IPEの果樹園2002

今週のReview

9/16-21

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9・11の影に隠れて,日本経済をめぐる論争が今もなお金融システムと金融政策のあり方に集中しています.それは日本で,今も,「産業政策」と「貨幣管理」の思想が争っているからでしょうか? 世界経済のリスクが高まる中で,最も弱い部分が破壊されるとしたら,それはブラジル? それとも日本か? 日本の金融システムから資本が国内外に流出して通貨危機になる可能性を,カウフマンは「まだないだろう」と言いましたが,ポーゼンは「可能性がある」と考えます.

デフレ.不良債権.ペイオフ.構造改革.高齢化.中国.そして? 貨幣さえ潤沢に供給されれば,何でも大抵のことは解決できる・・・? 朝日新聞の「経済論調B 賀来景英・岩田規久雄」(9月8日),「経済論調D 池尾和人・塩崎恭久」(9月11日),「不良債権 険しき『公約』」(9月14日),また日経新聞に載った9月10日の記事「経済再生へ緊急戦略」「『金融』『減税』で対立鮮明」,「伊藤隆敏:決済保護よりナローバンク」,そして「グレン・ハバード:日本,成長重視の改革を」(9月13日)を興味深く読みました.

賀来氏は,構造的な弱さを抱えたまま金融政策にやることなどない,と言います.むしろ金融のプロを集めて,日銀が問題を解決せよ,と.他方,岩田氏の意見では,量的緩和が不十分です.日銀が国債や外債をもっと買って,インフレ期待と円安期待を実現すべきだ,と言います.しかし池尾氏は,金融政策も財政政策も,日本はすでに限界に達しており,銀行自身が経営改善するべきだ,と考えます.そして,ペイオフ解禁と金融庁による早期処理を薦めます.塩崎氏は,同じ市場圧力を使っても,一時的国有化を重視します.

ハバード氏の論説(と伊藤氏も「決済」の問題に関わらせて言及)で興味深いのは,日本では資本市場が有効に機能せず,資本の再配分を行えないことを重視する点でした.不良債権処理だけでなく,もっと生産的な雇用をもたらす投資が増えなければなりません.それは,既存企業の債権を減らしたり,再交渉するだけでは無いでしょう.金融緩和も税制改革も,生産性向上と高齢化に向けて,特に不動産や眠っている貯蓄を活用する具体的な指摘を行います.

「いずれの改革案も,現実には上手く行かない」と,ドル危機の続く1960年代末に経験豊かな専門家は嘆いたそうです.改革案を比較するより,動かしてみることでしょう.そして,問題があれば,国民が民主主義によって修正する,と指導者たちに言って欲しいです.

ロバート・ダールの素晴らしい小著 “On Democracy” を読むと,なぜ民主主義を選ぶのか,を説得していました.民主主義は以下のような望ましい結果をもたらすだろう,と.:@ 独裁制を回避する.A 基本的な権利を守る.B 自由を尊重する.C 自主的選択を尊ぶ.D 道徳的な自律性を守る.E 人間的な成長を促す.F 個人の関心を守る.G 政治的な平等性を実現する.H 平和を求める.I 経済的な繁栄をもたらす.

「本当に?」と,誰もが思うでしょう.ブッシュ氏は確かに,以上のような理由を挙げて,フセインを追放するために戦争を始めよう,と言いました.しかしアメリカ国内では,「テロとの戦争」を彼が宣言して以来,これらが後退していると思います.「これは戦争だ!」という声で,平和な社会を導く民主主義も内部から崩壊するのです.

では,民主主義の本質とは何か? ダールはそれを「政治的な平等性」だと考えて,民主制の5つの基準を示します.

l         実質的な参加

l         投票の平等性

l         十分な情報に基づく理解

l         議事進行への最終的関与

l         すべての成人を含むこと

日本経済を見る限り,そこにも「真実」と「民主主義」の原理が欠けている,と私は思うのです.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg, FEER:Far Eastern Economic Review


FT September 3 2002

A pact worth keeping

By Jgen Stark (vice-president of the Bundesbank)

ヨーロッパに景気の減速が見えたことで「成長と安定性のための協定(安定協定)」に新たな非難の声が高まった.この合意はユーロ圏に予算規律を求めるためのものだ.

最近まで,批判は短期的な効果に向けられていた.財政赤字に制限を課したことで,不況のときにも政府は景気刺激策が採れなくなる,というわけだ.今や彼らは,長期的効果にも欠陥を見出した.協定は公共投資にも制限を課す.その結果,ユーロ圏の成長が損なわれる,と.

彼らはどちらの点でも間違っている.

安定協定により大きな許容範囲を認めて欲しいと言う要求は,昔の経済政策論に依拠している.そして彼らは,その動機が何であれ,かつての政策は成長も雇用ももたらせない,という事実を無視している.財政的な支出を緩めることの一つの帰結は,巨額の赤字と政府債務の累積である.その有害な効果は,今日,広く認められているように,マクロ経済的な効率性の悪化,低投資,金融市場における信認喪失,マイナスの外部効果に関するリスク増大,である.

1992年のマーストリヒト条約は,成長と雇用の基礎として中期的な意味で安定性を目標に据えた点で,経済政策の転換点であった.安定協定はこれをさらに推し進めた.すべての参加国は中期的な財政目標を黒字もしくは均衡であると約束した.これは,ECBが物価安定を目標とする上での対立を取り除く.また,もう一つの目的は,公衆および資本市場に,欧州委員会が安定化を目指す姿勢を確信させることであった.安定協定があったから,委員会は大きな債務を持つ国が加盟することも認めたのだ.その代わりに,こうした諸国は財政赤字削減に特別な努力を約束した.

安定協定は拘束衣ではない.景気循環を通じて,財政の均衡もしくは黒字化を求めることは,政府に不況時の大きな自由を与えている.安定協定は成長も損なわない.逆に,1990年代後半,EU諸国政府は赤字を実質的に減らしたが成長を加速できた.

安定協定を緩めることは通貨統合の基礎に大きな損傷をもたらすだろう.それは,特に巨額の債務を抱えた他国を信頼し,自国通貨を捨ててユーロを受け取った国々に衝撃を与える.それはさらなる政治統合にも疑いを持ち込むだろう.その上,どのような協定のごまかしも市場に対する破壊的なシグナルとなり,不動性と不安定性が増大する.

マーストリヒト条約および安定協定は通貨統合に加わるすべての通貨政策と財政政策の担当者に責任を求めた.この協定を損なえば,共有された責任が崩壊する.実際,安定性を守る仕事は通貨政策の担当者だけに負わされ,物価の安定を今よりも激しい金利引上げで抑えねばならない.コミュニティー全体がその苦しみを味わう.

EU諸国の多くは協定を守り,財政政策の余地も残している.こうした国が高齢化に備えて債務をさらに減らすことは長期的な予算の維持可能性のために重要だ.しかし,幾つかの国が協定に書かれた財政規律をまだ守っていない.高金利の諸国はユーロ圏内で金利差が縮小したことから利益を得た.念に数十億ユーロも財政が潤った.しかし彼らは財政構造の改革にこの利益をいつも使ったわけではない.曖昧な会計措置も伴って,彼らの財政規律を監視することは難しい.

こうした諸国は自らを責めるべきだ.予算を切り詰めもせずに安定協定を骨抜きにするような要求は受け入れられない.1970年代の放漫財政を甦らせてはならない.


WP Wednesday, September 4, 2002

Deflation: The Global Economy's Downside

By Robert J. Samuelson

世界経済がすべての人を満足させるような姿にある,と想像してみよう.アメリカ,ヨーロッパ,日本は,世界の生産の約半分を占めるが,活力ある経済を維持し,それゆえ誰かが不況になっても世界全体への影響は小さいわけだ.他方,先進諸国は貧しい国々に大規模に投資し,貧困を減らす.中産階級が増えて,彼らは民主主義を求める.

これこそグローバリゼーションのバラ色の夢だ.だが不幸にして,世界経済はそんな風に機能しない.

ヨーロッパと日本は経済の活力を失っている.1990年代,ヨーロッパの失業率は平均9.7%であり,日本はこの10年間で1%しか成長していない.グローバリゼーションは貧しい国も助けなかった.アフリカは1980年代初めからほとんど成長していないし,ラテン・アメリカは年平均1%以下,中国を含むアジアだけが成長した.

グローバリゼーションの躓きの石は二つある.一つは文化だ.それはしばしば経済の論理を打ち負かす.もう一つの重要な障害は,不安定性だ.テロリズムや石油の供給途絶,しかし,アメリカの莫大な輸入超過も,もう一つの見えにくい不安定性だ.アメリカの低成長を補うものは誰もいない.1.7兆ドルの貿易赤字(他の国にとっては輸出)が失われるかもしれない.

その危険性は明らかだ.売り手ばかりで買手がいない.価格も利潤も減少する.企業は過剰な設備を抱えて,投資も減少する.株価も下落し,失業が増える.最悪の場合,古典的なデフレーションとなり,政治的な悪疫がはびこる.経済ナショナリズムと保護主義だ.グローバリゼーションは,生産や企業を増やし,需要と供給の法則を国際化する.

デフレは起きるのか?

回復は「消尽した」と,ゴールドマン・サックスのJim O'Neill と Bill Dudleyは言う.日本を除くアジア地域だけは有望であるが,アジアが1997-98年の危機から完全に立ち直ったとしても,日本が加わらないなら世界経済への影響は限られる.世界経済は余りにアメリカとその貿易赤字に依存しすぎていた,とオニールとダドリーは言う.

より均衡のある世界的成長を促すために必要なことを,彼らは次のように指摘する.

l         アメリカは「強いドル」政策を放棄して,15〜20%の減価を受け入れる.それはアメリカの輸出を促し,輸入を減らす.

l         ECBは金利を1%引下げ,日本とヨーロッパは財政赤字を増やす.

l         中国は通貨を変動させて,ドルに対して人民元を増価させる.それは輸入を増やし,輸出を減らす.

紙の上では上手く行く.ヨーロッパと日本は成長を加速し,中国は世界市場からより多く購入する.しかし,実際は,大きな問題が残る.各国の政府は助言を受け入れないかもしれない.アメリカがまだドル高を望み,中国は輸出を減らすことなど断じて受け入れない.たとえ助言を受け入れても,計画通りに事は進まない.

アメリカの株式や債券に何十億ドルも投資している外国人たちは,ドルの減価を恐れて株価暴落への投売りを始める.ヨーロッパや日本は成長を回復できない.なぜならヨーロッパは潤沢な失業手当や高率の課税で職を減らしている.日本では低金利も財政刺激策も効かなかった.経済は弱体な銀行や消費者の弱気,企業の利潤低下により,回復できない.問題は深く日本の政治と心理状態に根差しており,経済政策では解決できない.社会的「合意」の尊重が日本に必要な経済転換を妨げる.ヨーロッパ人も福祉給付や規制を優先する.

グローバリゼーションによって,各国は互いの強さを享受し合えるが,互いの弱さにも晒される.誰もが次第に世界経済全体に依存するようになり,その主要な部分の健全さに依存する.いくつかの小国(たとえば,アルゼンチンやタイ)に問題が起きても,大丈夫だ.しかし,その主要な国(アメリカやヨーロッパや日本)が問題に陥れば,非常に深刻だ.

アメリカの穏やかな減速でデフレの危険は小さいが,外国の弱さがそれを増幅し,手に負えなくなる危険がある.貿易や資本移動,為替レート,金利が変化することで,世界経済は自動的に成長と安定性を維持するはずである.ある地域の強さが他の地域の弱さを相殺する.しかし,それは願望でしかない.


Wednesday September 4, 2002

The Guardian

What really changed

Jonathan Freedland

1年が過ぎても,市場に以前の活気は戻りそうにない.昨年の9月12日には,多くの人が「われわれの世界は何もかも変わるだろう」と書いていた.本当に何かが変わったのか?

アメリカ人はそう思うだろう.彼らの国は変わった.特に,弱々しかったジョージ・W・ブッシュは,9・11以後,変身し,第二次大戦以来の愛国心の高揚を一身に集めている.彼自身が,今では,独裁者を跪かせるチャーチルになったつもりだ.

アメリカ中に同じ雰囲気が広まっている.9・11以前に共和党内で聞かれた孤立主義は軍事的なユニラテラリズムに変わり,エリートだけに留まらない.アメリカは世界に対して責任を負っている.にやけたマルチラテラリズムとは違って,ユニラテラリズムは世界の首根っこを抑える.

9・11の論理は単純だ.そこに悪者が居る.復讐だ.アメリカだけがそれを行える.かつて左翼はアメリカの帝国主義について議論した.しかし今では,右から左まで,ますます多くの論説が,自慢げに,世界を守り,必要なら世界を支配する現代の帝国,としてアメリカを描く.

かつてヨーロッパに盛んであった反アメリカ主義が,9・11以後は新しい反ヨーロッパ主義に代わった.アメリカはヨーロッパ大陸諸国を独裁者に負けた国,反ユダヤ主義に染まった国,EUや国連に主権を譲り渡してしまう軟弱な国ばかりだ,と見ている.アメリカだけがヨーロッパを灰燼から救い出してやれた.ワシントン・ポストのコラムニストである Charles Krauthammer は,最近,次のように書いた.「われわれ(アメリカ)は自衛のために戦争している.それは西側文明を守る戦争でもある.もしヨーロッパ人がこの戦いに加わろうとしないのであれば,それでいい.もし戦いから逃げ出すのであれば,そうすればいい.われわれは彼らがコートに隠れるのを気にしないが,われわれの手を縛らせない.」

アメリカの政治は一方主義や忠義心に向かっても,経済は全く逆だ.立ち直るかに見えたアメリカ経済は,9・11による深刻な被害を受けた.9・11以前なら,エンロンやワールド・コムのような企業も生き延びたかもしれない.

アメリカの外でも,ツイン・タワーの爪あとが見える.昨年はグローバルな資本主義がこの時代の最重要問題であった.しかし今では,「文明の衝突」がパニックを引き起こしている.反資本主義の考えは,それは間違いであって,本当の問題は貧富の差である.しかし,大衆は一人しか悪役を認めない.9・11以後,その殺人的暴力によってわれわれを恐れさせるのは,ナイキやスターバック(のような世界企業の拡大)ではない.

同じような恐怖の塗り替えが,われわれの社会内部でも起きた.かつて人種関係と言えば白人と黒人の対立であった.9・11以後,偏見はイスラムに向けられている.イギリス国民党BNPは,その標的を黒人からイスラム教徒に替えた.人種偏見は9・11以前と同じであるが,効き目が強い.ハイジャック犯が隣に居るぞ,と囁いて,BNPは有権者の恐怖を煽る.アメリカでも,9・11によって,宗教への関心が甦った.コーランはベスト・セラーになり,人々は宗教が単に個人の問題ではないと知った.

飛行機に乗らず,外出も控え,高い建物には近づかないような,暗黒時代が来ると思ったが,9・11は日常生活よりも,世界の政治を変えた.それは,地下鉄で炭疽菌が撒かれたり,ロサンジェルスに化学兵器が使われたり,ローマで核爆発があるとか,心配されたような次の攻撃が起きなかったからである.われわれは恒常的な恐怖の影の中に生きることはなかった.しかし,予想外の仕方で,確かに世界は変わった.世界は分裂し,戦争の噂に取り付かれ,いたるところに危険がある.


NYT September 4, 2002

9/11 Lesson Plan

By THOMAS L. FRIEDMAN

9・11について,教師は生徒たちに何を話すべきか悩んでいる,という記事をThe Timesが載せた.私なら次の三つの教訓を教えるだろう.

教訓1:彼らとは誰のことか?

この世界の多くの人は善良でまじめである.しかし,貧しくもないし,虐待されたわけでもないのに,妬みから,邪悪になる人が居る.これらの過激な人々は,彼らを近代化できなかった社会から生まれて,その最も邪悪な者が9・11に選ばれた.近代の象徴であるアメリカを滅ぼせ,と.彼らの嘆きは心理にあり,政治ではない.彼らの目標はアメリカを滅ぼすことであり,アメリカを改革することではない.彼らは掃討することができるだけで,彼らと交渉はできない.

参考書として,Larry Millerのエッセー(The Weekly Standard, Jan. 14, 2002)を挙げるだろう.「われわれは善良だ,というとき,完璧だ,という意味ではない.・・・事実,あらゆる過誤や大失策にもかかわらず,この国は,自由,慈善,機会,愛情を,歴史上常に目指してきた.もし証拠を示せというなら,地球上のすべての国境を開放すれば良い.半日で,世界中の半分の町がゴースト・タウンになるだろう.そしてアメリカは,『プロデューサーたち』に会うための巨大な行列のようになるだろう.」

教訓2:われわれとは誰のことか?

われわれアメリカ人は他の人々よりも優れているわけではない.しかし,われわれの暮らす西側民主主義システムは,地球上で最善のものだ.不幸にしてアラブ・イスラム世界では民主主義が存在せず,女性の権利も,宗教的寛容さもない.西側文明が持つ価値や自由の伝統は,われわれと彼らを区別する重要な違いである.

参考文献は,歴史家Victor Davis Hanson の"An Autumn of War" である.「われわれはアラブ世界に対して謝罪を求めるような話し方を止めねばならない.われわれは,どなっているアラブ世界の大臣たちが,選挙を行わない正当性を欠いた代表であること,そのスポークスマンたちが出版の自由がないジャーナリストであること,その知識人たちが自由を欠いた信用できない人物であることを,はっきりさせねばならない.」

教訓3:なぜ多くの外国人が9・11の犯人たちを拒みながら,なおアメリカを嫌うのか?

われわれは世界で最善の統治システムを持つが,必ずしも常に,世界に対して最善を尽くしていない.われわれは大型車を運転したいから,アラブの抑圧的否政治体制を支持して安い石油を買う.われわれの大統領は有権者が自分に投票して欲しいから,パレスチナ人の愚かな振る舞いを大声で非難し,イスラエルが西岸地区で行う破壊的な入植には何と言うかためらう.われわれはできるだけエネルギーを使いたいから,世界がテロとの戦いに参加するよう望むが,次世代のために地球温暖化に戦いたいとは思わない.

要点はこうだ.邪悪な人々はわれわれが誰であるかによってわれわれを憎む.多くの善良な人々はわれわれが行うことでわれわれを嫌う.もし彼らから尊敬を得たいなら,最善を尽くし,矛盾した行動を取らず,地球市民としての原則に従うことだ.

参考文献は,アメリカ合衆国憲法.ウッドロー・ウィルソンの14か条演説.アメリカ独立宣言.


WP Wednesday, September 4, 2002

Heading for Trouble

By James Webb(assistant secretary of defense and secretary of the Navy in the Reagan administration)

この夏,最も流行したカントリー・ミュージックの曲を借りれば,・・・奴らがごちゃごちゃ言うなら,「お前のケツの穴にかかとを突っ込むぞ,だ.それがアメリカ流さ.」・・・

先週,中国政府はわれわれにそれを見せた.アーミテイジ国務副長官が,中国のXinjiangにおける分離独立派をテロリストと認めて,ブッシュ政権の懐柔策を示した.この理屈をthe Economistは,むちゃくちゃだ,と嘆いた.アーミテイジが去ると,中国政府は射程4000マイル以上のミサイル(グアムの米軍基地を狙える)を「テスト発射」して,その政治姿勢を示した.

わが国がサダム・フセインにかかりきりになっている内に,他の国々はアメリカの対イラク戦争に備える.その後のことを考えれば,中国が最も重要である.中国は20年近くもイスラム圏の戦略的同盟国を求め,アーミテイジが帰国後,イラクの外相を受け入れてアメリカのイラク攻撃推進を非難した.ロシアも,アメリカが「悪の枢軸」と呼んだ三カ国に対して,外交的,経済的にせっせと言い寄っている.イランも核装備できるミサイルを最低でも4度実験した.

アメリカの軍事指導者たちは,イラク攻撃を煽る新保守主義者たちに,もっと広い視野を持たそうとしてきた.現役および退役軍人指導者たちの関心は一致している.イラクに対する封じ込めではなく,一方的な戦争と長期の占領を目指すことが,本当にアメリカの重大な国益なのか? そのような戦争を戦って,その後,われわれの国際テロリズムとの戦いに勝つ力が強まるのか? その戦いは,イラン,イラク,イエメン,ソマリア,スーダン,レバノン,シリア,リビア,グルジア,コロンビア,インドネシア,フィリピン,そして,北朝鮮へと広がる.

アメリカの最良の軍事指導者たちは歴史から学ぶ.どのように敵と戦ったか? それだけでなく,どのように敵を防いだか? われわれの最大の勝利は,拡大するソ連に対して,軍事侵攻ではなく,激しい主導権争いと連続的な作戦を何十年も続けた成果であった.イラクに関しても,サダム・フセイン個人に論争を限るのは二つの点で現実を見失う.まず,戦争はしばしば意図しない結果を生む.第二に,長期に及ぶイラク占領は,明らかに,他の地域の軍事力を削減させ,アメリカの影響力を低下させる.

湾岸戦争の際にわれわれがバクダッドを征服し「損ねた」という軽率な批判以外に,イラク占領の議論を聞かないが,それこそ今回の論争のキー・ポイントだ.問題は,アメリカがフセイン体制を終わらせるかどうかではない.われわれの国は,物理的に,30年から50年も,中東の領土を占領する用意があるのか,ということだ.一方的にイラクとの戦争を要求する者たちは,占拠すれば,留まるしかないことをよく知っている.それは湾岸戦争当時の「マッカーサー型バクダッド占領」という幻想を思い出させる.

マッカーサーとの比較は間違っている.われわれの占領軍は,天皇が正式に降伏すし,日本人が準備できるまで,日本国内には入らなかった.マッカーサーは日本政府を破壊しなかったし,それどころか,日本政府を通じて改革を進め,天皇家が尊厳を維持できるように配慮した.日本の文化はイラクと全く似ていない.日本人は同質的で,敬意を重んじる.彼らは,天皇が命じた後は,マッカーサーの軍隊と完全に協力した.イラクは多民族で,多くの分派が争っており,アメリカの占領をイスラムの大地を犯す者と見るだろう.

日本占領は即座に5万人の支援者を得たが,イラク占領は即座に5万人のテロリストをもたらす.

中国のような国は,アメリカの次世代が中東で疲弊するのを好機と見なすだろう.中国はイスラム世界を狙っている.われわれは事実を軽視してはいけない.中国はかつてリビアを支援し,パキスタンの核兵器開発を助けた.1965年にはインドネシアのクーデタを助成した.イスラム圏との「アメリカの戦争」は,アメリカを外交的に孤立させ,南および東南アジアへの中国の野心を実現させる.

こうした点を考慮すれば,イラクへの一方的な戦争や体制転覆と長期の占領は,国家が明らかに危機に瀕した場合しか行ってはならない.


FEER September 12, 2002

Koizumi's Dangerous Gambit

(コメント) FEERは,小泉首相の北朝鮮訪問を,アメリカの安全保障政策に従うほかない日本が,初めて先攻する気か? と問い,そんなわけはない,と考えます.小泉氏は経済の復活に失敗し,自民党の首脳たちに,北朝鮮外交という新しい約束をしたのです.

ブッシュ氏はこれを認めたのか? そんなわけない,とまた考えます.あなたがなすべきだと思うことをしなさい,というブッシュ氏の返答は,断じて「励まし」ではなく,「見放し」ているのです.結局,小泉しは拉致問題を話し合うだけで,ミサイルも核開発も扱わないのです.

韓国の金大中大統領が「陽光政策」を唱えて,その後,どうなったかを見ても分かるように,北朝鮮は小泉氏を歓迎し,協定を結び,何人かの人質を返して,援助を受け取るでしょう.しかし,重要な時点で北朝鮮は約束を守らず,その「敵」からもっと多くをせしめようとするのです.

そして,掛け金はつりあがり,援助によって増強された北朝鮮を相手に,日本はまた交渉するのか? と警告します.


NYT September 5, 2002 

Devotion to Free-Market Makes for Ineffectual Policy

By JEFF MADRICK

(コメント) アカロフ教授の2001年ノーベル経済学賞受賞は,正統派経済学(新古典派もしくはシカゴ学派)の前提を覆し,決定的なダメージを与えた,という紹介です.今や,株式市場はバブルが破裂し,市場が効率的ではないから失業や貧困が増え,人々も合理的に消費や貯蓄,投資を行っていないことが示されました.非現実的な前提を捨てて,ケインズの直感をミクロ的に基礎付けた方が,経済学は豊かな内容を示せる,というわけです.


WP Thursday, September 5, 2002

Why It Happened

By Richard Cohen

(コメント) 9・11で犠牲となった死者たちを「英雄」にするな,という論説です.彼らを「英雄」にしてしまえば,彼らが単にテロの犠牲者であるだけでなく,それを防ぐはずであったさまざまな政府機関や公職者の仕事に欠陥や過誤があったことの解明,責任追及を中止させることになる,と.


FT September 8 2002

Japan's lost chance

By Takatoshi Ito

(コメント) 伊藤隆敏氏は,9月10日の日経新聞にも同様の論説を載せました(「決済保護よりナローバンク」).

なぜ日本の銀行は不良債権を減らせないのか? という疑問が残ります.デフレが続いて,処理額よりも新規発生額が多いからだ,と言います.あるいは,地方の銀行を潰せば地域経済への破壊的な影響が大きい,銀行システム全体への不安につながる,そもそも銀行業の利益が出ていない,債務デフレ,バランス・シート不況が終わらない・・・ 

では,ナロー・バンクの導入で何が解決できるのでしょうか?

政府と金融庁は,日銀と協力して,金融機関の不良債権処理と健全化を行うべきです.そのための圧力としてペイオフ解禁が本当に重要なのでしょうか? 預金の全額保護を公式に認めれば,もちろん,モラル・ハザードは深刻でしょう.さまざまな短期的(決済性?)投機資金に利用されないのでしょうか? 「決済性」の定義や運用,監視だけで,まともな関係者はクタクタになるでしょう.

ナロー・バンクの発想はアメリカの生存競争的な銀行経営を前提しているように思います.歴史的にも制度的にも,それが日本で有効に機能する条件はあるのでしょうか? 運用を国債のみに限っても,国債への信用不安や,国債だけを預かる貸し金庫業や決済性を持つ信託であれば,銀行など不要になるでしょう.

ペイオフ解禁は,確かに,銀行の健全化を迫る重要な手段であったはずです.しかし,それが延期したことによって,意味をなさなくなりました.むしろ,選択的な預金保護とその解除を始めてはどうでしょうか? 各銀行が自らペイオフ解除を申し出るか,金融庁が各銀行に対してペイオフ解除の期限を決めて,不良債権処理を進めてほしいです.そして,公的資金を投入するために大幅な情報開示を行い,それが不安をもたらすのであれば,金融庁や日銀に限って開示を行っても良いと思います.


WP Sunday, September 8, 2002

Lessons of 9/11 -- and 12/7

By George F. Will

NYT September 9, 2002 

Things Regained, Things Lost

(コメント) George F. Willは,9・11を12・7に比較します.アメリカは,日本軍による真珠湾攻撃で初めて安全神話を傷つけられた,と.61年後の今も,まだ戦争を忘れず,その当時の戦友のために真珠湾へ戻ってくる男たちがいる,と.真珠湾攻撃とアル・カイダとが,この論説では一つに結び付きます.

「アメリカは大国であるから,いつでもテロの標的になる」という教訓が,ここから示されます.あるいは,アメリカ人以外は誰もがテロリストなのだ,とも聞こえます(Willはそう書きませんが).もちろん,それはとんでもない話です.戦闘行為や戦争の開始・継続・終結は,もっと大きな政治の一部です.

NYTは,この町の一年を静かに回想します.戦争ではなく,無くなった人たちとその悲しみに,深い同情を捧げます.激しい恐怖と崩壊したビルの粉塵が靄のように通りを包んだ時間が,彼らの共有した記憶であることを確認します.

NYは一つの生き物のように,その通りや建物,人々の暮らしや仕事,行政機関や追悼行事の中で,一つの意識を育て,それを自覚していたようです.

彼らが日常の仕事に復帰するに連れて,深い悲しみを忘れるより早く,その感情も失われます.しかし,NYは個々にすむ人々の心の中にある,ということを誰もが忘れないことを,この論説は静かに訴えます.


NYT September 11, 2002

Noah and 9/11

By THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) 9・11と「ノアの箱舟」は,FRIEDMANを人々の価値観と規範に向かわせます.なぜなら世界はさらに統合し,グローバリゼーションによって軍事行動や防衛ラインは無駄になるからです.しかし,価値観や規範を最も問われ,それが共有されていることを確認しなければならないのは,軍事行動を指揮する人々です.(それが嫌なら)箱舟を作れ,という台詞は,これもアメリカのユニラテラリズムでしょうか? 私は,もっと複雑なグローバリゼーションが始まる,と思います.

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The Economist, August 31st 2002

Civil liberties in America: A needless victory for terror

「自由のために,われわれは戦う・・・」とブッシュ大統領は言う.しかし安全のために,情報が集められ,監視が強まり,自由は失われる.安全と自由はトレード・オフの関係にあるから,そのバランスは難しい.

ところが,ブッシュ政権の閣僚たちがこのことを強く意識している様子はない.政府は法や裁判所を無視し,秘密に行動し,差別的に監視し,捜査する.アメリカ憲法は,共和国が脅威にさらされた場合には,政府が弾力的に解釈できる.

テロとの戦いは困難だが,ある種の行動は,行動しない場合よりも,事態を悪くする.もしテロのたびに保安体制を強め,市民の自由を奪うなら,テロは成功することになる.幸い,アメリカの法廷は政府の行動を抑制した.国外追放される人々が秘密に審理されるだけであれば,「政府の部局が人々の生活を奪い,それを閉ざされたドアの向こうで片付けてしまう.」「政府が秘密を好めば,民主主義は死ぬ.」

貧困と同じように,テロも永久に続くだろう.それを理由に権力を強め,自由を奪うのは,勝利ではない.


Mexico’s economy: With Latin America heading south, Mexico turns its horses north

(コメント) メキシコは,ラテン・アメリカの病から完全に離脱したのでしょうか? アルゼンチンに続いてブラジルに不安が広がる中で,メキシコの動向が注目されます.

NAFTAは,もちろん,投資家たちがメキシコの安定を支持する重要な理由です.メキシコの輸出の89%がアメリカ向けです.さらに,フォックス大統領の政府は,緊縮的な財政・金融政策を維持しました.ペソは通貨危機の影響で減価しましたが,インフレも金利も低いままです.これにより,アメリカ経済の減速が影響するのを緩和できた,ということです.

しかし,メキシコの不安はなくなっていません.マキラドーラからNAFTAへと,アメリカの好景気にも刺激された輸出拡大は,もはやこれ以上の成長をもたらしません.不況業種に補助金を約束するよりも,財政支出の改革や石油収入に依存した税収の見直しを進め,国内産業の競争を促進しなければ,中国などに市場を奪われてしまう,と記事は警告しています.

メキシコのマクロ経済管理は大きく改善されたが,ミクロ面での市場改革はこれからで,そのためには国内の政治力が問われる,と.