IPEの果樹園2002
今週のReview
10/7-12
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NHKにんげんドキュメント「残された言葉――避難先で亡くなった三宅島の80人」を途中から観ました.彼らの奮闘と辛苦を通して,噴火ではなく,日本の社会に対する疑念が湧きました.災害だけでなく,障害を持つ人や高齢者を抱えて生きる家族が増えることが,日本の社会や政治,経済に深い影響を与えているはずです.しかし,いろいろなシステムはそれに対応していません.
金融システムの不安を抱え,ゼロ金利で国債を累積しながら財政赤字による点滴と輸血で生き延びている時間とは,本来,こうした社会変化に対応する時間だったはずです.銀行や企業の再生に莫大な公的資金が必要であるとしたら,それを審査する機関には,国民が相応しい代表を送るべきです.それは,既存の銀行や債務を累積した政府,債務に安住する不動産業者,将来の利潤が見込めない膨張した企業に深く関わる財界人や地方の名士・政治家ではなく,現実に奮闘する人々であるべきです.
選挙で選ばれたわけではない竹中平蔵氏が大臣(級)のポストを2つも占めるということは,自民党の政治家たちを歯軋りさせているのではないか,と思います.外国のメディアが彼を「経済皇帝 “economic czar”」と呼んだのは,それなりに理由のあることです.政府が行う不良債権処理に,学者や官僚,そのOBらが見取り図を示すことは,それだけなら,特に有益でも無益でも無いでしょう.しかし,今や,その一人が大臣として政策手段を動員できるのです.
「ビジネス・サテライト」で榊原英資氏は,竹中平蔵氏が対応を間違っている,と指摘しました.金融を扱う大臣は,自ら「銀行が不健全である」とか,金融システム不安を煽るような発言をしてはならない.その意味では,柳沢氏の方が正しかった,と.他方,公的資金について,銀行ではなく企業の維持・再生のために投入するべきだ,と発言しました.
私見では,竹中氏はあくまで小泉氏の経済・金融顧問であり,経済政策の対外的な説明担当者である,と思います.彼自身がリスクを負って政治的な決断を下す立場にはないからです.たとえば,どこかの国の政策について,サックスやクルーグマン,ハンク,スティグリッツが何と言おうと,彼らが政策を決める力はないでしょう.しかし,竹中氏は決定的な立場に身を置きました.彼が「システムに問題があるから,これを整理したい」と言えば,市場がパニックを準備します.
日銀の銀行保有株買い上げに対する金融関係者や国際社会からの非難は手厳しいものでした.それは政府に行動を求める最後の手段,「腹切り」オプションであった,とさえ説明されています.“Tokyo's tangle” (FT September 25 2002)が言うように,日銀・財務省・金融庁は,互いに相手の行動が不足していると非難し合っているのですから,トップを交換すれば良いでしょう.
戦争や安全保障が経済システムを大きく変える危機であり,チャンスでもあることは,歴史が示しています.アメリカに赴いてブッシュ大統領を賞賛し,電撃的?に北朝鮮を交渉に取り込んだ小泉首相が,この政治的混乱の舞台を不良債権処理の最終局面に選んだとすれば,彼の政治的本能と問題解決へ正面から取り組む決断がこれから示されることを望みます.なぜなら,既に議論は膠着し,利害関係者はショックを待つばかりだからです.そして小泉氏は,政治によって現実を動かすことを好むタイプの指導者,に見えるからです.
映画『マトリックス』を観て驚嘆しました.人間によって太陽光をさえぎられたために,コンピューターたちはエネルギー源として人間を栽培し,さまざまな仮想現実の世界に生き続けています.そして廃墟となった現実世界では,コンピューターに支配されない人間を回復させようとする人々が救世主の出現を信じ,一人の若者を彼らの救世主に育て上げます.これは,格闘技ゲーム・ソフトの放つ妄想である以上に,アメリカの新しい信仰告白,私たちにとっての寓話ではないでしょうか? 誰もが<神>をさがすほど,荒廃した世界の亀裂は深刻なのです.
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg, FEER:Far Eastern Economic Review
LAT September 22, 2002
The End of Deterrence
By MITCHELL KOSS
LAT September 22, 2002
The End of Deterrence
By CAROL BRIGHTMAN
(コメント) アルカイダに抑止力は通じないだろう.敵がどこにいるかもわからないのだから.核兵器による相互確証破壊MADが「抑止力」として存在し,米ソ両大国の核兵器が使用されることなく,平和を維持できた時代は,ある意味では,好ましいものであった,と.
アメリカは,今,非常に好戦的となった.自分たちが脅威であると見なす国を,いつでも,先制攻撃できる,というブッシュ大統領の宣言は,冷戦時代の後にアメリカが再編する国際秩序の当然の帰結であるようです.(1)核による抑止力の冷戦時代から,(2)ハイテク・兵器による戦死者ゼロ(もちろんアメリカ軍の側だけ)の時代へ,さらに (3)核兵器とミサイル技術の拡散,レーガンのスター・ウォーズ構想からミサイル防衛網が主張されました.そして突如,(4)ハイジャックによる自爆テロと,アメリカによる一方的先制攻撃の時代が,始まったのです.しかも,この新しいアプローチが成功するという証拠は,まだ無いのです.
BRIGHTMANは,ブッシュ・ドクトリンはアルカイダのテロ行為が引き起こした変化ではなく,もっと前からあった,と言います.1991年にPaul D. Wolfowitz と Lewis "Scooter" Libbyが書いた狂気に近い国防計画書に既に書かれていたようです.そこで彼らは,ヴェトナム戦争のときのDean Rusk国務長官が苦しんだ悪夢を振り払おうとしたのではないか.潜在的なあらゆる対立を先制攻撃によって撃破する.しかし,それは「弱者の戦術」ではないか? と保守派の論客Robert Kaganは書きました.
マキャヴェリも孔子も,真の権力Powerが無数の経路によって,ほとんど平和的な経路によってもたらされることを知っていました.政治哲学者のハナ・アーレントも,すでに1969年に,「特定の国が振るえる物理的な暴力の大きさは,もっと小さな,しかし確固とした小国の攻撃や防御に対する,十分な強さや信頼性の高い防衛力を示すものではなくなるだろう」と指摘していた.「権力と暴力(物理的破壊力)との関係が完全に逆転するなら,将来,大国と小国の関係が逆転することも起きうる.」バクダッドでも,ヴェトナムを石器時代に戻してやる,と暴言を吐いたCurtis E. LeMay将軍の愚かさを繰り返すだけではないのか?
FT September 22 2002
The disastrous consequences of instability
By Joseph Stiglitz
(コメント) Stiglitzの指摘する論点は以下のものです.@国際金融システムの不安定性が赤字国に集中する.しかし,日本や中国のように大幅な黒字を貯め込む国があり,またアメリカの赤字がいつまでも続かない以上,赤字の国はなくならない.A貧しい国は為替レートや金利の変動から被害を免れる手段が乏しい.市場はリスクを公平に分散していない.Bアルゼンチンが示すように,危機が発生した場合に,国際金融システムはこれを適切に処理できない.特に,実物経済の落ち込みを防ぐために,その財を購入し,企業には信用を供与しなければならない.メキシコでもアジアでも,危機が解消されたのはアメリカ市場への輸出や,宮沢イニシアティブによる信用供与があったからだ.C貿易自由化を進めなければならない.輸出は赤字国に収入と雇用をもたらすが,貿易交渉は彼らに不利である.D貿易は経済的な安定性のための手段である.E金融部門の透明性を高めるべきである.FIMF・世銀は,赤自国政府への正しい破産処理のために民主的制度にはなっていない.
NYT September 22, 2002
The Costs of Bursting Bubbles
By STEPHEN S. ROACH
テロはアメリカの堅調な景気回復に対する信頼や期待感をすっかり吹き消したようだ.しかし,9・11はアメリカ社会にとっては決定的であったが,アメリカ経済や金融市場についてはそうとも言えない.1990年代後半の株式市場におけるバブルが弾けた2000年3月こそ決定的であった.バブルは余りに大きく,しかも余りに長期にわたった結果,消費者も企業もその行動を誤った.
株式市場のバブルが住宅市場や消費をも膨張させる.それが止まればデフレーションの危険がある.この問題こそ,これから1年で,アメリカの政治指導力を最も厳しく試すはずだ.そう遠くない将来に,不動産バブルや消費バブルも破裂すると考えるべき十分な理由がある.もしそうなれば,日本が1990年代にそうであったように,アメリカも今後数年にわたって不況へと落ち込む現実的な可能性が強まる.誰も,今の経済拡大がNASDAQを5000に向けて上昇させたものと同じであることを望んではいないが.
住宅バブルの証拠は否定しようが無い.1997年以来,インフレを調整した住宅価格が27%も上昇した.それは1945年以降の5年間の上昇率としては最大である.これによって家賃は3倍になった.また,住宅価格の上昇は,低金利による借り換えで,いままでの貯蓄を自動車や家具,電化製品,奢侈財の購入に向けさせる.こうして前例の無い不動産バブルこそが,アメリカ経済を推進する「過剰文化」の核心である.
消費バブルは,明らかに,バブルの中でも最後に弾ける.貯蓄を減らし債務を増やすなら,高齢化するアメリカ国民は引退後の現実に直面するに違いない.だが今も,株式市場の暴落で年金制度がパンクしかかっている.誰もが知っているように,アメリカ人はショッピング中毒だ.しかしまた,引退後に何か資金的な保証を持ちたいなら,消費せずに貯蓄しなければならないことを,誰もが知っている.
この消費バブルは何によって弾けるのか? 石油価格の上昇? ホワイト・カラーの解雇? 不動産価格の暴落? 確かなことは言えないが,どれか一つでもアメリカ人の眼を覚まさせる.さらに,それは悪化するはずだ.こうしたことが既に低いインフレ率の中で起きてきた.だから,バブル破裂がデフレをもたらすだろう.財やサービスの価格が国民全体において下落する.
こんなことは珍しい,しかも憂慮すべき事態なのだ.デフレの影響は賃金生活者や債務者に最も深刻だ.企業は黒字を出すために雇用や賃金を削り,結局,消費者の購買力を奪ってしまう.そして債務者が支払う名目的に固定した返済金は,債務超過の者をさらに絞り上げる.
アメリカはすでにデフレの縁にある.2002年の第2四半期にGDP物価指数は,年率で,たったの1%であった.それはこの48年間で最低である.財と建造物の価格はすでに年率0.6%で減少している.サービスだけが,信頼性は乏しいが,上昇している.
デフレのマイナスの影響は二つの点で明白だ.まず,バブルに湧いた企業の支出により,1990年代後半の新しい情報機器やさまざまな資本財が過剰設備となっている.それは過剰供給をもたらし,経済学の教科書が言うように,価格を下げるだろう.また,グローバリゼーションの影響も見逃せない.近年,アメリカ経済は大幅に国際競争にさらされるようになっている.2002年の第2四半期に,アメリカは生産した財の3分の1に等しい財を輸入した.それは1990年代前半の景気回復期を20%上回っている.そして重要なことに,ますます多くの財が高度の競争力を持ったアジアの生産者によって供給されており,彼らのコスト構造はアメリカの競争企業よりはるかに低いのだ.韓国を例外として,アジアの主要経済はそれ自身がデフレに苦しんでいる.結果的に,アジアとの貿易が増えるほど,アメリカはデフレの中国や日本から財を購入する.それがアメリカのデフレ圧力を強めるだろう.
歴史は,資産バブルが破裂した後,デフレがしばしば起きたことを示している.1930年代のアメリカや1990年代の日本がそうであった.アメリカは日本と違う,とか,日本のような経済的惰性は少なく,より弾力的でダイナミックであるから,と多くの者は言う.しかし,アメリカ既にデフレの際に近づき,さらに突き進みつつあるのだ.
その危険を軽視してはならない.しかし,まさにアメリカの投資家や政策担当者がそのような態度を示している.もし住宅や消費のバブルが弾ければ,デフレの危機は高まる一方だ,もはや「アメリカではデフレなど起きない」という振りをしているときではない.
FT September 23 2002
The real foe is Middle Eastern tyranny
By Michael Ledeen
(コメント) 筆者のLedeenは,イラクと戦っても,さまざまなテロ組織はそれを口実に世界中でアメリカ人やイギリス人を殺すだろう,と予想します.テロを終わらせるには,彼らに資金を提供する政府を改めるべきである,というわけです.そして,イラン,イラク,シリア,サウジ・アラビアが,中東のテロ組織を支援している独裁的な政治体制であるから,これを変える必要がある,と主張します.
イランは,ヒズボラなどのイスラム原理主義組織を設立し,訓練し,資金援助してきました.イスラム原理主義の運動を展開する中枢を持っているイランで,民主的な改革派は実際の権力を持たず,国民はその不満をテヘランの大規模なデモで示しています.アメリカは反政府組織を支援すべきだ,と言います.他方,サウジ・アラビアは,その時代遅れの封建体制を維持できないし,テロ組織への資金援助を止めさせねばなりません.王室内の西側支持派を支援できる,と言います.
でも,いくらアメリカでも,中東全域の政治体制を転換する仕事は大き過ぎるのではないか? と不安を感じるでしょう.しかし,Ledeenは,否,アメリカは小さな夢を満たすだけでは済まない大国なのだ,というレーガンの言葉を添えます.
FT September 23 2002
There are alternatives to war on Iraq
By Michael Quinlan
ジョージ・W・ブッシュは国連を通さず,一方的なイラク政府の転覆を目指す方針へと突進する.しかし,難しい選択はその先にあり,すべての方策についてリスクとコストを明確に評価しておくべきだ.
戦争とその後の経過で何が起きるかは誰にも分からない.アメリカはもちろん,サダム.フセインを追放し,大きな利益をもたらすだろう.大規模な空爆を経て,歩き振りコンテスト”cake-walk”のような作戦になるだろう.あるいは,バクダッドの市街地で通りから通りへと占拠していく激しい戦闘が行われるかもしれない.最後はフセインが侵入した軍隊に生物・化学兵器を浴びせ,あるいはイスラエルを侵略するかもしれない.多くの戦闘員や非戦闘員が殺され,イラクは廃墟となる.アメリカの騎兵隊が丘に現れると,誰かが夢想したように,イラクの住民たちが通りで踊りながら歓迎するかもしれない.しかし,最後になって,9・11が再現されるかもしれない.
統一された民主的な体制が,アメリカの承認と,国内でも支持を得て,速やかに誕生するかもしれない.それはイラクの近隣諸国にも体制転換を促す.あるいは,イスラム圏の中東地域のいたるところで見られる粉飾と歴史が示すように,イラクの政治的な悪夢が一層深刻化して,無秩序をもたらすだろう.外部の軍隊が長期に駐留する必要があるかどうかも分からない.他のアラブ諸国の政府は,口では反対しているが,侵攻を受け入れ,あるいは支持するかもしれない.
だが,逆に,もしシャロンがこれに関われば,広範な抗議活動と不安定化が起きるだろう.民衆はテロリストへの長期の掃討作戦を支持するかもしれないが,しないかもしれない.原油供給とその価格は影響を受けず,世界経済を妨げないかもしれないが,そうでないかもしれない.確かなことは言えないのだ.
国連がフセイン氏に大量破壊兵器を破棄するように求める方向でわれわれが進むなら,現状に満足しない理由を明らかにすべきだ.
第一に,フセイン氏とアルカイダ,9・11とのつながり.しかし十分な証拠は無く,アメリカ政府も今では主張していない.
第二に,フセイン氏の保有する大量破壊兵器と,それがアメリカやイラクの近隣諸国に対する脅威であること.それがテロリストに提供される危険.近隣諸国に使うとは思えないが,もしブッシュ氏が言うように,フセイン氏の軍隊は1991年よりも弱くなっているなら,それがアメリカの脅威であるとは言えないだろう.
こうして抑止政策が支持される.9・11は国家間の抑止政策が無効になったことを意味しない.フセイン氏は何より生き残ることを重視しており,大量破壊兵器の使用やその移動が彼を葬ることを理解している.国連安保理はこのことを明らかにするべきだ.
第三に,フセイン氏が条約や安保理決議にはなはだしく違反している状態は許しがたい,ということだ.それは1991年の彼の敗北と交渉の一部として決定的な部分であった.これを放置して,彼に苦しめられている民衆にしか効果の無い制裁だけを行うのは,
国際秩序に残忍な傷を負わせるものだ.これこそ行動を促す決定的な理由である.そして,これは国連安保理とアメリカ政府に,ともに特別な責任を求める.国連の権威を無視して行動すれば,その権威は著しく損なわれる.
主要な目的は,条約に違反し,安保理にそむいた「報いを受けさせること」である.しかし,私たちは新保守主義の考え方に縛られてはならない.処罰は欠陥を伴うが,たとえ体制が転換できなくても,また大量破壊兵器を完全に除去できない場合でも,抑止政策は機能する.安保理のメンバーは選択肢を検討しなければならない.すべての大量破壊兵器が隠匿されると疑わしい箇所を爆撃するのか? 共和国防衛軍と他の軍隊を爆撃するのか? フセインの宮殿を爆撃するのか?
侵攻のコストとリスクとを考慮すれば,「他に選択肢はない」という議論を軽々しく受け入れるべきではない.
ST SEPT 23, 2002 MON
Beware another Vietnam in war on terror
By Janadas Devan
(コメント) Devanは,イラクとの戦争は,反戦派が言うような,ヴェトナム戦争の再現にはならないし,好戦派が言うような,ヒットラーを懐柔しようとして譲歩し続けたチェンバレンの宥和政策にもならない,と言います.アメリカが戦死者を出さないとは言えないが,勝利は疑い得ないし,フセインは膨張しているのではなく,制裁措置や飛行禁止区域によって抑えられているからです.彼は,ホー・チミンのように,自国の民衆から支持されているわけでもありません.
しかし私は,ヴェトナム戦争と宥和政策の事例が,今回の戦争でも重要な条件を示すと思います.もし宥和政策を完全に拒めば,アメリカの勝利は次第にアラブ地域の民衆から反発を受けるでしょう.他方,ヴェトナム戦争が示したように,限定した支援作戦が,次第に戦域を拡大し,自ら戦争の主体となって,戦況が悪化するほど政策転換を先延ばしにする恐れがあるのです.
BL 09/24 14:44
BOJ Stock Plan Creates Problems, Not Solutions: Caroline Baum
By Caroline Baum
アラン・グリーンスパンは議会での発言が誰にも理解できないように複雑で曖昧になるように努めた.彼の言ったことが理解できれば,彼は言い損なったのである.日銀の速水総裁が株式を買うと発言したことの意味も,同様に,よく分からないものだった.これは銀行が保有する株式の価格下落を銀行の不良資産にしないために,緊急に行われる,という.
銀行の準備を下落した価値の株式に換えることが,どうして不良債権処理を進めるのか? 中央銀行はどんな株式を買い,どんな銀行が売れるのか? どの銀行家ら,どんな株式を,どれくらいの価格で購入するか,誰が決めるのか? いずれも明確ではない.
結局,価格を気にしない買手が現れて,市場価格では損失を出している株式を引き取ってくれるなら,株価が上昇しても不思議ではない.日銀は,民間銀行の保有する25兆円(2000億ドル)の株式のうち,8兆円を購入するつもりだ,という見方がある.
民間銀行から株式を購入した中央銀行は,企業に対してこの議決権をどうするつもりか? とドイチェ・バンクのKen Landonは言う.速水さんは企業の重役会に出席するのか?
またCarl Weinberg,は,この行動は「通貨の番人,最後の貸し手」という中央銀行の原則を破るものだ,と主張する.どの銀行から購入するかによっては,日銀が銀行の生死を握り,さらに株式を操作できる.これは自由な資本市場に対する重大な介入である,とWeinbergは言う.
日本政府が長く資本市場に介入したがっていると言われてきた.「この10年は,事実上,日本がますます社会主義国になっていることを示す.かつては民間産業が担っていたことを,次第に政府がやるようになった.」今回,政府は巧妙な方法で,間接的に企業を国有化しつつある.要するに紙幣を印刷して,企業に渡すだけである.
円は,この日銀の決定による最大の犠牲者となるだろう.海外の投資家たちは,日銀が株価に暗黙の底値を示したので,最初,円は上昇したが,そのより長期的な効果はマイナスであるだろう.「政府は,より生産的な個人や企業から,市場で競争できない個人や企業に富を再分配するだろう.その結果,日本の成長率は恒久的に低下し,円も安くなる.」と,Landonは考える.またWeinbergはもっと率直だ.人々が日銀を世界最大のヘッジ・ファンドだと見なせば,円は激しく売られるだろう.と.
LAT September 24, 2002
War Talk Provides Cover Fire
By JAMES P. PINKERTON, James P. Pinkerton writes a column for Newsday in New York.
いつもTVのトップ・ニュースは戦争の話だ.ブッシュ氏は経済的失敗から眼をそらす口実に戦争を利用している.しかし,国民はいつか気付くはずだ.株価は下落し,企業の倒産が続いている.確かにフセインは以前から問題であった.民主党のByrd上院議員は,政府に「なぜ,今,戦争なのか?」と質問する.しかし,満足な答えは得られない,と言う.ライス女史はイラクの「民主的再建」を提唱する.なるほど,外交政策としては夢がある.しかしその予算は?
国民が「王様は裸だ」と言うのは,いつだろうか?
FT September 25 2002
A Washington gathering of incompetents
By Gerry Baker
週末のIMF・世銀・G7集会に抗議する運動家たちには多くの理由があるだろう.しかし,最も重要な理由は,彼らが世界経済を管理する傾向(とても能力とは言えない)がある,という残念な幻想の下で行動していることだ.
街頭で抗議活動すべき理由は,世界の指導的な経済政策担当者たちがよこしまな計画を練っているからではない.むしろ,成長がとまり,金融市場は6年ぶりの深みに落ち,投資も消費も失われつつあるというのに,彼らは何ら計画する術を持たないことを示している.もしこれが世界を救済するための会合であるなら,彼らはまずこの深淵を回避すべきだ.
無能さの順位で挙げれば,まず日本だ.繰り返し政策は経済状態を悪化させた.先週も,日銀は最新の欺瞞的回復策を示した.日本の株価低迷で自己資本が減少する民間銀行を助けるために,彼らの株式を日銀が購入する,と言うのだ.計画が上手く行くとは全く思えない.それは銀行の不良債権に正面から取り組まず,民間銀行に問題を回避する新たな策を授けているに過ぎない.そして中央銀行自身のバランス・シートを損なうとは,泣けてくる.
もちろん,日銀は,この計画それ自体が重要ではなく,不良債権処理のために政府に積極的な行動を促す株式セラピー(療法)なのだ,と述べた.言い換えれば,タイタニック号の船長室で10年も他人を入れ替えた末に,世界第二の経済大国では,氷山が迫ってくるのを見ながら,政策担当者たちが,どこに進むのか,誰に任せるのか,未だに口げんかしているわけだ.
次にヨーロッパだ.シュレーダーはむろん選挙で勝つために反アメリカを標榜したのだ.アメリカの政府幹部たちが憤慨したのも無理はない.だが本当の問題は,シュレーダーが再選されて,ドイツがさらに何年も硬直的な労働市場や環境規制に縛られ,長期的な財政問題や経済停滞に苦しむことだ.現状維持を望んだ投票結果は,この国が急速にヨーロッパの日本となる危険を示した.
たとえドイツが低迷しても,ヨーロッパが財政・金融政策でこれを緩和すれば,問題は緩和される.ところがEUの「安定協定」は財政政策の融通が効かない.またECBはインフレばかりに囚われている.誰がインフレなんて覚えているのか?
そしてアメリカの番だ.公平に見て,ワシントンの政策担当者たちは経済の再稼動に積極的に働いてきた.財政政策は幸運なアクシデントであったが,特に通貨政策は.しかし,アメリカの経済的指導者たちも過去に無かったような試練を受けている.危機を渡り歩いたオニール財務長官とその政策への信認は心もとないままであり,かつて傷一つ無かったアラン・グリーンスパンの評判も曇り始めた.1990年代後半の株式市場に関して,自ら限界を強調し,弁解した.
アメリカの信認が回復されるとしても,経済政策担当者たちの出番は当分無い.ワシントンでは他の幹部たちが戦争準備に忙しいから.アメリカで高まる不確実性,ECBの鈍い反応,ドイツの慢性的不況,日本は麻痺状態が続く.抗議活動のスローガンはこれらに向けるべきだ.
IHT Wednesday, September 25, 2002
A bumpy road back to Keynes
Robert A. Levine
(コメント) シュレーダーの勝利はドイツ硬化症,ヨーロッパの没落だ,という論調が多い中で,Levineはヨーロッパの諸政府がケインズ主義に回帰する動きの一環と見ます.確かに,ドイツだけで財政刺激策を行っても,統合化の進んだヨーロッパでは効果が限られます.しかし,労働党や社民党の政権か,保守派の政権であるかに関わらず,主要政府は財政刺激策に向かいつつあります.ケインズ主義は政党の違いではなく,時代の反映なのです.
確かに,ドイツ人はさまざまな制度を解体し,弾力化しようとは考えていません.また,イラク戦をめぐる対米関係の摩擦は残るでしょう.しかし,アメリカは統合化したヨーロッパを世界戦略から外すわけには行かないのです.Levineが指摘するように,イギリスを除いてヨーロッパは戦力として役に立たず,ドイツは安保理のメンバーでもないから外交的に無視できる,という計算が,米独の対立を忘れさせるでしょう.
FT September 26 2002
Philip Stephens: The world needs new rules
By Philip Stephens
国連憲章が前提とする国家主権は,新しい時代の安全保障を必ずしも実現できない.近代的な価値を体現する新しい世界安全保障を目指すか,あるいは力だけが秩序を作るホッブス的な世界に住むか? アメリカのフセイン政権打倒は,今後数十年先の安全保障システムを決定する.
何が変わったのか? それは国民国家が安全保障の唯一の主体ではなくなったことだ.国連憲章は,国家が安全保障上の満たすべき行動規範を定め,武器の拡散などを行わない国際合意の主体となっている.しかし,コソボで示されたように,国家の安全保障だけでなく,直接に,住民の安全保障も国際介入の正当な理由として認められつつある.さらに9・11は,国家主権が安全保障を独占するものではないことを示した.
技術進歩によって,国境の意味や大量破壊兵器の使用に関する常識が翻された.世界中に広がる武器とテロ組織が与える脅威を取り除くには,ブッシュ氏が言うように,世界中のどこでも,彼らが攻撃して来るのを待たずに,自衛のための先制攻撃をするべきだ.
しかし,多くの民主主義国家が受け入れ可能なその考え方と,アメリカ政府が随所に示す「ユニラテラリズム」とは区別しなければならない.新しい世界的な安全保障システムが,アメリカの支配する世界を意味するとしても,それが事実上そうであるということと,国際合意によってルールとなることには大きな違いがある.
アメリカの外交官・政治家Henry Cabot Lodgeは,国連は「あなたを地獄に向かわせないために設立された.天国に行くためではない.」と注意した.またJohn F. Kennedyは,国連を「弱者の保護」だけでなく「強者にとっての安全弁」であると言った.国連はアメリカに,パワーだけでなく,正当性を与えることができる.それが重要なのだ.
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The Economist, September 21st 2002
The German election: Time for a change
(コメント) 社民党は対イラク戦争に協力しないことを公言し,保守派は反移民政策を公言して支持を得ようとしました.なぜなら,彼らは経済的な成果がお粗末で,改革する意欲が無い点では違いを示せないからです.
ドイツは改革を拒み,少々成長の競争や国際的な地位を犠牲にしても,快適な福祉と社会の結束を優先したい,と考えている,とThe Economistは見ます.しかし,と警告します.成長を放棄した国が,その没落を止められなくなるとしたらどうするのか?
Thailand’s economy: Bubbling along
自動車販売の好調さが示すように,タイ経済は1997年の危機を完全払拭する勢いだ.タイの億万長者,タクシンが首相に選ばれてから,不信を買いながらも,彼はその「資産リフレ」政策を強力に推し進めてきた.しかし批判者に言わせれば,これは危機前のバブルを再現するだけだ.正統的な見解では,バブル処理のために銀行や企業は資産価値の無い物件を処分し,損失を償却してから,再び資本を増強するしかない.
タクシンは,多くの投資が収益をあげなくなったのは経済が不況だからであって,成長が回復すれば正常に戻る,と主張した.そして国中の村にソフト・ローンを与え,健康改善のための政府が金を出し,農民の借金を返済猶予にした.国営銀行は融資を増やし,増税を延期し,公務員への住宅融資を容易にしたのだ.
もちろんこれは世界経済が回復してタイの輸出が伸びるまでの繋ぎでしかない.もしそれが遅れれば,政府の債務は膨張し続ける.消費は伸びているけれど,不良債権は処理できていない.戦争で原油価格が高騰したり,輸出が減少したり,保健支出の増加が制御できなくなれば,財政を引き締めるか,金利が跳ね上がる.
Bank of Japan: Shareholder of last resort
政府からの圧力に頑固な拒否を続けてきた日銀が,なぜ株式の直接購入に手を付けたのか? 日銀はそれだけ金融システムが危機にあると示したかったのだろう.しかし,それは日銀自身の信認を損なう.自ら下落すると予想する株価が下がれば,日銀の資産は減る.今までタブーであったことが一旦行われれば,再び,株価がある水準に下落すれば買い取るように要求される.
さらに,この決定が政治的圧力によるのではないか,と疑いを招く.これにより市場では円も国債も値を下げている.それは銀行の資産をさらに圧迫する.日銀がまさに避けたかったはずの事態である.もちろん,日銀は自民党の政治家たちが繰り返した株価操作と,今回の決定を切り離す.では,なぜ銀行は単純に市場で株式を売らないのか? あるいは政府の作った株式買い上げ機構に売れば良い.今回の決定で新しい要素は,株価下落の効果を回避することだけである.だから,日銀は自民党の株価支持政策に協力したのである.