IPEの果樹園2002
今週のReview
12/16-21
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北朝鮮の原子炉再開,ミサイル輸出,アメリカ政府の戦争準備,毒入りカレー事件判決,国債増発と増税,民主党内紛,株価下落,中高年の自殺・・・ 師走になっても,暗い話題ばかりが続きます.もっと明るい話題は無いものか? と思います.いっそ新聞を二種類発行して,暗い過去の話題だけ載せる新聞と,明るい未来の話題だけ載せる新聞を発行してほしいです.
明るい話題となれば,真っ先に,投資と雇用が社会的に意味のある形で結び付きそうな話を聞きたいです.若い有能な人材が,研究開発や芸術的才能の社会的還元を競い合って,快活な,未来志向の,「こんな職場」に溢れているとか,外国からの安い農産物や電機製品を輸入した結果,サービス業で雇用をどれくらい急速に増やせそうだとか,そんなニュースを読みたいです.
老人介護や福祉においても,空気の良い,素晴らしい景観の自然公園に,老人の宿泊施設を整備し,看護婦や従業員を外国からの出稼ぎ労働者に頼ってはどうでしょうか? 静かな田舎の温泉町ほど,日本では美しく,貴重なのに,見捨てられています.世界には多くの孤児や,経済援助でかろうじて飢餓を免れるだけの,十分な職場もない国があります.彼らに就業可能なビザを発行すれば,NGOと協力して自活する可能性を見出せるでしょう.
町から工場が消え,老人たちが生きるためにしがみついていた老朽化した住宅街も整理されるでしょう.都市部の交通渋滞は解消され,私たちは日本中どこでも快適にドライブできるようになります.日本の三つか四つの地域ブロック内では,どこでも高速道路を使わず,日帰りできるようにしてください.高齢者が,どの温泉や海岸の保養地で過ごしても良いようにしてほしいです.
金融システムやデフレ対策だけでなく,国民保険や年金の制度を立て直すことが,次の選挙戦の柱です.介護によって家族にかかる負担は,結局,職場や社会を疲弊させます.老人の衣食住と医療を,一体として,安心できる地域モデルにして欲しいです.70歳以上の老人すべてに,誰でも,保養村の住民として暮らせる権利を与えてほしいです.
他方,若者たちには,競争心と実力主義,革新の意欲を持たせ,日本中の大学キャンパスや職業訓練施設を完全開放し,生涯で10年間の高等教育機会を保証してはどうでしょうか? 彼らは,日本中の教育機関を利用でき,学費は本人に貸与し,成績に応じて奨学金も与えます.そこでは,企業と連携した知識の習得にも参加できます.この期間をどのように活かして職業につなげるべきか,彼ら自身が真剣に摸索できるよう,繰り返し,動機付けやオリエンテーションを丁寧に行い,多くのことを体験する機会にしてください.
保養村? これでは姥捨て山だ,と言われるでしょう.私たちは様々な機会を持ち,様々な生き方を選べる方が楽しいのです.老人たちも都会の喧騒に懐かしさを覚えるはずです.あるいは若者も,自分たちが奉仕や社会的貢献,異なる世代との対話から多くを学べることに気付くでしょう.地域社会は若者の協力を募り,老人福祉や自然公園の改善に努めます.また,その過程で,国際交流の機会を組織することも重要です.
子供を育てた経験のない大人たちが増えて,次第に社会を自分のためだけに作り変えてしまえば,インフレ推進の享楽的な短命政権が入れ替わり,巨大なゲーム・センターに似た,就職差別がはびこる,浅薄な社会になるかもしれません.本当に「楽しく遊ぶ子供たち」や「くつろいだ老人」がいない社会は,どれほど快適な条件を用意しても,実際は身勝手な派閥争いと,孤立した不満の渦ばかり深まる,野蛮で非生産的な社会ではないでしょうか?
政治家たちがリフレ政策で暗闘を繰り返すより,政府が社会投資ファンドの基準を作って,未来のために投資する指針が示してほしいです.そして海外では,地雷除去や難民救済,AIDS孤児の養育に,このファンドを使ってください.新しい時代や社会のモデルは,都市や企業の姿として現れ,淘汰の末に,人々の心も変えるでしょう.
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg, FEER:Far Eastern Economic Review
NYT December 3, 2002
Hey, Lucky Duckies!
By PAUL KRUGMAN
(コメント) KRUGMANは,ブッシュ政権の政策が,富裕層に役立つ完璧な保守派でしかなく,「思いやりのある保守主義」や「子供を置き去りにしない」などという選挙スローガンは大嘘であった,と断言します.The Wall Street Journalは社説で,年収わずか1万2000ドルの労働者家庭が(幸運にも!)いかに所得税を免れて「小鴨ども」を養っているか,と非難しました.しかし,その計算は所得税しか考慮しておらず,実際にはその労働者が所得の20%を間接税などで支払っている,と反駁します.労働者たちは,いずれこの瞞着を見極めて憤慨するだろう.しかし,それに早く気付くためには,どの程度,穏健な政治家たちが明確に論戦を挑み,保守派の検閲を免れるか,による,と.
FT December 4 2002
Lex: Yen
BL 12/03 23:36
Alice in Wonderland Explains Japan's Economy
By William Pesek Jr.
(コメント) FTは,日本政府や官僚たちが,国内問題を解決できない結果として,しきりに円安を誘導している,と見ます.他方,それはアジアの輸出指向諸国の政府にとって暴挙と映ります.日本への輸出が減り,不況がもたらされるからです.アジア諸国は日本の景気回復を望んでいますが,3月の新しい日銀総裁が,政府とリフレ政策を始めれば,もっと過激な円安が始まるかもしれない,と警告します.
Pesekは,日本の主流派経済学がとんでもない嘘っぱちである,と宣言します.塩川財務大臣は,「日本の円は高すぎる.1ドル=150円か160円が適当だ」と言いながら,同時に,「日本の株価は低すぎる」と年中こぼしています.なるほど,日本経済は大変苦しいが,しかし株価はもっと上がるはずだ,と言うのだね? 一体,どちらが正しいのか?
Pesekにとって,こういう日本の経済原理は,不思議の国のアリス,であり,ダリやエッシャーの超現実主義絵画を見るようなものです.しかも,日本政府や政治家たちは,何かといえば外国のせいにします.株価が下がれば「ダウが下がっているから」,物価が下がれば「中国からの輸入品が安く,人民元が低すぎるから」と言います.あるいは,自民党の相沢デフレ対策本部長は,「日本の銀行システムはユニークだ」として,まともな改革を受け入れません.
小泉首相も,とうとう「国債発行上限枠を破る」と宣言しました.しかし財務省は,「実際には破らない」と言います.まるで,アルゼンチンが,「これはデフォルトではない」と言い続けたように.日本はアリスよりも現実から遠い世界に住んでいる,とPesekは嘆きます.
IHT Wednesday, December 4, 2002
Right, left and center are out of fashion
Robert A. Levine
アメリカの民主党も,ドイツのキリスト教民主党も,フランスの社会党も,イギリスの保守党も,先の選挙における敗北から立ち直るには,西側世界で右派も左派も,中道さえも,重要な意味を持たない,ということを理解した方が良い.この数十年間,有権者はより有能な指導者に投票してきた.あるいは近年では,無能な程度が少ない者へ.イデオロギーはどうでも良い.景気後退とテロの脅威に直面すれば,有能であることが重要なのだ.
ブッシュは,引き分けに終わった選挙の後,無能さに苦しんだが,9・11でテロとの戦争に指導力を発揮した.2002年の民主党の失敗は,テロに対しても,景気後退に対しても,有効な対案を出せなかったことによる.そしてブッシュは共和党を議会でも(僅かだが)多数派にできた.
シュレーダーもシュトイバーも,有権者の心を掴めなかった.唯一有能とみなされたのは,フィッシャー外務大臣だけであった.そして彼の「緑の党」が政権に復帰した.フランスでは,シラクとジョスパンが半分の得票さえ示せなかった.ブレアは,困窮する保守党に対して,余裕で勝利した.イギリスの繁栄を維持したブレア政府の活躍は,反対派の破滅にも助けられて,再選をもたらした.
現時点の経済的苦境は1970年代と80年代前半に似ており,当時は右派が支配したけれど,初めからそうだったわけではない.特に70年代の石油価格高騰とインフレは,4つの国(米・英・独・仏)で政権を交代させ,三つは左派へ移ったが,その後,右派に変わった.フランスは右派から左派に代わった.それを決めたのはイデオロギーではなく,政府が問題を解決できるかどうかであった.
新しい指導者たち,アメリカのレーガン,イギリスのサッチャー,フランスのミッテラン,ドイツのコールは,国を指導する能力の点で自信に溢れていた.現在は,それが見られない.ブッシュだけは9・11により例外と言えるが,21世紀の新しい指導者たちはかつてのような尊敬を得ていない.
今後数年に渡って,政治の進路は内外の出来事にかかっている.アメリカは特に,イラクとの戦争がどうなるか,2004年に経済が上昇するか,にかかっている.それでもブッシュの再選を阻止するとしたら,それはテロの再発だけかもしれない.しかし,事態が悪化しても,民主党が対抗できるとは思えない.フランスやドイツ,イギリスについても,ふさわしい指導者は見当たらない.
世界の問題はますます手に負えないものになり,政府や指導者と関係なくなる.20世紀の歴史が示すように,21世紀が容易な時代とは思えない.いずれにせよ,右派も左派も関係なく,この西側の混迷の中で,有能であることが新しいイデオロギーなのだ.そう願いたい.
WP Wednesday, December 4, 2002
Deflation Out of China?
By Robert J. Samuelson
中国を訪れた者は誰でも,その工場とオフィス・ビル,剥き出しの野心にめまいを覚えるだろう.この20年,経済は年9%で成長した.GDPは1兆ドルを越えた.1990年から2000年までに,電話の普及率も1000人当り6台から178台になった.大学卒業生たちは,誰も「政府に勤めたい」と言わない.「どうして?」と尋ねれば,「給料が安いし,退屈で,将来も期待できない.」と言う.
中国が政治的・経済的にどうなっていくのか,それこそ21世紀の大問題である.すでに,中国の経済的拡大が他国を犠牲にするのではないか,という不安が高まっている.つまり,低賃金と過小評価された通貨により,中国は他国から投資や雇用を奪ってしまう.中国に立地する多国籍企業の軍団が,世界にデフレを輸出する,と.
中国に進出して低価格で市場シェアを拡大する会社があれば,他社もこれに追随するしかない.世界の貿易は低迷しているのに,中国からの安価な財は輸出の21%を占め,今年は2%増加するだろう.直接投資も中国に対しては20%増加している.その輸出品は,衣服からおもちゃ,安価な電機製品に広がっている.
デルが低コストを理由に中国製のラップトップ・コンピューターを求めている.台湾企業は世界のラップトップ部品の60%を供給しているが,その生産を急速に中国に移転している.中国の工場労働者の給与は1ヶ月で平均100ドル,その熟練度は向上している.中国は世界の工場を吸引し続ける.
もちろん,疑念が湧いている.日本,韓国,メキシコから,そうした声が届いている.製造業は高賃金の先進諸国で生き残れない.だが,そんな悪夢は実現しないだろう.その理由は簡単だ.外国に売る国は,外国から買える.中国はまだ,外国で作られたより高度な製品(発電所,工作機械,航空機)を必要としている.
中国を単純な図式に当てはめるのは間違いだ.中国の素晴らしい成長も,日本や台湾など,他のアジア諸国が発展過程で経験してきたことに一致する.電機製品の輸出は,その部品の多くを他のアジア諸国から輸入して,組み立てている.成長にもかかわらず,中国の規模は世界GDPの3.5%,アメリカの20%余りに過ぎない.
とはいえ,中国は日本やメキシコと異なる.その13億という人口規模だけが特別なのではない.自由貿易は素晴らしい理論で,常に正しい.しかし今のように,世界が不況になれば,その魅力は薄れる.価格や利潤が減少する.低コストの生産者は生き残り,他は淘汰される.企業だけでなく,国もそうである.中国が投資や雇用を奪ってしまう,という恐怖がまったくでたらめと言うわけではないのだ.
デフレとは物価が全般的に下落することだ.アメリカのインフレ率は1ないし2%を保っている.アメリカの経済学者の多くはデフレにならないと言う.しかし,もしデフレになれば,それは持続する傾向がある.物価の下落により利潤が減り,労働者は解雇され,投資が削られ,計画は失敗する.人々も企業の支出を控え,需給ギャップが拡大してデフレが強められる.価格が下がるのは通常なら良いことであるが,程度を越えれば破滅を意味する.
アジアからの輸入品はこの5年間で価格が20%も下がった.もしアジア諸国が外国から稼いだ金を外国に対して支出するなら,これは良いことである.しかし,不幸にして,彼らは日本の編み出した「恒久的貿易黒字」という間違った考え方をまねている.もし彼らが黒字を貯め続ければ,もっぱらドルからなる外貨準備が膨張する.日本4530億ドル(昨年12月より580億ドル増),中国2570億ドル(420億ドル増),韓国1170億ドル(140億ドル増),である.
貿易システムは多くの国が黒字を出し過ぎれば破綻する.それは支出の循環を破壊するからだ.自由貿易は相互の交換で成り立っている.中国は,その通貨・人民元を切上げることで,黒字を減らせる.しかし,それは問題が多い,として中国は切上げない.切上げれば,非効率な国営企業が破綻する.すでに都市の失業は11ないし13%という「空前の規模」に達している.地方では2億人が低雇用にある,という.WTO加盟が輸入を増やすと考えて,中国はますます多くの直接投資と輸出向け成長を目指している.
問題は中国だけにあるのではない.アジアは集団的に輸出中毒である.その政策は自己破壊的で,デフレを悪化させる.個別には魅力的に見えても,集団で行えば破滅する.すべての国が輸出を増やすことはできない.なぜなら外国市場,主にアメリカが,それを吸収し切れないから.結局,勝者と敗者に分かれる.かつては勝者であった日本も,今や敗者である.日本の貿易黒字は経済の衰退,輸入不足を意味する.アジア諸国は輸出よりももっと国内支出により繁栄するべきである.それが自分たちのためであり,世界のためにもなる.
BBC Wednesday, 4 December, 2002
Argentines march against hunger
ブエノス・アイレスでは貧者の行進が組織された.最近まで,ラテン・アメリカで最も豊かであった国,今も世界第5位の農産物輸出国であるアルゼンチンで,3600万人の人口の約半分が貧困となり,ますます多くが飢餓に直面している.豊作にもかかわらず,農民たちは,大幅に下落したペソより,ドルを得られる輸出に向けて出荷する.その結果,基本的な財の価格が64.7%も上昇した.失業率は22%に達し,彼らは食糧を買えない.
FEER December 12, 2002
In Guns We Trust
By David Lague/HONG KONG and Susan V. Lawrence/BEIJING
(コメント) プーチン大統領と江沢民主席との会談は,秘密裏に行われた原子力潜水艦などの武器取引によって,両者にとって非常に有益であったようです.プーチンは軍隊や産業の利益を拡大し,中国との協調関係を強化します.江沢民は人民軍を近代化し,台湾を平和的に統一することを邪魔されない態勢を整えます.この取引によって,台湾はその地位が弱まるでしょう.アメリカからの武器を購入し続ける経済力も衰えています.企業の流出と国内不況が続くことは,香港の軌跡を思わせます.
中国は中台交渉の行き詰まりに不満です.武力統一も並行して進める,という姿勢を明確にします.しかし台湾から見れば,このような軍備競争を廃し,経済取引を自由に行うことの方が,両者の繁栄と平和的な統一,それに必要な民主化と大幅な自主権獲得を可能にするのです.
LAT December 5, 2002
Technology Raises Risk of Tyranny
By Robert A. Heverly, Robert A. Heverly is a fellow with the Information Society Project of Yale Law School.
(コメント) 政府が市民の情報を集めて管理することに対しては,日本でも住民票のコンピューター処理をめぐって騒がれました.アメリカが数段上の管理システムを,テロ撲滅のスローガンで作り始めたのは「当然」です.
このシステムは,独裁者が国民を監視する理想的なシステムと同じでしょう.天然痘のワクチンを国民全員に用意する.ミサイル防衛システムを築く.先制攻撃も行う.私たちの安全を確保してくれる? 誰からの安全か? フセインからの安全.金正日からの安全.ブッシュからの安全も? Windowsが支配するときも,e-mailが検閲されるときも,クレジット・カードがたった2社に集中するときも,私たちの安全は考慮されたのでしょうか?
消費税や住民票を拒むことに関心を集中させるより,政府高官,警察や検察,秘密警察に対して,彼らがしていることを憲法に照らしてチェックする,国民の代表機関が必要だと思いました.この機関に対してはすべての情報が開示され,彼らが定期報告とともに,臨時の調査を行うと良いでしょう.情報の管理やコンピューター・システムに逆らうより,深刻な問題があれば責任者を必ず交代させて,その際に第三者が問題点を指摘し,完全な説明を求める方が,安全も自由も守れるのではないでしょうか.参議院選挙の活性化のためにも.
ST DEC 6, 2002 FRI
Unwise for S'pore to give up capital controls
By Janadas Devan
(コメント) アメリカのドルが暴落すれば,政府は資本規制を導入するだろう.FTAに,シンガポール政府がアメリカに資本規制の導入を禁止してしまう約束を含めるのは間違いだ,とDevanは主張します.
なぜなら,アメリカは世界の貯蓄を大量に吸収し,ドル建で公的機関の外貨準備を利用して,一日当り20億ドルの経常赤字を埋めている国です.もし外国の投資家がアメリカから資金を引き上げ始めたら,資本規制は当然の選択肢です.他方,流入する限り,アメリカにとって世界の資本規制をできるだけ排除することが当然の政策です.シンガポール政府は,そんなアメリカと約束すべきではない,と.
FT December 6 2002
An amusing chat show falls victim to reality
By Gerard Baker
(コメント) ある記事は,閣僚の解任は,大統領への忠誠心を損なうかもしれない,と指摘しています.オニール氏が辞任を求められて憤慨し,政府の予定していた時期よりも早く,辞任発表したようです.
何が解任劇の理由か? もちろん,内外の経済問題に対して,有効な政策を打ち出せていない,とブッシュ氏が判断したのでしょう.ドル高政策を転換し,IMFを非難したオニール氏は,金融界と仲が悪かったかもしれません.ブラジルとの融資交渉でも,ぞんざいな物言いで危機を煽り,IMFが10億ドルは融資額を積み増す結果になった,とBakerは述べています.また,大統領とは追加の減税策をめぐって対立したようです.財界出身のオニール氏は,財政政策を多用することを嫌ったのでしょう.
減税を支持したにもかかわらず,リンゼー氏が辞任したのは, 彼が経済政策の取りまとめに失敗し,元来の自由放任主義で,エンロン破綻後の収拾策に出遅れた,ということが指摘されています.先日のピットSEC委員長の辞任も含めて,ブッシュ政権の経済閣僚は大幅に交代させられたわけです.
Bakerは,後任人事がどうなっても,結局,大統領選挙までは2年しかなく,その意味でブッシュ氏の選挙本部長であるカール・ローヴが実質的な財務長官だ,と述べています.それと同時に,安全保障関係閣僚の力が政権内部でさらに強まるでしょう.この解任をブッシュ氏が決めた,とは思えないくらいです.
BL 12/06 14:13
Two for the Road: O'Neill and Lindsey Resign: Caroline Baum
By Caroline Baum
(コメント) Baumは,オニールの失脚を,市場に嫌われたから,と考えます.ルービンのように,市場の好むことを,たとえば「強いドルはアメリカの国益だ」という経文を,オニールは上手に操れなかったわけです.むしろ,彼は「真実を述べる」方が良いと考え,「正統と思われているやり方を打ち壊す」ことを好みました.減税政策でも,大統領と衝突したのです.しかし,彼が,ドル安を好む産業界の声にも配慮して,「アメリカには特定のドル政策などない」と言う真実を述べた結果,ドルは不安定になりました.市場はオニールを信用しなくなったのです.
他方,減税策を支持していたリンゼーの辞任を見れば,結局,この解任劇は政策が重要ではなかった,と思われます.Baumは,政治が,攻撃的な減税策が重要であり,市場にアピールできる人物を探すことが,ブッシュの再選プログラムである,と考えます.
NYT December 7, 2002
A New Agenda for a New Economic Team
By STEPHEN S. ROACH
オニール財務長官とリンゼー大統領経済顧問の辞任は,ブッシュ政権に内外の経済政策に対する考え方を再考させる.経済状態も金融市場も,ブッシュ氏が大統領に就任したときから大きく変わった.緩やかな景気後退と株価の見直し,スキャンダルへの失望やテロ攻撃があった.世界経済も悪化している.
最も大きな危険は世界的なデフレである.世界経済の30%を占めるアジア諸国は既にデフレに入った.ヨーロッパでもその危険は高い.主要国の中央銀行はデフレの危険性を警戒して,FRBもECBも金利を下げた.日銀は金融緩和の限界に達し,政府首脳は円安誘導や財政刺激策に傾いている.
インフレ率が低く,名目金利も低いから,こうした政策の効き目は分からない. 自動車や家具,住宅建設や企業の投資が,この数年で過剰に行われてしまった.ブッシュ政権は新しい政策を求めている.国内への関心だけでなく,今や,外に眼を向けて,世界市場の拡大に向かうべきだ.
この20年間保たれてきた「強いドル」政策の見直しは,新しい財務長官の最優先事項である.強いドルは輸入財を安くし,国内業者は生産コストを抑えて海外製品にも対抗できる.インフレの時期にはこれも利益であったが,今のようにデフレのリスクが強まれば,この政策は好ましくない.アメリカ製品の価格が下落すれば,ドルが増価し,アメリカにデフレ圧力をもたらす.
次の財務長官は,アメリカの経常収支にも注意しなければならない.アメリカの国際収支赤字は,2002年にGDPの5%という記録的水準に達し,来年は6%に及ぶ.即座に解決する方法はない.アメリカは国内貯蓄率を回復し,同時に世界景気が回復しなければならない.自由貿易を促進することも重要だ.新しい経済チームは,国内志向であってはならない.
2003年初めに財政政策も示されるだろう.決定的なのは,デフレを防ぐ短期の刺激策と,国内貯蓄回復に必要な長期の財政健全化をバランスさせる問題である.
アメリカの経済システムは優れている.しかし,どのようなシステムも無謬ではない.経済チームには,それを正すチャンスが訪れた.
NYT December 7, 2002
Wanted: Spokesman Who Can Sell Tax Cuts
By FLOYD NORRIS
NYT December 7, 2002
Paying a Political Price for a Shaky Economy
By RICHARD W. STEVENSON
WP Saturday, December 7, 2002
The Economic Shuffle
BL 12/08 00:11
Bush Bets 2004 Race on His Next Economics Team
By David DeRosa
NYT December 8, 2002
Two Casualties as Bush Seeks Economic Fix
By TODD S. PURDUM
(コメント) NORRISもSTEVENSONも,二人の入れ替えは政策のためではなく,ブッシュ氏の再選戦略にふさわしい「顔」を探すためだ,と言います.オニールは財政政策に消極的であり,金融界に冷たい.リンゼー氏はイラク戦のコストを大げさに示して,ブッシュ氏の不評を買った,というわけです.しかし中間選挙で勝った以上,ブッシュ氏は経済を回復できないとしたら,次の選挙ですべての責任を問われるわけです.
WPの社説は,新しい経済閣僚たちが,政府に留まるためには.1.エンロン危機のように,新しい事態を理解し,正しく対処できなければ成らない.2.エネルギー政策のように,民間の個別利益に政策を影響されてはならない.3.社会保障制度のように,当面の利益がないとしても,長期的に解決すべき国民の問題に取り組まねばならない,と主張しています.
DeRosaは,父の宿命を免れることに執着するブッシュ大統領こそ,解任劇のすべての理由だ,と見ます.ブッシュ元大統領はクウェートを解放し,高い支持を得ながら,その後の経済失政が理由となって選挙に敗退しました.オニール長官の辞任は,まさに労働省が不吉な失業率のデータを発表したのと同時でした.もう一つの教訓は? ブッシュ氏は父から学んで,決してフセインを最後に取り逃がしたりしない,ということのようです.つまり,これも戦争準備の一環,というわけです.
PURDUMは,この二人がワシントンという政治世界の水になじまなかった,と指摘しています.単刀直入に物を言う,産業界の指導者と,連邦準備銀行の理事を務め,ハーヴァード大学の教授であった人物が,同時に政権から降ろされました.彼らに共通するのは,議会や市場,マスコミに対する良好な関係を維持する点で,満足な結果を出せなかったことです.同じ政策や思想でも,それがもたらす効果は,良好な関係や信頼感を築いた後でなら,非常に高まるのです.同じような混乱は,クリントン政権の所期の外交政策でもあった,と指摘しています.
アラン・ブラインダーの言葉,「学会では,政治的だ,と言われれば,信用を失う.しかし,政治の世界では逆だ.お前は単なる技術屋だ,と言われれば,信用を失ってしまう.」を末尾に引用しています.
NYT December 9, 2002
Bush Nominates Railroad Chief to Head Department of Treasury
By RICHARD W. STEVENSON
(コメント) オニール財務長官の後任はジョン・スノーCSX会長,リンゼー大統領経済顧問の後任は元ゴールドマン・サックス頭取のステファン・フリードマンになりそうです.
スノー氏はオニール氏とよく似た経歴の持ち主であり,CSXは鉄道会社であるとともに,エネルギー分野でも活動しています.彼はフォード政権に参加し,チェーニー副大統領とともに働きました.他方,フリードマン氏は,クリントン政権のルービン元財務長官とゴールドマン・サックスで同僚でしたし,プラグマティックな人物で,政策をまとめる上で合意形成に長けている,と言われています.
彼らの政策はともかく,スノー氏の昨年の年俸が220万ドル(約2億7500万円),ボーナスが1100万ドル(約13億7500万円),というのに驚きます.
The Guardian, Monday December 9, 2002
Temples for tomorrow
Gary Younge
(コメント) Youngeは,黒人のジャーナリストがもっと増えて,自分が黒人であるから発言しなければならない,という状態が終わることを願っています.「私が黒人であることを非難する者もいる」,と.しかし,自分が「人種」に関してコラムを書くのは,黒人だからではない.本能からでも,黒人の仲間を気遣うからでも無い.問題それ自体が重要だから,自分の意見を書きたいだけだ,と.しかし差別により,黒人は学校でも職場でも才能を活かせません.
将来は,黒人からも多くの批評家や政治家を輩出して,異なった意見を示せるような時代が来る,という夢を描きます.
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The Economist, November 30th 2002
New York City: Gotham in peril ? again
State budgets: Too much trouble
1960年代のように,ニュー・ヨーク市は再び破産の危機に瀕している.バブルの時期に支出が増え,テロによって歳入が減った.裕福な階層は街を脱出し,株取引に課税するか,税率の安い近隣地区から通うサラリーマンに課税することが検討されている.ビン・ラディンよりも,世界経済や株価低迷による打撃が深刻だ.
保守派のブルームバーグ市長は,テロを機に労働組合と和解し,市の再建に協力する労働者を称えて賃金を引き上げ,政治的な支持を得た.しかし,財政赤字が悪化し,不動産税の引き上げによって人気を失いつつある.市の改革は延期されたに過ぎない.
連邦政府よりも急激に,州財政は大きな赤字に転落した.バブル崩壊が,メディケイドの支出増大と重なったからだ.新しく選出された知事たちの仕事は,この問題に悩むことである.ヴァーモント州を除くすべての州は,憲法で均衡予算を求められており,その手段は支出削減と増税,公務員の解雇だ.
連邦政府による救済を求める声が強まるだろう.しかし,それは財政改革を妨げる.サービス経済に不適合な,財に依拠した税制が放置されるだけだ.
AIDS: Forty million orphans
中世ヨーロッパを襲った黒死病(腺ペスト)のように,AIDSはアフリカの社会を作り変えてしまう.南部アフリカでは成人の3分の1以上が感染しており,ボツワナの15歳以上の少年がAIDSで死ぬ確率は80%である.
最も心配されるのは,孤児の増加である.アフリカには既に3400万人の孤児が居る.両親が亡くなれば,孤児たちは学校にも行けず,乞食や売春で生きるしかない.病気になって,若くして死ぬことを知っている.1980年代のラテン・アメリカで見られたように,孤児たちは絶望し,犯罪に走る.彼らは暴力の犠牲者であり,自分たちも暴力に染まるようになる.家族が病気で苦しみながら死ぬのを見た子供たちは,心を病む.それは社会の集団的な心理的疾患となる.彼らは武器を支給され,犯罪者たちに組織される.軍隊が家族の代わりになる.シエラ・レオネ,リベリア,ウガンダ,コンゴなど,各地の内戦で,5歳の子供たちが大量殺戮の実行者となった.
大家族制では,娘が死ねば,その母親が子供を育てる.しかし,彼らもまた死んでいく.大人が居ない国を,「まったく愛されたこともない,怒れる子供たちの世代」が支配する.子供が子供を世話するしかない.彼らには助けが必要だ.しかし,アフリカの諸政府には何も無い.託児施設も孤児院も無い.
何ができるか? 早急に安価なワクチンを普及させて,大人の生存率を高めることである.しかし,外国からの援助で薬と食糧を得ることでしか,それもできない.
Charlemagne: Euroland frays at the edge
(コメント) 通貨統合の痛みは,その甘みを忘れさせるほど強いかもしれません.EUに加盟することは利益かどうか,ポーランドやトルコで議論が紛糾しているようですが,既に加盟した国でも政治的な見直しが起きれば,ヨーロッパの不確実さは際立つでしょう.
ユーロ圏の財政赤字上限に従うため,ポルトガル政府は支出を削減しなければならず,公務員のストが続いています.消費者心理は悪化し,不況の中で増税しなければならないとしたら,政治家はユーロの悪口を言い始めます.
ユーロによって,ビジネスは活況を経験しました.しかし,今度はその負の側面が示されています.中国共産党の言う「三つの非弾力性」です.金利は国内経済状態に合わず,為替レートも固定されてしまう.安定化協定で財政支出も厳しく規制される.それらは1990年代にポルトガルの成長を支えた要因でした.20%を越えていた金利は,今や4%以下です.誰もが融資によってテレビ,自動車,住宅を購入しました.政府もこの借り入れブームに便乗しました.社会福祉を整備し,公務員給与を引き上げました.
外国からの借入れが増えるに連れて,国際収支の赤字も拡大しました.もしエスクードであれば,その為替レートが暴落し,ポルトガルは資本逃避と金利急騰に見舞われたでしょう.ユーロが金融市場の激変を抑えたのです.
その代価は,不況になっても金利を下げられず,通貨を安くできず,財政支出を増やせないことです.大幅な罰金を免れるために,政府は支出を削らねばなりません.
ポルトガルが次のギリシャになる,とEU官僚は恐れます.ギリシャも金利低下を消費ブームで使い果たし,長期的な富の増加につなげなかったからです.問題は,過度に楽観的な予算でした.周辺の小国がユーロを採用した場合のショックを,経済学者は予期していました.
ところが,ドイツやフランスのような大国でも,低成長や財政赤字の問題が起きています.異なる経済に対して共通の金利を採用したことが,やはり無理だったのでしょうか? 労働市場などの,痛みを伴う改革を先送りしてきたことが悔やまれます.大国も小国も,ユーロ圏のルールを学ぶべきだ,ということです.
Economics focus: The Zimbabwean model
ジンバブエでムガベ大統領が行っていることは,反グローバリゼーションの一部の運動家たちに人気がある.土地がないなら裕福な白人から奪え! パンの値段が高いなら価格を統制しろ! 外国の財が高いなら為替レートは切上げだ! それで外貨がなくなったら為替取引は政府が独占せよ! 財政赤字だから銀行は国債を購入せよ! 食料が店から消えたのは投機的な商人の隠匿だ!
ジンバブエから学ぶべきは,南アフリカ政府が通貨ランドのレートについて投機を非難したり,EUが農家に価格補助を行ったり,Oxfamがコーヒーの「公正価格」を要請したり,そんなことで問題を解決してはいけない,ということだ.エチオピアのコーヒー農家に言うべきことは,他の作物を植えなさい,だ.新自由主義や世界市場から逃げても仕方ない.効率的な生産が,より多くの富をもたらす.ジンバブエをまねるなら,5年間で生産は35%減少し,国民の半分が食糧援助で生きることになる.