IPEの果樹園2002

今週のReview

12/23-28

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大学の講義や委員会が一息つけば,面白い本が読みたくなります.スパイ,歴史,SF,ノン・フィクション,推理,ハードボイルド,経済小説など,いろいろありますが,今度,手にしたのは戦争です.1993年に書かれた,ラリー・ボンドの『ヨーロッパ最終戦争1998年』上下(文春文庫).

戦争はなぜ起きるのか? 不況,失業,貿易摩擦,民族主義,ネオナチ,外国人迫害,食糧・物資不足,軍隊の不満,労働組合のゼネスト,・・・ この小説は戦争の起きそうな条件を満載しています.特に私の関心は,「外国人労働者再配置計画」という戦争の序章に刺激されました.

二つの問題がありました.第一に,国際競争に苦しむ企業のコスト削減,すなわち賃金や雇用のカットに対して,労働者が激しく抗議し,労使紛争が激化していることでした.

「世界全体が恒常的とも思われる経済不況に陥っているいま,ユーロコプター社はもちろん,フランス企業の多くが,なんとしてもコストを削減する必要に迫られていた.そのためにとりうる手段は賃金カットだったが,当然のことながら,フランス国内の労働者の給料を下げるよりも,東ヨーロッパ(におけるフランス企業の生産工場)で働く外国人労働者の賃金をカットする方が,政治的にはるかに好ましかった.」

第二の問題は,失業が増加する中で,各地の移民排斥・人種差別運動が政治を動かし始めたことです.

「過去40年間に,アルジェリアをはじめ,チュニジア,トルコ,ポルトガルなどの貧しい国々からフランスに,何十万人もの出稼ぎ労働者とその家族が群れをなして移住してきた.1950年代と1970年代の深刻な労働力不足に誘われてやってきたこれらの外国人労働者が,今や不必要な存在となっていた.生粋のフランス人ですら何百万人も失業している状況では,こうしたいわゆる“アラブ人”たちは不潔で怠惰で危険で,社会的摩擦と政治的トラブルの元凶と見なされた.世論は犯罪発生率の上昇からエイズのような疾病の発生まですべて彼らのせいにし,これら貧苦にあえぐ外国人たちの居住区では,スキンヘッド族の血なまぐさい暴行事件が日常茶飯事となっていた.」

この二つの問題を一気に解決しようと動いたのは,老衰した大統領ではなく,その経済閣僚や外交官でもなく,警察と軍隊を掌握する官僚でした.彼は,その計画が二つの問題を解決して国家を助け,しかも企業に利益をもたらし,自分の政治的地位を高める,と計算します.

「東ヨーロッパの(工場で雇っている)労働者を,低賃金で使えるフランス国内の外国人労働者と入れ替えれば,ユーロコプター社などの,フランス企業の生産コストの引き下げが可能になる.そうすれば,現在これらの企業の製品を市価水準以下に抑えるために投入されている政府補助金も削減できる.さらに好都合なことには,新たに就労する工場労働者たちは,フランスの労働許可証を持つ登録外国人として,歳入不足にあえぐフランス国庫に直接税金を納めることになる.しかも余分な出稼ぎ外国人たちを,フランス本国から離れた土地の,フェンスに囲まれた構内に隔離し,厳重な監督下におくことができる.」

この計画を実施に移すため,彼は特殊工作員を使ってハンガリーの工場を爆破させます.民族主義者のテロで工場が破壊された.もはやハンガリー人の労働者は雇用できない,という口実を得たわけです.しかし,社会不安や軍事的謀略は,計画されたシナリオを超えて進みます.

もし北朝鮮が核兵器や生物・化学兵器も含めたミサイル攻撃を行えば,その政治体制が破滅することは確実です.だから攻撃して来ない,という議論は間違っているかもしれません.北朝鮮の支配集団が,戦争は政治的駆け引きの手段に過ぎず,地下社会や犯罪組織として生き残ってでも政権奪取を目指すとしたら,どのような破滅的結果も「一時的」と計算するかもしれません.

互いの恐怖心が,核のボタンに手をかけた者に,先制攻撃の根拠を与えます.韓国大統領選挙の結果を受けて,関係国は交渉を再開し,事態を打開してほしいです.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg, FEER:Far Eastern Economic Review


NYT December 8, 2002

If Tax History Is a Guide, the Poor Are in Trouble

By DANIEL ALTMAN

税制改革が,共和党主導の議会とホワイトハウスから提唱されそうだ.経済の活力を高める,といった良い動機が付けられて.しかし,その副次的効果は,共和党のこれまでの行いを見れば,貧しい者に厳しいものであろう.

ほとんどの共和党員が,改革の目的は労働と貯蓄を促すために行われる,と答える.たとえば個人所得に対するフラット・レイト(現在の最低税率と最高税率の間のどこかに決めた一律税率)の導入は,高額所得者と,多分,高度な熟練労働者の勤労意欲を高める.もう一つの考えである,所得税の撤廃と売上げ税への置き換えも,人々の労働を促す.それは同時に,徴税コストを節約できる.

共和党員はまた投資に対する課税,すなわち利潤,配当,キャピタル・ゲインに対する課税を取り除こうとしている.経済学者は,それが投資を阻害する,という.全体で利潤の60%にも達する課税が,貯蓄や投資を妨げている.またキャピタル・ゲインの20%を奪うことが,株価の激しい変動にさらされている投資家の意欲を殺ぐ,と.

可能な限り,最も効率的な経済的世界を目指すなら,こうした発想も悪くない.しかし,これらは負担を裕福な者から貧しい者に転嫁する効果も持つ.累進課税によって富裕層が大幅にコストを負担している,と思うかもしれないが,それは間違いだ.

1985年に行われた最終税負担の包括的研究によれば,課税と給付の全体系によって,アメリカの所得分配は影響を受けていなかった.この研究以後,富裕層への課税は実質的に軽減されてきた.共和党員が理想とする,劣った者を優遇しない課税制度は,1950年代半ばのアイゼンハワー政権がそうであった.

個人所得税は1913年に導入されたが,共和党政権がこの税率を引き上げたことは一回しかなく,引き下げたことは七回ある.民主党は二回引き下げたが,六回引き上げた.現在の税制は完璧とは決して言えないが,目だって不公平でも無い.共和党が不平等の問題についても十分な配慮をできるか,注目したい.


WP Monday, December 9, 2002

This Purge Has Possibilities

By Sebastian Mallaby

金曜日の解任劇で勝ち残ったのは,新聞のトップ記事に名前の出てこない,経済諮問会議議長でコロンビア大学教授のグレン・ハバード氏である.もし噂どおりに,ハバード氏が財務次官になれば,ブッシュ政権の経済戦略における知的な指導者となれるだろう.

それはブッシュ氏にとって良いニュースだ.なぜならハバード氏は印象的な人物であるから.彼は,ペンタゴンにおけるウォルフォヴィッツ氏に相当する.ハバード氏は社会保障を民営化し,税率を下げたいと考えている.それには反対も多い.しかし,彼は聡明であるから,愚かなスローガンでこれを切り抜けようなどと考えない.

ブッシュ政権の経済チームが失敗した主な理由は,そのプレゼンテーションにある.オニール氏は正直ではあるが愚直であり,新興市場をめぐって失敗を繰り返した.リンゼー氏も,聴衆を侮蔑したような印象を与えた.

たとえば,相続税に対する撤廃を提唱する際,政府はそれを「死亡税」と呼んで,個人商店や農場を破滅させ,交通渋滞の責任まで押し付けた.しかし,洗練された反論は,それが一回限りの課税であるから,資産家は法律顧問を雇って,それを容易に免れることができる点であった.それこそハバード氏のチームが指摘していた点であるのに,政府は利用しなかった.その理由は,愚かな国民には教授の議論が理解できないだろう,というわけだ.

大規模減税についても,その理由は次々に変わってきた.明らかに政府は,国民がそれに気付かないと思っている.富裕層に有利だとか,財政赤字に繋がる,という反論は無視された.

新しい経済チームは違うだろう.大統領が,オニールの正直さとリンゼーの政策知識を備えた人物を抜擢すれば.すなわちハバード氏の流儀で.それはブッシュ大統領の信認を高めるだけでなく,政策論争を面白くする.

ハバード氏の好む減税策は,これまでのような支持団体を意識した大型減税と違って,経済の潜在力を高めることに関心を向けるだろう.社会保障制度の改革も,民営化すれば貯蓄率が上昇し,財源不足は一気に解消されるかのような間違った議論は繰り返さないだろう.かつてクリントン政権が言ったように,社会保障を民営化すれば,議会の財源から隔離する効果がある.これによって財政規律を強化できるのである.

消費税や社会保障民営化が正しい,と言うわけではない.しかし,政府の経済チームが刷新されることには期待したい.


FT December 10 2002

America can afford a stronger dollar

By Ashraf Laidi

アメリカ財務省の舵取り役にジョン・スノー氏を起用したことで,「強いドル」政策をめぐる論争が再燃した.強いドルが1990年代半ばの世界不況を解消するのに役立ったように,再び世界経済の成長を回復するために求められる.

アメリカ経済が1990−91年の不況から回復してからの4年間は,当時のロバート・ルービン財務長官が「強いドル」政策を採用していた.それによって,バブル崩壊後,投資家たちが資金を送り返したにもかかわらず,日本は円高を引き起こさずに済んだ.1994年4月以来の3年間で,ドルは60%以上も増価し,日本は1995年に1.4%の成長,96年には3.6%の成長を記録できた.またドイツ・マルクに対して40%の増価は,ヨーロッパの回復を助けた.

強いドルは,1997-98年の危機後に回復をもたらした基本条件であった.輸出指向の回復を遂げた東アジアは最も目覚しかった.GDPに対する輸出の割合は,1995年に66%であったが,2000年には80%に達した.しかし今また,世界需要の減少で,この地域は輸出の減少に直面している.

ブッシュ政権は,アメリカ製造業の競争力を損なっているとして,7年に及んだ「強いドル」政策を放棄した.ドルは既に12%減価しており,ドル安が競争力や貿易赤字を改善できないことを認めるまでに,まだどれほどの減価が必要か,わからない.

輸出に依存したアジアやヨーロッパ,ラテン・アメリカの経済は,通貨価値を切り下げて刺激することができるが,「弱いドル」はアメリカの競争力にとって重要ではない.貿易は2001年のアメリカGDPの12%を占めるが,それはユーロ圏の19%やイギリスの28%に比べて小さい.ヨーロッパはアジアの輸入の大きな割合を占め,それゆえアメリカがくしゃみすればアジアが風邪を引き,ヨーロッパもうなされる.

世界リフレ政策の一環として,アメリカがドル安を進めるべきだ,と言う経済学者もいる.彼らは,ECBが,インフレを心配せずに,「強いユーロと金融緩和策」を選択できるだろう,と言うわけだ.しかし,この議論はユーロ圏が輸出に依存し,その世界市場における生き残りがユーロ安にかかっていることを無視している.アメリカだけが,健全な経済政策,透明な規制,自由な金融市場を持っている.それゆえ資源の自由な配分,労働の移動性,海外からの投資を可能にしており,生産性を高めて長期の競争力を得ている.その結果,膨大な外国資本がアメリカに流入し,アメリカの対外不均衡を制約しているのだ.

アメリカには強い通貨を維持する力がある.それはアメリカを,インフレを抑えたまま,年3〜3.5%の成長に戻すだろう.特に戦争によって石油価格が上昇した場合も,その影響を抑える.1990年代半ばや後半と同じように,強いドルは輸出に頼るヨーロッパや日本の成長を刺激するだろう.そうした助け無しには,両者は不況に苦しむ.


FT December 10 2002

Martin Wolf: Europe risks destruction

By Martin Wolf

(コメント) EUは,バルカン諸国やトルコやウクライナまで統合するのか? EU統合はどこまで進むのか? それはEUそのものの性質を変えてしまうのではないか? Wolfは以下のような数字を挙げて変化を捉えます.

現在のEU15カ国は,同質的な,豊かな諸国からなる.2000年の人口は3億7600万人,GDPは8兆4600億ドル,購買力平価で見た一人当たりGDPは2万3550ドル.最も豊かなベルギーは2万74740ドル,最も貧しいギリシャが1万6860ドルである.

東欧から新しく10カ国が加盟すれば,人口は7400万人増えるが,GDPは3380億ドルしか増えない.今後,統合される予定のバルカン諸国はさらに貧しく,5400万人の人口で,GDPは僅か920億ドルである.最も豊かなクロアチアでも,新規加盟諸国の最も貧しい国の水準と同じであり,最も貧しいアルバニアはその半分しかない.

トルコの人口は6500万人,GDPは2020億ドルである.規模ではオーストリア,水準ではラトビアに近い.トルコも加えたEU33ヶ国は,人口が5億7000万人に達し,アメリカの2倍,GDPは9兆1000億ドル,一人当たり1万8250ドルである.加盟国間の貧富の格差は10倍に拡大する.

それは大変な事件であり,EUは文化や歴史,経済発展の水準でもさまざまな相違を含んだものになります.特に,貧しい,膨大な数のイスラム教徒が参加するのです.拡大されたEUは確実に変質するでしょう.

1.   経済的収斂のエンジンは機能しなくなる.それほど衰退した地域や,規制の難しい問題が増える.

2.   単一市場や,環境・労働条件の統一規制はできないし,貧しい国には有害である.

3.   特にトルコを入れたことで,労働力の自由移動は不可能になる.それほどトルコの人口増加と雇用創出のギャップは激しく,貧富の差も大きい.

4.   単一通貨を採用するには,余りに条件が異なり,緊張が強まる.

5.   EU予算規模を拡大しなければ,地域的な財源の移転は枯渇する.

6.   共通の関心に基づく外交・安全保障政策,また正義と人の移動を支配する行政機関が見出せない.

7.   制度が機能するためには,より厳密な定義や規則が必要である.特に「補完性」や加盟国の自由,もしくは制限について.

それはEUが解体することを意味していません.しかし,トルコはイスラム教国としてEUの民主主義の基準を満たし,さまざまな参加条件「コペンハーゲン・クライテリア」を満たさねばなりません.拡大が確実となった以上,EUはそのための条件を整備するために全力を注ぐでしょう.


IHT Wednesday, December 11, 2002

East Asians need a deal on exchange rates

Philip Bowring

(コメント) 北朝鮮やアルカイダのつながりを負うだけでなく,アメリカの新しい財務長官は東アジアの通貨についても打開策を見出すべきだ,とBowringは言います.

アジア通貨危機以後,東南アジアや東アジア諸国は変動レート制に移行して,ドルだけでなく,ユーロや円の価値をも反映するようになりました.しかし,中国だけはドルに固定しています.そのような条件の下で,アメリカの財務長官が交代するニュースが,アメリカのさらなる減税策と経常赤字に従うドル安政策を連想させました.ドル安を通じて中国は人民元をますます減価させ,日本は堪らず円安を誘導し始めました.アジア諸国が,このドル安と人民元安に苦しみ,円と人民元との対抗にも不安を募らせるのは当然です.

「もしアメリカの貿易収支を維持可能な水準にまで下げるのであれば,一層のドル安が必要になるだろう.それは(アジアの)輸出国すべてを苦しめる.しかし,アジア諸国の為替レートがこのままの関係であれば,日本が最も打撃を受け,韓国と台湾がそれに続き,今,アメリカに相対的にも絶対的にも最も大きな不均衡を出している中国は影響を受けない.東アジアのほとんどすべての国の通貨がドルに対して増価している.対外債務は良好であるし,まだ大きな経常黒字もある.しかし輸出に依存した経済では,世界中のインフレ率が下がっている時期に通貨安の利益を諦める政府などない.東南アジアは中国に対して,競争力を失い,外国投資家を奪われていることを懸念してきた.アジア通貨危機以後にこうした国々が採用した変動レート制はこれまでは有益であったが,中国が通貨をドルに固定する一方で,ユーロや円がドルに対して増価するなら,その考えを変えるだろう.中国には他に問題がある.その貿易黒字は15〜20%もの増価を引き起こしかねない.ところが成長にもかかわらず物価は下落している.切上げは物価をさらに押し下げ,国営企業を苦しくし,それゆえ銀行部門を損なう.」

アメリカは,巨額の減税によって国内景気を刺激するかもしれません.しかし,その際には慎重に,第二プラザ合意をアジア諸国と練り上げる覚悟が必要です.


NYT December 10, 2002

The Next Africa?

By NICHOLAS D. KRISTOF

(コメント) バクダッドは重要だ.しかし,ラテン・アメリカが崩壊し,次のアフリカになってしまうとしたら,そのときになって我々「ヤンキーたち」が麻薬や移民の流入を後悔しても始まらない,とKRISTOFは警告します.アルゼンチンだけでなく,ラテン・アメリカと中央アメリカ全体で,貧困や飢餓,病気に苦しむ人が増えています.1990年代のワシントン・コンセンサスは市場自由化を讃美するばかりで,政治的な腐敗に甘かったのです.社会秩序は失われ,かつて繁栄を誇ったアルゼンチンでは,今や,労働者が一日2ドルでゴミ集めに働かねばなりません.


NYT December 11, 2002

Trying to Buy Our Way Out of Trouble

By LIZABETH COHEN

アメリカが不況を脱するのは,このクリスマス商戦において売上げを伸ばせるかどうかにかかっている,とよく聞く.しかし,歴史を振り返れば,興味深い考察が得られる.

消費が盛んであれば不況は回避できたか? 実際には,消費だけでは足りない.政府は消費を促すため大々的に融資を奨励した.そして同時に,「消費主導経済」の構築に励んだ.ショッピング設備の拡充,バス路線の整備,そして富裕層の郊外脱出にともなって,都心の百貨店は衰退し,郊外のショッピング・モールが繁栄する.それは同時に,アメリカ社会を極端な不平等と消費万能の風潮に染めた.貧しい者を閉め出すため,もはや高級ショッピング・モールに公共輸送手段は通わない.

クリスマス商戦のにぎわいを賞賛する前に,アメリカ消費文明の新しい基礎をより広く国民の中に見出すべきではないか?


FT December 12 2002

A nuclear reaction to North Korea

By Ted Galen Carpenter (the Cato Institute

FT December 13 2002

Collaring Korea

WP Friday, December 13, 2002

North Korea Knocks

NYT December 15, 2002

North Korea Can't Wait

(コメント) 保守派のシンク・タンクに属するCarpenterは,4つの選択肢を示します.@もう一度,各施設の凍結とエネルギーの供給を交渉する.A軍事的に威嚇して諦めさせる.B周辺諸国の包囲網と経済制裁で孤立させる.

しかし,@すでにこうした約束を守らず,再び脅迫によって北朝鮮が利益を得ることは望ましいか? Aすでに核兵器を1個か2個は保有している北朝鮮が,ソウルや東京にキノコ雲をもたらす危険は高まり,韓国・日本の両政府が強く反対する.Bすでにほとんど孤立している北朝鮮が,これ以上の経済制裁を受けても方針を変える見込みはない.

そこで,もう一つの選択肢,C韓国と日本にも核武装させる,を提唱します.なぜなら,北朝鮮はその場合,アメリカ政府に頼って東アジアの核軍縮を勧めるテーブルに就くしか無いからだ,と言います.なるほど,アメリカが交渉の主導権を取り戻せる,というわけです.

FTの論説も,三つの選択肢しかないだろう,と言います.@孤立化.A体制破壊.B国際的な教導メカニズム.@やAの問題点は明らかです.Bは何か? それは「飴とムチ」政策の国際協調型です.北朝鮮が明確なメッセージを受け取ることが重要です.核開発を進めるなら,軍事的攻撃により体制は破滅する.もし核開発を諦め,国際査察を受け入れ,飢餓に苦しむ国民への抑圧を解体して行くなら,国際的な経済援助が得られる,と.それは以前と同じでしょう.しかし,中国とロシアも北朝鮮にこれを説得する点が新しいのです.それはWPの論説に見られます.

NYTも,同様に,周辺諸国の政治的合意を取り付けることが重要である,と指摘します.ブッシュ政権は北朝鮮の脅迫に決して応じないでしょう.しかし,原油の供給を止めた結果は,核施設の再稼動でした.1年以内に数発の核爆弾を得て,日本やアメリカにまで届くミサイルも開発しかねません.ブッシュ氏がイラクと違って,北朝鮮には国際協調型のアプローチを優先しているのは,1.イラク戦終結までの時間稼ぎ.2.周辺諸国の反対.3.中国・ロシアの協調,です.

もし情報が得られれば,ブッシュ政権は核施設やミサイル基地・軍事工場に先制攻撃を行うのではないでしょうか? あるいは役割を分担し,中国やロシアは北朝鮮に地域安全保障を説得し,日本と韓国は経済支援を行い,アメリカは軍事的威嚇に徹するかもしれません.


FT December 13 2002

North Korea's strange autocrat

By John Thornhill and Andrew Ward

(コメント) もし北朝鮮がワシントンの北50キロのところにあれば,ブッシュ政権もまったく違う観方をするだろう,と「太陽政策」を否定された韓国政府幹部が言ったのは,アメリカの世界戦略がどこで躓くかを示唆しています.

北朝鮮に,伝統的な「飴とムチ」の政策は通用しません.北朝鮮は獲物を持ち去るだけで,何も出さないからです.どうすれば悪行をやめさせることができるのか?

冷戦期にロシア人たちとチェス・ゲームに似た核の均衡を戦った経験は,衝動的で奇矯な北朝鮮の官僚制度にあてはまらない.

金正日の唯一明確な目的は,生き残り,である.それ以上は明確な行動が予測できず,周辺国も政策を打ち出せない.これは,金正日が「外交の天才」なのか,それとも「愚劣な独裁者」なのか? という分裂した観方をもたらします.彼は天才で,外部世界をよく観察し,取引の最善の機会を狙って行動する,と.あるいは彼は愚劣で,ブッシュ政権の方針がクリントン政権と違うことも分からず,飲酒,女漁り,クズ映画の中毒である,と.

あるいは,金正日は,ゲーム論が言うところの,合理的な不合理を装っているのかもしれません.かつて1970年代のアメリカ政府代表は,パリでのヴェトナム停戦交渉を有利に進めるため,ニクソンは狂っており,ハノイに核爆弾を落とすかもしれない,と示唆した.

すなわち,北朝鮮の行動は,不合理な状況における合理的な選択かもしれません.ブッシュ政権は,もちろん,こんな宥和(あるいは買収)ゲームに付き合わない,と断言します.唯一の解決策は,独裁国家の崩壊,です.ただし,そのとき韓国(そして日本)も核の炎で消滅する危険が高い,とは,もちろん言わないでしょう.


FT December 12 2002

John Plender: Why the dollar keeps levitating

By John Plender

(コメント) なぜ15年間も経常赤字を垂れ流し,来年は5000億ドル,GDPの4.5%に及びそうなアメリカのドルが暴落しないのでしょうか? 外国からは毎日14億ドルの資本が流入し,債務をドルで利用でき,その額は1987年以来の累積で2兆5000億ドルに達する,というのです.

もちろん,ヨーロッパや日本の成長がはるかに遅れ,ユーロの信認は得られず,新興市場経済では通貨危機への恐怖心が去りません.アメリカはより高い投資収益を示しており,今後ともドルの暴落は無いと多くの投資家が信じている限り,巨額の経常赤字も心配する必要はないのでしょう.1990年代末にNYSEが暴落したときも,短期金利差が不利に働いても,ドルは暴落しませんでした.

それは良いことでしょうか? Tim Congdonは,アメリカへの莫大な資本流入にもかかわらず,内外投資家の収益差から,アメリカはプラスの投資収益を確保している点を指摘します.そしてアメリカの海外投資収益率が,外国投資家へのアメリカ投資よりも優れているのは,通貨危機に怯えるアジアなどの外国政府が,低収益の財務省証券に投資し続けているからだ,というわけです.また,アメリカの多国籍企業が,移転価格によって利益を本国に送還してしまうからでもあるでしょう.

もちろん,アメリカの赤字は構造的なものだ,というのは正しいでしょう.高齢化する日本やヨーロッパが,投資よりも貯蓄を増やすのは仕方ないからです.しかし,この資本流入に支えられたドル高が続く世界が望ましいのか? と言えば,その答えはいろいろでしょう.


LAT December 12, 2002

He's Humble in a Way That Only Godzilla Could Be

By Arianna Huffington

ブッシュ氏が最初,何と言ってホワイト・ハウスに入ったか覚えているだろうか? 「私は控えめな人間だと思う.」 おまけに,政府幹部には初日にこう言った.「謙虚,礼節,そして公正さの手本となるように.」

なんて昔の話なんだ ブッシュ政権は,今や,東京の街を破壊するゴジラの勢いだ.傲慢,うぬぼれ,厚顔無恥.中間選挙に勝って,彼はなんと言ったか? 「私に従うか,それともハイウェイでカナダに逃げるか?」 権力への泥酔だ.

キッシンジャーを9・11真相究明委員会の委員長に指名する.汚染は権利だ,と公言する人物を内務省の長官に任命する.SECの権威を打ち倒してきた人物をSEC長官に指名する.この数ヶ月だけで,ブッシュ政権は公衆の意見を侮蔑し,多くの分野で公益を損なってきた.大気汚染を促し,富者を厚遇して貧者を苦しめ,団体の特殊利益に媚び,公務員への論功行賞を行い,テロとの戦いを唱えつつもサウジ・アラビアの腐敗した王族とは手を結ぶ.


FT December 15 2002

Europe moves forward while looking back

By Dominique Moisi

BL 12/15 00:58

European Union Decides to Slam Door on Turkey

By David DeRosa

The Observer, Sunday December 15, 2002

East is East and West is rich

Will Hutton

(コメント) Moisiは,トルコの加盟問題をめぐる標準的な論点を整理しています.一方では,遂にヨーロッパが人工的な障壁を振り払った.トルコもヨーロッパの価値を学びつつある,と.

しかし,ヨーロッパが機能するには,その制度と,それに属する市民たちの精神が,この現実に一致しなければなりません.

他方,EU統合の「独仏連携」という古いエンジンが甦ったことは,驚きであり,疑わしいものです.EUの政治は,まだ内部における「バランス・オブ・パワー(勢力均衡)」で動いており,それゆえフランスは「弱いドイツ」に満足しています.たとえEUにとっては憂慮すべきであっても.

DeRosaは,シュミット元西ドイツ首相が最近書いた論説に注目します.シュミット氏はトルコを完全な加盟国として承認することに反対です.なぜなら,それはアフリカや中東のイスラム諸国にEU加盟の機会を与える,と.もしそうなれば,EUは「単なる自由貿易圏」になってしまう.

それは政治学の古典的問題です.すなわち,「政治同盟の最適な境界線をどこに引くべきか?」

Huttonは,EUが単なる関税同盟ではない道を進むべきだ,と主張します.東欧諸国やトルコの加盟問題において,EU加盟諸国が既得権やルールを譲らず,新加盟国やトルコに対して自分たちの利益を大しつけ,彼らを二流の市民としてしか扱わなかった政治指導者たちを,彼は非難します.

他方,EUが社会的な価値を共有する点で加盟に一定の条件や審査の時間を与えたことは正しかった,と認めます.なぜなら,それこそ加盟を望む諸国の市民たちが求めている価値だからです.そして,たとえ不公平な条件で加盟しても,彼らが内部から条件を是正できること,また,投資や貿易の機会を通じて成長が加速し,経済社会水準が収斂することに期待します.

たとえ成長がうまく加速しても,新しいEUが内部に大幅な貧富の格差を抱えて,政治的な統一を実現しなければならない,という難問が残ります.そこでHuttonは,EUが「社会契約」を結ぶように求めます.EUが求める社会・経済条件を実現し,政治的な目標としてヨーロッパの価値を宣言します.そして,これを認められない国はEUを去るべきだ,と言います.

EUは,公共施設,公共政策,公共財に関する共通の目標を定め,民主主義と市場,人権に対する政治的な保証を与えます.それがヨーロッパの求める「文明」なのだから,と.


Institute for International Economics, November 6, 2002

Did the Washington Consensus Fail?

by John Williamson, Senior Fellow

(コメント) 「ワシントン・コンセンサス」の概念を提案したウィリアムソンが,このイデオロギーによって不毛な論争が続かないように求め,公平で有益な論争へ移ることを促しています.

彼の提示した「ワシントン・コンセンサス」とは,1.財政規律(通貨危機とインフレを防ぐ),2.公共支出の転換(貧困解消へ),3.税制改革(タックス・ベースを拡大し,限界税率は抑える),4.金利自由化(性急な金融自由化ではなく),5.競争力のある為替レート(ワシントンで支持された変動レート制と通貨統合との二者択一ではなく中間の選択肢),6.貿易自由化(ただしスピードはいろいろ),7.直接投資の受け入れ(資本勘定の完全自由化ではなく),8.民営化(ただし適切な手続きで),9.規制緩和(環境や労働の規制はあっても,市場への参加と撤退を自由化する),10.所有権(インフォーマル部門が適当な価格で所有を認められること),であった.

彼にとってそれは,世界のアパルトヘイト状態を解消する方針だったわけです.インフレ・工業化・輸入に対して介入し,利益を得るようなやり方を止めさせるのが目的でした.

その意味では,スティグリッツが新自由主義として「ワシントン・コンセンサス」を批判する多くの点に,ウィリアムソンは同意します.資本勘定の完全自由化,マネタリズム,サプライ・サイド経済学,最小国家(福祉や再分配の放棄)に対して,彼も反対だからです.

「ワシントン・コンセンサス」が,それを正しく採用した政府によっても,経済的には失望するような成果しか挙げられなかった点について,ウィリアムソンは解答します.まず,アルゼンチンの失敗は,彼らがカレンシー・ボードに頼り,財政赤字を放置した点で,彼らの責任です.他方,他の例については,その失望を次のように考察します.@金融自由化と危機について,十分な警戒を怠った.A自由化「第一世代」と「第二世代」との要求は異なっており,前進が無かったわけではない.Bもっと社会的な目標を取り込むべきであった.

豊かな諸国の政府が偽善的な主張を繰り返したことへの貧しい国の不満は当然です.しかし結論としては,世界が再びアパルトヘイト状態に戻るべきでない以上,「ワシントン・コンセンサス」のイデオロギーに関わり無く,次の議論に進むべきだ,と言うのです.

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The Economist, December  2002

The pleasure of dealing with North Korea

金正日の脅迫ゲームに付き合わず,周辺諸国に共同臨戦態勢を採らせて,武装解除を要求するのが正しい方針である.しかし,それは崩されるかもしれない.なぜなら北朝鮮が崩壊すれば,中国は難民や経済混乱の影響を被るなど,各国のコストが大きく異なるから.

北朝鮮の振る舞いから学ぶべきことは,もし核やミサイルを安易に輸出すれば,それは独裁者の脅迫となって自分たちに戻ってくる,ということだ.金正日がパキスタンや中国の助けで今にいたったことを思えば,テロとの戦争において皆が何をすべきか,は明らかだ.


Unleashing the trade winds

(コメント) アメリカのロバート・ゼーリック通商代表が「競争的な自由化」に関するアメリカの立場を表明しています.まずWTOを通じてアメリカが求めていることは,@農産物貿易自由化(補助金削減),A製造業品の関税撤廃,Bサービス貿易,C発展途上国の問題,D知的所有権に関する世界的ルールの確立,です.

さらにEUとの交渉や,NAFTA,各国とのFTAも支持します.重商主義的な日本と違って,EUは世界の自由貿易を実現するパートナーである,と持ち上げます.また,NAFTAやFTAA,各国とのFTAは,貿易政策と市場改革,開発促進,国際投資と安全保障,そして自由な社会の実現が結び付いた,アメリカの国際的目標なのです.たとえばNAFTAがあったから,メキシコは1994年の金融危機から急速に立ち直り,その自由化と民主化に基づく改革を持続できた,と主張します.

アメリカは,その市場規模と魅力を利用して,世界の貿易自由化に貢献したい,と.


South Africa: A roller-coaster ride

南アフリカ共和国の通貨,ランドの価値は,大きく変動してきた.昨年はドルに対して価値の3分の1を失い,裕福な階層は海外の休日を諦め,貧困層は食糧や運賃が値上げ利して窮迫した.ムベキ大統領は「ランド暴落原因究明委員会」を設置し,そこでは周辺地域の不安定化や経済改革の遅れが指摘された.投機的な売りを非難する者や,世界の金融システムに人種差別がある,という意見もあった.

しかし,今年になってランドの価値は回復しつつある.回復した理由は,中央銀行が資本逃避を抑えるために,1月から4度も金利を引き上げたこと,輸出や観光が好調で外貨を獲得できたことがあるようだ.ジンバブエの混乱は波及しておらず,イラク戦の危惧から金価格は上昇している.結局,多くの人が昨年のランド暴落を行き過ぎであったと思ったわけだ.

ランド高はインフレ抑制にもなるが,良いニュースばかりではない.ランド安で伸びてきた自動車やワイン,繊維製品の売上げは減るだろう.輸出と観光が2.6%という成長を可能にしてくれていたのだ.輸出は衰え,高金利がさらに追い討ちとなる.外国の投資家はランド高を喜ぶが,むしろ価値の安定こそ望ましい.結局,価値の乱高下するジェットコースターの上では,収益が予測できない.

ランドの下落が当面は放置され,もしインフレ率が低ければ3月には利下げが検討されるだろう.その頃,政府は固定式電話会社の独占を一部売却する計画を示している.外資が流入すればランド高になるからだ.暴落でも騰貴でもなく,南アフリカ国民は通貨が関心事でなくなることを望むだろう.