IPEの果樹園2003
今週のReview
1/27-2/1
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金沢で集まったキンドルバーガー合評会は,気軽で楽しく,有益でした.イタリア諸都市からアメリカや日本まで,覇権の盛衰に関わる多様な原因と事件が何を意味するのか? 結局,皆でわいわいガヤガヤ ・・・・
生命力のS字カーブ,若さと老化,ショックや刺激への反応,文化と集団的記憶,インフレ目標,デフレの時代に資産を何で持つべきか? 株価上昇期の過剰な楽観,バブルによる開発促進,為替レート制度の選択,人口増加,中国とルイス・モデル,資産価格と株屋の倫理,資本規制,金融革命とイデオロギー転換,ポスト・ネオ・リベラリズム? ・・・ そして夜は,金・ドル・バーガーと覇権の生命力を祝って(呪って?),金沢に息づく文化の厚みを実感しました.
『経済大国興亡史』に私が見たものは,方法としての<覇権モデル>,でした.覇権は,そう思われがちな(循環であれ,段階であれ)歴史モデルでも,生産力説でも,社会構造論でもなく,集団的な<生命力>として,S字曲線の中に示されます.さらに,キンドルバーガーの<覇権>は軍事技術を重視せず,金融諸力の膨張にも批判的で,メディアの圧倒的な重要さ(ソフト・パワー)に主たる関心を向けない,良質の<リーダーシップ>が示すライフ・サイクルなのです.金融恐慌を群集心理に見たように,あえて言えば,彼は社会心理学に<覇権>の根拠を見ているようです.
それはマルクス主義的な歴史学と無縁ですし,数量的な歴史解釈や静態的な経済モデルにも明らかに背を向けます.「第三の文明史」というものがあるのでしょうか? もしかすると歴史は,固有の文化や民族移動,戦争・軍事技術の革新,環境変化や疫病,その他のショックと,波及,抵抗,中心から周辺への伝達,などに見られる社会の「若さ」や「老化」として議論できるかも知れません.
しかし,そうでもないかな,と私たちは議論しました.社会史やトータリティーなどと言いながら,そのような多くの歴史はヨーロッパ中心史観であり,成長至上主義ではないか? それゆえ<覇権の盛衰>という基準は,欧米型の<産業革命>や<市民革命>と同じように,現代の秩序,欧米が支配する,この世界だけを,歴史として説明し正当化しがちです.ヨーロッパではない,成長以外の動機で,歴史を世界各地から見ることだってできるでしょう.
その上で,もしたった一つの歴史が現実の歴史であるなら,それを決めたものは<覇権>や<生命力>として議論するのが正しいかもしれません.私は,(社会=技術)革新から政治的秩序に至る関係が重要なのだ,と思いました.広大な領土を支配する帝国と,民主的な政治秩序(たぶん,小さな都市の政治的理想)とをつなぐものは何か? 捉えどころのない市場の破壊力と富への衝動を社会が活かす方法とは? ナショナリズムという情念無しに,覇権は考えられません.政治経済問題の核心に迫る直感は,しばしば,性的衝動や恋愛,結婚の比喩として示されます.
<覇権モデル>は,「経済大国」や「覇権安定論」「国際秩序」「政策協調」「帝国」「文化」などを結び付ける知的な触媒(幻覚剤?)であり,融通無碍なブラック・ボックスです.それは中身が分からず,成熟や老化のメカニズムも分からず,諸大国が互いに接触し,対抗もしくは協力する理由もまた分からないのです.<覇権>のライフ・サイクルは,それが集団としての人間からなる以上,群集心理であるとともに,人口変動でもあるでしょう.
人類最後?の覇権国は,中国なのでしょうか? 私たちはこんな風に考えたのです.覇権国が,貿易・産業・金融へと支配的な役割を拡大していった背景とは,革新を取り込む「若さ」を,豊富な資本と労働力の供給に結び付けた国が突出していくさまざまな歴史事情でした.キンドルバーガーは,未知数よりも方程式が多くある連立方程式のようだ,と書いています.その中でも,人口の変化は明確であり,予測もかなりできます.そして,人口と革新とを結び付けた最近の国,と言えば,それは中国です.(でも一人っ子政策だぞ! インドはどうなる! とガヤガヤ・・・)
もし革新部門に労働力が無限に供給され,資本蓄積も加速するなら,その限界は資源やエネルギーであり,販売市場です.世界全体でみれば,ルイス・モデルの終わりは人口増加や人口移動の限界ではなく,交易条件の悪化(あるいは収穫逓減と「定常状態」)です.すなわち,革新的な部門の製品を購入する人々の生産性や富が限られているなら,その価格が安くなって,利潤を出せなくなるのです.なるほど,中国国内でも,世界でも,デフレが心配されています.
私たち(の世代!)は,ここで新しい「帝国主義論」を思います.かつてJ.A.ホブソンやローザ・ルクセンブルグが議論したように,富の蓄積はしばしば国内の格差を解消するより,対外的な拡張や戦争に向かいました.そして現代でも,国際政策協調の基礎は,突然の世界的な危機を回避する時期を除けば,覇権国からの圧力だと思います.なぜ富をもっと貧困の解消や社会的革新に役立てないのか? <覇権モデル>というブラック・ボックスを,世界の周辺からも,その内部構造からも,歴史や社会に埋め戻すことを私たちは議論しました.(そして,特に中華思想を見れば,<覇権モデル>などという言葉を安易に使ってはならない,と.)
金沢の町が,なぜ落ち着いた,一定の風格を感じさせるのか,私には分かりませんでした.活気ある諸都市の連合が,アジアや太平洋の諸々の海を結び,人間の身近な交流が文化を融合し,刺激し合う様を夢想します.
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg, FEER:Far Eastern Economic Review
ST JAN 17, 2003 FRI
Mr Bush, can you solve this equation: (s+h)P = J+P?
By Janadas Devan
(コメント) 力のない正義は無能であり,正義のない力は暴君である.正義の力だけが望ましい.そうパスカルは言ったようです.Devanは,ソフト・パワー論として,それを現代のアメリカに適用します.Nyeのソフト・パワー論は,やや技術論的な偏りがある,と私は思います.それによれば,軍事力だけでなく,金融や情報,教育,国際機関,娯楽,言語,その他の支配的な役割がますます重要になっています.しかし,この議論に欠けているのは,正しさ,望ましさ,です.アメリカ的な価値,自由,民主主義,富の追求,プレイ・ボーイと資本主義,がその内容であるとすれば,なんとも空疎な市民社会,大雑把な警察官です.「ヤンキ−・ゴー・ホーム!」・・・「でも,私を連れてって!」 救済の言葉も,呪詛の言葉も,アメリカ,アメリカ,アメリカ!
IHT Friday, January 17, 2003
Opportunity and danger
James E. Goodby
NYT January 17, 2003
Cookies and Kimchi
By NICHOLAS D. KRISTOF
WP Friday, January 17, 2003
Korea Follies
By Charles Krauthammer
NYT January 19, 2003
The Crisis Last Time
By WILLIAM J. PERRY and ASHTON B. CARTER
NYT January 21, 2003
Tunneling Toward Disaster
By NICHOLAS D. KRISTOF
(コメント) Goodbyによれば,北朝鮮との新しい合意は,各国の利害を一致させなければ実行できません.まず,北朝鮮は破綻した経済の建て直しに取り組むことです.韓国の新大統領は,北朝鮮を経済的に取り込み,相互の人間交流が自由に行えることを目指しています.ロシアと中国は,南北朝鮮との経済関係をさらに改善し,鉄道再開にも利益を共有しています.また,日本は国交正常化交渉が拉致問題で停止しましたが,北朝鮮をより開かれた社会にすることが,日本人全員を取り戻すことに繋がるでしょう.
それは北朝鮮の脅迫に屈することなのでしょうか? また,アメリカは北朝鮮がこうした軍事的な挑発をしなければ交渉を始めないのでしょうか? Goodbyは,この論法を回避するために必要な条件が,北朝鮮の核兵器破棄と開発計画の永久放棄である,と言います.
KRISTOFは,北朝鮮との関係を難しくしているのは,韓国の新大統領である,と考えます.ノ・ムヒョン新大統領によれば,アメリカが対話しさえすれば,問題は解決できるのです.生中継で,親しみをこめて「金書記」に呼びかけるノ・ムヒョン氏は,「信頼をもって対話する」ことを強調します.そして「あなた(金書記)の態度で,朝鮮人民の態度は変わるのです」と訴えます.
これは絶望的なナイーブさである,とKRISTOFは酷評します.もちろんそれは本心ではなく,「偉大な指導者金正日」をなだめるために語っているのです.たとえそうであっても,アメリカにとって問題はむしろ,韓国民衆の示す反米感情です.アメリカ軍は,韓国民衆が望む以上に韓国の防衛に協力したいとは思わない,と明言します.
ノ・ムヒョン氏が出したキムチやクッキーのおみやげに対して,ブッシュ氏はニンジンどころか,今度はケーキにさくらんぼも乗せて,さあ,どうぞ,というわけです.Krauthammerによれば,ブッシュ政権は「注文仕立ての封じ込め策」から,あっという間に,「はだしの宥和政策」へと転落したのです.経済制裁は悪くない考えでした.しかし,中国やロシアが軍事衝突を招くと牽制するや,ブッシュ政権は宥和モードに衣替えしました.北朝鮮の言うように,攻撃しないと約束し,おまけにエネルギーまで供給してやる,と交渉し始めています.
何をなすべきか? Krauthammerは,イラク戦が終わるまで北朝鮮との戦争を望むつもりは無い,と言います.しかし,攻撃しない保証は,報酬としてではなく,制裁と組み合わされるべきです.そして,彼らが何を脅しても,結局は,戦争と敗北を回避する以外に,得られるものなど何も無い,という原則を伝えるべきなのです.
PERRY and CARTERは,ブッシュ政権の直面する条件を整理しています.北朝鮮は50年前に朝鮮戦争を終えたわけでなく,休戦しているに過ぎません.1994年にクリントン政権が直面した核開発に関する危機も,1998年のミサイル発射実験による脅威も,今と同じように北朝鮮との関係見直しを政府に求めました.
クリントン政権は,@北朝鮮政府の転覆を諦めました.なぜなら,全体主義体制で反政府運動がどこまで育っているか頼りにならず,危機回避のための時間も限られていたからです.韓国と日本も反対したでしょう.A北朝鮮の内部からの改革を支援することも,単なる希望に過ぎませんでした.B経済支援によって合意を求めることも受け入れられませんでした.アメリカは将来の脅迫に道を開かない,という原則を後退させないからです.
PERRY and CARTERが1998年に報告したのは,アメリカ,韓国,日本が協力して一つのメッセージを伝えること,でした.核とミサイルを放棄せよ.われわれは攻撃しようと思わない.しかし,それは交渉のための梃子なのだ.核兵器を開発するなら,平和は得られない,と.北朝鮮は既に通常兵器の優位を得ており,韓国側から平和を侵す何の理由も無いのです.
三つの原則があるでしょう.@北朝鮮が核兵器を保有することは許さない.Aアメリカは,韓国,日本との強力において北朝鮮と交渉できる.B事態の緊急性を重視すべきだ.そして,たとえ戦争のリスクがあっても核兵器の開発は断じて許さない決意を示し,戦争によらない外交的な解決策を求めることです.
最後に,再びKRISTOFは,金正日がいかに攻撃的な人物か,を指摘しています.金正日を幼い頃から知る人物は,彼が狂人ではなく,ピアニストで卓球の名手,そして激しいリスク・低カーである,と伝えています.イラクが湾岸戦争に敗北したのは,生物・化学兵器を含めて総力戦を行わなかったからであり,防御に回ったからだ,と考えているらしいのです.だから,保守派のシンク・タンクが示唆したように,人権擁護を交換条件(そして政策転換の口実)にして,報酬をともなう交渉を進めるしかないだろう,とKRISTOFは主張します.そして,非武装地帯に新しいトンネルがないか,必死に探すことだ,と.
BL 01/17 00:01
Morgan Stanley, Bear Stearns Wait Year for Argentine Debt Talks
By Daniel Helft
12ヶ月以上も,世界最大の債務不履行を引き起こしたアルゼンチンは債権者たちからの話し合いに応じない.George Estesは,Morgan Stanley Investment Management, Bear Stearns Asset Managementなど,世界の34の債券保有機関を代表するアルゼンチン債権者委員会の理事である.ロシアは速やかに交渉を開始したのに,アルゼンチン政府は我々の存在も認めない,とGeorge Estesは嘆く.
交渉が始まらなければ,アルゼンチンは資本市場から資金が調達できず,破局的な経済からの回復が遅れる.また債権者たちは組換えが予測できず,2008年に満期となる指標銘柄の7%国債は,市場で売却しても額面の23.95%しか受け取れない.交渉を遅らせるほど,アルゼンチンは利子を累積させ,将来の投資家たちにも嫌われる.他方,ロシアは1998年12月に支払を停止してから14ヶ月以内に,ソビエト時代の債務を組替えた.国際の利回りは,2000年2月に債務を切り替えた際の19%から,現在は9%以下に下がっている.
世銀や米州開発銀行に対する支払も遅れているが,政府はIMFとの間で,8月中に支払わねばならない66億ドルの返済延期を合意し,9億8000万ドルも与えられた.それはIMFと交渉し,債権者と交渉し,4月27日の大統領選挙まで安定を維持するための最初の一歩である.そして新政府の交渉に助言する仕事には,Morgan Stanley & Co., Bank of America Corp., UBS Warburg LLC, Lazard LLP, Credit Lyonnais SA, Dresdner Bank AG, Panama-based Acciones Grupo Wall Street Securitiesが名乗りを挙げた.しかし,支払う金が無い以上,返答しないかもしれない.
昨年,70%もペソが切り下がり,ドル建のアルゼンチン経済規模が3分の2も圧縮されたため,政府には債務の組替えができなくなった.国債の市場価格が暴落し.政府は新たに市場の実勢を反映した国債と交換しなければならない.しかし,そのためには政府が財政黒字を出す必要がある.まだこの価格を維持しているのは,経済が急速に回復するという期待もあるからだ.いずれにせよ,債務の対GDP比率は54%から144%に上昇した.
アルゼンチンは投資家に約80%の債権放棄を求めているが,それはロシアがソビエト時代の債務に認められた45%,エクアドルが2000年に認められた54%に比べてみるべきだ.それでもなお,アルゼンチン政府は財政黒字を必要とする.債務の支払を除いた黒字額はGDPの2.2%であるが,債務の返済を始めるにはこの倍が必要である,とUCLAのSebastian Edwardsは言う.経済の落ち込みが続く中で,黒字を増やすことは難しいだろう.
FT January 20 2003
Argentine 'blackmail' tests the IMF's credibility
By Alan Beattie
WP Monday, January 20, 2003
Argentina's New Bailout
(コメント) Beattieは,IMFとアメリカを含むG7が,アルゼンチン政府からの緊急救命コールを受けて話し合い,この曖昧な融資が行われた,と言います.アルゼンチンのドアルデ大統領は,北朝鮮の金正日と同じように,国民の窮乏や国際社会への危機の波及をダシに,IMFから褒美をもらったのでしょうか? これは政治的な判断である,と言うとき,その意味はもちろん支配者たちの談合です.カドムシュ=フィッシャーの救命融資方針を強く否定してきたケーラー=クルーガーのIMFですが,ブッシュ政権自ら,トルコも含めてこの方針転換を支持しているようです.IMF自身がアルゼンチン国内政治の駆け引きの道具にもなってしまうでしょう.
WPも,同様に,真の解決が遅れると懸念します.そもそも,アルゼンチンの危機は,政府が完全に信用を失ってIMFに経済再建を委ねるか,それとも完全な無秩序に陥ってハイパー・インフレーションへと進むか,いずれかしかないはずでした.ところが,債務不履行後の交渉も,銀行システムの建て直しもしないまま,財政緊縮策を一部は行ったものの,政府への不満は抑え込み,インフレーションもある程度に抑えられています.
しかし,これは解決をもたらす政策ではなく,国際社会に経済支援を積み増すことを求めるだけの持久戦です.さらに,ドアルデは大統領選挙への政治的意図を介在させています.こうした脅迫に部分的にでも応じたことは,IMFやアメリカの方針を疑わせ,世界中にアルゼンチンの振る舞いをまねる国が現れるだろう,とWPは危惧します.
NYT January 17, 2003
Off the Wagon
By PAUL KRUGMAN
NYT January 21, 2003
A Touch of Class
By PAUL KRUGMAN
(コメント) KRUGMANは,ブッシュ政権の財政赤字を,酔っ払いの言い訳と見なします.「お父さん.戦争って,何をするの?」「たくさん減税して,お前に払ってもらうのさ!」という LA Times の台詞が気に入っています.そしてハバード委員長の虚言をたしなめます.私たちはもうすぐ,ルービノミクスが失われたことを後悔するに違いない.明日でも,明後日でもなく,残りの生涯すべてにおいて.
酔っ払ったブッシュ氏は,町のバーへ行きます.保守派の男は「我々は豊かになった」と声をかけます.「このバーの客を平均すれば,われわれは生涯で10億ドルも稼ぐ.」するとリベラル派の男が抗議します.「それはおかしい.ビル・ゲイツが平均所得を引き上げているだけだ.」と.「われわれはちっとも豊かなになっていない.」これには,保守派の男が憤慨します.「何! お前たちはまだ階級戦争で政治を見ているのか!」
ブッシュの減税で金持ちになれるのが,どれほど少ないか,を良く考えてみることだ.これはひがんでいるわけじゃない.政治の優先順位を問題にしているのだ,とKRUGMANは言います.
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・・・・こうした次第で,今週のReview,は遅くなりました.
帰りの特急列車では,関川夏央氏の『退屈な迷宮:「北朝鮮」とは何だったのか?』(新潮文庫)を読み始めました.そして,著者の確かな視点と率直な文章に驚きました.
関川氏は,日本人が関わってきた北朝鮮と,北朝鮮の実像との間に,自分とその時代(の観念)をしっかりと描き込みます.拉致事件後に議論されている材料は,その多くがここで深く議論されています.「いったいどのような力が,どのようなシステムが,あのことさらにぎやかな自己主張を旨とする朝鮮人を,石よりも沈黙させることができるのか.」
先日,カン・サンジュン氏と森巣博氏の『ナショナリズムの克服』(集英社文庫)を読んだときも,似たような感銘を受けました.彼らは,これまで学者たちが,特に論客(まるで剣客みたいな!)たちが築いてきた観念の渦を,ドボドボと裸足で踏み潰します.
森巣氏は日本論・日本人論の変遷を,和辻哲郎以来の「俺のチンポコは大きいぞ論」がバブルを支え,その後,「俺のチンポコは硬いぞ論」が湾岸戦争の頃に栄え,最近は「俺のチンポコは古いぞ論」に変わった,と指摘します.とはいえ,遺跡を捏造してもすぐにばれるので,「俺のチンポコは繊細だぞ論」として,文化を連呼し,捏造する.そんなことより,<日本人>という枠を取り払えばよい,と.そして彼らは,戦後の<知識人>たちをコテンコテンにやっつけます.
これらはまた,日本型のサヨクとウヨクのための清涼剤(うがい薬?)であると思いました.
なるほど,<社会>をめぐる想像力が刺激されるのは下半身?のたとえです.キンドルバーガーが引用していたParkerの一節も,訳者に従って,引用します.「生産からの金融の分離は,生殖行為からの性行為の分離と同じようなものである.それは,穏やかならば受け入れられるが,度を越すと,嫌悪と分裂と抑鬱をもたらすものなのである.」
私は,かつてThe Economistが取り上げたBenjamin J. Cohen氏の国際政策協調に関する喩えを思い出しました.それは確か,緊急避難的な協調介入と,為替レートの何らかの固定的な目標を維持することとは,根本的に違う,という説明であったと思います.前者は「情熱的な愛 “Passionate Love”」であり,後者は「結婚生活 “Marriage Life”」を続けることである,と.
金沢で盛り上がったもう一つの話題は,教授会や文科省の生態学?です.金融危機で繰り返される要求,「透明性」と「説明責任」を想えば,これらの「退屈な迷宮」もまた,危機を繰り返しながら体験者や新参者により暴かれていくことでしょう.
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ST JAN 18, 2003 SAT
Trail-blazer of an FTA
(コメント) シンガポールはアメリカと最終的なFTAの合意に達しました.その合意を遅らせていた問題とは,資本規制の自由,でした.アメリカ政府は,このFTAを先例として確立するために,FTAには資本規制を一方的に行わない旨の条項を盛り込もうとしたのです.
論説が強調するように,シンガポールはアジア通貨危機においても資本規制を導入しませんでしたし,資本規制を実際に使うつもりも無いのです.しかし,非常事態における資本規制の権利は,政府のみが主権の一部として保持しており,これを予め封じ込めるような合意には反対しました.両国の対立は,結局,短期資本は規制の自由を国家が保持し,FTAの下で長期資本の移動と債務の返済,利潤送金に関する規制は行わない,と保証しました.
シンガポールがFTAを結ぶのは,中国の急成長で投資家への魅力を失いつつある東南アジアが,アメリカや日本とともに関税を撤廃し,ASEAN規模の自由貿易圏として成長する道を目指すからです.そして,いつか資本市場も統合し,資本規制のすべてが国際的合意に委ねられるときも来るでしょう.
LAT January 20, 2003
The Dream and Beyond
By Earl Ofari Hutchinson
ミシガン大学の入学に関わるアファーマティブ・アクションに対して,マーティン・ルーサー・キングの誕生日に,ブッシュ政権はそれを差別だと非難した.反対派も支持派も,ともにキング牧師の理想とイデオロギーを掲げて争っている.キング牧師にとって,正義は平等とともにあったようだ.公民権運動を進める中で,権利が認められても,職が無く,教育も受けられない黒人たちや都市の貧困層,都市暴動や白人層からの反撃に,彼は不安を感じていた.しかし,奴隷制によって負わされた黒人への補償を支持したキング牧師も,制度として,黒人が優遇されることには反対した.白人も黒人も,職を失えば同じように苦しみ,皆のために職場を増やすべきだ,と.
FT January 21 2003
Martin Wolf: Latin America's burden of debt
By Martin Wolf
過去5年間,新興市場への融資は死に絶えた.唯一,直接投資が行われた.融資が途絶えたのは戦後二度目である.最初は1982年のメキシコ債務不履行による危機であった.
資本移動は,今も,過度の楽観とパニックとを循環的に経験する.しかし,すべての経済が同じでは無い.たとえば勧告は柔軟性を示した.アルゼンチンはその逆だ.米州開発銀行の報告書に拠れば,破綻する国には,C,D,Mの三つの特徴がある.C:GDPに比べて輸入が少ない閉鎖経済である.D:多くの債務,特に公的債務がある.M:貨幣的な不均衡が広まっている.このようなCDM国は危機の起きるのを待つばかりだ.それは,アルゼンチンのように,為替レートを固定してインフレを抑制するとき,さらに危険となる.
ラテン・アメリカへの資本流入は1998年第2四半期にGDPの5%でピークに達した.その一年後には1%に低下し,そのまま低迷する.ラテン・アメリカの経常収支赤字は1998年の第3四半期から2000年末にかけてGDPの5%も抑制されるが,それは大きな苦痛をもたらした.すなわち貿易財への支出が抑制されたのである.しかも,為替レートが固定されていれば,それと同じ率で日貿易財の支出も削減される.すなわち,激しい不況である.閉鎖的な経済の国ほど,実質的な減価は大きくなる.
簡単な例を示す.財・サービスの輸入がGDPの15%であり,輸出は10%であるとしよう.だから,経常赤字はGDPの5%である.単純化のために,輸出は短期的に固定されている.すると経常赤字がなくなるためには,輸入の3分の1が削減されねばならない.実質的な減価が行われなければ,経済全体で支出が3分の1も減少する.
さて他の国では,輸入がGDPの40%,経常赤字は5%である.輸入の削減額は僅か8分の1に過ぎない.だから,開放的な経済(たとえば韓国)で必要な不況の規模は,閉鎖的な経済(たとえばアルゼンチン)で必要な程度よりもずっと小さい.もし相対価格が変化し,実質為替レートが減価するなら,輸入から国内に支出が切り替わって,不況を緩和する.他の条件が同じであれば,韓国よりもアルゼンチンの方が減価も大きいだろう.
たとえ1998年以前の実質為替レートが均衡していたとしても,アルゼンチンはその後,絶望的な通貨価値の過大評価に陥った.それは,緩やかなインフレによっても,3分の1しか緩和されなかった.長期の不況は不可避となった.だから,カレンシー・ボード自体が崩壊したのだ.
第ニ幕として,もしその国が非常に大きな実質為替レートの減価を必要とし,巨額の外貨建て債務を負っていた場合,それは深刻な問題となる.ラテン・アメリカは,その長い財政悪化の歴史において,国民から自国通貨と資産への信頼感を奪ってしまった.そこで政府は外貨で借入を行うしかなかった.50%の実質減価は,公的債務の対GDP比率に重大な影響を与える.それはまた,財政の引き締めを必要とし,不況を悪化させるのだ.
第三幕として,民間資本の流入が途絶し,公的部門は引き締めに走った(地域全体で,資本流入額が2001年220億ドルから2002年140億ドルへ).貸し手は市場が回復することを期待したが,そうはならず,結果的にIMFが債務を繰り延べた.滞った債務支払の全体は,容易に組み替えられない.
しばらく外国資本市場は閉鎖される.外国資本への誘惑は立たれ,苦痛だけが残る.しかし,誘惑は将来戻ってくるだろう.閉鎖的な経済が外貨建の借入れを行うのは,非常に危険だ,と言える.自国通貨で借入れできない国は,外貨建借入を厳しく抑制するべきだ.そして,賢明な借り手(そして貸し手)は海外投資機関の美味しい話を信用してはならない.
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The Economist, January 11th 2002
The IMF and Argentina: A bad deal
アルゼンチン政府が意味のある経済改革に踏み出したからではなく,G7が圧力をかけて,IMF融資が決まったとすれば,これは間違った理由で,間違った時期に行われた.アルゼンチンは危機後の経済混乱にもっぱら自ら責任を負っている.確かにそれ以前はIMFに助長された点で,危機の収拾にIMF融資を行うことも支持されたが,アルゼンチンは何一つ改善策を実行していない.G7諸国はアルゼンチンの生活水準悪化がひどいことを理由に挙げるが,それはアルゼンチンの公的債務や銀行システムに何の関係もない.この融資で選挙まで安定が維持されるとも思えない.予算作成も,裁判所の判決も,不確実性が高い.このような融資はアルゼンチン経済を回復させる道では無い.国際機関がアルゼンチン向けの融資を回収できなくなるとしても,それをこのように永久に繰り延べさせることは金融規制の腐敗でしかない.むしろ,これほど明確な政治的介入はIMFの自律性を損なった.債務国への教訓としては,もし国際機関から借り過ぎたなら,まずは脅迫してみることだ,と.
The Bank of Japan: Divining inspiration
(コメント) 国債バブル,という言葉が思い浮かびます.何も無いより,日銀総裁が変わるならチャンスかもしれない,と書かれるほど,日本の政策決定能力,経済運営能力は軽蔑されているようです.
インフレ目標に関する賛否両論が紹介されています.これ以上緩和しても企業は投資しないのか,日銀が国債・外債をもっと買えば円安が起きて輸入価格が上昇するのか? Robert Feldmanが言うように,「血管が詰まっているのか? それとも,心臓をもっと押すべきなのか?」なぜThe Economistは支持派なのか? The Economistは,新しい日銀総裁を決めて,小泉首相の構造改革と併用する策を実施するよう求めます.それが実行されるためには,@官僚でも,日銀でも無い,政治的な重みがあって,中央銀行の実務にも通じた候補者を見出せるか? A政策の技術論や責任論を超えられるか? 日本では,論争しなければ現状維持に戻ってしまう.
最大の心配は,小泉首相の決断と行動である.彼はしばしば重要な局面で決断を避けた.本気で経済を回復させたいなら,物価を上昇させる日銀総裁を選ぶべきだ,と.