IPEの果樹園2002
今週のReview
10/14-19
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数百人に講義をしても,残念ながら,私の関心を正しく受け止めてくれる学生は数人だけです.人間が生きるのは社会を通してである,ということを考えてもらうために「戦争」を取り上げました.
始めに,映画『プライベート・ライアンを救え』の話をしました.個人では決して戦闘に参加するはずの無かった若者たちが,壊れたソーセージ・マシンの吐き出す肉塊と,自爆したケチャップ工場のような,波打ち際の阿鼻叫喚を越えて,死の行列を続け,次々と斃れます.この上陸作戦を指揮したトム・ハンクスの演じる主人公が,最後に,ライアンをアメリカに送り返すため,自分は戦闘で命を落とすのも,これほどの死者を指揮した者が成し遂げた救出劇の代償として,当然のように見えます.
日本経済の様子は,日々,混乱した戦場のように,浮ついた表情と,どこかから火薬か血の匂いが漂うようになりました.すでに問題は繰り返し議論されました.NHK・BS経済最前線でも,IMFのケネス・ロゴフは,銀行の整理とそれにともなう公的資金投入,日銀によるデフレ解消を強く支持しました.確かに,影響の予測や景気悪化の危険性については意見が対立しています.しかし問題は,決断と協調行動を促す前向きの意見が関係者から示されないことだと思います.誰も,ガスの充満した暗闇の密室で,マッチを擦る気は無いのです.
日銀と金融庁と財務省が合同作業チームを作って,具体的な指示を出すべきでしょう.日本が豊富な外貨準備と対外資産を持つ間に,改革プログラムを進めて欲しいです.たとえば,1.市場で危機の徴候があれば,金融部門をただちに国有化する権限を与える.2.金融機関や企業の再生に公的資金を利用する場合は,審査に国民の参加を保証する.3.漸進的な国有化の解除手順や期限を示して,市場の圧力に応える.4.作業チームと公的資金を受けた金融機関が,その後にどのような改革を進めたか,事後的に検証し,国民に報告する.
指摘されているように,不良債権処理はいわば後ろ向きの議論です.デフレを解消し,新規の投資や需要を喚起する新しいアイデア,組織や制度の革新が無ければ,公的資金で救済された金融システムや企業の幹部は旧来の慣習を続けるでしょう.競争促進や資源の再配置が,社会不安を伴わないで実現できるメカニズムを工夫して欲しいです.
NHKの「ごちそう賛歌」が,横浜中華街の菓子店で「げっぺい(月餅?)」を作る譚兄弟を紹介していました.二人は,広東出身の働き者の母に菓子作りを教わり,その店を継ぎました.小さな改良を加えながら,「げっぺい」の風味を守っています.彼らは,菓子職人として,母に教わった仕事の手を抜くことなどありません.若くして夫を亡くし,子供の成長だけを楽しみに,懸命に働いて亡くなった母と,もっと話しておくべきだった,と兄は語ります.無口な弟も,夜,どんなに遅くなっても,ひとりで店を掃除します.きれいになると,母が喜んでくれるから,と.
私は,戦争や危機だけでなく,理念や理想が社会を作る,と学生たちに教えました.しかし,講義が終わって帰るとき,彼らの関心をほとんど喚起できていないことに,いつも深い失望を感じます.この社会の軋みを,彼らの想像力を通じて,実感させることができないのです.
経済危機を経た日本が,それを克服する過程で,勤勉に働く誰に対しても,平和と繁栄をもたらす国,充実した社会参加を保証する国になれば良いと思います.
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg, FEER:Far Eastern Economic Review
IHT The Washington Post. Thursday, September 26, 2002
The era of market fundamentalism is over
Robert Weissman
NYT September 26, 2002
Global economy woes test IMF's faith
By Alan Beattie
WP Friday, September 27, 2002
International Monetary Failure?
NYT September 28, 2002
World Financial Officials Back New Debt Framework
By EDMUND L. ANDREWS
The Guardian, Monday September 30, 2002
Protesters win a battle but not the war
Larry Elliott
(コメント) Weissmanは,IMF・世銀の市場原理主義が失敗したことを,まさに市場化・規制緩和・民営化によってエンロンが発展途上国公共事業にも不正な市場操作を行った事実に見ています.それは結局,貧しい者の生活を窮迫させ,彼らに破滅的な影響を与えた.IMFがアルゼンチンにしたことと言えば,債権者への支払を続けさせるために融資しただけである.大企業の権力は,アメリカで以上に,貧しい発展途上国では野放しにしてはならない,と言います.
Alan Beattieは,IMFのKohler専務理事にインタビューしています.Kohler氏は,クリントン政権期ほどIMFはアメリカ政府やG7に縛られていない,と言い,発展途上国も豊かな諸国もグローバリゼーションに対応した構造改革が遅れている,と訴えます.「管理されたグローバリゼーション」という考え方を支持し,IMFで力を持つ豊かな諸国の一層の支援を求めます.
WPの社説は,左派の批判も右派の批判も退けて,90年代のラテン・アメリカが改革を進めたことで世界の成長率を上回る成果を上げたことに注目します.そしてアルゼンチンは為替制度や財政赤字で失敗し,ブラジルは変動金利で外資を取り込んだように,「ワシントン・コンセンサス」を放棄するのではなく,失敗から正しく学べ,と.
抗議運動の中でも,IMF・世銀総会では世界経済の悲観的な見通しや,特にラテン・アメリカの危機を抑えることが話し合われたようです.G7では支持された債務国の破産処理に関する積極的な制度化の提案も,シティ・グループやJ.P.モルガン・チェースなど,主要な銀行の反対で発表されませんでした.世界中から融資の見直しを求められるのを恐れたのです.
Elliottは,催涙ガスに包まれた昨年の総会と比べて,ワシントンの様子が静かになったことを指摘します.ブレトン・ウッズの姉妹機関は,反対派の意見を取り入れて,改革のために協調することを望んだからです.グローバリゼーションを三つの分野で改善したい,と言います.1.世界経済の回復,2.アルゼンチン型危機の回避,3.世界の貧富の格差.
世界の貧富の差を緩和するのは,complacency, self-congratulation and hypocrisyである,とIMFなどは主張します.すなわち,世界経済が回復すれば国際商品価格が上昇するから貧しい国が利益を得る,という自己満足.豊かな諸国の国際機関が最も貧しい債務国からその負担を免除する,という自己讃美.そして西側の生産者の利益にもなる市場自由化を求める,という偽善.これらは,街頭の抗議活動から,より複雑な闘いに移ったことを意味している.失敗は許されない.ふたたび街頭の声が政治的指導者たちを動かすから.
BL 09/27 00:10
Confronting Japan at the G-7 and IMF Meetings
By David DeRosa
FT September 28 2002
Following in Japan's footsteps
BL 09/27 17:51
Why Hayami Sheds `Sparrow's Tears' for the Banks: Patrick Smith
By Patrick Smith
BBC Saturday, 28 September, 2002
Japan's reforms puzzle US
O'Neill says Japan's plans will not work
By David Schepp
NYT September 29, 2002
U.S. Says Japan Must Make Bolder Economic Changes
By EDMUND L. ANDREWS
(コメント) オニール財務長官が塩川財務大臣に求めるのは,半年,1年,2年先に何が変わるのかを示せ,ということです.たとえば日銀が銀行の保有株式を購入するのは良いことだ.しかし,4300億ドルと言われる不良債権を処理するのには役に立たない.DeRosaは,この資金が日銀により不胎化されてしまうとしたら,たとえば日銀の買う国債が減るだけで,円の供給は増えないだろう,と指摘します.デフレを止めるには貨幣を創り出すことだ,と.
では,アメリカやヨーロッパにとって,日本の教訓とは? 発達した市場経済がデフレに陥ると容易に脱出できない,ということのようです.それだけ資産市場調整の影響が強いのです.デフレが始まれば政策は麻痺してしまうから,デフレに入らないことが何より優先される,とFTは強調します.しかし,アメリカもヨーロッパも,既に行われていること以上に政策の余地は無いようです.
Smithは,速水総裁の宣言が,不良債権処理には関係ないものである,と考えます.むしろ,日本の不良債権処理と銀行に誰が責任を負うのかをはっきりさせるためのものであった,と言います.日本では,従来から,銀行の不良債権処理と大蔵省の課税がセットで了解事項となってきた.速水はこの点を問題にしたのだ,と.
数千人の抗議デモに囲まれたIMF・世銀総会においても,オニール財務長官に対応を尋ねられた塩川財務大臣は,その後,官僚によって自分の発言内容を二転,三転させました.アメリカ政府ははECBや日銀にも圧力をかけて世界景気後退に対する対応を求めています.しかし,それぞれが国内の財政当局や議会との関係で政治的対立と国内目標を譲らない以上,誰も正しい協調を唱えられないのが実情です.
ブラジルの州政府やアルゼンチンの議会が互いに責任やコストを受け入れることなく,通貨危機の源泉となったように.
NYT September 29, 2002
Contradictions of a Superpower
By ROBERT WRIGHT
(コメント) 市場統合や技術移転が意味するアメリカの覇権衰退に関する考察です.グローバリゼーションの時代に,先制攻撃によってテロと闘う世界の警察官という崇高な役割を担うブッシュ氏のアメリカは,同時に,判事であり,裁判所であり,検察庁を担うつもりです.アメリカへの富の集中を世界の経済的繁栄を拡大することで解消したい,という一方で,このような政治的・軍事的権力の独占を続ける姿勢は,アメリカへの憎しみを買うでしょう.
WRIGHTは,一方で,グローバリゼーションにより中国が急速にアメリカの覇権に追いついてくること,他方で,アメリカの権力独占が正統な役割をも妨げていることを指摘します.そして,グローバリゼーションにおける密接な相互依存と技術的な進歩,文化的・制度的な価値の共有を基礎に,世界的警察機能を充実させるべきだ,と言うのです.それは世界を単独の覇権国の不安定な意向や盛衰から切り離すからです.
BBC September 29, 2002
Does the Law of Gravity Apply to the Dollar?
By EDMUND L. ANDREWS
ドル安が加速することも,世界経済の不安定要因である.アメリカへの輸出が世界経済にとって重要な刺激となっているからだ.
しかし,他方でアメリカの5000億ドル近い経常赤字が維持されるかどうか,投資家がアメリカの成長率に対する失望を感じるなら,ドル暴落の危険がある.ドルこそが最後に残ったバブルの調整だ,と言うバーグステンは,10〜20%の減価を財務省が容認することを主張する.
アメリカの製造業は,日本や中国の介入による過度のドル高によって,彼らの輸出が妨げられているという不満をもっている.
IMFは,もちろん,正しい答えを知っている.ヨーロッパと日本が成長率を高めて,国際収支の不均衡を解消することだ.そして弾力的で開放された経済を主要諸国が維持することである.
NYT September 30, 2002
Japan Concentrates Economic Power in Cabinet Minister
By JAMES BROOKE
FT October 1 2002
Towards reform
BL 10/01 11:00
Questions on Japan's Public Funds for Loans
By David DeRosa
BL 10/01 02:41
Japan's Naked Bankers Dress Up for Bailout
By William Pesek Jr.
(コメント) NYTは竹中氏を"economy czar"と呼びました.楽観派も悲観派も,竹中氏が新しい経済政策の中枢を担う点で一致しています.その転換が可能かどうか,が問題です.銀行の不良債権処理と,公的資金を用いて銀行を変える,潰れる銀行も出てかまわない,という姿勢が明確だからです.銀行も官僚も,何より政治家たちが彼の方針を嫌うだろう,と.
FTの表現が本質を突いていると思います.竹中氏は,まず不良債権の査定を厳しく行い,生き残る銀行を決めて公的資金を投入することだ,と指摘します.しかし,同時に日銀を促して,政府とともにデフレ対策を本気でやらねばならない,と.しかし,何よりもこの決定を行い,改革の可能性を示したのは小泉首相です.「つまるところ,政治の本質は可能性の芸術である.銀行の不良債権問題を本気で処理し始める,というシグナルを示すことで,小泉氏は日本に新しい可能性を広げた.」
4年間で3度目になる公的資金投入をやるかもしれない日本に対してDeRosaは,不良債権処理に関する深刻な問題を示します.1.政府のどの部門が不良債権を購入するのか? 多分,RCCだろう.2.RCCはどうやって資金を調達するのか? 市場から? あるいは財務省から? あるいは日銀? 3.しかし,もし日銀であれば,日銀はなぜ銀行の株式を購入するのか? それは変だ! 4.不良債権をいくらで買い取るのか? 高すぎれば銀行への補助金であり,国民は納得するか? 低すぎれば銀行は破綻すると不平を述べる.そして,法による強制が必要になる.5.政府は買い取った銀行をどうするのか?
DeRosaは,損失を穴埋めしてからオークションで売却することを薦めますが,日本政府は国民が忘れるまで何もしないで放置するだろう,と予測します.企業の債務を政府金融機関で支え続けて,国立博物館に展示するしかない.国民が,そこに自分たちの税金は投げ込まれたのだ,と思い出せるように.
Pesek Jr.も,台頭する中国に比べて,停滞する日本が世界の投資家から見捨てられないのは,その経済規模だけである,と言います.それゆえ,日本企業は規模が大きくなり,投資対象として残ります.しかし,その内部には収益力に大きな較差があります.特に,銀行部門がさっぱり回復しないのに,繰り返し公的資金で補助するのは,結局,自己処理を進める健全な銀行の努力を無駄にし,国民の税金も無駄にする行為です.
FT October 2 2002
Patience is a virtue for Argentina's creditors
By Ricardo Hausmann
(コメント) アルゼンチンは,突如,貿易赤字を続けるどころか,債務の返済を迫られ,大幅な黒字を出すようになりました.通常は,通貨の減価と激しい不況によって,これが行われるのです.ところがドル化の進んだ経済では,この過程で債務者から債権者への巨額の所得移転が生じ,アルゼンチンの政治家たちを所有権の書き換えに向かわせました.
それでもアルゼンチン経済が安定を維持できたのは,1.政府は支出を切り詰め,輸出に課税して,基礎的財政収支を黒字に保ったからであり,2.国内の経済崩壊が貿易収支を大幅な黒字にしたからです.他方,IMFが課す安定化計画は相応しくありませんでした.それは通貨や銀行システムの危機を深め,債権者による富の収奪を放任しました.このままでは米主開発銀行がアルゼンチンに対して持つ債権を失い,その格付けを悪化させかねない,とHausmannは警告します.
WP Monday, September 30, 2002
Bush's Foreign Policy First
By Jackson Diehl
FT October 1 2002
Misunderstanding the Rice doctrine
By Walter Russell Mead
LAT October 1, 2002
Robert Scheer:
The Sun Can't Set on This Empire Too Soon
(コメント) 冷戦後の世界にアメリカが積極的に関わる「国際派」の理論は今まで欠けていました.コンドリーザ・ライス女史の描いた「ブッシュ・ドクトリン」は,先制攻撃ではなく,ジョージ・ケナンの「封じ込め論」に変わる国際派の戦略を目指した,と言います.民主主義を守るのに国内と国外の区別は不可能であり,ソ連以上に危険な敵が現れた.これに対抗できるのはアメリカだけである,と.その野心的目標にはため息が出ます.
歴史家のDouglas Brinkleyは,ラジオの雑談で,その原理を「われわれは好きなときに,やりたいことをするぞ.われわれは,もし奴らが戦争しかけるかもしれないと思えば,誰にでも戦争を宣言するぞ」の原理だ,と紹介しました.
しかしDiehlは,新しい外交原則が確立されるまでには反発が起きるものだ,として新しい現実に対応する原理の改善を図るパウエル氏の努力を支持します.
Meadに拠れば,ライス女史の示した外交政策は従来の枠組みを概ね踏襲しています.それは,リアリスト的な多角主義であり,アメリカの国益を重視しながら,大国間のバランス・オブ・パワーや国際機関も尊重し,利用します.それが劇的な印象を与えるのは,9・11が真珠湾攻撃と同じように衝撃的であったからだ,と言います.アメリカは自国の利益と国債安全保障を再び緊密に結び付けたわけです.
他方,Scheer:は,そこに明白な「帝国の嗜好」を嗅ぎつけます.「冷戦が終わって,われわれは中東に駐留する正当な理由を見出せなくなった.政府に関わる幾つかの企業や産業がじゅうだいな.利害を持つとしても.民主主義を支援する? 確かにイスラエルはこの地域で唯一の実際に機能する民主主義国である.しかしわれわれは,ローッキード・マーティン社の爆撃機を64億ドルも購入し,原油を安定して供給するアラブ首長国連邦が独裁体制であることなど気にしない.」建国の父たちが繰り返し警告したように,アメリカは帝国の誘惑に負けて,市民の命とドルの価値を損なってはならない,と彼は主張します.
BL 10/02 00:17
Argentina's New Type of Foreign Exchange Risk
By David DeRosa
(コメント) DeRosaが言う「仮想的為替リスク」論とは,アルゼンチンが資本流出を恐れて,一旦預金をドル化しながら,結局,切下げと債務不履行に踏み切って,このドル建預金をいつまでも預金者に返還しない状態を指します.為替リスクの無いはずのドル建預金を,Duhalde大統領の政府は勝手にペソに転換しようとしています.しかも,その交換レートは市場が決めるわけではなく,政府が現在の市場レートとかつての固定レートとの間に決めるのです.あるいは長期の国債に交換しても良い,と.
DeRosaは,これを為替レート理論の新しい問題だ,と,多分,皮肉を言っています.しかし,これはもちろん,銀行が買収されてしまい,大部分,外資系の資本であることと関係あるでしょう.政府は,外国資本に金融システムの修復コストを分担させたいのです.経済が崩壊する過程で,改革のために必要な資本を再ペソ化によって調達しようとしても,逃避した資本は戻りません.それどころか,「仮想的な逃避資本」である国内のドル建預金も失われたに等しいのです.
LAT October 2, 2002
White House Economic Policies Are Bankrupt
By JOSEPH E. STIGLITZ
NYT October 4, 2002
My Economic Plan
By PAUL KRUGMAN
(コメント) Stiglitzの採点では,ブッシュ政権の経済政策は,落第:F,である.なぜなら,彼の関心は減税にしかない.しかもその効果を見ない.市の公共輸送問題を解消するのにフェラーリを数台買えば良い,と言うに等しい.もっと地方政府に財源を与えて再開発を促し,あるいは失業者に給付してやれば,彼らはすぐに支出し,減税の効果も高まる.しかも,企業の会計スキャンダルに対して情報を開示する法律を作らない.市場に則った政策で無ければならないのに,個別産業に関税を高め,農民への補助金を増やしている.結局,企業の投資環境は悪化しているのだ.
Krugmanの診断では,Fedの金利引下げでは不十分である.なぜなら,今回の不況はインフレが加速して金利を引き上げたから起きたのではないから.不況はバブル崩壊と過剰投資によって起きた.資産は減少し,過剰設備は残る.経済学の教科書に従って,民間投資が減った分は,政府が財政刺激策を行うしかない.失業手当を増やし,地方政府の財源不足による社会福祉削減を緩和しなければならない.ブッシュの建てた5年先の減税計画など捨てることだ.
ST OCT 5, 2002 SAT
How to save the world from financial catastrophe
By GEORGE SOROS
(コメント) Sorosは,国際金融システムが不安定性を拡大し,しかも周辺諸国に不当にコストを押し付けている,と主張します.通貨危機に襲われた国をモラル・ハザードで非難する論調は後退しました.IMFや国際機関は豊かな国の利益だけを重視しています.しかし,論調は変わっても,市場におけるリスクを反映する追加金利は高く,今の通貨危機の原因となっています.
Sorosは,根本的な転換として,健全な政策を採る新興諸国の政府に対して,主要国の中央銀行は国債の割引によって金利を抑えられるようにすべきだ,と主張します.あるいは,その財源をSDRで調達し,豊かな国は新興諸国国債市場への介入資金としてIMFにこれを与えるのです.これによって国際金融システムは,安定性と公平性を大幅に達成できるだろう,と.
私も,主要通貨間の為替レート平準化操作に,同様の意見を持ちました.新興諸国のリスクであれ,主要国間の為替レートであれ,政策の監視と介入資金を用意しておくことが,健全な市場の機能に基本的な条件であると思います.
IHT /Universal Press Syndicate Tuesday, October 8, 2002
General Bush marches as to war
Richard Reeves
LAT October 8, 2002
'The Bush Doctrine' Leaps Into History
By JAMES P. PINKERTON, James P. Pinkerton writes a column for Newsday in New York.
(コメント) Reevesは,ブッシュがレーガンに似ている,と言います.減税の重視や外交における冷戦終結への意欲などです.しかしブッシュは,しばしば単純化されていたとはいえ,レーガンが備えていた大きな歴史意識を欠いている,と.
他方,PINKERTONは,ブッシュ・ドクトリンを,早速,歴史の転換点にしています.ブッシュ氏はその演説を「なぜ今,フセイン討伐か?」という疑問に対して答えるために行っています.しかし,同時に,平和を実現するためには先制攻撃も必要だ,という原則を示しています.これは冷戦後の現実に対して,ブッシュ氏がアメリカの軍事的な役割を加速させたことを示しています.
なぜこれを1823年のモンロー宣言や,1947年のトルーマンドクトリンと並べるのか? それはアメリカが担う世界的な重要性と,アメリカが示した原則に対する世界の反応が,今後の世界秩序を変える重要な条件となっているからです.ロシアや中国のような,アメリカ以外の国も,ブッシュ・ドクトリンを利用して国際的な先制攻撃を正当化するでしょう.それがどのような世界を築くにせよ,すでにブッシュ・ドクトリンが歴史を作り始めたのです.
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The Economist, September 28th 2002
Outward bound
(コメント) 現代の国際移民と政策をめぐる考察です.貧しい国や特に新興諸国の高等教育を受けた熟練労働者・技術者たちが,大量に豊かな国へ流出しています.それはフィリピンやメキシコに限らず,カナダでも問題です.豊かな諸国は一斉にこうした移民を促進する政策転換を行いました.彼らを失うことは貧しい国にとってさまざまな経済発展への障害を意味します.「頭脳流出」への課税論も,実効性に問題があります.
The Economistが支持するのは,互いの移動を促進し,双方向に利益を分かち合えるようにすべきだ,ということです.自由貿易論に似た,自由移民論です.その方が移民は経済的な誘因を素直に反映し,一時的な調整的移民が増えるでしょう.人種的な隔離や差別も減ると期待されます.そして,貧しい国が成長を加速するなら,移民たちはこの機会に参加するために率先して帰国し,さらに世界的な市場統合に円滑に導く機能を果たすのです.たとえば,今の中国のように.
Dollarization in Latin America: El Salvador learns to love the greenback
エル・サルバドルはドル化の成功事例として,将来の新興諸国の為替レート制度に大きな影響を及ぼすだろう.あらゆる為替制度が試されて,失敗してきたから.しかし,その成功には特に有利な条件があった.まず,輸出の3分の2がアメリカ向けであるように,経済構造がアメリカに緊密に結び付いている.アメリカ在住の移民からの送金は年間20億ドルに達し,GDPの7分の1にもなる.彼らは常時ドルを扱ってきた.またその経済政策も自由化による改革を重視し,低インフレで成長を目指してきた.ドル化は金利を引下げ,企業の取引費用を減らしただろう.エル・サルバドルは非常に弾力的な労働市場を持っており,為替レートの変動を賃金率の調整で吸収できた.
他の多くのラテン・アメリカ諸国はこのような条件を満たせない.エル・サルバドルにも地震後の国債累積やドル化の逆転というリスクがある.
How to rescue it
The unfinished recession: A survey of world economy
(コメント) 1.景気循環は終わらない.2.オーストリア学派の復活.3.経済活動は短期的にも安定化しない.4.財政政策も金融政策も十分ではない.5.日本が示すデフレの恐怖.6.調整のために不況は必要.7.中央銀行は資産市場にも注意せよ.8.世界経済の同時化による危機の深化.9.低インフレ時代の景気循環にそれぞれが備えよ.
「この数十年間で,経済の機能や通貨政策の役割に関する見解は何度も変わった.1950年代から70年代にかけて,通貨政策の主要目標は完全雇用であった.インフレ率が高まって,政府はインフレ抑制を優先するために,完全雇用の目標を捨てた.大衆に,信用や資産価格のバブルがインフレと同じくらい有害であると説得するのは,失業からインフレに目標を転換したのと同様に難しい.」
「過去100年間,すべての貨幣法則は経済情勢が変化したことで破綻した.金本位制や,固定レート制を採ったブレトン・ウッズ・システム,貨幣供給量の目標設定.今また,厳密なインフレ目標の設定も万能薬ではないと分かったようだ.中央銀行は短期的な物価の安定によって,金融的不均衡の他の徴候から眼をそらす.今度は,その不均衡がより深刻な不況とデフレの危険さえもたらしている.」
その教訓は? 健全な企業,健全な銀行,健全な政府,そして勤勉な労働者.システムの設計や政策原理に多くを期待しすぎてはいけない.
The IMF: Doubts inside the barricades
The Bank of Japan: A great risk, for what reward?
(コメント) IMFも日銀も,深刻な方針転換を摸索しています.
Rodrikのような少数意見は,ラテン・アメリカが新しい発展を開始するために,過去の債務を破棄し,資本規制を行って,ワシントン・コンセンサスなど忘れたほうが良い,と主張します.しかし,正統的な多数派も,中国やインドが直ちに資本自由化してバブルや危機を招いて欲しくないし,破綻した政府の債務処理を迅速に行えたほうが良い,と認めています.
それは日銀でも同じことでしょう.金融規制を再強化したり,自己資本の査定を厳しくして,改善できない銀行の退出を促すはずでした.ではなぜ銀行の保有株式を購入するのか? The Economistは,中央銀行とも思えない,日銀の示す説明の異様さに驚きます.みずからその政策を「これは大きな賭けだ」と認める中央銀行などあるものか?
この決定は日本特有の政治的駆引きであろう,と彼らは解説します.小泉氏による内閣改造の直前にシグナルを送った.政治家たちは日銀が株式を直接に購入しろ,と迫っている.速水が来春退任し,人選で圧力を受けるまでに,日銀として行動したほうが良い,という判断もあっただろう.日銀外部から総裁を指名されるのを避けたい,と.
しかし,購入規模は不良債権処理に役立つほどではない.金融庁の改革失敗に耳目を集めるためか? 世界中の中央銀行からバカにされても,小泉首相に日銀は精一杯やっている,と見せるためにやった? 金融システムが安定した方が,政府は改革を進め易いだろう,と言うが,これで政府は何もしないで済むかもしれない.日本の指導者たちは,結局,誰一人,改革など望んでいない.日銀の賭けは大穴過ぎたようです.