IPEの果樹園2002

今週のReview

11/4-9

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ジェイコブ・チャン監督,レスリー・チャン主演の香港映画『流星』(1999年)を観ました.4歳の少年ミンを育てる男性,ウェイは,かつて株式市場の一流仲買人でした.彼は1997年のアジア通貨危機で,資産も,友人も,恋人も,すべてを失った夜,捨てられていた赤ん坊を拾うのです.

この子を育てるために,ウェイは定職に就かず,船の掃除や配達のような臨時の仕事だけで,貧しい生活を続けます.彼の住まいは,両親を早く亡くし,夫にも死別した,心優しい婦人,ランが民間の老人ホームを営む,古びたビルにあります.そのビルの屋上で,ウェイはミンと暮らし,ミンと一緒に屋外の風呂に入り,天体望遠鏡で流星を観るのが楽しみです.

街で,昔の仲間がウェイを見つけ,もう一度一緒に仕事をしよう,と持ちかけます.月に10万ドルで為替を売買するディーラーをしないか,と言うのです.幼いミンが,貧乏をなじる大人の口真似をするのを叱りながらも,ウェイの周囲には,善意でミンの将来を心配し,彼にもっとミンのためになるような仕事をしろ,と忠告する人たちがいます.ウェイは,再び,仲間の職場に向かいました.しかし,もう彼には,架空の売買を,ゲームとして繰り返す,金融市場の仕事ができないことを悟るのです.

ミンを捨てた女性は,その後,香港の資産家と結婚し,死別した夫の遺産を受け継いで,孤児のための基金を作ります.「生活するのに疲れました.お金持ちの人に拾ってもらえれば,この子が幸せになれるから.」というメモと一緒に,かつて捨てた子供のことで,彼女は苦しみ続けていました.彼女は自分の子であると知らずに,4歳のミンと出会い,ウェイとの生活に関心をもちます.彼女はランの老人ホームと託児所にも寄付をしたい,と申し出ます.

ウェイは仕事よりもミンとの生活を選びますが,正式な養子の法的手続きをとっていなかったために,彼からミンを取り上げようとする官吏たちと争いになります.一方,老人ホームを営むビルのオーナーであるランは,病気をこじらせ,十分な医者にもかかれずに,とうとう亡くなってしまいます.彼女に思いを寄せていた親しい警官は,彼女の死を深く悲しみ,この街を去ります.その前に警官は,ウェイに会って,寄付に来た裕福な女性が,ミンの本当の母親である,と教えます.ウェイは,それでミンが幸せになれるなら,と,最後に,本当の母親にミンを返すのです.

こんな映画の話を,どうして長々と書いているのか? と言えば,私はウェイとミンとの愛情を描く映像と音楽に,何度も,涙で息が止まったからです.私は,この「シンデレラ」と「醜いアヒルの子」と「竹取物語」を混ぜたような,現代のおとぎ噺を,決して笑う気になれません.アジア通貨危機の喧騒から始まって,元金融ディーラーが下町に生きる姿.子供を捨てるしかない貧しい女性たち.露天商や占い師に話し掛ける世話好きの警官.階段だらけの細い通りで遊ぶ子供たち.何人もの老人の面倒を見ている婦人と,彼女を助ける心優しい人々.こうした情景を優れた映画にできるのは,それを真実の断片として,優れたストーリーが作られ,真実として演じることのできる,優れた俳優が香港で育つからでしょう.それは,世界都市・香港の現実だからです.

かつて同じように貧しかったアメリカを急速に変えたのは,社会改良への情念に燃えた開拓者たちの心性と,それを実現した空間的・社会的な高度の移動性があったからです,と私は講義で話しました.香港はまさに,失われ行く最後のフロンティア,猛烈な自由と,ジェット・コースターのような貧富の格差を生きる人々の,苦しみと喜びが詰まった土地なのです.それを確かな希望にしたのは,流れ星のようなミン少年と,彼を愛するウェイの姿でした.

日本の映像や文学は,今,何を描いているのでしょうか?

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg, FEER:Far Eastern Economic Review


LAT October 20, 2002

Preventive Attacks Fail Test of History

By Robert Dallek and Robert Jervis

ブッシュ政権は,サダム・フセインへの攻撃を潜在的な脅威への先制攻撃と認めている.ソビエト連邦を倒した抑止も封じ込めも,大量破壊兵器を用いるテロリストたちには無効であり,フセインがそれを供給する,と.

これはもっともらしい議論である.イラク攻撃は先制攻撃ではなく,見えないし,現在はまだそうでないが,将来の,疑わしい脅威に対する予防的攻撃である,というわけだ.それは言い回しだけの問題では無い.近年の歴史におけるアメリカの予防的攻撃で,大きな成功をあげたものはない.

先制攻撃は,差し迫った脅威に対して行われる.ジョン・F・ケネディー大統領は,1962年のキューバ危機で,そびえとのニキータ・フルシチョフにキューバからミサイルを撤去させた.しかし,ケネディーの予防的な行動には,軍事行動が含まれていなかった.彼の顧問の中には,ミサイル基地を空爆せよとか,軍の上陸を進言するものが居た.しかし,ケネディーは,空爆による国際的な非難や,1950年の北朝鮮のような予想外の事態を避けるために,そのような作戦は採らなかった.

他方,1961年のピッグズ湾襲撃は,国家防衛委員会の憶測がもたらした先制行動であった.キューバからの避難民にアメリカが資金と武器を与えて,キューバに送り込んだ.CIAと軍事顧問たちは,ケネディーに,フィデル・カストロがこのままでは権力を強めてしまう,今のうちに倒さないとラテン・アメリカに共産主義を拡大させるだろう,と警告した.それはカストロの意図や能力に関する彼らの憶測に依拠した評価であった.実際には彼らの警告には根拠がなく,カストロは封じ込められた.

先制攻撃の基礎となっている,フセインが9・11に関わったとか,テロリストに武器を供給しているという証拠は弱いものだ.むしろ,CIA幹部が証言したように,もしフセインが現実に大量破壊兵器を使用するとしたら,イラク攻撃が確実となったときであろう.われわれのイラク攻撃が,フセインに対する抑止力を失わせる.

これまでアメリカは多くの先制攻撃によって人命を失い,資金と国際的支持も失ってきた.1953年,イラクのモサデク政権が成立した際,彼はイランのナショナリストであり,冷戦の中立派であったにもかかわらず,アイゼンハワー政権は彼を疑った.彼がソビエト側に付くのを「予防した」ことは,アメリカへの敵意を強め,結局,1979年にイスラム過激派を勝利させる条件となった.

ピッグズ湾襲撃の結果も悲惨であった.200名の亡命キューバ人が死亡し,約1200人が2年以上もキューバの監獄で暮らしました.アメリカの立場は世界に対して弱められました.カストロへの妨害は,フルシチョフにキューバの同盟国にミサイルを送る口実となったのです.

1965年のドミニカ共和国への侵攻と征服も,アメリカにとって大きなコストとなった先制攻撃である.ジョンソン大統領は,海兵隊を送って,新米的な保守派の政府を「左派の」反乱軍から守った.彼はこれを共産主義者による乗っ取りの脅威を取り除くために必要だ,と主張した.反乱軍は1500人も民衆を殺害し,アメリカを含む多くの大使館を襲撃した,と述べた.こうした非難が誇張されたものであると判明し,大統領は信用を失った.

ヴェトナムはアメリカの行った先制攻撃の最悪のものである.ジョンソン政権は共産主義の北ヴェトナムが南ヴェトナムを吸収するのを防ごうとした.しかし,ジョンソンの戦争目的は,共産主義を完全に押さえ込むため,さらに拡大した.しかし,ベルリンやサンタ・モニカがそうであるように,東南アジアも1975年のハノイの勝利で共産主義に飲み込まれはしなかった.19世紀,イギリスの優れた政治家,Lord Salisburyが言ったように,妄想によって戦争に走ることが賢明であるはずがない.

アメリカの先制攻撃が必ず失敗に終わったというわけではない.メキシコにおけるアメリカ・スペイン戦争,1983年のグレナダ,1989年のパナマなどは,比較的容易であった.しかし,これらは本土に近く,数千数万の軍隊をアメリカへの怒りと憎しみに染まった土地へ運ぶのとまったく異なる.

大統領は,フセインが核兵器を作るなら,脅威はますます強まる,と言う.しかし,危険は,無くせないかもしれないが,封じ込めることができる.リビアがその例だ.西側の同盟諸国と国連による制裁,軍事的威嚇によって,カダフィは方針転換を行った.体制を転覆しない限り,ますます脅迫されるというのは間違いだ.


FT October 21 2002

America's deficit, the world's problem

By Richard Clarida (assistant secretary for economic policy at the US Treasury)

(コメント) アメリカの経常収支赤字が問題になれば,景気の減速を求めたり,金利水準の維持という制約を連銀に課したりするよう,主張されかねません.さらに,「アメリカは世界の貯蓄を吸収し,自分たちの戦争や経済再生に利用しているだけではないか?」と非難されるかもしれません.財務省の幹部は,このような考え方を退けようとしているのです.

Claridaは,まず,経常収支赤字はその国の貯蓄と投資の差額を示すものであって,赤字でも黒字でも善悪の問題ではない,と言います.資本取引は自由であり,変動レート制を採用しているアメリカのような国は,経常収支が資本市場で決まるのを受け入れているだけである,と政府の責任と切り離します.

では,なぜアメリカの赤字はこれほど大きいのか? その理由は,アメリカに比べて他の世界の成長が低すぎるからだ,と言います.実際,ヨーロッパや日本の変調は,アメリカに資本が集中する理由として最適でしょう.他方,Claridaは,アメリカがこの資本流入を非常に安価に利用できていることを指摘します.2兆ドル,GDPの20%におよぶ対外債務を,わずか121億ドル,0.6%の負担で利用しているからです.

その理由は,日本の低金利か? と思えば,そうではなく,直接投資FDIの収益力である,と説明します.つまり,アメリカのFDIは,外国がアメリカに行うFDIに比べて,はるかに多くの利益を上げている,と.これは,しかし,アメリカのFDIに比べて,アメリカへのFDIがより新しいからでは無いのか? と思います.

Claridaは,証券資本の世界的プールが投資先を探しており,他の世界の停滞を見れば,アメリカに安全と利益を期待するのは仕方がない,と言います.そして,その対策は,アメリカが経済政策を変更することではなく,ヨーロッパや日本に改革を促し,新興市場にも証券資本に対する魅力を増すような努力が必要だ,と主張します.

@アメリカは世界の資本を引き寄せますが,それは他の世界の経済運営が失敗しているからである.Aアメリカに集まった証券資本は,アメリカ企業によって,より有効に世界中で利用されている.Bアメリカの赤字は,他の世界が改革を進めることで解消されるのが望ましい.これがアメリカ財務省の経常赤字肯定論であり,黒字国への調整促進論です.


FT October 21 2002

Japan must face property pain

By Nicholas Rosen

(コメント) これは読者からFTへの投書です.日本経済の根本問題を直さずに,不良債権だけでは解決にならない,という意見にRosenは反対します.

資産価格の下落が問題の根本であった,という点に,彼は同意しないからです.そもそも日本の資産価格は,土地価格の上昇と融資の拡大によって生じたバブルでした.だから,これが解消されるのは良いことです.(「まったくそうだ!」と思って,この投書を取り上げました.)

実物経済が繁栄するためには,人々が仕事を得て,住宅を買えるために,土地の価格は下がらなければなりません.倒産は辛いことですが,銀行や他の企業が不健全な企業を永久に生き延びさせることはできません.日本はもっと減税し,同時に土地への税金を増やすべきでしょう.そうして地主に土地の有効な(雇用や住宅をもたらす)利用を促すのです.そうすれば,(倒産した企業から)失業者が増えても,彼らは新しい工場や商店,建設途中のビルや新しいビルに仕事を見出せるのです.

不良債権(過剰債務)もデフレーションも,本当の問題では無い.日本人は,土地が基礎的な生産要素である,ということを思い出せ,と.


IHT Monday, October 21, 2002

Open markets, but look after the losers

Supachai Panitchpakdi (director-general of the World Trade Organization)

(コメント) 第三世界から初めて主要国際機関,WTOの議長となったタイのSupachai氏は,開発問題が新ラウンド開始の重要な条件であったことを確認します.

グローバリゼーションは,その敗者を救済する制度も整備しなければ持続可能では無い.タイはグローバリゼーションによって貧困を減らすことができた.しかし同時に,世界市場に参加する過程で,各国それぞれが,競争に耐えられない農民や中小企業の救済と改革支援に取り組むであろうし,これがWTOのルールにも適うものでなければならない,と.


BL 10/21 05:13

Five Ways to Play Europe's Expansion East: Matthew Lynn

By Matthew Lynn

FT October 22 2002

Quentin Peel: Selling an expanded Europe

By Quentin Peel

(コメント) ニース条約成立おめでとう? 2004年にポーランド,ハンガリー,チェコを含む10カ国がEUに参加する.でも,何が変わるのか?

Lynnの指摘に,私は驚愕しました.ユーロ経済圏に7500万人が加わる,ということではなく,その結果に関する予想です.EUは,裕福な諸国のクラブであったが,今や,裕福な国と貧しい国との眼を見張る対照に依拠したクラブになろうとしています.

リトアニアの3245ドルから,ルクセンブルグの4万2891ドルまで,新しい拡大EUは,単一通貨を持たないNAFTAよりも一人当たりGDPの格差が大きくなります.そして,EU市場の形成は,参加国の産業を劇的に変化させます.今では,アイルランドがイギリスやドイツよりも豊かになり,スペインのBanco Santander Central Hispano SAの方が,ドイチェ・バンクよりも株式の市場評価額が大きいのです.

これから起きる大きな変化に対して,投資家は何をなすべきか?

1.   ユーロを買え.新加盟国は条件を満たせばユーロを採用します.それがユーロを弱くすると心配する声もありますが,Lynnは,これらの諸国のインフレ率が低く,財政赤字削減は強いられないだろう,と考えます.そして世界の準備通貨としてドルに代わる地位を明確にし,ユーロの運営は容易になる,と言うのです.

2.   東ヨーロッパの株式や債券を買え.アイルランドの例を思い出せば,ダブリン市場は1983年の300から現在は4000以上に達しています.同様のキャッチ・アップが起きるだろう,とLynnは考えます

3.   資本と労働力の移動によって利益を得られる株式を買え.企業が東に移転すると予想しても,それは既に行われてしまいました.むしろ,これからは東欧の若い労働力が西に移動するでしょう.ホテルやレストラン,建設業など,突然の安価な労働力によって賃金が安くなり,利潤を増やすでしょう.

4.   この結果,労働者は損失を強いられ,豊かな中産階層は利益を享受するでしょう.すなわち,資本と労働力の移動性が高まることは,貧しい東欧の労働者と,豊かな西欧の住民に利益となるが,西欧の労働者には損失となるだろう,とLynnは言うのです.

5.   即座に潤沢な投資を受け取るのはインフラ部門である.東欧の建設には大量のセメントとエネルギーが必要です.東西間の貿易にはもっと多くの郵送網が整備されるでしょう.その過程では,ロシアの石油・ガス部門が大きな利益を受けるのです.

経済統合とは,これまでの政治的なパズルが溶解して,まったく思いもかけないところに新しい産業が出現することなのです.

こうしたLynnの楽観論が,今のEUの迷走と悲観論をどのようにバランスさせるのか,たとえば最近のThe Economistは,明確に悲観論を唱えています.

もし悲観論が強いのであれば,なぜ拡大は承認されたのか? Peelは,ヨーロッパの「新しい現実」を受け入れた,政治の可能性をそこに見ます.それは,再統一後,ドイツがEUの財政負担を担う時代は終わった,ということです.

EUの拡大を支持するとしたら,過度の楽観や過度の悲観に流されず,豊かな国や階層が貧しい国や階層を助ける寛大さを示さなければならない.すなわち財政移転です.アイルランドはEU加盟によって現在の成功を?みました.その機会を新加盟国にも与えるという度量を示すべきだ,と理解したのです.


WP Monday, October 21, 2002

The Lesson In MacArthur

By Sebastian Mallaby

(コメント) アフガニスタンで政府の再建が進まないことを知って,ブッシュ政権はイラクに対する戦後処理を「マッカーサー型占領」で行おうと言い出しました.Mallabyは,現実のアフガニスタンやイラクが当時の日本と異なる以上に,当時のような強国が弱小国を庇護し,統治することを,容易に受け入れる時代ではないことに注意します.むしろ,正しいモデルは東チモールやコソボであって,国連(やNATO)の制裁と安保理決議により,複数の国で国際監視を行いました.しかし,各国の調整や資金の分担は難しく,緊急事態や長期の計画に適しません.そこでMallabyは,IMFや世銀のような「国際再建基金」を提唱します.政治的な真空状態が生じないように,アメリカはこの基金によって,好ましい政府の再建をより良く実現できる,と主張しています.


ST OCT 24, 2002 THU

Reforms off again

(コメント) STの論説は,竹中案の重要性を日本の悪循環を断つことに見ています.これは,市場の示す資産再評価に従って銀行が自己資本を失い,それに対して公的資金を投入して銀行の淘汰再編を実現するか,それとも銀行の言うようにRCCが簿価に近い価格で資産を買い取り,銀行は損を出さずに仕事を今まで通りに続け,RCCに押し付けた債権回収ができない部分は国民の税金で補填させるか,という選択なのです.STは,ハード・ランディングか,ソフト・ランディングか,という区別は正しい基準では無い,と言います.政府や日銀はハード・ランディングを回避し,その影響を緩和するのが当然です.しかし,不良債権と銀行システムに関する選択は,それと区別しなければなりません.今こそ,悪循環を断って,日本は処理を実行すべきだ,とSTは主張します.

他方,銀行を支援する政治家や官僚の抵抗は強く,それが再び先送りされるという悲観論の方が海外では支配的です.


FT October 23 2002

Europe's problem is not the stability pact

By Daniel Gros

(コメント) すっかりクズ扱いされている「安定協定」ですが,Grosはそれを支持します.その理由は,安定協定の基礎にある問題,通貨同盟に参加する諸国が長期的な財政規律を合意すること,は正しいからです.それが今問題となっているのは,この条約ができた当時から今にかけて,生産性の上昇率が低下したからです.1990年までの15年間は,労働生産性が2.3%で上昇しました.しかし,今は1.3%もしくは1.4%に低下し,再び上昇する見込みはありません.

その結果,潜在成長率は下がり,構造的な財政不均衡の評価は低すぎるし,持続可能な債務のGDP比率ももっと低くなります.それゆえ,各国は財政赤字を減らさねばなりませんが,赤字の上限に近い4カ国は,ポルトガルを除いて,ドイツ,フランス,イタリアの3大国は支出削減が不十分であったということです.「安定協定」が彼らの財政政策の自由を奪ったのではなく,大国ほど,長期的な必要を考えて,予め財政赤字を減らす努力を怠った,とGrosは考えています.


FT October 24 2002

A better way of helping eastern Europe

By Heather Grabbe

新しくEUに加盟する東欧諸国を支援するには,既存の農業補助金に頼ってはいけない.巨大な官僚組織を作って,農民たちにEU補助金で生活水準を補償してもらえると期待させるのではなく,もっと社会インフラと教育に投資するように使途を特定するべきだ.


FT October 24 2002

Managing social responsibility

By John Ruggie

(コメント) 「パスポートの無い世界」に生きる人々は,ますます企業を責めるようになった,とRuggieは指摘します.政府の能力はどんどん失われ,他方で,企業は世界中で権勢を誇っているように見えるのです.社会的な軋轢や不満は,政府に向かうより,むしろ世界的な企業に向けられます.そしてまた,こうした企業ほど外部からの圧力に抵抗する手段が無く,消費者の印象を気にして,要求を受け入れてしまうでしょう.

Ruggieは,個々から興味深い論旨を展開しています.まず,世界企業は共通の行動規範を形成するだろう,ということです.彼らは企業が社会的な責任を果たすべきであるという認識を受け入れます.しかし,他方で,共通の水準を設けて,政府との違いを示さなければなりません.それでも政府の能力が余りに低下すれば,人々の不満は増大するでしょう.すなわち,世界企業は政府の能力を回復することに協力しなければならない,というわけです.

こうしてRuggieの考える世界では,民間企業部門と地方政府,そして国際機関が,新しい社会的な均衡を形成する方向を目指すのです.


FT October 24 2002

Lessons for a humbled Japan

By David Pilling

FEER October 31, 2002

A Blueprint For Recovery

By Ben Dolven/TOKYO

FT October 25 2002

Trouble in Tokyo

NYT October 25, 2002

Japan's Economy Czar Caught in Bitter Revolt

By KEN BELSON

BL 10/25 01:49

Japan's Recovery Could Be 5 to 10 Years Away

By William Pesek Jr.

(コメント) Pillingは,日本経済の再生に関して対立するシナリオを整理しています.一方では,銀行の不良債権と債務企業の過剰生産力が新しい投資を妨げ,成長できなくしている,と主張されます.それゆえ,一気に不良債権を処理することが正しいのです.竹中平蔵氏の改革案,というより,これをPillingは「韓国モデル」として,日本の長引く停滞を打破するために支持者が増えていることを紹介しています.「日本はタイタニック号だ」という浜矩子氏,アメリカ財務省のJohn Taylorは「それによって金融政策の効果も奪われている」と強調します.さらに,Robert Feldmanは,労働力の再配置を市場によって行うように求めています.

他方,Peter Taskerはこれに反対です.日本に足りないのは需要であって,融資では無いからです.たとえダイエーを潰しても景気はよくならないし,大量の失業者を出すより,支援されてでも生き延びる企業が多いほうが良い,と考えます.John Taylorも「不良債権処理策は必ず日銀の金融緩和と一緒に行う必要がある」と主張します.James Rooneyは,日本では既に消費者金融が発達しており,高齢化の影響もあって,銀行システムが成長を加速させる可能性は少ない,と見ています.そもそも,韓国モデルの成功は為替レートの30%減価と輸出急増があったからですが,もし日本がこのような減価による輸出拡大を目指せば,国際的な影響は無視しえないでしょう.

それゆえ,両者の妥協点を探りながら進むしかない,というのが,日本の現実的なシナリオです.このことを,FEERのDolvenは,リフレ政策をめぐる対立の構図として(多分)プロレス風に描いています.「経済学教授,竹〜中平蔵氏を連れて現れましたのは,赤〜コーナー モップ頭の変人首相,小泉純一郎 対するは,青コーナー 保守派,政治家先生御一行だあ〜

FEERの整理で注目されるのは,対立しているのはリフレ政策をするかどうかではなく,その方法である,という点です.従来型の財政支出に頼って,与党政治家の談合によるべきか,小泉首相=竹中金融相・金融庁長官=速水日銀総裁の合意によるべきか,という対立です.そのような合意を,小泉氏が本当に確約したのか,それとも実際には自民党の拡大を目指しているのか,分かりません.しかし,竹中氏を改革の前面に立てたのは政府と日銀がリフレ政策協調を維持するためのゴー・サインである,という指摘は説得的です.

他方,IMFのRogoffが言及したように,日銀による国債や株式,土地の購入が行われれば,日本経済が二桁のインフレに急変するかもしれません.Taskerが指摘したように,「デフレを脱出するのも,インフレを抑制するのと同じように,社会的な合意が必要になる難しい作業」です.FTの論説が言うように,これまで「中枢を持たない」「利益団体のためにしか動かない」と言われてきた日本の政治も,今こそ個別の利害を超えた経済再生への政策転換を実現するべきです.しかし,NYTが心配するのも,小泉首相がそれを本当に選択するのか,という点です.

強固な日本悲観論はPesekに示されています.やはり小泉は,ゲーリー・クーパーでも,J・F・ケネディーでも無かった.日本にはまだゼロ金利で利用できる老人たちの膨大な貯金がある.これを使える限り,政治家にも官僚にも,改革する気などは全然無いのだ.その結果は長い停滞である.それが無くなって,本当に苦しみを避けられないときが来るまで.


NYT October 25, 2002

Has China Become an Ally?

By KENNETH LIEBERTHAL

(コメント) アメリカと中国の指導者たちが仲良く牧場で記念撮影しても,彼らが親友になったと思う人は誰もいないでしょう.アメリカはテロとの戦い,特にイラク攻撃で中国が反対しないことを願い,中国は指導者の交代までは国内経済問題を優先する姿勢を示したに過ぎません.何より,アメリカには中国を敵と見なす保守派や,人権蹂躙の独裁者と非難する民主派が居ますし,中国には周辺地域に及ぶアメリカの軍事的関与や石油支配に対する不満を強く持つ軍部が居ます.アメリカがいくらか専制的な帝国の支配者に近づき,中国もいくらか戦略的な国際政治で発言するようになった,という世界政治の成熟(!?)を反映した,その意味では記念すべき,二人の撮影会であった,と私は理解します.


BBC Friday, 25 October, 2002, 14:28 GMT 15:28 UK

Currency fears plague Hong Kong

NYT October 26, 2002

Another Asian Nation Battling a Crisis

By KEITH BRADSHER

(コメント) アジア通貨危機から完全な回復を遂げるには,香港経済がドル・ペッグを離脱する戦略も必要でしょう.香港経済の成長率は低下し,特に土地の払い下げや売買への課税で財政を組んできた香港政庁は大幅な赤字になっています.もし外貨準備が減少すれば大幅な切下げやドル・ペッグの放棄が迫られるでしょう.アメリカ経済との一体化を図ることで香港が世界市場と中国経済との結節点となることの意味は,中国が開放政策を採り,WTOに加盟する中で失われたのです.

他方,中国の金融部門は国営企業や土地バブルによって莫大な不良債権を抱え,その処理も進んでいません.香港の隣,Shenzhenの不動産バブルや汚職は,まるで日本の話を聞くようです.政府は銀行に処理を強制しようとしますが,結局,公的部門で買い取る方式に転換します.しかし,その債権を市場で売却して回収することは非常に困難であり,実施された例では回収率も1.9%でしかない,という警告がBISの研究で示されています.もしその損失を中央銀行が埋めるなら,中央銀行の資産内容も損なわれるだろう,とBISは心配します.

解決策は何でしょうか? 中央銀行ではなく税金で支払うから大丈夫だ,と中国政府は言います.あるいは,国営企業の多くが都市の一等地に工場や集合住宅を持っています.これをショッピング・センターやマンションに変えれば良いのですが,彼らの錯綜し,不透明な権利関係は売買に適しません.それでも,外国の投資銀行はこれらを証券化できる,と狙っています.

私は,日本が失敗してきたことを研究し,中国政府がこの三つ(あるいは四つ)を選択的に,並行して行うのが良い,と思います.


NYT October 20, 2002

For Richer

By PAUL KRUGMAN

(コメント) この長い論説を短く紹介するのは適当でないでしょう.KRUGMANは,アメリカが中産階級の社会から階級社会に戻りつつある,と強い警告を発しています.1920年代のように,大金持ちが増え,共和党を介して政治権力を握り,法律や制度を自分たちにとって都合の良いものに変えている,とKRUGMANは指摘します.それを許し他の社会的な規範の変化であり,政治の変質です.さらに,企業経営のテキストや経済学者たちは,この傾向を正当化するのに手を貸しました.しかし,アメリカは素晴らしい国ではなく,一部の金持ちのための国になってしまった,と彼は憤慨します.多くの政策論争や国際秩序の性格を議論するより,アメリカ社会に広がる貧富の格差を見るべきだ,というのは,社会に積極的に関与する彼の姿勢を感じさせます.

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The Economist, October 19th 2002

Bagehot: A hard sell

Economics focus: Re-engineering the euro

(コメント) ヨーロッパが創り出した統一通貨ユーロの評判が芳しくないわけです.イギリスがユーロ導入をすべきかどうか,賛成派と反対派の議論に決着がつく見込みは無く,ユーロ圏の内部では,すでに財政政策まで縛られることへの不満が噴出しています.

ECBの金利決定や「最後の貸し手」機能も不適当で,フランスの財務大臣が「プロクルステスの寝台」だと酷評するユーロを,この先,大陸以上に金融市場の撹乱が起きると予想され,しかも域外貿易の影響を受けるポンドが,本当にイギリスが採用すべきなのか? ヨーロッパとして生きるのがわれわれの宿命だ,という政治スローガンだけでは説得できそうに無いのです.

問題になっている安定協定は,破棄するのでなく改善すべきだ,とフランスのエコノミスト二人が主張しています.たとえば,インフレ目標を決めるのはヨーロッパ議会に任せて,それを達成する手段に関して独立性と説明責任をECBに与えるのが良い,と.もしキャッチ・アップを求める東欧諸国がより高いインフレ率を持ち込めば,ユーロ圏内の低インフレ国はデフレを強いられます.それゆえ,インフレ目標を引き上げるだけでなく,財政赤字の制約を多年度について求め,債務比率も対GDPで示すべきだ,と提案します.


Argentina’s collapse: Progress, of sorts

Brazil: The real crisis becomes more so

(コメント) ラテン・アメリカの通貨不安は続いています.アルゼンチン政府とIMFとの合意は,危機の波及を気にするIMFと,切下げによって対外債務額も免除させたいアルゼンチンとの衝突です.それが無ければ,政府は国内の財政支出刺激策を採れないのです.

大統領選挙への不安から,通貨レアルと債券価格はともに急落しています.中央銀行総裁のArminio Fragaは,臨時の金融政策会議を招集し,短期金利の3%引き上げ(年率で21%)を決めました.それでも対策は投資家の失望に終わり,他方,高金利が国内経済をさらに不況にします.市場介入を強める? さらに金利を上げる? レアルの下落を促す? いずれも解決になりません.当面は,ドルにリンクした国債に資金が集まっています.しかし,これは将来の政府をますます難しい選択に追い込みます.

投資家がブラジル経済の将来に期待を寄せるような新政策を,新しい大統領が打ち出すしかないでしょう.その際,対外債務を組替えることも選択肢として考慮されるはずです.アルゼンチンのような混乱を招かずに行えるかどうか?