IPEの果樹園2003
今週のReview
2/3-2/8
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寒い中,日本は入学試験の季節です.試験場に行けば,有名な塾の幟が何本も建って,揃いのジャケットを着たスタッフたちが生徒たちを激励しています.中には威勢の良い掛け声を繰り返し,威嚇するような文句を斉唱する塾,一緒に集まってテキストを開き,子供たちの安心を演出する塾など,父母の歓心を買うことに余念がありません.しかし他方で,勉強が好きな,自分で努力してきた,おとなしい生徒もいるでしょう.その少年や少女は,この光景に,何を想うでしょうか?
私は受験勉強が嫌いでした.宅浪(自宅浪人)も経験しました.受験は,大人も子供も,システムの奴隷にしてしまいます.それは勉強や学習ではありません.多くの子供たちは才能を歪められ,競争に消耗し,エリート意識だけを強めます.極端な場合,合格した者が制度を称え,社会の支配的な地位を目指す半面,合格しなかった者は敗者の烙印を押され,発言もさせてもらえません.
受験システムは,ロナルド・ドーアの『学歴社会』にあるような,学歴インフレーションをもたらします.キャッチ・アップ過程における発展途上国では,急速な革新が外から導入されました.その過程を制限し,その機会を享受できる人間は,しばしば先進国を模倣した教育制度によって選別されます.多くの子供が,裕福な社会への入場券を得るために,激しく競争しなければなりません.入場者が制限されている以上,競争は内容よりも選別のために組織されます.
入学志願者に合わせて学校を増やせば,学歴をもった人間が増えすぎて,学歴(卒業証書)の価値が低下します.学歴インフレーションは,子供や親をさらに高い学歴に追い立て,ますます多くの人間を長期にわたって拘束します.その挙句,どのような職種の募集にも大学卒業の若者が殺到し,あるいは大学院や留学にも就職活動が反映されます.
受験戦争や学歴インフレは過熱し,受験の低年齢化は,幼稚園の親子面接や胎児教育,人工授精,遺伝子操作にまで至ります.選別と学歴が富への切符であるとすれば,裕福な親はこれを自分の子供に買ってやりたいと思うでしょう.高額の授業料を取る塾や私学が栄え,こうした子供たちは,受験にとって役に立たない教師や,まじめに勉強する貧しい同級生を軽蔑します.これらに比べたら,大店の主人が番頭と娘を結婚させた方がまともな気さえします.
帝国の支配は優れた輸送・通信手段とともに,優れた官僚制度を必要としたはずです.中国で科挙が発達したのは,帝国のおかげであり,その安定の基盤でもあったでしょう.私は受験勉強が嫌いですが,いろいろと訳のわからない試験や入学制度,帰国子女や縁故・推薦入学がはびこる中では,明確に学科試験の点数で入学者を決める方が優れた選択基準だ,と思います.
もちろん,そうであれば子供たちにより多くの機会を与え,さまざまな基準を設けて,社会が必要とする,優れた学生を育てて欲しいと思います.しかし能力主義や国際競争という理由で,次第に,私たちはアメリカのテキストで経済学を教えます.中国の大学でも,それは急速に支配的な基準となっています.アメリカのテキストは確かに優秀です.市場の規模や成功報酬の大きさ,留学生や亡命者も取り込んだ,開かれた競争など,良い条件が揃っていると言われます.
結果的に,アメリカ富裕層の支配や英語の世界は地球規模で拡大し,各地に留学生・亡命者による親米政権や市場統合型の政策転換をもたらしています.学問は,まるで中世の教会組織のように,さまざまな学派と人脈を利用した,秘密の情報交換と閉鎖的な職業斡旋の手段となる傾向があると思います.形骸化し,国威高揚とマスコミやショー・ビジネスに買収されたオリンピックと同様,受験産業や学術団体も解散した方が良いでしょう.一方では私的な互助サークルに分解し,他方では世界的な規模の合宿・交流組織を寄付やボランティアによって運営するのです.どちらも,毎年,インターネットで仲間に呼びかければ十分です.
学校は変わりました.TVスターが通学したり,ニュース性を振り撒いたり,受験生の間で人気を高めることが優秀な学校の条件となっています.しかし,その中身は土地や株価のバブルに似たものとなるでしょう.卒業資格を得るためであれば,多額の入学金を支払い,抜け道を探し,カンニングをすることも,単に一つの手段です.学校で教える者も,教えられる者も,何が自分たちの存在理由なのか,分からなくなります.
もし理想の学園があれば,校舎には子供たちの学ぶ喜びがあふれ,歓声が湧いていることでしょう.多分,アフガニスタンやパレスチナの子供たちは,勉強や労動が奴隷の苦しみではなく,生きる希望や楽しみであるという理想を失っていないはずです.以前にも書いたように,彼らの何人かを特別留学生として大学が招待すべきだ,と私は思います.
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg, FEER:Far Eastern Economic Review
FT January 21 2003
Economic globalisation: An unfinished revolution
By Martin Wolf
グローバリゼーションへの批判は間違っている.批判する人々の多くは,以下のように,間違った主張に基づいている.
1.「グローバリゼーションは避けられない.」 しかし,それを決めるのは通信・輸送技術と政策判断である.通信や輸送が安価になり,他方で,政策が自由化,市場統合化を選択すれば,その限りでグローバリゼーションが進展する.
2.「グローバリゼーションは史上空前のことだ.」 しかし,貿易や関税は確かに非常に低いが,国際投資に関しては以前のほうが大規模であったかもしれない.そして国際移民は明らかに過去の方が大規模に行われた.
3.「グローバリゼーションはいたるところに浸透している.」 しかし,基本的に資本蓄積は国内で行われている.工業製品の国際取引は増えたが,経済のサービス化は貿易依存度の上昇を抑制している.
4.「グローバリゼーションは一方通行である.」 しかし,ソ連崩壊の楽観と一方的な自由化の流れは続かなかった.新興市場への資本流入は衰退している.今後のことは分からない.安全保障の問題が深刻になれば,貿易を抑えるだろう.アメリカなど,主要国のグローバリゼーションに対する支持は変わっていない.特に,国境を越えて企業活動が展開されていく中で,グローバリゼーションの逆転は難しい.
5.「グローバリゼーションは世界の貧困を増やし,超国家企業(TNCs)による搾取を強める.」しかし,世界の絶対的な貧困は減少してきたし,特に,世界市場に統合することで中国の貧困は大きく減少した.TNCsは発展途上所得が輸出を伸ばすのに貢献している.
グローバリゼーションは続くだろうが,それがどのように作用するのかについては,改善するべき点がある.特に,金融不安定性,移民問題,破綻国家,国家主権と国際管理体制,をどうするか? これらの点について我々は取り組むことだ.
FT January 23 2003
Chris Giles: Easing the gridlock
By Chris Giles
この国は現状維持に蝕まれている.経済効率の改善に構造改革を行うのは無理かもしれない.敗者は,たとえ少数でも非常に強力であるから.そんな風に,イギリスの批評家たちはドイツや日本のことを描いている.しかし,ロンドンが導入を予定している渋滞課徴金に対する少数の激しい抗議を見れば,イギリスも同様である.
2月17日に始まる課徴金制度は,興味深い経済実験である.ロンドンの交通渋滞を重視する市長の考えには誰も異議を唱えない.それがロンドン経済に与える損害は莫大である.しかし,リヴィングストンが市長に選ばれて,この問題解決に経済学の標準的な解決策を示せば,すなわち道路を無秩序より価格で割り当てようとすれば,大変な抗議が沸き起こった.
ロンドン子たちは,にわかに課徴金制度の専門家になった.運転手たちはどう反応するのか? 渋滞は規制地区の外側に移るのか? 前例が無いから,誰にも確かなことは分からない.しかし,私は成功して欲しい.経済原則を難しい問題に適用してみることだ.他方,その批判の多くはでたらめである.
1.課徴金制度は,負担だけでなく,多くの利益をもたらす.2.ロンドンの公共輸送機関は拡充できる.3.課徴金は貧者への課税では無い.
官庁は明言しないが,ロンドンの交通渋滞を解消する最善の策は,ガソリン税を課徴金に徐々に転換することである.そして課徴金は,地域や時間による渋滞に応じて決められる.ドイツや日本のような過ちを犯さないために,ロンドン市民は,たとえリヴィングストンを支持しなくても,課徴金制度を支持するべきだ.
FT January 23 2003
Japanese inflation
(コメント) 日銀総裁の指名に関するFTの視線は,インフレ目標を掲げてデフレと戦う人が望ましい,です.その意味では,福井俊彦氏より,中原伸之氏や黒田東彦氏を支持します.
なぜインフレ・ファイターが望ましいのか? それは,デフレが銀行の再生にも,景気回復にも,マイナスでしかないからです.反対派が言うように,金融政策だけでデフレを克服できません.しかし,かといって,金融政策の一層の緩和が構造改革を妨げるとか,インフレがその過程を撹乱する,ということも認められない,というのです.
小泉首相にすれば,こうした意味で,政策協力できる,市場にも政治家にもその姿勢を説明できる,優れた日銀総裁を指名することこそが,今,最も重要な政策なのです.
FEER January 30, 2003
Public Spending Explodes
By David Lague/HONG KONG
中国政府は,成長を維持し,雇用を促し,社会不安を抑えるために財政支出を増やし続ける.しかし,財政赤字は膨張し,銀行の不良債権は処理できないまま,破局に向かっている.
大運河計画には590億ドル(約7兆800億円).鉄道建設に420億ドル.2008年オリンピックのために340億ドル.上海の公共サービスを維持するために2003年だけで60億ドル.成長を維持するため,財政赤字のコストは現在と将来の納税者が負担する.
政府の徴税能力は追いつかない.その結果,国債の発行が増えている.財政支出による短期的な利益は,その長期的なコストに見合っているのか? 中国政府は,「財政赤字の罠」に落ち込みつつある.Morgan Stanley in Hong Kongの強気の部長Andy Xieも,システムの根本的な改革無しには,財政破綻が避けられない,という.「中国の成長モデルは,流動性をもたらす輸出に依存し,輸出は直接投資が動かし,国債によってインフラを建築している.」「このモデルは5年なら続くだろう.しかし,5年で国債の規模は維持できなくなり,金融危機が発生するかもしれない.」
世銀に拠れば,国際的に受け入れられているGDPの3%という水準を,昨年,超えたようだ.財政赤字で成長を続けるのは非常に危険なギャンブルだ.将来の負担は大きく,見返りは小さい.債務が増えることではなく,政府が国営企業の整理や,莫大な年金支払を引き受けた場合に,インフラ投資がどれほどできるのか,が問題だ.非公式な推計では,財政赤字,対外借入,不良債権と年金支払を含めた公的債務は,1.2兆ドルのGDPに対して,70%から150%に達している,という.
8%成長を実現した財政刺激策にもかかわらず,デフレは続き,2億7000万人という失業・低雇用者の対策として,共産党は財政赤字を増やし続ける.しかし,環境破壊と非難されている三峡ダム計画のように,その経済的な意義が怪しくなっている.政府は,こうした地方の公共投資を抑制しなければならないと考えている.財政赤字削減と銀行改革を進めなければ,危機が確実にやってくる.
NYT January 23, 2003
Why We Know Iraq Is Lying
By CONDOLEEZZA RICE (the national security adviser)
(コメント) RICE女史の主張は,軍縮体制というものが相互の合意と協力によって実行可能になることを示しています.しかし,彼女は「イラクはなぜ嘘つきか?」という問題にしてしまう点で,いかにもブッシュ政権の保守的軍事強硬派です.
私は,この論説が言うように,軍縮や武装解除は,その国の政府が全面的に協力する形で行われる,と思います.すなわち,南アフリカやウクライナ,カザフスタンのように,政府が自発的,積極的に武装解除し,非軍事化することを願って,国際社会にそれを示すため,査察を受け入れている場合です.この論説が示すように,1989年に南アフリカが核兵器の開発計画を放棄した際,IAEAにそれを厳密に証明するよう求めたのです.査察団は関連する施設や関係者を,完全に自由に調べることが許されました.また,毎日の操作記録や,特定の兵器の生産と破棄の記録をすべて公開しました.
それは,査察を受ける政府が望んだことなのです.ウクライナやカザフスタンも,査察を受け入れることで,大量破壊兵器を処理あるいは放棄し,安全保障上の問題を回避できました.他方,イラクはそうではない,とライス女史は言います.フセイン政権は今も大量破壊兵器を隠匿し,特に彼とその息子のクサイ氏が特別安全機構を支配している,と考えます.査察団は監視され,調査を制約され,協力は得られていません.
ライス女史が言うように,このような状況で査察が十分な武装解除の証明になるとは思えません.フセイン大統領は非武装化されたと宣言することで,国際社会に受け入れられたいとは望んでいないのです.では,それが「嘘つき」であり,軍事攻撃につながる特別なことなのでしょうか?
現実には,世界の安全保障が完璧では無い以上,政府は独自に武装し,そのことを秘密にする事情を持っています.南アフリカやウクライナ,カザフスタンが査察を歓迎したのは,安全保障上の戦略転換が自国にとって有利であると判断したからです.他方,イラクや北朝鮮は,その独裁的な政治体制や国際社会の合意に従わず,むしろそれを破壊して自国の利益を優先する姿勢に問題がある,と思います.
ライス女史の論説は,単純化によって道徳的な非難を行い,アメリカの軍事的な優位だけが世界の秩序を守っている,というアメリカ人だけの感情に訴える点で,特徴的です.
ST JAN 24, 2003 FRI
War on Iraq: US must consider consequences
By EVELYN GOH
The Guardian Monday January 27, 2003
America is a class act
Gary Younge
(コメント) GOHが展開するのも,帝国を目指さない,民主主義と国際秩序の価値を確立するアメリカ,という利他的モデルです.イラク戦争は,この利他的モデルが崩壊する危険を示しています.アメリカ政府が9・11以後に選択している方針とは,基本的に「巻き返し」なのです.その内容を決めるのは,アメリカ国民の抱く憤慨が基準です.アメリカ人は,何もしないと言って非難され,何かしたと言って避難される,と繰り返し不満を示すようになりました.イラク戦は,本土防衛と,アメリカの長期的なイメージにとって,非常に重要なのです.そして,もしこの戦争でブッシュ政権が「ソフト・パワー」を失えば,アメリカは完全に退却し,孤立主義に向かうでしょう.
Youngeは,アメリカ社会の内部に眼を向けます.共和党のFrank Murkowski上院議員が州知事に当選したとき,彼は上院議員のポストを誰に委ねるか,決定しなければなりませんでした.そして,他の共和党上院議員の息子を含む26人の候補者を慎重に審査した結果,何ともはや,彼自身の娘を指名したのです.「自分の哲学と自分の価値を同じくする人物」として,彼女に勝るものは無い.「両親の誇りである」と.こうした例は多くあるようです.イギリスのような生物学的な階級差別社会ではないが,アメリカは個人主義的な,能力主義に偽装した,階級差別社会である,とYoungeは批判します.なぜなら,その巨大なメリトクラシーのトップに立つ人物こそ,高校の成績がCランクでも父親のおかげでイェール大学に入学できたブッシュ大統領だから,と.
NYT January 24, 2003
U.S. Role in the World Dominates Economic Talks
By MARK LANDLER
(コメント) アメリカという二つの国があるのか? LANDLERは,ダヴォスで議論されているアメリカがとても同じ国とは思えないようです.一方ではマレーシアのマハティールがアメリカを非難します.かつてジョージ・ソロスを非難したときには孤立していましたが,今回のダヴォスでは彼はアンチ・アメリカン・ヒーローです.他方ではノーベル経済学賞受賞者のロバート・マンデルやモルガン・スタンレーのステファン・ローチが,アメリカだけが世界経済のエンジンであり,アメリカの回復に世界の盛衰が懸かっている,と議論しています.日本はアメリカよりもバブル崩壊から立ち直るのが遅れるでしょうし,ヨーロッパ経済で活気があるのは輸出だけです.
FT January 27 2003
The real test of China's appetite for reform
By Minxin Pei
中国最初の経済特区となったShenzhen深?は,大胆な行政機構の改革を目指す報告書を発表し,中国の新しい指導者たちが政治システムの改革に道を開くものではないか,という憶測を生んでいる.
Shenzhenでは,この数ヶ月に,地区住民による直接選挙が行われ,農村だけでなく都市部にも選挙を拡大する試みが見られる.共産党の新しい規制では,農村の書記長は複数の候補から選挙で競争して決める.
中国の政治システムを改革するように促す三つの力がある.一つは,市場志向的な,世界統合を進める経済だ.しかし,指導者たちは政府機構を市場に従わせず,管制高地を維持して,市場に介入し続けている.
中国の官僚制度は,国有企業がその規模を縮小しているにもかかわらず,3倍に増大している.それは権力を膨張させ,腐敗の温床となる.政治改革には,最低限,苦しくとも官僚制度の縮小が必要である.
改革を促す第二の力は,中国社会の変化である.富が増え,経済的に独立し,情報を得て,空間的に移動し始めた中国社会は,政府の伝統的な統制手段を無効にしていく.共産党にとって幸いなことに,新興中産階級は民主主義に余り関心がない.しかし,彼らがいつまでも政治的に無気力であるはずは無い.共産党は彼らを政治過程に取り込まねばならない.
さらに重要なのは,最大の社会集団である,農民と,死んだような国有企業に帰属する労働者たちである.経済改革の敗者である彼らが,過激化する怖れがある.彼らの利益を保護できなければ,次第に暴動が起き,街頭行動に走る.政治過程を解放することで,彼らの不満を分散できる.
第三の力は,多くの改革派を抱える共産党自身である.政治改革は共産党の長年の課題であった.しかし,改革が必要であることを認めても,それを実行するとは思えない.他国の民主化を見ても,権威主義的な政治体制が自ら民主化を指導したケースは無い.改革は彼らの権力を奪う.多くの場合,政治的・経済的な危機が改革を受け入れさせるのだ.
中国の指導者たちは,その啓発された自己利益に従って,限定的な改革を実現するだろう.ひょっとしたら,官僚制度を削減し,腐敗を減らせるかもしれない.しかし,指導者たちの本当の試練は,共産党の権力を進んで制限することができるかどうか,である.政府の機関を自律させ,予算や行政の重要ポストの決定から手を引くことだ.そして裁判所を独立させ,法の支配を受け入れねばならない.
残念だが,中国の指導者たちが,そこまで進む徴候はまったくない.
FT January 27 2003
Too big a trade imbalance to handle at home
By Wynne Godley
(コメント) イギリスの好調な経済実績にも欠陥があるようです.対外赤字が拡大していることです.Godleyは,成長を持続させたと政府が自慢するのは間違っている,と言います.なぜなら,成長は消費が膨張して実現しているからです.それは,1997年には均衡していた貿易収支が,GDPの2%から3%へと増大したことに示されています.貨幣政策でこれを解消するのは無理な相談だ,とGodleyは考えます.短期的に金利や資本移動を操作しても,住宅市場のバブルで生じた消費の問題は解消できず,むしろバブルが破裂すれば成長率が急激に低下する,と心配します.その場合も,財政政策で刺激することはできますが,世界経済の成長を加速できなければ,対外赤字は解決できません.
ST JAN 28, 2003 TUE
Asia gets onto bandwagon of regionalism
RAZEEN SALLY (professor of economics at the London School of Economics)
(コメント) シンガポールがアメリカと結んだFTAに関する考察です.アジアはその貿易パターンからして,いままでAPECやWTOのような多角的自由化を支持してきました.しかし,このFTAは,中国がASEANに呼びかけたように,アジアにもFTAによる差別的な二国間交渉が重要になってくることを示しています.
しかし,とSALLYは考察します.貿易に依存し,多角的に自由化を望むのは,必ずしも各国が無条件に自由化することを意味しません.アジア諸国の相違も大きいわけです.また,日本は経済が低迷し,農業問題でFTAを指導できません.他方,中国はWTOに加盟し,自由化とFDIの受け入れでASEANに対する優位を得た上で,FTAを呼びかけています.中国を核にアジアの地域主義が誕生しつつあるのです.
SALLYの考えでは,世界が地域ブロックに分割されてしまえば,市場統合の甘みも失われます.そうならないためには,やはりWTOの枠組みが一定のルールを示すべきです.FTAが,二国間から,多角化していくわけです.その鍵は中国の姿勢です.中国が,市場を閉鎖するインドではなく,市場統合によって改革を目指すブラジルの方針をとれば,世界もEU型の管理より,WTOを国際交渉のフォーラムとして,国連安保理型の多角統合を実現するのではないか,と.
BL 01/28 13:56
Deflation in Hong Kong Not All Bad
By William Pesek Jr.
(コメント) 香港では,日本と違って,デフレが放任されているようです.なぜなら,香港も日本と同じように物価が高くて国際競争力を維持できないからです.その直接の原因は,中国本土の安価な生産立地と統合したことです.Pesek Jr.は,基本的に日本のデフレについても同じことが言える,と主張します.
日本と香港との違いはいくつかあります.@デフレのコストを決める債務の大きさ.A貿易や直接投資よる競争の程度.B通貨制度の統合度.C独立の政府.これらは決定的な違いを意味します.しかし,Pesek Jr.が言うように,デフレの原因は似ているでしょう.香港はデフレを容認し,物価下落を競争力回復と減税策の代わりだと考えます.さて,日本は何をするのか? 低金利と円安? リフレ政策? 財政赤字に依存して債務処理を遅らせてきた? 円安やデフレ対策は必要でも,競争を導入して価格を引き下げることを妨げるべきではないでしょう.
IHT Wednesday, January 29, 2003
In 2003, look back to 1984
James E. Goodby
NYT January 28, 2003
Iraq War: The First Question
By NICHOLAS D. KRISTOF
WP Tuesday, January 28, 2003
War Is Not Yet Necessary
By Jessica Mathews
WP Tuesday, January 28, 2003
Bush, the Bad Guy
By Richard Cohen
(コメント) 北朝鮮の核開発を終わらせる最も望ましい姿は,東アジア地域を非核化することです.同じように,ミサイルの射程を短くし,かつて戦艦の保有数を制限したように,国際合意で制限することでしょう.私たちは「恐怖の均衡」から抜け出せるのです.Goodbyは,朝鮮半島を1984年の分断されたヨーロッパにたとえ,レーガンのソ連に対する軍縮提案と比較します.唯一の重要な点は,金正日が軍事対立を解消することが自国の経済困難を解決する鍵であると認めるかどうかです.ゴルバチョフは認めたが,金正日は認めません.
他方,イラク攻撃は必要なのでしょうか? ここでも武装解除と民主化が望ましいはずです.イラク政府はそれを受け入れず,経済制裁や国際査察は効果が無いのでしょうか? KRISTOFは,最初に答えるべき質問は,イラクを攻撃して,我々はより安全に暮らせるのか? であると言います.それが確かでないのに,多くのアメリカ人兵士の命や税金を費やすのか? Mathewsも,なぜ戦うのか? なぜ今なのか? その答えは示されていない,と言います.
Cohenは,今年のダヴォスが「ブッシュいじめ」も集会であった,と言います.世界経済会議では,アメリカとヨーロッパが仲たがいし,互いに自分の言い分を譲らなかった,と.ヨーロッパ人は,アメリカが石油のために戦うのだ,と陰口を言い,フセインの脅威にはパレスチナ問題を持ち出して自分たちが何もしない言い訳にする.パウウェル国務長官が共通の価値を称えても,拍手していたのはアメリカ人だけだった.こうした条件で,アメリカは戦争を始めて良いのか? と心配しています.
WP Tuesday, January 28, 2003
Compassion for Catfish
BBC Tuesday, 28 January, 2003
US steps up catfish trade fight
By Clare Arthurs in Hanoi
(コメント) アメリカとヴェトナムのナマズ戦争が気になります.これは大量破壊兵器や安保理決議とは関係なく,貿易戦争です.ブッシュ政権は「思いやりのある」保守主義を実践して,自然災害でも無いのに,農民たちに補助金をばら撒く競争を議会で民主党と続けています.他方,ナマズ農家が参加する畜産・養殖業への補助金2億5000万ドルを安上がりにしようと思えば,たとえば,安価なナマズを輸出してアメリカの農民の所得を減らすと思われる30万人以上の貧しいヴェトナム農民(とアメリカの消費者)に対して関税を引き上げるのです.
LAT January 29, 2003
Our Nuclear Talk Gravely Imperils Us
By Edward M. Kennedy
NYT January 29, 2003
The Nation, the President, the War
NYT January 30, 2003
Washington vs. Skeptics on State of the Economy
By GRETCHEN MORGENSON
(コメント) ブッシュ政権はイラク戦で核兵器の先制使用も考える報告書を出しました.確かにブッシュ政権は通常兵器と核兵器の区分を無視しつつあるようです.広島以来の核使用を常態化する世界は,確実に,手元へ引き寄せられました.民主党のEdward M. Kennedy上院議員は,核兵器が通常の兵器では無いことを強調します.それは米兵の戦死者を減らすためなのでしょうか? あるいは北朝鮮など,核兵器を秘密裏に製造・調達する国への威嚇でしょうか? その結果,世界の核と急進運動は栄え,世界はもっと危険で不幸になるわけです.
ブッシュ氏の一般教書演説は,イラク戦に備えよ,もっと減税してやる,というメッセージであったようです.しかも,実際は選挙が気になって,左派と一緒にAIDSへの補助金や医療費対策,老人問題に予算を割り当て,国内問題に「思いやりのある保守主義」を売り込んでいます.ブッシュ氏の高い支持率も,戦争を含めて,政策の選挙循環を免れない,とNYTは危惧します.
MORGENSONの論説は,史上空前のバブルに乗ったアメリカ経済の沈没は,Fedの必死の救済策にも関わらず止まりそうになく,住宅市場へのバブルに依存しているという心配もあります.連邦政府と連銀が協力して,効果的な刺激策を示せ,と日本のような議論が紹介されています.
NYT January 30, 2003
Bait and Switch
By BOB HERBERT
ブッシュ大統領が演説の腕を磨いたのは確かだ.しかし,一般教書演説は最も重要な問題に何も答えていない.それは,この国がどうなっていくのか? という問題だ.
大統領は情熱的に訴えた.イラク民衆に「食糧,医薬品,物資を与え,そして自由を与えるのだ」と.しかし,国内では保守強硬派の政府として,経済安全保障を蝕み,健康保険や市民権,市民の自由,アメリカ人民の環境保全をはなはだしく損なっている.
最初の部分はまったく違った印象を与える.経済を回復して皆に雇用をもたらし,退職者にも医療費を補助し,環境に優しい水素自動車を開発させる,という.しかし,これはすべて見せかけの提案だ.失業が増えても,実際には効果の無い減税を繰り返し,他方で地方政府の負担は第二次大戦以来の財政危機をもたらしている.メディケアを改革する気は無い.環境を保護する他の提案には全く触れずに,汚染と温暖化と外国の石油に依存し続けている.
この演説には何も無い.
ブッシュ政権は根本的にアメリカを変えた.イラク攻撃をどう思うにせよ,アメリカは一国主義の先制攻撃を原則として,世界に不安定さと狂気を振り撒いている.国内では思いやりのある政策を唱えるけれど,社会政策は破綻し,この国の長期的なインフラはガタガタだ.
目前に迫る戦争が作用している.しかし,これはアメリカ国民が望む国の姿では無いだろう.そして,既にその代価は地方税の引き上げや社会資本の劣化として現れている.学校は傾き,公務員は解雇されている.これこそ,アメリカという国の姿だ.
唯一の超大国アメリカは,その力を外国で使うにも,国内で利益の分配に使うにも,なすべき義務がある.保守強硬派のブッシュには果たせない使命であり,それゆえ「思いやり」をばらまく.そんなレトリックを無視すれば,それはダーウィニズムの政治哲学しかない.アメリカ人の多数意見など寄せ付けない.
WP Thursday, January 30, 2003
Allies In a New Era
By Jim Hoagland
(コメント) もしブッシュ氏が本気で世界を作り変えるとしたら,Hoaglandが言うように,安全保障の同盟関係が変わった,ということが最初の一歩です.今や,東西ヨーロッパや共産主義の脅威が同盟関係を選択する基準では無いのです.旧同盟諸国にブッシュが迫った,テロとの戦争に関する態度表明は,ド・ゴールのフランスがしたような,同盟国でありながら独自の外交政策を採るようなことを,アメリカは許さない,ということでした.アメリカは拡大するヨーロッパの独自路線より,イスラエルやロシアとの安全保障同盟の方を選択するでしょう.
それはまるで,核兵器を含む,第三次世界大戦の筋書きに聞こえないでしょうか?
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The Economist, January 18th 2002
Abortion in America: The war that never ends
(コメント) アメリカの堕胎論争は,ヨーロッパの移民問題や,日本の靖国問題のように,複雑に制度化されたイデオロギーや政治システムの中に空いた洞窟です.
ヨーロッパでは女性の選択する権利や社会進出が重要なテーマであるのに,アメリカでは退治の人権や宗教的強硬派の表現の自由がテーマなのです.ヨーロッパでは,堕胎は公的に保証された権利であり,無料で行われます.その方が医療行為の質や女性の人権が守られる,と考えるのです.他方,アメリカでは堕胎を処置する医院が爆破されますし,医師たちは脅迫され,狙撃されます.堕胎は憲法によってプライヴァシーの権利として認められましたが,反対派はこのことに激怒し,最高裁で憲法解釈を争っています.それはまた,ヨーロッパに比べて,アメリカ民衆がいかに強く宗教的な議論に影響されてしまうか,を示しています.アメリカは伝統的に,最も基本的な価値を取り上げて激しく議論し,どのような発言も排除できない仕組みを持っています.他方,ヨーロッパでは,道徳的な問題でも専門家の委員会が技術的に処理するのです.
この記事が指摘する興味深い点は,アメリカの政治が大きく転換したことです.1960年代まで,アメリカ政治は経済的な階級と南北戦争の記憶によって組織されていました.カソリックを多く含む南部の白人は,奴隷制に反対した共和党よりも,民主党に投票した,と言います.しかし,1960年代半ばから,社会的な価値が争点となりました.最近は,堕胎が候補者の踏絵となっているのです.ますます政党や政治家は,宗教と堕胎によって選別されます.
この論争には終わりが無い,とThe Economistは予想します.論争によって発生した組織と既得権を,反対派も支持派もけたたましい論争によって拡張し続けます.アメリカ人がヨーロッパ人のように論争を回避しない限り,また,実際には禁酒法のような実行不可能な選択にのめり込まない限り,論争を続けるしかない,というわけです.
China’s capital markets: Banking on growth
中国の金融記事に溢れるのは,スキャンダルと,不良債権問題である.それは公的な統計でも25.4%に上り,ゴールドマン・サックスは中国のGDPの44%から68%に達する,と考えている.独立の金融監督,縁故融資の廃止,金融調節できる資本市場,要素市場を通じた再配分と効率化,などが課題として挙げられる.中国は,要するに,移行期の問題を国有銀行の融資で先送りしてきたのだ.7-8%の成長率を維持して,問題を漸進的に解決するシナリオを政府は描く.そのためには,アジア通貨危機のような事態を避けねばならない.当時の危機波及国と違って,@企業は外貨を保有しておらず,A人民元に交換性は無く,B高い貯蓄率を維持しながら国民は銀行を信頼している.Cあるいは,信用しなくなっても他に選択肢が無い.
しかし,成長は持続するのか? 国民はいつまで貯蓄に励むのか? 住宅や自動車への熱狂振り,消費者への融資拡大を見れば,中国の状況はアジア通貨危機よりも日本のバブルに似ている.結局は,その貯蓄を無駄な投資とバブルに消尽するだろう.しかも,中国は日本よりも貧しく,脆く,不安定だ.漸進主義はショック・セラピーよりも望ましい.しかし,共産党の支配は,それまでもつのか?