての爆弾の母」,を開発し,イラク軍と国民を恐怖に染めよう,というアメリカ軍の計画を,ここまでやるか,と,愉快げに伝えるTVニュースを観ました.おそらく,その原初から,戦争という政治は人々を大規模かつ残虐に殺し,そのことによって生きている人々に深甚の恐怖を与えて,他者を服従させる行為なのです.それゆえ,記者たちを連れて戦場を政治テーマ・パークとし,情報統制しつつ戦時広報室を設けて宣伝材料を与え,イラク国営ラジオを電波ジャックし,フセイン一族の暗殺を目的に軍事作戦を起こし,爆撃しつつ救援物資をばら撒くことも,戦争,の一部なのです.
私にとって,開戦を告げるブッシュ大統領の説明は型にはまった押し付けがましいものでした.他方,シラク大統領の主張は価値ある反論でしたが,原則を美化して,アメリカ政府との交渉を導くことに失敗しました.私は,小泉首相の直截な説明に彼の政治家としての斬新さと美点を感じましたが,もっとも感銘を受けたのはブレア首相の演説でした.「今夜,イギリス人兵士は,陸・海・空から軍事行動に参加した.」 なぜイギリス首相として彼はそれを決断したのか? ブレアは直ちに国民に説明しました.
1.戦争の目的は,サダム・フセインを権力の座から追放し,イラクの大量破壊兵器を取り除くことである.2.イギリスは,国際社会とともに,新しい脅威に直面している.大国間の戦争ではなく,フセインのような野蛮な指導者が君臨する国家が,大量破壊兵器やテロリスト集団によって秩序を破壊する恐れがある.3.戦闘に参加しなくても,この脅威から逃げることはできない.4.サダムを失脚させることはイラク国民の利益になる.われわれはイラク国民の味方であり,その野蛮な支配者が(共通の)敵である.5.戦後の人道的な秩序を,全面的に支持する.イラクの民主主義を支援し,石油からの収入はイラク国民のためだけに使える国連の信託基金とする.6.イスラエルの安全とパレスチナ国家の復興を基礎にした,中東地域全体の平和を支持する.7.貧困,環境保護,病気の撲滅には,秩序と安定が必要である.独裁者やテロリストはそれを脅かす.だから私は,イギリスの軍隊に行動を起こすよう求めた.(BBC News, 2003/03/20)
ブレア氏は,こうした形で国際的な合意形成や協調のルールを重視し,アメリカの行動に一定の条件を課そうとしています.イギリスの和平案をめぐって国連は動くでしょう.アメリカとともに戦争に参加することは,単に,アメリカの世界秩序に加担することを意味しません.
いずれの国も,戦争への参加を決めるのは国内の政治秩序=目的です.そしてグローバリゼーションの時代に,超大国アメリカで選ばれた政治指導者ブッシュ氏の暴走を止めるのも,市場です.「新しい金融アーキテクチャー」などの国際通貨制度改革論を彼が葬ったことで,結局,ドル価値が不安定になれば,ブッシュ・ドクトリンを誰もまじめに受け取らなくなるでしょう.
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg, FEER:Far Eastern Economic Review, CD:China Daily
FT March 8 2003
The dicey dollar
ドルが安くなる理由を人々は探す.アメリカの雇用統計が悪かった.十分な利益をもたらす新規投資の機会が乏しい.戦争の不安.不確実性.1年前のピークに比べて,貿易額で調整したドルは14%,ユーロに対しては25%も,減価した.そのもっとも単純な真相とは,ドルがあまりにも長い間,高い崖の上に腰掛けていたことだ.
1990年代にドルは流行に乗って増価し,経常収支の赤字は無視されてきた.アメリカに投資することは儲かったので,外国投資家たちはアメリカ資産を買い,ドルが増価し,さらに輸出入の差が開いた.こんなことは続けられなかった.収益が失望をもたらすと,2000年と2001年に外国からの民間投資は半分に減った.直接投資は崩壊した.それでもアメリカは年間5000億ドルの資本流入を必要としたから,ドルが下落し始めた.ドルの減価は,外国投資家にとって,ますますドル資産の収益を悪化させ,資本が集まらなくなった.
こうして資本流入が衰えれば,ドルの好ましい穏やかな減価が,危険な壊滅状態に転化するかもしれない.政府債務の40%,社債の26%,株式の13%を外国投資家が保有するアメリカは,ドル資産への需要衰退に弱い.ドル価値の些細な下落から,経済の甚大な混乱,輸入削減,アジアやヨーロッパの輸出不振による不況,が生じる.為替レートの大幅な変動リスクにさらされない金融市場はない.
1980年代後半の変動に比べて,現時点のドルの変動は小さい.今のところ,アジア諸国の政府が自国通貨の増価を阻止するためにドル資産を購入している.しかし,このような重商主義は無限に続けられない.
世界は望むしかない.アメリカ資産への信頼が一気に消滅しないように.イラクの武装解除が速やかに進むように.アメリカの経常黒字が,アジアとヨーロッパの成長回復で,徐々に解消されるように.我々は1990年代後半にアメリカの赤字が急激に増えてから,それを祈ってきた.今も,適わぬ望みではない.しかし,望ましくない結果が起きるリスクは高まっている.
BL 03/09 21:09
China's Own Little Asian Financial Crisis?
By William Pesek Jr.
(コメント) 中国に関するPesek Jr.の悲観的な予想は,当然,多くの者も気付いていることです.
1997年のアジア危機がそうであったように,中国の投資は効率性を無視して,浪費されている.それにもかかわらず,1990年代のIT投資家がそうであったように,投資すれば儲かると思い込んでいる.世界企業は,13億人の市場,に魅了されているのだ.しかし中国の成長は,政府が銀行の融資を誘導して,さまざまなインフラ投資と,ますますデフレになる過剰な生産設備とに,貯蓄を消耗している間しか続かない,と.
日本の不良債権に関心が集まっている間に,中国の銀行も返済の見込みが無い貸付を増やしている.政府が止めなければ,資産が少ないから,その破綻は一気に日本以上の深刻な影響を示すだろう.今,ブームを煽るのは,後に支払う,そのツケを膨らませる.
FT March 10 2003
IMF independence
(コメント) イギリス大蔵省の顧問Ed Ballsは,ワシントンで講演し,IMFの最も重要な役割は何か? と問いました.そして彼は,それが融資や金融改革への技術支援ではなく,加盟国の政策の健全さを示すこと,すなわちサーベイランスである,と主張しました.
Ed Ballsは,世界資本市場において,信頼できる透明なサーベイランス(政策監視・評価)がますます重要になる,と考えたわけです.サーベイランスが確立されれば,@大規模な通貨危機を未然に防ぎ(危機の予防もしくは「先制攻撃」),A優れた経済運営の国に対する信用を高め(報奨制度),BIMF融資の健全さを維持する,というわけです.この点は,市場の規律を重視し,アメリカの国益を最重視するアメリカの主張と,少し異なるでしょう.
では,どうやって実現するのか? これについて,Ballsは「中央銀行の独立性」に比較します.IMFが,大国からの要請やデフォルトの危機に促されて融資を繰り返すことは,サーベイランスを無駄にするからです.融資が捜査されるなら,サーベイランスの信頼は得られません.そこで,IMFの独立性を求めました.中央銀行というのは,その判断が公平で,政治的な思惑から切り離されているから,信用されるのです.さらに,組織を分割し,IMFの専務理事会が融資を(政治的な責任を持って)決定し,それとは独立に,政策をサーベイランスする機関と,専務理事会や外部に情報を公開して,リスク評価を促す機関とを設立する,と言います.同様に,再建計画についても,同じことが言えるでしょう.
これは,国際管理を重視するイギリスの主張です.市場型の統合が進めば,アルゼンチンやイラクのように,危機に際してIMFや国連安保理の改革が一気に重要になるでしょう.軍事力を持たずに平和や繁栄を維持することを本気で目指すなら,日本にも具体的な方策が必要です.
FT March 14 2003
New role may be too costly for Americans to bear
By Alan Beattie
(コメント) アメリカの新しい国際秩序は,冷戦でもなく,帝国でも無い.そこでBeattieが重視するのは,そのコストです.
たとえどれほどアメリカ国民が,自分たちの安全保障に対する潜在的な脅威に,世界中で先制攻撃する新保守主義のブッシュ・ドクトリンを賞賛しても,それを実現するコストを無視することはできません.トルコ,北朝鮮,コロンビア,イラク,アフガニスタン,フィリピン,イエメン,ボスニア,・・・ その際限ない軍事介入や援助は,民間部門の成長を(増税や高金利によって)犠牲にするでしょう.優秀な人材を,銀行やバイオ技術の開発から国務省やCIA,軍隊に振り向けることが,90年代の生産性上昇を持続させる方針とはなりえません.
Beattieは,新しい国際秩序がアメリカにとって高くつく理由を,@世界の安全保障を,一国で,無際限に追及する.A唯一の超大国として,トルコがしたように,同盟国として協力する条件を吊り上げられる.B同様に,戦後の再建にもコストがかかる.C帝国は,利益を上げるか,市場を利用してコストを転嫁できた.しかし,現代のより自由な世界市場では難しい.D占領軍による権限が一時的で,弱い場合,コストを誰にも押し付けられない.Eしかも,財政赤字が膨張しつつある中で,財源をめぐる選択はますます厳しくなる.
双子の赤字を放置して,アメリカ政府がブッシュ・ドクトリンの幻想を振り撒くのは,再選までの政治ショーです.結局は,ジョンソンの「偉大な社会」と同じように,ブッシュ・ドクトリンも国民に見捨てられるでしょう.
FEER March 20, 2003
A Bond Fund for Asia
By Ramkishen S. Rajan
(コメント) かつて私も,アジア諸国が債券市場に共同介入する可能性は無いのか,と考えたことがあります.しかし,その仕組みも影響も,よく分かりませんでした.少なくとも当時(そして,その後はもっと),アジア諸国は大量のアメリカ政府債を外貨準備として保有していました.他方,銀行は通貨危機と不良債権処理で機能を弱め,国民は十分な貯蓄を行いながら,景気後退に苦しんでいたのです.アジア地域内に,国民から信用される共同の資本プールがあれば,危機に際しても,アメリカに資本逃避する必要はなくなるはずです.
その最も端的な実現方法は,アジア債を発行し,健全に管理することでしょう.最近,タイのタクシン首相は,実際に,アジア債券基金(ABF),を提唱しました.アジアの各政府が,外貨準備の1%を,自発的にこのアジア債に投資するのです.同時に,アジア信用機構を設置して,その発行や購入に関する助言を行います.
その主な目的は,@銀行融資から債券市場への移行を促し,A外国投資家の心理的転換から身を守り,B外貨建の借入れにともなうリスクを減らし,C地域内の流動性を維持することです.
そのためには,アジア債が長期のアジア通貨建(主要国の通貨か,共通単位)で発行されることが望ましいでしょう.しかし,ドルの外貨準備を,その価値が怪しいアジア債に振り替えることは,特に(アジア債の管理に影響力を持たない)小国が反対するでしょう.その妥協策として,ドル建でアジア債を発行し,それが政府だけでなく域内の企業にも拡大すれば,域内の資本市場を形成できるかもしれません.
それはドル化政策や,アメリカの薦める世界資本市場統合とどこが違うのか? もし危機に際して流動性を維持するために,ドル建のアジア債を中央銀行が自国通貨で割り引くというなら,アメリカの金融政策に対する自律性を,共同の外貨準備(管理と市場介入)と金融政策協調で確保しなければなりません.ABFが,日本や中国の政争の具や,小国の無責任な財政赤字を補填する場となれば,次の危機はさらに急速に波及し,激しいものとなるわけです.
私はABFを支持します.しかし,その政治的・経済的条件は,まだ見えてこないのです.
FT March 14 2003
Banking on a crisis
FT March 16 2003
Central banks have plenty of ammunition
By Stephen Cecchetti
(コメント) みずほ銀行が,1兆円を超える優先株の国際売却を諦めて,国内の子会社や関連企業,生保に株式を買い取らせました.FTは,日本政府・金融機関が1989年のバブル崩壊から,今に至るまで,金融部門の建て直しについて何も学んでいないことに嘆息します.公的資本を注入して,経営陣を刷新し,金融部門を立て直さなければ,経済は回復しない,と考えます.
他方,Cecchettiは,デフレが進めば,ゼロ金利においても(日銀のような)中央銀行が刺激策を採るべきだ,として,今まで考えられなかったような,政府の長期債(長期国債)を購入することも支持します.ただし,中央銀行がどれほど国債を購入すれば,どのような経路や速さで,効果があるのか? 誰にも分かりません.それゆえ,ゼロ金利における刺激策を用意するとともに,それ以前に金融緩和を行い,またインフレ目標を高めにするべきだ,と考えます.
NYT March 13, 2003
Bombs and Blood
By BOB HERBERT
WP Saturday, March 15, 2003
A War That Should End
By Ellen Goodman
(コメント) HERBERTは,アメリカ人の多くが,リビングに座ってテレビを見ながら,この戦争をサダムの追放劇と見なし,支持していることに不満を示します.戦争は,もちろん,人を殺すのです.おびただしい爆弾を落とせば,その華麗な実況中継の後には,死者の埋葬や病人が映り,果てしなく続く難民が登場します.どれほど武器の精度を上げても,市民が犠牲になることは明らかです.すでに戦争前から,イラクの子供たちは悲惨な状態でした.彼らにとって,戦争は何よりも苦しいものです.自国の優れた軍事力を賞賛して戦争を支持する者は,戦争で苦しみ,死んで行く子供たちのことを,忘れるべきではないでしょう.
300発の精密誘導爆弾やミサイル,「すべての爆弾の母」というニックネームの超巨大爆弾,それらが勝利をもたらしても,後には,その3分の2が政府の食糧援助で生活している2400万人のイラク国民が残ります.戦争以外に,もっと良い選択肢があったのではないか?
Goodmanは,1998年にテキサスで,同性愛によって逮捕された二人の権利を無視する最高裁とアメリカ社会を,もう一つのタリバン体制,として批判します.同意の上で成人がSexの楽しみを追求することにも,政治や法律が干渉することは,さまざまな社会で行われてきました.戦争だけでなく,愛し合うことも,政府が指図するのか? と.
NYT March 15, 2003
Uncertain Economy Hinders Highly Precise Supply System
By DANIEL ALTMAN
(コメント) もし戦争が,生産や消費の世界的連鎖を解体すれば,どうなるのか? 安全保障上の再分割が,世界的な規模の貿易や投資の配置を大きく動揺させて,パズルの台紙を決めるわけです.世界を市場としたアメリカの多国籍企業や,そうした企業にOEM供給する台湾やシンガポールの中国工場が,イラク戦の最初の犠牲者になるでしょう.戦争は,グローバリゼーションの次の条件を決定します.
LAT March 16, 2003
Muskets and Nukes: the Patterns of Proliferation
By Jared Diamond
1万5000年前の弓矢の時代から,軍事技術の拡散は戦いの性質を変えてきた.急速に普及した技術もあれば,拡散することなく,禁止されたものもあった.歴史は,北朝鮮への対応について,有益な教訓を示している.
ニュー・ジーランドの「マスケット戦争」と呼ばれる事例を考える.先住民のマオリ族は,石器や木製の武器で,しばしば部族間の戦争を繰り返していた.彼らの軍事力は拮抗し,大量虐殺は起きなかった.しかし,ヨーロッパの商人たちが19世紀前半にマスケット銃を持ち込んで,この均衡が崩れた.ヨーロッパではナポレオン戦争で必要な武器が生産されてしまい,その後は輸出されるようになった.
1818年から1835年まで続いたマスケット戦争で,マオリ族の人口はその4分の1が殺された.銃を得た部族が周辺の敵対する部族を征服し,1000マイルもの支配圏を得て,奴隷とした.銃を持たない部族は,生き残るために必死で銃を得ようとした.銃で防戦した部族は,征服にも乗り出した.こうして新しい均衡が現れた.銃の普及で部族間の戦いは抑制され,戦死者は減った.
新しい軍事技術が均衡を破壊することは明らかだ.しかし,技術によっては普及しなかったものもある.たとえば軍艦の建造を規制した1922年のワシントン条約や,二度しか使用されなかった核兵器,第一次世界大戦でドイツが開発した化学兵器,である.その理由はさまざまだ.軍艦の建造や維持は莫大な費用がかかる.他国が持たなければ,そもそも持ちたくない.原爆は冷戦によって相互確証破壊が米ソに認められ,他国への流出を阻止した.ドイツが化学兵器を生産しても,同時に,イギリスやフランスは容易にそれを量産できる能力を持っていた.ダムダム弾の使用禁止は続いたし,日本では刀で武装した支配層が銃の使用を禁止した.
軍事技術は,使用されなくても,それを保有するだけで敵を服従させる.北朝鮮がミサイル実験や核開発を公表した際に,周辺国がどのような反応を示したか.北朝鮮は,既に他の8カ国も核兵器を保有している,と言うが,5大国の指導者たちは互いに核戦争を行わない政治的な成熟度を示している.また,インドとパキスタンも互いに相手を牽制するためだけに保有しており,イスラエルはアラブ諸国から自国の生存を守る最後の手段として理解できる.しかし,北朝鮮の歴史は異なる.その挑発行為や予測不可能な振る舞い,自国民を悲惨な状態に陥れる性向は,核による脅迫に対して,合理的な交渉を難しくする.北朝鮮の核保有が,技術や兵器の輸出を通じても,韓国や日本,アメリカへの直接の脅威となる.
このままでは,新しいマスケット戦争が起きるだろう.世界秩序に対する金正日の脅威は,サダム・フセインよりも大きかった.今思えば,イスラエルがイラクの原子炉を先制爆撃したのは正しかったし,1936年にヒトラーのラインラント再武装を阻止しなかったイギリスとフランスは間違っていた.北朝鮮の核開発も未然に阻止するのが正しい.しかし,それは通常兵力による戦争を引き起こす.最初の一週間で,非武装地帯に駐留する韓国とアメリカの兵士が10万人も死亡すると予測される.
おそらく北朝鮮は,食糧援助を求めて脅しているだけであろう.しかし,その交渉には,アメリカと他国の国民を説得する,アメリカの指導的役割が欠かせない.しかしそれこそ,彼らがイラク戦で失敗したことだ.
NYT March 16, 2003
Repairing the World
By THOMAS L. FRIEDMAN
(コメント) 政治的嗅覚の鋭いFRIEDMANは,ブッシュの戦争に何が欠けているか,を指摘します.アメリカはこの18ヶ月,世界を9・11で受けた自分たちの恐怖に同調させようとしてきました.その一方で,アメリカはかつての世界に対する進歩的秩序や繁栄のイメージを失ってしまいました.イラクとの戦争にブッシュ政権が求めているのは,テロリズムに対する勝利だけです.FRIEDMANは,イギリスのブレア首相の演説と対比します.ブレアは「世界を改善し,修復する力」を求めています.環境破壊に対する彼の演説や,中東和平に関する演説には,ブッシュ氏が持ち得ない,国際合意や市民的平和を目指す世界改革が示唆されています.ブッシュ氏も,ジョン・ウェインだけでなく,ジョン・F・ケネディーをもう少し真似てみてはどうか?
LAT March 16, 2003
Being Antiwar Isn't Enough
By Daniel Terris
(コメント) 反戦運動が,ブッシュ政権の新保守主義と同じような,単純化された思考,に陥っていることをTerrisは危惧します.「平和」とは,戦争が無い状態,ではないはずです.平和は,その社会が人権を重視し,民主主義的な統治を実現していることと無関係ではありません.反戦運動は,「軍事技術の発達」と「人権に対する国際社会の意識」という点で,世界が根本的に変化したことを認識していません.
ブッシュ政権の,国際秩序を無視した,一方的な先制攻撃を批判することは必要です.しかし,強硬派は安全を重視し,反対派は人権を重視する,というのでは,人権を無視して軍事的な征服を始めた独裁政府が国際的な脅威となることを,事前に阻止できません.ブッシュ政権が国際社会を説得する努力を最初から持たなかったことは確かです.(独裁であれ,戦争であれ)暴力行為が行われる前に,それを阻止する草の根からの民主的活動に,強い支援を与える指導力が発揮されることを,世界は望んでいます.
反戦運動は,平和のための犠牲についても無自覚です.先制攻撃を批判し,そのリスクを強調することで,反戦運動は21世紀に相応しい国際人権擁護の選択的行動をも放棄してしまうでしょう.軍事介入に必要な基準と,その目的に見合った行動を要求することこそ,人権や民主主義に依拠した平和を世界的に実現する姿勢である,と主張します.
CD 03/17/2003
Economists push for foreign exchange funds
XIAO MIN
CD 03/17/2003
Experts suggest money zone
(コメント) 中国政府は,増大する外貨準備を,有効な海外投資として利用する方策を検討し始めています.外貨準備基金として,中国市場に参入が認められた外国証券会社に運用させることも,その一つです.個人や企業は,増大する外貨収入を外貨預金して国内の銀行に委ねるか,B株を購入するしかない,と言います.しかし,B株市場は魅力が無く,個人の外貨預金と取引が増え続けているわけです.この運用を個人ではなく信託として機関投資家が行えば,海外投資に向かう割合は増えるでしょう.
その信託の規模や条件を,政府はどう決めるべきでしょうか? 中国はWTO加盟で受け入れた金融自由化に向けて,資本勘定取引の規制を緩和し,次第に為替レートを弾力化していくと思われます.しかし,その際に通貨危機を引き起こさないためには,政府が影響できる形で外貨準備を十分に維持しておくことが重要です.また,銀行からの外貨預金流出も心配です.
この問題は,アジア通貨の安定化とも関連します.Robert MundellやRobert Boyerが,ユーロに習って,アジアでも金融・通貨統合を進めるべきだ,という意見を表明しました.Mundellは,政治的な条件が異なるから,アジアでは単一通貨ではなく,通貨圏を目指すべきだろう,と述べたようです.それはアメリカ・ドルに対して,アジア諸国が各通貨を共同で安定化し,共同フロートすることを意味します.
アジアが既に進めつつある自由貿易圏は,通貨を相互に固定するアンカーを必要とし,そのために初期の段階ではアメリカ・ドルが採用されるだろう,と考えるのです.既に香港,中国,マレーシアがそれを実行していること,人民元のフロートや切上げは好ましくないこと,日本が円の対ドル・レートを120円近辺で安定させること,をMundellは主張したと伝えています.円がもしドルに対して安定した変動を示すなら,アジア諸国のアンカーとして相応しいが,円の不安定さは日本の財政・金融政策をも制約し,停滞を長引かせている,と語ったようです.
他方,Boyerも,アジア通貨危機のひとつの原因を円・ドル間の為替レートが大きく変動したことに求め,ヨーロッパがユーロによって域内の通貨危機を解消した,と指摘しました.
NYT March 17, 2003
With Ears and Eyes Closed
By BOB HERBERT
ST MARCH 18, 2003 TUE
Iraq war could bring about regime change - in America
By Leon Hadar
WP Monday, March 17, 2003
Ignoring The Unthinkable
By Fred Hiatt
FT March 18 2003
How to win the peace in Iraq
LAT March 18, 2003
To an Uncertain Destination
NYT March 18, 2003
Things to Come
By PAUL KRUGMAN
(コメント) HERBERTは,イラクとの戦争はかなり前からブッシュ氏の心の中で決まったことであった,と振り返ります.政府高官たちが交渉や譲歩を口にするとしても,それは何の意味も無かったようです.戦争以外の解決策を摸索したことも,無駄に終わりました.イラクに自由と民主主義を取り戻すことを,ブッシュ氏は戦争目的に挙げました.しかし,国務省の秘密報告が示したように,この地域で民主主義を確立できる見込みは非常に乏しく,基本的な安定を達成するだけでも数年を擁するでしょう.
Hadarは,イラクとの戦争がアメリカの国内政治によって決まり,その結果が国内政治を動かす,と指摘します.政府が議会にイラク戦支持を決めさせたのは中間選挙の直前であり,民主党は大統領への批判がしにくくなりました.また,次の大統領選挙は既に2003年から準備が始まり,戦争の結果に影響されます.戦争によってブッシュ政権は経済運営が難しくなり,民主党に批判されるでしょう.世論は必ずしも戦争支持に統一されていません.戦争が,3週間以内に,双方の死傷者を抑えて,しかも原油価格の高騰を招かずに終結できれば,ブッシュ氏は支持を拡大できる,というのがワシントンのジャーナリストたちの見方です.
Hiattは,イラク戦よりももっと大きな脅威を描きます.すなわち,もしテロリストがニューヨークのグランド・セントラル駅で10キロトンの原子爆弾が爆発させたら,50万人が一瞬で死亡する.マンハッタンは壊滅し,風向きによっては島全体から非難しなければならない.その直接の経済的被害は1兆ドルに及び,間接的なコストは計り知れない.にもかかわらず,政府は十分な核技術や核物質の国際管理をまるで実現できていない.この戦争が,それに必要な対策をさらに遅らせるだろう,と.
FTは,外交や世論の焦点が,戦争の是非,だけに向けられたことを後悔します.現代の最も憎むべき独裁者の扱いではなく,アメリカの一方的な姿勢と権力の濫用に対する批判が議論の中心となったからです.国際安全保障の優先順位を合意することや,外交と軍事介入との正しいバランスを決めることこそ,もっと議論されるべきでした.そして,今後,最も重要なことは,アメリカとイギリスが戦争目的を定義し,イラク戦の後の復興をどのように進めるか,を国際社会が合意することです.アメリカが自分の思うように占領支配できる,という幻想を捨てなければならないのは当然です.
LATは,国連安保理から外れてフセイン打倒に動き始めたアメリカ政府の不確かな将来を懸念しています.その不安感と怯えは,アメリカを失う世界の他の地域にも及ぶでしょう.アメリカは21世紀の植民地保有国になるし,もはや外交交渉は信用されないだろう,という怯えです.
KRUGMANは,軍事予算が14億ドルしかないイラクが4000億ドルのアメリカに勝てないのは明らかだし,この戦争で勝利してもアメリカへの不信は拭えず,それを軍事力によって代えることもできない,と言います.なぜならアメリカは,貿易赤字を支払うために毎年4000億ドルのアメリカ向け投資を外国に依存しており,さもなければドル価値は下落して,財政赤字を賄うことが非常に難しくなるからです.ところが,この戦争をもたらしたブッシュ政権の新保守主義者たちは,イラクの次はイランも,シリアも,北朝鮮も,軍事的に制圧しようと考えています.それがもたらす国内の事態こそ,最も恐ろしいものとなるでしょう.
BL 03/18 11:22
Greenspan of Asia? Search Is on as War Looms
By William Pesek Jr.
ST MARCH 19, 2003 WED
A bit of inflation may pull Japan out of deflation
JOSEPH STIGLITZ
(コメント) アジアのグリーンスパンを求める声が,アジア経済に広がっている,とPesek Jr.は言います.さまざまな不安が増す中で,アジア通貨の統合と経済への刺激や経済主体の改革と淘汰を指導できる中央銀行総裁が待望されているのです.もし正常な条件であれば,日本銀行総裁がその座を占めるでしょう.しかし,日銀はゼロ金利のまま,景気の回復にも,金融システムの改革にも失敗し続けています.彼らの願いは当分かなえられそうに無いわけです.
そこで,STIGLITZが支持するのは,政府の追加支出を日銀が通貨の増発で賄うことです.これによって景気を刺激できるでしょう.インフレの心配や日本経済もしくは円に対する不信については,経済の余剰を慎重に取り除く程度に行うなら,問題にならない,とSTIGLITZは考えます.むしろ構造改革を促し,好循環が期待できます.そしてアジア経済の回復にも繋がるのです.私は,追加的な財政支出が経済再生のために工夫されるなら,このシンプルなアイデアに賛成です.
WP Tuesday, March 18, 2003
Pearl Harbor 2003?
By Frederick W. Kagan
(コメント) Kaganは,北朝鮮が2003年に真珠湾攻撃を再現する恐れがある,と言います.アメリカの兵力は大西洋に偏っており,北東アジアの急速な経済変化に見合った安全保障体制を構築できていません.日本は,1941年12月に同じような状況を利用して,真珠湾攻撃を行い,アメリカのアジア政策を転換できると考えたのです.北朝鮮に対して,そのような企てを決して許さない準備が必要だ,と主張します.
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The Economist, March 8th 2003
Rebuilding Iraq: After the war is over
(コメント) イラクの民主的再建が「困難で,混乱に満ち,危険である」こと, “very, very, very nasty affair”であることを,この記事は詳しく説明しています.そこで思い出すのは,日本政府が戦闘行為に決して加わらないと主張しながら,同時に,戦後の復興には積極的に人や金を出すと約束していることです.英米が軍事力によって独裁者を取り除き,日本などは戦後復興支援を国連の合意に基づいて実行する,ということでしょう.この二つが妙に切り離されているようで,強い疑念と不安を感じます.
イラクが成立した事情から,記事はその不安定さを説明しています.この土地は,オスマン・トルコの三つの地方をイギリスが占領して誕生しました.イギリスは石油資源を確保するためにここを支配し,結局,2万人の兵士が命を失いました.イギリスは植民地統治者として,都市部のスンニー派エリートの代表による間接統治を試みましたが,1920年に部族叛乱が生じ,マスタード・ガスを使ってようやく鎮圧しました.その後,イギリスが支援する君主制が樹立され,1958年まで維持されましたが,三度のクーデタを経て,サダム・フセインがこの地を支配したのです.
1970年代後半までに,フセインは独自の国家を建設しました.国民は服従と交換に,気前の良い国家サービスを与えられました.そのイデオロギーであるバース主義Baathismとは,社会主義と世俗的(非宗教的)な「アラブ・ルネッサンス」とを結び付けたものであり,ヨーロッパのファシズムに似ています.サダムは,アラブ・ナショナリズムを主張しながら,実際には,部族間,宗派間,民族間の対立を利用し,少数派の抵抗を叩き潰してきました.国家を挙げてのサダムに対する賛辞が,彼を神話的な英雄にしています.
イラクは今も傷ついた分裂国家です.フセインがもたらした戦争と国連制裁によって,非近代的な,分断化がさらに進みました.教育のあるエリートたちは,その多くが国を去りました.バース主義の破綻や宗教の利用による反発から,世俗化が遅れています.生活水準は悪化し,ほとんどの家族が政府の食糧援助に依存しています.子供の4分の1が栄養失調です.信頼できる市民組織は無く,安価な武器と宗派・民族・家計による忠誠が支配的です.南部のシーア派は抑圧され,西部のスンニー派を信用しません.北部のクルド人は自律をめざし,その他の部族が各地にいます.クウェートの社会学者は,フセインが武器とトヨタのランド・クルーザーを与えてくれるから彼らは忠誠を示しただけであり,彼らを信用することは全くできない,と言います.
フセインの支配体制が完全に崩壊し,新しい体制の利益を確信するまで,イラク国民が「民主主義」を支持することは無いでしょう.しかし,たとえ亡命しているエリートたちの帰還や,新しい投資が起こるとしても,当面,社会不安や経済困難は急激に増すと言われます.アメリカは反政府組織や各部族,亡命者などの意見を聞く姿勢を持たず,石油の輸出もその復興資金を賄うことはできそうにないのです.すべてが瓦解した後にだけ,多様な市民的組織の協調が生まれる可能性がある,と記事はかすかに期待します.
それでもクルド人の独立の動きや,トルコの牽制行動には,大きなリスクが残されています.ブレアが提案したように,石油収入を国連に基金として集中し,民主的な条件を課して復興のために提供することが,もっとも重要な仕組みとなるかもしれません.