IPEの果樹園2002

今週のReview

11/18-23

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大阪の環状線で,私の隣には誰も座ろうとしませんでした.なぜなら,一人措いて隣にホームレスらしい男性が座って眠っていたからです.彼からは異臭が広がり,誰もが顔をそむける状態でした.かつて,貧しい者を社会から隔離し,差別し,襲撃し,断種した時代は,こうして誕生したのかもしれません.

もし彼がたっぷりの温かいお湯で風呂に入れたら,どれほど快適であっただろう,と思います.さらに,最低限の食事と住居が保障されていたら,彼はきっと社会の一員としての尊厳を保ち,自ら社会に貢献することを願ったでしょう.

しかし経済学者は,通常,これに反対し,その「合理性」は次第に社会的な常識となって,今では貧しい者を「甘やかさない」「処罰する」姿勢が世界中で強まっています.必要なら,貧しい者がいかに不健康で,危険な病気に感染しやすく,身体や人格を深く損なっており,しばしば凶悪な犯罪に走る「連中」であるか,を証明する統計数値を集めてくるはずです.

同じ頃,私の幼い子供が,嘔吐下痢の症状で,食べ物を吐きもどしては苦しくて泣いていました.たとえ彼が異臭を放ち,床を汚し,医療費や看護の手間を要する状態であっても,私は彼を家から追い出したり,環状線の座席に放置したりしません.病気になった自分の子供と,公園の隅で凍死するホームレスとの違いは何でしょうか?

学生たちと読んでいる『大恐慌のアメリカ』(林敏彦著,岩波新書)に,孤児から億万長者,そして大統領となったフーヴァーの,第一次世界大戦における慈善・救援活動が紹介されていました.「彼の脳裏からは,シラミ防止のために頭を剃られ,青白くおびえた顔の子供たちが,バラックや学校の建物の中で,全ヨーロッパがフーヴァー・ランチと呼んだパンとシチューを求めてブリキの皿を突き出す姿が離れなかった.」

偉大な人道主義者として登場したフーヴァー大統領も,アメリカの不況を解決する術を見出せず,国民の不満に答えることができませんでした.「すべてを失った人々が都市の公園や空地に木切れやダンボールで作ったバラック小屋の集落は『フーヴァー村』,新聞紙は『フーヴァー毛布』,引っ張り出された空っぽのズボンのポケットは『フーヴァーの旗』と呼ばれるようになった.」こうして今では,「フーヴァー・橋本不況」などと,頑迷な財政均衡論の失敗を揶揄したりします.

都市や郊外の裕福な者は貧しい者を嫌い,彼らを見ることさえも嫌います.こうした地域の支配や管理を担う者は,貧しい人々が集まることを怖れ,彼らが自分の支配領域から立ち退くことをひたすら願います.そして,ときには住民たちの要望を受けて,バラックの撤去や退去をも強制します.

もし貧しい者が,言葉も分からない,どこか遠くの貧しい国から来た,非合法な移民・難民たちであったら,彼らが「豊かな」社会から排除されるのは必然です.しかし,経済学の名誉?のために言えば,社会を全体として,長期的に,改善する方針を示すことも,私たちにはできるでしょう.彼らが能力に応じて職を得ることさえできれば,社会は全体として豊かになるのです.

政治家にとって重要な使命は,私たちの社会に一体感や正義感を持たせ,真実を語って正しい方向を選択する勇気を与える,人々の共感を呼び起こす言葉を発することだと思います.

それがホームレスであれ,非合法移民であれ,彼らを私たちの社会の一員であると認め,迎え入れる決意を固めるなら,私たちは彼らに暖かいお風呂を提供し,公共の食堂と住宅を利用する資格があると認めるほうが良いのです.あるいは,貧しい者を隔離し,差別し,襲撃し,断種するよりも,政府や企業が彼らを雇用するほうが良いのです.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg, FEER:Far Eastern Economic Review


FT November 4 2002

Lex: Federal Reserve

FT November 6 2002

Following the Fed

WP Wednesday, November 6, 2002

Dislodging the Fed Fantasy

By Robert J. Samuelson

BL 11/07 14:21

It's Time for More Glasnost at the Fed

By Caroline Baum

(コメント) FT LEXは,Fedが来週,金利を引き下げるべきだ,と主張します.確かに,新しい情報としては株価の下落しかありません.しかし,この先,消費が減少し,経済が急速に悪化すると予想されているからです.それにはECBを金融緩和に促すこと以外に,実際の効果が無い,と言うより,まだ引き下げる余地があるなら,今のうちに行うべきだ,と主張します.

ECBが,アメリカに指図されるのも,政治家に指図されるのも,嫌うのは明らかです.ECBはダチョウのように,頭を砂に突っ込んで恐怖から逃れようとしている,と非難するのは正しくないでしょう.ドイツ経済の苦境も,財政引締めも,構造改革も,ECBの責任ではありません.しかし,インフレの見通しがなく,極端な対外不均衡も無いユーロ圏で,潜在的に実現可能な生産水準を下回った状態が続くと予測できる以上は,もっと果敢に金利を下げるべきだ,とFTは指摘します.

edとECBが世界経済をどうやって救済するべきか,を議論するのではなく,Samuelsonは,こうした幻想が消滅する過程を予見しています.もちろん,彼はGreenspanがバブルを制御できないことについて議論しているのです.しかし,それは今でも不況を金利の上げ下ろし(あるいはインフレ目標や通貨供給量,為替レートの管理)で制御できるという「幻想」として生き延びているからです.

こうした幻想を操るというFedの魔法は,その短期と長期に関する見方が矛盾したまま,市場に曖昧なシグナルを送ることで強められるのかもしれません.Baumが求めるような,完全に透明なFedとは,アナリストと政治家と個人投資家による電子投票によって政策決定する,仮想空間の中央銀行総裁ネットかもしれません.

それは占星術師よりも民主的ですが,公共心に欠けているでしょう.


FT November 5 2002

'The membership fee is very high'

By James Kynge

(コメント) コンクレイブ(枢機卿たちによる教皇選挙会議)に擬せられる中国共産党の人民代議員大会は,たった一つのテーマを承認する会議でした.76歳から59歳への「世代交代」.代議員たちは議論することなく,「非常に不明瞭で,非常に帝国風で,非常にソビエト的な」儀式を執り行います.もちろん後継の国家主席を含む指導部は,前任者が信頼する,忠誠心に富んだ,現体制を堅持する人物が選ばれます.

しかし,この大会が示した意図的に曖昧な新しい方針は,中国共産党が資本家を含めた支配政党として生き残る道を開きました.三つの代表,「生産力を漸進させる,文化を前進させる,国民大衆の利益を前進させる」代表として,共産党は新しい多元的政治システムを目指す余地を示しました.もちろん,中国政府はソビエトの改革失敗を常に意識して,戦略を立てているでしょう.

ただし,記事はそれが多くの問題を内包することも示しています.共産党に公認される企業家は極一部であり,本当に独立した新興企業が増えることを望むわけでは無いのです.それどころか,ビジネスの世界でも,江沢民主席の息子が上海のIT業界を含めて様々な財閥を組織したように,政治家たちの介入,腐敗,汚職が蔓延していると警告します.

新しい指導部が改革路線をどれほど進めるつもりがあるのか,記事は疑っているのです.


FT November 5 2002

The Spratlys spat

1998年には,この島の領有をめぐって中国とヴェトナムが軍事衝突を起こしかけた.中国,ヴェトナム,台湾,フィリピン,マレーシア,ブルネイが関わるスプラトリー諸島=南沙諸島をめぐる領土争いに,中国がASEANと平和的な交渉で解決するという合意を結んだことは重要である.一方で,中国は東アジアにおける安定した秩序に対する責任を引き受け,アメリカや日本と共同の覇権体制に加わる姿勢を示すものである.また他方では,東南アジア諸国にとってのガリバーの目覚めが,この地域の安定した制度の網の目で覆われた状態に少しずつでも近付くものである.


NYT November 5, 2002

Demography vs. Democracy

By Steven Hill and Rashad Robinson

今回の選挙でも,多数の若者が投票しないだろう.1998年の中間選挙では,18歳から24歳の有権者の12%,18歳と19歳の僅か8.5%しか投票しなかった.

しかし,他方で,若者は以前よりもコミュニティーのボランティア活動に参加している.若者たちは無気力なのではなく,ボランティアと投票とを結び付けては考えないのだ.ボランティアは自分のコミュニティーを助ける行為であるが,投票が同じような感覚を彼らに与えない.

なぜ若者は投票しないのか? それは多分,彼らが政治システムの破綻について他の人々よりも強い不満を持っているからであろう.2000年の選挙に関して,若者の8割以上が特定の政党に結び付けて行動しなかったのに比べて,65歳以上の人口は二大政党のいずれかに結び付けた行動を採った,という報告がある.

政治家たちは若者よりも年長者を重視する.政治家は投票する人々に奉仕する.それは悪循環となり,まずます若者たちが投票しなくなる.さらに言えば,われわれの「勝者がすべての選挙民を代表する」方式が,政治的に破綻していることをこれは示す.接戦では,少数の投票行動ですべての選挙人数が入れ替わる.こうした集団を「スウィング・ヴォーター」と呼ぶ.彼らは誰に投票するか未定であるが,投票所に現れて,当選者を決める力がある.

年長者は,若者に比べて,こうしたスウィング・ヴォーターになる可能性が高い.大統領選挙で医療保険や処方箋医薬品への保険適用,社会保障が争点となったのも,それが理由である.もっと多くの重要な問題があったはずなのに,それらは無視された.なぜなら,われわれの政治システムでは,誰に話し掛けるべきか,誰を無視すべきかが,投票結果を決めるからだ.「もしあなたが65歳以下で,痛風でもないのなら,候補者たちはあなたに関心を持たない」という大統領選挙であった.

世論調査により,正しい目標有権者集団を見つけ出すことこそが,選挙になった.「人口学Demographyが,民主主義Democracyを殺した.もし正確な人口が分かれば,あなたは国全体にではなく,投票する人々だけに語るだろう.」若者だけでなく,民族的な少数派,貧しい人々も,候補者の関心から外されてしまう.われわれの選挙制度は,人々を細く刈り取って,「招待客のみ」の選挙に変えてしまった.

明らかに変化が求められる.他国で高い投票率を実現しているのは,比例代表制によって多数党による民主主義を行い,有権者に政治的な選択を行い易くしているからだ.選挙はより競争的になり,投票には候補者や政党を組み合わせて選択を示そうとする,より多くの有権者が集まる.

他にも,即時同点決選投票を認めたり,投票日を休日にしたり,事前投票や,選挙への公的支援を認めることが考えられる.こうした工夫を取り入れている国では,当然にも,より高い投票率が,若者にも,貧しい者にも,その他の政治システムから排除された人々にも示されている.

若者たちは政治システムの破綻を,老人たちよりも,強く意識している.だから,若者の投票率が下がれば,それを彼らの無気力と見なしてはならない.それが彼らの賢明さなのである.


NYT November 5, 2002

Stop Making Sense

By PAUL KRUGMAN

投票日とは,国民が不合理であるべき日なのだ.

その理由はこうだ.政治学者が言うように,投票は深刻な「フリー・ライダー」問題にさらされている.たとえA氏がB氏に勝つことが重要だと思っても,あなたが1票を入れて結果が変わることなどまず無い.だから,投票しなくても良い,と考える.しかし,もし皆がそう思えば,腐敗した特殊利益に結びつくB氏は,他の候補を退けて,代表になってしまう.

言い換えれば,候補者たちは選挙のために根本的に異なる公約を掲げ,あなたがある候補を他よりも非常に気に入っていたとしても,自分の都合だけ考えれば,わざわざ靴をすり減らして投票箱に出向く価値は無い,と言うわけだ.しかし民主主義とは,あなたが私的な利益計算を超えたところにある.もし国民が良い政府を望むなら,それを投票で示さなければならない.

もちろんいろいろな言い訳がある.どの政党も大して違わないとか.実際に,政党は1930年代以来ずっとかけ離れた存在になっている.そして民主党は臆病風に吹かれて,本当に思っていることを言えず,共和党は大嫌いな立場を採るふりをして,ごまかしている.

しかし,政党間には甚大な相違が存在しており,今回の選挙は,アメリカの今後数十年を決定するほど重要である.

たとえば2000年の選挙戦で,ジョージ・W・ブッシュは穏健なイメージを売り込んだ.最後には大衆がこの策略に気付いたが,ユダヤ人の退職者たちがパット・ブキャナンに入れたり,フロリダの投票からマイノリティーを締め出したりして,とうとうブッシュ氏がホワイト・ハウスに乗り込んだ.そこで彼の過激な思想が表面化した.それは有権者が好まぬものだった.

しかし,9・11が起こり,ブッシュ氏個人の人気は急速に高まった.彼の人気はすでに3分の2が失われたのだが,共和党はテロ後のブッシュ人気を利用し,上院を支配しようと狙っている.そうすれば彼の過激な国内政策が動き出す.

上院の多数支配は重要だ.これまで上院では民主党が1票勝っていたために,ブッシュ氏の求める国内政策は阻止されていた.企業への恒久減税策,高所得者への累進課税撤廃,司法における強硬派の指名,など.

しかし,選挙は人々が何を望むかよりも,投票を嫌がることに懸かっているようだ.分別のあるふりをしてはいけない.私的な利益を計算してはいけない.いますぐに部屋を出て,投票所へ向かうべきだ.そして皆に言うべきだ.アメリカの将来は,あなたの非合理的な熱意にかかっているのだ,と.


WP Tuesday, November 5, 2002

Government by Procrastination

By David S. Broder

たった今終わったばかりの中間選挙を一言で表すなら,それは「回避」(責任回避・言い逃れ)である.争われなかった論争が多くあり,真剣に議論されなかった問題が多くあった.

回避は昨年の冬に遡る.新しい国勢調査により選挙区が決まった.共和党と民主党の指導者たちは,互いの対立点を無視して,両党の現職者が守れるような区割りで合意した.こうして議席の10分の1が影響を受けた.

「回避」の原則は知事選挙でも明らかであった.これらの諸州は深刻な財政赤字を抱えていた.しかし,マサチューセッツからカリフォルニアまで,どちらの政党の候補者からも,増税や給付の削減という,厳しい現実を回避する話ばかりを,有権者たちは聞いた.彼らは連邦政府からもっと資金を取って来ると訴え,組織を立て直す,無駄を省く,などと訴えた.「増税は最後の手段だ」とある候補が言えば,敵対者は「私は絶対に税金を上げたりしない」と言い返した.

有権者は,彼らが何を言っているのか,知っている.

連邦政府も既に本土防衛で赤字に突入し,テロとの戦いやイラクとの戦争が待っている.議会は例年の予算も承認できず,既に連邦政府の部局は自動制御下にある.老人たちの医薬品,農家への補助金,学校,その他,有権者を喜ばせるための約束は,どうやって支払われるか,候補者たちは話そうとしない.

共和党は2001年の減税を大幅に楽観的な財政予測を基に恒久化したがっているが,民主党は戦略として減税を不可能だとしている.大きな問題を扱うより,候補者たちは敵のあら捜しを行い,失敗を利用した.何百万ドルもが,敵対する候補の非難キャンペーンと,それを非難するキャンペーンに費やされた.

民主党と共和党が五分五分の支配を確立した国では,どちらも重要問題に明確な立場を示さない.その代わり,彼らは解く敵の利益を刺激することで自分の支持になびくような投票者の隙間を目指して,小さな戦術を工夫する.

こうして政府はプロクラステスの寝台に縛られる.議会は問題を先送りし,本質的に,イラク決議案と同じことを言う.「それはジョージ・W・ブッシュに任せた」と.誰も,医療保険や社会保障の改革を,もうすぐ引退するベビー・ブーマーたちに説得する者はいない.

回避は,政治家たちの伝染病である.


FT November 6 2002

Gerard Baker: Bush gains victory from vulnerability

NYT November 6, 2002

Election 2002: Mr. Bush's Big Night

FT November 8 2002

Bush's new level of political power

By Gerard Baker

(コメント) FTのBakerは,何の争点も明確にならなかった,と総括します.疑わしい選挙で大統領となったブッシュ氏への信任でもなければ,イラク戦への支持でもなかったでしょう.重要なことは,それが1934年のフランクリン・ルーズベルト以来,上下両院で多数を制したという結果だけです.では,この結果をもたらしたものは何か? 減税? イラク決議? 結局,この選挙はブッシュ氏の人気投票でしたが,それは同時にアメリカ国民への9・11の深い影響を示す投票でもあったのです.国民は安全保障に関して,伝統的にこれを強調する保守派に対して,より強い関心を持ったわけです.こうしたアメリカの政治的な変化に,世界はまだ追いつけないでしょう.

NYTは曖昧です.ブッシュ氏の勝利に関して,何も語りたくないかのように,彼の戦略や共和党候補者への政治的肩入れに承引を認めます.選挙制度の欠陥も指摘しますが,国民は最善の選択を行った,と信じたい.政府は,そのように行動すべきだ,と強者の配慮に期待します.

Bakerは,翌日,ブッシュ氏の政治的な変貌ぶりを肯定します.9・11を経て,ブッシュ氏は対立する政党の上に立つ,誰にも争えない国民の指導者として現れた,と.共和党が実際に国民の多数の支持を得ていないとか,個々の政策が承認されたわけではないとか,ブッシュ氏が平凡な男であることなどは重要では無いのです.ハリー・トルーマンもそうでした.しかし,ひとたび大統領の職に就けば,彼は第二次世界大戦を勝利に導き,アメリカと世界を作り変えました.ブッシュにもそれができるでしょう.なぜなら,彼は9・11をものにして,国民に政治指導者として認められたからです.


WP Thursday, November 7, 2002

Democratic Catastrophe

By E. J. Dionne Jr.

民主党員たちは,ブッシュ大統領と争わずに選挙に勝てると思っていた.ブッシュ氏の政策と代わるものを示さずに,経済問題を非難すれば勝てると思っていた.ブッシュ氏のプログラムをいますぐ阻止する必要があると説明せずに,有権者は支持してくれると思っていた.民主党員たちは間違っていたのだ.

結局,ブッシュ氏の高い人気が重要であった.反対派の多くの議員も彼を賞賛する中で,なぜ有権者が政府に反対すると思うのか? スウィング・ヴォーターは動かなかった.動いたのは共和党の支持者たちだった.民主党は党派的に見えたし,他方,共和党は「(ブッシュと)一緒に働こう」という煙幕に包まれた.民主党の戦術は,医薬品への保険適用や,社会保障費など,多岐に渡ったが,明確なアイデアや勇敢さを示せなかった.

民主党ではおなじみの議論が起きるだろう.左派は民主党がもっと革新的でなければならない,と言い,穏健派は,民主党の中道的な政策が足りない,と主張する.こんな論争はナンセンスだ.

民主党員の多くは,ブッシュ氏の減税が財政を危機的な状態に陥らせ,必要な問題解決への財源を奪ったと信じている.しかし,そう言うのが怖い.環境保護から企業の不正防止にわたって,政府の規制が必要だと信じている.だが,そう言えない.ブッシュ氏の外交政策チームはバラバラで,対イラク戦争をしくじり,同盟諸国を離反させたと信じている.しかし,そう言うのは恐れている.

共和党は情熱を持って事態に対処している.資金提供者,ロービイスト,シンク・タンク,コンサルタント,トーク番組の司会者,草の根的な活動家たちの強力なネットワークがある.彼らは今や連邦政府も支配した.民主党員たちは,反対し,組織し,情熱を持って闘うことを学ぶべきだ.


FT November 7 2002

The emerging Democratic minority

By Michael Lind

傷を舐めながら,民主党員たちは共和党が連邦政府を使って支持を集め,戦争で高まったブッシュ人気を利用した,と不満を述べているだろう.しかし明らかに,その結果は,民主党の30年に及ぶ後退を示したものである.

現在のマクガヴァン民主党は反ヴェトナム戦争を掲げたジョージ・マクガヴァンが大統領候補となった1972年の党大会に誕生した.それ以前のルーズヴェルト民主党とは違うものだ.ルーズヴェルト民主党は,都市の工業労働者と地方のポピュリスト,郊外の進歩派が同盟を組んだものであり,南部や西部で強く支持された.他方,マクガヴァン民主党は,北東部と西部の都市政党であった.それは都市の黒人とラテン系移民たち,その子供たちを,裕福な白人リベラルと結び付けた政党であった.

マクガヴァン民主党は,誕生とともに死滅し始めた.なぜならアメリカの郊外化が進むときに,都市政党であろうとしたからだ.都市の有権者は減り,郊外の有権者が増えて行った.インナー・シティーの貧困問題や,ウォール街やハリウッドのエリートたちから資金集めすることは,中産階級の郊外居住者,すなわち現代の平均的なアメリカ人から見れば,関係の無い話だった.

民主党は都市に囚われたように,過去にも囚われた.多くの民主党員が産業革命のイメージを引きずり,時代遅れの重工業地帯に雇用を維持する保護主義を唱えて,消費者の利益を損なった.20世紀半ばの社会保障や医療保険を提案するばかりで,アメリカ社会が今も黒人と白人の対立で動いているかのように振舞った.

1970年代以来,民主党の最も革新的なアイデアは環境保護運動であった.しかし,それは代価を伴った.なぜなら,寛大な移民政策のおかげで,アメリカの人口がこの50年間で4000万ないし5000万人も増えるからだ.ルーズヴェルト民主党は,ヨーロッパからの移民を受け入れるために,大規模な開発を指示し,地方の電化や州をつなぐハイウェー・システム,郊外の住宅建設を支援した.しかし,環境保護派はこうしたことに反対し,移民に反対する.郊外から都市中枢を回復し,自動車を捨てて公共輸送機関を復活させる,環境保護派の示す時代錯誤の幻想に民主党は翻弄されている.

長期的にはラテン系移民が民主党に投票するだろう.しかし,共和党が連邦政府を握り,選挙制度や上院を支配する.しかも,ラテン系移民が加わっても,民主党の新しいアイデアや指導者は欠けたままだ.

短期的にはマクガヴァン民主党の見通しは暗い.モンデール元副大統領が進歩的なミネソタで敗北したのは象徴的であった.それは1972年のリベラリズムが2002年の保守主義に破れたのだ.民主党は30年間,政治的な才能を示さなかった.


NYT November 11, 2002 

Yawning Through the Changing of the Guard

By JIANYING ZHA

北京の友人に尋ねた. 「共産党大会? そんなことどうだっていいよ.私たちは忙しいんだから.」

1980年から働いていた国営工場を,昨年,首になってから,彼女は仕事を探している.彼女の娘は来年厳しい大学受験があるから,塾に入れねばならない.彼女の夫もタクシーの運転手を辞めて,証券トレーダーを目指している.彼女の友人の誰一人として,党大会の話などしていない,と.

それは全体主義政治体制が人々に無気力を強いたからか? しかし,中国の大衆は政治的緊張に対して行動してきた.毛沢東が1976年に死んだときや,1997年にケ小平が亡くなる前の,沈黙と緊張が満ちた街の様子を,私は知っている.

誰も江沢民の政策など,そんなものがあるとは思えないが,気にしないし,Hu氏のうわべの温和さがいつまでも続くのかどうか,と噂する程度だ.中国の指導者に対する大衆の態度は,ケ小平の猫と同じだ.黒い猫でも白い猫でも,ネズミを獲るのが良い猫だ.人々は,国の将来を称える詩人ではなく,マネージャーや管理人を望んでいる.実際,政治局員の半分はエンジニアとしての経歴を積んだ.

一人の強力な政治指導者が国を動かす時代は終わった.しかし,最後の強力な指導者,ケ小平の決めた方針は今も続いている.天安門事件から13年,南巡講和から10年を経て,市場改革は進み,中国経済のブームが革命への情熱を霧散させたように見える.市場社会主義であれ,権威主義的資本主義であれ,経済は人々の経済・社会生活を心の底から転換した.

そこで人々はある仮定を信じているわけだ.すなわち,もはや政治家の誰にも,WTO加盟や2008年オリンピック開催を逆転させるつもりなど無い.誰が中国の指導者になっても,この近代化された国の成長と国際社会への統合化を支持するほか無い,と.

誰も中国が再び毛沢東主義者に支配されるとは思っていないが,複数政党による自由な選挙がもうすぐ行われるとも思わない.Hu氏は改革を進めるだろうが,ゴルバチョフにはならないだろう.中国は進むが,少しずつ,ジグザグに進むだけだ.

友人にしつこく意見を求めると,「HuはJiangより良いさ」と言った.それがすべてだった.彼はすぐに映画の話をし始めた.


NYT November 8, 2002

Into the Wilderness

By PAUL KRUGMAN

NYT November 8, 2002

How Republicans Usurped the Center

By TOM FREEDMAN and BILL KNAPP

WP Friday, November 8, 2002

Losers in the War of Ideas

By Ted Halstead

WP Friday, November 8, 2002

The 30-Second Democracy

By Richard Cohen

BL 11/10 00:01

End of the World? Not Quite, So Calm Down

By David DeRosa

The Observer Sunday November 10, 2002

A dark week for democracy

Will Hutton

FT November 11 2002

Republican agenda

(コメント) KRUGMANは,政治的な勝利が失政を善政に変えるわけではないし,嘘を真実に変えるわけでもない,と断言します.民主党は,特に9・11以後,ブッシュ氏と争わない姿勢を続けて,共和党の優位をさらに強めてしまいました.ラジオのトーク番組や Fox Newsを支配する右派の強硬派は,対案も無いくせに,民主党は本土を犠牲にする気だ,と宣伝しました.民主党が何を代表するのか,そのメッセージを示さなければならない,とKRUGMANは考えます.それは,一握りの裕福な企業幹部ではなく,普通のアメリカ人の利益を守る,ということです.企業に対する減税を止めさせて,不正な会計を暴き,規制を強化することを,最初にはっきりと主張しなければなりません.

他方,TOM FREEDMAN and BILL KNAPPは,民主党の再生を公共政策における具体的な成果として示すことに求めます.なぜなら,国民は共和党と民主党の分割に従っておらず,共和党は両党の違いを曖昧にする戦略を採り,戦争をテーマとした選挙戦で大勝した政府は,これから具体的な公共政策の成果に全責任を負うからです.Halsteadも,民主党の減税案の方が共和党よりも優れていた,と言います.しかし,民主党はブッシュ大統領に論争を挑まなかった.民主党は,アイデアの戦争に負けたのです.

なぜ正しいアイデアが支配的ではないのでしょうか? Cohenは,30秒間のTV宣伝を問題にします.候補者たちは競ってTVにメッセージを流します.その内容のほとんどは戯画化され,過度に単純化されたものです.特に,税金に関する宣伝は影響します.「ジョーンズ候補は,13回も増税に賛成しました.」と繰り返しTVに流されれば,それが何に課税したのか,誰に課税したのか,何を税金に含めているのか,詳しい説明は要りません.増税が嫌なら,ジョーンズには投票するな,と言うのです.

しかも,30秒のスポット広告にかかる費用は莫大です.ニュー・ヨークで2万ドル以上,ロサンゼルスでは1万6000ドル以上します.その費用を賄うために,候補者たちは毎日,寄付集めの電話するのです.それがお金持ちであるのはもちろんです.アメリカの政治システムは,結局,いずれの党でも金によって歪められているのです.

DeRosaは,ブッシュ大統領の勝利を称え,大統領とアメリカ政治の完全な姿を観ているようです.他方,Huttonは保守派の衰退を待ち望んでいます.大規模な選挙は,問題の具体的解決策を見出すよりも,対立の再編を促す効果しかないようです.

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The Economist, October th 2002

The ghost of reforms past

(コメント) 世界第二の経済規模を持つ国が,デフレ経済の転換に有効な手を打たないことに対して,The Economistは皮肉な説得を試みるだけです.小泉首相は改革を体現しているのか,ゾンビ企業(本当は死んでいるのに動き回ってデフレを撒き散らす)を体現しているのか? 竹中案の骸骨だけを残して,問題はやはり先送りされ,さらに財政赤字を増やしてお茶を濁す.インフレと増税の先に,極右のファシズムという幽霊を見なければ,お化け屋敷は繁盛しない? とでも言いたそうです.

日本には長期停滞の徴候が濃くなっている.韓国と違って,巨額の貿易黒字と国内貯蓄がある分だけ,この停滞は将来も続くだろう.日本の企業幹部や政策当局は,互いに相手を非難して責任を回避できる.悪循環が日本を捕まえて離さない.政治家,官僚,銀行,企業,これらを互いに協力させてデフレから脱出するのは,指導者の責任である.竹中のハード・ランディング宣言も,その意味では歓迎だ.小泉首相が,いつものように勇敢な仮面だけで中途半端な妥協案を示さず,本当の顔を見せれば,ハロウィーンは盛り上がるだろうに,と.


Hong Kong’s currency board: What’s in a peg?

香港のドル・ペッグ制を放棄する議論が起きている.景気低迷,財政赤字,デフレの長期化は,ペッグ制の見直しを求めさせる.

中国経済との統合化は,香港にとって死命を決する問題だ.労働力や土地の値段は香港の極一部しかしない中国側と競争して生き残るには,両側で物価が調整しなければならない.為替レートが使えない以上,それは香港の物価が大幅に下落することを意味する.このことは,単に苦痛を伴うだけでなく,特に二つのグループにとって不公平だ.すなわち,価格の暴落する土地所有者と,賃金を切り下げられる未熟練労働者である.もしペッグ制を破棄して切り下げれば,調整コストを消費者に転嫁できる.さらに,金融政策の自由を回復して,景気を刺激できるだろう.

しかし,ペッグ制の支持者は反対する.まず,切下げは通貨制度を混乱させ,香港ドルを多く保有する貧しい者にとって大きな損失を意味する.次に,ドル建で90%の貿易を契約している香港の場合,切下げは輸出を刺激しない.最後に,香港のような小さな経済が,金融政策を自由に選択することなどできない.

完全な変動制は浮動的で金融センターの機能を損ない,シンガポールのような管理フロート制は政治的な介入と投機の餌食となり,切り下げてからドルに再ペッグしても市場の信認を得られない.長期的には,人民元と固定するだろうが,人民元が為替管理されている状態では考えられない.賃金や物価を通じて,実物経済の調整を促すしかないのである.そして,長期的には教育を通じて,労働者の生産性を高めることだ.