IPEの果樹園2003

今週のReview

2/17-2/22

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友人の結婚式に出ました.それは楽しいお祭り騒ぎで,さまざまな神さま!? が登場し,豪快・明朗な酒乱の逸話が紹介されました.皆で爽やかに爆笑しつつも,新婦の親族は心配だろうな,と思いました.

NHK・BSで,「地球に好奇心:ロバで届ける便り・中国・山岳郵便配達夫」を観ました.郵便配達を生業とする王さんは,父から受け継いだその仕事を誠実にこなします.最も遠い村へは片道260キロ?もの道のりを,四日かけて届けます.危険な上に,辛く厳しい,孤独な仕事です.山で野宿をする際には,疲れたロバに乾燥トウモロコシをやり,狼がいるので焚き火をします.自分は麦を炒めて粉にしたものを,川の水に溶かして飲むだけです.寒さと恐怖で眠れないため,強い酒が要ります.

王さんが届ける手紙には,たとえば,出稼ぎの娘から送られたお金に,家族や故郷を想う手紙が添えられています.それは少数民族の貧しい村です.都会で働く娘は友人に手紙を代筆してもらい,その母は王さんに手紙を代読してもらいます.弟たち二人もそれを聞いて,遠くで働く姉を大いに尊敬し,感謝します.王さんは,自分の届ける便りには,良いものも悪いものもある,と言います.それでも,手紙を届けるのはとても大切な仕事だ,と胸を張ります.

僻地の村に王さんが来れば,村の共産党幹部たちが集まって彼を歓迎し,勉強会を開きます.新しい人民日報で,村の計画を修正するのです.こうして,次には幹部たちが村人に新しい情報を伝えるのでしょう.王さんは,長年の勤勉な仕事ぶりを称えられて,北京に招待されました.帰ってきた彼の話す飛行機の旅や,北京に溢れる自動車の洪水は,村で聞く若者たちの眼を輝かせます.中国の最新の変化を,グローバリゼーションの魅力とともに,彼は配達します.

職業に貴賎は無い,と言います.どのような仕事にも,報酬とともに,意味があります.山岳地帯を一人で越えて,郵便物を配達するような厳しい仕事に就けば,その意味を考えるはずです.王さんは自分の仕事に誇りを持ち,ロバに乗って歩む詩人となり,哲学者となりました.その仕事によって生きるなら,立派な仕事をしたい,と誰もが思うでしょう.久しぶりに帰った家の屋上からは,川を渡る長い吊り橋が見えます.子供の頃から,彼はそこを渡って行き,また帰ってくる,父の姿を見て育ちました.生涯,この仕事を勤め上げた父の苦労を想い,王さんは涙します.

中国山岳地帯の苛酷で美しい景観と,住民たちの貧しさ,精神のみずみずしさ,そして新しい変化にあこがれ,前向きに生きようとする姿勢が,非常に印象的です.日本に住む私たちは,いつから,こうした無垢な感覚と輝くような表情を失ったのか? と思いました.

私は酒を飲まず,どのような儀式も,宗教も嫌いです.しかし,それらが由来するであろう感情を尊び,純粋な心には打たれます.そのような機会は減りました.テレビや電話,クレジット・カード,インターネット,ハリウッド映画やゲーム機,e-mailが普及するまで,王さんの仕事は続くでしょう.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg, FEER:Far Eastern Economic Review


ST FEB 6, 2003 THU

Industrialised world must adapt to rising China and India

EISUKE SAKAKIBARA

(コメント) IT革命と社会主義圏の崩壊による世界市場の構造変化を強調するグローバリゼーションが,榊原氏の持論です.中国が世界の工業力を集中し,インドが世界のハイテク・ソフト産業を集中する.日本などの旧工業国や,アジアの工業化を目指す諸国は,その脅威に震えているしかないのか? と問います.

もちろん,正しい答えはグローバリゼーションの新しい条件を受け入れて,国際的・地域的な分業を組み変えることです.中国にもインドにも,まだ多くの弱点があり,国際的な相互依存と協力が必要です.外国からの投資や技術移転は,彼らが急速な成長を維持するエンジンなのです.

日本がこの新しい国際分業に指導的な役割を果たすには,衰退していく国内の工業や農業を保護するのではなく,サービス経済をさらに発達させることが重要です.この点に,榊原氏の主張は独自な強調点を置いています.既に70%がサービス経済化している日本経済は,サービス部門を発達させるべきであるのに,「鉄の三角形(業界=自民党=官僚)」が気勢を張り巡らせて一層の発達を妨げている,と言います.

アジアの市場統合は一方通行か? 「サービス経済化」の中に何を見るのか? 本当に中国の輸出がデフレの主因なのか? 金融部門のユーフォリアやITバブルの後でも,サービス化を救世主と言えるのか? ・・・といった問題が,もちろん残るでしょう.


FT February 6 2003

The wild east

中国が工業化するスピードには息が止まる.このまま行けば,中国が世界中の大量生産の中心地になる日は近いと思うはずだ.しかし,この桁外れの成長は非常に危険でもある.中国の経済的軌跡に対する最重要問題は,それがいつまで続けられるか? である.日本や韓国の成長がそうであったように,その基礎は輸出指向の,豊富な低賃金労働力と,安価な資本,そしてアニマル・スピリッツである.しかし,先例から見ても,警戒が必要である.

すなわち日本や韓国が最盛時にそうであったように,中国の企業も利潤よりマーケット・シェアにしか関心がない.その結果,価格競争は激しくなり,過剰生産力が著しく,中国がデフレを輸出していると非難されている.こうした状態が無限に続くことは無い.

ある程度,それは持続できるだろう.収益を期待できないのに国有銀行が企業に融資を拡大し,外国投資家は中国経済の無限の潜在力を盲信する限り.しかし,その代価は効率的な資本配分の失敗であり,それが不良債権の累積となる.ある推計では,GDPの40%に達すると言う.有効な破産法が無い上に,企業統治も不十分で,その制度が弱いために,経済の歪みはさらにひどくなる.

中国の新政府は,金融改革の必要性に気付いているようだ.債務を減らし,巨大な国有銀行をリストラし,金利の効かない融資を削減して,中国の株式市場に外資を導入し始めた.しかし,この薬が速やかに効果を発揮できるかどうかは,分からない.

改革にはリスクもある.北京が最も恐れるのは社会不安である.そのせいで,長く求められていた新しい破産法の導入も5年延期されるだろう.直接投資が流入する限り,国内金融改革も先送りされる.こうした悪い徴候が見られる.それは問題をむしろ一層難しくするのだ.資源の間違った配分による,利潤を生まない成長は,無限に続けられない.中国の経済的軌跡にひび割れが生じれば,外国投資家は逃げ出すだろう.ラテン・アメリカや東南アジアの最近の例が示したように,彼らは天気の良いときだけ友人になりたがるが,非常に移り気である.

もし中国の経済発展が健全な基礎を得たいのであれば,その企業家精神を近代的な制度的インフラと政策にも反映させ,市場のシグナルと規律とを5年前の韓国危機や今も継続する日本の経済麻痺に陥らないようにするべきだ.中国には,まだ,隣国の失敗から学ぶ時間がある.


NYT February 6, 2003

The Case Against Iraq

WP Thursday, February 6, 2003

A Winning Hand for Powell

By Richard Cohen

WP Thursday, February 6, 2003

I'm Persuaded

By Mary McGrory

(コメント) NYTは,パウエル国務長官の演説を,安保理とそのテレビ中継を観る世界の視聴者に対する超大国アメリカの姿勢と考えます.何を正すために,アメリカは武力を行使するのか? ブッシュ大統領は,対イラク戦争を安保理で議論することを選びました.今回,パウエル氏はフセイン政権が安保理決議を進んで実行していない,という点を説得しました.正邪の二元論や武器の証拠より,武装解除を妨げ,大量破壊兵器を隠匿している可能性も強く示しました.フランスやドイツ,ロシアは査察の継続を求めています.この戦争の重要さ,経済負担,戦後復興の難しさなどを考えて,NYTは,ブッシュ政権に国連安保理でこの問題についての議論を尽くすよう求めています.

Cohenは,強くパウエル長官を支持します.イラク戦は必要である.なぜなら,パウエル氏がそう言うから.安保理でいくら議論しても,戦争するか,しないかは,「一方で云々,他方では云々」と終わりの無い議論となる.「他方」の無い世界など,いつになっても来ないのだ.イラクは大量破壊兵器を破棄していないし,おそらく隠匿しているだろう.パウエル氏の話を聞いても,まだ,それが分からないのは,よほどの愚か者か,フランス人だけである.特別な衛星写真がないと言うのでは話にならない.全体を見ろ! そして,ブッシュ政権の中で,最も信頼されている,この本物の政治家が,戦争を決断して安保理に登場したことこそ,もはや言を左右するときではない,ということを示している,と考えます.攻撃すれば危険やコストがある.しかし,攻撃しなければ,それはもっと危険であり,将来のコストも大きいだろう,と.

McGroryは,第二次世界大戦を経験した世代として,正しい戦争などというものは無いと考えます.好戦的な主張は受け入れられないし,ブッシュ氏は間違った理由で,すなわち,石油や保守主義により,戦争しようとしている,と思っています.しかし,パウエル氏は信用できるし,彼の安保理における演説は立派であった,と考えます.もし彼が「戦争しか悪魔を食い止める方法はない」と言うのであれば,私はそれを信用する,と.


LAT February 6, 2003

Once Again, We're Being Railroaded

By Arianna Huffington

ブッシュ政権は,パウエル・ドクトリンを無視してパウエル国務長官をイラク攻撃の弁護に利用し,オニール氏を切って,財政均衡主義者のスノー氏を赤字予算の提案に採用した.しかし,このスノー氏はとんでもない企業のネコババ重役だ.こうした犯罪的な企業幹部を政権に引き入れたことこそ,ブッシュ氏の最大の罪悪だ.

スノー氏は,2001年だけで1010万ドル(約12億1200万円)の報酬をCSX社から得た.彼が重役であった間,CSX社の利潤は失われ,他企業に比べて株価は3分の2しか上昇しなかった.彼は会社から2450万ドルを借り入れた.こうした融資が禁止される前年である.しかも,結局,会社はこの融資を返済しなくて良いものとした.彼は年金についても法外に有利な条件を得た.16万1200ドルの給与は得たまま,会社から死ぬまで毎年247万ドルを支払われるのだ.

1998年以来,CSX社は税引き前に10億ドル近い利潤を得ながら,過去4年間で3年間は税金を支払っていない.この世界有数の脱税犯が,今では,財務省長官である.そしてアメリカ経済を,CSX社のように,世界最悪の脱線事故へと導くだろう.


NYT February 6, 2003

Young, Jobless, Hopeless

By BOB HERBERT

ますます多くの若者が職を得られないまま,何の助けも無しに暮らしている.彼らは道の片隅で,商店街やボーリング場で集まり,金を奪い,麻薬の売買,ギャング,売春,などにかかわる.

シカゴだけで,約10万人の若者(16歳から24歳)が職を持たず,学校に行かず,何の希望も無い生活を送っている.ニュー・ヨークには20万人以上,アメリカ全土では250万人以上もそのような若者がおり,さらに増加中である.彼らは多くの点で社会のメイン・ストリートから隔離されている.

シカゴのファースト・フード店で働く17歳の少女は,「自分たちは,単に通りにいるだけで,強姦され,銃殺される」と言う.政治家や経済学者は「マイルドな不況」を議論している.しかし,若者たちは残酷に撃ち落される.19歳の少女も,毎朝,シャワーを浴び,服を着て,職探しに町へ出る.「どんな仕事でもやりたい.仕事でさえあれば,何だって良いのだ.」

若者の失業率は12%に上昇した.しかし,失業中の若者に職場や訓練を支援する地方政府のプログラムは削減されていく.20代の職場や経験は,その後の生活にとって非常に重要である.この時期に取り残されれば,残りの人生で追いつくことは難しい.そして,アメリカ自体が熟練労働者を失っていく.いずれ,彼らを社会の支出で生活させねばならない.「子供たちは,社会の公平な扱いを必要としている.」

ブッシュ政権はイラク戦を目指し,富裕層の減税を掲げて戦うが,若者の苦しみには関心が無い.シカゴの失業した若者,教育を受けていない若者と,長い間話し合ってきた.彼らはすでに何の望みも持っていない.まともな職場も,恋愛も,結婚も,家族を持ちたいとも話さない.いつか自分の家を持ちたい,と言う者は無い.

そこには前向きの言葉や感情がなかった.そこにあるのは,挫折と怒り,そして何より,悲哀だ.


The Guardian, Friday February 7, 2003

Action is risky, but turning away could be even riskier

Martin Woollacott

(コメント) たとえば,こんな発想ではないでしょうか?

イラクへの軍事介入を回避すべき理由は多くある.しかし,コソボの経験からすれば,われわれが軍事介入に多くを求めすぎることも,結局,その国や国際社会を危険から免れさせるわけではない.介入後の社会がどのような民主主義を行い,国家を解体してしまうかまで,我々が決めるわけには行かないのだ.

予め,余りに多くのことを要求し,戦争への条件を厳しくすれば,アメリカの軍事的な介入や支援無しに,我々は国際社会の秩序を摸索しなければならなくなる.介入が望ましい社会をもたらさないからと言って,混乱した社会や独裁者を放置すれば,国際社会が改善される見込みはまったくなくなるだろう.そしてわれわれにとって,中東の安全保障は,放置するには余りに重要なのである.

パレスチナが平和を実現するにも,外部からの支援が欠かせない.傀儡政権.軍閥の抗争.オスロの枠組み.イランとイラクの二重封じ込め.非民主的なアラブ「友好国」との関係.・・・ アラブ世界を民主化する大計画をアメリカがヨーロッパと建てても,それがイラク戦争を支持する理由にはならない.湾岸戦争のときも,サダムはすぐに失脚するはずだった.

アラブ世界の知識人も,イスラムの世俗化と近代化は必要だと認めている.それは外部世界,特にアメリカとの協力を意味する.しかし,それでも民衆や知識人は,アメリカがイラクを攻撃することを支持しないだろう.この不可能な土地で,われわれは戦うのだ.

問われるべきは,戦争が正しいかどうかではない.政府は,この戦争に対して,それを最後まで成し遂げる十分な能力と結束を示す用意があるのか? ということだ.


NYT February 7, 2003

Is the Maestro a Hack?

By PAUL KRUGMAN

(コメント) KRUGMANは,アラン・グリーンスパン議長がブッシュ政権の財政赤字を弁解する議会証言を行うことを,事前に強く牽制します.クリントン政権時には財政赤字を阻み,高い評価を得ていた人物が,共和党の大統領を支持するために持論を翻し,減税や財政赤字を正当化する仲間に入ることは許されない,というわけです.ブッシュ氏は,減税策を一時的な赤字でしかないと言い,今度は大幅な赤字が続くことを不況と戦争のせいにしています.彼が悪化させた不況,彼が求める戦争,なのです.アラン・グリーンスパンは,他人には厳しく,自分には甘い,そんな人物であると,歴史に記録させたいのか?


NYT February 7, 2003

War and Wisdom

By NICHOLAS D. KRISTOF

ブッシュ大統領とパウエル氏は,イラクが武器を隠し持ち,サダム・フセインが嘘つきで,イラク政府の関係者が電話でおしゃべりしたことを,巧妙に示した.しかし,その解決策がイラクに侵攻することだ,とは示せなかった.

もしマシンガンで引き裂かれた子供たちを見たら,戦争は最後の手段だと分かっている.われわれはそこまで行っていない.封じ込めの方が良い.ペンタゴンの制服組は,好戦的な官僚たちと違って,用心深い.シュワルツコフ,ジニ,クラークのような将軍たちは,皆,戦争を即決することを嫌う.

たとえば,ジニ将軍はタカ派に対して,「どの星について話しているのかは知らないが,私が巡ってきた星ではない」と言う.「武力行使で問題を解決できると思うのは間違いだ.第一に,それは必要でない.第二に,戦争や暴力はまさに最後の手段である.」と.

タカ派はフセインをヒトラーやナセルに喩える.しかし,フセインはヒトラーほど強くない.隣国を侵略するのにも失敗した.むしろ1980年のリビアのカダフィに喩えるべきだ.カダフィは,当時,大量破壊兵器を求め,国際的なテロを支援していた.しかしレーガン大統領は賢明に振舞い,カダフィを封じ込めた.この20年間を,リビア征服とベドウィンたちとの砂漠の戦闘に費やした方が良かったと思う者などいないはずだ.

フセインは確かにアメリカにまだ逆らっている.しかし,査察が示したように,イラクは武装解除を進め,多くの兵器を破壊した.それはアメリカが湾岸戦争で破壊したものより多い.フセインが武器を隠匿しても,それを整備することはできないだろう.核兵器を得ることもない.核兵器は比較的探知され易いからだ.大規模の工場や電力を必要とする.査察には重大な欠陥もあるが,フセインに核兵器を作らせないことはできる.

資源の問題を考えてみる.戦死者は別にしても,戦争と再建に1000億から2000億ドルが必要だろう.アメリカの納税者一人当り,750ドルから1500ドルの負担となる.それは他の支出とトレード・オフである.国防,教育,ハイブリッド・カーや水素カーの開発,エネルギー自給計画,など.

ブッシュ大統領は,それでも,イラク侵攻が賢明な選択である,と主張するのか? 数千人の戦死者と,1000億ドル以上の戦費が?


IHT Saturday, February 8, 2003

A just war or geopolitical strategy?

William Pfaff

(コメント) ヨーロッパから見れば,Pfaffが言うように,アメリカの主張の根拠は不十分です.喩え国際法は無くとも,コモン・センスに従って,戦争は他のあらゆる手段が尽くされた場合にのみ,しかも正しい意図・目的に照らして,正当化されねばなりません.偏狭な政治目的や,経済的利害によって,戦争を行ってはならないのです.ところが,パウエル演説はイラクが国際社会の脅威であることを示していません.むしろ,アメリカが以前からイラクの体制転換を秘密裏に図っていたことを示しています.アメリカのイラク侵攻は,はたして,その罪に見合った行為なのか? 地域・国際安全保障のための無私な行為なのか? 世界の人々は,人口2億8千万人の,世界最強の経済・軍事大国アメリカが,国連制裁によって疲弊した,人口2300万人のイラクを叩き潰すことにためらいを感じるのです.アメリカにとって問題は,戦争をいつ始めるか,同盟国をどこまで増やせるか,です.それはパウエル演説でも変わらなかった,ということです.


ST FEB 9, 2003 SUN

The end of the nuclear freeze?

By William Choong

FT February 10 2003

Pyongyang needs nuclear bargaining power

By Robert Madsen

(コメント) Choongは,核拡散防止条約(NPT)による軍縮を破壊したのは,北朝鮮よりも,アメリカであった,と指摘します.アメリカ政府は,B29で長崎に原子爆弾を運んだカソリック信者のアメリカ兵が長崎市の信者約1万人を爆死させたのと同様に,核拡散防止条約を解体させる決定を積み重ねてきました.弾道ミサイル禁止条約(ANM)を破棄し,さらにロシア政府と核弾頭の撤廃ではなく保有について合意し,アメリカ上院は核実験禁止を拒み,核保有国内にも差別を設けました.

NPTの成功によって,核エネルギーの利用は拡大し,核兵器の保有国と非保有国との差別は,NPTの外で核兵器を開発する誘惑を拡げました.北朝鮮は,単にドミノを倒す最初の駒に過ぎません.IAEAは,核兵器開発を阻止するため,何をなすべきか,は合意していません.むしろ,アメリカを査察せよ,という声もあります.「テロと,ミサイルと,狂った独裁者たち」に満ちた世界を,ブッシュ氏は意識します.彼自身の行動が,それを招き寄せているにもかかわらず.

Madsenは,金正日の選択が完全に合理的である,と考えます.それは,要するに,北朝鮮の安全を保障し,援助を獲得させるのです.周辺諸国やアメリカはそれを嫌うでしょう.しかし,状況は変わりません.北朝鮮は査察や強制を拒み,援助と交換に,核兵器の生産やミサイル開発を凍結するだけです.


FT February 9 2003

Koizumi's last chance to rescue Japan

By Takatoshi Ito

この50日以内に,小泉首相は日本経済を転換する本当のチャンスをつかむ.それは最大で,最後のチャンスだ.日銀総裁の5年の任期が3月19日に切れるからだ.小泉氏は2月20日までに,次の総裁と二人の副総裁を指名する.

日本をデフレの罠から抜け出させるために,小泉氏は三つのことをしなければならない.

1.正統的な通貨政策が効かない以上,日銀は非正統的な通貨政策で貨幣の流通を増やすべきだと,確信させること.デフレは貨幣的現象である.小泉氏は同時に,貨幣を追加供給し,副作用を減らすために,日銀にインフレ目標を受け入れさせるべきだ.

2.財政赤字の拡大を拒否すること.債務のGDP比率は140%にも達している.財政赤字を増やさずに総需要を刺激する税制改革を重視すべきだ.

3.銀行の不良債権を完全に処理すること.債務によって利潤を出せないゾンビ企業は倒産させ,弱体化した銀行は国有化する.そして公的資金で不良資産を減らしてから民営化する.さらに,新しい産業を興す構造改革も進めるべきだ.

重要なことは,これら三つを同時に進めることだ.小泉氏が唱える構造改革だけ進めて,貨幣政策の拡大が伴わなければ,経済は一層深いデフレに落ち込む.日銀総裁,財務省,金融機関が協調するべきだ.こうした協調を組織できるのは,小泉首相だけである.

問題解決に欠けているのは,貨幣政策の転換である.速水総裁や日銀のエコノミストは,インフレ目標の効果を信じない.相対価格と絶対価格とを区別せずに,日銀のエコノミストは,輸入物価下落や技術進歩によるデフレを良いことだとさえ主張したのだ.

最近,日銀の政策担当者は,デフレは構造的であり,日銀が国債や株式信託,土地信託を購入しても効果は無い,あるいは,ハイパー・インフレを招きかねない,と論じた.速水氏自身が最近,貨幣政策の拡大を「無思慮な博打」と呼んだ.そのような意見は,世界で指導的な経済学者たちほとんどの見解に対立するものだ.

貨幣政策を転換するためには,日銀総裁を換えねばならない.新しい総裁は,過去の日銀の政策が間違っていたことを認め,デフレを終わらせる強いシグナルを送るべきだ.それによって,蔓延しているデフレ期待が払拭できる.首相はインフレ目標を導入し,新総裁と協力して,たとえば2年以内に1〜3%のインフレを目標に決めるべきだ.

日銀からの反対は強い.皮肉なことに,日銀に説得されて伝統的な貨幣政策を支持する政治家たちは,デフレ解消に財政支出の増加を求める.財政赤字がGDPの7%を超えても,彼らは気にしない.ここに,日銀と国会における神聖なるインフレ抑制(デフレ促進)同盟が結成されつつある.

小泉氏はこの政治同盟を乗り越える必要がある.一つの妥協は,日銀総裁の任期を分割して,最初の2年半をデフレ解消に,その後インフレが制御できない恐れがあるなら,保守的なインフレ抑制の強硬派に,総裁を委ねることだ.

これが最後のチャンスだ.もしデフレと財政赤字がまだ5年も続けば,債務のGDP比率は200%に達し,日本は破産に瀕するだろう.


BL 02/09 00:36

Who Says Success Would Kill the Bank of Japan?

By David DeRosa

BL 02/10 12:36

`Titanic Deck Chair Bond' Makes Way to Japan

By William Pesek Jr.

(コメント) DeRosaは,速水総裁の答弁に疑問を呈する.日本国債はバブルが懸念される.確かに,日本経済の回復を促せば,日銀はその保有資産である国債の価格が暴落するだろう.しかし,もし日銀が資産の価格下落リスクをヘッジするとしたら,それは奇妙な世界である.利潤動機で行動する中央銀行は,デフレに際して資産を売却し,不況を悪化させる.国債バブルでインフレ導入に予防線を張るより,もっと良い判断を示すべきだ,と言いたいのでしょう.

Pesek Jr.は,財務省を批判します.1万円から購入できる個人向けの国債を売り出した財務省は,何が目的なのか? 確かに個人は,倒産するかもしれない銀行や,下落するばかりの株式を買うより,たとえ1%に満たない利回りでも,それが保証された国債を保有したい,と思うでしょう.その結果,資金は郵便局や銀行,株式市場から引き上げられるでしょう.あるいは,支出も減る恐れがあります.そこでPesek Jr.は,この国債を「沈没寸前のタイタニック号乗客国債」と名付けます.船が沈没し始めているのに,椅子を並べ替えて喜ぶのは愚か者である,と.

竹中大臣が太鼓判を押そうが,歌舞伎役者や小雪,藤原紀香といったタレントたちがコマーシャルで国債を薦めようが,日本政府は国債発行を増やすべきではなく,減らす必要がある.国債を購入する個人は,子供や孫に資産を残してやりたいのだ.しかし財務省は,今,赤字を埋める資金を安く得ることしか考えていない,と.


The Guardian, Monday February 10, 2003

Twin vision of empire

Gary Younge

(コメント) Youngeは,アメリカもヨーロッパも大差ない,と言います.

ヨーロッパを平和志向で国際協調重視の立場,アメリカを好戦的で一方的に先制攻撃する立場,と思っているなら,それは間違いだ.アメリカの議論は,基本的に,ヨーロッパの帝国から続いている.彼らが対立しているのは,その倫理ではなく,戦略においてである.ヨーロッパの批評家たちがアメリカを残虐で支配的だと非難するのは正しいが,非ヨーロッパ世界からはヨーロッパがそうであった.人間性や歴史的視点を欠けば,単にヨーロッパは,自分の地位を奪われて,アメリカの力を妬んでいるだけなのだ.民主主義でも,人権でも,貧困解消でも,公正な貿易でもなく,彼らはどちらの帝国が有益かを比べているに過ぎない.

ヨーロッパもアメリカも,イラク政府に武器を売りつけ,その石油と領土に関心はあったが,イラク人民の権利には無関心であった.われわれはサダム・フセインにも戦争にも反対し,アメリカやヨーロッパではなく,イラク民衆の側に立つ.戦争は名も無い人々に悲惨な結末をもたらし,われわれをさらにテロ攻撃にさらすだけだ.


IHT Monday, February 10, 2003

Yes, a Security Council seat for India

Richard Wilcox

NYT February 9, 2003

Vote France Off the Island

By THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) イラク戦のための支持を集めるよりも,安保理改革にもっと力を注いではどうか? という意見です.アメリカは,問題が自分の望む形で解決できないのであれば,制度を作り変えます.その際,アメリカの利益としてではなく,国際的な目標を掲げます.そして,アメリカが動けば,実際に,国際秩序も変わる可能性があります.

すなわち,クリントン政権で活躍したWilcoxによれば,アメリカのインド人コミュニティーとアメリカ政府内部で,インドとアメリカの同盟結成を促す動きが以前からあります.世界最大の民主主義国家が安保理の常任理事国になれば,その正当性は高められます.それは,日本やドイツを加えるよりも,世界の代表制民主主義に貢し,アメリカの多角主義も強まるでしょう.

インドは民主主義の価値をアメリカと共有しており,軍事的にも技術的にも,最も危険な地域で世界の秩序を担う力を付けています.中国やパキスタンの反対も,インドの近代化をアメリカが支援すれば克服できる,と言います.

FRIEDMANも,NBAのオール・スター選手を決めるように,ファンの人気投票で安保理の常任理事国を決める方が良い,と言います.そうすれば,多分,フランスは外れて,ロシア,中国,インド,イギリス,アメリカ,になるだろう,と.彼はこうしてフランスを脅します.世界は「秩序圏」と「無秩序圏」とに分断されており,アメリカは「秩序圏」を拡大するために戦っている.もしイラクと戦争せずに,イラクの無秩序を正せるとしたら,それはフランスのようにアメリカ外交を孤立させるのではなく,むしろ「秩序圏」が一致団結することだ,と.

「そう言えば,その頃,フランスの首相は企業の使節として,コンピューター産業の世界的中心地となったインドを訪問中でしたね」と皮肉を言うFRIEDMANは,アメリカが秩序を解釈し,安保理加盟国を決めることへの反発を,軽視していると思います.本当に世界人気投票だけなら,中国やインドは入っても,アメリカが残る理由は無いでしょう.その軍隊と経済力を国際秩序に従わせて,アメリカ政府は内政だけに集中してくれ,と言われるのでは?

アジア通貨基金に限らず,国連安保理への参加や核兵器の廃絶,アジアの貿易・投資自由化協定,地域安全保障の促進,主要通貨の協調介入合意など,日本の「国際構想」は見る影もありません.「国債抗争」という変換ミスに絶句します.


NYT February 10, 2003

Round 1 Goes to Mr. Big

By JOSEF JOFFE (editor of the German weekly Die Zeit)

FT February 11 2003

Diplomatic notebook: End of an era for Nato

By Judy Dempsey in Brussels

ST FEB 11, 2003 TUE

US must use its sword, or else...

FAREED ZAKARIA

(コメント) JOFFEは,二つの戦争がある,と言います.一つはイラクとの戦争.もう一つは,独・仏連合との戦争である,と.後者は,EU内部の新旧対立でもある.独・仏連合は古いエンジンであり,イギリスや東欧の新加盟諸国などが新しいエンジンです.フランスは「超大国」を牽制する政治同盟を唱えますが,ある日,突然,それは消滅するでしょう.アメリカはNATOを必要としません.分裂し,NATOを必要としているのは,ヨーロッパです.ヨーロッパ内部の改善は,EUではなく,ぺンタゴンに懸かっています.アメリカは大国の責任に縛られ,ドイツとフランスは内外で制御不能に陥るでしょう.

Dempseyも,NATOは借り物だ,と言います.冷戦において西欧諸国をアメリカとイギリスの軍事力で防衛していたNATOが,東欧諸国やトルコとともに,イラク戦をめぐって紛糾しています.アメリカにとって,対イラク戦で利用できないようなNATOは要らないのです.ヨーロッパ諸国は,自分たちの安全保障体制を確立するまでは,NATOに頼るしかありません.そうであれば,安保理の紛糾をNATOにまで拡大するのは,避けるべきではないか? と.

ZAKARIAは,アメリカは国際社会のためにイラクを懲らしめると語り,剣を抜いた.今,もし剣を使わないなら,その言葉は嘘になる.国際秩序は,テロリストや独裁者の振舞いを放置するようになるだろう,と言います.剣を抜いた以上,その信念に従って,剣を振り下ろせ.それがヴェトナムの教訓だ,と.


FT February 11 2003

Europeans must agree to disagree

By Martin Wolf

ヨーロッパは混乱している.イラク戦,ユーロ圏の経済政策,憲法創案.アメリカ人の多くが,この旧大陸を,憤慨と軽蔑のまなざしで見る.しかし,事態は決してそれほど悪くない.ヨーロッパは繁栄し,平和で,民主的であり,次第に統合されつつある.アメリカにとって,ヨーロッパは最も重要な戦略的パートナーである.ヨーロッパ内部であれ,欧米間であれ,摩擦は制御できる.

ヨーロッパは「老いた」人々であり,裕福で,リスクを嫌う.戦乱への敵意は,その野蛮な歴史にも由来する.EU加盟諸国は,スウェーデンとイギリスを除いて,20世紀になっても征服され,内乱を経験した.多くのアメリカ人にとって,戦争は正義のために,栄光ある勝利のために,存在する.しかし,多くのヨーロッパ人にとって,戦争とは破滅であり,不道徳である.

歴史はまた,経済政策でもリスクを嫌う気持ちを強める.西欧の工業経済は,階層化された農村的な社会から誕生した.それは社会的対立,政治的混乱,体外的拡大,に走った.EUや福祉国家,高度な規制が,その解決策であった.この福祉国家は,縮小しつつも,なくならないだろう.

西欧内部にも違いがある.安全保障では,本能的にイギリスはアメリカに従い,フランスは「超大国」を牽制する.多くのドイツ人は,その歴史から,ラムズフェルドの権力政治を激しく嫌う.イラク戦を支持した,イギリス,イタリア,スペインなど,8カ国は,独仏によるEU運営に不満を持つ国であった.その違いは,経済政策においても,債務比率や労働市場,企業の買収,など各国の異なった条件による.

リスクを嫌う,独善的な,老人の多い,内紛続きのヨーロッパに対して,アメリカは相手にしないでも良い,と思うだろう.しかし,それは深刻な戦略上のミスだ.

ヨーロッパは重要である.民主主義の価値,その人口や経済,貿易,FDI,援助の規模において,アメリカに並ぶ重要性をもつ.西欧は,アメリカと価値や利害を共有できる唯一の地域である.互いに意見が食い違うことは避けられない.しかし,その結果は,可能な分野で協調し,協調できない分野では違いを認めること,である.イラク戦に関して,人々の意見が異なることは当然だ.この違いを関係の断絶に高めることはナンセンスである.

相違の承認は,EU内部の関係にも必要だ.加盟国が増えれば,それはますます重要になる.憲法が機能するためには,相違に対する寛容さ,が不可欠である.外交,安全保障,法体系,労働市場,などの相違を,EUは受け入れるべきだ.しかし,逆に,彼らは政策の集中を目指すようだ.

現在の不和は破局ではない.ヨーロッパはもはや衛星ではない.共通政策は必要ない.理想主義者の目指す共通基準は失敗するだろう.逆に,もっと多様で,安定したヨーロッパこそ,現実的であり,長い目で見てふさわしい.

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The Economist, February 1st 2002

Currencies: Downhill dollar

(コメント) これは,かつての「目標相場圏」と「政策協調」を思い出させる正当な議論です.しかし,なぜ滅んだのでしょうか?

「緩やかなドル安は望ましい.スノー財務長官がドル高政策に復帰する発言をしたが,それは間違いだ.当時はインフレが重要だったが,今はデフレに注意すべきだ.しかも,ドルはまだ過大評価である.世界はアメリカの消費に依存しすぎており,不均衡だ.もはや連銀に金融緩和の余地はない.そのためには,ボロボロの日本を当てにはできないから,ヨーロッパが成長することだ.ユーロ高はECBの金利引下げを促すだろう.それはヨーロッパ諸政府が構造改革を進める上でも重要だ.」


Unpaid workers: Does China have 10m slaves?

Cars in China: The great leap forward

(コメント) 中国経済の現状と問題点を示す二つの記事です.前者は,旧正月にも故郷に帰るための旅費さえもらえない労働者たちが,手配師や不動産開発業者を襲い,また街頭に集まって,金融引締めに走る国有銀行に抗議し始めている,と伝えます.中国には,主として沿海部都市圏の建設分野で,1000万人の賃金をもらえない「奴隷労働者」が居る,と.

後者では,中国人の購買力が増大して,自動車生産が爆発的に増加する,と予測されています.外国から参入した自動車会社は,相次いで拡大計画を発表しています.しかし,問題は投資が十分に整理されず,政府が合弁方式で過剰投資と技術や部品の流用を助長していることです.その結果は,他の分野でも起きているように,生産過剰と価格の下落,さらに比較優位を無視した輸出拡大です.


Economics focus: A better way to go bust

(コメント) IMFのクルーガー副専務理事が提唱したSDRM(政府債務組替メカニズム)は,国内の破産処理をまねた,合理的な提案でした.当初から,IMFによる債務削減案ではないか,債権者の権利を弱める,国際投資を妨げる,デフォルトを助長する,などという批判がありました.しかしこの記事は,市場の条件に従って,債務を多数債権者の意見により,新しい条件で返済させることだ,という点にその核心を示唆します.それでも,反対する債権者たちは政治的介入を恐れ,その懸念を強めるだけで,市場は抑制されてしまう,と言います.政治的秩序を完全に排除したい,というわけです.