IPEの果樹園2002
今週のReview
11/11-16
*****************************
この数週間で,日本の政策論争はジグザグの転換,脱線,衝突を繰り返し,ピンボール状態で,ゲーム・オーバーの穴に吸い込まれたようです.
パニック無しに銀行のシステムが変えられる,と,本気で思ったかどうか,銀行が真っ向から反対することを政府が強制する前に,市場の評価は定まってしまいました.日本の改革は今度も失敗する,と.なぜなら,日本の政治家たちは,ひとりの代表が剣道で勝ち抜くのではなく,全員がゲーム・センターでピンボールに興じているから.
不良債権処理策で始まった論争は,公的資金による金融システムの刷新が論点ではなくなり,銀行の生き残りと,地域経済の維持,デフレ解消策に向かいました.日銀は,デフレ問題で矢面に立つことを恐れて予防策を採りつつも,インフレ・ターゲットや国債購入を求める論者に対抗できる,デフレ解消の魔法,を見つけられません.
政治家たちは,竹中チームが経済政策を独占するやり方に激しく反発しました.そして,大企業の支援・再生策を取り戻し,中小企業対策が必要なことも認めさせて,すっかり論争の得点コーナーを増設し,自分たちの土俵に合わせて書き換えたように見えます.客観的な基準が必要です,という官僚たちの抵抗も空しい感じです.
制度の解体を乗り切った政治家たちは,さっそく次の目標を補正予算や減税に向けています.政府は税制改革全体を土俵とした交渉に誘い込み,30兆円枠をなかなか譲りません.「シーラカンス」とも呼ばれた自民党税制調査会が党内の議員連盟と衝突するのは,確かに重要なことでしょう.
しかし私は,政治の世界に,二つだけお願いしたいです.1)与野党の改革派は,未来志向で,問題の解決を競争してほしい.2)もっと国民の政治参加を求め,その支援を求める.国会に行こう! 国会を観よう! と.
システムとして強制された過去の決定事項について,現在の個人が責任をすべて引き受けるかのように議論しても,改革そのものを潰す裏交渉が活発になるだけでしょう.責任は今後の成果について求めて欲しいです.そして,透明性と優れた成果に対して,率先して銀行や企業が取り組む場合に,優遇策を与えてはどうでしょうか.それを促す具体的提案を,与野党は競って提出するべきです.
誰が,そのような前向きの改革に取り組んでいるのか? 誰が,既得権や制度を悪用して,弱者救済を口実に財源を蕩尽しているのか? 国会は,国民全員から抽選して,毎週,特別見学者を招待し,政治家の日常や論戦の舞台裏,首相や大臣たちの実際の言動を,彼・彼女らが自分の目で確認できる予算を計上し,それを促す法律を定めて欲しいです.企業や学校は,彼・彼女が選ばれた際に,必ず一定の休暇と便宜を払い,仕事上の不利益とならないよう保証しなければなりません.そして,彼・彼女が望むいかなる見学要求も,最大限,尊重するよう要請しなければなりません.
国会からの出張要請で,議員会館に泊まり,ある人は特定の議員の一日すべてに同行し,他の人は委員会の質疑や官僚たちの資料作成を見学し,法案の提出や修正作業,政治家たちの研究会,飲み会,支持者や支援団体との話し合い,などを見学するのです.国会は,こうした見学者の理解を促す有益な助言,解説,研究について,熟達した専門家を養成しなければなりません.
自分たちが何をしているのか,もっと国民に知って欲しい,という強い姿勢が,非常に困難な選択のときにも,正しい政治家に指導力を与えると思います.
*****************************
ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg, FEER:Far Eastern Economic Review
FT October 27 2002
Mois駸 Na: A damaged brand
By Mois駸 Na
何が変わったのか? 1990年代前半には,新興市場から来る経済大臣がすべて同じパワー・ポイントでプレゼンテーションをした.彼らが話すと,それがワシントンであれ,ロンドンであれ,同じスライドを使い,同じメッセージを示し,同じグラフを見せるように感じた.その類似は不気味なほどであり,彼が来たのがロシアでも,ガーナでも,メキシコでも,同じであったのだ.
民営化,貿易自由化,規制緩和が,経済改革の基本要素であった.それは「ワシントン・コンセンサス」と呼ばれた.この投資家向け宣伝を聞けば,こうした改革を進めるすべての諸国で,同じ政策が採られたような印象を持つが,それは間違いであった.
実際は,包括的なスローガンと違って,政府の採用した政策は大きく異なっており,全く矛盾した政策を採る国も多かった.結局,流行のスローガンほどに,現実の政策は同質ではなかったのだ.
主観的なイメージが,ブランドにとって客観的な評価よりも重要なように,1990年代に普及したワシントン・コンセンサスは,外国の資本と財貨の洪水,即席の繁栄をもたらした.このブランドの魅力は,アメリカ資本主義とグローバリゼーションに結び付いた生活水準の向上であった.
政治家も国際機関もこのブランドを売り込み,幻想を振りまいた.そして,安易な改革への期待は失望に変わり,このブランドは世界中で非難されつつある.
「市場原理主義」,「野蛮な新自由主義」と呼ばれ,それは貧しい者をさらに貧しくし,世界を受け入れられないほど不平等にし,危険なまでに不安定化した,と責められている.多くの国で,民営化も,
自由化も,緊縮財政も,政治的に有害な発想となった.
それは不幸なことだ.ブランドが傷つくのは仕方ないとしても,そこには考え方として多くの真実が含まれていた.たとえば,水道業の民営化は貧しい者にも役立ったのだ.ところが悲しいことに,世界中で貧しい人々が2000年初めにはワシントン・コンセンサスを嫌い,10年前に受け入れたのと同じように,非難されている.
再び,民衆が求めることと政府の政策が乖離して,国民にはワシントン・コンセンサスを非難しつつ,実際にはそれを実行することを,政府に期待するしかない.
NYT October 27, 2002
Lessons From Japan About War's Aftermath
By JOHN DOWER
(コメント) 日本占領にはあったが,イラクに無いものは?
1.世界から占領の道徳的・法的な正当性を認められていた.
2.宗教的・エスミック的・部族的・地域的対立が無かった.
3.無条件降伏により,敗戦国として勝者の絶対的権威を受け入れた.
4.真珠湾以来,周到な占領計画が建てられた.
5.民主化・非軍事化のための大幅な制度改革が行われた.
6.島国として,近隣諸国の干渉が無かった.
7.本国政府はヨーロッパ再建に忙殺され,マッカーサーの占領政策に干渉しなかった.
8.日本には資源が無いから,外部の経済的利益による干渉が無かった.
こうした条件はイラクには無い,と.
さらに,占領によって日本人は物質的に追い詰められた生活状態を抜け出し,資源や市場に関するアメリカの国際体制に参加し,生活水準を改善できました.他方,中東地域の富は石油に依存し,パレスチナの紛争や専制君主の都合を無視できない中で,庶民の生活を目に見える形で改善することは,非常に困難かもしれません.
NYT October 27, 2002
A Rich Dollar Sustains Imbalances in the World
By TOM REDBURN
経済が躓いても,アメリカ人は生産する以上に消費し続け,4000億ドルの経常赤字を出している.金利は何十年振りかの低水準で,株式に投資するのは危険すぎる.ドルが減価すればよいはずだ.しかし,なぜドルが増価しつつあるのか?
世界経済で,他に投資する場所が無いからである.なるほど,一見,それは素晴らしいことだ.強いドルは強いアメリカを連想させ,愛国心をくすぐる.ドルが増価するほど,輸入財は安くなり,海外旅行も楽しい.さらに,他の主要諸国から輸出財を吸い込む掃除機として,ふらついた日本やヨーロッパを支えてやる.
だが,悪い面もある.特に,アメリカの製造業は外国の製品に対して競争力を失ってしまう.輸出は減り,失業が増える.アメリカ国内の保護主義が強まり,鉄鋼輸入を排除する関税や,農民への途方も無い補助金が増える.それは世界経済にとっても基本的な条件から乖離させ,危険な状態に向かわせる.「ドルが秩序ある減価を実現することが,誰にとっても非常に望ましい」と,カナダの中央銀行家David Dodgeは述べた.
なぜなら,世界経済はアメリカの消費者に過度に依存しているからである.アメリカ経済は世界経済の21%でしかないのに,1995年以来,実質成長の40%を占めた.この成長がアメリカ人自身の貯蓄が実現されていれば,問題は無いが,増大する財政赤字と家計の貯蓄不足は,それを許さない.Merrill Lynchの最近の報告書によれば,アメリカだけで,主要工業諸国の貯蓄の4分の3を使っているのだ.
今すぐどうなると言うわけではないが,この不均衡が調整されるには三つの方法しかない.「アメリカが他地域よりも深刻な不況に落ち込むか,他地域がアメリカよりも急速に成長するか,あるいはドルが大幅に減価することである.」
それは決してアメリカの失策では無い.ヨーロッパ経済はアメリカと同じ規模がありながら,ECBのドイセンベルグ総裁はインフレ抑制しか行わない.「ヨーロッパ人が自分たちの需要不足を輸出でごまかすつまりなら,自分たちは世界の指導的な経済大国だ,などと吹聴しないことだ.」
いずれにせよ,ドルの価値は下落する.アメリカ人が消費を減らし,貯蓄するだけでなく,世界中で苦しい調整が必要であろう.しかし,ドルが早く減価し,ヨーロッパや日本が自分たちの問題に早く取り組む方が,経済を不況に追い込むことなく,消費者は貯蓄を増やせる.
世界経済のバランスが回復する必要がある,というメッセージは,人気が無いとしても,早晩,避けられない」と,Morgan Stanley のStephen Roachは言う.
FT October 28 2002
Lex: Brazil
FT October 28 2002
Will Brazil avert a default?
By Richard Lapper, Raymond Colitt and Alan Beattie
BL 10/28 10:54
Brazil's Lula Turns to Ex-Guerrilla Dirceu to Prepare for Power
By Michael Smith and Guillermo Parra-Bernal
IHT /The Washington Post Monday, October 28, 2002
Let's see if the market wants democracy
Jeffrey W. Rubin
WP Monday, October 28, 2002
Leftist With a Free-Market Twist
By Mark Feierstein
FT October 29 2002
Brazil's new dawn
(コメント) 資本市場は,ダ・シルバ大統領,ルーラが愛すべき鬼であると認め始めたのか? レアルの価値は下落したが,それは基本的にアメリカの株価と並行しており,世界的なリスク回避の傾向を反映しています.しかし,とFTはルーラの前途を懸念します.IMFの緊縮策を嫌ってルーラに投票した人たちは,デフォルトを回避できるのか? 議会には様々な利益団体が縄張りを争い,内外の投資家はその価値を保証するよう求めています.もし証券投資が減れば,ブラジルの対外債務は支払えなくなるのです.たとえデフォルトを免れても,政府はリフレ策とインフレ抑制との間で,非常に難しい綱渡りを行わなければなりません.
レアルは今年になってドルに対して40%減価し,金利は20%を越え,特に公的債務の対GDP比は,1994年の30%から,60%に上昇しています.これは昨年末にアルゼンチンで繰り返し聞いた話に思えます.資本流入によって債務が維持されており,インフレも高金利も耐えられない.資本市場の不安を抑えようと,金利を引き上げて,結局,国内の不況が政治的な基盤を掘り崩してしまう.そんな既視感に囚われます.
アルゼンチンがドルとの1対1での通貨交換をカレンシー・ボードで維持したのに比べて,ブラジルは変動制ですから,ただちに崩壊するかどうかは分かりません.むしろ,問題はルーラの国内政治基盤と経済運営を債務負担が縛ることです.レアルの減価は政府に財政余剰を求め,高金利やインフレ抑制の方を,選挙公約や議会運営よりも優先しなければならないことを意味します.ルーラが現実的な路線を選択したとしても,彼の与党や支持者たちがそれをどう見るか? また,投資家やIMF,アメリカア財務省はどこまで彼を支持するか?
Michael SmithらによるBLの記事は,ルーラが意思決定する際に重要な助言を与えているJose Dirceuという人物に注目します.彼はルーラとともに労働者党を創設し,軍事政権下ではキューバに逃れ,整形して帰国した後,ゲリラ活動に加わった革命家です.しかし,ニュー・ヨークの銀行家たちと初めて会談した際に良い印象を与えたように,彼は柔軟で実際的な頭脳の持ち主であり,ルーラに副大統領候補として織物工場主のAlencarを推したのも彼でした.労働者党の中で中道寄りの政策転換を嫌った者たちは離党し,ルーラは今後さらに資本家たちとの話し合いを繰り返さねばなりません.
Jeffrey W. Rubinは,ボストン大学の歴史学の教授であり,ブラジル民主主義の調査に1年間従事した人物です.彼はブラジルの民主主義を,社会的な革新を通した平等な社会の実現へと向かう課題に取り組んでいると見ています.過去の軍事政権を倒し,経済支配をIMFや世銀のインフレ抑制や民営化によって解体した末に,いよいよ市場が経済的繁栄をもたらすはずでしたが,実際には債務の重圧や市場改革の行き詰まりに苦しんでいます.これを打開するには,ブラジル社会の困難な問題に答えること,民主主義と市場が,人々の生活を改善させる形で答えを見出すことが重要なのです.土地制度をどうするのか? 都市の貧困層をどうするのか? 劣悪な労働条件や労働者への教育をどうするのか? ルーラは革新的な政策を駆使して答えを求めようとしています.もし投資家がブラジルから逃げ出せば,また,もし社会的な分配をめぐって投資家が支配権に固執すれば,民主主義は挫折するでしょう.
あるいはFeiersteinは,ルーラの当選を自由化に対する承認であった,とみなします.彼が言うように,3回落選した後,ルーラは急進的な改革を放棄した上で,インフレ抑制や市場自由化を継承し,債務も支払うと約束したから,遂に4度目の立候補で当選できたのです.ただし,この点について,FeiersteinはRubinに比べて,21世紀の世界経済がイデオロギーの違いを超えて市場を尊重するのは当然だ,という風な高圧的文句で締めくくります.
選挙が終わったとはいえ,このまま推移すれば,ブラジルのデフォルトは既に時間の問題だ,とFTは警告します.公的債務負担,減価,金利上昇によって,既存債務の支払は持続不可能なのです.ルーラは市場の信頼を取り戻し,リスク・プレミアムを下げ,財政黒字を確保して債務比率を低下させなければなりません.新しい経済チームの任命が非常に重要です.そして,それに失敗すれば,債務を組替えるしかありませんが,これは非常に危険である,と注意します.なぜなら,ブラジルの金融システムが確実に全滅するだろうから,と.それは脳裏に焼け付くアルゼンチンの残像です.
FT October 28 2002
Japan's economy is not that sick, and a potential cure is at hand
By Peter Morgan (Chief Economist, HSBC Securities, Japan)
韓国に比べて日本のバブル処理は失敗だったのか? 私は,そうではない,と思う.
まず,日本は高齢化する成熟社会では例外的な率,すなわち0.9%で成長を実現した.それはドイツに少し劣るが,スイスよりも高い.次に,公的債務の対GDP比率が140%というのは,企業が債務を減らすためにデフレ圧力を生じていることから,必要な対応策であった.しかも1996年以後,公共事業は抑制されて来ている.債務残高は決して仰天するような水準では無い.その理由は,a)ほとんどすべて国内で保有されており,b)円建債務であり,c)約半分は政府部門が保有しており,d)大幅な経常黒字があり,e)日銀が無限に貨幣化できる.
日本政府の破綻を説く終末論者がいるにもかかわらず,その利回りは1%しかない.財政政策は引き締めすぎであり,緩和が必要だ.債務の処理や資本再配分には痛みが伴うが,金融政策・財政政策で可能である.それは,流動性の罠にある金融政策に比べて,容易なデフレ解消策でもある.
NYT October 29, 2002
Would Reform Ruin Japan?
By AKIO MIKUNI and R. TAGGART MURPHY
(コメント) いわば,三國陽夫とタガート・マーフィーの「外国人のための日本経済(危機)入門」のような話です.
日本の銀行は,企業の投資計画を審査しているのではなく,土地に貸している.だから,1980年代に政府が融資の拡大を促したとき(それはアメリカとの貿易摩擦やブラック・マンデーのせいだ,と書いてはいませんが,そういう意味でしょう),土地の価格は途方も無い水準に達した.つまり,皇居はカリフォルニア州よりも高額になった,と.
日本の金融システムは,それまで上手く機能していた.すなわち,戦後の産業復興を助け,自民党の支配する政治の安定性を供給した.しかし,融資が政治的に保護された業界に向かうようになって,土地による融資拡大は成長を破壊し,土地価格の下落は銀行システムを破壊した.
4000億ドルの融資が返済できないという事態は,銀行の破綻だけでなく,大企業の倒産を意味した.それは深厚な不況を意味し,自民党を含む既存の政治が崩壊する革命を意味する.いくら竹中が,小泉首相やアメリカ政府の支援を受けて,まじめに取り組んでも,まったく勝ち目の無い争いであった.日本の政治システムは,政策決定過程が封建的な領土に分割されており,改革に激しく抵抗する.
政治システムが苦痛の再分配を受け入れない限り,竹中の提案は進まない.むしろ問題は,こうした改革案が世界経済に持つ意味である.日本は全体として約3兆ドルのドル建資産を持つ.もし本当に銀行の不良債権が処理されるなら,その過程で預金が銀行から流出し,それに備えて銀行はドル建資産を引き上げるだろう.あるいは融資先の企業も返済のためにドル建資産を解消するだろう.それはドルの価値を暴落させ,金利を急騰させ,輸入物価を上昇させて,アメリカに不況をもたらす.
アメリカ政府は竹中の提案を支持する際に,こうした心配もしておくべきだろう.
NYT October 30, 2002
Grim Figures Cast a Shadow on Japan's Bank-Debt Plan
By KEN BELSON
BBC Wednesday, 30 October, 2002, 13:58 GMT
Japan unveils revival plans
FT October 31 2002
No end in sight
(コメント) NYTは,すでに空気の抜けたタイヤのように,日本の不良債権処理を見限っています.ここは「敗者の楽園」だ,と.他方,BBCは,政治的にまともな妥協策であり,総合デフレ対策として,産業再生,中小企業対策,失業対策,を組むことに共感する関係者たちのコメントを集めています.
FTは,"no pain, no gain"派と"no pain, no problem"派の対立として,竹中案の空文化を予想します.そして財政支出と金融緩和が再び行われ,効果も無いだろう,と.日本の政治システムは困難な選択を行えない.停滞が,完全な破綻に至るまで続く,と.
FT October 29 2002
Martin Wolf: Lula must make the boldest choice
By Martin Wolf
拝啓 ダ・シルバ大統領閣下
祝福とお悔やみを申し上げます.あなたの前任者はインフレを克服しましたが,同時に債務危機をあなたに残しました.投資家の信頼が得られなければ,この危機はさらに深まるでしょう.あなたの選択肢は一つしか無いのです.
ブラジルの公的債務はGDPの58%です.Williamsonによれば,国内債務の42%はドル建,8%はインフレ・リンク,37%は中央銀行のオーバーナイト金利にリンクしています.特に,巡航的債務の80%と,総民間債務の70%は国内です.それゆえ,デフォルトはブラジル経済を破壊します.
ブラジルの純対外債務は1720億ドル,GDPの40%,デット・サービス・レシオは驚異的な330%です.その多くがドルとリンクしていますから,レアルの40%に及ぶ減価は致命的です.また,アメリカ財務省証券と比べたブラジル政府債の金利差は,今月初め,7%から23%にまで上昇しました.ドルとリンクした民間の重債務と高金利,そして通貨価値下落は,死のカクテルです.おまけに成長率が低下してきました.
あなたの選択肢は,1.債務の支払なんて無理だ,というあなたの支持者たちといっしょに,債務不履行の混乱を受け入れる.金融システムは崩壊し,金融が枯渇し,経済は深刻な不況になるでしょう.あるいは対外債務だけを不履行にする? 為替管理を行い,対外債務を負う民間部門が破綻する.貿易信用が失われ,ブラジル経済は封鎖される.
選択肢2.IMFが9月に行った304億ドルの融資条件を守る.しかし,Mussaも言うように,この条件は既に市場で無意味とされています.結局はデフォルトへの道です.
最後に,選択肢3は,もっと大胆に,あなたが新しく選出された大統領として,その権威を振るうことです.あなたは支持者たちに,デフォルトのもたらす恐慌と,彼らがその最大に犠牲者になる,という真実を教えなければなりません.ブラジルの課税システムであれば,貧しい者を苦しめずに,大幅な財政黒字は可能です.そのコストはデフォルトよりもずっと小さいでしょう.
政府は民間機関を説得して,合理的な金利で債務を借り替えさせねばなりません.韓国が1998年にやったように,開発諸国の政府を通じて,外国の金融機関にも同じことをしてもらわねばなりません.そして次第に輸出が伸び,成長が回復すれば,市場の信頼も回復し,金利が低下して,通貨価値は上昇するでしょう.G7も,自分たち自身のために,追加の融資策をまとめるでしょう.
あなたはブラジルを,安定した成長と健全な財政の国に導かねばなりません.そうして初めて,あなたは貧しい者を助けることができるのです.
どうか正しい選択を示されますように.
敬具
FEER November 7, 2002
URBAN POVERTY :Nothing More To Lose
By David Murphy/SHENYANG
(コメント) 都市の貧困層が増加することは,一方で国営企業の整理,他方で農村部からの移民流入によって,止められないものとなっています.労働争議が増え,政府は陰で労働者たちと交渉し,あるいはストライキを弾圧する一方,失業者への最低生活費を保証する給付の対象を拡大しようとしています.ただし,それも豊かな都市だけができることであり,その意味でも,労働者の移動を抑えようとします.民間部門が拡大し,さらに外資系企業や輸出への依存が増すことは,政府がコントロールできない部分を増やします.そして,アメリカ西海岸のストライキが続いたり,イラク戦争が始まって石油価格が高騰したりすれば,失業問題は悪化するのです.
「Hunan から来た13歳のLiang Xiaomin少年は,北京西部のファッショナブルな通りでバラの花を売り,それで何とか生活している.深夜,彼は使い古した自転車をこいで,10キロ離れた西駅の近くにあるレンガ造りの部屋に,他の二人の少年と集まる.夫婦が彼らを雇っている.なぜ北京に来たのか,と彼に尋ねると,『家には金が無いし,それに,6分の1ヘクタールの畑を家族で耕しているより,ここに居るほうが楽しい』と答えた.」
WP Thursday, October 31, 2002
Ripple Effects of the War Rhetoric
By Jim Hoagland
(コメント) レトリックに潜む危険をブッシュ氏は十分に意識しているでしょううか? テロとの戦い,悪の枢軸,といった激しい表現を好むブッシュ氏は,国内政治で優位に立てるかもしれません.しかし,同じ表現をプーチン氏はロシアで,江沢民氏は中国や香港で,どのように使うでしょうか? あるいはメキシコのフォックス氏は,安全や安定性を強調するブッシュ氏が,アルゼンチンを見殺しにし,メキシコ移民や貿易に関する協定を無視していることに不快感を示します.外交政策には,もっと巧みな協力関係が必要なのです.
The Guardian, Friday November 1, 2002
A ghoulish remnant
Larry Elliott
(コメント) Elliottは,安定協定が間違っていることを認めて,それを訂正できないEMUやECBの将来を悲観します.
不況になっても財政赤字を削減して景気を回復できると信じたのは,サッチャー時代の狂信的マネタリストだけでした.どうしてそんなものがヨーロッパで復活したのか? 「ドイツが望んだから」である,とElliottは指摘します.ドイツ政府は,国民とドイツ連銀に,マルクを諦めさせるため,厳しい財政規律を約束させたのです.そして,それに従って財政赤字を削った小国たちは,今になって赤字の限度を破りたがる大国に納得できません.
その気持ちは分かるが,しかし,もはやドイツはヨーロッパ経済のエンジンではなく,アジアにおける日本と同じように,病人である.サッチャー主義に戻って,インフレではなくデフレの迫るヨーロッパで,ひたすら構造改革を主張するのか? それとも,景気を考慮した形に改訂するのか? しかも,三つの大国が協定を愚弄する形でユーロの解体に向かう危機を招かずに.
BL 11/03 00:13
Brazil's Unions See Payday in Lula's Victory: David DeRosa
By David DeRosa
ルーラの選挙公約,最低賃金の倍増は,誰の利益になるのか? それを労働組合が支持しても,多くの人々は苦しむだろう.
ブラジルは貧富の格差が大きな国であり,公式の経済活動に従事できない貧困層が非常に多い.彼らは最低賃金が何であれ,常に貧しい.もしそれを引き上げれば,運良く公式の経済部門で賃金上昇を得られる者も居るだろうが,より多くの者が公式の部門を解雇され,非公式な部門で職を探すしかない.
ルーラは,国民の支持を得たいのか? それとも恵まれた組合員だけか?
NYT November 3, 2002
Global Issues Flow Into America's Coffee
By KIM BENDHEIM
NYT November 3, 2002
Outside Halls of Power, Many Fear Free Trade
By EDMUND L. ANDREWS
NYT November 3, 2002
45 Nations Set to Back Rules on Illicit Diamond Trading
By ALAN COWELL
(コメント) 「自由貿易」vs.「公正貿易」,貿易の拡大,南北アメリカ自由貿易圏,NAFTA,地域経済圏,などが同時に主張されます.コーヒー農家が貧しい生活を抜け出すためには,バークレーの学生たちが言うように,公正な価格でコーヒーを売るべきなのか? それではむしろコーヒーの消費を減らすだけで,貧しいコーヒー農家を救えないのか? 内戦地帯から輸出されるダイヤモンドを買って,略奪行為や紛争の長期化に利用されていないか? より多くの輸出を望むけれども,どの国も輸入は喜びません.様々な関税と障壁,産業政策によって,輸入と国内生産とが対立します.・・・国際会議の行方は,期待されるほど先に進まないようです.
NYT November 4, 2002
For Turnout Turnabout
By WILLIAM SAFIRE
選挙結果が何によって決まるのかはわからないが,投票率が非常に重要なことは誰もが知っている.なぜ投票率は下がったのか? ネガティブ・キャンペーンのせいかもしれない.どうせ投票したって,政治は変わらない,と有権者は思っている.
とんでもない話だ! 金をもらっている奴しか投票に行かないなんて.古代ギリシャの賢人ドラコのように解決を示すときだ.
1.投票を簡単にする.たとえば投票日までに,すべての有権者を不在者投票扱いにして,郵送で投票させる.あるいは,民主党が喜びそうだが,e-mailで投票させる.共和党なら,コンピューターの所有者だけに制限するかな? (貧乏人は投票できない・・・)
2.投票を強制する.「サダム式解決法」は,100%信認の悪夢と言われる.しかし,投票しない者から100ドルの罰金を取ってはどうか? クレジット・カードから自動的に支払わせ,あるいは公的給付から削る.金持ちは投票するより金を払う.そして機転に富んだ民主党員は喜ぶ.
3.税金を申告する際に,必ず投票済みの証明書を求める.投票した有権者には100ドルを渡す.投票用紙が100ドル札のベンジャミン・フランクリンに見えるだろう.
4.投票率を下げている障害を解消する.投票箱をショッピング・モールにも,大学キャンパスにも,コンピューター・カフェにも,映画館にも,ビンゴ・ゲーム場やアヘン喫煙所にも置く.エンターテイメントを取り入れ,若者を呼んで,投票日はTVもラジオも,もちろんトーク・ショーも,一切放送しない.投票するしか楽しいことは見つからない.
想像して欲しい.フロリダの投票日.ビーチには誰も居ない.ディズニー・ワールドも空っぽ.皆がプールから出て投票する.誰が勝つかは神のみぞ知る.しかし,投票率が高ければ,それこそ民主主義の勝利だ.
******************************
The Economist, October 26th 2002
Charlemagne :Reforming the EU’s stability pact?
(コメント) モーゼに扮したプロディー委員長が,安定協定の刻まれた石板を振り上げて,今から地面に叩きつけようとしている風刺画が載っています.
今後の協定の行方は,@経済規模に対して相対的に小さな債務額の国には赤字を認める.しかし,イタリアは困る.A協定条文にある「投資」の枠を拡大解釈する.多くの国が望まない.B3%枠を止めて,5%とかにする.15ヶ国の完全な合意が必要.C罰金は算定するだけで,取らない.ポルトガルだけが反対.
インフレと財政破綻,ユーロ解体に向かう,と警告する者もあれば,インフレと切り下げこそ必要なのだ,と言う者も居ます.「習うより慣れろ」という幼稚園の教訓がちょうど良い,と.ただし,ヨーロッパ経済の回復にはつながりません.
Southern Africa’s customs union: Led by example
(コメント) 南アフリカのムベキ大統領は,豊かな国からの支援や開発計画が失敗したことを受けて,南アフリカ経済の統合化を目指し始めたようです.関税に関する透明なルールを共有し,貿易政策も共同で作って,アフリカのビジネスを励ますのです.この関税同盟(SACU)は,アフリカの裕福な5000万人を擁しています.SACUは市場を互いに開放し,それゆえ,マクロ政策から競争促進法まで調和させます.通貨は南アのランドが実質的な共通通貨になるでしょう.すぐにEUができるとは思わないが,同じ過程を目指す,と言います.
しかし,関税は政府の重要な収入源ですから,政府は所得税や取引税などに歳入を求めなければなりません.しかし,こうして財源が広がれば,政府は安定し,貿易も増えて,より多くの投資が集まるだろう,と記事は賞賛します.