IPEの果樹園2002

今週のReview

9/9-14

*****************************

道路公団を踏み潰す「大怪獣 イノセドン(体はゴジラ、顔は猪瀬直樹)」が咆哮する、ビートたけしの討論番組を少し観ました。とても面白かったです。そして、自由貿易を主張したマンチェスター学派の時代を連想し、日本の<閉鎖主義>が崩れていくのだ、と思いました。小泉首相だけでなく、田中康夫、猪瀬直樹といった、既存政界を揺るがす<怪獣の咆哮>が聞こえるようになったからです。

9・11の1周年ということで、いくつかのニュースや論説を読みました。しかし、そのほとんどは既に言い古されたような言葉です。他方、それを経験した人々は今も言葉を失ったままです。その事件の意味は、これから示されるのでしょう。むしろテロが喚起した問題の解決は、余りに遠い、という印象です。

9月4日、NHK・BS2「世界は歌う。世界は踊る。」のアイリッシュ・ダンスを観ました。アイルランドの厳しい自然や政治的迫害が、彼らに音楽とダンスを与えたようです。その美しさと迫力は、世界中の講演で、観る人に深い感動を与えた、と言います。

特に面白いと思ったのは、ハウス・ケリー、という伝統です。たとえばダブリンのマクガウワン家は、多いときには100人以上も集まって、普通の家の中でダンスをするのです。ダンスをするために、家具を屋外に運び出し、ドアも外して、演奏家のためのイスを並べ、僅かな板の間で次々と参加者たちが独特のダンスを夜明けまで披露します。「ダンス、詩の朗読」などが、彼らの長い夜を豊かにしていた、と夫人は子供の頃の思い出します。

アイリッシュ・ダンスは、ケルト人の無文字文化を、歌や踊りとして伝承したもののようです。12世紀にイギリスによって支配され、14世紀にはダンスが禁止されたにもかかわらず、むしろ彼らはますます自分たちの歴史的伝統に誇りを見出したのでしょう。アイルランド最西端の島、イニッシュ島で結成されたダンス・チームは、その緊張感と美しさを強くアピールします。

しかし、私が感銘を受けたのは、狭い空間に集まって、大勢で激しく踊るために、ほとんど手を振らない独特のダンス、薄い皮のようにしか表土の無い岩盤の島で、岩を削って畑を作り、その岩でできた床を靴底で叩いて歌い、踊ったという激しいエネルギーでした。彼らは何かを語るよりも、集まってダンスに参加し、酒を飲んで、集団の高い自意識を育てたのです。

彼らの持つメッセージ性とは、一体、何でしょうか。・・・集団的な美学。固体を超えたものへの熱い情熱。歴史や伝統や文化、という価値の実体化。・・・それは決して明示的に語られません。何かを主張するわけではないのです。

ケルトの無文字文化。岩盤と強烈な寒風。長く暗い冬。もし彼らのダンスが世界を感動させるとしたら、それは世界がアイルランドのような厳しい環境を生き延びる魂の叫びに共鳴したからでしょう。世界文化は、アイルランドの最西端の島に、一つの故郷を見たわけです。

そもそも政治は、たぶん祭事であり、歌や踊りの中で共通の感覚を育てる習慣であったと思います。どれほど儀礼と化しても、このような原始的共感を失った集団は、個室でTVを観ながら独り言をつぶやく生活に慣れるしかありません。アイリッシュ・ダンスの激しさに心を打たれるのは、グローバリゼーションに直面する私たちの望郷の念にもあると思います。

*****************************

ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg, FEER:Far Eastern Economic Review


IHT Tuesday, August 27, 2002

The world's people need decent jobs

Juan Somavia (director-general of the International Labor Office)

ILOの推計では、世界で10億人以上の男女が失業もしくは半失業や劣悪な労働条件に苦しんでいる。その結果として、約1億2000万人の労働者とその家族が故郷を離れ、職を求めて移住する。ヨハネスブルグ・サミットは、この問題に対してなすべきことが多くある。まず、現在のグローバリゼーションが裸の王様である、と認めることから始めれば良い。

リオの地球サミットや、ブルントラント報告が出てから、10年が経った。持続可能な発展という目標が、既存のグローバリゼーションではまともな仕事が足りないという現実を変える助けとなる。

事実を見れば、発展はアフリカを置き去りにし、アジアやロシアの経済危機による苦痛は増し、アルゼンチンは晒しものだ。ブラジルの救済策から有権者が受けた印象は、左派候補を支持すれば市場が反発するということだ。南アメリカ中で、中産階級は没落し、1930年代以来、もっとも失業と貧困が増えている。多くの国の多くの人々にとって、政策への外的制約は正しくない。

それは貧しい諸国や危機に陥った国に責任がある、とわれわれは何度も聞かされた。不安定で、当地が悪く、腐敗し、規律が無い。たとえそうであっても、それがすべてではない。グローバリゼーションや市場開放、開かれた社会の恩恵を拡大するには、政策そのものを変える必要がある。

それに代わる政策は利用可能であるし、低インフレやマクロ管理とも両立できる。それは、経済・社会・環境の三つの次元で、持続可能な発展と創造的に政策統合しなければならない。しかし、世界のどこでも使える唯一の政策はない。その地の人々、社会、文化、民主主義のダイナミズムを反映しなければならない。

投資や、特に中小企業の雇用創出を促して、地方でも大都市でも、人並みの仕事や所得を得る機会が無ければならない。最も重要なことは、完全雇用による持続的な生活である。この点でグローバリゼーションは失敗している。カジノ経済がバブルと投機を次々にもたらすことから、もっと貯蓄と投資、創造性に基づく実物経済に移行すべきだ。社会的企業や社会的に責任ある投資を促すファンドを設けよう。年金基金と株式の関係を断ち、貯蓄を守ろう。

環境に優しい技術に投資することは、多くのビジネスと雇用の機会をもたらす。大規模な投資と情報が鍵である。貧しい国への協力が欠かせない。また、労使の対話や市民との対話がもっと促進されることで、政策はより健全になる。国際貿易や金融システムにおいても、公平性と説明責任を求める。競争条件を等しくしなければならない。われわれは機会の不平等、民主的決定の欠如(民主主義の赤字)に苦しんでいる。既得権者は反発するだろうが、公平さの問題をグローバリゼーションが避けては通れない。変化は必要だ。秩序正しく、安定的に。そうでなければ、無秩序と混乱が起きる。

われわれの周りに広がる怒りと不信、増大する暴力に至る問題から眼をそらしてはならない。


ST AUG 27, 2002 TUE

Can East Asia have its own euro?

By WOLFGANG MOELLERS

(コメント) ドイツのシンク・タンク、Konrad-Adenauer-Foundationのアジア代表による、アジア共通通貨を支持する意見です。

東アジアで「共通通貨」? 反対する意見は、アジア諸国の経済発展が大きく異なり、経済構造も非常に多様である、と主張します。しかし、MOELLERSは、第二次大戦が終わって15年後にヨーロッパの通貨統合を唱えるウェルナー報告が出たときには、ヨーロッパにも大きな違いがあった、と言います。それがジョークでなくなるには、政治的な課題として真剣に取り上げる度量のある政治家と戦略的な思考の持ち主がこの地域に育たねばならない、と。

東アジア共通通貨が実現するためには、ASEAN、中国・香港・台湾、日本・韓国、の三つの固まりが経済格差を克服しなければなりません。そのためには、貿易自由化や直接投資の地域的な優遇措置の枠組みで合意するだけでなく、各国の経済管理を制限する金融統合をも促進しなければならない、と主張します。

共通通貨の利益は、為替レートの不確実さを無くし、域内の企業に規模の経済を実現し、通貨に対する投機的攻撃を抑える、ということです。中小規模の経済では、投機的な攻撃に備えた十分な外貨準備を維持できません。だから「東アジア通貨単位」は、加盟国間の貿易を行う単位に採用される、というわけです。


ST AUG 27, 2002 TUE

Latin crisis the same old story, again and again

By ALBERTO ALESINA and FRANCESCO GIAVAZZI

また、やっている。ラテン・アメリカの深刻な危機にIMFとアメリカ財務省は救済に走る。以前に何度も見た光景だ。

30年間続くラテン・アメリカのマクロ経済危機は、たった一つの教訓をもたらす。この地域の政府は通常の課税で集められる歳入を超えて歳出を拡大し過ぎる、ということだ。この決定的問題を解決できない限り、危機が必ず繰り返される。なぜなら、これらの政府が直面する選択とは、インフレによって歳入を増やすか、債務を増やすか、であるからだ。

アルゼンチンが完璧に示したように、危機は循環する。まず、ある期間、インフレが放置される。債務が増えない限り、歳入は増える。しかし時が経つと、人々は高率のインフレに慣れ、経済をインフレから切り離す。それゆえ、「インフレ税」による歳入は減少する。歳入が減るとインフレへの支持も失われ、物価安定に向けた政治的意見が強まる。

安定化は、典型的に、短いハネムーンをもたらす。しかし、結局、インフレ率は下がっても公共支出は高水準のままであるから、再び債務が増加し始める。そして新しい危機となる。為替レートが切り下げられる。債務は支払われず、高率のインフレ(そして「インフレ税」)が復活させて、予算を均衡させる。

1990年代のアルゼンチンは、カレンシー・ボードと言う制度によって、この政策を行えないように自ら手を縛った。それは優れたアイデアだ。もしアルゼンチンが予算を均衡させていれば、カレンシー・ボードは機能しただろう。しかし、アルゼンチンは予算を均衡させなかった。

このマクロ経済循環を通じて、貧困も変動する。ラテン・アメリカ中で、インフレ税による歳入と貧困の指標が、ほとんど完全に一致する。なぜなら貧しい者ほどインフレ税を免れる手段を持たないからだ。他方、「通常の(インフレ税ではない)」歳入を増やすことは、ラテン・アメリカで実際に可能な選択肢ではない。徴税が手ぬるい上に、行政が腐敗し、ブルジョアたちはさまざまな脱税行為に耽っている。

ブラジルを見てみよう。税収を増やす点で、ブラジルはアルゼンチンよりも成功した。1999年の安定化以来、債務の利払いを除いた予算は常に黒字であった。今やそれはGDPの3.8%もある。しかし、この驚異的成果は、歳出削減によって達成されたのではなく、能率の悪い課税、特に金融取引税で得られたのだ。

ブラジルの今の問題は、3.8%の財政黒字が債務の支払に十分かどうかではなく、経済がこの非効率的な課税に耐えられるかどうか、である。ブラジル政府は富裕層への所得税を増やす能力が無いようだ。ポピュリスト政治家が次の大統領になれば、これは変わらない。だから、当然、金融市場は心配になる。

ラテン・アメリカは金融を改革する必要などない。その問題をIMFの失敗に見るのは、せいぜい表面的な見方だ。ラテン・アメリカの問題は、高水準の政府支出、それを支える税負担を拒む上層・中産階層、歳入を慎重に遣おうとしない無能な政治家たち、その結果として繰り返される、ポピュリスト的なデマゴギーを打ち破れないことにあるのだ。


WP Tuesday, August 27, 2002

Mr. Cheney on Iraq

NYT August 28, 2002

Summons to War

FT August 29 2002

Cheney's path to war

IHT/LAT Thursday, August 29, 2002

The critics might make Bush hurry

William Pfaff

NYT August 28, 2002

I'm With Dick! Let's Make War!

By MAUREEN DOWD

(コメント) ブッシュ氏とチェイニー氏は、たとえば、こんなシナリオを描いているのかもしれません。「今までは論争を回避してきたが、9・11から11月の中間選挙前までは国論を対イラク戦争で分断し、政府にとって解決策も勝ち目も無い経済論争を封じ込めよう。中間選挙で共和党が勝利すれば、国内で強い政治的なスタンスを示しつつ、対外的には懐柔策や同盟諸国との妥協策も利用する。全面戦争への準備を進めつつ、直前に国際監視団(軍)を送ることで和解すればよい。こうして戦争にも、平和にも勝利した大統領は、大差で再選されて、革新的な経済改革に手を付けることができるだろう。・・・」

26日のチェイニー副大統領の演説は、ブッシュ政権がイラク攻撃を選択する明確な意思表示でした。フセインは大量破壊兵器を持っており、それをアメリカの同盟諸国やアメリカ自身に向けて使用するだろう。実際、フセインは国連査察を繰り返し妨害しており、近い将来に核兵器も手に入れるはずだ。それは中東地域の原油を再分割する手段となる。チェイニー氏の意見では、国連査察の効果はないし、フセイン政権解体が中東の過激派を一掃させて、この地域に安定をもたらす。

アメリカの目標は、「地域的な統一体としてのイラク、民主的で多元的な政府、すべてのエスニック・宗教集団が認知され、人権が尊重される国家」である、とチェイニー氏は言う。それを実現する現実的な計画を示すべきだ。と、WPは求めます。

NYTは、チェイニー氏の開戦論を明確に批判します。チェイニー氏は、フセインの大量破壊兵器や核兵器保有計画が現実的な脅威である証拠を示していません。戦争以外の方法で脅威を取り除くことができないか、十分に検討していません。特に、チェイニー氏が、国連安保理や議会との合意を求めない姿勢に強く反対しています。安保理決議無しにイラクを攻撃すれば、ロシアもヨーロッパもアジアも、アメリカの行動を支持しなくなる。また、トンキン湾攻撃の支持決議だけでベトナム戦争を始めたジョンソン大統領を真似ることは、最初から大幅な兵力と長期の占領をも覚悟するイラク攻撃について、全く相応しい対応ではない、と。

FTは、チェイニー氏がフセイン政権を駆逐すべきだ、ということ、またアメリカ軍が単独でもこれを行えること、について異論はない、と言います。しかし、そのコストについては幾つかの基本的問題が残されています。特に、もしフセインがその政治体制を完全に葬られると確信すれば、そのときこそ、彼が本当に大量破壊兵器を使用するのではないか、という湾岸戦争時のシュワルツコフ総司令官の証言に注目しています。

IHTのPfaffによれば、最初のブッシュ政権を支えた共和党員と、現在の共和党員との間に、イラク問題で世代の違いがあるとは言いにくいが、息子のブッシュと新保守主義者は戦争を要求している。他方、世論や共和党には反対意見が強い、と言います。ギャラップ調査で、同盟国の支援が無くてもイラクを攻撃する、という立場を国民の20%しか支持しなくても、政府はやりかねない。

「柔軟派 vs. 強硬派」"chicken-hawk"論争は、単なるデマゴギーではありません。エラスムスが書いたように、「戦争が現実になんであるかを知っているものにとって、戦争は楽しい(美味しい)。」父ブッシュ政権の国務次官であったジェイムズ・ベーカーは、アメリカが新しい安保理決議と、パレスチナ問題の打開策を見つけてから出なければ、イラクと戦争しないよう求めた。事実上、攻撃の自制を促しました。

フセインが邪悪かどうか、戦争に勝てるかどうか、だけを強硬論は問題にします。そして、どうせフセインを放逐するなら、圧倒的な戦力でイラクに侵攻すれば、戦闘を交えずに市民たちから歓迎されるだろう、と夢想するのです。それは、1991年の湾岸戦争ではなく、1989年パナマのノリエガ将軍を放逐した父ブッシュによる醜い外交政策に、息子ブッシュを類比させます。

フセイン征伐は、無責任な戦争を計画するな、という国内(共和党)の政治論争を表します。

DOWDは、「分かったよ。チェイニーの言うとおりだ。」と言います。 『民主的で、多元的で、人権を尊重する・・・』 O.K O.K 早速、サウジを爆撃しよう。フセインはまだスカッド・ミサイルでアメリカを攻撃したことはないが、サウジの人間ミサイルはニュー・ヨークを攻撃した。


FT August 28 2002

Taking asset prices seriously

By Samuel Brittan

インフレ目標を多くの国が採用してから約10年が経った。たぶんニュー・ジーランドが最初で、すぐにイギリスも採用した。それはインフレの抑制に期待した以上の成果を上げ、実質成長の変動も抑えた。しかし、紙幣による通貨政策のルールとして確立されるかどうか、将来のことは分からない。インフレ目標に対する元来の不安は、それが成長や雇用を犠牲にする、というものであった。私も含めて何人かが、名目GDPのような成長要素を、明示的に含む目標を好む。

実際には、それは異なる理由で批判されている。実質産出量ではなく、資産価格が無視されている、と言うのだ。これに対する中央銀行の答えは、資産価格は将来のインフレをもたらす限り、事実上、考慮されている、というものだ。スウェーデン中央銀行副総裁は、資産ブームの事後的影響には配慮するが、それを事前に目標とすべきではない、と示唆した。それは、最近の金利引下げが見送られた理由の一部である。

しかし、批判者は、それでは不十分であって、インフレ予測が目標を超えなくても、資産価格の過度の上昇を抑制するために行動するべきだ、と言う。たとえばMichael BordoとOlivier Jeanneは、資産価格のバブルが破綻すれば金融機関の保有する証券価値が暴落し、「担保不足による金融逼迫」が起きる。大きなバブルの破綻は金融逼迫を厳しいものにするが、バブルを分散できればコストは小さい。それゆえ1990年代後半にアラン・グリーンスパンはバブルを引き伸ばした、というわけだ。しかし、それはバブルを膨らませ、より厳しい金融引締めを必要とする。中央銀行は矛盾した状況にある。

BordoとJeanneは、株価によって促されたブーム・バスト・サイクルとして、1929-33年のアメリカと、1986-95年の日本を挙げる。そして、不況の深刻さと長さは、銀行恐慌により貨幣供給が大幅に減少するかどうかに懸かっている、というミルトン・フリードマンの意見を支持する。しかし、ウォール街が暴落しても、銀行の融資や担保の価値に影響し、通貨供給を減らす。銀行融資が減り、債権や証券が投売りされて、さらに資産価格を暴落させる。

もし連銀が1928年のベンジャミン・ストロング総裁のように考えていたら、1980年代後半の日銀のように苦しんだだろう。BordoとJeanneは、資産価格がバブルかどうかを評価することは非常に難しいと認めるが、それがいわゆる産出量ギャップを推測するよりも難しいかどうか? と、問う。BISの研究によれば、金融システムの安定性を脅かすのは資産価格そのものではなく、信用拡大、資産価格の急激な上昇、ときには、高水準の物的投資、が結び付いた場合である。

最大の政策課題は不動産価格と関係する。Bordo とJeanneが1970年以降のOECD諸国について調べた結果、24の資産価格ブームのうち、1988年のフィンランド、1989年の日本、1998年のスペインの、三つしかバブル崩壊に至らなかった。他方、彼らが不動産価格ブームとみなした19のうち、10が崩壊した。

不動産価格のバブルは地域的に限定される傾向がある。それゆえ、中央銀行が通貨政策を変更するのは適切ではない。Harvey Cole氏はモーゲージ金利を他の市場から切り離すよう提言した。それは市場に歪みを与えるが、彼は、不動産に融資するすべての金融機関に対して、イングランド銀行に特別な預金を持つよう要求するべきだ、という。

いずれにせよ、政策担当者はインフレだけを目標にすることから離れる必要があるだろう。インフレ目標の前提するモデルとは、すべての経済的病理がインフレに反映されており、それが高すぎるとか、低すぎるとか、あるいは急激に変動したとか、変化が遅すぎるということが、それゆえ、一定の範囲に抑えられれば、他のすべての病理も治癒する、というものだ。

もしイラクとの戦争が石油価格を押し上げ、スタグフレーションとして知られるインフレと不況を再び経験すれば、そんなモデルは捨てられるだろう。


FT August 28 2002

A bigger and better Fund

By Vijay Kelkar (executive director for India, Sri Lanka, Bangladesh and Bhutan at the IMF from 1999 to July 2002)

ブラジルへの緊急融資を行ったIMFの問題は、一日に15兆ドルを取引する資本市場の規模に比べて、IMFの規模が小さすぎることである。発展途上国の政策担当者を悩ませる浮動性や脆弱性に対して、IMFは円滑な金融市場の統合を助けるべきだ。そのため、

1.   財源を増額する。

2.   基金の利用に対する監視を強化する。そのために市場からも資金を調達し、資本市場にIMFの機能を常時モニタリングさせる。IMFの活動は世界金融の安定化に限定するべきだ。

3.   国際的基準を採用している借り手に対する金利は低くする。

4.   理事会の構成を世界経済の比重に従って変更するべきだ。ヨーロッパが多すぎるし、アジアは少なすぎる。理事は民主的に選出し、政府からの独立性を高める。

5.   融資政策に関する説明責任をもっと強く求める。借入国の蔵相や中央銀行総裁は辞任することもあるが、IMFの理事は責任を問われていない。理事会はIMF加盟国の議会に責任を負う。

ブラウン蔵相が呼びかけたニュー・ブレトン・ウッズ会議を、このような意味で行って、(発展途上諸国の)リスクを軽減し、分担して欲しい。


LAT August 29, 2002

Sharpen Your Pencil for a Test

By ARIANNA HUFFINGTON, Arianna Huffington is a syndicated columnist.

1.正解はどれか?

a) ジョージ・W・ブッシュは、4度、逮捕された。

b) ジョージ・W・ブッシュは、MBAを持つ初めての大統領だ。

正解: b) (ジョージ・W・ブッシュは3度しか逮捕されていない。1976年の飲酒運転。他の2回はイェール大学の学生の頃、プリンストンとの対抗戦後にゴール・ポストを倒したときと、ホテルから結婚式のリースを盗んだとき。)

2.WorldCom のCEO であったBernie Ebbers が以前にしたことがあるのはどれか?

a) ジムの教員、牛乳配達、バーの用心棒。

b) 書店の店員、街頭の靴磨き、紙細工師。

正解: a) (書店の店員、街頭の靴磨き、紙細工師をしたのは、アル・カポネ。)

・・・・・

5.Tycoの元CEOであったDennis Kozlowskiについて、正解はどれか?

a) 2002年に、数百万ドルの脱税容疑で逮捕された。

b) 2002年に、Florida Atlantic Universityの年間最優秀ビジネス指導者に選ばれた。

正解: どちらも正しい。 (しかも卒業生に向けて、「毎日、道義的問題に直面するだろうが、注意深く、自分自身のために、簡単ではないが、正しいことをしなさい」と、講義した。)

・・・・・

9.Fortune 上位1000社の企業幹部で、女性が占める割合は?

a) 5%

b) 9%

c) 1%

正解: c) (わずか11人。彼女たちは企業スキャンダルにも関係しなかった。)

10.Tyco の元CEOである Kozlowskiが所有している家はどれか?

a) 1350万ドル、1万5000平方フィートの、地中海風海辺の屋敷。ボート・ドック、エレヴェーター、プール、海辺の更衣室、テニス・コート、噴水もある。

b) 1800万ドル、5番街のアパートメント13室。モネとルノワールの作品で飾られ、6000ドルの黄金のシャワー・カーテンも。

c) 500万ドルのNantucket海岸沿いマンション。三つのベッド・ルームとゲスト・ハウス、住み込みシェフとボート・ドックも付く。

d) 850万ドル、7800平方フィートの屋敷。コロラドの約3エーカーの土地付き。8つのベッド・ルームと10のバス・ルームも。

正解: すべてを所有している。 (さらに、4つの住居があった。8つの住居の総額は約5400万ドル。さらに、もう一軒、手に入れる。)


BL 08/30 14:49

Greenspan Admits Bubble, Ducks Responsibility: Caroline Baum

By Caroline Baum

彼はそれがバブルであるとずっと知っていた。カンサス・シティー連銀のJackson Hole Conference、恒例のフェド・キャンプ開会式において、アラン・グリーンスパン議長は1990年代後半の株式市場ブームがバブルであったことを認めた。それから、彼は自分の手を洗った(責任逃れの弁明に努めた)。

「バブルの前には本当に生産性の上昇が起き、企業の利潤率が増加する。」と、グリーンスパンは述べた。「投資家たちはファンダメンタルズの改善をしばしば誇張し、人間の心理として、バブルがそれ自体で膨張しがちである。」

それから彼らはどうするのか? 言ってみよう。なぜ、優しい中央銀行は、増加する信用需要に対して貨幣を供給し続けたのか? 金利が上昇するのを妨げて。

結局、誰だって、アメリカ史上最大の資産バブルに浮かれた連銀議長として記憶されたいはずは無い。「マエストロ」を冠して名を呼ばれ、システミック・リスクを回避した数々の業績を並べて欲しいのだ。

「あの講演は彼がパニックに陥っていることを示している」と、シアトルのFleckenstein Capital社長、 Bill Fleckensteinは言う。「彼はバブルが破裂したことを認めた。すぐに人々は気付くだろう。過去の二つの資産バブルが破裂した例、すなわち1920年代と日本に拠れば、われわれはまだ問題を解消するまでの道のりの5分の1しか来ていない。」

Fleckensteinは、バブル後の二日酔いはひどく、調整過程でグリーンスパンが貨幣を供給してそれを悪化させた、と言う。追加された貨幣はどこかに向かう。今のところ、住宅が有利に見えているが。

グリーンスパンは、明らかにバブルで仕事をし、長い間、バスタブに浸かっていた。そして、ようやく新聞の話題に追いついて、素晴らしい言い訳を並べた。「われわれは資産バブルについて多くの問題を考察したが、事態が推移する中で、疑いを抱きながらも、それが事実として現れてからでしか、明確にバブルだと知ることは非常に難しいのだ」とグリーンスパンは言う。

実際には、彼は「ニュー・エコノミー」論のチア・リーダーとなった。株のアナリストたちに長期のパフォーマンスを売り込んで、株価の途方もない水準を正当化させた。

疑いなく、彼には他の選択肢があった。しかし、グリーンスパンは「株式市場の浮動性を減らすためにマージンを変化させるのは効果が無い」と主張する。何てふざけた言い草だ。5年後に公開されたFed議事録を読めば、不誠実な発言が見つかるはずだ。1994年9月24日のLarry Lindseyによる株式市場バブルに関する疑問点について、グリーンスパンは「株価のバブルが存在する」と認めた上で、信頼できる解決策もある、と認めていた。

「マージンを引き上げることで関心を高める可能性はある。」「もしバブルから抜け出したいのであれば、それがどうなろうと、抜け出すものだ。私の関心は、バブルを回避することが何をもたらすのか、確信が持てないことだ。」

唯一の相応しい答とは、the Fox News Channelのモットーと同じだ。「われわれは報道する。決めるのはあなただ。」


WP Friday, August 30, 2002

Wilsonian Course for War

By David Ignatius

中東をめぐる論争は、保守派と改革派とが政治的に逆のイデオロギーを掲げているから、居心地が悪い。通常、保守派は現状維持を求め、利益が得られれば独裁者とも手を組みます。改革派は民主主義や人権を求め、利益や政治的な駆引きを無視する。

フランスの防衛専門家Francois Heisbourgは、アメリカがヨーロッパと協調するためには、中東の人権と民主化を中心テーマにするべきだ、と指摘した。それは数ヶ月の軍事作戦ではなく、数十年単位の、冷戦と同様に、慎重かつ忍耐強い戦いでなければならない、と。

現在のアラブ世界には民主主義を実現する手段が無い。検閲の無い新聞はほとんどないし、人々が指導者や自国の政策を批判できる議会も集会も無い。アラブ世界の政治生活は弱く、人々はモスクに集まって不満を述べる。だからアル・ジャジーラのTV放送は革命的なのである。

ここに右派も左派も合意する目標がある。アメリカは短期的な利益ではなく、基本的な価値によって、この地域での戦争を正当化しなければならない。だからこそ、イスラエルもパレスチナと和平を実現しなければならない。

アラブ世界の民主化というのは、狂気のウィルソン的理想でしかないように聞こえるだろうが、現実政治に根差している。今ある現実は、誰にとっても機能しないのだ。慎重に、そして気を配って、アラブ世界を民主化する計画を進めるなら、自由主義者も保守主義者も、アメリカもヨーロッパも、そしてイスラエルもパレスチナも、支持するだろう。


NYT August 31, 2002

New Jobs for Labor Unions

By SAMUEL LEIKEN

(コメント) 「現代の経済では、労働者が同じ職場でキャリアのすべてを過ごすことはまれである。人々は多くの雇用主と、いくつもの職業を経験する。ところが労働組合は20世紀に得たその役割にまだしがみついている。すなわち、集団的な交渉力で、組合員の雇用・賃金・福利を向上させるのだ、と。」

労働組合の長期的な衰退は、新しい役割を見出すことで転換されるはずです。LEIKENは、現在の労働者が新しい技術や環境に対して、次々に知識や熟練を習得していかなければならないことに対応して、組合がもっと労働者の教育に重要な役割を担うべきだと考えます。組合は情報をとネットワークを持っており、職場のさまざまな問題に対応しています。教育についても労働者の声を代表し、政府や学校に改善を要求できるでしょう。


IHT Monday, September 2, 2002

Health turns into a security priority 

Joseph S. Nye Jr.

戦略家たちは、漸く、世界保健機構WHOがアメリカの安全保障上の国益に重要であることを認めた。それは、直接には、昨年の炭疽菌によるテロ事件がきっかけであった。しかし、人為的な感染と自然の感染とを区別することはできない。情報を速やかに伝達することが適切な対応にとって重要だ。効果的な戦略には投資が必要になる。それはデータ・ベースや監視システムの構築に使われる。教育においても、国民や報道機関との情報交換でも、改善が望まれる。微生物は国境線を気にしない。西ナイル・ウィルスもアフリカからやって来た。世界的規模の検疫システムが必要だ。先進国間の協力や、貧しい国への財政支援も行われねばならない。


FT September 3 2002

The perils of ignoring bubbles

By Stephen Cecchetti (professor of economics at Ohio State University, and director of research of the Federal Reserve Bank of New York between 1997 and 1999)

バブルのコストは甚大である。しかし、政策担当者は経済過程に介入したがらない。中央銀行は二つの言い訳をする。1.バブルかどうかは分からない。2.たとえ分かったとしても、できることはない。

最初の言い訳は無意味だ。正確に予測できないことが、それを無視して良いことにはならない。資産価格の予測は、消費や投資、成長、インフレにも前提されている。将来の資産価格を予測せずに、何をするのか? 二つ目の言い訳も、インフレ予想だけに通貨政策を従わせる、という場合が多い。しかし、バブルが破裂してから、インフレが下がっても仕方ない。

資産価格のバブルは、経済成長に関する非現実的な期待によって生じる。それは金利を引き上げることで成長率を抑制すれば阻止できる。1997年の春にFedがそのような行動を採らなかったことで、今、その代価を支払わされていると思う。あのとき、金利を0.5%か0.75%も引き上げておけば、成長は鈍化し、企業業績も抑制できて、過度の期待感を挫けただろう。

それで上手く行っただろうとか、私はそうしたと言うのではない。しかし、確かに、私はそうしておくべきだった。

******************************

The Economist, August 24th 2002

Argentina’s collapse: Sifting through the rubbish

(コメント) 昨年末に経済が崩壊したアルゼンチンでは、失業者が急増しました。公式には20%、実際は3人に一人がまともな仕事に就けません。彼らは何をして生きているのか? 

この記事に拠れば、「強盗や誘拐、詐欺」などが増えたようです。即席の強盗団や誘拐組織が叢生して、数時間の誘拐に100ドル支払って返してもらうような事件が頻発し、中産層まで苦しめられています。また、貨幣経済を脱落した部分で「物々交換」のネットワークが急増し、一時、生活協同組合のように増えました。ところが、これらも交換に使うクレジットを増発し始め、ハイパー・インフレを起こして、すぐに崩壊してしまうのです。結局、「ごみ漁り」cartonerosが最も長続きする成長部門かもしれません。

ごみ漁りはアルゼンチン全体で約30万人に達し、ブエノス・アイレス周辺の地区では2年前の5倍に増えました。通貨危機が旧工業地帯を廃墟にした一方で、ペソの減価はアルゼンチンのゴミの国際競争力を高めました。くずボール紙の買取り価格は昨年の20倍になったのです。まじめなcartoneroなら、月に600ペソ、約169ドルを稼ぎ、これは平均賃金の1.5倍である、ということです。

苦境にもかかわらず、かつてのような街頭の抗議行動は起きません。ひとびとは、怒りよりも、抑鬱と恥辱に沈んでいるようです。政府は経済の落ち込みが止まった、と言いますが、IMFとの合意のひとつであった銀行の破産法改正を、また議会が翻して、危機の収拾は長引きそうです。そして、ゴミ漁りの列がさらに続く・・・


Economics focus: The case for co-operating

今月、エルベ川がその堤防を決壊させ(burst its banks:銀行を破綻させる、という意味も)、ドイツ政府はその財政支援で「安定協定」の限界すれすれに達している。協定は財政赤字の上限をGDPの3%と定めており、これを超えるとGDPの0.5%に及ぶ罰金を科される。ドイツの今の赤字は2.8%であり、シュレーダー首相は制限を守るために減税を遅らせた。

10年前にこの協定ができたのは、主にドイツ人の意向であったが、加盟国の放漫財政でユーロの信認が傷つくのを恐れたからであった。もし政府が持続不可能な赤字を続ければ、中央銀行が救済するしかなくなって、インフレで実質債務を減らすことになるだろう。そのような救済を行うことをECBは禁じられている。

ユーロ圏の各財務大臣はまだ財政政策の権限を持っているから、もしある国が支払不能になれば、金融市場はその政府の国債にプレミアムを付けるか、あるいは購入しないだろう。こうして市場が監視しているのに、なぜ欧州委員会が政府借入を監視すべきなのか? むしろ、通貨政策をECBに譲ったのであるから、加盟国は自国の問題に対処するためにより大きな財政政策の弾力性を必要とする。

ドイツはこの問題を示している。もしドイツが今も自国の通貨政策を決められるとしたら、確実に金利を下げただろう。他方、景気の悪化はシュレーダーが遅らせるしかなかった減税策を必要としている。

協定には欠陥があるが、他方、ユーロ圏は解決すべき財政問題を抱えている。マーストリヒト条約によって制限されていた財政赤字や国債の累積が再び増加し、近い将来、年金の支払負担が増大する。長期的な財政支出の削減は避けられないが、これを単独に行うより、加盟諸国が協調して行うほうが良い。オックスフォード大学のAllsoppらは、このような意味で「安定協定」を擁護した。

ある国が緊縮財政を行えば、そのショックを緩和するために金融は緩和し、通貨を減価することができる。しかし通貨統合内では、一国だけでは金利を下げることができない。たとえば、彼らの推計では、もしフランスが一方的に財政赤字を減らした場合、産出量と物価が低下する。しかし、ユーロ圏全体ではほとんど変化しない。ECBは金利を下げず、その結果、フランスの実質金利は上昇して、フランスが回復するには3年の不況を経た後になる。

他方、もしユーロ圏全体で協調して財政赤字を減らせば、同時的な経済の落ち込みからECBは金融緩和に踏み切るだろう。その結果、財政支出は減るが民間支出が増えて、しかもユーロが減価し、輸出が増える。さらに、ユーロ圏は世界の貯蓄を大きく吸収しているから、財政赤字の削減は世界の長期金利を低下させ、民間投資への「クラウド・イン」をもたらす。

ただし、この話は財政赤字の削減を信頼された協調的な方法で行う場合であって、現実の「安定協定」は、そのどちらでもない。