IPEの果樹園2002

今週のReview

9/2-7

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学術研究が衰退するのは、制度化された研究者の生活が習慣としての惰性に染まっていくからでしょう。

1.   統計や文献に頼るだけで、現地調査を行わない。

2.   学派や分野を越えた活発な論争が無い。

3.   現実の改革や政策の成否を担っていない。

4.   政府や官僚、実業界の有力者と、情報や人間の入れ替えがない。

5.   人を動かす、明確で力強いアイデアが尊重されない。

The Economist, August 17th 2002 の “Economics focus” は、アダム・スミスが「分業」を説明する際に、ピン・マニュファクチュアでの観察を実に活き活きと描き出して、市場がもたらす社会的分業の卓越したメカニズム、という思想を普及させました、と述べています。しかし、工場に関する彼の知識はその師匠であったファーガスンが調べたものであり、スミス自身は象牙の塔の中で、それを新しいアイデアに鍛錬したようです。

私の限られた経験からも、欧米の優れた研究者たちは、インタビューを歓迎し、質問を喜び、よく意見を聞いて、反論や修正を試みていたと思います。彼らは議論を楽しみ、議論の中で新しいアイデアや説明方法を工夫し、刺激を求めます。しかしもちろん、どの分野を見ても、若い頃から論争を指導できる研究者は決して多くありません。

アメリカで学界を指導するということは、現実の問題を解決する地位と権限を与えられ、その発言が本当に現実を変えることを意味します。前財務長官のサマーズが、ハーヴァード大学の教授から転身し、ハーヴァードの学長になって戻ったように、最高の知識を持つ者は権力の「回転ドア」をも行き来します。

たとえば、今年のForeign Affairs を見れば、Richard N. Cooper (Chapter 11 for Countries?)やBarry Eichengreen (The Globalization Wars), Jagdish Bhagwati (Coping with Antiglobalization), Martin Feldstein (Argentina’s Fall) などが、興味深い主張を示しています。

先日、ゼミ生と話し合っていたとき、ドーンブッシュRudiger Dornbuschが既に亡くなったことを指摘されて、大きな失望と後悔を感じました。最近、ドーンブッシュのコラムやエッセイを集めた本を買って、ところどころを拾い読みしていたからです。まだ60歳だった、と記事で読みました。日本の訃報記事では、95年の超円高を予告し、煽った?かのような解説だけがありました。

Boston Heraldの記事は、「彼には、現実の経験的世界と厳密な経済分析とをつなぐ、驚くべき能力があった」という Henry Willmoreの言葉を伝えています。また、この悲しい報せに対して、Paul Krugmanは、人物と業績を評価するというより、日々の思い出をつづりました。特に、KrugmanがPh.D.論文を書く際に、Dornbuschはこう指導したようです。

「文献を読み返すな。君の頭の中にはもういっぱい材料が詰まっている。他人のモデルをもてあそぶのは止めることだ。その代わりに、現実の世界で起きている問題について読むことだ。Financial Times やthe Economist、そして経済史を読んで、自分のジュースを搾り採れ。面白いと思ったら、それを使えるということだ。」

アダム・スミスが述べたように教師が受講生から直接に授業料を集めるとか、アメリカのように研究者の業績や社会的貢献を客観的に評価する基準を研究費に反映させるといった市場型の仕組みに、学界の権力も次第に移行していくわけです。

日本でも、金融政策を中心に論争が甦りつつあります。残念ながらIPEは、まだ論争を喚起する力が無いようです。私たちの夏合宿も楽しく、かつ刺激的でした。しかし、もっと発言できるように研究を深めたいです。

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg, FEER:Far Eastern Economic Review


FT August 18 2002

The trouble with sterling

By Philippe Legrain

イギリス政府は、単一通貨が成功すれば参加する、と言う。ユーロ導入から3年経って、明確な答えが出た。イギリスはポンドを維持することで、多大なコストを支払っている。

ポンドの問題は今に始まったわけではない。輸出業者はポンド高が販売を妨げると苦情を述べている。それが雇用を損なっていることに関して、労使の意見は一致している。しかし、イングランド銀行は通貨価値の暴落がインフレを招くかもしれないと恐れている。多くの経済学者がポンドの過大評価を認めており、貿易赤字は膨張し、輸出は減少している。

通貨価値の過大評価は経済の不均衡を増幅している。国際競争から守られている部門(主にサービス部門)は、それにさらされている部門(主に製造業)にくらべて、有利である。第2四半期の製造業の産出は1年前に比べて5.3%減った。これは長期的なイギリス製造業の衰退をポンド高が緩和せず、むしろ増幅していることを示す。

ポンドが有益な調整メカニズムであれば、それは緩やかに減価して、貿易部門を刺激しなければならない。しかし実際は、ポンド高が続いている。なぜなら今や国際資本移動が自由であり、貿易ではなく為替トレーダーの気まぐれと情熱が通貨価値を動かすからである。年間4兆ポンドの貿易額に比べて、毎日約1兆ドルが通貨市場で売買される。それは本質的に不確かな未来への賭けであるから、価格はトレーダーたちの期待といっしょに跳びはね、バブルに冒される。だからポンドは貿易を均衡させる水準から離れたままなのだ。

為替レートの浮動性と調整失敗は甚大なコストをもたらすが、その長期的な負担はさらに大きい。景気循環が大きくなれば長期投資が妨げられるように、ポンド価値の変動も貿易や成長を妨げる。

来年はポンドがユーロに対して10%増加するのか、20%減価するのか分からないから、将来の計画は非常に難しくなる。それゆえイギリス企業の海外市場開拓は弱まり、外国企業のイギリス向け輸出も減る。イギリスの貿易は減り、狂騒が失われ、価格が高騰し、消費者の選択が乏しく、特化が進まず、規模の経済も活かせず、新技術が導入できない。それは成長を損なうのだ。

通説に反して、企業は為替リスクを安価にヘッジできない。ユーロに参加すれば為替リスクを貿易額の半分から取り除けるが、ドル建の取引を採用するだけでは16%しか守れない。ポンドが輸出入に26%の課税を行っているに等しい、という研究もある。FrankelとRoseは、ユーロ参加でユーロ圏との貿易額が増え、イギリスのGDPを20年間で20%増価させる、と推計した。ユーロが1999年に導入されてから2001年で、ドイツの貿易額のGDP比は27.2%から32.2%へ増加し、成長率を年約1%高めたが、イギリスの貿易額は23.2%から22%に減少し、成長率を年約0.5%低下させた。

ユーロ参加による貿易の利益は明らかだ。ユーロ反対論者はEUとの自由貿易を支持する一方で、イギリスにその利益を失わせるのはなぜか、説明しなければならない。彼らはユーロ圏の貿易において、ハンディキャップを科すことを望んでいる。ユーロ参加はイギリスの国益なのである。


FT August 19 2002

Foreign banks angry over IMF-Argentina deal

By Thomas Cat in Buenos Aires

(コメント) アルゼンチンの回復を遅らせているのは、銀行システムが外国の資本によって買収され、世界化してしまっていることであり、同時に、政治家たちは有権者の雇用や貯蓄をなんとしても守りたい、という意味で、政治システムが国内に限定されていることでしょう。

銀行は、アルゼンチンの国内企業への融資が失われたり、利子を支払ったりすることに反対しており、ドル建の預金に対する国外の資産による支払を拒否します。アルゼンチンの金融・経済危機は、アルゼンチン国内の課税や強制的貯蓄、富の再分配で回収しなければならない、というわけです。しかし、政治家はもちろんそう考えません。銀行を買収してバブルで儲けた外国の資本家が、それが破綻したコストについては、その責任を問うどころか、コストの分担もすべて免除されるのか!? というわけです。


NYT August 18, 2002

The Free-Trade Fix

By TINA ROSENBERG

(コメント) グローバリゼーションに関するアメリカの論争を適切に整理しています。グローバリゼーションの根拠を、世界の貧困解消や開発の促進に求める姿勢が強い、その意味では実際的なグローバリストだと思います。

市場の開放や統合化によって貧困が解消される、と強調しますが、それが通貨・金融・経済危機を招く問題と、十分に関係付けられていないと思いました。それこそが、グローバリゼーションの論争点なのです。すなわち、貿易自由化と金融自由化とは何が違うのか? 市場の性格? 政府の介入? 制度の重要性? ・・・


FT August 20 2002

Editorial comment: Handling the House of Saud

長年にわたって、アメリカの中東政策は和解できないものを和解させようとしてきた。アメリカはイスラエルを支持し、同時に、石油の供給国として最大のアラブ産油諸国、特にサウジ・アラビアを防衛してきた。9・11以後、この均等外交を維持することがますます難しくなっている。

1973年、産油諸国が禁輸措置をとって、石油価格を4倍に高騰させ、莫大な富を工業世界からアラブ諸国に移転した。しかし、その報酬は西側、特にアメリカへのペトロ・ダラーの還流であった。それはまた、アメリカやヨーロッパの軍需産業に莫大な注文をもたらした。そして、サウジ・アラビアが石油市場で供給の過不足を調整する役割を担ったことから、サウド王家が石油価格安定化の手段となった。

しかし、サウジの裕福な家族がアメリカ経済から資金を大量に引き出している、という最近のニュースは、この相互利益による幸せな時期が終わったことを告げている。アメリカ金融市場の不況という理由もあるが、サウジのエリートたちが9・11以降、アメリカで悪者扱いされている、という印象がもう一つの理由だ。資金を引き上げるのは彼らの富を守るためである。

アメリカ人の多くは「厄介払いできて、せいせいする!」と言うかもしれない。アメリカ人はサウド家の非民主的な支配を中東問題の一部と考えている。しかし、ワシントンとリヤドの分断化を図ることこそ、ビン・ラディンの目的であった。彼はアメリカとイスラムを対立させ、アメリカ軍をサウジ・アラビアの聖なる土地から追放したかったのだ。

サウジ非難のレトリックはワシントンの保守派グループに満ちている。他方、リヤドは、アメリカ政府がアル・カイダのテロに反対するだけでなく、反アラブ、反イスラムである、と確信している。アメリカ政府は、アブドラ王子の中東和平案を無視して彼らを狼狽させ、隣国イラクを軍事攻撃する計画で彼らに恐慌を引き起こした。ワシントンで語られるサウジ非難は、彼らにアメリカ政府の本当の意図は油田を制圧することではないか、という疑いを強めさせる。

サウジ家はテロリストを追放し、腐敗を一掃しなければならない。また、そのシステムをもっと公開しなければならない。しかし、ブッシュ大統領は、今、サウジ・アラビアを敵に回すことが自国の利益になるかどうか、熟慮する必要がある。特に、湾岸地域で他の主要国であるイラクやイランと対立を深めているときには。


IHT Tuesday, August 20, 2002

Look who's misbehaving

Philip Bowring

ブラジル通貨はIMFから300億ドルも融資契約を得たが安定化できない。世界システムの浮動性の背後には、維持不可能な国際収支不均衡や短期の投機的資本移動がある。

ブラジルの問題は、左派候補が勝利すると市場が心配したからか? ウォール街とラテン・アメリカの民主主義は互いを好ましく思っていない。では、財政赤字と金利上昇の悪循環、レアルの下落をもたらしている張本人は誰か? 安定性に関心を寄せながら、アジアでの失敗を繰り返す、金融機関である。すなわち、好調な時期には無思慮な融資を増やし、何か問題の兆しが見えるとそれを引き出してしまう。

Bloombergによれば、J.P.モルガンはブラジルに対するエクスポージャーを20%減らしたが、シティ・グループは21億ドルから93億ドルに増やした。他の10行も同様の行動を採ったが、それはブラジルの政策を評価したからではなく、ウォール街の群衆行動であった。シティ・グループは、元財務長官のロバート・ルービンと元IMF副専務理事のスタンリー・フィッシャーという国際金融界の二人の大物を擁している。彼らは今や凶暴な資本の参加者である。

シティ・グループも他の銀行も、免税地域の支店を通じて、ラテン・アメリカやアジアからの資本逃避を受け入れて大きな利益を上げている。IMFが支持する短期資本移動は、世界的金融不安の根幹にある。他方、アメリカがサウジ・アラビアを外交政策上の敵と見なしたことはよく知られているが、祭事の金融資産を凍結することの意味は知られていない。他国もアメリカから資本を流出させるだろう。中国は2000億ドルのドル建債券を保有しており、他にもアメリカの債務を融資しているものは多い。それらは政治的に安全か? ドル準備が過剰であると、中国、日本、韓国、インドなどでも政治的な再検討が始まる。

アメリカは自国の債務を発展途上諸国によって融資させるために、通貨危機を促して外貨準備(ドル資産の保有)を求めるように仕向け、短期資本移動の規制を行わないのだ、という陰謀説もある。それはウォール街の戦略的思考を誇張しているだろう。しかし、明らかに世界は二つの金融問題解決に失敗している。短期資本移動のもたらす損害は放置されたままであり、世界最大の債務国(アメリカ)はドルを増発する以外に返済しようとしない。

(コメント)なお、Caroline Baumは “The Case of the Mysterious Saudi Asset Sales” (BL 08/21), Reports of Saudi Property Sales Built on Sand” (BL 08/22) で、FTの流した「サウジ資金アメリカ流出」という情報を批判しています。その情報源となったBeshr Bakheetという人物が反米思想を公言しており、石油禁輸に加えて、アメリカ商品のボイコットや対米資産引き揚げを政治的な主張の道具として用いる考えを支持しているからです。また、Baumの記事は、サウジの資本市場や住宅市場におけるサウジ資金の動きを示し、また王族の反論を引用しています。


IHT Wednesday, August 21, 2002

Despite the war talk, Bush is unlikely to attack Iraq

Robert A. Levine

WP Wednesday, August 21, 2002

The President's Slipping Grip

By Michael Kelly

(コメント) Levineは、ブッシュ大統領がイラクと戦争することはないだろう、と考えます。戦争に勝利する上で重要なことは、議会の支持でもなければ、ヨーロッパの支持でもない。むしろ中東の近隣地域において政治的に支持を固めることでしょう。しかし、イスラエルのシャロン政権に強く加担するブッシュ氏が中東和平を進めることは非常に難しいのです。

他方、イラクによる将来の脅威やテロリストの反撃を議論するより、戦争の政治モデルとして、トルーマン大統領の朝鮮戦争やジョンソン大統領のベトナム戦争を考えるべきだ、と言います。なぜなら、11月の中間選挙が終わればブッシュ氏は次の大統領選挙に向けた運動を始めなければならず、戦争が長期化した場合、再選される可能性はほとんどないからです。最初の頃の激しいレトリックを、本人はすっかり引っ込めました。

Kellyも、ブッシュ氏がイラク攻撃の論争で発言し、議会に承認を求めようとしないのだから、強硬派の一方的な論戦は茶番だ、と考えます。ブッシュ氏はアメリカの歴史的な転換点で大統領となりました。彼は、クリントンにできなかったことをする、として、より豊かで、より安全で、より自由な、新しい世界秩序を築く、と就任演説で約束したのです。

しかし、今やブッシュ氏は消えてしまったようです。彼は強硬派の大げさな哲学や戦争の決定に関わろうとせず、クリントンを真似た経済サミットをテキサスで開きながら、居眠りを我慢していただけです。大統領の存在が、自国の安全保障や経済的繁栄、将来の国際的役割を決める上で無意味であるとしたら、これほど許しがたいことはないでしょう。


FT August 22 2002

A hard currency

By Tony Barber

(コメント) ユーロ高は、ECBのインフレ抑制を助けますが、他方で、各国政府による雇用増加を妨げます。ECBが金融政策に完全な独立性を与えられている以上、各国政府は市場の改革で失業を減らすしかありません。ECBはよりユーロ高を望み、政府はユーロ安を望む、という対立は、かつてのドイツでは企業の技術革新と競争力の改善によって両立してきました。

ユーロ高が消費を促すのなら良いのですが、この対立が再び深刻になっているのは、ドイツの消費や投資が伸びず、成長と雇用創出に失敗しているからです。そしてその理由として、「安定協定」による財政刺激策の制約が問題視されています。為替レートを政策手段として利用するよりも、各国の財政政策を使うほうが現実的でしょう。

あるいは、東ドイツから東欧諸国に拡大することで発生する調整の圧力を、ECBのインフレ抑制に従い、低成長で吸収できるのかどうか?


FT August 25 2002

Dominique Moi: Europe must not retreat

By Dominique Moi (deputy director of the Institute of International Relations in Paris)

相互依存した世界における難しい問題に直面して、アメリカ人は単純な対応を探している。当然にも、彼らは最初に軍事的な優位を利用する。彼らは肉体にも、誇りにも、傷を負った。彼らは復讐を要求するが、「ハード・パワー」の強調が「ソフト・パワー」を損なっているということを必ずしも理解しない。敵と同様に味方に対しても、その影響力は失われる。

1947年に、ソビエト連邦に対して封じ込め戦略が見事に成功して以来、初めて、アメリカの戦略家たちは深刻な挑戦にあっている。彼らは新しい敵の不合理性を正しく指摘したが、彼らのイメージと、国際システムにも、先制攻撃の原則を押し付ける点で間違っている。

傷ついたアメリカは、本質的に善意の帝国から、攻撃的で冷笑的な存在に変わったのか? アメリカはもともと、世界を改良したいという気持ちと、自国の市民を守るために世界から手を退きたいという気持ちとの間で、動揺してきた。9・11に対して、ブッシュ氏のアメリカは異なった対応を採った。

アメリカは二つのことを要求しているように見える。1.「私は世界に関与せず、世界から自分を守りたい。」 2.「私は世界の野蛮な性質を変えるために行動しているのではなく、自分にとって危険でなければよい。」 このナショナリズムと勢力均衡の混合物は、西側という同盟概念を弱めていく。アル・カイダのテロリストたちは、ソビエト連邦もなしえなかったことを成し遂げたのか? すなわち、西側同盟の崩壊。

ワシントンには、事態を単純な戦略思考で解釈し、それゆえヨーロッパを軽視して、新しい同盟国であるロシアと上手くやれるという危険な動機がある。しかし、アメリカ、ヨーロッパ、ロシアが新しい戦略的三角形を形成することと、ヨーロッパに代えてロシアと組み、まるでチェチェンの内戦が無いかのように、また、イラクとパレスチナに民主主義さえ確立すれば良いかのように、考えることは別である。

皮肉なことに、9・11以後、ますます西側が世界の中で他者から区別されている。もし9・11によってアメリカが敵を見出したとすれば、ヨーロッパも同様にその国際的な役割を見出した。それはアメリカを穏健にすることだ。多数の穏健なアメリカ人と協力して、ヨーロッパはアメリカ政府を新しい帝国主義への危険な道から遠ざけるべきだ。

そのためには、ヨーロッパがパワーを理解し、アメリカを扱うスタイルを根本的に変えなければならない。現実の世界がさらに野蛮で危険な姿に代わるとき、アメリカが真剣に受け取るには、ヨーロッパが恒久平和の理想を夢想するばかりの、市民的な(非軍事的な)パワーであり続けてはならない。日本が採った市民的な(非軍事的な)あり方が世界でどのように受け止められているかは、ヨーロッパへの警告である。ヨーロッパは軍事的な途を閉ざして、経済的な権力を求める日本を真似はしない。アメリカの戦略に必要な、政治的・文化的な次元を示すためにも、ヨーロッパは最小限の軍事的信頼を必要としている。

それはフランスよりも、アメリカを論評するイギリスの姿に近いだろう。アメリカがいない世界はもっと危険であると確信し、世界はアメリカの姿勢を改善すればもっと安全になると信じることだ。第二のテロ攻撃が無ければ、9・11はアメリカそのものに最大の衝撃を与え、アメリカは帝国を失った帝王になってしまう。われわれは「敵」と戦うべきであって、「味方」同士で争うべきではない。


NYT August 25, 2002

Banking's Future Lies in its Past

By MARTIN MAYER

グラス=スティーガル法が廃止されて3年過ぎた今、早くもCitigroup やJ.P. Morgan ChaseがEnronの重役による不正行為に対する融資に関わったと問われている。彼らの不正は「オーバー・ザ・カウンター」のデリバティブズであり、簿外取引であるから、彼らしか知らないリスクの交換であった。現代の技術革新を前提すれば、銀行業とブローカー/ディーラーとを分離することは確かに不可能である。しかし、ニュー・ディールの精神に沿って、情報を公開することはもっとできる。その元来の規制を支えた精神、日の光に当てることが最大の予防策だ、というのは、今も真実である。


FT August 26 2002

Brazil's unwatched borrowing

By Morris Goldstein

ブラジルに対する300億ドルのIMF融資は基本的な問題を提起する。最近まで輝かしい実績を賞賛されていた国が、IMFと合意した再建計画に従って、再び、どのようにして金融危機の間際にあるのか? ブラジル大統領のカルドーソは、「市場が利益に反し、ファンダメンタルズを無視し、間違った期待によって、行動している」と述べた。しかし、そこにはカルドーソが気付かない問題がある。

ブラジルが危機に陥ったのは、政策担当者も、民間金融市場も、IMFも、この国で着実に膨張している問題に十分な注意を払わなかったからである。重要なファンダメンタルズがここ数年悪化し、外部環境も悪化した。今度の救済融資でも、持続不可能な債務を良く見せるために巨額の公的支援を行ったが、IMFと主要工業諸国がもうこんなことはしたくないのだ。

もちろん、ブラジルは変動レートであり、競争力があり、通貨政策にインフレ目標を示し、財政黒字を出し、銀行は危機前のアルゼンチンよりも安全だ。しかし、重要な指標が悪化している。

1994年、公的債務の対GDP比率は30%であったが、今では約2倍になっている。大規模な民営化と新興市場ではずば抜けて高率の課税にもかかわらず、債務に依存しているのだ。この8年間で、比率が下がった年は無い。公的債務の40%以上がドル建もしくはドル価値にリンクしているので、近年の大幅なレアル減価は公的債務を人質にしてしまった。これがオニール財務長官やIMFの推奨する新興市場の債務管理だというのか? 2000年の4.5%から1.5%へ、成長の鈍化が問題を悪化させる。

対外債務の状況も良くない。ブラジルの政府・民間を合わせた対外債務は、輸出額の400%を超えている。1980年以来、債務の組替え無しにこの比率を大きく下げた国は、チリ以外に無い。ブラジルのデット・サービス・レシオは、90%もの水準に達している。アルゼンチンと同様に、輸出部門はGDP比率で10%しかない。

2000年、ブラジルの経常赤字はGDPの4%であった。今年はそれを少し越えるだろう。しかし、当時は330億ドルの直接投資を受け取っていたが、今年はその半分しかない。来年の経常赤字額は450〜500億ドルに達するだろう。すると、すでに海外からの融資を絞られているブラジル企業が、その資金をさらなる減価に備えてヘッジし、ますますレアルの減価を加速するのではないか、という疑問が起きる。

大統領選挙の不安もある。選挙後まで含めた、信用できる多年度のIMF融資計画に合意することは非常に難しい。大まかな公約が契約や財政黒字の保証になるとは思えない。以上のように、今年に入って市場がブラジルに対するスプレッドを倍増させたのは当然であった。

IMFがスイス意外には誰にも融資しないほどリスク回避的になることを望む者はいない。また、ラテン・アメリカで危機が拡大し、深化しているのに、IMFは些細な技術的問題に囚われて傍観しているように望む者もいない。しかし、もしIMFが債務の脆弱性が増大していることに強い警告を与えないとか、IMFの金融的支援において債務の維持可能性を中心的な条件に据えないようでは、IMFの将来も真っ暗である。

IMFと工業諸国は、昨年8月にアルゼンチンを救済し、その前にトルコを救済した際にも、責任を果たせなかった。適当なマクロ経済や構造改革をともなう債務組替えを行うことを条件に、IMFがブラジル向けの支払を行わないとしたら、私は失敗を繰り返すと思う。

(コメント)  “Banks stand by Brazil” BBC Monday, 26 August, 2002 によれば、シティグループ、J.P.モルガン・チェイス、ドイチェバンクが中心となって、主要16銀行が、ブラジル向けの信用枠を減らさないという合意を公表しました。

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The Economist, August th 2002

Surveillance and Privacy: Go on, watch me

「ビッグ・ブラザー」型警察管理をもたらすのは、国家ではなく社会かもしれない。人々は多くの社会サービスを受けるためにコンピューターに個人情報を入力し、管理している。電話でも、テレビでも、カードでも、快適さや娯楽のために、人々はプライヴァシーを犠牲にする。特に身の安全を図るという強い欲求のためには、さらに多くを犠牲にするかもしれない。

たとえば、飼い主や親が、愛するペットや子供の安全を確認するために、その位置を衛星監視システムで逐次情報提供するサービスが商業化されている。しかし、何歳までなら監視しても良いのか?

さらに、たとえプライヴァシーを理由に情報提供を拒みたい人がいても、その人は基本的なサービスを拒絶されることに耐えられないかもしれない。すべてが情報化されていく社会で、クレジット・カード無しに生きていけるだろうか? たとえば、非合法移民は、それを選択すらできない。彼らはその社会的・政治的な存在を否定されるのか?

要するに、人々は身の安全と快適さを求めて、「ビッグ・ブラザー」を歓迎するようになる。そして、逆説的なことに、国家だけがそれを阻止できるのである。


Brazil and the IMF: A matter of faith

(コメント) John Williamsonのブラジル危機に関する分析を紹介しています。IMF融資が行われても、それが成功するかどうかは市場の判断によります。Williamsonは、ブラジルの返済条件を調べて、必要な資金を計算します。それは、ドルにリンクしている場合は減価に関係しますし、特に、市場が決める金利差に依存します。財政が担う(たとえば国有化して)には大きすぎますし、国際協調の融資も不十分です。民間資本流入を維持できるかどうかは、債務依存比率を下げることに懸かっているわけです。

しかしまた、成長率が低ければ、この比率を下げられるとしたら、それは投資家たちなのです。債務を長期化し、金利を下げて、成長を回復させるような改革の促進を新しい大統領に約束させることでしょう。