IPEの果樹園2003

今週のReview

1/13-1/18

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「日本がデフレで円高になるのはなぜだろう・・・?」と,思いました.「デフレだから円高になるのだ.当然じゃないか.」と言われそうですが,違和感が残ります.

日本は不況で,モノが売れない.それゆえデフレになる.他国より物価が下がるから,円高が進む.すると,どうなるのですか? 1.財政赤字は? 2.ゼロ金利は? 3.デフレを解消する過程は? 4.もっと円高になったら? 5.不況は? 6.ハイパー・インフレーションや通貨危機は起きないのか?

財政赤字によって生じる国債は,増税しなければ償還されません.その規模は銀行の不良債権どころでは無いのです.もし日本がアジア版ユーロを提唱したくても,増税でその参加条件を満たすのは至難でしょう.増税が無理なら,「小さな政府」を目指すか,インフレで借金を踏み倒すことになるのでしょう.確かに,日本の富が急速に増えれば良いわけです.しかし,高齢化や政治的麻痺がさまざまな障害と不安を強めている社会で,債務の増加率よりも成長率を高くできるでしょうか? すると,もう一度,株や土地のバブルを要望する・・・?

実際,「なぜ日銀はインフレを起こさないのか? インフレ目標を導入しろ」という学者や政治家もいます.貨幣を増やすことでデフレは解消でき,円安にもなる.問題は頑迷な日銀総裁だけだ,と.しかし,ゼロ金利が金融システムの爆弾を処理するための麻酔であるとしたら,爆弾を抱えたまま緩和し続けることに,どんな意味があるのでしょうか? 銀行も,企業も,政府も,デフレとゼロ金利を前提に生き残り,昏睡状態で停滞してしまうかもしれません.

しかも,インフレやデフレは永久に続きません.「デフレはいつ,どうやってインフレに変わるのですか?」と,ゼミの学生に質問されました.今は,金本位制でも固定レート制でも無いのですから,デフレが続く理由は無いわけです.もしデフレで利益を受ける者がいるとしたら,それは過去の債権を蓄積している者であり,倒産や解雇,給与削減が無いまま,固定的な給与や預金で生活できる人でしょう.

デフレが続き,だから円高が続くとしたら,それでどうなるのか? もし円高で日本の輸出が伸びず,海外からの投資も増えなければ,そんな国の通貨価値が増えることは,不健全な,持続できない理由で起きているはずです.不況が深まれば,「インフレによって一気に債務を始末せよ」という声が強まるでしょう.日本でハイパー・インフレーションや通貨危機は起きない,と学生たちは思っています.しかし,まだそれが起きていないのは,長期の不況で,金融システム不安や経常黒字,海外投資と対外資産の累積が並存していたからです.

経済学のイメージに従えば,不況で大幅な黒字がある場合,国内の景気刺激策を採るのが当然です.つまり,デフレでも円高でもなく,低金利で円安を進める方が良いのです.現実にはゼロに近い金利でも円安が進みません.「デフレだから実質的には高金利だ.名目金利はゼロ以下にならないから,円高になる.貨幣供給を劇的に増加させない日銀総裁が悪いのだ」という声が聞かれます.しかし円安は,それほど簡便な「魔法の杖」でしょうか?

「デフレと円高」に対する私の違和感とは,要するに,政治家や官僚,日銀が決断できないまま,日本では生産的な投資機会が失われ続けているのではないか? そして,対外資産を食い潰しながら,安価な輸入財に頼り,本当は持続できない生活水準を何年か過ごすことができた,というだけではないか? という不安です.

元大蔵大臣の宮沢喜一氏は「もう一つのニッポンA」(朝日新聞,1月8日)で語っています.「問題の本質は85年のプラザ合意で円高になったときから続いている.地価,株価,物価の下落に加え,日本から中国などへ企業が出て,雇用も空洞化しつつある.」

不良債権処理に「最も反対したのは大蔵省銀行局だった.不動産価格は回復するのであり,とんでもないことを言ってもらっては困る,と.銀行業界も反発し,産業界も「銀行救済なんて」と反対した.政治の側はこの問題が大変なことになるという認識がなかった.実態を知る官僚機構は火消しに回り,経済界も動かない.そういう仕組みの中では何もできない.」

私たちは悲観するしかないのでしょうか? いいえ.スウェーデンのラップランドは,マイナス30度でも,素晴らしい社会を営んでいます.(NHK・BS「トナカイは雪原の誉れ」)

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg, FEER:Far Eastern Economic Review


FT January 1 2003

The dilemma of sustaining an American empire

By Anatol Lieven

(コメント) かつてElihu Rootは「他国の兵士と異なって,アメリカの兵士は,歴史上初めて,自由と正義,法と秩序,平和と繁栄を守るために戦う兵士である.」と述べました.彼らや外交官がその戦争行為を誇るのは,アメリカは確かに帝国であるが,それは世界に利益をもたらす帝国である,という確信です.

そのことは,アメリカが直接の軍事力よりも,間接的な支配に頼ることで強められています.イギリス帝国が使ったのも,戦艦とグルカ兵,でした.現代のアメリカと同じように,ヨーロッパの諸帝国も,少なくとも最初は安価に運営されたのです.

アメリカ帝国も,クルーズ・ミサイルやステルス爆撃機だけでなく,叛乱を抑えるために現地の予備軍を使用します.ユーゴスラビアでも,アフガニスタンでも,アメリカは現地の軍隊を他の軍隊と戦わせました.問題は,こうした戦いが長期化した際に,アメリカ国民が自国の軍隊を介入させるかどうか,です.アメリカの覇権が好まれるのは,それが今は,遠くの,間接的な支配に留まっているからです.

アメリカは,時に分離派を支援したりしますが,他国の領土に関する要求をしません.このことが,外国の反感を買わないためには重要です.ただし,アメリカは圧倒的な軍事技術の差を持っていますが,民間人へのテロを完全に防ぐことはできません.それは長期的にアメリカ国民の厭戦気分や,より強い報復と直接介入への要求に結び付くでしょう.

一方で,軍事技術はアメリカ兵の戦死者数を激減させましたが,軍事費用を激増させています.アメリカの経済が苦境に陥り,財政が逼迫した場合に,帝国のコストが問題となるでしょう.他方,間接支配を担う現地の軍隊が腐敗したり,崩壊したりする場合,アメリカは完全に撤退できるでしょうか? 国民の心理を政府が今から支配することはできません.


FT January 1 2003

From welfare to workhouse for the poor

By Brian Barry (professor of political philosophy at Columbia University)

社会民主主義について,ブレア首相がその中身を捨ててしまった.ブレア氏は,社会民主主義を個人の責任に還元し,富者の「ノブレス・オブリージュ」(特権者には義務が伴う)に還元する.それはビル・クリントンを真似ただけでなく,以前にもディズレイリ首相やケネディー大統領も好んだ考え方である.

しかし,ブレア氏の大嫌いな「社会民主主義」とは,庶民の生活が富者の善意に頼るものであってはならない,という発想から生まれた.オーウェルが述べたように,チャ−ルズ・ディッケンズの小説には,いたるところに社会が根本から間違っているという意識がありながら,社会民主主義の視点は無い.ディッケンズは,「社会がシステムとして間違っている」という結論を導きはしなかった.たとえ不況になっても,「資本家たちは親切であれ,というのがその教訓であり,労働者たちが叛乱せよ,ではなかった.」

ブレア氏が排除しようとする社会民主主義の発想とは,危険な労働条件や,長時間労働,家族が見苦しくない暮らしも送れないような低賃金から逃れるために,労働者は資本家の親切心に頼るべきではない,ということだ.国家の断固とした介入に支えられた,強力な労働組合があれば,資本家たちへの対抗力が得られる.それこそ,ブレアとサッチャーの悪夢であったが.

ブレア氏は,たとえ企業が倒産したり,不正行為を働いても,その経営者たちが途方も無い報酬を上げることについて非難しようとしない.ステークホルダーの利益も,その経営幹部にまでは及ばない.他方,イタリアのベルルスコーニ首相と並んで,労働の「弾力性」を熱心に説いて回る.それは結局,労働日を経営者の自由に決めさせることであり,少年の非行につながっている.親の教育水準や離婚,所得水準,失業,夜間勤務が,非行と密接な関係にあるのは明らかだ.

ブレア氏は,「犯罪とその原因に厳しく当たれ」と主張する.しかし,犯罪の原因は,労働の弾力性が強まる場合のように,個人の責任に還元できない.ブレア氏は首相になって,当然,そうした主張をしなくなった.

政府が気にする,子供たちの学業成績や健康に関しても,「弾力性」が関係している.では,なぜ両親は,子供が成績を落とし,健康を害し,非行に走るような仕事に就くのか? それは,彼らの権利と責任においては,子供たちへの配慮を主張できず,所得を減らすことになるからだ.

結局,土地所有者や雇用主は,その責任によって権利を制限されてはいない.わずかに,保有資産によって福祉手当をもらえないだけである.しかし,富者には権利があり,貧者には義務ばかりがあるようだ.


The Guardian, Wednesday January 1, 2003

Triumph of doublethink in 2003

Paul Foot

ジョージ・オーウェルが生まれて100年が経った.彼の『1984年』は,スターリン国家を風刺しただけでなく,むしろ権力者の新言語Newspeakや二重思考'doublethink'を厳しく批判した作品として読まれている.未来の恐怖世界では,三つの勢力圏が世界を支配し,絶えず同盟関係を組替えながら戦い続ける.オセアニアの指導者ウィンストン・スミスは,彼らがユーラシアと手を組んだことなどかつてない,と演説する.もちろん,4年前に同盟関係にあったことを知りながら.しかし,知識など重要ではない.重要なのは意識であり,絶えず勝利しているという記憶なのだ.「現実性の管理」と彼は言う.

オセアニアと同じように,アメリカもイギリスも,イラクとの戦争準備に忙しい.フセインが恐るべき弾圧を行っていたとき,イギリス外務省は彼を支持したことを,われわれは知っている.ガイドラインを変えて,我々がフセインに大量破壊兵器を作る材料を売ったことも,知っている.フセインを爆撃する飛行機が飛立つのは,それ以上に独裁国家のサウジ・アラビアにあることも,知っている.しかし,知識など重要ではない.重要なのは我々の意識だ.

オーウェルの小説は,強大な政府が現実を嘘で固め,知識やメディアを歪曲する危険に対して警告した.好戦派は「意識を強化する.まるで,馬がハエを振り払うように」と,オーウェルは書いた.

私がかつて聞いた最高の演説は,1999年の夏に,友人のEamonn McCannが行った演説である.彼は,北アイルランドの政府がカソリックとプロテスタントを明確に区別することについて議論した.そして1時間,彼はロンドンの聴衆を大喜びさせた.たとえば,彼の文書には150万の北アイルランド市民に対して73の宗派が分類されていた.それに対して5000万人のイギリス人は17の宗派にしか分類されなかった.カソリックかプロテスタントかを決めたがる国勢調査に対して,どちらでもない人々を多く認めた.たとえ宗教を信仰していなくても,国勢調査はあなたを親や家族の宗派に分類する.しかしEamonnは,「私は無神論者です」という答えを用意した.もし国家が人々を宗教的に引き裂こうとするなら,真の和解や平和は望めない,と彼は主張した.

政府が国勢調査で宗教を決めるのは,宗教的な差別を禁じる法律があるからだ,という.この法律を実施するためには,どちらでもないときでさえ,誰がカソリックで,誰がプロテスタントか,決めねばならない,と.オーウェルなら何と言うか?


FT January 2 2003

A world without inflation

By Ed Crooks

History shows deflation did not always mean hardship

(コメント) デフレの危険が繰り返し強調されるようになりました.インフレの時代が長く続いた結果,政策担当者も,消費者も企業も,インフレを期待して政策を決め,支出しています.それこそ,もしデフレになれば,その影響は非常に深刻である,という主張の根拠なのです.デフレが心配になれば,土地や住宅,資産市場,銀行融資,世界経済も加わって,皆が支出を削減するでしょう.将来,価格はさらに下落し,債務の負担はますます重くなるからです.さらに,もし賃金が引き下げられず,解雇もできないなら,デフレで企業はもっと慎重になります.

アメリカ連銀のBen Bernankeも,IMFのKenneth Rogoffも,デフレへの警戒を唱えつつ,中央銀行にできることは,その姿勢を公衆に強く示し,デフレにならないと確信させることが最も重要だ,と言うだけです.ドイツの硬直的な労働市場と,日銀の曖昧な姿勢,不良債権処理の遅さが,デフレを引き起こした,という前提があるようです.

付属の記事は,デフレが歴史的には珍しくなかったことを示しています.貴金属で貨幣供給を制限した時代や,飢饉,戦争,黒死病が繰り返されて,需要が減少した時代は,デフレになりました.その後,イギリスやフランスの中央銀行が貨幣を増発する特権を破棄したのです.16世紀にはアメリカからの金銀の流入でインフレが続き,19世紀には物価が安定し,デフレが続いた,と書いています.

イギリスでもアメリカでも,世界的な覇権国となる過程でデフレを経験しましたが,デフレは覇権の誕生を妨げはしなかった,という指摘しています.景気刺激にはインフレが良い,とか,覇権国の地位はデフレによって国際的に確立すされた,とまでは書きません.しかし,そう読むこともできます.

デフレ解消策に関しては,金本位制を離脱し,アメリカのように通貨を繰り返し切り下げることだ,という教訓を示します.その意味では,ドルに固定した香港と,ECBに権限を委譲したドイツがデフレに苦しむのは理解できるわけです.でも,なぜ日本が? 日本は例外なのです.それゆえ,マクロ政策が協力してデフレ克服に努力していないのだ,という批判を強めます.


FEER January 09, 2003

The Human Tide Sweeps Into Cities

By David Lague/BEIJING

FEER January 09, 2003

The Limits to Consumption

By Shawn W. Crispin/BANGKOK and Philip Segal/HONG KONG

FT January 3 2003

China's challenges

(コメント) 中国の人口移動規制は,これまで都市偏重の投資計画と相まって,一種のアパルトヘイトとして機能している,とLagueは指摘します.中国政府は,成長に伴う人口移動を,新しく成長のエンジンと見なし始めたようですが,もし成長が頓挫すれば,それは都市のスラムと社会不安の源泉になります.政府は,主要都市への流入を規制するとともに,中小都市を国内移民による開発拠点としたいようです.

中国政府から見れば,アメリカ人の80%,日本人の65%が都市に住み,中国では人口の30%しか都市に住んでいないことが,経済効率を悪化させているように見えるのです.2010年までに2億人を都市に移住させる,という史上空前の社会変化を国連も予想します.それによって,工場労働者の賃金は上昇しないでしょう.輸出競争力を失わないという意味で,成長の条件となるのです.

しかし,農村の余剰労働力は,長年に及ぶ集団農場政策を放棄し,農村の生産性が上昇した結果でもあります.中国における地域格差は大きく,今も2億人以上が1日1ドル以下で生活している,と世銀は言います.規制された人口移動は農村住民の移住を差別し,都市労働市場の中でも最底辺の,「よそ者」として利用します.Lagueによれば,それでも都市への無許可の移住者は絶えません.

Crispin and Segalは,アメリカや日本と同じように,アジア諸国が国内の消費主導型成長に移行する,という政策は成功しないだろう,と主張します.なぜなら,金融部門が不健全で,未発達だからです.韓国を例外として,アジア危機後も生産性を改善できず,消費者に融資を拡大して消費を刺激し,大幅な減価によって輸出が伸びただけで,アジアの成長には持続的な基盤が無い,と批判します.

FTが注目するのは,中国のマクロ的な成長に隠されているだけで,国営企業の生産性改善や銀行の不良債権処理が非常に困難であることは見逃せません.国営の4大銀行が資金を投入しながら利子も回収できない国営企業は,GDPの44%に及ぶ不良債権となっています.それを理解していながら,実際んに解決する行動をとれるかどうか,と懸念します.


NYT January 2, 2003

Three-Ring Circus

By WILLIAM SAFIRE

昨年,イラクを攻撃することはテロとの戦争の妨げとなる,と言ったハト派には,今年も戦争しない口実ができた.北朝鮮の方が対応を急ぐべきだ,と言うのだ.要するに,ハト派はどこでも何もしたくないのだ.世界は三つの知恵の輪状態だ.

北朝鮮の独裁者は,韓国,中国,ロシア,日本の隣国を指名することなく,控えめな超大国アメリカを名指しで交渉相手に選んだ.北朝鮮を国際社会に取り込みたければ,金を払え,と.アメリカは無視したが,国際的な封じ込めに失敗すると,脅迫に応じざるを得なくなった.

ブッシュ大統領は,問題を国連に委ねるより,勝手に寛大な話し合いを始めたがる韓国政府に米軍の引き上げを示唆し,中国の新しい指導者には核で脅迫する北朝鮮への中国政府の責任を求め,ロシア軍部には北朝鮮が次はチェチェンに武器を運び込むかもしれないと告げて,日本政府には直接に核の脅迫状を受けたいのかと尋ねるべきだ.日本はいつでも核武装できるのだから.

ブッシュ氏は,中国,ロシア,韓国の指導者たちに,アメリカがこの問題を処理する元締めではない,と教えるべきだ.自分の国は自分で守れ.それぞれがテロとの戦争に従い,そして,アメリカがイラクと戦う邪魔はするな.自分たちで北朝鮮にけじめを付けさせろ,と.


IHT Friday, January 3, 2003

Pyongyang vs. the international community

Ralph A. Cossa and Brad Glosserman 

LAT January 3, 2003

The Last Thing Korea Needs Is Drama

By Rajan Menon

NYT January 3, 2003

Games Nations Play

By PAUL KRUGMAN

WP Friday, January 3, 2003

The Japan Card

By Charles Krauthammer

(コメント) Ralph A. Cossa and Brad Glossermanは,アメリカが北朝鮮の脅迫を無視することは,韓国との関係を悪化させるばかりだ,と注意します.そして,国連を動かして,アナン事務総長を北朝鮮に行かせ,国連安保理の力で国際社会の合意を利用するのが良い,と提言します.

Rajan Menonは,アメリカ政府のジレンマを冷静に処理するべきだ,と主張します.イラク戦を準備しながら,北朝鮮の脅迫に武力行使で牽制するのは好ましくないし,韓国政府との溝も深まります.金正日がそれを利用しているとしたら,アメリカ政府は何もしないのが良いのか?

そうではなく,「劇的でない」対処が求められます.すなわち,軍事的な挑発や牽制を大げさに発言せず,以下のことを確認する.韓国政府は,北朝鮮よりもアメリカと,より多くの価値や利益を共有している.アメリカ軍が駐留していれば,北朝鮮は軍事的な征服で決して利益を得られないと確信する.北朝鮮は,原子炉の建設や政治交渉,援助を得るには,朝鮮半島の緊張緩和を進めるしかない.1994年の合意に復帰することが,最初になされるべきだ.

PAUL KRUGMANは,冷戦期の核軍縮政策決定にゲーム理論の経済学者が参加したことを思い出します.その結論は単純でした.良い行為には報酬を,悪い行為には懲罰を,明確に与えること.しかし,ブッシュ政権はこの単純な原理にそむいています.どれほど北朝鮮の指導者が悪い奴でも,彼を交代させることができないのであれば,正しいインセンティブを示すべきです.

ところが,ブッシュ氏は勝手に「悪の枢軸」と宣言し,「先制攻撃」を主張し,戦争に証拠は要らない,と認め,結局,北朝鮮の体制や金正日が「大嫌いだ」と公表しているのです.ピョンヤンから見れば,「お前は邪悪だ.たとえ核兵器を開発しなくても,援助などやらない.アメリカの脅威でなくても,軍事攻撃で粉砕するつもりだ.ただし,軍事力が弱いうちに.」とブッシュは言っている,となります.

北朝鮮は,アメリカがイラク攻撃で忙しい間に,せっせと核兵器を増産するでしょう.ブッシュ政権は,どんなゲームをしたいのか?

Charles Krauthammerは,新しいゲームを示します.アメリカは手持ちのカードに決め手が無い.そこで,日本を核武装する手を加えてはどうか? と.アメリカ政府は,軍事的な制圧がアメリカの安全や利益に反するから,封じ込め政策が採りたいのです.しかし,中国が北朝鮮を支援すれば,それは失敗します.中国政府を北朝鮮の解体に参加させるには,核武装した北朝鮮は核武装した日本を意味する,と教えることでしょう.それが嫌なら,封じ込めに協力せよ,と.


NYT January 3, 2003

We Don't Invade Iraq. Then What?

By ROBERT MALLEY(Middle East program director at the International Crisis Group

ブッシュ政権も世界も,非軍事的な解決策について,余りに少ししか検討していない.しかし,戦争よりも戦後の秩序が安定することのほうが重要である.

確かに,戦争しないことでイラクの政治体制が改善できるかどうか,国際社会が武装解除と民主化を実行できるかどうか,確かではない.最後の瞬間で戦争を回避しても,イラクの政治や社会は混乱しており,フセインが事前にクーデタで政権を降ろされても,不安定な内外の情勢が次の軍拡競争と戦争に導くだろう.

それを防ぐには,1.軍事力の使用が態勢を崩壊させると確信で切るような,アメリカとその同盟諸国,そして安保理決議に支持された封じ込め体制を築くこと.2.イラクの民主化.イラクを経済的に世界と再統合し,正しい選挙,政治的多元主義,エスニック集団の権利を認めさせること.3.ペルシャ湾岸安全保障体制を築くこと.各国は互いに現在の領土を認め,主権を尊重し,軍備を拡張しない.これらは国際的に監視される.

湾岸地域の安全保障にとって,イランとイラクが互いを信用せず,軍事的な手段を放棄しない以上,いかなる平和も短期的でしかない,と知るべきだ.


NYT January 2, 2003

Dollar's Year-End Plunge Increases Prospects for a Decline

By JONATHAN FUERBRINGER

NYT January 3, 2003

Falling Dollar Cushions Americans Investing Abroad

By JONATHAN FUERBRINGER

FT January 5 2003

The euro needs more than faith

By Martin Wolf

FT January 7 2003

The dollar under threat

By Martin Wolf

(コメント) FUERBRINGERの二つの記事で気が付くことは,ドル安が純輸出を促すことよりも,海外資産からの収益や資産保有額をドル建で改善することを重視する必要がある,ということです.貿易だけで見れば,ドルは30%もまだ過大評価だ,という推計さえあります.アメリカは,それが大幅な,制御不能に感じられるドル暴落以外であれば,ドル高であれ,ドル安であれ,それから利益を得る政策を採れると考えます.

またWolfが指摘するように,イギリスはユーロに加盟しない方が,自国だけでなくユーロの金融政策に対して,より大きな影響を及ぼせるかもしれません.彼は,ブレア首相が「運命」としてユーロ加盟を支持することは,その理想を共有していない国民にとって,経済的利益を無視しているように見える,と注意します.むしろ,1.貿易取引の半分が固定レートになることで,長期的に効率性は改善されるのか? 2.ユーロ圏の金融政策を取り入れることで,マクロ経済の不安定化はどの程度生じるのか? 3.ユーロ加盟の移行期に,ドイツが受けているようなデフレ圧力を回避できるのか? という問題に答えるべきだ,と.

ではアメリカなら,ドルの為替レートを完全に変動させておくだけで,何の問題も無いのか? 強大な軍事力,強大な経済,強大なドル? しかし,アメリカの軍事力は外国から借り入れた資本を前提しています.そしてアメリカの輸出が近年伸びなくなった主要な理由は,ドルが強すぎることなのです.アメリカへの投資は他国に比べて収益が低い,という異常事態は長続きしません.アメリカが外国よりも高い利回りを支払えば,その赤字はさらに累積します.

アメリカが経常赤字を削減するために30〜50%のドル減価を必要とします.しかし,円やユーロはそのような増価を受け入れられない状況です.もし不安定な為替市場がオーバーシュートすれば,どの国もこれを止める国際合意を示せないでしょう.


The Observer, Sunday January 5, 2003

Crunch time for Uncle Sam

Will Hutton in America

NYT January 5, 2003

A War for Oil?

By THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) テロによって様相を一変させつつあるアメリカ社会の暗さに,Will Huttonは偏狭なマキャベリズムを見ます.ブッシュ政権の保守政治思想がテロを徹底的に政治手段として利用し,富裕層はこの保守政権を徹底的に私的な利益に利用している,と.もしアメリカが,もっと他の政治指導者によってテロに立ち向かっていれば,このような暗さは克服できたのではないか? アメリカ社会が追及する本当の価値を実践すれば,世界でもっと大きな支持が得られただろう,とHuttonは思うのです.

ある意味では,FRIEDMANも,この戦争の道徳的な価値を求めています.ブッシュ・チームは石油のために戦争するのか? もちろん,そうだ,とFRIEDMANは答えます.北朝鮮が核で脅迫しても,まずイラクと戦争するのは,その方が容易であるからという理由だけでなく,石油の確保以外に考えられない.しかし,イラクの政治を民主化し,アラブ地域に平和を築くためにも,石油を軍事独裁者に委ねてはならないのだ.それはアメリカ人が燃費の悪い高級車に乗って環境を破壊することが望ましいからではなく,誰にとっても正当な価格で,石油が世界に供給されることが道徳的にも望ましいからである,と.


FT January 6 2003

Two-speed Japan

By David Pilling

(コメント) Merrill Lynch の主任エコノミストであるJesper Kollは,「敗者の楽園」であった日本が次第に変わりつつある,と強調します.それは,個人主義の誕生であり,戦後の合意優先社会が崩壊する過程なのです.他方,政治評論家の森田実氏は,日本人の平等社会という理想を叩き潰した点で,小泉改革は失敗であった,と批判します.産業界の指導者たちも,日本がアメリカ型の競争社会になることを必ずしも支持していません.他方,経済学者の多くは,中国や韓国との競争を理由に,日本が市場をもっと取り入れるしかない,と確信しています.

より不平等な社会へと向かう日本の現状は止められません.問題は,日本人の多くが高度成長期の夢を捨てきれず,社会システムとしても大量失業や転職に対応していないことです.解雇された人々が次の職場を見出せず,公園でホームレスとなる場合も増えるでしょう.小泉政権はセイフティー・ネットの構築を強調します.不良債権処理に関する論争も,結局は,この現実を回避したいから行動できないのです.失業,所得格差,企業の選別が進みます.

中間的な立場を採るRichard Katzは,日本がまださらに10年をかけて,資源を緩やかに新しい成長部門に移し,競争社会にも適応していくだろう,と楽観しています.日本社会が失われるのではなく,戦後のキャッチ・アップ型成長システムがもはや機能しないからです.


LAT January 5, 2003

A Steep Price for Tax Cuts

WP Monday, January 6, 2003

The Tax Cut Trap

FT January 7 2003

Fuzzy maths in the stimulus package

LAT January 7, 2003

Bush Proves He's an Upper-Class Act

By Robert B. Reich

NYT January 7, 2003

An Irrelevant Proposal

By PAUL KRUGMAN

NYT January 7, 2003

The Charles Schwab Tax Cut

NYT January 7, 2003

Financial Dominoes and Dividend Taxes

By FLOYD NORRIS

WP Wednesday, January 8, 2003

The Long and Short Of the 'Stimulus Package'

By George F. Will

(コメント) LATは,ブッシュ政権が新しい景気刺激策を提唱することに,中立的な慎重論?を採っています.ブッシュ氏はレーガン政権の財政赤字拡大路線に従うようだ,と書く一方で,政府の見解とそれへの批判とを紹介します.いわく,株式市場を通じて景気を刺激する.いわく,消費者に直接刺激とならない.ハバード経済諮問会議議長は,財政赤字削減が経済を安定化し,景気刺激にも有効だ,という「ルービノミクス」(クリントン政権のルービン財務長官による方針)には,何の根拠も無い,と主張します.

WPは,ブッシュ氏の主張がご都合主義でしかないことを批判します.二重課税だ,という主張は以前からあります.しかし,どのような課税も民間部門の所得を減らす以上,問題はそれが生産的な投資をできるだけ妨げないことです.ところが彼の減税案は,貧者から富者への再分配を主張しているだけです.好景気であれば株価上昇が促せると弁解できるかもしれませんが,不況で苦しむ家庭がある中では,これを景気刺激策として正当化するのは間違いです.しかも,彼の政策が長期的な財政赤字を増加させ,将来の支出を削減する点も無視しています.

FTも,ブッシュ氏の減税策を,不正直である,と批判します.また,配当減税という手法へのマクロ的・ミクロ的な賛否両論とは別に,(ハバード議長とは逆に)政府が財政赤字の規模を無視して議論することにも反対します.

Robert B. Reichは,ブッシュ大統領が用いた,「職場と成長を」取り戻す,という論法に噛み付きます.アメリカの現在の問題とは,短期的に,過剰供給力と過少消費なのだ,と.しかし,長期的には,社会がまずます異なった所得階層に分裂していくことである,と言います.所得格差はアメリカ国内の消費を妨げます.ブッシュ減税は,この問題をさらに悪化させるでしょう.暮らしていく上でその支出を必要とする人々ではなく,裕福な人々にさらに報酬を与えるだけである,と.

KRUGMANも,現在の景気を変えたいのであれば,現在の支出を変えるべきだ,と言います.ブッシュ政権は,景気刺激策のフリをして,選挙活動をしているに過ぎません.

誰の利益か? 政府から民間部門へ,この10年間で3000億ドルもの富が移転されるのか? 現実には,たとえば証券業界を代表するCharles Schwab氏である,NYTは言います.昨年夏のWaco経済サミットでブッシュ氏が賞賛したCharles Schwabのアイデアが,こうして実現したわけです.しかも,Norrisが指摘するように,その結果として,州・地方政府の債券発行は株式に比べて税制上の有利さを失い,地方政府は追加のコストを負担しなければなりません.

George F. Willは,「景気刺激策」の意味を問います.たとえば,田舎の議員が有名な女優と浮気したときに,「彼女は刺激策なんだ」と言うような意味か? 財政政策は長期の構造改革に利用できても,金融政策に比べて,短期の景気刺激策に向きません.ブッシュ氏の減税提案は刺激策ではない,という批判に,もちろん,そうだ,と答えるでしょう.政府は景気の微調整に関与すべきではない,と.アメリカの経済規模から見ても,減税の規模は重要ではないのです.

また,それは富裕層に対する減税でしかない,という批判も,減税すれば,最も多くの税金を支払う富裕層に有利であるのは当然だ,と言えます.他方,配当が401Kのように売却時しか課税されないのだから,減税の効果は曖昧でしょう.そしてハイテク4大企業のマイクロソフト,シスコ・システムズ,デル,インテルが800億ドルを得ても,それが株主に還元されるとは限らないのです.つまり,彼らは脅迫症的な技術革新に資金を投げ込むばかりでしょう.

株式市場が極端に低迷している国であれば,「刺激策」は心理状態を変えるかもしれません.しかし,株価と経済は同じではないのです.1992年の選挙前に,アメリカ経済は危機にある,と叫んだクリントンが,既に不況を脱していた経済に「刺激策」を与えました.なるほど,女優と浮気するより,もっと「刺激」になったでしょう.


LAT January 7, 2003

Robert Scheer:

Despite So Many Fans, War Is No Game

(コメント) Scheerは,戦争についても,アメリカン・フットボールのオレンジ・ボールを中継するような感覚で議論していることを批判します.戦争は,決して審判がホイッスルを吹いて始まり,ルールによって決着がつくわけでは無い.査察団が報告書さえ書けば,戦争を始める口実は十分だ.あとは戦闘それ自体が愛国心を加速させるのだから,と政府は計算しているかもしれない.国民は,その規模も,その後の占領期間も,全く誤解しているようだ,とScheerは心配します.戦争は断じてスポーツでは無い.殺し合いだ.しかし,安楽な椅子に座ってテレビのショーに興じる人々にとっては,ローマ帝国のサーカスでしかない,と.

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The Economist, January 4th 2002

American values: Living with a superpower

(コメント) ブッシュ大統領は,アメリカが「自由,人権,民主主義」という共通の価値を守るために武力を行使する,と主張します.だから,外国の政治家や評論家たちがアメリカ帝国を嫌い,非難しても,世界の多くの市民はアメリカを支持している,対立しているのは個々の政策だけだ,と主張します.

幾つかの世論調査によって,The Economistは,それが正しいことを示しています.アメリカとヨーロッパの間で価値が対立すると言うのは誇張であり,大西洋間で反アメリカ主義の拡大を問題にする根拠は無い,と.ヨーロッパの市民は,アメリカによるテロとの戦いを支持しており,アメリカの科学や技術,大衆文化も賞賛しています.また,アメリカ人の多くが国際機関を重視しており,EUがより大きな国際的役割を担うことに期待しているのです.

こうした共感は,もちろんイスラム圏ではまったく逆転します.また,たとえヨーロッパが同じ民主主義を支持しているように見えても,その意味することには文化的な衝突を含むことがあります.この点で,ミシガン大学の調査は,伝統的な価値と,自己表現との,二つの視点から各国の意見を分析しています.そして,アメリカが奇妙な位置にある,と考えます.

もし社会が近代的な産業の建設と都市への移住によって,伝統的価値を弱め,次第に自己表現を重視するようになる,と仮定すれば,旧社会主義圏はともかく,他の社会は概ねこの「進化」をたどっています.しかし,アメリカおよび英語文化圏は,伝統的な価値,宗教が大きな役割を果たしているのです.あるいは,アメリカにはヨーロッパ的な民主党支持の人々と,ドイツやスウェーデンより,トルコやナイジェリアに近い伝統的価値観を持った,共和党の支持者たちがいるのです.

ブッシュ政権は,しばしば外交政策を道徳的な価値で正当化します.それはヨーロッパから見れば,極めて異質な態度であり,世界に対する異なった見方なのです.あるいは,宗教的・人種的対立,国際的テロリズム,核の拡散といった,共通の問題をアメリカとヨーロッパは抱えていますが,その隔たりは拡大しつつあるかもしれません.それは単なる「政治の問題」と済まされないだろう,とThe Economistは警告します.