IPEの果樹園2003

今週のReview

1/6-1/11

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ブラジルとの国境に近い,ヴェネズエラ南部のギニア高地にあるテーブル・マウンテン,サリサリニャーマが,NHKの衛星番組「探検 ロスト・ワールド」の舞台でした.かつて,その探検報告からコナン・ドイルが恐竜の生き残る世界を描いたように,深山幽谷の秘境はロマンチックで刺激的です.このような山がなぜできたのか? その中になぜ陥没した大穴が開いているのか? 岩山の内部を流れる水脈が山腹から噴出し,漣痕の残る岩石が見つかったことから,ブリュワー隊長は推理します.また,麓の樹木の種子がなぜ5mも積もっているのか? 山頂部と穴の底との植生の違いはなぜ生じたのか? 地球の歴史,生物たちの奇想天外な容姿や生態に驚くとともに,隊長の観察と探究心,合理的な推理に感心しました.

元旦の日経新聞は,「ニッポネンシス(日本病)」の解明を唱えています.台湾,ドイツ,アメリカも,この病気に感染することを恐れています.個人の金融資産が経済活動の中心を担う時代になっても,それまでの社会的合意や政治システムが寄生関係を温存し,バブルの病巣を拡大した,と思います.市場の条件が世界的に激変したにもかかわらず,金融を成長の手段として管理することから卒業できなかった,という話を何度か聞きました.では,その治癒力とはどこから生まれるのでしょうか?

NHK・BSの「世界潮流2003」は,的確に重要な論点を整理していました.アメリカの柔軟な経済,柔軟な社会に関する伊藤隆敏氏と寺島実郎氏の指摘.アメリカ型資本主義の90年代マネー・ゲームが行き過ぎであった,という榊原英資氏と寺島氏の批判.それでもアメリカのマクロ政策は,消費者,経営者の健全な反応によって,バブルも戦争も短期に調整・克服できるだろう,と言う伊藤氏と,アメリカと世界がイスラエルとアラブ世界のように長期の戦争状態に落ち込む危険(そしてドルへの不安)がある,と指摘する榊原氏,アメリカの強さをITブームから安全保障やバイオへ果敢に導く政府と産業政策に見る寺島氏.その対比が興味深かったです.

EU拡大については,浜矩子・寺島実郎・堺屋太一氏が話し合いました.大幅な格差を持った地域も統合して,水平分業構造がEU企業の生き残りを可能にする,と堺屋氏は強調します.寺島氏は,非アメリカ型の社会民主的な資本主義を,しかもドイツの強大化を政治的に包み込む形で目指す「思慮深い」試みに,日本はもっと学ぶべきだ,と述べて,アジア統合案を支持しました.ユーロが強くなることはデフレを深刻化する,と否定的な浜氏に対して,寺島氏はロシア危機が起きてもEU内の通貨秩序は安定していたと指摘し,ドル一極体制からの離脱を見ています.また堺屋氏は,ユーロが次第にインフレ抑制だけでなく,デフレ克服にも有効な手段となる可能性を示唆しました.

中国とASEANに関して,田中直毅・矢吹晋・木村福成氏が話し合いました.主要な関心はFTAでしたが,その映像は中国の内側から市場改革の激しい熱気が周辺に波及する様子を実感させます.特に中国で部品を展示し,メーカーと価格交渉する仕組みは,市場のダイナミズムを満喫させます.他方,過剰生産や市場シェアの拡大競争が行きつく先が,パニックや激しい不況でないとは限りません.市場競争はアジアでも,関税を撤廃させ,通貨を統合し,移民を自由化するのでしょうか? 番組は明確な回答を避けました.しかし,アジア経済も輸出によって成長する時期が終わり,安定した国内の成長を相互依存的管理によって目指すはずです.

私たちは,失われた世界を求め,そのかけらを集めては夢想に耽るのが大好きです.過去や,存在しない怪物,実現不可能な夢想を楽しむだけではありません.フィクションであれ,ノン・フィクションであれ,物語の中で人間が素晴らしいと思うのは,合理的に推理すること,社会的に協働すること,さらに,夢によって現実を変えることが示された瞬間です.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg, FEER:Far Eastern Economic Review


FT December 26 2002

Liberals look to recapture White House

By Michael Lind

アメリカのリベラル派は,民主党の中でも衰退してしまった.ゴアが立候補を辞退しても,民主党が選挙で勝利するには程遠い.

アメリカの保守派,特に南部のプロテスタント組織が,The Wall Street Journal やThe Washington Times,Fox Newsのようなメディアによって国中に影響力を強めている.こうした宗教的保守派・強硬派は,労働者やビジネス・エリートなど,その内部の差異をうまく消し去って,共和党への支持を組織している.すなわち,自由市場経済学,社会的保守主義,対外的な軍事強硬路線,の「融合戦略」だ.

他方,リベラル派はバラバラに反対を叫ぶだけで,社会的な統一目標を欠いている.まさに「バベルの塔」という有様である.組合寄りの旧民主党.ビジネスに傾斜したクリントン型新民主党.反戦・孤立主義.好戦的な人道的タカ派.・・・ 保守派に対抗するリベラルの社会運動は存在せず,多くのシングル・イシュー活動があるだけだ.多文化主義.フェミニズム.環境保護派.社会主義強硬派.・・・

1930年代から60年代まで,ニュー・ディール派が一定の国民的アイデンティティー,経済モデル,外交政策を示していた.アメリカは,枢軸諸国や共産主義諸国に対抗する「人種融合(メルティング・ポット)型」社会であり,福祉を重視した資本主義経済を目指した.しかし,その合意は1960年代に,人種的統合とヴェトナム戦争によって解体した.その後,アメリカの中道左派を統一する「国民的な語り手」は存在しない.

影響力のある黒人やメキシコ系住民は,肌の色を無視して協力できると思わないし,アメリカ社会に埋没することを好まない.むしろアメリカをユーゴ型の多民族連邦「国家(民族性)」と見なし,白人エリートからの補償を権利として求める.9・11以後もリベラルの知識人たちは反テロ戦争を批判してきたし,愛国心による専制支配を警告してきた.

リベラル派は経済政策や改革モデルでも,社会福祉とケインズ主義から抜け出せない.旧ケインズ主義,産業政策論,新ケインズ主義(ほとんど保守派と同じ)は,福祉制度を維持する点で一致するだけだ.これでは,国家による再分配政策を批判し,減税で成長そのものを高める,と主張する保守派に太刀打ちできない.


FT December 26 2002

Only a disaster can save Japan and Germany

By John Plender

(コメント) ドイツも日本も,合意形成を重視する社会であるために,既存の利益団体が抜本的な改革を好まず,政府は問題を回避して,改革を実行しない.本当に改革を行うには,もっと大きな危機が起きてからだ,というもっともな主張です.

なぜか? といえば,高齢化やデフレの下での保守的な金融政策とともに,二つの原因を挙げています.一つは政治システムが自民党の長期独裁や,ドイツ,最近の日本のような連立政権であることです.むしろ,競争的な二大政党制の方が,少数者の意見を中心に政府を組織し,多数派を改革に従わせることができた,と,イギリスのサッチャー政権やニュー・ジーランドにおける改革の例を指摘します.

もう一つは資本市場です.株式の持合や,外国人保有株式の少なさが,株式市場の圧力を改革促進に向かうのを阻みました.ファンド・マネージャーたちも,ひとまず,資産の一部を日本の株式で保有し続けるのです.そして本当に大きな危機で資本市場がパニックになり,極端な貧困化が政治組織を作り変えなければ,改革は実行できない,という悲観論が市場に定着するでしょう.それゆえ,市場は改革でなく,しばしば破綻に導くのです.


IHT / WP  Friday, December 27, 2002

Real international life isn't nice

Robert Kagan

(コメント) 正義の戦争,必要な戦争を,Michael Walzerは主張し,国連が認めない場合でも,一方的な軍事力の行使を支持します.それは,現実に国際社会が存在せず,国際法を強制できる権力がどこにも無い,もしくは自国(特に,最強のアメリカ)以外に無いからです.グローバリゼーションに生きるなら,この現実を避けてはいけない,というわけです.あたかも民主的な社会が世界的な規模で成立しているかのような,そして国際的な軍縮体制が有効であるかのような,ウィルソン的な幻想によって,先制攻撃を非難することは間違いである,とWalzerは考えます.

しかし,イラクはアメリカにとってどの程度脅威なのか? Walzerは,イラクとの戦争を,必要でも正義でもない,として,反対します.なぜアメリカ政府は戦争をしようと言い出したのか? 以前はボスニアやハイチに軍事介入したリベラルな国際派がホワイト・ハウスにいた.今度はイラクと戦争したいブッシュ氏がホワイト・ハウスにいるからだ.Walzerでも,政治的党派対立には逆らえないのです.


LAT December 27, 2002

Nuclear Pact Is All Bark and No Bite

By Bennett Ramberg

1968年の核不拡散条約が危機に瀕している.この条約は180カ国以上が承認した国際合意として,IAEAによる国際査察体制を持ちながら,強制力を欠いている.国際社会は,違反者に対して5つの選択肢しかない.1.外交的・経済的な圧力.2.核兵器使用の封じ込め.3.核施設への攻撃・破壊.4.体制転換.5.核の拡散を容認する.

北朝鮮政府は,援助をも含んだ1.の選択肢に応じなかった.この選択肢は時間がかかるために,結局,核開発のための時間稼ぎに終わる危険がある.2.は,核開発を容認する代わりに,周辺国にアメリカ軍が核兵器を配備し,抑止する政策である.しかし冷戦期でも,ベルリン,キューバ,中東の危機は核戦争に繋がりかけた.3.も,北朝鮮が既に核兵器を保有しているという情報で,クリントン政権が断念した.各施設を破壊すれば,広範な放射能汚染が問題である.4.体制転換も,北朝鮮の貧困はソビエト型の崩壊を期待させるが,その成功は不確かだ.

結局,アメリカは中東でもアジアでも,核兵器の開発に口出しせず,彼らが互いに刺激しあってエスカレートするのを放置するしかないのか? この国際合意を放棄してはならない.しかし,当面,その欠陥を補う見込みはない.


NYT December 29, 2002

Isolation, Not Engagement

By VICTOR D. CHA

WP Sunday, December 29, 2002

For Wary White House, A Conflict, Not a Crisis

By Michael Dobbs

WP Sunday, December 29, 2002

Bush's Moonshine Policy

By Mary McGrory

(コメント) Chaは,金正日が,1994年より,国際的なシステムへの依存を深めている点に注意します.1994年には,核開発を止めさせるために合意しなければ,戦争するしか選択肢がありませんでした.しかし,今は北朝鮮がEUと外交関係を樹立し,韓国と経済取引を拡大し,日本とも国交正常化交渉を進めています.食糧供給も国際援助で維持しているのです.もし核開発を放棄しなければ,金正日はこれらすべてを諦めねばなりません.

もう一度,1994年の脅迫で得た利益を拡大したい,と言っても,ワシントンが金正日の言葉を全く信用していない以上,不可能です.韓国の新しい大統領は,援助政策を続けたがっていますが,ブッシュ政権が封じ込めを選択すれば,それに足並みをそろえるしかないでしょう.それができないのであれば,アメリカは彼らを守る必要も無い,というわけです.

Dobbsは,北朝鮮に対するアメリカの外交政策が一本化されていない状況を示しています.ブッシュ政権は,北朝鮮の脅迫をまじめに「外交上の危機」とみなさずに,金正日が自滅するのを待っているように見えます.脅迫して危機を演出するしか能が無い北朝鮮相手に,アメリカが交渉する必要は無い,といった姿勢です.金正日は,アメリカが交渉に乗り出しても,拒否しても,自分たちの言い分をアメリカ政府が認めたように見せたがっているのです.

アメリカ政府は,事態を把握していることに満足しているフリをしますが,結局,中国政府の対応次第だ,と言われます.中国は,北朝鮮が核武装することも,経済混乱が深まることも,望まないからです.とはいえ,ある意味で,ブッシュ氏の突出した好戦的言辞に反応する最後の冷戦地帯として,アメリカ政府が思っている以上に,事態は急速に悪化しているのです.

3万7000人の米兵が核戦争の人質に取られているのに,ブッシュ大統領はイラクに比べて北朝鮮には無関心です.もちろんブッシュ氏なら,「太陽政策」を支持する韓国の新大統領や,ノーベル平和賞のカーター元大統領と,協力するつもりなどまるで無いでしょう.国内では,人種差別を問われたロット上院議員を切り,AIDS撲滅に熱心なフリスト議員を立てて人気を回復しました.同様に,共和党選対委員長のカール・ローブが北朝鮮に行って交渉すれば良い,とMcGroryは言います.北朝鮮の核兵器も,ブッシュ氏にとって国内政治上の争点となれば,一気に解決,もしくは対決する,というわけです.


FT December 27 2002

Global demand is moving east

アメリカの消費者は,その無思慮な浪費癖を大いに非難されてきた.しかし最近では,彼らこそ世界の労働者階級にとって救世主であった.何でもかんでも,おもちゃや道具や品物に対して彼らが持つ底知れない食欲こそ,アジアを1997-98年の金融破綻から救った.彼らが世界の需要を高め,より貧しい生産諸国を豊かにした.

しかし,この利己的な寛大さによるドンちゃん騒ぎにも必ず終わりがある.債務に寄りかかったアメリカの消費者が過去の消費を支えていた.アメリカの経常収支赤字は資本流入で賄われており,それは何と世界の経常黒字の76%に達する.歴史から未来を予想するなら,巨額の資産不均衡は反転し,アメリカ・ドルが減価して,経常赤字を減らすだろう.

アメリカの消費者がいなくなれば,今後20年間,誰が世界の需要を高めるのか? アジアのベビー・ブーム世代が,ここで注目される.多くの調査が,中国やインド,韓国,東南アジアの自信に溢れた,ますます裕福になる若い世代は,世界を繁栄させる消費を担うだろう.人口変化に貯蓄は従う.

アジアの側に,この運命は生じつつある. 61億の世界人口のほぼ58%がこの地域に住む.そして最も消費する世代に近付いている.アジアに注目する株式ブローカーCLSAの調査では,威勢の良い,浪費的な「ベビー・ブーマー」世代が現れて,急速な成長と投資の機会を与えるだろう.たとえば5000ドル以上の所得があるアジア人は,昨年の2億2600万人から,2020年には11億2000万人に増加する,という.また,ある推計では,彼らは追加所得の60%を消費に向ける.

第二に,アジアの伝統的な高貯蓄率が下がり始めて,消費革命が起きつつある.第三に,成長の結果,アジアの中産階級が育ち,社会を安定化する.第四に,アジア人の「買い物の気分転換」に目覚め,寛大な銀行の融資に励まされつつある.

こうした傾向は明白であり,さらに,アジア諸国の政府が中国からの挑戦を受けて,輸出よりも内需の振興に注目しつつある.ただし,そのゲームはまだ始まったばかりで,この地域の成長はこの先もアメリカの消費者に結び付いている.

また,日本の金融危機,朝鮮半島の安全保障,中国政府の政治指導力,など,予期しないショックが訪れるかもしれない.アジアの成長への道は決して一方通行ではないのだ.

アジア経済が消費革命を成功させ,自国市場に基づく成長の夢を実現するためには,大企業のスキャンダルを無くすことはもちろん,消費者を守る法律や規制によって守られていることが必要だ.強固な法体系,正直で開放された政府,健全な金融部門,厳格な消費者保護こそ,サービス経済への成功の条件だ.これら二ついてアジアがなすべきことは多くある.


BL 12/26 22:51

What the Khmer Rouge Can Teach Us About AIDS

By William Pesek Jr.

2003年を迎えても,世界は核兵器やテロの脅威,不況に怯えている.しかし,驚くほど僅かしか,世界で数百万人を殺したAIDSには注意が払われていない.今年もHIV/AIDSが主要な政策課題となるようには見えない.

病気の蔓延は,健康と同様に,重大な経済問題である.今後は,サブ・サハラ地域からアジア地域に,AIDS感染の震源地が移動する.すなわち,AIDSは世界経済と密接に結び付いたアジアを介して市場に重大な意味を持つのだ.

AIDSが経済に与える破壊力を理解するには,カンボジアの悪名高い「キリング・フィールド」を訪れてみることだ.そこでは1975から79年にかけて,独裁者であったポルポトが200万人以上のカンボジア人を殺戮した.それはアウシュヴィッツやダッハウのナチ強制収容所が与える感覚に近い.

プノンペンの僅か20キロ外に,この集団墓地がある.8000対以上の骸骨,それ以上の骨が,性別や年齢で分けて整理されている.農村のユートピアを目指したクメール・ルージュの残虐な遺品である.

毛沢東主義に従って,クメール・ルージュはカンボジアの時間を100年以上も逆転させた.都市の居住者を農村に強制移住させ,労働と再教育を強いた.カンボジアは世界から切り離され,貨幣は廃棄され,郵便も止まった.クメール・ルージュが国民を農民が氏じゃいする農村協同組合に変えたのだ.当然,東南アジア全体が世界市場から忘れられた.平和と安定が回復して4年経った今でも,一人当たり年間所得はたった300ドルである.

AIDSの蔓延は,カンボジアで起きたことを,多くの発展途上国で,数年あるいは数十年も再現させる.それは誇張ではないか? そんな風に思うのは,アフリカに行ったことが無いからだ.サブ・サハラ地域の約3000万人がHIDSに感染している.南アフリカの1400万人が基金に苦しむ主要な原因はAIDSである.農民は病気で畑を耕せず,両親は病気や死亡によって子供を育てることができない.たとえ子供たちが感染していない場合でも.教師たちも病気で,教育の機会は乏しい.兵士も病気で治安が乱れ,社会は衰退する.企業は健康な労働者を見出せず,たとえ病気でない労働者も,親戚の葬式に行って会社に来ない.

世界でもっとく急速にAIDS感染者が増加しているのは,東欧と中央アジアである.その次が東アジアと太平洋地域である.中国,タイ,カンボジア,ミャンマーなど.しかし,重要なのは膨大な人口を抱える中国とインドだ.中国には推定で150万から200万人の感染者がいる.2010年には1000万人に達するだろう.すでにインドが抱える400万人の感染者が,2010年には2000万人に増える.

中国は世界の工場となっており,インドも次第に世界のソフトウェア産業で重要な役割を占めつつある.投資家はAIDSがアフリカに及ぼす影響を無視してきたが,中国やインドでAIDSが広まれば,自分たちの問題と思うだろう.

ジェフリー・サックスが警告したように,爆発的に感染が広がれば,アフリカの悪循環がアジアで動き出す.ダウもその他の工業諸国も,これに巻き込まれる.もっと世界経済や安全保障の問題として,AIDSに取り組むべきだ.


NYT December 27, 2002

Lumps of Coal

By PAUL KRUGMAN

(コメント) バブルは潰れたが,アラン・グリーンスパンの見事な舵取りで,アメリカは不況を脱したのか? しかし,失業や給与の減少は続いています.KRUGMANはアメリカの景気に悲観的です.クリスマス商戦は期待はずれでした.業界は強気でも,多くの悲観する理由があります.1.もう金利は下げられない.2.戦費,石油価格,金価格の不安.3.刺激にならない配当への減税策.4.州政府の赤字と緊縮財政の労働者や学校への影響.

楽観する理由もあるのです.1.イラクに短期間で勝利し,2.石油価格が下がり,3.技術革新が進み,4.企業は設備投資と在庫の積み増しに励み出すかもしれない.・・・いつかは.

だから? どうしても悲観する,というわけです.


ST DEC 28, 2002 SAT

'Voodoo' economics makes comeback

HAROLD JAMES

FT December 29 2002

Lessons from the fall of an empire

By Harold James

(コメント) 主要国が財政赤字を拡大する怪しげな理由を探し始めた結果,この先,国際経済・金融システムは混乱するだろう,とJamesは警告します.1990年代の繁栄を支えた基礎は財政赤字の削減であった,と彼は主張します.クリントン政権もマーストリヒト条約も,財政赤字が繁栄の基礎であると自覚していました.

しかし,ブッシュ政権もEU諸政府も,財政赤字の根拠をさまざまに主張し始めています.Jamesは,かつてレーガン政権が使ったでたらめなサプライ・サイド経済学を,ブッシュ氏が持ち出したことに憤慨します.財政赤字は,日本が示すように成長を加速する保証は無く,9・11以後の軍事費膨張は生産性を高めません.結局,ジョンソン政権も,レーガン政権も,米欧間でインフレ抑制や刺激策の失敗を非難し合った末に,国際金融が混乱し,自由貿易は廃れたのです.

新しい財政赤字と国際通貨不安の時代に,貿易自由化と世界統合という1990年代の最良の成果は破壊される危険がある,と警鐘を鳴らします.

もう一つのFTに載った論説では,Jamesがアメリカの「帝国」類型を議論しています.ギボンズが述べたように,ローマ帝国が膨張した軍事費と不平等な分配により自滅した,というパターンを,アメリカの帝国も歩むでしょうか? 現代のアメリカ社会科学者は,そうならない,と主張します.アメリカは,他の主要国が冷戦終結によって福祉や経済に支出を向けたとき,9・11というショックを受けた結果,突出した帝国になりました.だから,アメリカは民主的であり,平和を求めています.アメリカの帝国化は,他の世界にとっても利益なのです.

この主張はアメリカの性格を誤認している,とJamesは考えます.アメリカはパックス・ブリタニカと違って,安定した世界経済の循環を作り出せないのです.イギリスはGDPの7%に及ぶ経常黒字を出して,海外投資を続けました.しかし,アメリカは2001年に4.2%の赤字です.その他の世界がアメリカの安定性を支えてきました.外国の投資家がアメリカの株式を買い,あるいは土地を買ったのです.この資本移動は不安定で,何か悪いニュースがあれば逆転します.資産価格やドルが暴落してアメリカの消費者はモノを買わなくなり,企業は保護主義に走ります.世界の投資家たちが,もはや平和的な市場統合は不可能だ,と知るのです.

アメリカの安全保障に対する関与も見直され,ライバル国家が勃興するでしょう.それは19世紀のスペインに近い,とJamesは考えます.


FT December 29 2002

Empty promises

By Philip Stephens

(コメント) Stephensは,政治家の言動と現実との乖離に注意します.彼らが何と言おうと,世界的な相互依存の中で,政府にできることは限られています.多国籍企業,自由貿易,ハイテク通信網に始まり,移民,国際犯罪,テロ,環境破壊,伝染病・・・ 冷戦が終わったからと言って,法の支配や民主的秩序が実現するわけでもありません.イギリスは福祉を充実させながら市場経済を改良できるとか,フランスを近代化して覇権を目指すとか,ドイツだけは将来の計画を示す余裕も無いようですが.

たとえブッシュ政権でも,テロとの戦争にアメリカが非常に苦労し,その成果が何ら自慢できないことは明白です.アフガニスタンにおいて中世の宗教国家を倒すためにもアメリカは軍事拠点を周辺の独裁政府に依存し,イラク征伐や北朝鮮への牽制にも,周辺地域の協力を得るのに苦心しています.世界でも,国内でも,パックス・アメリカーナは幻想なのです.

愚昧な民衆に対して誇大なレトリックで政治を動かそうとする性癖を,政治家はやめるべきだ,とStephensは考えます.


LAT December 29, 2002

Stimulate, but Watch the Red Ink

By Rudolph G. Penner

Cut Taxes to Guarantee the Recovery Will Continue

By Bruce Bartlett

The Case for Public Spending

By James K. Galbraith

Deficits Are OK in the Short Run

By Robert M. Solow

(コメント) アメリカ経済の回復は危うい.しかし,合意はそこまでであって,何をすべきかでは意見が対立します.LATは4人の意見を載せました.

Pennerは,共和党が民主党に代わって政権について減税を叫ぶのは,一見分かりにくいが,その理由を見れば,各派閥の違いが分かる,と言います.そして,減税の理由として,1.小さな政府論,2.サプライ・サイドの成長論,3.長期金利上昇による投資阻害論,4.貯蓄不足と外資依存論,を指摘し,それぞれの問題点を指摘します.特に,最後のケースとも関連して,債務が所得よりも急速に増加し始めると,政府の増税・緊縮策が限界に達し,貨幣を増刷し始めます.それはハイパー・インフレーションをもたらします.

こうした危機感が今はないという点で,むしろ減税論議が盛り上がるのです.Pennerは,財政政策で景気刺激策を取ることにも,一時的な雇用創出を狙った減税策にも反対し,戦争のような突然の支出を賄う赤字と,長期的な成長を高める税制改革として,減税策を支持します.それが投資家優遇だ,という批判は当たらない,と.

Bartlettは,ブッシュ氏が2004年の選挙を控えて,今,「二番底」の懸念を払拭しなければならない,と考えたのは正しい判断だ,と言います.ただし,減税方法には注意が必要で,投資への二重課税撤廃や減価償却の加速を通じて,投資を促進するのが適当である,と主張します.そうやって成長を維持することで,本当に重大な赤字である年金・医療保険を維持できるだろう,と.

Galbraithは既に高齢の,大恐慌に固執するニュー・ディーラーだ,と思う人は,この簡潔な論説を読んでみることです.不況が怖くてケインジアンに転向するブッシュ氏も,いまさらレーガン政権の減税策にも依拠できず,投資減税としてビジネス界の富裕層に所得をもたらし,支出を促そうとしています.しかし,彼らが投資を増やす保証はありません.

むしろブッシュ政権の景気対策はアラン・グリーンスパン議長に頼ってきました.低金利は住宅購入やローンを増やし,消費を維持したのです.しかし,それがこの先も続く見込みはありません.短期金利を抑えても,融資を増やすための金利差が拡大します.政府の予想通りなら,イラク戦争による支出も大きくない,一時的なものでしょう.

Galbraithは,均衡予算と投資ブームに依拠したクリントン政権とは違う,民主党の対案を示します.1.州政府や地方行政への財源移転を通じて,学校や社会福祉,環境保護を維持する.2.社会保険の支払を減額して,労働者家族の消費を支える.その代わりに,不動産税の撤廃に反対する.3.民間投資が起こらないなら,エネルギーや輸送システムの問題を改善するために政府が投資し,失業保険や国民的医療保険など,社会の改善に政府が支出する.

民主党は,こうしてブッシュ氏にできない,成長促進・反失業政策を提唱できる,とGalbraithは主張します.その限界は,ブレトン・ウッズ体制もヴォルカーもいない現在,ドルが暴落することです.株価低迷,日本の混乱,ラテン・アメリカのデフォルト,不人気な戦争が並行して進む中で.

Solowは,政策を決めるのは選択である,と言います.短期の必要と長期の制約,民間の関心と政府の関心,富裕層と庶民.ある目的と他の目的の優劣を決めることが求められています.ブッシュ政権はこの点で,減税の利益を長期と短期とで支持する,間違ったレトリックに頼ります.また,国内支出も減税もして,戦争もする.景気を回復させて,富裕層にも富をもたらす,と.

景気の現状から,Solowは短期の財政刺激策を支持します.ブッシュ政権の政策に反対して,地方政府の財政を支援し,富裕層よりも労働者に富を再分配して,消費を促します.それが赤字を意味するとしても,景気回復に遅れが出ている今なら,短期的な必要から選択すべきなのです.赤字は逆進的な先の減税措置を撤廃することで解消できます.


BL 01/01 11:10

China May Allow Yuan to Strengthen; Sinopec, Unicom Would Gain

By Michael Forsythe and Le-min Lim

(コメント) 人民元切上げの圧力は強まる一方です.中国は貿易黒字を累積し,直接投資FDIも流入し続けています.人民元が切上げられても,FDIが失われると心配する者は少ないようです.むしろ,より安価に石油や部品を購入でき,外国企業に対する中国市場の魅力は高まります.ただし中国は,世界の成長率を大きく越える8%以上の成長を目標にしており,輸出増加は重要な条件です.安価な農産物が輸入されることも問題になるでしょう.しかし,政府は人民元の変動幅を拡大し,市場において切上げ圧力を吸収する選択肢を持っています.

中国政府が人民元の交換を自由化し,変動レート制に近付くには,単に外貨準備が増えたと言うだけでは不十分です.日本のように輸出に頼った過剰設備投資と貿易摩擦を経て,資本自由化と通貨の増価による混乱を繰り返すのでしょうか? あるいはドイツが資本流入を吸収する際にインフレを心配したような,中国国内の経済運営の点から,切上げも検討するでしょうか? ドルが他の主要通貨に対して減価し,外貨準備の価値が損なわれると,中国が準備をユーロ建や円建資産に転換し,国際市場の不安定化要因になります.アメリカの経常収支赤字や減税策と合わせて,米中間の相互依存が危機に瀕しても,日本は積極的な役割を担えるでしょうか?


FT January 2 2003

North Korea has a point

By David Kang

(コメント) Kangは,1994年の合意が失敗したことに関しては,北朝鮮だけでなく,クリントン政権とブッシュ政権がともにそれを守らなかった点に問題があった,と指摘します.KEDOで認めた軽水炉型原発の建設は,早くから,大きく遅れたままなのです.

北朝鮮政府は,イラクと違って,国際社会に復帰したい意志を示してきました.米朝間で交渉が行き詰まったのは,北朝鮮がアメリカに攻撃しないという確認を求め,アメリカ政府が北朝鮮に核開発を諦めたという確認を求めて,互いに譲らなかったからです.それでも北朝鮮は市場改革を取り入れつつあり,価格自由化や経済特区を試みました.ブッシュ政権が「悪の枢軸」と名指しし,さらに孤立化政策を採るなら,こうした改革は頓挫します.しかし,もはや封鎖によって核開発が阻止できるわけでは無いのです.

アメリカはむしろ北朝鮮と,相互に先制攻撃しない合意を交渉するべきです.その間,韓国や日本は北朝鮮の市場改革を支援できるでしょう.

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The Economist, December 21st 2002

Christmas special

Marx after communism

(コメント) クリスマス特集の最初が「マルクスの知的遺産」というのには驚きました.1999年,BBCが20世紀で最も重要な人物は誰か? という調査を行い,その1位は,アインシュタイン,ニュートン,ダーウィンを抜いて,カール・マルクスでした.Amazon.comなどで検索すれば,マルクスの方がスミスよりも,5倍から10倍も多くの関連する本を見出せる,と言います.

何がマルクス主義者を区別する基準でしょうか? 1.社会の運動法則.2.経済決定論.3.階級闘争.4.階級と国家の消滅.しかし,それらはロシア革命自体によって否定された,と言います.マルクス自身もヨーロッパの革命の一部としてだけ認めた農業国ロシアの革命が,戦争によって成功し,スターリン主義国家によって生き延びたのです.

マルクスは,他の誰よりも深く,資本主義経済のダイナミズムを認識していました.しかし他方で,彼が事実に関して述べた点は大きな誤りでした.階級対立は激化せずに回避され,格差は是正されました.労働者は絶えず貧しくなるのではなく豊かになり,民主的な政府が労働者にも権力へ参加する道を開きました.これらはマルクスが否定した,私的所有,自由主義的権利,市場,によって実現したのです.

記事は,マルクスの社会理論に低い評価しか与えず,それが極めてユートピア的な幻想を振り撒くことで成功した,と断定します.「共産主義社会では,・・・誰もがいろいろな仕事に就ける.朝に狩りをし,午後には釣りへ行く.そして夕べには家畜を育て,夕食後は批評するだろう.私は猟師や酪農家,評論家にならない.」こうした戯画以上の共産主義社会について,マルクスは何も言わなかった.同様の情熱的言辞が,現代の反グローバリゼーション運動にも引き継がれている,と.

この記事の結論は明確です.マルクス主義は世俗の宗教である.予言,聖書,約束された楽園.マルクスが見出したのは,20世紀を動かす信念であった,と.

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Foreign Policy, Nov.-Dec. 2002

The Dustbin of History

(コメント) Foreign Policy は,ダーウィニズムの論理は思想にも適応される,と述べて,ソヴィエト崩壊後のMarxismや,アジア金融危機を経たAsian Value, さらにLimits to Growth, Dependency Theoryなど,環境変化に適応できなかった思想の「絶滅種入り」を宣言します.しかし,もしこれらの思想が存在しなかったら,その時代はどうなっていたでしょうか? 現実の変化に従順で,自分たちの力を超えたものには恐れと信仰によって反応し,その芸術や文学のテキストを平板なものにした結果,多くの社会的革新も失われていただろう,と私は思います.

社会に関する思想が,歴史のかまどで焼きを入れられ,あるいは灰になり,あるいは融合して再生するのは,正しい精錬,実験,鋳造プロセスです.たとえある思想が灰になっても,それは単にゴミ箱に捨てるのと全く違うプロセスなのです.

Marxism / Joshua Muravchik

Asian Value / Fareed Zakaria

Limits to Growth / Bjorn Lomborg and Olivier Rubin

Dependency Theory / Andres Velsco

Mutual Assured Destruction / Robert Jervis

The Military-Industrial Complex / James Fallows

FPのマルクス主義理解は辛らつです.エンゲルスがオーウェンの実験的共同体に失望し,ユートピアではなく科学で社会を変えねばならない,と確信したにもかかわらず,マルクス主義はイデオロギーの対立を世界に広めた,と批判します.彼らの理論はことごとく歴史によって裏切られた,と.特に,祖国を持たないはずの労働者が第一次世界大戦で愛国主義者に変身し,互いに殺しあったのは致命的でした.何が残るのか? ヘーゲルの曖昧な弁証法? 貧しい者への同情? 革命の情熱? それは,人類を底なしの混乱に投げ込んだ.