IPEの果樹園2002

今週のReview

10/21-26

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経済学者は多くの難問を抱えています.デフレの元凶は何か? 貨幣不足なのか? 需要不足なのか? 供給過剰なのか? 誰がその犯人か? 日銀や不良債権なのか? 老人たちなのか? 中国なのか?

フリードマンなら,インフレもデフレも貨幣の問題である,と言うかもしれません.市場における需要や供給がどうであれ,物価全般が上昇し続ける,もしくは下落し続けるとしたら,貨幣の供給が間違っているのです.日銀が十分な貨幣を供給すればデフレは起きるはずが無いし,不良債権処理も,株価対策も,地価下落や失業対策も,日銀が融資してやれば良いでしょう.

ケインズなら,物価(特に賃金)はさまざまな理由で硬直的であるから,需要の側で政府が行動するべきだ,と言うかもしれません.第一次大戦であれ,大恐慌であれ,それがもたらした供給側の不均衡を調整する需要の変化は,余りに大量の失業をもたらし,政治的に耐えられないような危機を意味しました.高齢化する社会では,調整の速度が制約されると思います.もし供給側のショックが大きく,一時的であれば,それを政府が安定化するのは正しい政策でしょう.

しかし,たとえ日本に供給過剰や需要不足,不良債権や地価下落があっても,輸出を伸ばしてリフレ政策をとることはできたはずです.金本位制を離脱し,通貨を切り下げて,財政支出を行うことで回復した国があった,というのが,財政赤字や銀行の連鎖倒産で貨幣供給を過剰に行った末に,ハイパー・インフレーションを起こした国があった,ということと並んで,今では重要な教訓のはずです.では,この二つはどう違うのか?

円安による輸出? 国債による刺激策? 大幅な経常収支の黒字を抱える日本が不況で苦しむのは,その背後に何か構造的な問題があるはずです.なぜ政府の景気対策や日銀の超金融緩和が効かなかったのか? いつまでバブルや金融危機を議論すれば良いのか? 株式相場の下落で失われた資産や,公的資金として使われる税金は,構造的な問題の解決に役立ったのか? 経済学者はそれらを説明しなければなりませんが,その答は広く合意されていません.

本当の構造問題は,日本と世界市場との関係なのかもしれません.日本はその位置から,販売市場と国際資本取引においてはアメリカを利用し,国際競争力の維持については東南アジアや中国を利用しました.金利や為替レート,経済政策の効果や意味が,アメリカや中国とますます深く統合化する中で,変化してくるのは当然です.日本病も,やはり,アジア通貨危機の一部なのです.

子供に株式投資の「楽しみ」を教えたりせずに,新産業の一つとして,<新しい塾>はどうでしょうか? 教える科目は,体育,読書,冒険,算数,哲学,歴史,です.もしできることなら,子供たちはもっとからだを動かし,もっと好きな本を読んで,さまざまなことに挑戦する楽しみを知って欲しいです.過去の哲学者や数学者たちが,どんな問題を解こうとして独自の算術を編み出し,思想によって世界を理解し,自分たちとは全く違う秩序によって暮らしていたかを知れば,彼らは大人たちを動けなくしている呪縛を断ち切って,もっと自由に,もっと正直に生きるでしょう.

学校は,私たちを十分に鍛えることができませんでした.試験や受験勉強だけをエンジンや麻薬として,子供たちを教育することはできないのです.本当に深い思索,本当の公共心,本当に論理的な思考,そして現実を変える有効な戦略を,私たちは学ばなかったと思います.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg, FEER:Far Eastern Economic Review


WP Tuesday, October 8, 2002

Bash Japan and Europe

何ができるのか? 援助機関のOxfamは,世界コーヒー市場への介入を提唱した.それはオニール財務長官が鉄鋼価格を引き上げた提案と似ている.その考えでは,価格が低いのは過剰生産力があるからだ,ということになる.そこで生産の一部を止めさせ,供給を減らせば,価格は再び上昇するだろう.鉄鋼交渉はこの方法を何ヶ月か試みているが,成果は挙がっていない.誰が生産を止めるのか決めることは難しく,どのような合意も新しい工場が建つのを阻止する監視機関を必要とする.コーヒーの場合,供給を制限することは一層難しいだろう.一体,誰がケニヤの田舎を回って,農民にコーヒーを作り過ぎないよう監視する,と言うのか?

他方,綿花の場合,もっと単純な解決策がある.豊かな国,特にアメリカが,綿花栽培の農民に与えている補助金を止めることだ.農民に与えられるアメリカの補助金は40億ドルに達し,アフリカへの援助額の約3倍である.しかも,補助金のほとんどを裕福な農民が得ている.彼らは価格が下落する中でも,補助金のおかげで生産を拡大している.その生産コストは,たとえばBurkina Fasoの約3倍である.金融危機の迫るブラジルは,世界の綿花補助金が,その大部分アメリカであるが,ブラジル経済に年間6億ドルの損害を与えている,とWTOに訴えた.

アメリカの補助金は論外である.Oxfamもブラジルも,それを追及する権利がある.しかし,ここには戦術の問題もある.綿花や他の農産物に関する補助金を止めさせるには,多角的な合意が最も優れている.ジュネーブでまさに,こうした交渉が行われる.ブッシュ政権は,世界の農業補助金を1000億ドル削るように提案した.問題は,ヨーロッパや日本がついて来ないことだ.彼らが動かなければ,交渉は失敗する.アメリカの保護主義を攻撃するのも良いが,発展途上国と援助機関の最優先目標は,東京とブラッセルでもっと強力な抗議を行うことだ.


FT October 8 2002

Martin Wolf: Curing Japan's malaise

By Martin Wolf

日銀は官僚制度の内紛を制した.速水総裁が柳沢金融担当大臣を解任させたのは,まさにクーデタであった.竹中平蔵が金融庁のトップにも就いたことは,日本の回復に向けた転換点であると賞賛する者も多い.しかし,彼らは間違っている.これは戦いのほんの序幕でしかない.

危機意識が必要だ,という意味では,竹中氏はかなり成功している.「大き過ぎて潰せない企業や銀行など無い」という発言は,日経平均を1983年夏以来の最低,1989年12月のピークから78%も下げさせた.危機は必要であるが,十分では無い.正しい解決策が必要だ.

公式の統計でも,銀行の不良債権はGDPの8%,名目GDPは1997年第4四半期以来5%も低下した.公的債務はGDPの155%に達し,純公的債務額は1996年のGDP比22%から今年は74%にジャンプすると予想されている.

長期の治療が必要だ.問題は,何が有効か? である.成功するためには,日本人が所得のうちの貯蓄部分を減らすか,国内でも海外でも投資を増やさなければならない.

日本人は常にGDPの25%を貯蓄してきた.それは裕福な国の中でずば抜けて高い率だ.バブルの頃,国内の民間投資がこの貯蓄をほぼすべて吸収した.それ以来,民間投資は減っている.2002年は,GDPの17%であろう.民間投資を超える貯蓄は,1986年から93年の平均1.6%から今年の8.3%に上昇した.この差額は,政府が借り入れるか,外国に投資することで,吸収されている.

このことを念頭に,小泉純一郎の急進的な構造改革を考えてみよう.すなわち,経営者たちは欧米の利潤を基準とした行動を取る.その結果,投資はさらに急減する.その理由は三つある.@日本企業は今もまだ過剰投資している.A生産当り資本を使いすぎている.B利潤見込みは実に低い.

もし1989年後半に,日本ではなくアメリカの株式市場に投資していれば,投資家たちは今,8倍も豊かであるだろう.驚くことに,それでも日本の民間投資のGDP比は,1990年代前半に3倍に伸びたアメリカより高い.London-based Smithers & Co のAndrew Smithers によれば,日本の非金融部門における資本産出比率は,アメリカのそれより3分の2も大きい.日本の膨張した資産評価や,債務へのデフレの影響を考えれば,全体として日本の企業部門は資産に対してマイナスの収益しか出せない.

このことは大きな意味を持つ.まず,もしアメリカが労働力の増加に見合う競争力のある経済を維持するのにふさわしい投資を行っているとすれば,日本は,多分,GDPの4ないし5%も,過剰投資しているのだ.第二に,企業のバランス・シートを健全化するために巨街の債務を償却することが求められる,ということだ.

企業が償却すべき債務はGDPの約25%になる,とSmithersは考える.そのほとんどは納税者が負担するだろう.より縮小された銀行システムが誕生することは望ましい.しかし,それで新しい融資が噴出するとは思えない.利潤を期待できる融資があれば,この12年間に外国の銀行が行っただろう.そして私は,民間投資が足りないのではなく,多すぎる,と言っているのだ.

それゆえ,構造改革も企業の債務免除も,銀行部門の資本補充も,日本を持続可能な成長に戻すことはできないだろう.必要なことは,過去の失敗を処理する政策と,将来の持続可能な成長に向けた基礎を作る政策である.

過去の清算は,バランス.シートの整理とデフレの解消である.もし企業の債務免除を政府が政治的に行えないのであれば,インフレによる解消をめざすことだ.どのようなものでも良いから,日銀はプラスのインフレ期待を創らねばならない.もし日銀が動かないのであれば,財務省が銀行システムから借り入れて国債を貨幣化すべきだ.

しかし,この先数年は,引き続く過剰貯蓄を吸収し,安定性を維持するために,経常収支の黒字を増やす必要がある.20世紀前半にイギリスの経常黒字はGDPの9%に達したが,裕福で,高齢化する日本も,この数字を目指す.

どうやって? 公的部門は,大幅な金融緩和と財政支出拡大の中期計画を組み合わせる.民間部門については,日本人が国内の無駄な資産をこれ以上積み増さないように教えることだ.国内に投資する限り,日本人の投資は成功する見込みが乏しい.最悪の場合,自分と子供たちに,支払われる当ての無い証券だけが残る.それよりも外国の資産を買ったほうが良い.日本はもっと大きな純海外投資を必要としており,もっと大きな経常黒字を出すべきだ.そうでなければ,構造改革や銀行部門の整理は失敗し,日本の病は治らない.


NYT October 9, 2002

2 Americans Awarded Nobel for Economics

By DANIEL ALTMAN

NYT October 10, 2002

A Nobel That Bridges Economics and Psychology

By DANIEL ALTMAN

(コメント) 2002年のノーベル経済学賞はDaniel Kahneman とVernon L. Smithが受賞しました.私は彼らの名前も聞いたことが無かったので,NYTの記事を読んで考えました.

ミクロ経済学の説明がいかに厳密で,美しく,その意味で精緻であっても,納得いかない人はいるはずです.現実の選択を,これほど局所的に合理的な限界原理で説明できるのかな? と.受賞した二人は,オークションの形や条件を変えると,参加者の反応が異なることを実験で示したようです.つまり,価格や売買の意思決定は,限界的な選択を理性で行っているのではなく,もっと状況に依存した感性にも支配されているのです.

そりゃそうだ.そうでなければ,株価のバブルで大切な貯蓄を失った人たちに,経済学者は何と説明するのか? Kahnemanは,かつて,脳の働きを研究する心理学者でした.記者は「このノーベル経済学賞は,正統的な経済学への試練である」と書いていますが,多分,そんなことにはならないでしょう.正統派の経済学者も実験や合理性を好み,記事に書かれているような,ゲーム論へと傾斜しているのです.ミクロ経済学もまた,現実を解明する以上に,説得の技法なのだ,と思います.

1997年に,Fischer Blackや Robert C. Merton,Myron S. Scholesによるオプションやデリバティブの合理的説明がノーベル賞を受賞したその後で,史上空前のバブルと金融危機が生じました.このことに対して,スウェーデン経済学会が自己反省したかった,ということでしょうか.


FT October 9 2002

America is not in danger of deflation

Glenn Hubbard (chairman of the US president's council of economic advisers)

(コメント) アメリカはデフレにならない,とハバード経済諮問委員会委員長は言います.

アメリカでも株価の下落が進み,住宅価格のバブルはこの先破綻して,消費が落ち込み,デフレと債務の実質負担増が起きるのではないか,という不安があります.ハバード氏は,そのような事実は無い,と考えます.その理由は,労働生産性の上昇が続いており,基本的に実質消費が増えるはずだ,ということです.

すなわち,住宅価格によって消費が増えた分は僅かでしかないし,住宅価格が上昇しているのは移民の増加に対して,バブル崩壊で抑制された住宅建設が供給不足になったからである,と言います.住宅市場はバブルを生じるような性質が無い,とまで言い切ります.つまり,価格の上昇を目的に短期の売買などできない,というわけです.

物価の下落は消費を刺激するから,必ずしも悪いことでは無い.債務の実質負担を増やすようなデフレは起きない,と.そうでしょうか?


IHT/LAT Wednesday, October 9, 2002

A quick war, then lots of trouble

Wesley Clark

最善のシナリオでは,私の予想だが,イラク攻撃は約2週間で終わる.25万の兵員を準備するが,その多くは戦闘に参加しない.実際に戦闘を行うのは7万5000から10万人であろう.

われわれは多分,1000の爆撃機やミサイルで最初の夜に攻撃する.10発ほどは目標を逸れて民間施設を誤爆するだろう.だが,当初の民間被害は抑えることができる.

初期の戦闘で,アメリカ兵の死者が出るとも思わない.戦闘の激しさにもよるが,全体でも数十人程度であろう.

さて,降伏した後,サダムの軍隊は,攻撃によってよりも,その底辺から自壊するだろう.戦闘におけるわれわれの最大の問題は,この無数の,武装し飢えた投降者たちをどうするか,である.

さらに,最善のシナリオでも,幾つかの問題が起きる.食糧の配給が止まり,医療施設が止まる.町ではサダムの秘密警察が暴行や復讐を行う.われわれがどれほど秩序を維持しようとしても,湾岸戦争後のバスラのように,暴動が起きる.大衆の暴力は拡大し,サダム体制における関係者に向けられる.

われわれの死傷者が最も増えるとしたら,サダムがクウェートのわれわれの軍隊に生物・化学兵器を浴びせた場合である.バクダッドに向かうトラックに対して化学兵器で攻撃し,イラクの民間人を巻き添えにするかもしれない.たとえわれわれが防護服を身に着けていても,イラク南部の1200万から1400万人が危険にさらされる.

サダムは残されたスカッド・ミサイルをイスラエルに向けて発射するかもしれない.イスラエルは即座にミサイル防衛システムにより反撃する.スカッド・ミサイルが炭疽菌などを詰めていた場合,イスラエル人は反撃を求めるだろう.それは無数の民間人が死傷する道である.

短期的に,中東が不安定化する危険もある.サダムが敗北すれば,ビン・ラディンやタリバンが敗北したときのように,民衆は彼らを見捨てるだろう.戦争は速やかに終結する.しかし,この地域の長期的なリスクは残される.心の中では,アラブ地域の民衆はアメリカの勝利を植民地主義の復活と見なすだろう.それは,われわれの戦費をイラクの石油で支払わせる場合に,ますますそう見える.また,イラクが内戦となり,原理主義が支配するかもしれない.アメリカ軍がこれを止めることはできない.速やかにイラク政府が再建されるしかない.


LAT October 9, 2002

The War Debate

By ROBERT C. BYRD

LAT October 9, 2002

The War Debate

By JOHN W. WARNER

(コメント) 民主党のByrd上院議員は,3ヶ月前と何も変わっていないのに,なぜイラクとの戦争を認めるのか? と言います.憲法も認めていない,ブッシュ・ドクトリンによる先制攻撃を議会が認めるのは間違いである.大統領に戦争への空手形を切る前に,議員たちは国民の代表として,選挙区に帰って市民たちの声を聞け,と.

他方,共和党のWarner上院議員は,生物兵器の存在とそれがわれわれの脅威になることがわかったことこそ新しいのだ,と言います.サダム・フセインに対する国連総会での演説を前に,議会は国民の声を一つにまとめ,国際社会とイラクに対して明確なメッセージを送るべきだ,と.そこに武力行使への危険が含まれているとしても,今,行動しないことはもっと危険である,と言います.


WP Wednesday, October 9, 2002

A Doctrine of Armed Evangelism

By Michael Kelly

これは,Kennedy上院議員の言うような,21世紀の帝国主義ではなく,武装した福音主義である.確かにこれは体制転換のための戦争であるが,アメリカはこれまでもそれを行ってきた.ケネディー議員の兄もそうであったように.もはやマッキンリー大統領のように住民を「文明化する」とは言わないが,アメリカは今も「自由のために」他国に武力介入する.ヨーロッパは世界を植民地化したが,アメリカはそれを目指さなかった.アメリカは世界をより良くしようと戦ったのだ.ブッシュ・ドクトリンはこの文脈で考えるべきであって,新しい帝国主義では無い.


WP Wednesday, October 9, 2002

A Jolt For Japan?

By Robert J. Samuelson

日本人は遂に日本病を治療する気になったのか? 日本病とは,急増する経済問題に直面して,社会的,政治的な麻痺が広がることを指す.変化への不安から,日本人は問題がそれ自体でなくなるかのようにふるまってきた.しかし,それは間違いだった.

日本経済は莫大な財政赤字で支えられ,国債残高のGDPは1990年の65%から140%に膨張した.日本人は3年か4年かけて経済を治療するが,その間は景気が悪化するような治療を拒んできた.

金融庁のトップに竹中平蔵が指名されたことを,回復の始まりと見なせるのか? 銀行の不良債権が,経済回復の主要な障害と思われている.一つは,それによって銀行が新しいビジネスに融資を行わないこと.もう一つは,事実上は倒産しているゾンビ企業に融資を続けていること.ゾンビは雇用を維持するが,成長を損なう.

もし不良債権が取り除かれれば,日本経済は回復するのか? IIEのアダム・ポーゼンは,竹中の指名を最近では最も良いニュースだ,という.

だがその規模は莫大である.3ヶ月以上支払の遅れている債権は3500億ドルある.これに対して,銀行は1120億ドルの引当金と,3950億ドルの自己資本がある.これで十分に見えるが,実際の不良債権はもっと多いだろう.銀行は別に5600億ドルの要注意債権を持っている.その多くは単に借り替えているだけだ.本当に返済できる率がどれくらいかは,誰にも分からない.竹中は,「一部の不良な銀行を閉鎖し,生き残った銀行には資本を増強しなければならない」と,Posenは言う.

それが行われるとしたら,コストは莫大である.政府は預金を保証し,資本を増強してやらねばならない.つまり事実上の国有化だ.あるいは外国資本に買収させるか.また,その社会的コストも甚大だ.不良債権を無くせば,多くのゾンビ企業もなくなる.失業者が急増するだろう.

その危険を考えて,竹中の指名以後,日本の株価は急落した.問題は,過激な外科手術で日本経済が回復するのかどうか,である.理論的には,ゾンビが一層されて残った企業の利潤は増え,投資や雇用を増やす.銀行は返済できる企業に融資を増やし,その利潤も改善する.そして株価も回復する.

だが,悲観的な見方もある.三國陽夫とR. Taggart Murphyの新著"Japan's Policy Trap"は,日本病は不良債権よりももっと深い,と言う.第二次大戦後に輸出主導で経済成長を遂げた日本は,巨額の貿易黒字に囚われて,自ら破滅していった.輸出が伸びれば経済も成長したが,ひとたび1980年代半ばに輸出が揺らぐと,それに代わるものが無かった.国内産業を保護し,雇用と社会的安定性を維持する,というのは,自民党政権を支える零細商店や農民,建設業者の考え方であった.日本は罠にはまった.

日本病とは,こうしたジレンマに手を付けようとしないことを意味する.その代わりに,経済はますます人為的に維持されている.1980年代の「融資拡大」はバブルをもたらし,1990年代には財政赤字を累積させた.銀行の不良債権は,日本の弱点の結果であって,原因では無い.銀行を全面的に改革することは必要だ.しかし,経済を本気で変えない限り,民間企業は再生しない.


FEER October 17, 2002

Burying the Competition

By Karby Leggett/SHANGHAI and Peter Wonacott/BEIJING

(コメント) 中国は世界の工業生産基地になる.その低賃金を基にした低コストの輸出品は世界中にデフレをもたらすかもしれない,と筆者は心配します.

最初は,中国の10億人に売ろうと投資し始めた外国企業も,もっぱら輸出するようになりました.その理由が何かは言及されませんが,結局,外国企業は世界市場向けの生産を進め,中国のWTO加盟でますます投資を増大させています.

労働力の供給が枯渇するまで,この急速な拡大は続くのか? あるいは外国市場の限界に達し,国内市場向けの競争に向かうのか? アメリカや中国自身もデフレに苦しむのか? 生産性と品質の急速な改善を経て,もしこの生産力が国内市場に向かえば,非常に厳しい競争と社会不安が起きる,という示唆で終わっています.

しかし,中国人の賃金が上昇すれば良い,というのが,最も単純な答でしょう.


ST OCT 11, 2002 FRI

Doomsday for US economy?

JOSEPH STIGLITZ

(コメント) Stiglitzの考えでは,アメリカ経済はその潜在力を大幅に下回るようになるでしょう.その理由は,政策ミスによる経済の均衡喪失です.

ブッシュ政権は間違った見通しから大幅減税を行って,すでに低かった貯蓄率に加えて,国民の貯蓄をさらに減らす要因を作りました.貿易赤字は巨額であり,バブルの時には無視できても,今では問題になります.社会保障を除く今後10年の財政見通しが30億ドルの黒字から20億ドルの赤字に書き換えられたのは,手品としか言いようがありません.ブッシュ政権はまだ取りもしない鳥を数えただけでなく,それを売っていたわけです.

一日10億ドルを借りることは,バブルが崩壊し,世界の安全な避難地でもなくなったアメリカにとって,以前のように簡単では無いでしょう.アメリカから資本が流出し,さらに不況や株価の下落が始まれば,資本はヨーロッパに逃げるでしょう.しかし,ヨーロッパも喜んで入られないのです.アメリカへの輸出が減って,インフレにばかり関わっているECBは金融緩和を渋り,結局,世界同時不況を強めるかもしれません.

Stiglitzは,不況を無くすことはできないが,その頻度や深刻さを緩和できる,と言います.そのためには適切な政策を政府が行うべきだ,と.


WP Thursday, October 10, 2002

Ready for War

By Richard Cohen

9・11の攻撃の直後から,私は感じていた.なぜ(次の攻撃を)待つのか? そのときから私は質問し,証明し,戸惑い,心配した.しかし,基本的な考えは変わっていない.国際法のために,核兵器による脅迫を防ぐために,ヒトラーのような誇大妄想狂の指導者と,彼らが振り回す武器を世界から取り除くために,戦争は唯一の手段であろう.サダム・フセインは標的である.そして(こうした指導者や武器が増殖するのを許す)時間こそ敵だ.」

(コメント) この考えが次には北朝鮮に適用されるでしょう.ただし,北朝鮮の工作員や資金が,アメリカ人やアメリカの軍隊,アメリカ本土におけるテロ攻撃に関わる疑いがあれば,ですが.すると,日本人や韓国人の拉致や暗殺はどうなるのか? 多分,私たちが解決すべきことです.


NYT October 13, 2002

America's For-Profit Secret Army

By LESLIE WAYNE

(コメント) これは,現代の傭兵部隊,利潤目的の民間軍事契約というサービス企業がいかに拡大し,重要視されているか,に関する詳しい紹介記事です.

「テロとの戦争はすでに1年に及び,対イラク戦もその可能性が増大しつつあるとき,戦争それ自体と同じように古い傭兵部隊が,ペンタゴンで承認され,繁栄している.今度は,民間軍事契約者と呼ばれ,中にはFortuneの企業番付500社に入る巨大企業の子会社もある.」

「ペンタゴンは,彼ら無しに戦争できない.」

ある傭兵部隊はクウェートのアメリカ軍を助け,別の傭兵はアフガニスタンのカルザイ大統領を警護します.世界の暗部では,直接にペンタゴンの姿が見えないことのほうが好まれます.アメリカ政府のための軍務につきながら,アメリカ政府の見解には全く従いません.ボスニア,ナイジェリア,マケドニア,コロンビア,世界の紛争地帯に彼らは出没します.

チェイニー副大統領が重役であったthe Halliburton Company の子会社Kellogg Brown & Rootや,DynCorp,Vinnell,SAIC,ICI,Northrop Grumman.の一部であるLogicon,そして最も著名なMPRIは「ペンタゴンよりも多くの将軍を送り込んでいます」と自慢しています.彼らは,アメリカ政府や国際条約に縛られることなく,民間契約で行動できます.

1991年の湾岸戦争では50人に一人,1996年のボスニアでは10人に一人が民間契約者(傭兵)であった.この産業がどれほど巨大であるかは誰にも分からないが,ある専門家はその世界市場を1000億ドルと推定する.」

彼らは大衆の目の届かない秘密の軍隊として行動します.彼らは戦闘で重要な役割を果たしながら,軍の命令系統にも,行動規則にも従いません.国連がアメリカ軍にバルカン半島への兵器輸送を禁止したとき,アメリカ政府は傭兵たちにそれを任せたのです.そして地元の兵士を訓練させました.そして,その結果は破滅的なものでした.

ボスニアにおけるDynCorpの契約者たちは,Sex奴隷の所有と売買に関与しました.クロアチアではMPRIの訓練した地元の兵士たちが,「エスニック・クレンジング(民族浄化)」の中でも最も残虐な事件を起こしました.数百人を殺し,10万人以上が住宅を失ったのです.こうした事件で,傭兵たちの誰も起訴されていません.政治的な圧力があったようです.MPRIには,1万人以上の退役軍人,多数の元大尉や将軍が属しています.

MPRIの年間収入は1億ドル以上で,ペンタゴンや国務省と契約しています.退役軍人たちは個々で働いて,軍隊にいた頃の2倍から3倍の給与を得ています.退職金やストック・オプション,401Kもあるのです.他方,国防省は軍人を削減するために,そのギャップを契約者で埋めています.「民間契約を利用する主な理由は,軍隊を保有せずに節約して,戦闘時にだけ利用できることである.」その方が安いのだ,と言います.

しかし,議会の見方は違います.ヴェトナム戦争の退役軍人は,「それは非常に危険な状況だ.国防省やCIAが行かないような場所でも,われわれは傭兵により戦争できる.建国の父たちが述べたことに反して,われわれは傭兵たちに納税者の金を使う.」と言います.そして傭兵であれば,軍隊を送るよりも,はるかに衆目の関心を集めずに済みます.しかし,説明責任に深刻な問題が残ります.

アメリカの雇った傭兵たちが売春婦たちの売買や輸送,悲劇的な事件を起こした地元兵士への訓練,独裁者たちとの契約に関わったような場合,アメリカ政府に責任があるのか? 誰が責任を取るのか? 捕虜になった彼らの身柄はどうなるのか? 彼らと一緒に戦う場合,互いの安全を確保できるのか?

何より,国民を死なせることから生じる政治的圧力が失われることで,いかに戦争が容易になるかが,もっとも恐ろしいことでしょう.軍事技術と最新の兵器,傭兵を雇う資金さえあれば,戦争できるのです.

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The Economist, October 5th 2002

The meaning of Lula

Can Lula finish the job?

Luiz Inacio Lula da Silvaが1億7千万人のブラジル国民にとって新しい大統領になるかどうかは,単に国内の投資家や国際金融市場が,この労組出身の過激な革命家を嫌って,資本逃避と金融危機を引き起こすかどうか,という問題だけではない.それは同時に,ブラジルやラテン・アメリカの社会が本当に民主主義的な秩序の転換を可能にするかどうかの問題なのである.

Lulaの人生は,ブラジルのTV番組に良くあるメロドラマそのままに波乱万丈だ.将軍たちが長く支配したこの地域では,彼が大統領になるなど,考えることもできないことだった.彼は北東部の貧しい家庭で育ち,初等教育を終えただけである.彼はサン・パウロで旋盤工として働き,その後,労働組合員としてストライキを指導した.それは1964年から85年まで続いた軍事独裁体制に打撃を与えた.

Lulaの労働党(PT)もまた独裁体制の副産物である.PTはラテン・アメリカに伝統的な,モスクワや北京,ハバナとつながった左派政党では無い.組合と地域の活動家たち,「解放の神学」や学者たちの連帯による組織だ.マルクス主義のイデオロギーではなく,ラディカルな民主主義,深刻な不平等に蝕まれる国で,社会正義を求める運動である.それはもっとプラグマティックであるが,権力の中枢を握るエリートたちには厳しいだろう.

要するに,Lulaの勝利は,ラテン・アメリカの民主主義は富裕層のためのゲームでしかない,という神話を打ち砕く.

それは,Cardosoが大統領として実現した,安定した制度に守られた民主的社会によって可能になった.また,LulaがPTをより中道的な路線に始動したことで可能になった.彼は真剣にブラジルの統治を目指している.そのために穏健な同盟者を求め,債務を踏み倒すとか,民営化を逆転するような発言は止めた.8月には,IMFの300億ドルの融資を賞賛し,CardosoとIMFとの約束を守ると述べた.

つまるところ,Lulaの大統領職は経済運営に懸かっている.第一に,Cardosoの経済改革は,残念ながら遅かった.世界経済は減速し,アルゼンチンの危機は続いている.ブラジルの銀行は主に国内資本であるから,自国内の改善策もあるはずだ.第二に,Lulaの経済政策にも疑問がある.成長を回復することが最優先課題である,と言うのは正しい.しかし,債務問題を考えれば,金利を下げることが不可欠だ.市場の信頼を回復しなければならないが,既にGDPの35%に近い税収を考えれば,増税は難しい.それゆえ,社会的な給付を削減することであろう.しかし,PTはCardosoのそうした提案に反対してきた.また,カストロを賞賛するより,アメリカとの関係改善も必要だ.

これまでの政策を継承し,しかも債務を増やさないことが,成功の鍵だ.


Japan: Moving on the banks

Bank reform in Japan: The Takenaka challenge

(コメント) このまま銀行を公的資金で救済するのは失敗する.竹中が言うように,厳格なルールを適用して不良な銀行を潰せば良いが,それは危険である.その鍵は,日銀によるリフレ政策を実施することだ,とThe Economistは言います.すなわち,国債の購入です.

竹中氏の方針は,銀行の選別と強制的な資本注入を必要としますが,それは法律の改正を必要とするでしょう.つまり国会の承認,自民党など,政治形の支持を得なければなりません.しかし,選挙区の失業率が上昇し,支持者の零細商店や中小企業を潰す法律に彼らが最大限の反対をするのは確実です.

銀行の部分的な国有化も,その関連する影響を吸収すれば,主要銀行すべてを国有化しなければならないでしょう.これは困難です.政府も官僚も,政治家たちも,そこまでやろうとは考えないでしょう.すなわち,竹中氏は再び過去の公的資金投入を繰り返すのです.ただし以前に比べて,株価は低く,企業業績は悪化し,世界経済の状態も悪い中で.それゆえ,もっと多くの公的資金を無駄にし,経済状態を悪化させる,とThe Economistは悲観します.


IMF/World Bank meetings: Battling over the bankruptcy

(コメント) 公的債務の破産処理を制度化する(SDRM)論争は,政治家や主要国の政府が望むほど,債権者も債務国政府も望んでいません.まるで日本の状況を裏返したように.

これはなぜか? もちろん,コストの分担と政治的意志決定が異なるからです.主要国はIMFの大株主であり,税金を使ってこれを維持しなければなりません.ところがIMFは,ますます主要国以外の金融危機に深く関わり,その融資能力を消耗し続けています.主要国政府は,有権者に対するサービスと関係ない,こうしたIMFの機能を整理したいのです.

他方,債権者は,主に豊かな国の銀行や投資家ですが,これまでの融資や投資,そしてこれから先の商売を奪われることになるのを怖れます.彼らは株主や老後の生活のために,この資産を大切に維持しなければなりません.断じて契約破棄や条件緩和を認めたく無いのです.

債務国は,もし自力で交渉し,回復できる余地があるなら,こうした破産処理による心配から銀行や投資家が逃げてしまうのを恐れています.

The Economistは,破産処理が経済を全体として正しく導くものである,としてSDRMを支持しています.多分,これは交渉の始まりです.主要国が動けば,政治的な合意に達し,新しいゲームが決まれば,債権者たちは一斉に動き始めるでしょう.