IPEの果樹園2002

今週のReview

8/26-8/31

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ロバート・パーカーの小説に登場するアメリカの私立探偵、スペンサーは、おしゃべりで衒学的な男です。とてもハード・ボイルドとは思えない叙述と、紛れも無い簡潔な描写、短いプロットの積み重ねが、『ペーパー・ドール』でも事件の謎を深めます。それは同時に、アメリカ社会の謎でもあります。

デフォルトが国際金融であってはならない不祥事から改革の焦点となったように、武力行使や暗殺、戦争も、「最後の手段」ではなく、頻繁に議論される政治の日常的風景になりました。金本位制のルールによって、切下げと債務不履行を国家間の不均衡調整手段から排除する国際合意が守られた時期もありました。Beth Simmonsは、それが疑われる理由となった政治条件として、普通選挙・民主化、左派政権の成立、政府の短命化、中央銀行への政治的干渉、を指摘しています。

では、国際関係の改変を求める手段として戦争を始める条件とは何でしょうか? 

デフォルトや激しいインフレーションが政府による掠奪と負担の転嫁であるように、戦争は政府が公認し、推奨する人殺しと征服です。兵器は戦争の手段に過ぎず、憎しみや恐怖、偏見に染まった人々がいなければ、戦争はできません。他方、政府は、戦争を政策の一部として選択する限り、完全な狂気でも純粋な利益でもない何かを、説明しなければなりません。

もっとも説明し易いのは、:1.軍事的な優位を他の目的に利用する(選択的手段)。:2.自国の生存や威信に関わる他国の脅威を排除する(自律)。ということです。当然、こうした理由は強国の論理です。しかし戦争はしばしば周辺部の小国で起こります。その場合、:3.国内問題を外に転嫁する(大国の国内政治)。:4.同盟関係を維持・安定化する(勢力均衡)。という意味で、大国と小国との支配関係が利用されるでしょう。

その他、どのような理由であれ、戦争が完全に選択肢として排除できないのであれば(そして事実そうだと認めるほかありませんが)、もっとも現実的な次の理由が追加されます。:5.戦争が避けられないとしたら、自国が優位を維持できる内に戦うべきだ。将来の地位逆転が予想されるなら、現在の優位を長期化し、固定するべきだ(時間不整合性)。

国家を戦争に勝利するための装置と見れば、軍事技術や政治・社会システムが戦争の展開に依存し、戦争がその最適規模や構造も決めるでしょう。大量の情報伝達と処理の高速化・精密化、兵器の輸送やエネルギー補給基地の節約に、アメリカが無人飛行偵察機や超長距離爆撃機、精密誘導ミサイルを開発し、それが将来の戦争と国際関係、社会を決めるのです。

これは、Simmonsが指摘した関係と、ちょうど逆に見えます。民主的でない(あるいは情報を公開しない)、右派政権が、長期の政権維持に成功し、中央銀行にも政治的な影響を及ぼす国ほど、戦争を選択し、それゆえ周辺諸国も同盟化や先制攻撃を検討するでしょう。戦争が前提された世界では、情報操作や心理作戦が始まり、戦争をめぐる選挙循環も起きます。もし経済戦争が高まれば、中国の生産基地化や近代工業のもたらす破壊力を阻止するため、先制攻撃を主張する者も現れます。

戦争の本質は政治(言葉による戦争)です。自由主義哲学が主張するように、武器ではなく、商売や言論で争えば、社会は豊かになるでしょう。経済発展と安全保障のジレンマも、国際社会は合意された管理ルールと制度の構築によって解決しなければなりません。

たとえばZbigniew Brzezinskiの論説は、国際秩序の管理システムと軍事力の使用に関する明確な指針を示しています。それとも、未来の世界は、傭兵や軍票、慰安婦の民営化など、合意された調整ルールの無い、民間の戦争システムへと向かうのでしょうか?

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg, FEER:Far Eastern Economic Review


LAT August 11, 2002

The Iraqi Divide - Jack Germond

By JACK W. GERMOND, Jack W. Germond

The Iraq Divide

By CHARLES DUELFER, Charles Duelfer

NYT August 11, 2002

Steps Before War

FT August 12 2002

America's right to fight Iraq

By John Chipman

IHT Monday, August 12, 2002

War talk reveals U.S. hawks as policy amateurs

William Pfaff

LAT August 12, 2002

Iraq Needn't Be a Vietnam

By ROBERT E. HUNTER

(コメント) GERMONDは、イラク攻撃に反対します。20万人の軍隊を、年間200万ドルもかけて、フセイン政権打倒のために投資すべきだと、政府はアメリカ国民を説得できないと言います。

父親にできなかったことをしたいというブッシュ氏の思いを、アメリカ人の多くが共有しているわけではありません。たとえ大統領を支持しても、景気の後退が心配される中、戦死者や軍事予算を肯定する者はいません。ブッシュ氏は「悪の枢軸」演説を先に行ってしまってから、テロとの戦争に支援を求めましたが、同盟国も、国民も、それを容易には示しません。フセインが西側全体の脅威であると具体的に説得できず、アル・カイダの9・11にフセインが関わった証拠は無いのです。イラク国民を解放する理想について、ブッシュ氏は楽天的に語りますが、グレナダの例でも分かるように、軍事侵攻が政治的に支持されることは長く続きません。ジョン・ウェインをブッシュ氏以上に演じていたレーガン氏も、結局は非難されました。国民の関心は、もっと雇用を増やせ、ということです。

他方、DUELFERは、軍事的勝利や領土の解放ではなく、フセイン体制を葬ることが次の戦争の政治目的である、と明言します。フセインと彼の独裁を守る体制が倒すべき敵であり、これをそのまま放置することは、必ず核兵器の保有や中東地域への支配拡大をもたらし、アメリカと同盟諸国の利益を損なうだけでなく、アメリカの軍人たちが死の危険にさらされるのです。

アメリカの対応は傲慢ではなく、アメリカだけがこれを行えることを知っているに過ぎません。たとえばフランスが、フセイン体制を一掃し、将来にわたって中東の平和を保証できるわけが無いのです。アメリカはもちろん、バクダットに傀儡政権を作るのではなく、国際的な基準に従った民主的政府をイラク国民が作る条件を確実にしたいのです。フセイン体制が続く限り、国民は不幸であり、アメリカや世界にとって平和は確実にならない、と主張します。だから、安保理の承認や同盟も重要だが、アメリカ一国でもやるべきだ、と言います。

NYTの論説は、アメリカ政府が外国と戦争するのを認められるとしたら、それは @議会が戦争に合意し、A同盟国の支持を受け、B戦争以外の手段がすべて尽きたときに限られる、という原則を確認します。ところがブッシュ大統領は、フセインを打倒する場合には、こうした原則が重要ではないかのように話します。これは深刻な過ちである、と警告しています。

アメリカ憲法は、宣戦布告を議会だけに認めます。しかしこれまでも、大統領はしばしば、宣戦布告の無い戦争に軍隊を使用しました。戦争は計画されたように終わらず、戦局が変わると国論も分裂します。政府が都合の良い意見や情報だけで戦争を拡大する危険があるのです。

同盟諸国の支持が無ければ、戦線の維持も、新しい政府によるイラク国内や周辺地域の安全保障も、戦後復興への負担も、非常に困難になるでしょう。他方、生物化学兵器の査察について安保理の支持を固め、フセインの動きを封じ込める可能性が全く無いわけではないのです。ブッシュ氏が戦争に猛進するからと言って、国民に同意を求めるべきではない、と。

Chipmanは、次の戦争を、1991年のクウェート侵略を敗退させた安保理決議に戻って、正当化できる、と主張します。イラクとの戦争は、フセイン政権崩壊ではなく、彼らによる大量破壊兵器(WMD)開発計画の破棄を条件として、安保理で停戦が受け入れられました。しかし、フセイン政権がその後に示した国際社会への拒否と不満を黙認することは、むしろ、それを尊重する諸国の不利益を助長してきただけです。

Pfaffは、軍事専門家たちが支持していない戦争を、素人たちが熱心に吹聴する、とアメリカの論調を批判します。大統領自身が、若い頃、ベトコン(ベトナムの共産主義者)から国土を防衛するためにテキサスで戦闘機に乗っていた人物です。国防省のRichard Perleは、アメリカの敵として、テロリズムを育てるサウジ・アラビア政府を強く非難しました。ブッシュ政権は、アメリカが法や秩序の上に立ち、正しい戦争とそうでない戦争を区別できる、と考えています。

戦争以外に解決する方法は無いのか? 他の手段はすべて尽くされたのか? 戦争が、その目的にとって、唯一かつ必要な手段なのか? 被害は最小限に抑えられるのか? 他者を犠牲にして自己の権力を拡大するものではないか? 政府はもっとこうした疑問に答えるべきです。

HUNTERは、イラク攻撃がトンキン湾襲撃のように、ベトナム戦争と同じ結果には至らない、と主張します。軍事力において、アメリカの優位は既に先の戦争で示されました。アメリカに必要なことは、必要ならイラクに長期駐留してでも、友好的な新政府を樹立し、核兵器の開発を諦めさせることです。そのための知識も十分にある、と。


NYT August 11, 2002

India, Pakistan and G.E.

By THOMAS L. FRIEDMAN

2ヶ月前、インドとパキスタンは核戦争を開始する直前にあった。アメリカのパウエル国務長官は彼らに抑制を求めた。しかし、インドには新しい、驚くべき戦争抑止力が現れた。要するに、インドはこの10年で莫大なソフトウェア・情報産業を成功させており、多くの世界的な企業がバック・オフィスや研究機関を設けている。彼らがインド政府に戦争を止めるよう求めたのだ。政府はこのメッセージを確実に受け取った。ジェネラル・パウエルではなく、ジェネラル・エレクトニックが戦争を止めたのだ。

インターネットと人工衛星の技術が進歩して、インドの何百万もの、英語を話す、高等教育を受けた、低賃金の、若いハイテク技術者たちが、世界の大企業に結び付くようになった。彼らはインドに住みながら、企業のソフトウェアを開発したり、支援作業を行ったりする。インドはサービスの輸出で前例の無い600億ドルも外貨準備を保有している。それはこの3年で倍増したのだ。かつてないほど世界はインドに依存し、インドは世界に依存する。

British Airwaysで荷物がなくなっても、Dell computerが故障しても、Bangaloreで解決する。Bangalore のErnst & Youngがあなたの会社の税務書類を調え、Nortel Networks, Reebok, Sony, American Express, HSBC and GE Capitalなどが会計、在庫管理、請求書、クレジット・カードの承認、などの支援作業をBangaloreで行っている。GEの研究所もノキアの携帯電話デザインも、Avisのレンタカー手配も、Bangaloreで行われる。

戦争の懸念からアメリカ政府がインドへの渡航自粛を求めた際、こうした企業は一斉にインド大使に戦争しないよう求めた。Bangaloreへの投資がすべて無駄になるぞ、と。彼らが他のバック・オフィスを探そうとしていることを、大使はインド政府に確実に伝えた。「インドの発展にとって、安定した、予測可能な、操業のための環境を提供することが、今や、最も重要なのです」と、MindTreeの社長、N. Krishnakumar氏は語った。

ニュー・デリーの高齢の指導者たちはこのことを学び、官僚たちも認めた。戦争や核兵器について発言することはインドの産業にとって破滅を意味する、と。同じことは、今や、すべての州に置かれた情報技術担当大臣たちからも伝えられた。

もちろん、それでもパキスタンの武装集団がインドに報復の軍事行動を取らせるような何かを行うかもしれない。しかし、それが何をもたらすか、インドの指導者たちは10度も考えるはずだ。そして、もし戦争になれば、インドが被る損害は以前の10倍にはなっている。


NYT August 11, 2002

Every Market Collapse Is Different

By NICHOLAS F. BRADY (secretary of the Treasury from 1988 to 1993)

(コメント) ブレディー前財務長官は、1987年のブラック・マンデーと比較して、現在の株価下落が回復しにくいものである、と言います。当時、10月13日から1週間で31%、19日だけでも22.6%も、ダウが暴落しました。当時の調査は、市場が売り注文を技術的に処理できなかったことに問題がある、と結論しました。そこで、市場の値決めや決済を改善し、サーキット・ブレーカーを定めるとともに、処理能力を拡大しました。

しかし今回の株価下落では、既に大きく過大評価された株価が問題となっています。90年代後半に生じて、2000年に頂点を極めた膨大なバブルが処理されねばなりませんが、その正しい回復策は誰にも分からないのです。分かっているのは、90年代に形成された過剰な設備や消費水準、債務を処理しなければならないことだけです。

バハマの旧い文句では、「市場のノイズではなく、魚の値段だけを気にしろ」ということです。そして、われわれは魚の質がもっと重要であることを知ったのです。この点でも、アメリカの経済・政治システムは優秀であるから、改革は急速に進められている、と。


LAT August 12, 2002

Couch Trip 2002--Dr. Freud, Meet Mr. Greenspan

By PAUL STEINBERG (acting director of the Georgetown University Counseling and Psychiatric Service)

この1世紀にわたって、経済学者は経済の劇的な変化を説明するのに心理的分野の研究から多くの表現を借りてきた。1930年代を「抑鬱」"depression"と呼び、1987年に殺到した売りを「狼狽」"panic"と呼び、1636年の投機を「チューリップ躁病」"mania"と呼んだ。この辞書には最近、アラン・グリーンスパン議長が有名にした「根拠なき熱狂」"irrational exuberance"が加わったが、これは心理療法士の妻に助けられて、経済学者のRobert Shillerが工夫した言い方だ。

最近では、Charles Kindlebergerの "Manias, Panics, and Crashes"が、精神医学者の事実上のテキストになった。精神医学と経済学との実り多い相互交流において、精神医学が新鮮な比喩を提供してきたが、経済学のアイデアが精神科の会話で急速に普及している。たとえば私は患者にこう言う。「あなたの結婚が酷いものであるとしましょう。さらに、あなたは仕事を激しく嫌っている。あなたは子供たちとも上手く意思疎通できていない。すると私には、あなたの先の陽気さは根拠が無いように思えます(I think your prior exuberance was irrational.)。さあ、素直に『調整』'correction'を受け入れたらどうです?」

まさに経済危機に対して構造変化を遂げるしかない諸国と同じように、個人生活の危機にある人々も、生活の構造変化が必要なことを認めねばならない。そんなとき、IMFの言葉は役に立つ。「あなたは情緒的な準備を使い果たしてしまったのです。」と、私は患者に言う。あるいは、「あなたの内面には全く透明性が欠けていますよ。」と。「二番底不況」も、最近では使われている。患者はしばしば長期の診断を求めるが、「長期で見れば、われわれは皆死ぬのだ。」と言えばよい。

では、なぜ私が経済学と精神医学の和解を試みているのか? それは、そこに残っている心理的損傷を癒したいからである。もし国が、市場が、宇宙が悪循環に陥っているなら、われわれは同じ死すべき者として同様の傾向を示すと知るべきだ。

アラン・グリーンスパンもジョージ・ブッシュも、われわれと同じように苦境の中を進んでいる。


LAT August 16, 2002

Waco 2: Can I Get an Amen?

By ARIANNA HUFFINGTON

カリスマ的な指導者に従い、カルト宗教の信者たちがテキサス平原の真ん中、暑く、砂埃の舞う、何の特徴も無い町、Wacoに集まった。彼らは、指導者とその熱狂的支持者がもたらす長々とした垂訓を聞くために召集された。

すべてのカルト信者がそうであるように、疑う者たちを雷鳴のように攻撃しながら、講演者たちは正気の者なら受け入れることができないような奇怪な宗教的見解を示す。時間が経つほど、その集団は自分たちがうまく扱えない現実の世界からどんどん遊離する。ただしブッシュの経済フォーラムは、ぎらぎらした黙示録ではなく、企業幹部のジェット機が飛立つ安定した音で終わる。このとき、Wacoではなくウォール街で大火事が起きていた。ある航空会社が倒産し、さらにもう一社も3度目の大量解雇とリストラが成功しなければ倒産する。

ワシントンでは、景気の現状を憂慮しつつも、アラン・グリーンスパンが政府の望む利下げを拒んでいた。それでも、大統領は経済が「挑戦に立ち向かう」必要があると認めただけで、盲目的信念で事実をすっかり締め出すことに決めた賛美歌ばかりがこだました。

理性は燃え尽きたのだ。誰も増大する財政赤字や貿易赤字について話さないし、ブッシュ教の信者が行った減税を反省する者もいない。「今日は本当に挑戦的なアイデアを多く聞けた。」とオニール財務長官はフォーラムの後で詠唱した。それは? 「この部会では、減税を恒久化するだけでなく、遅れている減税を早めるべきだ、という声を聞いた。」この信仰厚い紳士たちは募金のための帽子を回す必要もない。CEO教会の前に座る企業幹部たちは、すでに何度も受け取ってきた。

大統領の確信が、ますます絶望的な確信となっているが、メッセージとして残された。回復はすぐそこまで来ている。自由市場の神々は最後にはダウを救い出す。しかし、ブッシュの燃えるような祈りの間も、外の呪われた騒音が漏れてくる。それはブッシュ教がWacoに呼んだはずの普通の市民たちだ。彼らは職を失い、貯蓄を失いながら、ブッシュ教の三位一体を信仰しなければならない、と大統領に言われている。すなわち、より大きな減税。より少ない規制。より多くの国内エネルギー探査。

アーメン。そしてマシュマロをくれ。もうすぐ政治のキャンプ・ファイヤーだ。

(コメント) AFL-CIOのSweeney議長は、何をブッシュ大統領は見ているのか? と憤慨します。(John J. Sweeney, “The Fundamentals Are Not Sound,” WP Tuesday, August 13, 2002) アメリカの普通の家族は、ブッシュが示すのと違う現実に直面している、と。老人は年金も医療保険も無く、貯蓄を奪われた。成長はしているが企業は解雇を増やし続けている。若者は学校へ行くのを諦め、大人たちは退職を遅らせる。企業スキャンダルへの取組みは遅く、富裕層への減税だけ行い、最低賃金引き上げには反対する。ブッシュは現実を見ていない、と。


ST AUG 14, 2002 WED

Financial markets need regulating

By GEORGE SOROS

IMFは先週、市場が予想したよりも大規模な救済融資をブラジルに向けて行った。しかし、ブラジルの将来の危機はまだ去っていない。当初の買いが終われば、ブラジルの金利が長期的な支払を維持できない水準で決まった。基準金利はドル建で約22%にも達し、ブラジルの債務はGDPの60%もある。

IMFはブラジル政府に、債務への利子支払を除いた財政収支を3.75%の黒字にする緊縮予算を求めた。しかし、これは明らかにブラジル債務のGDP比率が悪化するのを防げない。特に、高金利が不況をもたらすなら。こうした融資では解決にならない以上、国際金融システムの根本的な欠陥があると理解すべきだ。

市場原理主義者たちの影響で、IMFは加盟国すべての利益を満たしていない。最近は、いわゆるワシントン・コンセンサスにより、自己調整的な金融市場への信頼がIMFと世銀を支配している。しかし、その確信は間違いだ。

金融資本が地球規模で移動し始めて以来、危機に次ぐ危機が、IMFにますます大きな救済融資を求めるようになった。市場原理主義者は、これをIMFの救済融資によるモラル・ハザードのせいにする。1997年のアジア危機以後、IMFはbail-outsから 'bail-ins'に重点を移した。すなわち、新興市場向けの国際融資により大きなリスクを負わすのである。その結果は、世界の周辺よりも、中枢の経済に資本が流入するようになった。

もし安定性を確保するためなら、金融市場は金融監督と最後の貸し手を必要とする。われわれの均衡を欠いたシステムは、国際金融市場を保護するように設計されており、周辺部の新興経済の安定性を保護するようにはなっていない。それゆえ新興市場への投資は、リスクと報酬との比率が不利になっている。

問題が分かれば、解決策も見つかる。ワシントン・コンセンサスでは、債務を制限内に抑えるには財政黒字がどれくらい必要か、を問う。金利が高ければ、必要な財政黒字も増える。ブラジルの金利が22%で成長率が4%なら、債務のGDP比率を高めないために必要な黒字は4.8%になる。それは全く不可能だ。

正しい質問はこうだ。どの程度の金利が合理的な成長と整合的か? プライマリー・バランスで財政黒字が3.75%というのは上限であって、実質金利も10%より高くてはいけない。次に問題は、どうやって金利を下げるか? である。そのためには国際的な融資の促進や保証が必要だろう。リスクを耐えられる範囲に抑えながら、モラル・ハザードを最小にする手段を見つけることが、世界の任務である。

私は、IMFが巨額の融資をするより、開発諸国の中央銀行がブラジル国債を市場で割り引くべきだと思う。ブラジル債券は買われて、最後の貸し手があることで、信頼を取り戻す。市場価格が上昇する範囲でしか中央銀行は割り引かないとすれば、リスクは最小化されるだろう。商業銀行はすぐにブラジルに融資枠を設け、輸出の回復を助ける。この提案は今の救済融資が失敗してからでも遅くは無い。

ブラジルのような政治条件では、市場は債務の組替えやデフォルトを予測し、その行動は直ちに自己実現的になる。だから金融市場はそれ自体の対策に委ねられないのだ。


IHT Wednesday, August 14, 2002

Lessons in economics from Latin America

Charles Wyplosz

12月にアルゼンチン経済が崩壊した際、伝染は起こらないはずであった。ワシントンはわれわれにこう言った。ラテン・アメリカ諸国は市場を自由化し、財政状態を改善し、銀行システムを強化したし、為替レートも自由化した、と。金融市場もそのことを熟慮してから、ついに評価した。今や、ラテン・アメリカ中に旧式の伝染が起きたわけだ。多分、回避するには遅すぎる。IMFがブラジルに300億ドル融資しても。

市場は「新しい」問題を見つける。ウルグアイは4年続きの不況。ブラジルでは大統領選挙が近い。市場がラテン・アメリカを見れば見るほど、心配の種が増える。他の投資家はもっと心配していると考えるだけで、資金をこの地域から引き上げるような予防措置が始まるのに十分である。地元住民も心配し始めて、銀行は取り付けに遭う。銀行が破綻すれば、地獄の扉が開く。われわれは、今度こそ、少し賢くなる。

ワシントンに、第一の教訓。経済・金融自由化は良いことであるが、長期的にそう言えるだけだ。短期では、危険でもある。自由化はその国の多くの弱点を、しばしば情報の乏しい、せっかちな市場の判断に委ねる。しかも政府の統制力は大きくそがれてしまう。そして市場に沿った政策が好きなIMFなどが背景に潜む問題を見落としてしまう。

本当は、自由市場経済が円滑に機能するために必要な経済的・法的な基幹制度を構築するのに何十年もかかるのだ。この「素晴らしき新世界」を調整できる政治システムの構築にはさらに時間がかかるだろう。新興市場諸国にはまだまだ多くのなすべきことがある。アメリカの制度をまね、アメリカのように経済を運営せよ、と求めるのは、現実的でないばかりか、犯罪的でさえある。

究極の神聖な為替レート制度を求める地元の政府に対する、第二の教訓。すべて可能な制度はすでに試された。固定制。クローリング。フローティング。ドル化。カレンシー・ボード。そのどれもが成功しなかった。

しばらく固定制が試みられた。それは物価のアンカーを示し、ワシントンで伝道された金融的・財政的な規律に従う正しい刺激となった。しかし危機が襲ってから、その規律がほとんどの国で曖昧になっていることが分かった。今度は変動制が政府に持てはやされる。ショックの吸収に最適だ。しかし実際は、多くの国が為替レートを放置できない。彼らはれ浮動的レートで貿易や金融に問題を生じることが怖いのだ。彼らは固定制を望み、同時に固定されないことを望む。

不可能だ、とあなたは言うだろう。よく考えてみれば、ラテン・アメリカで為替レートの安定性が求められるのはドルとの関係である。しかし、アメリカとの取引はこの地域の貿易の4分の1でしかない。他の4分の1はヨーロッパと、それ以外のほとんどはラテン・アメリカ諸国間で取引されている。為替レートを安定化するには、ラテン・アメリカ諸国間で互いの為替レートを直接に安定化するのが良い。ドル本位制は、これを行う無駄な回り道だ。

今や、ラテン・アメリカ人はアメリカ・コンプレックスを克服し、地域の解決策を摸索するべきだ。そのためにはヨーロッパで30年間行ってきたことを見れば良い。EMSで通貨協力を促し、相互支援と同胞のピア・プレッシャーが規律を強め、より深い地域的金融リンクを完成させることで、ドルの介在を排除したのだ。

いつかラテン・アメリカも地域の共通通貨を持ち、永久に為替市場の猛威という亡霊を追い払えるだろう。しばらくは、域内のレートを固定して、ドルとユーロに対しては共通の変動レートを採用すればよい。

(コメント) Robert J. Samuelsonは、ブラジルのデフォルトを回避すべきだ、と主張しています( “Can Brazil Be Saved?” WP Wednesday, August 14, 2002)。なぜなら、ブラジルがデフォルト下場合のアメリカや国際金融システムへの影響は莫大だからです。しかし問題は、債務が急速に増えていることです。その原因は財政赤字ではなく、これまで国債を売るために行った外国投資家への高金利や国内投資家へのドル価値保証です。19%の金利は成長を越えて債務を増やしますし、ドル価値保証は減価による債務の膨張をもたらすでしょう。左派候補の躍進や民間銀行の融資引き上げは、IMF融資の効果を掘り崩します。

Brazil's troubles FT August 15 2002)が指摘するように、J.Williamsonの示す可能性、すなわちブラジルの金利を下げることが成功の鍵だ、というシナリオは、@左派候補の協力と、AIMFと政府が作成する、長期的な政策についての明確な方針を必要とするでしょう。


NYT August 16, 2002

Mind the Gap

By PAUL KRUGMAN

日本経済はバブル崩壊後に、どの程度縮小したか? これは間違いやすい質問だ。日本経済は縮小しなかったのだ。この10年間たった2年しか減少せず、平均では年1%で成長した。

しかし日本は正真正銘の不況にある。なぜなら成長が余りに遅く、生産できる水準と実際に生産している水準とのギャップが大きく開いてきたからだ。この「産出ギャップ」のせいで、失業が増え、デフレが進む。低成長は、実際に産出が減少するのと同じように重大問題だ。

では、単純な問題に移ろう。同じ分析から、アメリカについて何が言えるか?

アメリカ経済の「潜在的産出量」とは、完全雇用で生産できるものを意味するが、1990年代後半の生産性上昇により、最近は年3.5%で増加している。しかし、数週間前に発表された修正値に拠れば、実際の成長は過去8つの四半期で7つに関して潜在量を下回った。

通常の見解では、昨年は短く浅い景気後退にあったが、すでに回復は始まっている、となる。しかし、産出ギャップは違っている。本当の問題は、GDPが産出ギャップを減らすほど十分に早い成長を開始するのはいつか? ということだ。今までのところ、その徴候は無い。

われわれの不安の原因はわかっている。バブルが残した過剰生産力、過剰債務、そして企業スキャンダルである。速やかに手軽な回復が来ると期待すべきではない。90年代後半のアメリカのバブルは、80年代の日本のバブルと同じくらい大きかった。2年間の幻滅は、日本がそうであったように、5年、10年と長引くのか?

「われわれは日本人と違うさ!」という大合唱が起きるだろう。ご飯に漬物で、朝飯を食うわけではない、という点で、私も賛成だ。しかし私は、いくらか胸騒ぎがする。

私がはじめて日本問題に専門家として没頭し始めた頃、4年ほど前になるが、日本の停滞する10年間がアメリカでは起こらないだろう、という理由を暗黙の注意項目として作った。1.Fedは金利を下げるだろう。2.アメリカには財政黒字があるから刺激策を採れるだろう。3.アジア型の企業不信は起こらないだろう。4.ストック・バブルはあるが、不動産バブルは無いだろう。

私のリストの最初の3項目はすでに撃ち落された。いまや4番目も危ない。住宅市場のバブルを心配する声が高まっている。住宅価格は家賃よりも急速に上昇し、人々は住宅としてよりも投機対象として売買しつつある。その高価格についての説明は、どんどんナスダック5000と似てきた。

最近、連銀が日本の経験を分析したものの中には、日本が90年代に犯した重大な過ちは、「デフレ型不況を予測できなかったことではなく、景気の下振れリスクに十分な保険として、事前に通貨政策を一層緩和しなかったことである」と書かれている。Fedに言わせれば、「もし可能性としてでもデフレが考えられるなら、今すぐ経済に貨幣を注入せよ! やり過ぎてもかまわない。」ということだ。

では、なぜ火曜日に利下げしなかったのか? 「グリーンスパン さん?」(日本風に・・・)

(コメント) FLOYD NORRIS “After the Bubble: Are Low Rates Enough?” NYT August 16, 2002も同じ論点を示しています。しかし、結論は何か、分かりにくいです。金利を下げても投資は起きず、住宅価格が上がるだけだ。だから、さらに減税しては? と言うのかもしれません。

もし住宅バブルと景気悪化が問題であれば、金利を下げて住宅購入に課税すれば良いでしょう。また、ブッシュ政権の減税盲目を、軍事や企業ではなく、社会保障や雇用拡大に変更すれば良いのでは? もしグリーンスパン議長がブッシュ氏と話し合えるなら。


WP Friday, August 16, 2002

Which Path for East Asia?

By Hilton L. Root

パウエル国務長官のアジア訪問は、アメリカによるテロとの戦いに対する支援を確認するものであった。しかし、それは逆に、アメリカがこの地域への関心を低下させたような印象を与えた。ブッシュ政権は、1997年の東アジアにおける金融危機を過小評価したように見える。この地域は、一方では、アメリカの強い関与無しにはやっていけないが、同時に、中国の指導力を受け入れること無しにやってもいけない。

ブッシュ政権は、外交において、東アジアと中東との違いを知っておくべきだ。中東や南アジアでは指導者たちが地政学的目的のために国民の福祉を犠牲にした。しかし、東アジアの指導者たちは成長と平等を強調し、経済的な成功を政治的正当性の根拠としてきた。彼らは健全な成長に向けた構造変化を追求している。労働市場を開放し、知的財産を保護し、汚職を減らし、インフラ整備計画の受注や契約を改善し、高付加価値産業に投資を誘致したいのだ。この地域の前提とは、政治的安定性は成長加速に依存する、である。

中国は、今や子の東アジアの公式を指導し、地域の経済的アンカーとして台頭した。多くのビジネス指導者たちが、日本よりも中国を地域の安全において信頼できる国だと考えている。アメリカも、この地域の経済的安定を強く訴えなかったことで、中国が指導力を高めるのを許した。

アメリカの政策担当者たちは、日本の指導的役割がこの地域で非常に怪しくなり、1997年の危機で地域の勢力均衡が移行し始めたことを、理解しておくべきだ。東アジアの指導者たちは、日本の銀行が大量に資本を引き上げ、1997年の危機を激化させた、と思っている。日本政府は、必要なら、たとえ円を大幅に切下げても、地域の必要を無視して、日本の経済的利益を守るだろう、と認めている。

他方、中国は日本が去ったことで空席となった指導者の地位を満たしつつある。97年の危機では固定レートを堅持し、中国が切り下げを拒否したことで競争的な切下げの進行を防いだ。今や、中国がこの地域の自由貿易交渉を指導し、北京は地域の将来の成長とあらゆる面で結びつきを強めている。

アメリカの政策担当者たちは、中国のWTO加盟による影響ばかりを心配している。この地域と日本との貿易シェアは安定しているが、中国との貿易は急激に増加している。さらに、インドネシアの天然資源や、タイの半導体産業など、重要な投資によって中国の影響力は強められた。これに比べて日本の繁栄は、アジア経済よりもG7に依存するようになっている。日本の海外投資はヨーロッパと北米に集中し、ASEANの輸出に占めるシェアはアメリカよりも小さく、海外生産比率はアメリカやドイツよりも低い。

中国がこの地域の民主化を妨げると心配する者も多いが、日本も民主化に対する支援は曖昧であった。日本政府は、民主化支援の点で、この地域に強固な民間機関の設立を重視してこなかった。価値の共有された世界では、貿易交渉を文化摩擦から分離できるが、日本は地域の統一を築く重要な機会を逸したのだ。他方、中国は、日本以上に企業統治と株主の権利を重視し、また外国資本に経済を開放する点でも日本より前向きである。

もし東アジアに進行している構造的な経済変化を十分に意識するなら、アメリカの政策はもっと効果的になる。中国の指導者たちが、世界貿易システムへの円滑な統合化は将来の経済安定と雇用拡大の鍵である、と理解しているなら、アメリカの政策の中心は強力な国際経済機構において中国を責任ある行動に導き、その利益を享受させることだ。

これは中国を支持して日本を犠牲にすることを意味しない。東アジアは、アメリカが中国と日本に並んで座る三極協調体制を最も望んでいる。それこそが、将来の安全と繁栄をこの地域にもたらすから。

(コメント) CHING CHEONG “A Timetable for war” (ST AUG 18, 2002 SUN)を読めば、中国と台湾との間で軍備拡張と衝突の危険が高まっていることも分かります。北京政府の脅しにもかかわらず、台湾政府は2008年に独立を宣言する時限装置のスイッチを入れた、というわけです。その時までに、中国はアメリカの軍事介入を許さないような防衛・報復能力を構築し、台湾への軍事侵攻を計画するでしょう。たとえ全面戦争の影響が中国南部の5地区、GDPの40%、輸出の60%を危険にさらすとしても? また、一説には500億ドルにも達すると推計される貿易赤字が3000億ドルの外貨準備を消滅させるまで、6年間は戦い続ける!?


WP Sunday, August 18, 2002

If We Must Fight . . .

By Zbigniew Brzezinski (national security adviser to President Carter

アメリカが戦争するには、正しい方法と、間違った方法とがある。アメリカやその同盟国が攻撃された場合、アメリカは必ず反撃する。しかし、脅威に関しては非常に判断が難しい。アメリカは、世界の圧倒的大国として、また国際システムの長期的な成長に照らして、その行動の結果を熟慮しなければならない。すなわち、世界の覇権国として、国際安全保障のより責任あるシステムを育てるために、アメリカはその戦争を正当化できなければならない。

(1)大統領自身が議会で演説し、注意深く、理性的に、国民に向けて脅威を説明しなければならない。

(2)アメリカの主要な関心は、サダム・フセイン個人ではなく、大量破壊兵器でなければならない。また、従来の抑止政策が無効になったことを説明すべきだ。

(3)アメリカはヨーロッパと協力して、イラクへの査察体制と「ゲームのルール」を定めなければならない。

(4)アメリカは中東和平推進のために両者を強く説得しなければならない。

(5)同盟国や関係諸国、特にアラブ諸国と、イラクの戦後体制と復興に関して話し合わねばならない。

その上で、アメリカは間違った戦争を進めてはいけない。

(1)アメリカや世界の世論を無視して、大統領個人やその顧問たちだけがカメラの前で決定するのは間違いだ。

(2)一部の政府外交委員が示したような、恐怖を煽り、デマゴギーを吹聴する言動は間違いだ。

(3)戦争は突然開始してはならず、イラクが国際ルールを受け入れない結果として始めるべきだ。

戦争はイラクだけの問題では無い。それは国際的なシステムの性格を決め、その中で最も強力な国が担う役割を決めるのだ。ホワイト・ハウスもアメリカ国民も、敵は何が起きても侵略者アメリカを責める、という事実を忘れてはならない。しかし、尊敬される正当な強制力なしには、世界の安全保障が深く傷つくのだ。アメリカはこの論理に従い、いつ、どのような条件で、どうやって軍事力の使用に関する指導性を発揮するのか、決めねばならない。

(コメント) スコウクロフトやキッシンジャーのような元国務長官たちがイラクとの戦争をどう見ているか、といえば、戦争しない場合のリスクを考え、大量破壊兵器や核兵器開発の証拠を求め、気に入らない国際合意を無視することは許さない、などです。

Morton Abramowitz “Foreign Policy Infight . . .” (WP Monday, August 19, 2002) は、アメリカ外交政策の問題点として、過大な責任、政策をめぐる内紛、短期的関心による長期計画決定、を指摘します。ブッシュ氏は、9・11以後、外交政策を政府の重点項目にしましたが、その当時の課題や条件は単純でした。それが今では、はるかに巨大で複雑なものになっているのです。

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The Economist, August 10th 2002

Taiwan and China: Full of sound and fury

古代の中国では、平原に敵国とともに軍隊を集め、喚声や武器を打ち鳴らして優位を決め、実際の戦闘は行わなかった、と言う。北京と台北の両政府が非難し合っているのも、それに似たものかもしれない。

なぜ台湾の陳総統は、今ごろ、そんな発言をしたのか? それは彼が政権に就いてから、北京政府に譲歩したにもかかわらず、政治的・軍事的な圧力がかけられ続けていることに強い不満を示したかったからだろう。このままでは、彼自身が政党における地位を失いかねない。

彼の発言が適当であったかどうかは議論されるが、その内容は全く正しいことだ。中国と台湾は現実に二つの国家であり、北京政府がどんなに嫌がらせをしても、WTOやAPECはそれを認めている。2000万人の国民が選挙で総統を決め、11億の中国人が持てない権利と繁栄を実現している。

台湾を武力で威嚇することは、中国をミロシェビッチやサダム・フセインの同類にする。中国政府がそのような言動を止めるまで、中国は文明諸国の共同体に参加できない。


Economics focus: Argentina’s bottomless pit

解決策の決め手が無いアルゼンチンについて、カレンシー・ボードの変型が提案されている。アルゼンチンは、一方で切下げなければ成長できない。しかし、切下げはドル建の債務を支払不能にする。さらに、そのままではドル預金の負担から銀行システムが完全に破綻し、ドル建債務を負った企業も倒産する。切下げても、デフォルトでも、アルゼンチンは再生しない。

そこで、下院合同経済委員会のKurt Schuler による構想では、ドル建預金を元のドル額で支払う。しかし銀行の債務者は、その債務額を現行レートでペソ化することにより得られる利益の一部を諦める。あるいは、預金の一部を長期の解除計画の下で凍結し、銀行の資産債務ギャップを抑制する、と。

さらには、世界銀行のAugusto de la Torreも、ドル化の欠点を指摘する。なぜなら、物価や賃金が十分に弾力的でないから、為替レートは実勢を反映しなくなるからだ。しかし、ドル化による金融規律は重要である。そこでde la Torreは金融的なドル化、すなわち国内取引向けの交換不能ペソと並んで、貯蓄用にはドルを認めるように提案する。それにより、ペソの激しい減価と、ペソ建の賃金や物価を利用して、政府は債務の多くを帳消しにでき、競争力も回復する。

考え方としては上手く行きそうだが、アルゼンチン国民を説得あるいは強制できないだろう。