IPEの果樹園2002

今週のReview

12/9-14

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「風てんの寅さん」や「釣りバカ日誌」のように,ちょっと変わった?普通の人として,普通に暮らし,仲間たちと楽しく働けたら,その方が幸せだ,という素朴な思いは,どこかで私たちの心をつかみ,支持を得てきたはずです.しかし,昇進と保身に悩むサラリーマンや官僚と異なる,そんな充実した生活への夢は,未来というより,もう昔のように感じます.

土曜日の朝,Wake Up を途中から観ると,小泉首相の「政策丸投げ」や「政治姿勢」「モラル」が批判されていました.猪瀬直樹vs.道路族の対立する主張が批判され,諮問委員会を利用した中曽根首相の手法と比較したり,小泉人気に頼る自民党議員たちが抱く選挙戦や総裁選へのソロバン勘定も解説したりしました.とはいえ,論争を許容し,情報開示を改革への圧力に利用する小泉流も,一定の賛同を得ています.

政権の将来をめぐっては,統一地方選挙前に解散する方が地方議員への圧力を最大限利用できることや,北朝鮮との交渉失敗,対イラク戦争勃発により,日本の国会解散時期が影響を受けることが指摘され,石原東京都知事が自民党を分裂させ,北川三重県知事が民主党を解体させる可能性も考察されました.株式市場と金融システムの3月危機説を念頭に,結局,経済再生に向けた本当の議論を進める力のある人物を中心に,新しい政治党派をまとめるしかない,日銀総裁も交代まであとわずかだ,という意見に,妙に納得しました.

NHKの衛星放送で「ドキュメント・ロシア」を観ました.ソ連邦崩壊後のロシアで,政治権力を握ったエリチンやプーチンがどれほど悪党であったか,ということに感銘を受けました.彼らは容赦なく政敵を叩き潰し,議会の建物に戦車で砲撃させ,批判するメディアを弾圧し,新興企業や独占企業には貢がせ,必要なくなれば犯罪者として追放・逮捕しました.彼らは秘密警察や剥き出しの政治圧力,チェチェン紛争も用いて,国内政治を制圧し,その結果,ようやく政府は内外の打算的行動を守備一貫して追及し始めます.そして経済・財政改革や西側との交渉,9・11の恐怖を元に国際協調さえ推進したのです.

6日の朝日新聞では,イ・フェジャン候補とノ・ムヒョン候補との韓国大統領選挙が若者を取り込む一方で,インターネットやe-mailを使った誹謗・中傷合戦になっている,と伝えています.衛星放送が伝えた韓国のニュースでは,中央選挙管理委員会が,このままでは正しい政策論争が行われず,新しい大統領への国民の支持も失われる,と警告していました.

先日,私の元ゼミ生が,市会議員になった,というメールをくれました.彼のHPを観ると,得票数は740票ほどで,3万余の有権者に対して,議席数は22です.投票率は高く,80%を越えていますが,それでも714票で当選,700票では落選です.その市の財政規模は,平成13年の予算額で173億円余り,となっていました.議員一人当り8億円弱です.もし次点で落選した候補が経済学者なら?一人当たり2000万円(=8億円÷40人)で票を買い取ろうとするでしょう.

予算が僅かしかない,小さな非営利組織の委員会でも,ときには怒鳴りあったり睨みつけたりする有り様です.大きな規模の民主主義がどうやって機能するのか,私たちは真実を知りません.政治では,権力の正当性の定義も,「貨幣」のような共通基準も存在しません.市民たちは,その政治資本を,あるときはマスコミの話題や雑誌の醜聞記事で,あるときは信仰組織の結束やボランティアの善意で,そして通常は,私的な打算とその場の雰囲気や思い込みで,とんでもない政治家の立派な外見や知名度を信用し,投票する恐れがあります.

他方,通貨危機や人種暴動でもそうですが,人々が誹謗・中傷合戦を回避し,社会的な結束を実現するには,「貨幣」という基準だけで十分ではない,と思います.たぶん,もっと平坦で単純な社会,もっと小規模で信頼できる,正直な政治集団への欲求にこそ,既存の党派が見失い,決して汲み上げようとしない理想があるでしょう.

優れた政治家の「言葉」がそのような雰囲気をどこまで作り出し,インターネットが技術的な可能性をどのように開いてくれるのか.それが,私たちも「風てんの寅さん」や「釣りバカ」になって楽しめる,未来への鍵ではないでしょうか?

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg, FEER:Far Eastern Economic Review


ST NOV 27, 2002 WED

Inequality as American as apple pie

J. BRADFORD DeLONG

アメリカの下院選挙区でもっとも裕福な地区はニュー・ヨーク市のアッパー・イースト・エンドで,「シルク・ストッキング」地区と呼ばれる.一人当たり平均の年間所得額は4万1151ドルである.他方,最も貧しいのはロサンゼルスのメキシコ系移民が集中する地区で,平均所得は6997ドルだ.

1973年,アメリカの最も貧しい5分の1の家庭は,年に1万3240ドルを得たが,それは2000年でも1万3320ドルであった.これに対して,アメリカの最も豊かな5%に入る家族は,1973年に返金で14万9150ドルを得ていたが,2000年には25万4840ドルに増えた.

アメリカの外からこうした不平等を観れば,アメリカ人がなぜこれほど不満を示さないのか,不思議である.言うまでもなく,より歪んだ分配の社会は,より平等な社会よりも不幸である.成長を損なわないなら,不平等が増す中で,政府は豊かな者に課税し,貧しい者に所得を移転すべきである.

しかし,所得税を大幅に引き上げよう,という主張は,主流の政治家たちの間で聞かれない.左派ですら,その最も大胆な主張とは,裕福な者に政府コストの「公平な負担」を求める,と言うに過ぎない.クリントン氏の主任顧問であったErskine Bowles氏は,ノース・カロライナの上院議員選挙に立候補した.彼は再分配のための増税など主張せず,限界税率を引き下げるよりも,(貧しい者のために)処方箋医薬品に対する連邦政府の保険金支払を優先するべきだ,と主張したに過ぎない.その結果は? Bowlesが落選した.

事実上,主流派の政治家で不動産税の撤廃に反対する者はいない.それは,供給側に何の利益ももたらさず,ますます富の集中をもたらすだろう.それは歳入を何十億ドルも失わせて,億万長者を喜ばせるに過ぎない.しかし,彼らこそ選挙資金集めで会ったばかりの人々なのだ.

驚くべき不平等の増大が,成長を加速したわけでは無い.なぜアメリカ人は不平等の拡大にもっと警鐘を鳴らさないのか?

一つの理由は,それを知らないことだ.アメリカ人の19%は自分が上位1%に入っていると思い,さらに20%は,自分もいつか上位1%に入れると思っている.

アメリカのイデオロギーや文化の核心に,こうした信念や態度が見られる.未来は現在よりも豊かである.達成したものは自前で得たものである.個人は,国家に頼らず,自立しなければならない.人々は良い生活を求めて海や山を越えてきた.その成功は,幸運や汚職によるのではなく,覚悟と勤勉によってもたらされる,と.

こうした信念は社会民主主義と矛盾する.

1933年から2世代を経て,アメリカは西欧型の社会民主主義に多くの点で近づいたように見えた.大恐慌と,それに対するフランクリン・D・ルーズベルトのニュー・ディールは,驚くべき「非アメリカ的な」再分配政策であった.

しかし,ルーズベルトが当選したとき10歳の者が,今や80歳である.大恐慌の記憶は薄れてしまった.今起きつつあるのは,もっと古い,もっと永続的な,「黄金時代の」アメリカ・イデオロギーや文化,政治経済の再興である.

不平等は,アップル・パイと同じくらい,アメリカ的なものらしい.


FT November 27 2002

Trading barriers

ST NOV 28, 2002 THU

US plan to remove tariffs: Less than meets the eye?

By Leon Hadar

FT December 4 2002

A competitive approach to free trade

By Fred Bergsten

(コメント) アメリカ政府が2015年までに工業製品への関税を全廃する方針を明らかにしたのは,なんとも奇妙な感覚を引き起こします.鉄鋼輸入に関税を課し,自国の農民には補助金を与え,工業製品輸入に反ダンピングで圧力をかけて,各国と二国間でFTAを交渉してきたのは,国際協調を破棄してでも一方的なイラク攻撃を準備しているアメリカではなかったか? なぜ今さら,全面的な自由化やWTOを担ぐのか?

FTは,その理由が何であれ,アメリカの方針を歓迎しています.特に,発展途上諸国の関税や優遇取決めを除去する必要を訴え,ドーハで始まったラウンドが具体的な期限を得たことを歓迎します.そしてそれが,EUの農業政策を改善する決断に大きくかかっている,と指摘します.

STに掲載されたHadarの記事は,私の違和感とFTの歓迎との隔たりを説明してくれます.一方では,「われわれの提案は,労働者家族のために,アメリカのあらゆる街角で免税店を開くようなものだ」とゼーリック通商代表が啖呵を切りました.また,アメリカの輸出財から6700億ドルの関税を取り除く,とも.

他方,the Cato Institute のBrink Lindsey氏は,三つの疑念を示しました.1.2005年の貿易交渉妥結は無理であろう.2.どのように期限を決めても,関税全廃は反対派によって潰される.国内では繊維・衣服産業,世界では「幼稚産業保護論」をもてあそぶ発展途上諸国.3.関税撤廃にともなう「貿易救済法」には,反ダンピング提訴や報復関税,セーフガードが含まれる.関税が無くても,輸入を閉め出せるだろう.とはいえ,ブッシュ政権がWTOの進める多角的自由化交渉に政治的な支持を与えたのは,重要な前進であるに違いない,と.

あるいは,この二つの見方には矛盾が無い,というBergstenの意見もあります.なぜなら,このようにして「競争的自由化」が始まるからである.ゼーリックが強調するように,「二国間であれ,地域内であれ,多国間であれ」自由化が進めば,それに参加していない国は,取り残されることを恐れて,競争的に自由化を摸索する,というわけです.もはや一国でも地域でも,鎖国体制は勝利を意味しないのです.

優遇的な二国間取決めが固定化されて,自由化を妨げる障害にはならないのか? という問題に,Bergstenは,歴史的にはどちらのケースもあったが,主要貿易国が採る政策でそれは決まる,と考えます.そして,アメリカは自由化を目指す,と.なぜなら,1.アメリカにとっては農産物の貿易自由化が重要であり,それは世界的に行うしかない.2.WTOの紛争処理,3.WTOの強化,によって,それが実現できる.つまり,アメリカの利益である,と考えます.


NYT December 1, 2002

The Hypocrisy of Farm Subsidies

メキシコのとうもろこし農家がロバに鋤を引かせて後ろを歩くのは,たった一つの目的のためである.何とか生き延びることだ.しかし,ますます売れ残りのとうもろこしが増える.そのわけは,カンサスやネブラスカの農民がメキシコでもっと安くとうもろこしを売り始めたからだ.それは彼らの生産性が高いからではない.アメリカ農家の優位は,その莫大な補助金にある.そのおかげで,生産コストの20%も安い価格でとうもろこしを売れるのだ.言い換えれば,われわれは農家が海外で貧しい農家を苦しめるために,たっぷり補助金を支払っているわけだ.さらに,第三世界の農民がアメリカで農産物を売るのは関税が邪魔をする.同じことを,ヨーロッパも日本もしている.世界の農業システムは裕福な者に有利である.

古い諺がある.男に魚をやれば,それで一日食える.魚の獲り方を教えれば,それで一生食える,と.「農業補助金」とか,「貿易政策」とか言うが,よく見ることだ.これらが低開発地域の開発を妨げているのだ.ブッシュ政権は海外援助を50%増額すると言うが,世界の貧困を無くすには,農家への補助金を減らす方が良い.世界で最も貧しい者は,一日当り2ドル以下で暮らすが,西側のわれわれは彼らにわずかな魚を与えるだけで,彼らが自分で魚をとろうとしても邪魔するのだ.

健全な,輸出向け農業部門は,貧しい諸国にも豊富に存在する安価な土地と労働力によって,経済発展の階段を登る最初のステップである.しかし,アフリカ,南アジア,ラテン・アメリカで,この貧困からの脱出路は,アメリカ,ヨーロッパ,日本の豊かな諸国が自国の農民たちに支払う補助金で,妨げられている.農業補助金は,開発援助額を,はるかに上回る.こうした生産奨励が砂糖や綿花のような作物の過剰供給に繋がる.そして,それが世界価格を引き下げ,熱帯の生産者を困窮させる.補助金は,野菜や切花,食用穀物のように,世界市場価格を歪めている.

西側の指導者たちは正当にも自由貿易の価値を低開発世界に説き,工業製品への関税を取り除き,投資への障壁も無くすように熱心に求める.しかし,低開発諸国がより安いコストで優位にある分野では,自由貿易を実践しようとしない.アメリカ政府は今年になって1800億ドルの農業補助金を10年間で支払うことを決め,10月にはフランスとドイツが共通農業政策を拡大することに合意した.

ロバート・ゼーリック通商代表は,アメリカとヨーロッパが補助金を強調して引き下げるように呼びかけた.軍備削減と同じである.EUのフランツ・フィッシャー農業担当委員は,農業補助金を環境保護に転換するよう提案した.しかし,いずれにせよ,こうした提案も政治指導者が支持しなければ意味は無い.

このままの政策が続けば,発展途上諸国で社会不安と環境破壊が進む.それは第三世界の雇用や所得を増やさずに,豊かな諸国の農業やその他の職種で,非合法移民の利用を増やすだろう.極度の貧困を無くすために,第三世界の開発を助け,グローバリゼーションの利益をもっと公平に分かち合うべきである.その最初の分野は,農業補助金の劇的な削減だ.今すぐに始めねばならない.


BL 11/26 21:05

Japan Must Rescue Bond Market

By William Pesek Jr.

(コメント) Pesekは,日本の国債市場がいつ暴落するかもわからない,危険なバブル状態だ,と主張します.政府は株価の引き上げに必死になる.と言うのも,銀行のバランス・シートが株価にかかっているから.しかし,それ以上に国債の価格が暴落すれば,日本の金融システムは崩壊するだろう,と言います.

日本の国債は,バブルを嫌って外国の投資家が逃げてしまい,今では国内の機関投資家や企業,郵便貯金,そして個人が保有しています.日本経済の状態を考えれば,高金利は起こせるはずもなく,政府や企業は超低金利で資金調達を続けています.その重要性から,日銀は国債価格が安定するように介入し続けています.

もし小泉首相が経済を改革しはじめれば,株価も国債も暴落する危険が高まります.いままで株式を担保に融資し,あるいは国債で運用してきた銀行は,日本の国債残高をGDPの40%以上,先進国中で最高にしています.国債の保有がほとんど居住者に限られるため,日銀は銀行の株式を買い取ったり,政府の財政負担を軽減してやったりしています.こうして家計の貯蓄は失われていくわけです.

このまま国債市場が維持されることはないだろう,とPesekは考えます.国債市場の需要と供給がますます悪化していくからです.日本では,国債市場が株式より危険だ,と.


LAT November 27, 2002

Wheels of Commerce Are Rolling Over the Homeless

By Alice Callaghan (牧師)

社会奉仕活動によって,今もホームレスたちにスープが配られる.他方,裕福な資産家の慈善活動により,ロサンゼルスが甦った,と政治家たちは宣言した.しかし,それは金融街で貧しい者を見かけなくなっただけだ.

文明化された都市では,市民のすべてに対して,食べる物と,寝る場所という,基本的な人間の必要を満たすよう,保証されるべきではないか?


WP Wednesday, November 27, 2002

Figuring the Costs of War

By Robert J. Samuelson

2003年2月7日,アメリカ軍がイラクの飛行場を制圧した直後,突然,化学兵器も搭載したスカッド・ミサイルが飛行場を爆撃する.数百人のアメリカ兵が死亡.アメリカの戦闘計画は大幅に狂う.イラク軍は,アメリカ軍を攻撃する標的として,飛行場を制圧させたのだ.

この架空の物語が示すように,戦争で何が起きるかは,誰にも分からない.しかし,戦争が経済に大きく影響するのは確かだ.それは市場心理を砕く.企業は投資を控え,低金利や保証が与えられても,不確実性の与える影響は取り除けない.公聴会で質問されたアラン・グリーンスパン連銀議長は,アメリカの経済規模が朝鮮戦争やヴェトナム戦争のときよりも大幅に拡大していることに注意した.

なるほど,インフレを調整して,1950年のGDPは1兆7000億ドルであったが,2001年には9兆2000億ドルになっている.戦争が数ヶ月続いた場合,予算曲はその費用を60億から130億ドルと見積もっているが,経済規模に比べて耐えられるだろう.しかし,経済コストとは曖昧なものだ.石油価格や,景気,市場心理など,誰にも分からない.そこで,シナリオによってコストを推測する.

CSISのAnthony Cordesmanによれば,三つのシナリオがある.「優雅な勝利シナリオ」では,短期にフセインの軍隊は降伏する.不確実性は取り除かれ,「戦争回避シナリオ」よりも経済にとっては良いだろう.世界供給の2ないし2.5%を占めるイラクの石油は,サウジアラビアの油田か,アメリカの戦略備蓄で,補給される.

「中間的なシナリオ」では,戦闘が3ヶ月続く.イラクは集権諸国の油田もわずかに破壊し,石油価格は現在の1バレル当り25ドルから,2003年初めに42ドルまで上昇する.「最悪シナリオ」では,石油価格が80ドルに達し,激しい市街戦によってアメリカでも反戦運動が高まる.中東地域に社会不安が広がる.

もう一つの陰鬱な予測は,イェール大学のWilliam Nordhausによるものだ.彼は,最悪の場合,イラクの占領と再建で,今後10年で1兆6000億ドルのコストがかかる,と予測する.それは半分が財政負担であり,他の半分は石油価格の高騰と低成長による.アメリカ人は戦争による経済的損失を過小評価しがちである,と彼は言う.(ただし,それでもアメリカ経済の100兆ドルという規模に比べて,2%に過ぎない.)

戦争後の生活は,戦争前の生活と異なる.戦争は政治・経済・心理的基礎を根本的に変えてしまう.速やかな勝利は中東を穏健なアラブ人の地域に変えるだろう.長期の,混乱した戦闘状態は,この地域を不安定化し,アメリカの支配を誇張し,テロリズムが示唆され,緊張と対立が世界中に広がる.パックス・アメリカーナは後退し,権力の空白が広がる.

では,戦争しなければどうなのか? それが平和と繁栄であれば,戦争など無意味だ.しかし,もし戦争が将来のより困難な戦争を取り除くのであれば,戦争することにも意味がある.つまり,もしフセインが核兵器を手に入れ,サウジアラビアやクウェートを支配し,テルアビブに爆撃して,イスラエルが報復するなら...

経済コストに明確な答えはない.そのことを認めるしかない.


FT November 27 2002

How rightwing populism entered the mainstream

By John Lloyd

NYT November 30, 2002

How Immigrants Are Transforming the Politics of Europe

By DAVID C. UNGER

(コメント) 移民問題が,現代ヨーロッパの新しい人種差別政治の焦点になっています.人々は不況に苦しみ,EUの拡大で貧しい移民労働者が増えることを嫌っています.ユーロは約束された繁栄をもたらさず,政治家たちも経済政策で希望を約束することができなくなって,失業に耐えることばかり主張します.反ユーロ・反移民のポピュリズムは庶民の不満を吸収し,ネオ・ナチやその他の極右集団は,ホロコーストのでっち上げ説,東方の非民主的伝統,キリスト教文化の優越,などをあからさまに主張します.

France: National Front

Italy: Northern League

Austria: Freedom Party

Netherlands: Pim Fortuyn List

Norway: Progress Party

Belgium: Vlaams Blok

Denmark: People's Party

一体,EU官僚やエリート達,ユーロを破滅させた後,どうやって高福祉の閉鎖経済を繁栄させると言うのでしょうか? もちろん,彼らは具体的な計画など示していません.移民を追い出し,福祉に貨幣をばら撒き,外国製品を締め出し,輸出するために通貨を切下げ,報復し,経済活動を統制し,警察や軍隊を拡張し,・・・ そして戦争する.

UNGERは,対話しなければならない,と主張します.移民問題を回避するばかりで,国民の不満を解消できなかった政治システムや知識人にも,その責任はあるのです.健全で活力ある社会を取り戻すには,国民であることの意味を再定義し,新しい国民たちを政治システムの主流に正しく導くべきです.そうでなければ,彼らは住宅や教育で差別され,新しい奴隷や下層市民として蔑視されます.そして,国民の不満を吸収する極右の政治的宣伝に利用されるのです.


FT November 28 2002

Europe could be split by unanimity

By Alberto Alesnia and Guido Tabellini

(コメント) EUの拡大は,その深化と,トレード・オフの関係にある,とAlesnia and Tabelliniは言います.EU憲法の制定は,EUが政治権力として十分なシステムを構築できるかどうか,を示すでしょう.しかし,もしEU加盟や憲法制定をすべての国で国民投票によって決めるなら,その政治権力は極めて曖昧で,弱体な合意に留まるでしょう.Alesnia and Tabelliniは,より強固な政治権力と政治経済統合を進めるために,決定がすべての加盟国の賛成を前提せず,深化の進んだ国に限定されるべきだ,と考えます.そして,他の加盟国は,後から新しい枠組みに参加するかどうか決めれば良い,と.


FEER December 05, 2002

China's Liberalization Strategy

By Chi Lo

(コメント) The qualified foreign institutional investors(QFII)が示すのは,単なる資本規制ではなく,漸進的な,秩序ある金融自由化を目指す中国政府の願いです.国営企業は規制された低金利で支えなければならず,輸出は固定された為替レートで促進されねばならない,と考えているでしょう.しかし,同時に,通貨危機を回避しつつ資本流入を利用できれば,国内の経済改革を容易に行えることも,台湾から学んでいます.国内の金融システムや工業力を整備しながら,漸進的な自由化を進めて,資本流入も利用することができれば,最終的に人民元を自由化できる,というわけです.

もしそうであれば,日本政府や企業,機関投資家は,中国経済の現代化が日本を含むアジアの安定した政治経済秩序に矛盾しないよう,その戦略を十分に考慮し,支援すべきでしょう.


IHT Thursday, November 28, 2002

Who says the United Nations is better than NATO? 

Richard Perle

軍事力を行使する場合,国連が唯一の正当な機関である,という発想に,私はかなり戸惑う.なぜ国連なのか? 国連の方が,たとえば,自由な民主主義諸国の連携よりも,正当性を持つのか? 価値を共有する諸国だけでなく,中国やシリアが参加しているから,国連の方がふさわしい? 私はそう思わない.不正な政治体制が多く参加している国連が,EUやNATOよりも正当性を主張できると考えるのは危険だ.

国際連合は,国際連盟の歩んだ失敗の道へ向かっている.軍事査察団の追放,いくつもの決議の違反.投票は売買されている.かつてヘルムート・シュミットが「第三世界の砂遊び」と呼んだ.

国連は不完全だが,われわれにはこれしかないのだ,と言われる.では,消火器が潰れていると知りながら,それしかないと言うので,あなたはそれを持って火事場に飛び込むのか? 火事を消す他の方法を探すべきだ.国連には役割がある.しかし,国連にできないことを求めるのは間違いだ.

NATOには軍事力がある.それは平和と安定性に責任を負う,自由な民主主義国家によって正当性を与えられた軍事力だ.独裁者を封じ込めるために,なぜNATOが国連よりも正当でない,と言えるのか?


WP Saturday, November 30, 2002

Squeezed To the Last Drop

By Bianca Jagger

NYT December 1, 2002

U.S. Farmers Put Down Roots in Brazilian Soil

By SIMON ROMERO

BBC December 1, 2002

For Wary Argentines, the Crops Are Cash

By LESLIE MOORE

(コメント) 中央アメリカでは60万人のコーヒー農家が失業し,飢えています.それは市場イデオロギーに染まったアメリカ政府がICA(国際コーヒー協定)を破壊し,IMFと世銀に「構造調整」を求めたからです.それは「比較優位」に沿って,貧しい諸国の輸出指向型開発を拡大し,ますますコーヒーや資源の国際価格を暴落させました.10年前には100億から300億ドルの収入を得ていた生産諸国は,今や60億ドルしか得ていません.他方,コーヒーの消費市場は倍増し,550億ドルに達しています.利益を得たのは,Procter & Gamble, Kraft, Sara Lee and Nestleなどの大企業です.何百万人もの貧しい農民の暮らしは破滅しています.そこでJaggerは,公正な価格でコーヒーを買うべきだ,と主張します.そのために,1.アメリカ政府,2.大企業,3.国際機関,が協力し,国際コーヒー協定を復活させるのです.

公正価格運動が政治的な可能性であれば,もっと市場優位の解決?もあります.ROMEROは,アメリカの農家がこぞってブラジルの土地を買うために訪れている,と報告します.アメリカ農家の夢であった安価で肥沃な耕地が,ブラジルには溢れています.大豆の価格が上昇し,他方,ブラジル通貨は減価しています.イリノイ州ではエーカー当り3850ドルの土地が,ブラジルでは700ドルで買えるのです.かつて耕作に適さないと言われた土地も,1970年代にアメリカの研究で変えられました.

他方,貨幣への信頼が破壊され,銀行が閉鎖されたままのアルゼンチンでは,穀物を基礎に物々交換が広がっている,とMOOREは伝えています.生産の落ち込みと失業,通貨価値の下落を経験しているアルゼンチンで,ドルで取引される穀物を生産する農民たちは勝者です.彼らは貨幣ではなく,穀物によって契約し,支払います.もちろん,経済学者は物々交換が貨幣経済よりも大きく効率を損ない,信用組織のない経済は長期の投資を減らす,と警告します.しかし,農民たちは,まだしばらく,貨幣を信用しないでしょう.


FT December 2 2002

China's neighbours get nervous

By John Thornhill

(コメント) 中国の台頭をどうみるか? 東南アジアでも,日本でも,ロシア,そしてインドでも,多くの政治家や研究者が,中国の脅威について議論しています.一方では,中国が新しい勢力均衡を目指して台湾を吸収し,アメリカ軍を追い出して,アジアの支配的な秩序を決める,という見方があります.他方,中国がそのような行動を採れば自国の利益も損なうから,既存の国際秩序の中で協調するだろう,という見方もあります.元外交官の岡崎久彦氏は,ドイツが台頭した世紀転換期のヨーロッパと違って,アメリカが既にアジアに関与している点を強調します.


FT Dec 01, 2002

Time for a switch to global reflation

By Haruhiko Kuroda and Masahiro Kawai

FT December 3 2002

Case for inflation

FT December 5 2002

The scapegoats for Japanese deflation

By Marcus Noland and Adam Posen

(コメント) 黒田東彦氏と河合正弘氏による世界リフレ論は,@デフレの脅威,A中央銀行の間違い,B三極協調,C中国の参加,という点を主張しています.@とAについては,すでに通説となった内容でしょう.しかし,デフレに冒された程度や,金融政策の効果を制約する金融システム不安の程度において,日本の事情は必ずしもアメリカやヨーロッパと同列に扱ってもらえません.また,FTのコラムが指摘するように,現在,主要国が通貨政策を国際協調しなければならない理由は特にありません.あるとしたら,日本経済が為替レートや資本移動に対して非常に弱くなっている,という特別な事情によるのです.

それゆえ,FTは,黒田氏と河合氏の主張を,日本の責任軽減ないし回避策と見なし,あるいは,外圧を使った日銀への政策干渉,と見なします.

世界のデフレが中国の輸出によるものかどうか,全く関係ないと言う者もいないでしょうが,香港や台湾を,日本やアメリカと同列に扱う者もいないでしょう.日本経済が企業の流出や中国からの安価な製品輸入によって苦悩している,と言うのも,もし日本が好景気であれば,逆に嬉しい悲鳴を上げたことでしょう.

アジア通貨危機で人民元が切り下げなかったことが中国政府の威信を高めましたが,今度は中国政府に切り上げを求めて,さらに日本は責任転嫁を図っている,と非難されるかもしれません.実際,Noland and Posenは,痛烈に黒田・河合説を非難しています.

彼らが非難した理由は,@日本のデフレは内発的だ.A中国の世界市場参入は,実質賃金を引き上げ,消費を豊かにしてくれた.大幅な経常黒字を持つ日本でデフレが続くのは,アメリカと違って,金融政策が機能せず,企業の淘汰や国際競争に従って産業を再編できていないからである,と.

なるほど,国際協調は国内政策の行き詰まりを打開する抜け道にはならず,たとえ正当な理由を示しても,弱い立場を邪推される,というわけです.人民元引き上げ論も,余計なお世話だ,と言われそうです.


LAT December 3, 2002

Robert Scheer

Want a Cover-Up Expert? Kissinger's Your Man

(コメント) ブッシュ大統領はよほど真実を知られたくないらしい,とScheerは言います.ニクソン政権の幹部で,その不正を暴いたジャーナリストを失脚させ,チリの選挙で支持された社会主義政権を転覆し,ヴェトナム戦争における虚言と陰謀,情報操作と盗聴の常習犯でもある悪名高い人物を「9・11真相究明委員会」の委員長に据えるとは! キッシンジャーの部下たちは,事件の犯人たちが活動したサウジアラビアやクウェートとの莫大な取引に助言して利益を上げている.ブッシュ政権はクリントンが注意したアル・カイダのテロを見過ごし,経済運営にも失敗した事実を隠したいだけだ,と.

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The Economist, November 23rd 2002

Computing’s new shape

The fight for digital dominance

(コメント) 「すべての家庭の,すべての机にパソコンを!」というマイクロソフトの夢が消えたようです.もっと持ち運べる,便利なコンピューターが,たとえばゲームや音楽も楽しめて,携帯電話のように身近なコンピューターが「一人一人のポケットに入る!」

そして,記事に拠れば,マイクロソフトとノキアが直接に新しい市場でぶつかり合うでしょう.結局,誰かがWindowsのような独占を敷くのでしょうか? そうではないだろう,とThe Economistは予想します.電話は相互の接続を基本とし,それゆえ共通の基盤をオープンにするから,と.もしそうであれば,私たちもやっと,年貢のように新しいソフトやハードに金を払って資源を食い潰す,パソコン百姓(ハイテク型「水呑み百姓」)の生活から抜け出せるわけです.少しだけ.


Bears and bulls: You beasts

株式市場が売る人ばかりで下落するのを,「クマ」と呼ぶのは止めてくれませんか? 相場が下落するたびに,ベア・マーケット,ベア,ベアと言われて,私たちは大きく評判を落としました.

その起源は,アメリカの投機的な毛皮市場に由来するのでしょうが,現代では全くの時代錯誤です.どうしてブルは精力的で機敏な投資家を表し,ベアは冬眠から覚めて,すねた,不機嫌なクマなのですか?

間違いなく,もっと良い喩えがあるはずです.1990年代後半の相場を見れば,疑うこともなく仲間の後ろに従ったのですから「ヒツジ相場」が良いのでは? 多くのドットコム株式は「七面鳥(気取り屋)」だったし,アナリストたちはまるで「レミング(たびネズミ:集団自殺で有名)」でしたね.こうした下落する株価で儲ける奴らは,まさに「スネーク」です.

現在のスネーク相場はまだ続くでしょう.その原因は,ベア・アナリストに拠れば,世界経済は粘着的で不況を抜け出せないからです.その責任は90年代後半に「キリン草」経済を信じた中央銀行家たちにあり,クマたちはあばずれ娘を追いかけたわけです.でも,世界の蜂蜜供給量,H3,が急に減って,今や,彼らがすねているのも無理はない,というわけ.

けだものの人類へ.