IPEの果樹園2002

今週のReview

11/25-30

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金曜日のNHK番組「ホワイト・ハウス」.アメリカのバートレッド大統領は,訪米したインドネシア大統領のために「晩餐会」を開きます.その日,報道官に対する記者たちの質問は,晩餐会に出席する人々が身に着ける服装やアクセサリーばかりに集中します.しかし,政府は違うことに苦悩していました.

アメリカ大統領は,歓迎演説でインドネシア政府の腐敗と民主化に注文を付けます.しかし,そのせいで,インドネシア大使にフランス人の解放を取引するどころか,逆に痛烈な非難を浴びせられます.同時に,ハリケーンを回避したはずのアメリカの艦隊が,方向を変えた巨大ハリケーンに巻き込まれ,壊滅する危機に瀕しています.また同時に,武装したサバイバリストたちの立てこもった民家をFBIが強制突入すべきか,さらに説得すべきか,議論の末に民家に送られた交渉担当者は撃たれます.同じホワイト・ハウス内で,トラック輸送の労使交渉が何十時間も続き,スーパーの残り物を奪い合って暴動が起きることを指摘しつつ,政府は合意形成に圧力をかけます.こうした諸問題に有効な手を打てない大統領は,苛立ち,自分たちで合意できないと言うなら,輸送会社を国有化し,労働者には徴兵制を導入するぞ,と激怒します.

ここで強調されるのは,多面的・多元的な事件の同時性だと思います.大統領に集中し,彼のチームが掌握している権力(political capital)は,何に対して使用されるべきか? どのように高められるべきか? という問題が示されます.極めて短時間で,有効な回答が求められるのです.

11月23日の朝日新聞.香港映画は消滅の危機にあるようです.経済不況で観客が減っているのに,スターの出演料は高騰し,有名になった人材はハリウッドに奪われます.東南アジア市場でもアメリカ映画との競争が厳しく,他方で,中国市場への参入には制限が多くあります.ジャッキー・チェンの映画なども撮ったカメラマンが仕事を失い,運転手となって,その職も突然解雇され,空港と香港を結ぶ高速道路の標識によじ登って抗議しました.

同じ朝日新聞.メコン川の中流には体長が2メートル,体重300キロを越える大ナマズが生息しているようです.しかし,中国はASEAN諸国との貿易を増やす輸送力をメコン川の貨物船航行に期待しており,開発計画に出資して浅瀬をダイナマイトで爆破している,と言います.メコン大ナマズは河から消滅し,見世物小屋や動物園,豊かな国の大学や博物館が集めるホルマリン槽の中へ,そして生物学教室の標本箱でしか見ることのできない,恐竜の仲間になりそうです.

同じ朝日新聞.「空港は儲かる(中)」.シドニー空港の経営権に対して,予想以上の入札が集まり,投資銀行グループが約3920億円で落札した,と言います.民間企業にとって空港ビジネスは儲かるのです.確かにオランダのスキポール空港は素晴らしい実績を上げています.他方,住民にとって騒音公害であった伊丹空港の縮小案に,地元業界は強く反発しています.関空,神戸も加わって競争は激しく,環境対策費を利用者や地元負担にする方針が,各自治体を責任回避に走らせます.

金曜の夜,研究会の帰り途で,既に大学の約4分の1から3分の1が定員を満たせていない,という話を聞きました.選抜入試ではなく,受験生の奪い合いが始まっているのです.各大学は迅速な変身ぶりと社会的アピールを重視し,著名な業績や知名度のある講師陣を引き抜き合います.優秀な受験生がますます有名校に集中し,大規模な定員枠を抱える私学の中は,町の繁華街や携帯電話の出会い系サイトと変わらなくなり,他方で,エリート養成講座や語学研修,資格試験の掲示が溢れます.

このスナップ・ショットが切り取った世界も,アメリカのイラク攻撃計画や日本政府の補正予算案,ダイナミックなアメリカ連銀と萎縮した日銀のデフレ対策,自爆テロとイスラエルの軍事侵攻,北朝鮮の脅威と迷走する日本外交,などが展開される,同じ「日常」の一部です.

世界中の家族,ただし夕食を出せない貧しい家族や,飢餓地域で暮らす数百万,数千万の人々,一家離散した浮浪者,両親を失い路上で暮らす孤児たちを除く,世界の多くの家族と同じように,その日も,「当たり前の」夕食に私は感謝しました.・・・晩餐会はただちに中止.大ナマズを救出し,空港と大学はすべて分割・民営化せよ・・・!?

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg, FEER:Far Eastern Economic Review


FT November 10 2002

Ignore the whining about US deflation

By Stephen Cecchetti

FT November 11 2002

Amity Shlaes: Bush should cut taxes

By Amity Shlaes

NYT November 11, 2002

Bush's Way Is Clear to Press His Agenda for the Economy

By RICHARD W. STEVENSON

(コメント) 選挙に勝ったブッシュ政権は,経済の建て直しのために何をするでしょうか?

金融政策はどうか?  Cecchettiは,アメリカ経済の現状が10年前の日本と似ている,という意見が間違っていると考えます.デフレが問題になるのは,何かの価格が下落して,それを作る企業が不平を言うからではなく,日本のように物価全般が下落して,ゼロ金利になっても金融政策が効果を示さないからです.しかし,Cecchettiは,たとえ金利がゼロでも金融政策は機能する,と言います.中央銀行はバランス・シートを調整して,無限に証券を買い取ったり,商業銀行に融資したりできるからです.そこまでグリーンスパンはやる気である,と考えます.彼が心配するのは,むしろアメリカ経済が成長を減速させることを予想せずに,財政政策や金融政策で刺激しすぎることのようです.

Shlaesは,ブッシュの勝利が減税政策によるものだ,という見方を,将来の減税策に拡大することには慎重です.なぜなら,ケインズ型のモデルが考えるほど,減税額が追加の消費を刺激することはないからです.しかし,配当に対する減税は株式市場にもプラスであり,恒久的な減税策は競争力を改善する意味でも有効だ,として,経済効率の改善を主張します.

「ブッシュ大統領は,悪化する経済に彼の顧問たちが取り組む自由を確保した」とSTEVENSONは指摘します.では「ブッシュ経済学」とは何か? 税制見直しや社会保障制度の改革は遅れるでしょう.他方,経営者や医者を弁護士から守り,環境規制は緩和して,国際貿易を促す方針は明確です.今や,共和党議員たちにも政府の経済チームに対する不満が強まっています.オニール氏やリンゼー氏に代えて,ハバード氏を重視するかもしれません.クリントン政権のルービン財務長官が敷いた「財政均衡化と金利低下による景気刺激」という路線は翻されるでしょう.他方,民主党が労働者の家族を代表して,様々な利益団体に取り入るブッシュ政権を,批判する力を持つにはまだ時間がかかります.


WP Monday, November 11, 2002

Lost in a Reagan Time Warp

By Sebastian Mallaby

同僚のKrauthammerが言うように,民主党員たちは1960年代の「偉大な社会the Great Society」以来,斬新なアイデアを欠いている.しかし,共和党は違うのか? もしブッシュ大統領の9・11に対する強硬策を別にすれば,共和党員たちも彼らの「偉大な社会」であるレーガン主義にしがみついている.それもまた,死んで,腐ったアイデアだ.

ロナルド・レーガンが減税と「サイプライ・サイド」の景気刺激策を掲げて登場した際には,最高税率を80%から50%に引下げ,高所得者の労働を刺激できた.しかし,現政権では最高税率が既に40%を切っており,それを僅かに削ったが労働は刺激できない.共和党員の中にはサプライ・サイドの魔法を信じる者もいるが,ブッシュ減税は裕福な支持者に報いるだけだった.

要するに,共和党員たちも税制に関して斬新なアイデアを欠いている.大きな政府への批判,も同じだ.1970年代には多くの肥大化した政府部門があった.航空,トラック,鉄道の規制緩和は,アメリカの消費者に年500億ドルの節約をもたらしたと推計される.そのような改革の時代に比べれば,今の共和党員たちはカルテル主義者だ.重要なことは,容易な規制緩和の時代は終わった,ということだ.政府を非難するネオ・レーガン主義は時代錯誤である.

現在の規制論争は,大雑把な市場讃美では無い.電力でも,通信でも,それらが自然独占の性格を持つ以上,規制緩和に良い方法は存在しない.カリフォルニアの停電が示したように,政府がうまく規制することでしか,競争は可能にならない.また,多くの規制は健康や環境を保護するために行われており,公共財の性格を持つ.政府非難を繰り返しても,こうした規制はなくならない.

1960年代のように,財政支出を拡大し,政府が無限に拡大できるかのように規制を増やした時代を求める民主党員がいることは確かだ.しかし,共和党員にも時代を無視した連中が多い.彼らはまだ1970年代の肥大化した政府と戦っている.彼らは頭の腐った国家介入主義と戦い,保守主義の思想が歴史的に勝利したと思っている.

だが真実は,共和党も民主党と変わらない.減税策を恒久化することだけに集中したブッシュ氏の勝利は,アイデアの優位ではなかったのだ.


FT November 12 2002

Martin Wolf: Greenspan's fight

By Martin Wolf

(コメント) カナダを除けば先進諸国中で最も高い成長率を実現している経済に,GDPの2.4%という財政刺激策が採られるにもかかわらず,40年ぶりの低金利を実施する理由は何か? Fedの金利引下げは,アメリカ経済がこの先悪化するという予測に基づいています.

現在も続く生産性の上昇は諸刃の剣であり, 売上げが減る中では,それだけ生産力の過剰を強めています.では,需要は外国市場や企業,政府,消費者が支えるでしょうか?  Wolfは,政府を除いて難しいことを示します.特に,今後,貯蓄率が回復する過程で,消費が抑制されることは避けられません.

二番底かどうかではなく,速やかに経済を健全な活動水準に戻すことが重要なのです.しかし,そのためにFedが低金利や金融市場に介入すればするほど,そこには大きな不均衡が生じます.それゆえ,劇的な介入は遅れるでしょう.


NYT November 12, 2002

Overhaul of Japan's Bank Debt Crisis, Take 2

By KEN BELSON

FT November 18 2002

Koizumi hears the wrong message

By Noriko Hama

NYT November 19, 2002

Falling Land Prices in Japan Take a Heavy Toll on Banks

By KEN BELSON

FT November 21 2002

Sayonara time

(コメント) Belsonの二つの記事は,日本政府が大企業も,地価も株価も,建設会社も大銀行も救済したがっていることを示しています.しかも,財政赤字は増やしたくない,と言うのです.何をしたいのか,という問題が,どうやってするのか,という問題と繋がらず,信頼できるまともな解決策は示されません.

浜氏の批判は,改革を行わない小泉首相に向けられています.彼は,7人の小人に囲まれた白雪姫であり,修行中の下手くそな魔法使いであり,プリンス・オブ・ウェールズとなったダイアナなのです.つまり,中身の無い改革を騒ぐばかりで,自分はお追従に包まれ,手品のような解決を望みながら,民間人や経済学者の言い争いを放置し,国民が望む改革を自分勝手な幻想で自分への高支持率だと誤解する.なるほど,これは外国メディアが信じたがっている小泉像です.

見せかけでない大論争は不良債権処理でした.しかし,竹中案は具体性がなく,総合的なデフレ対策を伴っていませんでした.その挙句が,銀行の国有化案! そんなことは意味も分からずに政治家が騒ぐばかりで,大失敗に終わるだろう.税金を使って潰れるべき銀行を全部救済する,かつての「護送船団方式」に戻っただけだ,と.

しかし,私はFTの政策転換を期待する論説の方が好きです.FTは,日本の大手銀行が合併によって改革を回避し,生き延びる道を選択したことが,逆に,このままでは救済できない,という不安を政府に抱かせた,と考えます.公的資金注入によって政府が保有する優先株を普通株に転換すれば,政府は主要銀行の経営権を握り,実質国有化できます.それが浜氏の言うような「護送船団」に終わるかどうかは,分かりません.

FTは,この竹中案の修正と実現の過程で,日本の政策は転換できるかもしれない,と期待します.なぜなら,日本がなすべきことは明確になっており,残された時間は少なくなるからです.まず,銀行は政治から切り離して,市場の条件で利益を出さねばなりません.融資のリスクは慎重に評価し,正しく価格付けるべきであって,社会的な責任を政府が銀行に押し付けてはなりません.「ゾンビ」企業への融資は止めて,不良債権を市場によって処理するか,債権回収会社に移すことです.こうして余剰設備は廃棄され,優秀な企業に活気が甦ります.

建設・流通・不動産に集中する不良債権の処理を加速すれば,デフレが強まり,失業者が増え,社会・政治的な不安が強まる,と銀行や政治家は反対します.それゆえ,銀行の改革は,経済のリフレ政策と切り離して行えません.OECDも指摘したように,政府は各政策機関をもっと適切に協調させねばなりません.日銀はもっと積極的に国債を購入し,政府は減税と明確な目標に絞った支出を増やして,経済を刺激しなければなりません.

その通りだと思います.それができないなら,小泉氏を退陣させるか,自民党を分割し,政権政党を組替えるか,あるいは総選挙で国民に改革を説得できる政府を決めてほしいです.


ST NOV 13, 2002 WED

Brain drain may not be a bad thing

By JEAN-PIERRE LEHMANN

「頭脳流出」を受け入れる社会は莫大な利益を得られる.フランスの革新企業家でもあったユグノーは,イギリスの産業革命に貢献した.ヒトラーの迫害を逃れたドイツのユダヤ人たちは,アメリカの大学に絶大な利益をもたらした.今日も,シリコン・ヴァレーは中国人やインド人の優秀な頭脳無しに存在しない.

チューリヒにあるスイス連邦技術研究所は,世界で最も多くのノーベル賞受賞者を擁している.そして教授陣の35%は外国人である.1000年前のコルドバから現代のカリフォルニアまで,最も知的な刺激に満ちた場所は異なる諸文化の交差点である.外国の頭脳を惹きつけられない社会は停滞する.

たとえば日本は,その同質性が経済ナショナリズムをもたらし,何十年間か繁栄を導いた.しかし今では,日本の大学,研究所,エリートたちの出版物のほとんどが,内向的な動脈硬化症に苦しんでいる.日本の今の昏睡状態は,ある程度,日本人の知的な怠慢によって起きている.

しかし,頭脳流出させる国はその過程で貧しくならないのか? それは条件次第だ.たとえばスペインは,内戦後のファシズムによって最良の頭脳を失ってきた.1975年にフランコは死んだが,貧しく,独裁者に食いものにされた,ヨーロッパの底辺としてのスペインが,この25年間で,最も素晴らしい転換を成し遂げた.経済は繁栄し,民主主義が栄え,頭脳流出が止まった.そして,実際に多くのスペインの秀才たちが帰国し,さらに他国の頭脳を吸収している.

アイルランドは,国民の数に比べて,史上最も多くの移民を流出させてきた.貧困と,カソリック教会の硬直的な社会が,知的な生活を抑圧し,イギリスやアメリカに多くの頭脳が流出した.しかし,20年前には第三世界並であった貧困が,今や,かつての植民地支配者・イギリスの一人当たりGDPを抜いている.EUに加盟し,直接投資を促し,ヴェンチャー企業を育成し,金融サービスやITの成功はアイルランドへの激しい頭脳流出を逆転させたからだ.

蒋介石が毛沢東の中国共産党と戦って台湾に退避した際,独裁的な体制を維持したが,台湾経済を根本的に再編し,強化した.アメリカからの潤沢な援助を元に,台湾は最良の大学生を外国に派遣して学ばせた.今では人口比で,世界でも有数のエンジニアが居るが,彼らはアメリカの大学で優秀な成績を収め,それゆえ,MITを「メイド・イン・台湾」の意味だと言う人さえいる.

1980年代には,台湾の社会・政治情勢が不透明で,ほとんどの学生が帰国しなかった.そこで台湾政府は,サイエンス・パークを建設し,R&Dのための環境を整備した.規制緩和し企業を起こす機会を増やした.独裁を廃止し民主化を行った.人々は個人の自由と幸福を追求できる基礎を得た.こうして1990年代,優秀な人材が帰国し,台湾をハイテク国家にしたのである.

この50年間に韓国が辿った道も同じである.1962年に軍事独裁政権を始めた朴大統領は,北朝鮮に対抗して,積極的な開発政策を実行した.教育の重要性を理解し,大学を育成した.しかし困ったことに,大学生たちは独裁に反対した.結局,大学生たちが独裁制を終わらせ,その後,多くの学生がアメリカから知識を持ち帰った.

それゆえ,頭脳流出は流入国だけでなく,流出国にとっても利益なのである.その流出が,将来は逆転するのだから.多くの人は自国に留まり,あるいは永遠の亡命者であるより,帰国できることを願っている.ロサンゼルスのキムチより釜山のキムチの方が美味い.マンチェスターのチャパティよりハイデラバードのチャパティの方が良い.

頭脳流出はその政府に強烈な改善圧力をもたらし,その制度や経済的・社会的自由を改善させる.それこそが社会の最終的成果なのである.より多くの頭脳流出を許す世界でこそ,社会は急速に改善されるだろう.


WP Wednesday, November 13, 2002

Germany's Drag on the Global Economy

By Robert J. Samuelson

(コメント) Samuelsonは,ドイツと日本が世界経済をデフレに引きずり込むことを心配します.アメリカは景気を輸出によって回復する道が無いことを知って,Fedの金融緩和を強めています.しかし,日本は不良債権を処理できず,ドイツは労働法を改正しません.Samuelsonによれば,ドイツの衰退の原因は失業手当や賃金交渉が時代に合わないことであり,東西ドイツ統一に非現実的な通貨統合を行い,大量の失業者を財政的な移転で維持することに満足していることなのです.15年前には世界経済を牽引すると思われた強力な日本とドイツが,アジアとヨーロッパの「病人」となってしまったことに,金融緩和や財政刺激策は効果が無い,と指摘します.

しかし,「もしアメリカがメキシコと統合して,5年でメキシコの所得水準をアメリカ波にする」と約束すれば,それは無茶だ,という言葉を彼も引用しました.ドイツは東ドイツやECBと,日本は中国や海外投資と,弾力性を欠いた統合化を続けているように思います.それに比べてアメリカは,メキシコの労働力や生産拠点を利用し,債務国でありながら民間部門は海外投資を行っています.デフレの責任を,同じように比較できるでしょうか?


FEER November 21, 2002

HONG KONG: Give Us a Real Economic Plan

By Philip Segal/HONG KONG

(コメント) Segalは,香港の伝統的な政治・経済システムを支えてきた土地価格が暴落することを心配します.財政赤字が増加して,香港のカレンシー・ボードが不安になれば,中国本土への金融的な調整弁としての機能が破壊されます.しかし,他方で,香港は土地の市場を管理することで税金を非常に低く抑えてきました.1997年の通貨危機以後,この土地価格が暴落しているのです.それは香港の資産家や企業,銀行を苦しめ,政府の税収を失わせています.

香港政庁は土地市場への介入を試みてきました.なぜなら,本土との地価はまだ余りに大きく,他方で,その地価と金融資産の価値を守ることで香港の官僚たちは高額の給与を得ているからです.しかしSegalは,結局,支出削減や増税,消費税導入,などを考えるよりも,土地政策を大幅に見直し,同時に,債務より減少した土地価格をすべて外貨準備で補填してやるべきだ,と言います.それでも準備の13%を失うだけです.こうして財政赤字は香港政庁の土地を売却して処理し,地価の調整も一気に済ませるのです.土地市場は自由化され,その代わりに,外貨準備額が世界第5位から第7位になるだけだ,と.


LAT November 15, 2002

Time Isn't on America's Side

By Graham Allison

(コメント) もし戦争が回避できれば,それはさらに大きな恐怖を残すかもしれない,とAllisonは示唆します.時間をかけることは,アメリカではなくフセインに有利である.フセインは天然痘のウィルスを保有し,アメリカへの報復を準備している,と.

私は,このような戦争の話を読むに連れて,別の不安を感じました.もしフセインがアメリカの動きを止めようとすれば,それは国際的な連携を阻止し,アメリカ経済を不況にすることが最も効果的でしょう.たとえば,ドイツ政府やアメリカの金融システムに打撃を与えれば,アメリカは戦争しにくいはずです.しかし,もっと効果的なのは日本を標的にしたテロかも知れません.日本の世論は常に反戦気分ですし,政治家たちは信用されていません.経済停滞が慢性化し,それでも対米資産を多く保有しています.テロによって日本に軍事的強硬派が台頭すれば,アジアの外交は大きく不安定化し,容易に脱出策は見出せないでしょう.その上,テロのショックで金融危機が深まれば,日本人は投資や預金を解約し,アメリカからの資本流出や国際金融危機も起こしかねない有様です.


The Guardian Saturday November 16, 2002

Sweet nothings

Larry Elliott

FT November 18 2002

The challenge for the multilateral trade system

By Guy de Jonquieres

(コメント) Elliottは,貧しい諸国を説得してWTOの新ラウンドを「開発ラウンド」として立ち上げた裕福な諸国が,その後は何もしていないことを批判します.9・11以後,WTOは多角主義のシンボルとなりました.しかし,実際は,誠意の無い億万長者が妻を騙すように,彼らは国際会議を嘘で塗り固めている,と怒ります.

1500万人の国民が飢餓に苦しむエチオピアのような国に対しても,そのメッセージとは,「自由貿易が豊かさをもたらす」でした.しかし,西側諸国にとっての市場開放とは,聖アウグスチンにとっての懲罰と同じように,非常に望ましいが,まだしてはいけないものです.Elliottは,貧しい諸国が裕福な国の寝物語など聞くべきではない.豊かな国のすることは,常に,「お前たちは自由化せよ.われわれは自国民に補助金を与える」であった,と言います.ドイツも日本も,台湾,韓国,すべての自由化に成功した諸国は,国内市場を保護して自国産業を強化してから,慎重に自由化したのです.

JonquieresのFTA(自由貿易協定)に関する分析は,FTAとWTOの問題点を明確にしています.FTAは,貿易自由化以外の目的によっても進みます.たとえば,シンガポールのように国際関係の安定化や地位の確保,日本のようにアジア地域での貢献と信頼醸成,あるいは国内の雇用や政治的に強い影響力を持つ産業の保護,自由化されて職場を失う官僚たちの抵抗運動かもしれません.アジアでは特に,1997年の通貨危機以後,地域的な連携への関心が強いでしょうし,中国の経済力が雇用や投資を奪ってしまうという危機感があります.中国の積極的なFTA提案は,アジア地域における日本の影響力やアメリカに対する積極的な対抗と,国内市場を外交的に利用する強い姿勢を示しています.

それはアメリカ政府も同じです.ゼーリック通商代表は,ラテン・アメリカからアフリカ,オーストラリアにFTA交渉を拡大しています.ゼーリックは,APECがウルグアイ・ラウンドでEUを交渉に引き戻す脅迫に役立ったと考えています.しかし,実際には,EU自身が地域主義・二国間交渉から国際的多角主義に移行しつつあったのです.なぜなら,交渉や管理の煩雑さ,特に,製品の生産地によって異なる関税率を処理するコストが,政府にも企業にも耐えられなかったからです.それゆえアメリカは,一定の基準や交渉項目を固定して,FTAを拡大しようとしています.

しかし,農産物の交渉については,国際的な自由化交渉が進まなければFTAでは意味がなく,逆に日本のようにFTAを農産物保護の隠れ蓑に使うケースが増えると懸念されます.ところがこのままFTAが放置され,増殖を続ければ,FTA内の取決めをWTOで再交渉することが嫌われ,多角的な交渉を進めにくくするのです.

このままでは,そもそもWTOの存在意義が失われるでしょう.WTOのスパチャイ議長が,FTAのバンド・ワゴン的な流行に強い警告を発する理由は,ここにあります.


WP Sunday, November 17, 2002

Three Parallel Roads to Peace

By Shimon Peres

イスラエルとパレスチナとの紛争を終わらせる努力は,すべてイラク危機の後まで延期されるだろう.この延期は,次の交渉を準備するための政治的な時間を与えてくれる.

私の意見では,これまでの交渉から二つの重要な教訓が得られた.

1.交渉においては,何が先で,何が後かを決めることはできない.完全な解決策も,完全な停戦も,交渉の前提としてはならない.すべての要素が相互に依存しているのであるから,どれかを前提条件にすることは意味がない.

2.パレスチナ人との協力なしにテロを止めさせることは非常に難しい.彼らはテロの背景や,誰がそれを行うかについて,われわれよりもよく知っている.しかし,彼らが政治的な解決へのかかわりを見出さなければ,協力しないだろう.そして政治的な目標を共有するには,政治的交渉が必要だ.

平和に至る道は三つある.テロとの戦い.交渉.そして改革である.しかし私は,アメリカが示すような順番で三つを行うのではなく,むしろ並行した三つの道を同時に進むべきであると思う.私たちが忘れてならないのは,パレスチナ人が,国家建設や領土の返還を実現するには,金融的にも政治的にも,国際的な支援を不可欠としており,それ無しには前進できないことである.またイスラエルも,パレスチナ人と合意し,自分たちの国際的な地位を高めるには,国際的支援を必要としている,ということである.


FT November 18 2002

Containing North Korea

IHT Tuesday, November 19, 2002

From eating rats in North Korea to sex abuse in China 

Mike Jendrzejczyk

FT November 19 2002

Quentin Peel: The other rogue dictatorship

By Quentin Peel

(コメント) 北朝鮮に関しては,アメリカの強攻策が直ちに戦争を意味しません.しかし,金正日はブッシュ大統領が脅迫の相手として適当でないことを知るべきです.また,ブッシュ氏も,交渉のための余地を残しておくべきです.このままアメリカが重油の供給を止めれば,北朝鮮は冬の飢餓を迎えて,そのミサイルが周辺諸国やアメリカ軍を非常に危険な状態にします.どのようなゲームをしたいのか? このゲームの参加者が誰なのか? アメリカ政府は慎重な姿勢を示しています.

人権監視団体は,北朝鮮からの亡命者が取り締まりの厳しい中国で虐待され,売春させられ,偽装結婚で暴力をふるわれている,という例を報告しています.中国は,国連の難民条約に違反して,北朝鮮との秘密協定によって,帰国すれば死刑となるのが分かっていても難民たちを強制的に送還します.Jendrzejczykは,周辺諸国が北朝鮮からの難民を受け入れ,彼らの人権を守るべきである,と主張します.

Peelは,完全に核武装した「無法者国家」である北朝鮮を解体することは,イラクについて新保守主義者が「体制転換」論を交わすよりも,はるかに困難な作業である,と言います.しかし,アメリカは日本や韓国も説得して重油の供給を止めるでしょう.そして,核兵器や生物兵器を廃棄させるにため,その標的となりうる周辺諸国すべてが連携して北朝鮮を封じ込め,安保理で明確な決議を出すべきだ,と主張します.


BL 11/17 00:02

The World's Next Economic Bloc: Commentary by Patrick Smith

By Patrick Smith

ST NOV 18, 2002 MON

Last chance for East Asian integration

BY TANG SHIPING (deputy director of the Centre for Regional Security Studies, Chinese Academy of Social Sciences, in Beijing)

(コメント) Smithは,アジアの経済統合が将来の勝者を敗者を決めることに注意します.韓国のJeon Yun Churl金融大臣が唱えた「北東アジア戦略同盟」を紹介しています.そこでは,発達した北アジアと遅れた南アジアとを対比します.高齢化し,減少する労働力に不安を覚える日本企業にとって,中国の無尽蔵の労働力を利用できることは明らかに利益でしょう.日中貿易は急速に増加し,互いに主要貿易相手となっています.元野村総研のKiyohiko Fukushima氏も,新しい地域統合を予想します.

他方,北京の研究所に属するSHIPING氏は,東アジアの統合化を「ASEAN+3」で実現する最後のチャンスを逃してはいけない,と主張します.彼がここで強調するのは,指導力の実現です.この地域において指導力を持つとしたら日本か中国しかありません.しかし,両国が互いにEUを実現した独仏のような戦略的合意を確実にするには,まだ時間がかかるでしょう.そこで,韓国とASEANが短期的に統合化を促進する指導力を発揮するのです.彼らは互いに競争するだけでなく,地域の共通利益を目指し,そのために日中が協力すべきことを主張しなければなりません.

さらに注目すべきは,SHIPING氏が指摘した,真の日中指導体制を築くための四つの条件です.@日本が過去の暗い側面にも積極的に眼を向ける.A日本は中国のバランサーとして,ヨーロッパにおけるイギリスのような役割を,アジアで果たす.B日本が軍事的な拡大に走ることは二度とない,と確認し,中国のメディアはそのことを国民に伝える.C日本も中国も,単独でこの地域を支配できるかのような幻想を明確に否定する.

中国の戦略研究者がこうした主張を新聞の社説で公にしたことに対して,私たちの政府も積極的な支持を表明して欲しいです.


FT November 17 2002

The last days of the Atlantic alliance

By Charles Kupchan

NYT November 17, 2002

The New Club NATO

By THOMAS L. FRIEDMAN

WP Monday, November 18, 2002

No Time to Go It Alone

By Alexandr Vondra and Sally Painter

FT November 19 2002

Nato's uncertain future

By Judy Dempsey

WP Thursday, November 21, 2002

Egos Over Europe

By Jim Hoagland

(コメント) バルト3国や東欧諸国のNATO加盟を承認したプラハ会議は,同時にNATOの機能不全を伝えています.Kupchanによれば,その理由は明白です.NATOの存在理由がなくなったのです.ソ連の脅威は消滅し,ヨーロッパは経済力をつけて安全保障を担えるようになり,アメリカはアジアや中東の安全保障に重心を移しました.NATOが世界的な機能を果たすには,ヨーロッパの軍隊がまるで不十分です.だから,NATOは隠居すべきだ,と考えます.

NATOの変身を説くFRIEDMANは,さらに鮮烈なイメージを示しています.NATOは戦闘指揮の機構ではなく,旧社会主義国の官僚制に依存した病弱経済を立て直すリハビリ・クラブになのです.他方で,新しい軍事同盟が結成されるでしょう.アメリカ,イギリス,オーストラリアという英語国と,同じくラグビーが盛んな!フランスも協力する,独裁者廃絶同盟"Nations Allied to Stop Tyrants"=Nastyです.Nastyは直接に共同軍事行動を行いませんが,各地の作戦を情報面などで相互に支援します.

ブラッセルのNATO本部に電話すれば,もうすぐ,こんな応答があるはずです.「はい,こちらNATOです.民主主義体制の確立をお求めの方は1番を,地雷撤去をお求めの方は2番を,化学兵器処理班をお求めの方は3番を,実際の戦争をお求めの方は,そのまま少しお待ちください.英語の話せるオペレーターがお手伝いします.」

Vondra and Painterは,アメリカとヨーロッパの違いがあっても,互いの協力は不可欠である,と主張します.ヨーロッパは,アメリカ抜きに安定した世界を維持できません.アメリカが完全な孤立主義に向かえば,ヨーロッパ諸国の内部でも,世界の他の地域でも,政治的・軍事的・経済的な対立や無秩序をヨーロッパは処理できないでしょう.他方,アメリカもヨーロッパを必要とします.軍事的な優位は,必ずしも安定を意味しません.政治的な反発から反米同盟が生じる危険もあるのです.たとえ優秀な軍事力を擁しても,遠隔地域で長期の作戦行動を行うことは政治的にも経済的にも困難です.中東と極東で,同時に戦闘が起きるかもしれません.アメリカは同盟国を必要とします.市民的秩序に対する,より拡散した脅威に有効な対抗策とは,今も,民主主義諸国の協調と団結です.

何がNATOを苦しめるのか?  Dempseyは,将来への不確実さだ,と言います.プラハ会議は,かつての冷戦が劇的に変わったことを示した点で象徴的でした.しかし,将来に向けて,多くの問題に答えは見つかりません.EUの軍事力はアメリカに比べて大幅に劣っているし,バルカン半島の平和についてはロシアと協力しなければなりません.アメリカの保守派はNATOが時代遅れであることを強調します.しかしアメリカ政府はNRF(NATO response force)を提案して,新しい役割を求めています.ヨーロッパの一部は,NRFがアメリカの国益を実現する道具箱に過ぎない,と批判します.ヨーロッパは,アメリカとの大西洋同盟を目指すのか,アメリカ・モデルに代わる別の道を目指すのか,決めかねているのです.NATOが第三世界と結ぶ関係も曖昧です.

ヨーロッパの幹部は,この会議でブッシュ氏がNATOの新しい使命を唱えるのではないか,と注目していました.しかし,それは語られず,未来は不確かなのです.

Hoaglandによれば,NATOを苦しめるのは各国のエゴです.特に,ドイツのシュレーダー首相が顕著に示すようになった一方主義的Unilateralismな反応は,NATOや大西洋関係を悪化させました.他方,ブレア首相は,独仏二国間でEUの交渉を済ませてしまう姿勢を批判し,ブッシュ氏はプーチン氏との個人的な信頼関係に大きく依存するようになりました.

集団的な指導力を機能させるのは,指導者個人間の信頼関係でもあるのです.

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The Economist, November 9th 2002

Japanese firms: Star turn

(コメント) 戦争やデフレの記事も関心を惹きましたが,日本に関するこの記事を,学生たちと話し合う際に思い出しました.どこに就職すれば良いか? これから何ができるのか?

東京株式市場が示すのは,ほとんどの日本企業が株価を下げている中で,僅かに上昇する企業もある,ということです.その特徴は,@業界の指導的な企業である.A国際戦略に優れている.また,デフレ経済では無理もないですが,B国際的なニッチ市場において成功した輸出企業である.そして何より驚くのは,C系列企業ではない,また同様に,D東京に拠点を置かない企業が多い,ということでした.

記事の主張は,日本政府は財政資金で企業を育成したり,市場に介入したり,救済したりするのではなく,本当に強い企業を育てるべきだ,ということです.企業自身に市場での生き残りを求めることが,最善の策だ,と言うのです.

デフレ経済に,ミクロの戦略だけを説くのは間違いだ,という批判もあるでしょう.しかし,デフレでも生き残れたのは,バブルや財政支援で拡大した企業でなかったわけです.学生たちにも,自分にも,学ぶべき教訓は単純です.