IPEの果樹園2003

今週のReview

1/20-1/25

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日本病(日経新聞)も,大学改革(朝日新聞)も,物足りない印象の連載でした.むしろ,BS・NHKで流された「医療事故」に関するイギリスのドキュメント番組が興味深かったです.知識が複雑になれば,私たちは常に間違った判断によって害を受けます.病気ではなく,誤った医療行為によって,多くの人が死亡するのです.

講義の最終回で,私は「社会的な革新」について話しました.グローバリゼーションは,社会関係が世界的な規模に拡大していく過程を意味しています.わたしたちの市民生活が依拠するさまざまな制度は,グローバリゼーションに対応して変化しなければならないでしょう.そのために私たちは,新しい国際安全保障の枠組みや有効なマクロ政策を摸索するだけでなく,政治制度や法律,職場や教育のあり方まで,多くの面で革新を迫られています.

世界的な規模で社会が大きく変化する中では,民主主義と自由な市場が,常に,安定した社会モデルとはならないかもしれません.ヴェネズエラでも,アルゼンチンでも,韓国,ブラジル,イスラエル,パレスチナ,オランダ,スウェーデン,その他で,グローバリゼーション下の選挙が揺れています.日銀やIMFへの批判も,民主主義と経済運営との衝突の実例ではないでしょうか.

金沢で合評会に参加するために,中島氏の翻訳したキンドルバーガー『経済大国興亡史1500-1990』(岩波書店)を読んでいました.歴史家として,キンドルバーガーは経済学者に警告します.「たいていの経済学者は,医療が良い効果を発揮したり,かえって悪い作用を起こしたりするのは,それを施される社会の生命力と回復力しだいである,ということに留意」しない.そして「通貨,財政,貿易,工業などの特定の経済的な諸問題,とりわけ租税と補助金の問題に,それぞれの好みの療法を適用しようとする.」

最近の新聞には,こうした点で,多くの興味ある記事がありました.たとえば,

「ドルの暴落は,長期金利の上昇を促すが,金利が上昇するほどのドル安は,アジアや欧州を大混乱に陥れる一方,米国経済の改革を進める.結局は,ドル高に戻らざるを得ない.」(中前忠「ドルは暴落するか」日経新聞1月7日)

「日本は数十年にわたり近隣アジア経済にとって資本,技術,市場の重要な源泉だった.」「新しい経済への移行過程は容易でない.・・・経済的効率を失わずに,社会的な摩擦に対処していくことになりそうだ.」(ジョン・ウォン「新経済移行 アジアも注視」日経新聞1月10日)

「金融政策が物価以外のさまざまな経済問題を解決できるという誤解が広がっている.これは危険な議論だと感じる.」(ハマライネン「欧州にも「日本病」?」日経新聞1月13日)

「出発点となるのは,「グローバリゼーションは終わるか」ではなく,「今後グローバリゼーションはどんな形で展開されるか」という問いかけである.」(ヤーギン「世界経済の健全化 意識を」日経新聞1月14日)

そして,朝日新聞の記事「どうする金融政策」の第1回福井俊彦氏と,第2回中原伸之氏の意見が,参考になりました.金融危機を起こさず,政府が責任を持って経済改革を実行するのであれば,日銀の独立性と市場の信認が重要でしょう.しかし,政府が日銀と協力して,改革と景気刺激策を両立させるべきだ,と言うなら,アコードが有力です.どちらを選択すべきか,主要な政治家が論争を指導し,政治的選択の能力を示すべきだ,と思います.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg, FEER:Far Eastern Economic Review


ST/ NEWSWEEK JAN 8, 2003 WED

Mix of sticks and carrots to solve nuke problem

FAREED ZAKARIA

金正日がにわかに邪悪さを増した.北朝鮮は数ヶ月でプルトニウム工場になる.ブッシュ大統領は,金正日を,自国民を抑圧し,飢餓に追いやる,世界最悪の野蛮な政治体制を動かす人物と呼んだ.

問題は,外交政策には道義性だけでなく,戦略が必要だ,ということである.

まず,北朝鮮に対するわれわれの政策目標は何か? 非核化? あるいは体制転換?

大統領は繰り返し体制転換を示唆した.しかし,その目標を達成する手段は何も無い.北朝鮮に軍事攻撃することはできない.北朝鮮が1個か2個の核兵器を持つからではなく,韓国の大部分が破壊されるからだ.

ソウルは国境線から約60キロにある.我々の選択肢は核兵器ではなく,この距離に制約されている.それができないなら,体制転換は政策ではなく夢想である.

北朝鮮の核武装は東アジアの戦略的地平を激変させ,朝鮮半島の抑止力を弱める.日本が核武装に進めば,日中間の核軍拡競争が始まる.それゆえ,われわれの短期的目標は,非核化である.

ハーヴァード大学教授のAshton Carterは,クリントン元大統領の軍事顧問であったが,こう明言した.「アメリカは北朝鮮を転覆するつもりは無い.しかし,核武装することは受け入れられない.」と,われわれは北にはっきり述べた.ブッシュ政権は逆のことをしている.2年間,北朝鮮は核武装をしなかった.しかし,今また始めつつある.これはアメリカの利益にそむくものだ.と.

現在,北朝鮮を軍縮させる手段はあるか? アメリカとその同盟諸国とは,この点で対立する.アメリカはムチを,同盟諸国は飴を使いたい.それは脅威に対する彼らの認識の違いだ.ワシントンから見れば,北朝鮮は核拡散防止を破壊しかねない.しかし,中国や韓国は,北が崩壊して混乱が広がることを怖れている.戦争や政治崩壊は,難民と経済的負担を意味する.

同盟諸国にも北に対する干渉手段が乏しい.中国は食糧供給,韓国は貿易をいくらか行っている.日本が核武装するという脅威を,アメリカ政府は信用していない.

誰も有効な手段を持っていない.北朝鮮は世界でもまれな孤立した国家である.既に国民は雑草を食べており,経済制裁には意味がない.だからクリントン政権はプルトニウムの生産を止めさせるために燃料を供給したのだ.共和党の強硬派はこうした「宥和策」に反対したが,われわれは静かに,安価に,これを行った.最近,突如変化したが.強硬派は大げさな非難を叫ぶことから,高度な現実主義に転換した.

解決は複雑だ.政府は自ら非難していたクリントンの政策に復帰するだろう.パウエル国務長官は,「外交は宥和とは違う」と繰り返すが,プライドを抑えて作業を進めるしかない.クリントンの取引には多くの欠陥もあったから,うまくいけば,それを改善できるだろう.ロナルド・レーガンはロシアのゴルバチョフを「信頼し,確かめた.」金正日は,「確かめて,確かめる」しかない.

ついには,この醜い体制も死滅するだろう.そのとき,ブッシュ大統領はそれを直截に述べた,と記憶される.しかしそのときまでは,われわれには政策が必要だ.


LAT January 8, 2003

Forcing Foes Into a Nuclear Corner

By Ted Galen Carpenter (the Cato Institute)

北朝鮮はウランの濃縮化を行ってきたことを認めた.アメリカの諜報機関はイランの二つの各施設が再稼動し始めたことを示した.これらは論理的に,あるいは必然的に,アメリカの外交政策が引き起こした結果である.

1989年にベルリンの壁が崩壊してから後の,アメリカの軍事行動を思い出すべきだ.アメリカはパナマに侵攻し,政府を倒した.湾岸戦争ではイラクを破壊した.軍事侵攻の圧力でハイチ政府を失脚させた.ボスニアのセルビア人を空爆し,和平を受け入れさせた.コソボに空爆した.アフガニスタンに侵攻し,占領した.そして今,イラクの政権を破壊するために戦争を始めようとしている.

2002年の年頭教書で,ブッシュ大統領は北朝鮮とイランを,イラクと並んで「悪の枢軸」と名指しした.ピョンヤンやテヘランが次の攻撃目標にされていると思うのは当然だ.かれらが有効な抑止力を持たなければ.しかし彼らには,超大国の通常兵力に匹敵する軍事力を持つ見込みが無い.最も信頼できる,おそらく唯一の抑止力は,核兵器である.

言い換えれば,アメリカの行動が核兵器の拡散を強力に推し進めているのである.アメリカ政府の最も望まない事態が起きている.アメリカ政府は彼らを狂人と呼ぶ.しかし,キッシンジャーがかつて述べたように,狂人でも我々に現実の脅威となりうる.

ピョンヤンもテヘランも,核兵器を保有する前と後では,アメリカの扱いが大きく変わることを知っている.それは既に旧知のことだ.中国が核兵器を開発してわずか6年後に,アメリカは関係を正常化した.通常兵力では二流,経済力では三流のロシアに対して,アメリカは多大な敬意を払っている.パキスタンとインドが紛争を繰り返しても,1998年に両者が核保有国となってから,強い配慮を受けるようになった.逆に,核を保有しないイラクやユーゴスラビアをどう扱ったか.

北朝鮮とイランは,核兵器を保有することがアメリカに警告し,敬意を払わせる方法であると知った.意図せざる,しばしば好ましくない結果を,アメリカの外交政策が引き起こす現実に,アメリカの指導者たちは注意しなければならない.

クウェートを解放し,配置の独裁者を追放し,バルカンの民族自立を助けたと自慢し,今度はイラクと戦争する人々は,それが核の拡散という代償に見合うものであったか,自問すべきであろう.


WP Tuesday, January 7, 2003

Of Two Minds on North Korea

By David Ignatius

WP Wednesday, January 8, 2003

Kick the (Korea) Can

By Michael Kelly

NYT January 9, 2003

Calling North Korea

WP Thursday, January 9, 2003

Nearing a Nuclear Jungle

By Jim Hoagland

(コメント) Ignatiusは,ブッシュ政権の混乱を指摘します.「悪の枢軸」だ,と宣言しておいて,今度は交渉できるのか? 強硬派は「先制攻撃」を主張するだろうが,それはできない.韓国に対して報復されるのを,アメリカ軍は防げないからだ,と.所詮,バクダッドは孤立した,軍事的にも弱い体制なのです.金大中の「太陽政策」を見殺しにしたことも,今となってはブッシュ政権の失敗でした.ブッシュ氏は,国防省の強硬派と国務省の穏健派とを使い分けてきたが,北朝鮮に対しては同時に進めて失敗した.実際的な選択をするべきだ,と言います.

Kellyは,ブッシュ大統領が「悪の枢軸」発言で北朝鮮の核武装を誘発したような説明は間違っている,と言います.北朝鮮が核兵器を開発したのは何十年も前からであり,クリントン政権が1994年にそれを阻止するために合意した際にも,既に保有していたかも知れず,その後の開発計画放棄も守らなかったのです.そして,結局,再び脅迫に励んでいます.ブッシュ氏は交渉を拒否し,しかし戦争を考えていない,と言いました.それ以外に,責任ある大統領として,他に何があるのか?

NYTは,軍事攻撃という選択肢が無い以上,アメリカは @非核化を条件に,A民衆の窮乏を救う経済援助や,B韓国・日本との合意を用いて,交渉するべきだ,と考えます.WPなども,勇ましい演説より,封じ込め,飴とムチ,周辺諸国との国際協調,が外交の基本だと考えます.そして,Hoaglandが言うように,ブッシュのユニラテラリズム(一方主義)は,最後に,イラクへの安保理決議や北朝鮮へのIAEA監視のように,問題を国際機関に委ねる結果となりました.

9・11以後の21世紀型安全保障は,ミサイル防衛網に代表されるアメリカの自衛力に世界が依存する形となるはずでした.しかし韓国のように,今や,各国はアメリカが安全保障の役割を担うことが自国にとって望ましいのかどうか,を問い始めているのです.


FT January 8 2003

Lex: Argentina

BBC Tuesday, 14 January, 2003

Argentina agrees IMF plan

(コメント) “Argentina close to stopgap deal with IMF” By Edward Alden and Martin Wolf FT January 14, 2003 なども指摘するように,予想に反して,アルゼンチンはハイパー・インフレーションを回避し,ペソも安定化しています.生産の落ち込みが終わり,IMFとの融資に合意できました.国際通貨危機に対する解決法は,やはりこの苦痛に耐えることだけだったのでしょうか?

しかし,アルゼンチンの安定性と回復には強い疑問が出されています.金融システムは大きな損失を抱えたまま,預金封鎖と資本規制,激しい実物部門の引き締めを前提に維持されてきました.為替レートが大幅に減価したにもかかわらず,それを成長への刺激とするには融資が必要です.しかし,アルゼンチン政府は民間投資家との債務リスケジューリングに合意しなければならず,それができても,大幅な財政黒字が必要です.

切下げやドル預金の法的処理が不明であり,銀行は自己資本を失い,破産法も整備されていません.国民はまだ所得に応じた支出に抑制する覚悟(特に財政計画)が定まらず,選挙が近付けば,政治家たちは今までの成果を誇って次の危機を準備するかもしれない,というわけです.


IHT Wednesday, January 8, 2003

Venezuelan equation: Democracy + markets = ethnic trouble

Amy Chua

ヴェネズエラのゼネストはアメリカのガソリン価格を引き上げた.それは左派の労働組合ではなく,裕福なビジネス・エリートによって指導されている.

その背後には,グローバリゼーションとアメリカ外交政策の矛盾がある.すなわち,自由放任の資本主義と自由な選挙が,政治・経済不安を招くのだ.チャヴェスは1998年に民主的な選挙で政権に就き,2000年に再選された.それ以来,経済は混乱を深めてきた.今起きているストライキも,ビジネス界がチャヴェスの国有化や石油部門への支配に反対して起こしている.

混乱の底にはエスニックの対立もある.ヴェネズエラの人口の80%が,チャヴェスと同じ,原住民とアフリカ系黒人との混血である.こうした茶色の肌をした人々を “pardo” と呼ぶ.ヴェネズエラ経済はいつも一握りの白人 “mantuanos” によって支配されてきた.彼らはヨーロッパ系移民の子孫であり.外国の投資家は,もちろん,こうした教育を受けて,英語の話せる“mantuanos” 階級と排他的に取引した.こうして,ヴェネズエラの問題とは,市場を支配する少数民族がグローバリゼーション過程で多数派を支配することなのである.インドネシアの華僑,ザンビアの白人,ケニアの印僑,など,市場を支配する少数民族は,市場型民主主義のアキレス腱となる.

たとえ国境が失われても,富は市場を支配する少数派の手にますます集中する.他方,民主主義は貧しいものの手に政治権力を移行する.

市場型民主主義の追求は,しばしば民族的(エスニック)ナショナリズムに火をつける.恨まれている少数派を排撃する煽動家に,貧しい民衆の支持が集まる.昨年4月のクーデタは,民主的に選出されたチャヴェスに対する少数派からの典型的な反撃であった.アメリカ政府は,その裕福な白人実業家であった暫定大統領を民主主義の勝利として支持したが,貧しい群衆に根強い支持を得たチャヴェスが権力に復帰するのを妨げなかった.

もしアメリカが発展途上諸国で民主主義を支持するなら,たとえ資本主義を唱えるものでも,民主的に選ばれた大統領に対するクーデタを受け入れることはできない.そして,もし世界市場が持続するとしたら,一握りの市場を支配する少数派と外国投資家を越えて,その利益が広まる方法を見出さねばならない.さもないと市場と民主主義は繰り返し衝突し,世界中に民族対立を撒き散らすだろう.


NYT January 8, 2003

Korea Feeling Pressure as China Grows

By JAMES BROOKE

(コメント) 日本でも中国への期待と警戒は強まっていますが,韓国は,さらに,その矛盾した感覚に振り回されています.BROOKEは,半世紀前に共産主義の軍隊として朝鮮半島に侵入した中国人が,今では世界資本主義の兵士として韓国の貿易・投資会議に殺到する,と書いています.日本に比べて,@国内市場規模,A米中関係,B賃金・技術格差,C企業・雇用の流出,D貿易依存度,などの点で,韓国の成長にとって中国市場が重要だからです.10億人の顧客を夢見るビジネスマンの強気と,庶民の不安が残ります.

このままでは日本のように衰退してしまう,と危惧する韓国人の危機感に,日本経済は何ら有効な選択肢を示せていないことが残念です.


FT January 9 2003

Germany has only itself to blame

By Christopher Huhne

(コメント) ドイツが停滞しているのは,ユーロの金利や為替レートのせいではなく,その硬直化した労働市場と放漫な福祉に問題がある.Huhneは,ユーロが実質金利をドイツにとって高すぎる位置に固定している,という批判を退けます.なぜなら,1.どのような経済圏でも単一の貨幣政策がすべての地域や業種に適当であるとは言えず,2.ドイツの実質金利はかつてない低い水準にあり,3.好調な英米に比べて安定化協定が財政を引き締めたという事実は無く,むしろ 4.改革に成功したスウェーデンやオランダは成長している,からです.

ドイツは,停滞が自分たちの硬直化した経済運営におることを認めて,成長を回復し,ユーロ参加を呼びかける力を回復させるべきだ,と.


NYT January 9, 2003

Rift on Capital Controls Snags Singapore Trade Pact

By WAYNE ARNOLD

(コメント) シンガポールとアメリカとのFTAに資本規制を禁止する条項を入れるかどうかで,両国が厳しく対立しています.資本規制といえばアジア通貨危機の際にマレーシアが導入し,激しい非難を浴びました.しかし,その後はIMFも資本規制を容認し,チリのように賞賛されているケースもあります.アメリカはアジアとのFTAを拡大するモデルとして,シンガポールとの協定に資本規制禁止を明確に取り入れたいのです.

ここでも,アジアの経済秩序が,アメリカとの関係を経て形成されていくのを見ます.アメリカは,北朝鮮,韓国,台湾,中国,シンガポール,日本などと,重層的で複雑な関係を摸索していますが,それらは常に国際秩序を組み立てるブロックとして構想されています.安全保障体制であれ,資本規制であれ,アメリカからの一方的な条件に交渉で望むには,合理的な国際的ルールへの合意か,主要諸国による地域的な枠組みを構築する対案が無ければ,難しいでしょう.


WP Thursday, January 9, 2003

The American Edge

By Robert J. Samuelson

アメリカを他と区別する特徴とは何か? アメリカはこの100年を通じて,経済的活力と政治的結束を保持してきた.他の諸国は変化に対応する点で劣っていた.19世紀には,イギリスが世界の最重要国であった.いまでは違う.10年前,日本やドイツが世界の経済的指導国になると思われた.今や両国とも衰退している.ソビエト連邦は超大国となったが,現在のロシアはそうではない.各国の事情は様々だ.しかし,いずれも変化に対して弱かった.

アメリカには何か優れたものがある.それが国民性となっている.サリヴァンは『我々の時代』で,この国の特徴を問うた.彼の答えは,「個人にとって機会の自由がある」;「普遍的な教育への情熱がある」;「代議制民主主義への確固とした信念がある」;「古いものを捨てて,新しいものを試してみる,適応力,気質がある」;「理想主義への共鳴」;「独立心」・・・.同じ表現は今日でも見られる.

100年を経ても,そこには「アメリカン・スピリッツ(魂)」と言えるものがある.経済,社会,地政学的な大変化があっても,国民性は引き継がれたのだ.我々は変化に適応する.我々は逆境に耐え,驚くべき回復力を示す.


NYT January 14, 2003

North Korea's Secret

By NICHOLAS D. KRISTOF

ST JAN 17, 2003 FRI

N. Korea plays musical chairs with big boys

By ERIC TEO CHU CHEOW (the Singapore Institute for International Affairs

(コメント) KRISTOFは,ピョンヤンに滞在したとき,なぜか身体障害者に一人も会わなかった,と言います.見苦しいから,北朝鮮が身障者を追放してしまうのです.飢餓が起きても,ネズミを多く食べた男が英雄になる始末.北朝鮮の余りの惨状に,KRISTOFは,彼らの脅迫を受け入れてやれば良い,と言います.なぜなら,指導者を含めて,北朝鮮はジーンズやビール腹,プレイボーイ・マガジンなど,資本主義を熱望しているからです.彼らの政府を認めて,大使館を開き,貿易や投資の施設を交換すれば,彼らが意図しないままに,その改革と体制の崩壊が約束されたようなものです.人々は偉大な指導者の銅像ではなく,インターネット・カフェに集まり,身障者にも優しいスターバック・コーヒーに満足するはずです.

CHEOWは,東アジアの椅子取りゲームを始めさせた北朝鮮政府が,一方で利益を収める可能性と,このゲームにおける各国の得失を推定します.北朝鮮は,アメリカがイラクとの同時戦争を望まないことを知っています.攻撃回避に,中国やロシアの支援も期待できるでしょう.北にとって,この危機は,アメリカとの外交関係を正常化し,攻撃しない約束をも取り付ける望みを持った駆引きです.韓国と日本はアメリカを抑制し,中国やロシアも巻き込みました.

他方,国際関係の損得勘定では,ブッシュ氏がその強硬姿勢に傷をつけました.他方,中国が何もせずに,その仲裁者の位置を利用して最大の利益を上げています.ロシアもそれに似た位置です.また,韓国は大統領選挙や在韓米軍の市民死亡事故によって高まった反米感情から,伝統的なアメリカの同盟国としての役割が弱まり,むしろ中国へ傾斜しました.もっとも損をしているのは日本です.核の絡んだ安全保障問題に対して,日本は従来の弱さに加えて,国論が分裂しています.さらに,小泉首相の間違った靖国神社参拝で,韓国政府は協力関係を拒みました.

こうした危機を経て,東アジアの安全保障が転換していきます.そうであれば,日本も朝鮮半島の経済開発計画,たとえば日本から中国にまで至る鉄道建設に,周辺主要国の投資を招き入れて,地域開発機構を創設するべきだと思います.


WP Thursday, January 9, 2003

Dead on the Money

By Richard Cohen

FT January 14 2003

The tax cut that could pay dividends

By Michael Porter (professor at Harvard Business School

(コメント) Cohenの祖父の亡霊は,やはりブッシュの経済政策が大嫌いです.「ボブ・ゲイツはマイクロソフトの株式を6億株以上も持っている.一株1ドルを配当しても,年に6億ドル儲けるのだ.しかも,税金を払わなくていいとは!」と,ビルをボブと間違えても,彼は無視して憤慨します.そんなことを言えば,「階級戦争」だと非難されますよ,とCohenが逆らえば,「このチビすけめ! いつだってそういうものだ.金持ちが貧しい者から巻き上げるときは「経済政策」と言い,貧しい者が金持ちから奪えば「階級戦争」と言われるのだ.」と教えます.

Michael Porterは,正面から,ブッシュ減税を支持します.この減税案の中心にあるのは,配当に対する課税を取り除くことです.利潤に対して二重に,特に株主に配当する際に課税されることが,根本的に企業の戦略をゆがめてきた,とPorterは考えます.このような課税があれば,企業は利潤を減らそうとします.そして過剰な投資や債務に頼って企業買収や市場シェアの拡大に資金を浪費します.エンロンも,ワールド・コムも,ディズニーも,こうした誤った企業戦略の結果,経営を誤ったのです.

Porterによれば,配当への課税をやめて,これを企業にではなく,投資家個人に払い戻せば,それが株価を押し上げ,消費も刺激する,と主張します.こうして刺激策であるとともに,それ以上に,ブッシュ減税は企業や投資家の意思決定を通じて,アメリカ経済の効率化を促進するだろう,と予想します.


FT January 14 2003

Foreign companies flock to China

By James Kynge in Beijing

NYT January 13, 2003

China Gambles on Big Projects for Its Stability

By JOSEPH KAHN

(コメント) Kyngeは,中国に殺到する直接投資について述べています.昨年,それは527億ドルに達し,世界一のFDI流入先でした.アメリカやヨーロッパ,日本で成長が衰え,市場競争が厳しく,企業はコストを削減するために,上海や深?といった,中国の急速に発達する産業集積地へと吸い寄せられていくのです.様々な業種がすべて揃っている立地条件は,輸送の問題とともに,1日3ドルの低賃金よりも重要です.ただし,外国投資への様々な優遇措置を利用するために,国内投資が外国から行われているケースもある,と言います.

FDIと輸出に並んで,中国の成長のエンジンは,財政支出・公共投資のようです.この点について,KAHNの記事があります.中国では,ニュー・ディールと,マーシャル援助と,国営企業改革のための失業者救済と,世界デフレ対策と,日本のバブル経済と,それらが一緒になった,社会主義的エンジニア指導部の夢が,莫大な公共投資と自然改造を実現しつつあるようです.主要幹線鉄道,高速道路網,主要都市の地下鉄,新空港,三峡ダム,上海の浦東開発,北京のオリンピック,それらへの投資が,沿岸部諸都市の中産階級にしか余裕の無い消費に追加されて,8%の成長を持続させています.昨年の成長も,輸出の増加と,政府投資が25%も伸びたことによって維持されました.

もちろん,それは国営銀行の不良債権として将来のリスクを膨らませているようです.それでも,二つの理由で投資を続けることは支持されます.@中国人労働者の生産性は急速に(年4%)上昇している.A経済改革は高い成長率において実現可能になる.安定した指導部が確立されるまで,すなわち,北京のオリンピックが成功するまでは,この成長率を維持するつもりではないか,と記事は指摘します.


FT January 12 2003

It takes time to build a United States

By Stephen Newhouse

FT January 16 2003

Looking eastwards to bridge the trade divide

By Anders Aslund

(コメント) 経済状況が悪化して,「安定協定the "Stability Pact"」ではなく「愚劣協定the "Stupidity Pact"」だ,といった強い非難の声が出ています.シラク大統領はヨーロッパ憲章に離脱の規定も入れるように提案しました.EUはなぜアメリカのように単一の政治経済体として機能しないのでしょうか?

Newhouseの答えは,アメリカも一夜にして成立したわけではない,というものです.アメリカ合衆国がUSAとなったのは,建国から100年以上も経ってからです.多くのアメリカ人は,自分の国を複数形で表現しました.彼らは州や地方に忠誠を尽くし,ときには国家に叛乱したのです.奴隷制は道徳問題であるだけでなく,経済問題でした.それゆえ南部への連邦政府による補助金が和解のためには重要でした.

もしアメリカ憲法に連邦からの州の離脱を認める条文があれば,南北戦争は避けられたかもしれません.しかし,今のアメリカは無いでしょう.1862年まで単一通貨は無く,連邦準備銀行ができたのは1913年でした.それゆえEUは,非常に良好なスタートを切ったと言えるのです.

Aslundは,ヨーロッパがEUへの新規加盟諸国と旧ソビエト圏に取り残された諸国との間で分裂する危険性を警告します.新規加盟諸国がEUとの貿易を増やしている半面,後者は貿易を制限されています.ウクライナの対EU輸出が対モルドバ輸出よりも少ないのは,それぞれの貿易品目が非常に偏っているからです.

EUは,より多角的で安定した貿易関係を拡大し,市場統合を進めることを目標とするべきです.しかし,その保護貿易主義やEU加盟に関わる様々な追加の規制,規範の押し付けは,アイスランドやノルウェイにとっても満足できず,スイスにとって望ましくないし,ロシアには受け入れられないものです.

旧社会主義圏がEU規制の政治的な紛糾に巻き込まれるよりも,経済面で自由貿易を進めることが重要です.EUはこれらの諸国,特に大国であるロシア,ウクライナ,カザフスタンがWTOに加盟できるよう,支援すべきでしょう.そして小国に対しては,EUが農産物市場を開放してやるべきです.


NYT January 12, 2003

How Free Trade Will Alter a Hemisphere

By ELIZABETH BECKER

(コメント) NAFTAを拡大して中米諸国を加え,さらに西半球全体の自由貿易圏を目指すブッシュ政権の方針について,NYTはPeter Hakim(the president of Inter-American Dialogue)に質問しました.まず,Hakimは,これがアメリカ企業・投資家と消費者の利益である,と主張します.しかも,アメリカとの自由貿易圏形成は,それから取り残された諸国の優位を失わせて,競って自由化に参加する姿勢に転換させました.NAFTAに反対したアメリカの労働組合も,数字を見れば納得するはずだ,と主張します.メキシコ経済はフロリダの経済規模でしかなく,まして中米は全く影響ない.たとえ企業が自由貿易圏を得られなくても,中国に生産拠点を設けるだろう.これによって中米経済に被害は発生しないか? という問いに,Hakimは,もちろん適切な支援策が必要だ,と答えます.再訓練やセイフティー・ネットがあれば,一層の成長によって経済調整が進み,貧しい農民は土地を離れることができるのだ,と.


IHT Tuesday, January 14, 2003

U.S. forces are needed in Northeast Asia

David I. Steinberg (the School of Foreign Service at Georgetown University

(コメント) Steinbergは,3万7000名の在韓米軍が北東アジアの安定化のために必要であることを確認すべきだ,と言います.在韓米軍は北朝鮮の人質になっている,として撤退を主張する保守派に,真の人質はソウルの1000万人である,と確認します.彼らが有効な反撃策も無いまま放置される状態は受け入れられない,と.韓国の軍事力を高めて米軍に変える場合,核武装が議論されるだろう.また,日本の保守派も核軍拡に進みたがる.東アジアでアメリカに代わる覇権を中国か日本が確立するまで,こうした軍拡競争を抑止できるのはアメリカだけなのである.アメリカの対北朝鮮政策は,北東アジア地域の安全を高める視点から議論されるべきだ,と.


FT January 16 2003

No way to run the world's biggest economy

By Stephen Roach (Morgan Stanley

(コメント) デフレに直面したアメリカ経済を運営する上で,Roachはブッシュ政権の減税を,財政赤字とともにアメリカ人の貯蓄がさらに減らして外国からの資本流入に依存する,間違った方針である,と批判します.民間貯蓄が少ない上に財政赤字を増やして,外国からの資本流入に頼るのは「愚者のゲーム」である,と.すでにアメリカ長期国債の18%,財務省証券の残高の42%が外国投資家によって保有されています.政府は,まず株価を引き上げて,投資を過大にし,過剰設備によってデフレを悪化させる道に進みつつあります.共和党の株価ターゲット政策や,民主党の投資減税策は,どちらも根本的問題,過少貯蓄の解消,に役立たないのです.


BL 01/12 09:33

Japan's Koizumi Is Making Progress and Changes

By Patrick Smith

BL 01/16 10:38

Coming Soon to Japan: 0 Percent Bond Yields

By William Pesek Jr.

FEER January 23, 2003

Goal: Inflation

By Tom Holland/HONG KONG

(コメント) Smithは,小泉政権の改革が大きく前進していることを見失ってはならない,と強調します.竹中案に沿ってUFJと住友三井が自己資本を増やす計画を示したことは前進です.また,同時に小泉首相が国債発行の上限を外したことも正しかった,と.日本の改革は,政策が補完し合って,しかもタイミング良く出されることに懸かっています.税制改革も必要ですし,日銀総裁の交代も重要です.Smithは,小泉首相が北朝鮮に対する外交でも評価します.

他方,Pesek Jr.は,日本が国債市場のゼロ利回りに向かって金融危機を邁進している,と予想します.安い資金で国債を購入し,その値上がりで儲けるしか,今の日本には資金需要が無い,と指摘し,それは次の日銀総裁によって国債購入の増額としてさらに加速する,と考えます.国際が何の収益も産まなくなれば,まず保険会社が破綻し,銀行が破綻し,もちろん高齢化する日本全体が貧しくなるでしょう.

FEERのHollandは,下落リスクのあるアメリカの市場から,確実に儲かる日本の国債市場に投資家が資金を戻すことで,円高が進んでいる,と指摘します.それは輸出企業の利益を減らし,株価を下落させています.その結果,日本の銀行は,国債の利回りが低く,株価が下落することで,二重に打撃を受けます.

経済活動は減速し,デフレが進む中で,円高に対する介入も効かなければ,次の日銀総裁が誰であれ,インフレ目標を導入して国債購入を増やすしかないだろう,とHollandは予測します.

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Foreign Policy, January/February 2003

The IMF Strikes Back

Kenneth Rogoff

(コメント) Krugman, Sachs, Soros, Stiglitz, Bhagwati らの批判に対して,IMFが逆襲しています.Rogoffは,主な批判を次の4点にまとめています.@緊縮政策,Aモラル・ハザード,B高金利,C資本自由化.これらに関して,IMFは間違っていたか?

まずIMFのおかげで,通貨危機の国は,市場が強制したはずの緊縮政策を回避できたのであって,IMFが強制したのではない.IMF融資は危機が終息してから返済されるのであり,それもできない国には免除される.他方,それが債務国政府や投資家に対するモラル・ハザードになるかどうか,は明確でない.少なくとも,IMFが融資したアジアやロシアでは,民間投資家に巨額の損失が発生している.もしIMFが救済しなければ,現在の処理過程が国際金融に大きなコストを強いたことを考えれば,救済融資をモラル・ハザードと非難することは重要でない.

危機の国は,単に不況を回避するケインズ政策を実行するべきであったのか? 一方では,債務国の政府は,IMFも支持する安定化政策を実行していない.そして,危機の国に財政赤字を増やして景気回復を説くことは,レーガン政権の赤字を増やしたラッファーの虚言に等しい.債務国政府は,一方で為替レートの急激な減価に直面しており,高金利以外に資本流出を止める手立ては無い.高金利による国内の不況と資本流出による減価との間で,困難な選択を行っている政府に,ただ財政刺激策を説くのは間違いだ,と.

資本規制に関して,Rogoffの説明は多義的です.まず,IMFは単純に資本自由化を支持していなかったし,資本規制すれば上手く行くと信じることは間違いだ,と言います.実際,多くの新興市場は80年代のヨーロッパが資本規制を繰り返して失敗した経験を学び,その後も資本自由化を目指しているし,中国でさえ,それが長期の目標であると宣言している.カレンシー・ボードなど,実質的なドル化を行うことは,その前に大幅な切下げを避けられず,問題の解決にはならない.IMFも,今では危機への対応や急激な資本流入への税政策として資本規制を薦めており,激しい国際資本移動の時代に適合した資本規制のあり方については今後の検討課題である,と.特に,高齢化する豊かな諸国が,急速に発展する諸国のインフラ投資に参加する適当な方法を見出すことは,両者にとって利益である,と主張します.

IMFとは何か? それは為替レート制度や資本移動に関する,より安定した,上手く機能する枠組みを見出すための,国際フォーラムなのです.貧困解消についても,マクロ経済の安定性は重要です.そしてIMFを廃棄しても,こうした根本問題を解決するわけではない,と.