IPEの果樹園2002

今週のReview

8/19-8/24

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もらってきた鈴虫の卵が孵り、玄関で、涼やかな羽音を立てています。他方、洗面所にはハムスターが夏場を乗り切り、懸命に小さなルーム・ランナーを回転させています。また部屋の隅では、小学校が休みの間預かった亀が繰り返し脱出を図って、背伸びをしては倒れています。私が夏の暑さを非難し過ぎたせいで、毎晩、こんなに早く秋が来ます。

友人たちで集まって、<世界資本市場>について議論しよう、ということになりました。かの有名な文句、「もし私が生まれ変われるなら、ローマ法王よりも、アメリカ大統領よりも、資本市場になりたい!」と言わしめた、あの瞠目すべき世界資本市場に関する合宿です。

どれほど合理的な説明が用意されようとも、それは歴史的な存在です。どのような冒険商人たちが、あるいは両替商や民族分散の歴史が、世界資本市場の起源であったのかは知りません。しかし、おそらくそれが意識されるほど絶大な力を示すようになったのは、国家による植民地経営や軍隊の派遣、大富豪や銀行家たちの海外投資物件探しなどが、緊密に統合された世界市場のイメージを確立した社会においてではないでしょうか。

そこで、同時に、確立された金融取引として、国際金本位制の基礎も形成されたのです。国際的自由主義の時代、国際収支不均衡の自動調整メカニズムや、イングランド銀行のオーケストラが奏でる世界金利格差の伝達・調節システムなどは、国際投資が合理的・安定的で、各国に成長の加速と円滑な政策転換を支援する「魔法の杖」を授けてくれたように見えたのです。

金融市場の機能がそれほど理想的であれば、ヒットラーのような狂信者や、地元の利益ばかりを優先する頑迷な地方政治家さえいなければ、あのような大恐慌や世界戦争は起きなかったのでしょうか? いずれにせよ、通貨危機や銀行システムの破綻を完全に防ぐには、その原因についての理解も、関係者や政府が実際に協力するためのシステムも、不十分でした。

今も繰り返される危機のメカニズムが何なのか、と思うとき、世界資本市場のもう一つの側面に注意が向かいます。市場や国際通貨システムが決して合理的でも、中立的でもなく、特定の処理の強制や不公平な分配、社会的・国際的なコストの転嫁をめぐる激しい争いである、という側面です。通貨危機を解決できるかどうかは、権力の問題であり、それによって誰の利益が実現されるのか? ということも決まります。すなわち、ローマ法王でも、アメリカ大統領でもなく、<世界資本市場>が決めるのです。

IMFのカンファレンスをまとめた本の編者として、KenenとSwobodaが次のように指摘しています。「国際金融システムのアーキテクチャーを強化するために特別な提案が多くなされているが、その根本問題は新しいものではない。」すなわち、財や資産の自由な国際取引、成長の加速と平等な富の分配、システムそのものの安定性を確保すること、です。そのためには調整コストが分担される仕方を決め、望ましい調整のスピードを決め、システム全体にも各国にも最善のアンカーを決めなければなりません。

世界資本市場が支配する社会では、主要通貨の金融市場と、通貨・金融危機回避の絶対的な要求が、これらを決めると思います。そして、主要国の経済が安定的な成長を維持し、世界が自由な取引を前提して、不均衡を円滑に金融できる状態は、常に続くわけではない、ということを貧しい小国ほど痛感しているでしょう。投資家たちの心理的な狂騒や沈滞に対応でき、政治家たちの恐喝や裏切りを許さないような、公平で健全な国際システムを望んでいるはずです。

それにしても、この「悪魔の碾き臼」を回すのは誰か? という点で、アイケングリーンはポランニーと正反対の立場なのです。

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg, FEER:Far Eastern Economic Review


FT August 5 2002

The price of a common currency

By Horst Siebert

(コメント) Siebertは、「成長と安定性のための合意」を破棄することに反対します。なぜならユーロの価値が安定していることが、この政治同盟の条件であるからです。もし、各国が自由に赤字を増やし、ある国は長期的に返済が難しいと市場から疑われるなら、その国は通貨同盟から離脱する(もしくは追放される)危険があるわけです。

通貨同盟は、金融政策を統一する一方で、財政政策は自由にしておくべきではないか、という主張にも、Siebertは反対します。なぜなら、この「合意」が無ければ、各国はフリー・ライダーとなる誘因を持ちます。自国の財政赤字を増やしても、金利や通貨価値の下落には反映されないから、ポルトガルのように、とんでもない経常赤字を出しても無視している(それは財政政策の引き締めが不十分である)、と。

彼は、無責任な財政政策が何をもたらすかは、1999年のブラジル通貨危機を見ればよい、とも言います。Minas Gerais州の知事が、州の赤字を支払わないと宣言し、ブラジル通貨の価値が半分に暴落したのです。ドイツ国内では社民党内部のラフォンテーヌの反対を退けたドイツも、ヨーロッパ・レベルで通貨の安定性を確立する戦いを続ける必要がある、と。

この主張は、「合意」成立の趣旨を反芻しているだけで、それが景気循環に対する安定化への制約になっている、という批判に応えていない、と私は思います。


NYT August 5, 2002

Easing Its Stance, U.S. Offers Loans to Uruguay

By RICHARD A. OPPEL Jr.

BBC Monday, 5 August, 2002, 21:19 GMT 22:19 UK

O'Neill offers 'strong support' to Brazil

(コメント) ブッシュ政権は、通貨危機に対する救済を行わない、という態度を軟化させ、ウルグアイに対して15億ドルを上限とした短期融資を行って、月曜日までに銀行を再開させる、と発表しました。それは、これまでのクリントン政権批判から、ブラジルの危機にも波及しかねないウルグアイへの繋ぎ融資に関しては承認する、という姿勢へと、修正したわけです。繋ぎ融資であるから、と言うのが、財務省の弁明です。選挙で「救済融資を行わない」と公約するのは簡単だが、実際に実行するのは難しい、と。

アルゼンチンも最悪の時期は過ぎて、ドゥハルデ大統領も大過なく事態を収め始めたように見えます。そこで、アルゼンチンやウルグアイに比べて、もっとも望みのある改革派の政府を支援するために、ブッシュ政権はブラジルを救済しようと決めたわけです。ウルグアイは、その方針転換の前哨戦でした。


WP Monday, August 5, 2002

A Go-Go Approach to Globalization

By Sebastian Mallaby

ブッシュ政権の外交政策は、ペンタゴンと国務省の間で分裂している。国際経済政策も、一方では脇に退いて救済融資や援助を批判する財務省と、ターボ付きの行動主義を実践するRobert Zoellickのアメリカ通商代表部との間で、分裂している。

過去18ヶ月間で、鉄鋼ロビーに対しては保護関税の譲歩を行ったが、世界貿易交渉を開始し、議会から貿易促進法案を獲得するという、クリントン政権が行えなかった二つの前進を示した。世界貿易交渉は議会を反発させるから、貿易促進法案の通過は不可能だ、という批判に抗して、ゼーリックは両方とも実現した。

ブッシュ政権の経済チームはほとんど反動的である。援助を削り、通貨危機を放置する。オニールは国際破産法の整備に前向きであったが、IMFがこれを正式に取り上げようとすると、財務省が拒んだ。クリントンの時代の財務省が完全にIMFの思考を掌握していたのに比べて、今の財務省は混乱している。

ゼーリックはこれらと全く違う。彼は反動的ではなく改革推進派である。練達の策士というより、明敏なやり手である。9・11から援助の拡大まで、財務省の転換には6ヶ月が費やされたが、ゼーリックは同じ転換を9日でやった。9月20日の論説で、ゼーリックは繁栄を貧しい国に広めることがテロとの戦いで彼らをアメリカの見方にする、と主張した。この説明に、保護主義的な民主党議員はテロリストの仲間扱いされた、として反発した。しかし、ゼーリックはこんな批判を気にしない。

ブッシュ政権の経済チームは企業スキャンダルの波に翻弄された。昨年、ゼーリックは同じような貧困国のエイズ治療薬問題に直面した。しかし、彼は即座に抗議運動の正しい部分を認め、製薬大企業を攻撃した。ホワイト・ハウスの社交筋は反発をこらえた。しかし、批判など気にするな。もしゼーリックがこの問題を解決しなかったら、特許制度に憤慨する途上諸国は世界貿易交渉を葬っただろう。

悲観論をよそに、ゼーリックはその上を行く。貿易促進法を得た彼は、世界貿易交渉と、FTAAのような地域協定と、二国間自由協定を、すべて追求する。優先順位は無く、そのすべてだ。

FTAAだけでも通商代表部の手に余るというのに、いくらなんでもそれは仕事が多すぎるだろう。しかし、アメリカが指導すれば事態は動く。アメリカの指導力こそが、世界の他の地域に行動を引き起こすのだ。もし中央アメリカ諸国がゼーリックに貿易協定を求めれば、それは地域・世界貿易協定を推進し、アジアがゼーリックによって南米の議論で前進があると見れば、WTOで乗り遅れるのを心配するだろう。

これはまったく野心的過ぎる。反対したいなら、すれば良い。しかし、ゼーリックに逆らう者は、最近、ことごとく失敗したことを忘れてはいけない。


The Guardian, Tuesday August 6, 2002

The logic of empire

George Monbiot

(コメント) ブッシュ政権の一方的な戦争の選択、国際法の無視、同盟関係の拡大・整理、を見れば、筆者であるMonbiotのように、これは抵抗されるまで支配を拡大する帝国主義そのものだ、という主張も出てくるでしょう。

アメリカ政府こそ、生物兵器や化学兵器を開発し、秘匿しており、弾道ミサイル禁止条約を反故にし、核実験禁止条約に違反し、CIAを通じて外国の首脳を暗殺させ、小火器の禁止を妨げ、国際刑事裁判所を拒み、国連の拷問禁止協定を発効させずにGuantanamo湾の基地を外国の報道関係者に見せず、安保理の承認を得ずにイラクと戦争しようとしています。

なぜ、イラクと戦争するのか? とMonbiotは問います。アル・カイダを支援した、と言うのは間違いでした。大量破壊兵器を隠匿している、というアメリカの証拠は示されません。この戦争は、戦略的な目的の無い戦争なのです。

しかし、ブッシュ政権がイラクを攻撃したい理由はアメリカ国内に多くあります。それはテロとの戦争を続けている証であり、圧倒的に優位な立場にある国民が戦争を好み、国内で問題があればあるほど、ブッシュ氏は戦争したいのです。アメリカの軍事産業が強い利害関係を持っていることにも増して、ホワイト・ハウスを牛耳る超タカ派が永久に戦争を続けたがっているからです。タカ派はイラクに勝利できることを知っています。戦争の準備をすることが彼らにとって重要であり、相手はイラクでもどこでも良いのです。

そこでMonbiotは、イギリスおよび他の先進諸国に、アメリカの一方的な戦争に協力しないことを求めます。戦後一貫して平和を希求してきた、と言うのなら、イギリス政府はアメリカの要求に従うな、と。アメリカは世界のさまざまな国と意見を交わし、国際的な正義に基づいて行動しなければならない。


LAT August 7, 2002 

Uruguay Loan Makes Sense

なぜ救済したのはウルグアイであって、悲惨な窮状にあるアルゼンチンや金融・政治の不安定なブラジルではなかったのか?

それには理由がある。この地域の二つの大国に挟まれて、人口340万人の小国ウルグアイは、ラテン・アメリカで最も安定した、正統的な経済運営を行ってきた国である。スタンダード&プアーズのような格付け機関も信用できると評価し、外国投資家に人気があった。

ウルグアイの問題はほとんど外部からの圧力で起きた。短期の融資が無ければ、自国の銀行口座を閉鎖され、現金に窮したアルゼンチン人たちがラ・プラタ川を越えてウルグアイのモンテヴィデオで現金を引き出すに連れて、ウルグアイの銀行も現金が枯渇するのだ。ブラジルの金融市場が不安定化し、リアルが減価するのも、ウルグアイの銀行を苦しめる。

月曜日にウルグアイの銀行が4日振りに開かれたが、パニックは起きなかった。しかし、問題は終わったわけではなく、ウルグアイとこの地域全体が成長を再開できるかどうか、が問われている。

長期的に地域の成長を促すのは、火曜日に議会が政府に認めた貿易促進法である。これによって自由貿易協定の交渉が容易になった。チリとの合意は成立するだろうし、NAFTAを南米全体に拡大する希望も甦る。


WP Wednesday, August 7, 2002

Brazil and the Powell Doctrine

アルゼンチン経済が昨年末に崩壊した際、二つの期待があった。ひとつは、アルゼンチンが政策を速やかに修正できる。もう一つは、問題はアルゼンチン国内に留まる。しかし、どちらの期待も裏切られた。ポール・オニール財務長官がこの地域を訪問したのは、金融危機の感染が起きたからだ。週末、15億ドルの融資がウルグアイに対して行われると発表され、ブラジルへの支持も表明された。しかし、ブラジルのメルト・ダウンを回避したいのであれば、彼はもっと大胆に行動しなければならない。

まず、アルゼンチンから教訓を学ぶことだ。救済融資を拒むことで政策の改善を強制できるという前提は危険である。この半年間、アルゼンチンでは指導者たちが失策を積み重ね、国際金融から切り離されたことが政策を改善させることは全く無かった。逆に、IMFとの積極的な合意も無いので、政策担当者たちは規律を失い、経済・政治的な混乱を一層深めたのである。それゆえ、教訓として、救済融資を拒んで債務不履行を強制することは最後の手段で無ければならない。

次に、もし救済融資を行うのであれば、気合を入れて、早期に、可能な最大の危機を想定して、大規模にやるべきだ。救済融資が成功するのは、市場の気分を変えるときだけである。信用できない国からは、投資家が資本を持ち出し、金利が上昇するから、政府は債務が支払えない。だからオニール氏の失言はそれほど深刻であったのだ。彼の悲観論は自己実現的である。小さな、しぶしぶ行う救済融資は、普通、意味が無い。救済融資を実施する者は、軍事介入におけるパウエル・ドクトリンと同じ原則を採用すべきだ。すなわち、もし介入するなら、圧倒的な軍事力を用いて介入せよ、と。

最後に、ブラジルが直面する多くの問題に関して、現実的でなければならない。アナリストたちはブラジルのデフォルトを予想し、実際に金利が上昇しつつある。ブラジルは大統領選挙を控えており、外国の投資家を攻撃する左翼的候補二人が優勢である。このことがブラジルに資金を留めるために高い金利を必要としている。ブラジルのような大国で、これらのマイナス要因を逆転するには、非常に大規模な救済融資が必要になる。

ブラジルの緊縮予算や、民間債権者の協力、選挙によって責任ある政府が誕生してから融資の条件を詰めることにして、選挙までは暫定融資を行うこと、などが必要だろう。しかし、オニール氏は二つのことを肝に銘じておくべきだ。彼は救済融資を嫌っている、などと市場に思わせてはならない。むしろ、大規模な融資を本当に行う用意がある、というシグナルを示すべきだ。

パウエル・ドクトリンで南米が救われるとは限らない。しかし、それを無視すれば、メルト・ダウンの危険が増すだろう。


WP Wednesday, August 7, 2002

Mister, We Could Use a Man Like J. P. Morgan Again

By Robert J. Samuelson

(コメント) 少し変わった視点の論説です。企業スキャンダルに飽きて、J.P.モルガンの偉業に何かのヒントを求めたような叙述で始まります。

モルガン(1837-1913)とは、鉄道で儲け、USスティールで儲け、1895年には政府の金準備枯渇を救済し、1905年に銀行・株式危機を乗り越えさせた人物です。彼が個人として担った役割は、現代の連邦準備制度や証券取引員会、財務省や政府の諸機関が担っています。

Samuelsonは、モルガンが現代の公的機関にも劣らない「道義的責任」を持って、投資を行ったと述べています。彼は内外の投資家たちを組織し、鉄道など、経済の拡大に必要な資本を調達しました。彼は自分を投資家の富の守護者であると考え、投資が失敗しても介入によって産業を再生し、信頼できるパートナーに経営を任せました。それは彼個人の利益も実現しました。

こうしたことは1990年代のウォール街では考えられません。投資銀行は紙くずになる株式や証券を売りまくり、結局、失敗する企業合併で株価をせり上げました。ウォール街は投資家の利益を守ることなく、暴利をむさぼったのです。

モルガンは金儲けだけのために投資を選択したのではありません。「最も重要な基準は、品位(評価)である。」と答えています。「それは金では買えないから。」

モルガンは余りに多くの資本を集中し、農民や零細企業の利益に反して、そのためには市場の独占も利用しました。海外投資の価値を維持する金本位制を維持することに腐心し、債務者の眼からは物価下落や借金取立ての元締めであると批判されました。

現代では、モルガンのような個人が富と権力を独占することは許されません。しかし、法律や規制では実現できないものを、彼は体現していた、とSamuelsonは考えます。


BL 08/08 17:10

O'Neill's Free-Trade Message Proves Tough Sale in Latin America

By Mark Drajem and Simon Kennedy

ブラジルでは群集が彼の乗ったリムジンの屋根を棒で叩き、アルゼンチンでは抗議行動の民衆が彼の泊まったホテルを取り巻いた。しかし、アメリカのオニール財務長官が4日間の南米訪問で残したメッセージとは、市場の開放こそ経済成長の鍵だ、というものだった。

多くの南米市民は、不況や失業、債務危機がこの地域に拡大したのは、アメリカやIMFが貿易障壁を取り去り、財政支出を削減させ、国営企業を売却させたからだ、と思っている。ワシントンの官僚たちの中にも、この10年の自由市場と自由貿易が進歩をもたらさなかったことを認める者がいる。ペルーは、電力配給会社の売却を暴徒が阻止してから、民営化計画を縮小した。IMFの助言に従ったアルゼンチンは、経済崩壊後、抗議活動が増加した。ブラジルの有権者は、民営化を批判する野党候補に人気が集まっている。

こうして民衆に市場開放への不満が募っていることが、ブラジルに対してデフォルトを防ぐ300億ドルの融資をIMFが決めた一つの理由であろう。ブラジル国民の20%は貧困層であり、アルゼンチン経済は今年20%も縮小し、5人に1人が失業している。1992年から2000年で犯罪は7倍に増加した。オニール長官の宿泊したホテルを取り巻く群衆のプラカードは告げた。「IMFよ、地獄を取り去れ!」

ラテン・アメリカの経済問題は、政府が支出を管理できず、債務を維持可能な水準に抑制できないことや、経営失敗、汚職によっても起きていることを、多くの抗議運動は理解していない。さらに、アルゼンチンが通貨をアメリカ・ドルに固定したことは、ドルの増価やブラジル・レアルの切下げで輸出をできなくした。

とはいえ、米州開発銀行の研究が認めるように、緊縮財政と貿易障壁の除去は、成長の加速や貧困解消という期待された成果を上げなかった。多くの場合、政府は市場開放を正しく管理できなかったのだ。汚職や公金横領が蔓延している。「制度の弱さと分配の不平等が、経済・政治不安の基礎にある」とIMFのケーラー専務理事も警告する。

財務省のJohn Taylorなど、アメリカの高官たちは今も資本主義モデルを擁護する。ブッシュ氏は、南米全体に自由貿易圏を拡大する構想を強調し、オニール長官も訪問先で必ずこれに言及した。

もちろん、これらは「ワシントン・コンセンサス」と呼ばれる政策体系である。1980年代に慢性的なハイパー・インフレーションに苦しむアルゼンチンのような国に対して、しばらく成長を刺激した。しかし、この経済的離陸は期待されたものより少なかった、とアナリストたちは言う。しかも、1990年代に債務を積み上げた結果、南米諸国は外国投資家にますます依存するようになった。1960年代には政治的事件でしかなかったことが、今では市場を震撼させる。

批判的な意見は、成長を遅らせているのはブエノス・アイレスやブラジリアではなく、ワシントンだ、と言う。IMFが高金利や増税を求めて、経済成長を損なったのだ。「貧しい民衆に増税することで繁栄が得られる、と言うのでは説得的でない」と、Bear Stearns Cos.の主任エコノミストDavid Malpass は指摘する。市場改革ではなく高金利が失敗であった。

しかし、オニールは引き下がらない。他の選択肢は無いのか、とブエノス・アイレスで質問された彼は、「他に説得的な答えを私は知らない」と返答した。


NYT August 8, 2002  

Does the Government Have a Role in Stabilizing the Economy?

By JEFF MADRICK

二番底の景気後退がますます懸念されているのに、経済学者たちはどこに行ったのか?

「経済はどの程度、本来、安定的なものか?」という、旧来の問題に帰るときだ。Hyman Minskyの研究を思い出す。彼は1986年の本で、金融市場がある点を越えると過剰投資や投機に至るという理由で、経済はそれ自体が不安定化しやすい、と述べた。

経済の安定性を守るのに、金融政策では不十分だ、と彼は述べた。金利を下げても、企業は生産物への需要が伸びなければ投資しない。それは日本の現状が何よりも示している。むしろミンスキーは、政府が不況に対する防波堤になるべきだ、と考えた。特に、いわゆる自動安定化機構は、その理想的な手段である。

ミンスキーの説が今ほど重要なときは無い、と二人の経済学者(Charles J. Whalenと Jeffrey B. Wenger)が主張した。自動安定化機構とは、たとえば、失業保険や社会福祉のように、不況のときに支出が増え、好況期に減少するものである。二人は、以下の四つの理由で、この機構が損なわれていると指摘する。1.失業保険の縮小。2.福祉改革。3.高度な累進課税の破棄。4.最低賃金の引下げ。

もし9・11で軍事支出や救援資金が増額されていなかったら、不況は一層確実であっただろう。住宅価格や消費の堅調さも続かないだろう。イラク攻撃は財政支出を増やすだろうが、石油価格も高騰して消費を殺ぐ。極端な財政赤字は市場を不安にする。ドル安も、アメリカの貿易収支を改善するが、外国政府の不介入姿勢と景気悪化により、その景気刺激効果は失われる。

政府が経済の安定化に積極的な役割を果たすべきだと考える経済学者たちは、これまで、無視されている。ブッシュ政権の顧問たちのように、株価下落は制約の無い市場が有効に調整できることを示した、というので満足している。何年も金融市場が間違ったシグナルを送り続けて、国民の貯蓄を何兆ドルも失った挙句、こんなことを主張するのはばかげている。ブッシュ氏の減税策も間違いであった。それは自動安定化機構と違って、手っ取り早く刺激となるが、将来も減らされない。むしろ大幅な財政赤字をもたらす。

規制緩和は行き過ぎであったし、経済は時に政府によって税制されるべきだ、と考える経済学者もいる。こうした経済学者がもっと主張すべきだ。


NYT August 8, 2002 

I.M.F. Agrees to Loan of $30 Billion for Brazil

By LARRY ROHTER with EDMUND L. ANDREWS

BBC Thursday, 8 August, 2002

Q&A: Brazil's $30bn lifeline

WP Friday, August 9, 2002

A Rescue for Brazil

FT August 9 2002

IMF bets its future on Brazil

(コメント) オニール氏はブラジルとアルゼンチンとの違いは政策の健全さであると説明します。ブラジルへの予想を上回る融資は、為替市場への介入資金を潤沢に見せるためであり、市場の投機圧力を押さえ込むでしょう。しかし、実際には新しく選出される政府との合意が無ければ動かせない部分がほとんどです。同じ理由で、ウルグアイなども救済してよい、と。

他方、アルゼンチンとの交渉は、銀行の再開を巡るコストの分担であり、債務不履行になったコストの分担問題なのです。合意ができないのなら、一方的に破棄してしまえ、というのでは、アルゼンチンも南米経済も成長できないことが分かりました。アルゼンチンは、国際的にも国内的にも、コスト分担を組織することに失敗し続けています。そしてアメリカは、国際的な債権者が納得できる形でしか、IMFと国際資本市場には再びアクセスできないよ、と繰り返しています。

オニール氏が守ろうとしているのは国際的な銀行のネットワークと自由な投資の世界的基準・条件です。しかし国際金本位制は、民主化と政府の経済目標に関する過重負担によって崩壊しました。ブエノス・アイレスの失業者救済センターを訪問したオニール氏も、「現金をくれ! 現金をくれ!」と詰め寄る群集や、食糧配給に頼る子供たちを見て、説明に窮したでしょう。彼らは仕事がしたいのに、その手段が無いのです。

BBCのQ&Aも、ブラジルにおける民営化への国民の不満や、アルゼンチン経済に特に不利な事情を指摘しています。為替レートの水準やドル化の進展など、アルゼンチンが合意しなければならない問題はブラジルに比べてはるかに深刻です。他方、ブラジルの経済や債務の規模、ブッシュ政権の成立時期とその後の姿勢も、IMF融資に影響したわけです。

WPは、ブラジルへの融資とその条件、それを決めた財務省を賞賛しています。あとはブラジル政府さえ十分な財政黒字を示して市場の不安を払拭し、それによって金利が下がれば、政府も経済も回復できるだろう、と。また、この融資は決して極端な規模ではない、と。

しかし、その楽観は、必ずしも何日持つか保証できません。ブラジルの成長や返済能力は頼りなく、IMF融資によって過度に危険な民間融資や投資も復活するでしょう。IMFは、まさに、巨大なギャンブルを行ったわけです。


ST AUG 9, 2002 FRI

Get set for a totally new China

By KENICHI OHMAE

(コメント) 大前氏は、中国経済の興隆は、かつてのアメリカ経済の興隆に匹敵するものであって、経済のみならず政治的なシステムの改革も急速に進む、と予想します。

彼によれば、その成功の秘密は「中華株式会社 'Chung-hua, Inc'」です。中国政府は確かに世界最大の計画経済を抑えていますが、同時に、急速に拡大する市場経済や地域経済の条件を、政府の任命する官僚たちが守っています。中国の政治システムは、他の社会主義圏のように一挙に崩壊するのではなく、現在の二重経済システムと権力の地域分散システムを続けて行く内に、私たちが驚くような近い将来にも、共産主義の一党支配や計画経済を見直すことになる可能性がある、というわけです。


NYT August 9, 2002 

The Lost Continent

By PAUL KRUGMAN

ST AUG 10, 2002 SAT

Brazil has the right spirit

JOSEPH STIGLITZ

NYT August 14, 2002

A Second Chance for Brazil and the I.M.F.

By JOSEPH E. STIGLITZ

(コメント) この二人がブラジル向けのIMF融資をどう見るかは、当然、興味深いです。KRUGMANのオニール評価は、二つの点で良くなった、というものです。1.南米の危機がアメリカの利益を脅かすことを認め、2.クリントンの反対の事をすればいつでも良いわけではないと認めた。実際、彼は、南米危機がアジア通貨危機の規模を既に越えている、と考えます。

その上で、KRUGMANが今回の融資に嫌な感じを持った理由は、オニール長官の失言は許されないほど重大であったこと、また、この融資で誰が救われたのか、という疑念です。Citigroup とFleetBostonを合わせると200億ドルものブラジルに関わる債権がリスクにさらされていると言います。彼らがブッシュ氏に次の選挙資金を出してくれるはずだ、と。

10年前、ワシントンのカンファレンスでは、南米が市場を開放しさえすれば、どれほど急速に成長できるかが議論されていた。しかし、実際には、そんなことは起きず、分配の不平等化を考慮すれば、貧しい国民が増えたかもしれない、と。KRUGMANは、自分の見解も株価と同じように、市場の実態に合わせるべきだ、と考えます。そして信用を損なった私たちも、自由市場を抑制してでも地域の雇用や成長を促したい、という政治家たちの要求に賛同するしかないのです。南米でアメリカが吹聴してきた自由市場への熱狂を覚ますべきだ、と。

他方、STIGLITZはブラジルの改革が進展すれば、為替レートも債務も決して深刻な問題ではない、と強調します。さらに、Fraga総裁による中央銀行の改革は世界でも見本となるような優れたものであり、金融政策は信頼されている、と。ブラジルの問題とは分配の不平等ですが、この点でも教育の普及や土地制度の改革として、現政権で取り組む姿勢が示されています。

IMF融資への批判にも、STIGLITZは参加しません。ブラジルは、アルゼンチンやタイ、インドネシア、韓国、ロシアと異なるからです。すなわち、変動レート制を採用し、GDPの30%に相当する税収を集め、素晴らしい中央銀行を持っています。IMF融資自体も、アジアに向けて行われたときのような過度の緊縮策を求めていません。景気の動向に合わせた弾力的な条件であれば、もっと良かっただろう、と言うだけです。

要するに、国際通貨制度に内在する欠陥とは別に、ブラジルが進めた市場型改革は素晴らしいものであり、これを救済しなければならない、というわけです。そしてアメリカ政府は、さまざまな保護主義に示された偽善を止めて、市場開放によって彼らを支援できる、と。

もちろん、STIGLITZはIMF融資が銀行の救済にだけ向けられ、貧しい者には関心が無いし、アメリカ政府もIMFもウォール街と利益を共有しすぎている、と批判します( “IMF critic hits out” BBC, 14 August, 2002)。しかし、IMF融資を批判した二人の立場が、ブラジルに関してはこれほど対照的であることに驚かされます。


NYT August 9, 2002

I.M.F. Loan to Brazil Also Shields U.S. Interests

By EDMUND L. ANDREWS

NYT August 11, 2002

Brazilians Find a Political Cost for I.M.F. Help

By LARRY ROHTER

(コメント) この救済融資を実現したのは、CitigroupやJ.P.Morganなど、アメリカの銀行の利益(さらに、ルービン前財務長官が当事者であるCitigroupに属して融資を促した疑いも示唆している)、GMなど、南米に多くの直接投資を行っているアメリカの産業界の利益、自由貿易圏を南米に拡大したがっているブッシュ政権の利益、であったと記事は推測します。

しかも、この融資を含めたアメリカや国際社会からの支援を得るために、左派の大統領候補者は政策を修正し、右派の候補を支援することになります。緊縮政策をさらに強めることは、ブラジルにとって政治的な破綻をもたらすかもしれません。

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The Economist, August 3rd 2002

Trade: Fast track to Doha

7月27日に、アメリカ議会下院は、215対212という僅差で、ジョージ・ブッシュに貿易の「一括交渉権」を与えた。それはクリントン政権が得られなかったものである。まず、昨年11月にドーハで開始された貿易交渉を進めるべきだ。彼の提唱する「競争的自由化」は、二国間、地域、世界を同時に並行して交渉する。しかし、その場合、容易な二国間交渉を進めて、多角的な交渉を犠牲にする危険がある。

アメリカが一括交渉権を得ていないことが、これまで各国の交渉回避に言い訳を与えてきた。その承認に先立つ25日に、アメリカは大胆な農産物の自由化を提案した。アメリカ政府は、EUや日本にとって厳しい、農産物補助金の削減を目指しているが、それはまさにドーハ・ラウンドの目標である。アメリカが動くことで、EU内部の自由化推進国も要求を強める。そして、農産物市場自由化によって発展途上国の支持が得られなければ、世界貿易交渉は失敗する。


Economics focus: Managing the world economy

Kenneth Rogoff

第二次世界大戦の続く中で、ケインズとホワイトが国際金融システムを再編するアイデアに関して冷静に意見交換した様子を再読しながら、私は夜を過ごすことがある。60年余りを経た今、私はIMFで彼らのアイデアを実現しようと試みている。

この先数十年間で特に重要な、六つの問題がある。

1.経常収支の不均衡:IMFは経常収支の不均衡が拡大するのを、特にそれが持続不可能であれば、心配する。そんな必要は無いのか? 急激な経常収支の逆転はしばしば為替レートの激しく破壊的な調整をともない、成長パターンを損なう。だが同時に、われわれは不均衡を減らすことではなく、より大きな不均衡を、適切な方向に維持する方法を見出したいと思っている。

工業諸国で貿易や国際投資に反対する孤立主義者は、その人口構造を見るべきだ。高齢化によって従属人口が増える中で、誰が引退した老人たちに財やサービスを供給するのか? 移民の流入を増やすのも一つの方法である。しかし、一つの望ましい条件は、工業諸国が外国で貯蓄し、開発世界に対して経常黒字を蓄積することだ。この累積した黒字は、今、投資を必要としている貧しい諸国に投資され、その後、人口高齢化がすすめば取り崩される。

2001年の World Economic Outlook では、2030年までに工業諸国がGDPの50%に及ぶ海外資産を保有する、と推計した。その後、この過程は逆転する。こうした莫大な債務に耐えうる国際金融システムはまだ無い。われわれはそれを改善し、貿易の拡大や国際融資契約の手続きを改善するべきだ。

2.政府債務:グローバリゼーションは世界の貯蓄を配分することで利益をもたらすが、他方で、政府の債務返済に必要な税収確保を危うくする。生産要素がますます移動することで、課税するのが難しいからだ。課税される企業や資産家、労働者でさえ、その国に留まる保証は無い。それでも課税できる政府しか、21世紀には債務を増やせないだろう。国内でさえ、政府は主要通貨に固定された形でしか債務を増やせないかもしれない。こうした債務が増えれば、政府は望ましい為替レートの調整ができなくなる。

将来の債務返済を確実にするには、生産性を高めるほかにも方法がある。課税制度の効率を改善するのもそのひとつだ。しかし、その前に、政府は支出に慎重を期し、好況期には黒字を蓄積して、不況時の債務に備えるべきだろう。それはアルゼンチンの教訓の一つである。

3.為替レート:世界の為替レート制度の現状は、バベルの塔の残骸を見るようだ。自由な資本移動の下では、為替レートの固定化もハリウッドでの結婚と同じように短命だ。厳格な資本規制によって固定制を維持した歴史的経験は、決して好ましいものではなかった。金融・財政政策を為替レートの固定化に従属させない限り、通貨の闇市場が栄え、実質的に変動する。結局、闇レートとの差が広がって、資本規制は崩壊し、変動制に移行した。

戦後の歴史は、いわゆる固定制が「裏口から」変動制を招き入れたことを教えている。ところが、その後、多くの国は名目的に変動制を採用しながら、さまざまな理由で、ドル化の一種や、為替レートの変動を狭い範囲内に抑える介入を続けた。他方、ドルと円、ドルとユーロのように、変動を続けた少数の通貨に関して、それを予測するどころか説明することさえも非常に難しかった。

1945年以来、通貨の数も為替レートの数も増え続けてきたが、今世紀後半にそれが逆転し、周辺地域の変動制が減って、おそらく、中心部の2、3の通貨だけが残るだろう。そこに至って、より小さな変動の為替レートをともなうマクロ経済政策の管理が主要な政治経済問題となる。

4.資本規制:アジア危機以前には、IMFは各国の金融管理能力を無視して、早急な短期資本移動の市場自由化を推進していた。今ではもっと慎重になったが、それには多くの理由と難しいバランスの問題がある。

資本規制を行うことは、@発達した金融部門を持つ国では実効性が乏しく、A汚職の源泉となりやすく、B貿易自由化を妨げる可能性があった。それは貿易や外国からの投資を必要としている発展途上国にとって特に重要であった。しかし資本移動の浮動性を考えると、金融的な発展が未熟な経済では、より限定した一時的な資本規制の役割について、一層の研究が必要だ。

5.アフリカ:内戦や旱魃を別にすれば、物価の安定を含む、マクロ経済の安定性こそが成長の本質的な要素である。多くのアフリカ諸国は少数の一次産品を輸出しており、その価格は世界市場で大きく変動する。また政府の歳入も国際援助に大きく依存している。こうした国では制度の確立も不十分であり、そのために貿易や投資を禁じて市場の変動を排除しようとする。結局、そのことがまた非効率や汚職だけでなく、価格による長期変化に対する調整も遅らせる。

6.モラル・ハザードとIMF融資:IMFが融資を決める際に最も配慮するのは、それが工業諸国の税金を使った、形を変えた救済融資である、という批判だ。救済融資としての側面を限定し、その長期的な悪影響を減らすことが、現在、IMFの行うすべての計画で優先されている。

それは単に透明性の欠如ではなく、「IMFモラル・ハザード」論が意味するような問題である。すなわち、債権者はいずれ補助されたIMFの融資で救済されると知っているから、実際のリスクを考慮せずに新興市場の債務者に過度の融資を行う、と言うのだ。その結果、さらに多くの危機が発生し、IMFの財源が不足する。

しかしその前提は正しくない。IMF融資は利子を付けて返済される。豊かな国の納税者がつけを支払う、と言うためには、IMFが繰り返し原本や利子を追加融資していなければならない。そんなケースも見つかるかもしれないが、「救済によるモラル・ハザード」は非常に限られており、大規模に、規則的に行われてはいない。IMFは、時には債権者や債務者を救済することがある。しかし、いつもではない。それに「補助金」など含まれないし、こうした「救済」はIMFの仕事の一部である。すなわち、国際金融システムの機能改善だ。

IMFは、経済のファンダメンタルズに依拠して計画を作る。債権国からも債務国からも、政治的な介入はあるが、持続可能性に関する明確な判断を揺るがせはしない。