IPEの果樹園2003

今週のReview

2/24-3/1

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北朝鮮の戦闘機が韓国領空を侵犯した,という報道がありました.これがイラクなら開戦理由になったでしょう.しかし北朝鮮政府による軍事的な駆引きに振り回された挙句,ここではアメリカや周辺諸国が行動を互いに制約し,最後に,日本が経済援助などの負担をもっとも多く引き受けるのでしょうか? 戦争するより良かった,と国民を説得できるうちは,それも可能な選択肢です.しかし,もし脅迫が繰り返されるなら(実際,今回もKEDOを再現するわけです),日本の世論が一気に感情的な強硬論へ振れることを心配します.

NHKの国会中継を観ると,参議院本会議において,社会民主党・護憲連合の代表が首相の姿勢を批判していました.国民世論の70%がイラン戦反対であるのに,総理は,@戦争に反対だと言いながら,<二枚舌>を使って,アメリカの先制攻撃論・安保理不要論を支持している.Aイラクを攻撃するなら,インド,パキスタン,イスラエルなど,核拡散防止条約を無視している他の国も同じである.C戦争初期に予想される50万人の犠牲者を容認して,戦後復興に貢献することを強調するのは<偽善>である.D戦争による経済的<負担>や,国内の景気に及ぼす悪影響を考えていない.D戦争はテロの<悪循環>を生むだけである.

小泉氏の答弁は,イラクが武器を破棄したと示すことが重要なのだ,というものでした.その通りですが,「浅い」答弁であったと思います.批判された点には答えず(認めた上で),それでも日本には他に選択肢が無い.イラク政府が武装解除に協力してくれれば,戦争は起きない,と繰り返すからです.実際,イラクは遠いし,そのミサイルも日本に届きません.しかし北朝鮮に対しては,この答弁で耐えられるでしょうか? 日本の国民が初期の戦闘で犠牲になるのです.

北朝鮮の軍事的な攻撃に対して,日本政府はその対応を国民に詳しく説明するべきでしょう.ミサイル攻撃があれば,その被害はどの程度になるか? どのような対策があるのか? かつて戦争を覚悟した多くの国は,首都機能を分散し,住民と工業力を内陸部に移転しました.インターネットの誕生は,分散型の情報システムを目指した軍事的理由に由来している,と聞きます.

日本は,アメリカと違って,核武装や核の使用を考えるべきではないでしょう.防衛庁が,核保有は国益に反する,とした95年の報告書を持ち出したのも,核武装論を牽制したものだと思います.しかし他方で,日米安保条約だけに依存する条件は失われたと思います.アメリカが核兵器の先制使用や,北朝鮮への単独攻撃を主張し始めれば,日本はそれによって内政が大混乱に陥り,まともな議論もできなくなる恐れがあります.むしろ政府と各政党は今すぐ話し合い,予めアジア安全保障の枠組みを示して,各国との協議に入るべきです.

日本は,先の戦争でアジア諸国を軍事的に侵略し,アメリカから核兵器による攻撃を受けました.その後は,平和憲法と戦後復興,そしてアジアに成長モデルを示すことで,国際的な地位を向上させてきたのです.日本が単独で軍備を拡大したり,国際的な軍事行動を起こしたりすることは,過去の怨念や恐怖を刺激し,軍備拡大競争や新たな国際紛争を招くだけです.それゆえ,必ず地域的な安全保障を予め協議し,軍事行動のルールを合意しておくべきです.

この二つの条件,軍事攻撃に対する被害の抑制と地域安全保障の枠組み,を積極的に提唱することで,北朝鮮に対する平和的な交渉推進と朝鮮半島再統一への政治的発言,経済的支援について,国際社会に日本の真摯な姿勢を示せるのです.社民党・護憲連合には,平和憲法を活かして欲しいです.しかし,武装解除や軍備縮小のための国際査察体制を支持するには,こうした国際秩序を実現するコストも引き受けるべきでしょう.

(次週は出張です.Reviewが遅れるかもしれません.)

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg, FEER:Far Eastern Economic Review


LAT February 11, 2003

Fighter Sorties Anything but 'Safe'

By Robert K. Wilcox

(コメント) ハイテク戦争,スマート爆弾,ロボット偵察機,・・・ アメリカは完全に安全な位置から,イラク軍をわずか数週間で壊滅できる? Wilcoxは,こうした幻想を振り撒くことに反対します.戦闘機の操縦士は,決して撃墜を喜びとする冒険者ではなく,家族を持ち,不安と恐怖を隠しません.作戦計画は戦闘機の安全を重視して決まるわけではなく,スマート爆弾に必要な情報量や操作は膨大です.こうした作業に忙殺され,しかも敵の標的になるような位置や速度を採って,漸く正確に命中できるのです.必要な情報が手に入るのか? という問題は常にあります.上空から無人偵察ロボットが集めた情報だけで,敵の行動を完全に把握することは不可能です.そして民間人を救出するために命を顧みずに行動する兵士たちは,至近距離で敵との交戦を覚悟するほか無いのです.安全で,きれいな,無傷の勝利など期待するな,ということです.


NYT February 11, 2003

The Wimps of War

By PAUL KRUGMAN

ブッシュの支持者は,彼の態度をチャーチルに喩える.しかし,彼のイラクに関する演説は,流血や混乱,労苦に関して何も触れない.これほど多くの軍事表現を駆使ながら,その犠牲に関してこれほど言及しない指導者が,かつていただろうか?

ブッシュ氏は,戦争において困難な選択に直面するなどと考えないのか? それは,残念ながら,彼の政府の基本的なスタイルである.アメリカのメディアも,それほど伝えられないが,ブッシュ氏が再選されるとは思っていないし,戦争が終わればブッシュは見捨てられることを懸念する.ブッシュはイラクの再建などしないだろう.それこそ,アメリカとヨーロッパとの対立の源だ.

ヨーロッパ人がイラク戦や戦後再建についてブッシュを信用しないのは,アフガニスタンやパキスタンについて,ブッシュが約束を守らなかったことを見ているからだ.ムシャラフに聞いてみよ! さらに,どんな場合でも,ブッシュ政権は困難な問題を解決せずに逃げてしまう.上手く行かないと,ブッシュ氏は話題を変えるだけだ.

先週の予算案がその典型だった.予算の長期的予測は破滅そのものであった.これを減税案とどうやって組み合わせるのか? ブッシュ氏はアメリカ国民に医療保険や年金を削ると話しただろうか? ホワイト・ハウスの答えは簡単だ.1.要するに,赤字は別に悪くない.2.もはや,長期の予測はしない.5年で十分だ.しかし,5年でもイラク戦の費用は無視する.

ブッシュ氏は明らかにサダム・フセインを打ち負かし易いと見ている.イラク戦は,迅速で簡便なものに終わり,数日のショックが過ぎれば,凱旋行進が待っているだけだ,と顧問に語る.そうかもしれない.たとえそうであっても,その後の長く,困難な,おそらく流血に満ちたイラク再建はどうするのか? ヨーロッパ人は疑っているのだ.ブッシュ政権がフセイン打倒に拘ることも,その後の再建に対する不信に繋がる.

アメリカでは,悪者に対して本気で立ち向かえるのはアメリカだけで,年寄りのヨーロッパ人はそんな勇気など無い,と当然のように言われる.アメリカの批評家たちは,ほとんど例外なく,ブッシュ氏を,問題にしっかり取り組む,決意に満ちた指導者である,と称える.

それをパリから見ればどうなるか? フランスは進んで地上軍を派遣し,ユーゴ内戦で多くの死者を出した.アメリカは死者を出していない.アメリカはタリバン放逐後のアフガニスタンに安全と援助を与えると約束した.しかし,それを守らない.1万フィート上空では非常に勇敢なアメリカ兵も,彼らが作り出した地上の混乱は他の人々が片付けるべきだと思っているのか?

フランス政府関係者が,ブッシュ氏は,国家を持たないテロリストたちより,滅ぼし易いフセインを標的にした,と思っている.これは公然の秘密だ.ブッシュ氏の真意は分からない.少なくとも,外から見れば,ブッシュのアメリカは約束を守るような国に見えない,ということだ.


WP Tuesday, February 11, 2003

A Case for Containment

By Morton H. Halperin

(コメント) Halperinは,イラク戦は必要ない,と断言します.その理由は,現在のフセイン封じ込め政策が成功しているからです.フセインは,報復する能力のある誰にも大量破壊兵器を使用したことが無いし,それを生産する能力も断たれています.フセインはクウェート侵略後に湾岸戦争で敗北し,その後は近隣諸国に手を出しません.確かにフセインは安保理決議を完全に守る気など無いでしょう.しかし,考えるべきは,どうやって慎重かつ効果的に強制するのか? です.戦争するよりも「封じ込め強化」が望ましいでしょう.

査察団を常駐させて強化し,査察を認めない軍事施設を空から破壊します.イラクが大量破壊兵器の生産に使用できるような材料も資金も断つため,禁輸体制を強化します.イラクの体制転換ではなく,武装解除がその目的です.フセインを政治的に孤立させるためには,ユーゴスラビアやルワンダの指導者と同じように,国際法廷に立たせれば良いでしょう.イラク国内の反体制派を支援することもできます.その方が,フセインを大量破壊兵器の使用から遠ざけ,内外のアメリカ人をテロの脅威にさらすことは少ないのです.


FT February 12 2003

London's congestion charging experiment

By Chris Giles and Juliette Jowit

(コメント) 「シティとウェスト・エンド地区の周辺約10平方マイルの地域に,平日の昼間,乗り入れる自動車を運転する人は,5ポンド支払う.規制地区は数百台のカメラで監視され,ナンバー・プレートが事前に支払われた自動車のものか,コンピューターで確認する.その日の内に支払わない場合,80ポンドの罰金となる.・・・

経済学者は,合理的な仮定と社会的な実験が大好きです.政治家は,普通,そのどちらも嫌います.「赤のケン」と呼ばれた労働党左派のロンドン市長(ただし市長選に出馬する際,党の決定に従わず,離党しました),ケン・リヴィングストンが,ミルトン・フリードマンなど,市場重視の経済学思想を取り入れるのは,確かに皮肉に見えます.しかし私は,市場を使うかどうかは,政治的な条件と指導者の判断にかかっている,と思います.リヴィングストンは,鉄道でも高速道路でもなく,町(公共空間)の一角を有料化して,住民やロンドンの集団的利益を図り,その資金を貧困層が利用する公共輸送システムの財源にする考えを実行したのです.

この記事では,歴史的に,輸送システムへの料金徴収が有力な公共財源であったことが指摘されています.また,今も日本では,それが政治家の重要な利権となっているわけです.混雑時の道路利用者に使用料を支払わせるのは,経済的な実験であると同時に,政治的な実験でもあります.市場の実験? それはむしろ,課税や地代,罰金にも似ています.政策による価格変化を誘因として使い,個人の選択で社会的な結果を誘導し,成果を分配し,ルールを変更する過程を「市場」と呼ぶなら,これも市場でしょう.古典派の政治経済学(そしてIPE)に見られるような市場です.


NYT February 12, 2003

Present at . . . What?

By THOMAS L. FRIEDMAN

FT February 13 2003

Bound together despite everything

By Philip Stephens

IHT Thursday, February 13, 2003

Western publics can't stomach U.S. foreign policy

William Pfaff

LAT February 13, 2003

We Slam Allies at Our Peril

NYT February 13, 2003

Back to the United Nations

The Guardian, Friday February 14, 2003

Unity is sometimes more important than principle

Martin Woollacott

(コメント) NATOや国際連合という戦後の安全保障を支えてきた枠組みが,内部の対立で崩壊する可能性があります.FRIEDMANは,ブッシュ氏が安保理で新しい「最後のチャンス」決議を行うことを支持します.なぜなら,アメリカが単独でも勝利できない国は無いが,どんな国でもアメリカが単独で再建することは非常に困難だからです.ブッシュ政権のタカ派は,国際的な正当性など必要ない,と言うでしょう.ヨーロッパの平和論者は,アメリカの軍事的な圧力無しに,イラクを武装解除することなど不可能であることを知るべきなのです.

しかし,その場合,アメリカは「陶器店の法則」に従うでしょう.つまり,「壊した壷は自分で買い取れ!」です.FRIEDMANは,イラクの民衆をフセインの独裁から解放することは正しいし,アラブ圏の民主化も必要である,と考えます.しかし,それは正しく行われる場合に限ります.すなわち,国連決議によって国際的な正当性を得ている場合です.アメリカの納税者や兵士は,過大な負担を強いられるべきではないからです.また,「最後のチャンス」決議により,ヨーロッパやロシアや中国は,戦争をまじめに受け取るでしょう.

アメリカと違って,ヨーロッパには議定書はあるが憲法はない,とStephensは言います.主権は合意された限りで共有されますが,決して一つの主権にはならないのです.イラク戦をめぐるEU内部の対立は,EUの性格を示しています.たとえ制度をいじっても,EUの政治的意志を即席に代用することはできません.EU大統領,EU外相,EU憲法・・・ ヨーロッパは,その理想はともかく,実際には国民国家を通じてしか発言できません.アメリカに対抗するヨーロッパの声を期待しても無理だ,ということです.EUは,さまざまな官僚制度やエリートによって動かされており,各国民の意志を反映していません.それは,通貨政策のように単一化された分野から,外交・軍事政策のように国家主権が譲歩できない分野まで,さまざまです.今後も,こうした混合(ハイブリッド)政体が続くでしょう.そして,強制ではなく,相互依存を自覚することで,協調が促されるのです.

Pfaffは,ラムズフェルド国防長官の脅迫を排除します.NATOの内紛は,無意味であり,不必要でした.なぜなら,アメリカは国連安保理やNATOの合意を無視してでもイラクを攻撃したいのであり,国連やNATOの多数意見は他国へのイラクの脅威を認めず,戦争を支持していないからです.ラムズフェルドがNATOの軍事基地を利用したいとか,ドイツではなく東欧を重視する発言をしても,それはNATOの存在意義が失われている現実や,東欧の基地が同じような問題を抱える現実を無視した脅迫に過ぎません.旧ヨーロッパはアメリカを孤立させたがっている? ヨーロッパの「反米主義」? そんな過激な表現を好むのは,世界の多くの国がイラク攻撃を支持せず,アメリカ政府の外交政策に反対している事実を,彼が好まない,というだけです.

LATは,ラムズフェルドの猛毒舌をたしなめています.ソビエト連邦が崩壊して,確かに西側同盟の役割は模索中です.イラクについてドイツやフランスと意見が対立しても,彼らは他方でアフガニスタンの治安維持や復興のためにアメリカと協力しているのです.「外交は粉砕競争ではない.」と言います.罵り合うより,互いの苦言に耳を傾け,共通の土俵を探るのです.

NYTも,明確な決議を再提出するよう求めます.ブッシュ政権が国際的な合意なしに戦争を始め,西側の政治同盟や安保理による秩序を解体する道を選択してはならない,とNYTは考えます.イラクの決議違反について十分な証拠は示されませんでした.しかし,かと言ってフセインの罪が無視されるわけではなく,ましてや,アメリカが国際秩序を乱しているようなフランスの主張は撤回されるべきです.そのためにも,ブッシュ政権は再び安保理に明確な決議を求めるのが良いでしょう.そしてフセイン自身に,完全な武装解除に従うか,戦争するか,それを明確に選択させるのです.

Woollacottは,独仏の反対が間違いである,と主張します.イラク戦の最初の犠牲者は,我々の側であるから.すなわち,国連,EU,NATOが死んだ,と.アメリカは約束どおり国際機関を無視し,フランスとドイツは多角主義を唱えて,戦争を防ぐために必要な国際機関を破壊した.結局,イラク問題は,独仏が合意できる数少ないEUの主導権なのだ.そして,彼らの政治的な機会主義は,彼ら自身がまったく望んでもいない,致命的な制度の破壊を招く.

フランスが本気で査察の強化や延長を目指すのであれば,もっと早くから外交的にアメリカを説得できたはずである.破滅的な罵倒を舞台上で演じるなど,全く無意味なことだ.戦争を選択する際に,世論を民主主義的な決定の単純なルールとして持ち出すのは間違いだ.大衆が暴力や不安から逃れたいと願うのは当然だから.それで複雑な政策決定を否定できるはずが無い.

個々の選択よりも,制度の維持が重要な局面というものがある.論争の結果,内部分裂と非難の応酬の中で戦争が始まる.最も必要なときに,国際機関は死んでしまった.


FT February 12 2003

No, Mr President

LAT February 13, 2003

Walk Away From Tax Cuts

NYT February 13, 2003

Heavy Lifting

By BOB HERBERT

NYT February 14, 2003

On the Second Day, Atlas Waffled

By PAUL KRUGMAN

(コメント) FTは,予算案を公然と批判したアラン・グリーンスパン議長を称え,LATは,ブッシュ政権の減税重視路線が後退すると予想します.グリーンスパンのメッセージは,減税による刺激よりも,債務の方が重要である,でした.

HERBERTは,ブッシュ氏のスローガンである「思いやり」について批判します.ブッシュ氏は宗教団体に慈善活動を任せて,他方で,社会福祉の予算を削ります.これが「思いやり」による社会です.右派のイデオローグは饒舌です.宗教団体さえ強くなれば,人種や経済学がもたらす「人為的な分断」など解消できる,とでも言うように.こうしてブッシュ氏は,微笑みながら「思いやり」を説いて,社会福祉を大小に関わらず削減し,廃止します.財政赤字が問題になるのは,無駄な社会福祉が悪い,というわけです.低所得者への住宅補助や老人のための医療費公的負担も削減します.50万人の子供が関わる放課後のプログラムも削減すると提案しました.なぜか? 若年者の犯罪発生率も,少女の妊娠する率も,放課後が最も高い! だから廃止して,学校から彼らを追い出すべきだ!?  とイデオローグたちが言うからです.弱者たちは,ブッシュ氏が「思いやり」に触れるたびに,寒気がするだろう,と.

KRUGMANは,グリーンスパン議長が火曜日の議会証言では評価を落とさなかったものの,水曜日には無駄口を叩いた,と非難します.すなわち,グリーンスパン氏はブッシュ陣営を梃入れするために,赤字はまだ先のことだし,GDPの比べて制御可能な程度だ,と弁明したのです.いつもの手だ,とKRUGMANは指摘します.政府は人に仕事をやらせて,用が済めばクビにする.オニールも,パウエルも.

連邦準備制度理事会の議長がアメリカ経済の破局を予測するわけには行かないから,KRUGMANが代わりにそれを予測してくれます.つまりブッシュ氏が望みどおりに政策を実行したら,アメリカは10年以内に昨年のブラジルと同じ状態になる.債務のGDP比率は歴史的な水準に達し,しかも富裕層への減税とベビー・ブーマー世代の退職で年金・医療保険制度が破綻することは明らかになる.債務の利払いとともに,政府は攻した約束を守れず,債務が膨張し金利が急騰して,それらが悪循環に陥る,と.

こんな無駄口を叩いて,安楽に退職しようと思うなら,グリーンスパン議長の評価もアメリカの財政状態も,破局に向かって後戻りできない地点を過ぎてしまうだろう.


BL 02/12 16:19

China's Economy Resembles 90s' Internet Push

By William Pesek Jr.

インターネットが引き起こしたのと同じことを,今や中国が再現しつつある.中国が,世界の物価と産業再編を主導するだろう.同時にそれは,インターネットと同じように,誇大妄想と資産バブルに弱いだろう.国境を越えて,この史上最大のゴールド・ラッシュに駆け込む企業は,リスクを十分に見ていない.融資はまだ国家が配分し,補助金となっている.金融部門は日本型の不良債権問題に直面する.それはまた,1990年代のヴェンチャー・キャピタルが犯した失敗も示す.市場を通じて集めた莫大な資本を,彼らは効率的に使えなかった.中国には2002年だけで527億ドルの直接投資が流入した.他方,政府は大規模な公共投資に邁進している.投資家は株式市場に殺到し,史上空前のバブルを目指す.

インターネットはすべてを変える,と言われた.しかし,そうではなかった.中国も,膨張した期待には及ばないだろう.多分,はるかに及ばない.


NYT February 12, 2003

Escaping North Korea's Nuclear Trap

By NANCY E. SODERBERG

NYT February 12, 2003

Talk Therapy

By ROBERT J. EINHORN

ST FEB 18, 2003 TUE

China's dilemma in tackling N. Korea crisis

By YU BIN

FEER February 20, 2003

Why Keep U.S. Forces in Korea?

By Edward A. Olsen

(コメント) もと国連大使のSODERBERGは,北朝鮮との交渉の歴史を見れば,ブッシュ政権の考えが何であれ,やはり今までと同じように,安全保障と支援とを交換するしかない,と主張します.ブッシュ政権は,クリントンと同じことはしたくない,という観点でしか判断していません.しかし,ブッシュの父親も,ソ連も,北朝鮮の危機を回避するために同じ事をしてきたのです.

EINHORNも,ブッシュ政権の宿命論的な・投げやりな姿勢を批判します.すなわち,既に1個か2個の核爆弾を持つ北朝鮮が,さらに5個持っても同じことだ,というのは暴論です.それは核実験を行っても,さらに韓国や日本を攻撃する核爆弾をいくつか保有し,増産し,外部に売ることもできるからです.アメリカ政府に他の選択肢が無い以上,エネルギーや食糧を供給し,軍事力による政権転覆を行わないという補償を与えることも,交渉として許される,と.北朝鮮を孤立させ,安保理による武力制裁に訴えるのは最後の手段である,と.

BINは,ブッシュ政権がどう見ようと,中国政府にも北朝鮮を操る力はない,と言います.現在の北朝鮮は,金日成が中国共産党で学び,中国語を理解できた頃と違って,中国政府との人的関係を欠いている.中国政府が北朝鮮の扱いに慎重であるのは,一つは,世界的な相互依存と市場開放に依拠した成長のためには,朝鮮半島のいかなる軍事的危機も避けたいからである.そして,同時に,朝鮮戦争の苦い教訓が受け継がれている.多くの人命を失いながら,北朝鮮政府は中国人民軍の貢献をほとんど公式に評価せず,他方,中国政府はその後の西側各国やソ連との敵対関係を招き,今に至るまで,それに制約されてきた.

しかし冒頭で,BINは,人民解放軍の軍事演習に触れています.慣例を無視して,旧正月前に陸海空軍の軍事演習を,しかも氷点下での作戦行動を行ったのは,朝鮮半島での軍事衝突を想定したものです.また人民日報のホーム・ページは,中国政府がアメリカ,韓国,日本,ロシアと協力して,北朝鮮から大量破壊兵器を取り除くべきだ,という論説を公開しました.アメリカ政府は,かつて朝鮮戦争でも草であったように,北朝鮮の脅威を過小評価し,交渉に応じません.中国政府の対応によっては,今回の危機が第二次朝鮮戦争になるかどうか,が決まるのです.

Olsenは,在韓米軍の縮小を,北朝鮮との交渉カードに利用するべきだ,と考えます.なぜなら,在韓米軍の削減は,ヴェトナム戦争時の「ニクソン・ドクトリン」や,カーター政権でも推進されました.その後,冷戦終結を受けたブッシュ(父)とクリントンの時代に縮小された末,今回の危機を招きました.再び在韓米軍は,維持派と削減・撤退派との間で論争となっています.アジア地域の安全保障はアメリカにとっても死活的に重要だ,という伝統的な意見は,韓国自身の経済力に見合って自衛できるし,韓国国民が支持しない駐留を続ける意味は無い,という反対意見と拮抗しています.

それゆえ,第三の選択肢,朝鮮の核廃棄・軍備縮小と在韓米軍撤退とを取引する,という提案が重要になります.朝鮮半島の安定は,南北の通常兵力が均衡し,縮小していくことを求めています.それは韓国政府の方針にも一致するでしょう.アメリカは,テロリズムとの新しい戦争に備えて兵力を朝鮮半島から他所へ再配置できます.何より,北朝鮮をめぐる政策的な行き詰まりを打破できるでしょう.


FT February 13 2003

Bavaria and the case for free trade

By Timothy Guinnane

あなたが,より大きな,経済的な先進国の支配する経済組織に参加するかどうかの選択に直面した,小国の市民であるとしよう.巨大市場に関税なしで接近できる潜在的利益は多いだろう.しかし,それによって衰退する領域への不安や,自国の独立を失うかもしれないという心配が,決断を難しくする.NAFTAに加盟するメキシコや,EUに加盟する東欧諸国は,同じような苦しい選択に直面しただろう.しかし,私は1834年のバヴァリアのことを話している.それが同じであると言うのではなく,その長期的な結果がすでに明らかだから.

グローバリゼーションを20年程度で評価するのは間違いだ.貿易を自由化すれば,どんな国にも勝者と敗者が生まれる.そのバランスは,その国の経済構造や国民と制度を新しい機会に適応させるスピードに依存する.たいていのコストは速やかに現れるが,それは次世代にまで持ち越されず,他方,得られる利益は無限に続く.分析を10年や20年に限ることは,より開放的なシステムに不利な結果を導く.

1834年の関税同盟も,バヴァリアに勝者と敗者をもたらした.バヴァリアは農業国で,小規模の工場があった.他の加盟国はバヴァリアより工業が発達していた.関税の引き下げは工業製品輸入の洪水となり,バヴァリアの工場を倒産させた.1870年代まで,自給体制を好む小規模工場は残った.他方で,関税廃止により,裕福で巨大な市場を得た農業部門は迅速に反応した.

バヴァリア自身が産業革命を開始し,1890年代には低賃金を利用した低水準の技術で工業が栄えた.20世紀前半までに,バヴァリアは自動車・金属・その他の第二次産業革命を経験した.今日,関税同盟の利益はドイツ全域で明白だ.バヴァリアの成功が関税同盟だけでなく,技術,熟練労働,経営などによるのはもちろんだが,それらは160年間も小さな貧しい市場に閉じこもっていたら実現できなかったはずだ.一人当たりの所得は1830年の少なくとも20倍になった.今日でも,バヴァリアにはグローバリゼーションに反対する理由がある.苦しい調整が待っているからだ.

貿易,知的所有権,その他の豊かな国に有利なルールに反対する声がある.貧しい人々の苦しみを訴える声もある.しかし,発展した地域の一部の反対意見,グローバリゼーション自体を非難する.それは,かつて変化することでバヴァリアが求めた利益ではなく,それを今日の貧しい人々に認めない意見である.しかし,バヴァリア人の一体,何人が,1830年の所得水準に留まりたいと思ったか?


NYT February 16, 2003

Peking Duct Tape

By THOMAS L. FRIEDMAN

私なら,新しい国際秩序に協力するよう,中国を次のように説得する.

第一次世界大戦,第二次世界大戦がそうであったように,9・11と新しい国際秩序に参加する者は自分が「秩序圏」か「無秩序圏」か,どちらに属すかを選択しなければならない.無秩序圏は,技術が分散し,国境が開放され,世界の金融市場もインターネット・ネットワークも統合した世界では,非常に小さな集団もますます危険な破壊力を駆使できる.

ブッシュ政権はこの二つの世界の対立を明確にしましたが,中国政府はまだそれを理解していない.アメリカの権力が強まったことではなく,それが弱すぎることこそ問題である.もし9・11が再現されたり,北朝鮮が核兵器を使用したりすれば,アメリカの開かれた社会は終わり,グローバリゼーションも終わる.中国の製造業が依拠する市場も失われるのだ.それは中国政府の国内指導力も破壊するだろう.

それでも,まだ,イラク戦を傍観し,北朝鮮の危機もアメリカ政府だけの問題だと思うのか? なぜ外相が即座にバクダットとピョニャンに飛び,拳で机を叩いて,指導者に国連決議に従うよう求めないのか? もう一つの9・11とイラク線でアメリカは疲弊し,人民解放軍が喜ぶのか? それは間違いだ.この世界で本当に恐ろしいのは,アメリカ軍が国境を越えてくることではない.アメリカ資本があなたの国から逃げ出し,経済が破滅することなのだ.

さて,どこか不明な点はありますか?


BL 02/17 14:36

Hayami's Yen May Outshine Greenspan's Dollar

By William Pesek Jr.

数年ぶりで,世界の二大経済大国が通貨の引き下げを競いだした.多くのアナリストが,円安を予測するだろう.しかし,円高になる理由が4つある.1.アメリカ経済への不安.2.日本の貿易黒字.3.日本企業が年度末に行う本国送金.4.アメリカ資産下落の際のヘッジ.

もちろん,日本経済の現状を見れば,円安になる理由は十分にある.速水総裁の交代も,デフレ・ファイターと円安促進を予想させる.要するに,今や政府は円安にするしかないのだ.しかし,本当に円は強すぎるのか? 日本政府が何を言おうと,市場は円を正しく評価しているかもしれない.そして市場の力が,この先,円高をもたらすことも考えられる.

アメリカ経済の成長期待は挫かれ,企業スキャンダルで投資家の信頼も失われた.かつては神様に思えたグリーンスパンも,今では速水と金融政策のまずさを比較されている.アジアの投資家たちは「強いドル政策」を信用できなくなった.日本は,相変わらず,貿易黒字を出し続ける.いくらか減ったとは言え,今も,日本の成長には黒字がともなう.しかし,あいにく,それは円高を促す.そして,3月になれば恒例の決算にともなう海外からの資金引き上げである.今年は銀行がそれに加わり,さらに深刻な円高要因となる.アメリカが対イラク戦で不安定な状態を続けるから,誰も円を魅力的だと思わなくても,ドル建資産が暴落すれば,日本の国債保有で儲けることができるだろう.


FT February 18 2003

Asia is footing the bill

By Martin Wolf

(コメント) アメリカの新しい「パンとバターの問題」です.すなわち,消費と軍事費との選択です.アメリカが,パンもバターも欲しがるということは,経常収支赤字が増大し続けることを意味します.しかし,それを支える資本流入は民間投資が流出に転じたこともあって,公的な介入によって行われています.その代表は,日本や中国のドル買い支え,もしくは重商主義的な「為替レート保護主義」です.アジア諸国は成長を輸出に頼り,人為的な為替レートの安い水準を維持します.その結果として,彼らの外貨準備額は膨張し,公的なドル資産の保有が増え続けているのです.そして,アジア通貨が増価せずにドル安が進むには,それだけユーロが増価するのです.

アメリカの一方主義は,こうした多角的なドル資産の公的保有に依拠しています.もし単独のイラク戦や占領,再建に関わるコストをアメリカだけで負担すれば,それだけ大幅な対外赤字が発生するのです.こうした奇妙な組み合わせがいつまでも安定的に維持されるでしょうか? もちろん,アメリカから見れば,他国はアメリカ軍を利用する際に,その負担を増やすべきだ,ということです.アジア諸国はますます物資を供給し,その支払も引き受けます.ヨーロッパはアメリカを非難するほど,ユーロ高に耐えねばなりません.


NYT February 18, 2003

The Blizzard of 2003

NYT February 18, 2003

Reuniting the Security Council

NYT February 18, 2003

Mr. Bush's Liberal Problem

By NICHOLAS D. KRISTOF

NYT February 18, 2003

Behind the Great Divide

By PAUL KRUGMAN

LAT February 19, 2003

Will It Be a 'Just War' or Just a War?

By Jean Bethke Elshtain

(コメント) アメリカ政府の国際社会に対する説得がことごとく失敗した頃,アメリカ東海岸は歴史的なブリザードに包まれました.このことは,何か黙示録的な意味を考えさせます.人間社会の営みは,今も,自然の猛威により寸断され,一気に歴史を遡ります.人々はどこへも行けず,何もできず,ただ部屋の中に家族と居て,瞑想のための多くの時を得ました.アメリカが9・11によって一種の家族愛と今の自分を大切にしたいという瞑想を深めたように,このブリザードも新しい何かを呼び起こすのではないでしょうか? それは,もっと親和的な? あるいは,もっと破滅的な信仰心でしょうか? 自分たちを苦しめ,辱めを与えた者に対して,新たな復讐心を得た権力者もいるでしょう.そして,たとえ一瞬でもアメリカを失った世界には,覚悟せよ,という「神託」であったように思います.

この嵐の中で,NYTはブッシュ政権のタカ派が暴走することを恐れ,国連安保理を重視せよ,と求めています.あるいはKRISTOFは,ブッシュ政権が保守派の空想的な観念論の沸騰に支配されないよう,これを冷却します.KRUGMANは,アメリカとヨーロッパではニュースが違う,と指摘します.人々は同じ現実を,異なったニュースで見ているのです.アメリカのメディアはフセインやアル・カイダの悪を伝え,戦争は既成事実なのです.他方,ヨーロッパのニュースは,ブッシュ政権の外交政策を問題にします.

Elshtainは,ブッシュの求めるイラク戦が「正義の戦争」であることを指摘します.それは,単なる戦争では無いのです.聖トマス・アクィナスが『神の国』で,無辜の人々を守るために起こされた戦争は,正義の戦争である,と主張したからです.そして,正義の戦争には,その理由にも,手段にも,正義に適った選択基準があるはずだ,と主張します.


BL 02/19 16:15

The G-7 Faces Dealing With `Japan Disease'

By William Pesek Jr.

(コメント) 一方では,世界中で「日本病」が発生すると恐れられています.たとえば,既に香港は発病した,と.しかし,Pesek Jr.は,「日本病」の病根が,政策の失敗を改めない政府・官僚・銀行・企業のもたれあい体質である,と考えます.ミクロ経済の調整を促さずに,政府は金融緩和に過度に依存し続けたのです.今も,デフレは日銀のせいだ,と叫ぶだけで,他は不況の責任を忘れてしまえるかのように?

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The Economist, February 8th 2003

Lexington: God and American diplomacy

(コメント) ブッシュ氏が電話をかけて政策の相談をしているのは,雲の上,つまり,神様です.石油のために戦争するのは望ましくないが,宗教のために戦争するのは破滅である.文明の衝突? キリスト教徒とイスラム教徒との聖戦?

しかし,The Economistは,実際の政策が決まる理由は宗教に拠らない,と考えます.なぜなら,@アメリカ社会で最も急速に増加しているのはイスラム教徒であり,政治家たちはそれを知っている.A宗教団体の外交政策は分裂している.B宗教団体の影響は周辺的な問題に限られ,主要政策を決めているのは軍事力や経済的利益である.すなわち,ブッシュ政権の外交政策は,天国ではなく,ホッブス的な戦争状態に繋がっているのです.


Rating agencies: Let go of nanny

(コメント) 格付け会社が国際金融危機の解決策になる,と言われた時期もありましたが,すでにその信用も地に落ちたようです.The Economistは,これほど独占的で,保守的な格付け会社を,公認機関として独占的な手数料に潤わすことを厳しく批判します.どのような評価基準も,それ自体が,抜け道や腐敗を招きます.それはまた,格付けを基に複雑な資産の複合物を売買している金融取引にも冷水を浴びせます.投資のリスクは,投資家が自分で負うしかない,ということでしょう.


Japanese banking: Giveaway

(コメント) 何を見ても良く分からない「マイナス金利」の話を,The Economistが明解に描いています.マイナス金利を提示する,ということの不思議さは,なぜ資金を提供する側が利子を支払うのか? という疑問です.もちろん,その答えは,それが儲かるから,です.

原因は,今,日本の銀行が国際的にドルを借り入れるのは非常に難しい,という事情です.そこで彼らは為替市場のスワップ取引に頼るのです.日本の銀行は,外国の銀行との間で,円をドルに交換します.外銀は約0.1%の利ざやを得ます.そして,たとえばヨーロッパの銀行は日銀の預金残高を抑制していますから,それを超えた分は0.01%のマイナス金利を付けて貸し出すのです.彼らは残高を増やさずに,スワップとマイナス金利を繋いで,儲けることができます.

より本質的な問題があります.なぜ外銀は自らプラスの金利で円を融資しないのか? それは,日本経済が低迷し,リスクに見合った有望な貸付先企業を見出せないからです.そして,日本の預金者たちは,もう何年も実質マイナスの金利に耐えているのです.外銀にとって,円はクズだ,と言われます.