IPEの果樹園2002

今週のReview

8/12-8/17

*****************************

自動車のラジオから井上陽水の「夏祭り」という曲が流れるのを聞いて、そのメロディーが頭を離れません。それに、もはやIMF融資は魔法の杖ではない、というメロディーも。

退屈して怒っている末っ子といっしょに自転車に乗り、炎天下の公園でボールを蹴ります。夏祭りの出店で買った文庫本(藤沢周平『たそがれ清兵衛』)を読み、最近できた「やまとの湯」へも行きました。夜は余りに寝苦しく、さて、今日こそ本でも読もうか、と準備すると、クーラーを入れて居眠っている有様です。・・・大変だ、もう夏休みだ。

アルゼンチンの危機はブラジルやウルグアイに波及しました。なぜ、これほどスローモーション映像のように、危機が波及するのでしょうか? バブルに乗った「電脳投資家」やヘッジ・ファンドが衰退しても、アメリカは結局、自分の裏庭で殺戮が続くのを許すはずが無い、というプロの投資家たちの<読み>があったからでしょうか? 実際、ブッシュ氏は、敵への憎しみや経済不安によって軍事的指導力を誇示し、支持率を高めてきたのです。

日本のマスコミは、たとえば「IMF、ブラジル支援:南米危機連鎖は回避」(日経新聞8月9日)のように、ブラジルの危機をアルゼンチンの余波とブラジル大統領選挙の影響である、と説明します。しかし、ブラジルやメキシコが大統領選挙毎に通貨危機を繰り返すことは分かっていたはずです。また、アルゼンチンの危機の波及にしては、そのタイミングが遅すぎるでしょう。

1.   アメリカの景気不安:南米諸国は、アメリカが不況になれば輸出が減り、貿易収支が悪化すると同時に、不況を緩和するために財政赤字を増やしたいと思うでしょう。固定制への信頼は失われ、為替レートが大きく減価することが予想され、資本逃避が増えます。

2.   ウルグアイの銀行封鎖:アルゼンチン危機の波及は、ウルグアイで銀行預金の引き出しが停止されたことで、一気に南米全体に波及しはじめました。

3.   電脳投資家の萎縮:電脳投資家たちが元気なころは、アメリカの資本市場が潤沢で、IMFの救済融資を無視しても危機は無差別に波及しない、銀行の取り付け騒ぎは起きない、と思えたのでしょう。

4.   ドル安:しかし、アメリカの政策関心が移りました。ハイテク・バブルの継続ではなく、イラク征伐によって、新しい政府は政権を維持したいと考えています。そのための石油はロシアや中央アジアから調達し、大幅な貿易赤字にはドル安で黒字国に調整コストを分担させるのが良い、と。

PBSのTV番組では、討論者の対立する意見を漠然と紹介していました。南米の制度は弱く、改革は進みにくい、と保守派が言えば、もっと有効な資金援助を行え、と民主派が応じました。他方、南米の専門家は、アメリカの方針が一貫しておらず、国際的な危機が波及する中では、国内政策も手詰まりだ、と言います。そこで、IMF融資が便利な逃げ道を与えるわけです。

それにしても、この暑さは尋常で無いものを感じさせます。地球温暖化や都市化による地表温度の上昇など、日本でも砂漠化が進んでいるのでは? その自然や絶滅寸前の希少生物とともに、この猛暑で、日本人の温和な<心性>も失われていくように感じます。

暑い中、昼食はそうめんでしょうか? バナナ1本でジムに通うIMFのHubert Neissや、キャロット・スティックとサラダとミネラル・ウォーターで済ますロバート・ルービンの話を読みながら、良くも悪くも、世界的な金融危機を阻止するチームを率いたのは彼らだったと得心します。現在の南米危機には、まだ新しい指揮官や秩序を見出せません。

これは、終わりの無い、間歇的危機なのです。次の危機が中国やアジアに波及するのは、何年先、あるいは何ヶ月か、何週間先?

*****************************

ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg, FEER:Far Eastern Economic Review


NYT July 28, 2002

Broken System? Tweak It, They Say

By LOUIS UCHITELLE

(コメント) 市場の規制緩和と再規制に関するアメリカ国内の論争を紹介しています。

筆者の視点によれば、アメリカの議論は、規制緩和の重要性を支持する主流派と、市場のもたらす危機や貧富の格差を是正するバランス感覚が転換し始めたと見る修正派の間で、分裂しているようです。多くの経済学者たちは、企業のスキャンダルに対しても、規制緩和が間違いだったとは考えていません。

両者を裁定する第三の論点が「強制(実施) enforcement」です。規制するにせよ、市場競争を正しい会計規則や情報公開で行うにせよ、すべての企業がそれを守らなければなりません。ルールの強制力を高めることが、ルールそのもの以上に重要である、というわけです。


NYT July 28, 2002  

D-Day for Colin Powell

FT July 30 2002

Listen to Powell

By Philip Gordon

WP Sunday, July 28, 2002

A Tone-Deaf Economic Team

By Jim Hoagland

(コメント) パウエル国務長官の意見は、アメリカの外交政策に関する重要な決定で、繰り返し政府内部の少数派に留まりました。ブッシュ氏がパウエル長官の意見を採用していれば、アメリカにとっても、世界にとっても、より望ましい結果をもたらしていた、とNYTは主張します。ブッシュ氏の外交において、たとえ方針はパウエル長官の意見を否定しても、その実現過程で彼の協力が重要であることは明らかです。その意味では、今後の政策展開で、パウエル氏が復権する余地も大きい、と言えます。

アメリカが築く国際秩序に、大統領や、そのブレーンたちの持つ理念が決定的であることを思えば、国際世論が彼らの政策論争にも影響を及ぼす仕組みがもっと確立されるべきでしょう。国際的な会議や国際機関の情報公開、政府の説明責任が重視されるゆえんです。

彼の政府内部における「孤立」を、Gordonは、必ずしもパウエル長官の敗北ではない、と言います。しかし、アメリカの国際主義や協調路線、和平戦略が後退していることを示す指標と見なします。パウエル長官の復権を国際社会は待ち望んでいるのです。過去の国務長官たちがやったように、辞任するという脅迫や、少数意見のマスコミへのリークを積極的に利用して、彼がアメリカ外交政策の転換を図ることが待たれています。

他方、金融市場がブッシュ政権の経済チームによって機能麻痺に陥ったことでは、彼らが市場や外部からの批判に耳を貸そうとしないからだ、とHoaglandが憤慨しています。ブッシュ政権になってから、アルゼンチンやトルコがどうなるのか、市場はアメリカ政府の行動を予測できなくなった、と言います。経済チームも交代させるべきだ、と。

あるいはブッシュ氏は、ますます戦争への傾斜を深めるのかもしれません。


IHT/WP Monday, July 29, 2002

An American crisis of unfairness 

Felix G. Rohatyn 

金融界がこれほど憂鬱に包まれたことは無い。1970年代のニュー・ヨーク株式市場の危機がこれに近いだろう。当時も、帳簿をごまかした仲介業者が資本に不安を抱えていたし、イスラエルとアラブとの戦争が石油禁輸に至り、株価は長い低落を経験していた。

今も、こうした要素がすべて揃っている。しかし、疑いをかけられているのはアメリカ実業界全体の誠実さであり、それを支えるシステムそのものである。重役会や会計、投資銀行、メディアが疑われている。われわれがアメリカ特産の大衆資本主義を造り出したときに、これが起きた。

ドット・コムのバブルが弾けて6兆円が失われ、その後、アメリカの株価全体が下落して、直接にか間接的にか、すべてのアメリカ人に影響を与えた。増税、失業、サービスの低下、などが、株価下落による年金や貯蓄の喪失とともに起きた。

<信用>とは、科学ではなく信じると言う意味である。信用はわれわれの市場システムの前提であり、それが失われればシステム全体が損なわれる。株価の下落は信用市場を引き締め、最有力企業でも資金を得られなくする。こうした状況は容易に逆転せず、修復には長い時間を要する。

歳入も減少し、財政黒字、ドル高、債務減少を進めていたアメリカが、長期の財政赤字とドル安、累積債務の国になった。莫大な対外赤字が日に10億ドルの資本流入を必要とする。これはドルとアメリカ経済の強さによって維持されていたが、資本流出とドル安に代わり、いつか国内の金利上昇を求めるだろう。それは成長を脅かし、さらに金融市場を傷つける。

不安定な海外の石油供給に依存し続けていることも問題だが、今、最も重要な論争点は<公平さ>である。株式市場はブームと破綻を必然的に繰り返すが、それはアメリカ人の貧富の格差を拡大する。アメリカ型の資本主義とグローバリゼーションは、ますます貧しい物を収奪する。

テロとの戦いでも、中東和平への関与でも、サダム・フセイン討伐でも、アメリカの道徳的な指導力が問われる。少なくとも、企業を厚遇することを止めて、貧しい者に減税の利益をもたらすべきである。アメリカの民主主義は、自由、公平、と富の創造に依拠していると確信する。われわれが自分や他者の自由を守る際には、富をより多くもたらすだけでなく、公平さの問題が圧倒的に重要である。

安全保障は、現在、最も重要な問題である。しかし、公平さが無ければ、国民は犠牲を受け入れない。


NYT July 29, 2002

A Failure of Democracy, Not Capitalism

By BENJAMIN R. BARBER

(コメント) ウォール街の会計詐欺やブッシュ政権の一方的なグローバリゼーションについて、Barberは資本主義と民主主義を対比します。

市場原理主義は、大規模な国家介入の時代と官僚の支配を戯画的に批判しました。しかし、消費者は市民的な発言力を持たず、市場は民主主義的な権力でもありません。

ホッブス的な一方的暴力の外交政策を、Barberは民主主義の後退であり、ホッブスが描いたような、無秩序で無政府状態の、暴力と欺瞞が基本的な美徳となる「自然状態」への転落と見なします。そこでは人生が「汚らわしく、野蛮で、短い」のです。

アメリカ政府は国際的な合意や国際機関、国際的な法秩序を否定してきました。しかし、民主主義は個人の欲望を満たすだけでなく、社会的な必要にも応えるべきだ、とBarberは主張します。

9・11以後、アメリカ人は「市場のプロ」ではなく、「消防士」や「市長」、「議会」、「大統領」にもっと頼るようになった、と言います。問題は資本主義が、元来、悪徳をもたらすことではなく、市場とグローバリゼーションによって民主主義が弱められたことなのです。


ST JULY 30, 2002 TUE  

Handling the global immigration time-bomb

JEAN-PIERRE LEHMANN

近頃、移民をめぐる論争はその社会的結束に対する影響に注目している。より開放的な政策を支持する者は、高齢化の進展や労働人口の減少を指摘し、生活水準を維持するためには移民が必要だと言う。他方、反対派は、高失業率ですでに苦しんでいる国内の階層が移民流入で不満を高める、と懸念する。しかし、より深い、世界的な視点が必要である。

1800年から1950年に、ヨーロッパの人口は2億300万人から5億4700万人(269%)に増加した。それに連れて大陸は目覚しい経済変化と社会変動、政治的動乱を経験したのである。ヨーロッパからの移民流出は重要な安全弁であった。それ無しには、人口圧力に対して、国家が耐えられなかっただろう。

ヨーロッパからの移民を受けて、ラテン・アメリカでは人口が5000万人、北米で7500万人、オセアニアでも1100万人が増加した。農村の過剰人口が新世界の膨大な開拓地域で土地を得るか、成長する都市の工業労働者となった。もっとも冒険を好み、野心に満ちた者たちは、富と名声をアフリカやアジアの植民地に向かった。

しかし、移民は安全弁となっただけではない。それはヨーロッパに物質的、文化的な豊かさをもたらした。アルゼンチンにおけるイタリアの季節労働者は、送金によって、南イタリアの故郷の農村を窮乏化から守った。世界的な市場がヨーロッパの商品や資本の対して開放された。

同時に、第三世界でも大きな変化が起き、戦後もそれが加速した。インドや中国が独立を回復し、アジアとアフリカでも植民地化から解放され、ラテン・アメリカは工業化した。こうした変化は人口を急増させた。1950年から2050年にかけて、アフリカの人口は800%、アジアは375%、ラテン・アメリカは484%も増加するだろう。この数十年間は、さらに急激な増加が起きる。2000年から2010年に、7億人の若者が発展途上諸国で労働市場に加わるが、それは現在の工業世界の全労働力よりも多いのだ。

発展途上諸国の社会・政治条件が、成長を超える人口増加で、この先、急速に悪化するのは確実だ。今のような移民阻止の政策だけでは、特にヨーロッパで、非合法移民の波を急増させるだろう。それは犯罪や汚職、その他さまざまな弊害を伴う。

この傾向が続けば、より大きな不安定化と、戦争すらも起きかねない。それを管理することはできないが、以下のような方策が破局を緩和するだろう。

1.   豊かな諸国、特にヨーロッパは、発展途上国からの輸出に対する貿易障壁を取り除くべきだ。また、農産物価格を悪化させる補助金を止めるべきだ。

2.   OECD加盟諸国はGDPの0.7%を援助額の目標にすべきだ。

3.   発展途上国へのFDIを増やし、より公平に分散すべきだ。

4.   発展途上国は、その統治の質を改善することに、より大きな関心を払うべきだ。

5.   ヨーロッパは、その境界をより広く開放し、合法的な移民を増やすだけでなく、統合の質を強化すべきだ。

正しく管理されれば、移民の経済的利益は発展途上国だけでなく、豊かな国にとっても重要である。世界の指導者たちは、防衛や保護政策のようなマイナスの戦略でなく、グローバリゼーションの利益をもたらす戦略を追求するべきだ。


BBC Saturday, 27 April, 2002, 00:06 GMT 01:06 UK

Argentines swap pesos for 'Evitas'

BBC Tuesday, 30 July, 2002, 16:02 GMT 17:02 UK

Banking crisis grips Uruguay

FT July 31 2002

Brazil's descent

NYT July 31, 2002  

As Currency Sinks, Brazil Seeks Fresh Aid

By TONY SMITH

BBC Thursday, 1 August, 2002, 12:47 GMT 13:47 UK

Cautious thumbs-up for Chile

(コメント) アルゼンチンでは金曜日に銀行が5時間だけ預金の引き出しを再開したが、すぐにペソが枯渇した、と伝えています。人々は、まだペソを引き出せるATMを捜して、街中をさまよったようです。通貨が枯渇すれば騒乱が起きる、とBBCは伝えています。人々は、さまざまなものを貨幣の代用にし始め、州の発行する債券を「エヴィータ(ペロン大統領の妻)」貨幣と呼んで使用します。レストランの食券まで使用されます。

ウルグアイの銀行が閉鎖された本当の理由はわかりません。アルゼンチン人がウルグアイに保有した預金が引き出されたことに加えて、国民も通貨の減価に不安を感じ始めたようです。銀行からの預金流出はこの半年で33%に達したとか、外貨準備も1月以来76.6%に減少し、為替レートは30%減価した、と言います。引き締め政策によって通貨を防衛することは失敗し、大臣が辞任して、銀行預金を封鎖したのは、アルゼンチンとそっくりです。

FTは、ブラジルの通貨不安を引き起こしたきっかけを、大統領選挙前の混乱に加えて、アメリカ政府、特にオニール財務長官の失言に求めています。アルゼンチンよりもマクロ経済の健全なブラジルに対してはIMFが不安解消のために支援すべきであったのに、救済融資やモラル・ハザードに関して、同じ否定的評価を示したからです。しかしIMFの支援が確実であれば、確かに、現政権に対する反対派が、通貨の減価を今のうちに促しておくほうが、自分が政府を担った際には有利だ、と考えるかもしれません。

オニール長官の"Fox News Sunday"における発言は、アメリカ政府は、資金がすぐにスイスの口座に振り込まれてしまわない、と確信できない限り、救済融資に反対だ、というものです。こうした脅しのような高圧的表現が、初めはルービン氏の金融市場重視に対して新鮮な政策転換をアピールしたはずですが、今は市場の反発を強めています。

チリはアルゼンチンの通貨危機にもかかわらず市場改革の成果として安定性を維持してきました。しかし、周辺諸国が次々に通貨価値の下落と不況を深刻化させれば、チリだけがそれと関わり無い位置に留まれるはずがありません。競争的な通貨の切下げや資本流出、それを抑制するための高金利や緊縮政策が、次第に経済の健全さを奪いました。失業率は9%で、最低賃金の上昇が「労働市場の弾力性」を損なっている、とIMFは警告しています。

しかし私は、通貨価値の安定化や債務の返済のために、成長や雇用を犠牲にし、たとえそれでも国際的にデフレが波及すれば、ますます各国でデフレを強めるしかないとしたら、こんな国際通貨秩序を維持することが、一体誰の利益になるのか? という不満を感じます。


NYT July 31, 2002

$6 or $60

By THOMAS L. FRIEDMAN

ペンタゴンがイラクを攻略する計画について読む機会はいろいろあるが、もう一つ、イラク攻撃で計画しておくべき作戦は、世界の石油市場がどうなるか、である。戦争の行方によっては、石油価格が高騰し、現在の3倍、1バレル60ドルにもなるだろう。しかし、1バレル6ドルになるかもしれない。そしてOPECが弱まり、石油の高価格に依存するアラブの独裁者たちが衰退する。

これはサダム・フセインを排除することとは別問題である。イラク攻撃は、トラ・ボラにおける戦闘と違って、さまざまな影響を及ぼすのだ。われわれは世界のメイン給油所で戦争するのである。外交評議会のPhilip K. Verleger Jr.は、攻撃が成功すれば石油価格が下がって多くの産油国で政府が動揺するだろう。また、もし戦闘が長引けば、石油価格が上昇して、より深刻な影響を世界に及ぼす、と言う。

では、石油1バレル60ドルのシナリオを考えてみよう。サダム・フセインが化学兵器や生物兵器でサウジ・アラビアとクウェートも攻撃したらどうなるか? 世界はイラクの1日200万バレルだけでなく、何百万ドルも余計に失うだろう。さらに戦争が長引き、他の産油国にもオサマ・ビン・ラディンのような人物が現れたらどうか? ペルシャ湾、ヴェネズエラ、イラン、ナイジェリアでも石油の生産が抑制され、高価格を促すかもしれない。

他方、1バレル6ドルのシナリオは、イラクから早期にサダムを追放し、ジェファーソンのような人物を見出すことから起きる。新しい政府の下で復興に励むイラクは、外国からの投資を受け入れて石油供給能力を拡大する。そして1日300万バレル以上を、長期的には500万バレルを生産するだろう。(これが、サウジ・アラビアやイラン、クウェートがサダムの追放に反対する理由の一部である。)さらに、生産削減を受け入れられない加盟国間でOPEC内部の対立が強まり、非加盟産油諸国も増産するだろう。

要するに、イラクに対する迅速な勝利は石油価格を下落させ、OPEC諸国の政府を弱体化する。実際、もし石油価格が10ドルで安定するなら、イランからサウジ・アラビアまでが革命に包まれるだろう。そうなれば、イラク攻撃は一石二鳥の戦略になる。


FT August 1 2002

Investors pull $47bn out of equity mutual funds

By Julie Earle in New York

IMF prepared to stop LatAm crisis spreading

By Alan Beattie in Washington

IMF promises new funds as riots hit Uruguay

By Thomas Cat in Montevideo and FT.com staff

Latin America's financial minefield

By Alan Beattie and Thomas Cat

NYT August 1, 2002  

Uruguay Closes All Banks After Currency Falls 55%

By TONY SMITH

(コメント) 投資家たちは、当然、資産を保有することに不安を感じています。アメリカのミューチュアル・ファンドから470億ドルが7月に引き出された、というのは、一月の資本流出額としては史上最大です。6月にも180億ドルが引き出されました。それは債券市場でも金利を高くし、必要な社会資本のコストを上昇させる、と言います。

アメリカとIMFは、ウルグアイの銀行閉鎖を深刻に受け止め、危機の波及を阻止する決定をしたようです。他方、アルゼンチンへの融資条件は合意できないままです。オニール長官は、ウルグアイの政策を賞賛しました。しかし、改革が融資の条件となるのかどうか、IMF融資の条件が明確な基準を持っておらず、むしろ市場の雰囲気に流されている印象です。

Alan Beattieらは、この点でIMFの方針が間違っていることを指摘しています。アルゼンチンに対しては救済融資を繰り返しましたが、もっと早く融資を断って、為替レートを弾力化させる方が良かったでしょう。その後も、アルゼンチンを新しいIMFとアメリカ政府の政策シンボルに使って、融資条件を譲りません。州政府の財政赤字を削減せよ。外国投資家の保護を法的に強化せよ。(外国投資家に)信用される金融政策を行え、と。他方では、危機の波及に早期の断固たる支援を行い、どちらの意味でも、国際投資家を守る立場を明確にします。

アジア通貨危機に対して、アメリカがG7の協調体制を求めた姿勢と、今回は異なっています。他方、ムーディーズやフィッチは、やはり危機によって格付けを下げています。ヘーラーとクルーガーのIMFが、アルゼンチンへの懲罰的な交渉姿勢を誇示するだけで、いくつかの事前介入によって市場の安定性を短期に回復できるとは、とても思えません。


FT August 1 2002

Market liberalism in Latin America

By Amity Shlaes

(コメント) "The Force of Finance", Reuven Brenner, Texere, 2002. という研究に依拠して、ラテン・アメリカで自由主義が失敗した背景を考察しています。

ヴェネズエラ、アルゼンチン、ブラジルなどで、市場と革新を導入した新しい体制が次々に行き詰まりました。やはり、アメリカをまねた資本主義や民主主義はラテン・アメリカで機能しないのでしょうか? Brennerは、そうではない、と考えます。自由主義が失敗したのは、市場が足りなかったからである。特に、資源の豊富なラテン・アメリカでは、資本主義が小規模の資本調達を容易にする自由な資本市場が無ければ、民主主義と両立できない、と言うのです。

所有権と法の秩序だけでは、ワイマール共和国のように、ヒトラーの誕生を阻止できません。ラテン・アメリカの富や、新自由主義による資本流入は、いわばこのワイマール段階を形成しました。資本と民主主義とを繁栄に導くのは、小規模な資本家を育てる資本市場なのです。


FT August 1 2002

Brazil faces old demons

By Raymond Colitt and Richard Lapper

(コメント) ウルグアイの急速な転落は、アルゼンチン国民がウルグアイの銀行に預金を逃避させていた事実によるようです。他方、ブラジルの債務不履行を怖れる理由は、通貨の減価と債務の返済負担が実物経済を悪化させ始めたからです。大統領選挙前の政治的な不確実さが問題を悪化させます。

ブラジルの危機は、国際投資家が弱気になって、資本を供給したがらなくなったせいで、ブラジルの優良企業も資金が枯渇し始めたことを背景とします。それゆえ、ブラジル政府はむしろドル高を非難します。しかし、実際にはドル建や為替レートに連動する短期債務が国際資本市場の変化を増幅しており、その意味で債務の組替えを交渉し始める可能性があります。

資本市場と銀行融資が入れ替わるだけであれば、これほど危機は波及しないでしょう。債券市場を管理する中央銀行や政府の政策、そして銀行の融資行動が、今の危機を解決しにくくしていると思います。IMFと財務省が最も嫌った、資本規制とアジア通貨基金AMFに、むしろ説得的な根拠があるわけです。


LAT August 1, 2002

Give It One More Try Before War

By PHILIP GORDON and MICHAEL O'HANLON, Philip Gordon and Michael O'Hanlon are senior fellows at the Brookings Institution.

(コメント) 9・11に対して即座に軍事行動を呼びかけたブッシュ氏の姿勢を、私は間違っていると思いました。イラク攻撃に関しても、この記事は、国連による査察を強化して、イラク政府にもう一度受け入れさせるべきだ、と提案しています。

実際、国連査察はアメリカの同盟諸国を納得させる最後のチャンスであり、これに失敗すれば、イラク自身がアメリカによる攻撃への合意形成を促すことを意味するわけです。フセイン討伐よりも、化学兵器や大量破壊兵器の廃棄と生産禁止を実行させることがヨーロッパ諸国の要求ですが、イラクが国連査察を拒むなら、アメリカに同意するかもしれません。

日本の憲法が唱えるように、不戦主義は戦争を国際問題の解決手段とすることを一国の意思決定から排除します。


ST AUG 2, 2002 FRI  

US will escape stock debacle with a modest slowdown

By JEFFREY D. SACHS

アメリカの株式に投資していない世界の数十億人にとって関心があるのは、アメリカの株価暴落が世界不況を招くのか? という問題だ。私の予想では、アメリカ経済は少し減速するが、世界不況をもたらさない。それは株価の下落やアメリカ企業の不正、ブッシュ大統領やチェーニー副大統領の指導力に疑問があるにもかかわらず、そうなのだ。

私の楽観論の根拠は、株価下落と実物経済とのリンクに関係する。株価の下落が、その上昇とは逆に、投資や消費を抑制して景気を悪化させるのは確かである。しかし、こうした穏やかな景気減速が激しい不況にする、二つの場合がある。

株価暴落が銀行システムを破綻させる場合、銀行は融資を減らし、極端な場合、預金者が取り付けに走る。そのようなパニックは金融市場や為替市場(国際収支)をも危機に陥れる。

私はアメリカが、金融市場でも為替市場でも、危機を回避させることができると考えている。確かに大きな損失を出す銀行があるし、ドル安も進んでいる。しかし、アメリカンの銀行は自己資本を十分に持っているし、アメリカの対外債務はすべてドル建である。外貨の返済に困ることは無い。

アメリカにはまだ金融政策による刺激が可能である。1930年代の大恐慌は、株価の暴落によってではなく、銀行システムが破綻したことで起きた。しかし、当時は預金準備制度も無く、金本位制に縛られて連銀による貨幣供給も無かった。


NYT August 2, 2002 

Dubya's Double Dip?

By PAUL KRUGMAN

インターネット・バブルの破綻や9・11のテロにもかかわらず、消費は持続した。低金利は、住宅の購入やショッピング街に溢れている。それが衰える前に、企業の投資は回復するだろうか? しかし、企業は投資に慎重であり、株価の下落や債券市場の悪化がさらに悲観的にさせる。

私は繰り返し「二番底」の景気悪化を心配してきた。それはますます強められる。基本的な根拠は、今回の景気調整は戦後の不況とは異なり、むしろ戦前の不況に似ていることだ。前者では、インフレを抑えるためにFedが金利を引き上げ、それを下げると住宅や消費が容易に回復した。しかし、今は根拠の無い熱狂が過ぎた後の景気調整であり、Fedは投資の落ち込みを補う住宅購入を促した。アラン・グリーンスパンは、ナスダック・バブルを住宅バブルに置き換えたのだ。

議会に減税を促したことを見ても、彼の水晶玉は曇ってきたらしい。表面的な数字以上に、経済は悪化している。第一四半期でさえ、成長の大部分は在庫調整の反動であった。業績を上げるために景気を過度に楽観する民間アナリストを信用してはいけない。また、いつでも強気を示す政府の予測も信用できない。

一体、誰が最初に支出を大きく増やす理由があるというのか?


NYT August 4, 2002

Brazil Teeters. Will It Be Contagious?

By TONY SMITH

もし国際社会が緊急の支援を行わなければ、南米最大の市場、ブラジルが崩壊する。そんな恐怖感は市場を麻痺させてしまった。ウルグアイはすでに、予見される危機が波及した犠牲者だ。

しかし、元中央銀行総裁で、その前はソロスのファンド・マネージャーも勤めたArminio Fragaは、事態を全く異なったものと見ている。ブラジルのファンダメンタルズは健全であり、エンリケ・カルドーソ大統領が達成した安定の基礎を掘り崩すような政策を導入することは、新しい大統領が誰であっても不可能である。すなわち、インフレ抑制、財政赤字削減、期限を守った債務の返済、である。「市場は過剰に反応している」とフラガは言う。

ブラジルの貿易相手国や多国籍企業は、ブラジル市場に大量の資金を投入してきた。中央銀行の推計でも、アメリカ企業は1705億ドルのレアル建資産を保有している。こうした多国籍企業や国際銀行は、ブラジルの危機から損失を被らないように努めるだろう。しかし、それはブラジル企業の信用を枯渇させる。ブラジル企業への外国からの融資が減ることと並んで、レアルの減価も資源の輸入による損失を膨らませる。

ブラジルとアルゼンチンは、同じように扱われているが、ファンダメンタルズが全く違う。ブラジルは1999年1月に市場圧力に抵抗することを止めて変動制に移行し、浮動性を抑えて安定化に成功している。ブラジルはまた、強力な工業生産力を持ち、国内資本による頑健な銀行システムがある。「ブラジルはアルゼンチンと同じ途を歩むことは無い」と、ニュー・ヨーク、バークレー・キャピタルのラテン・アメリカ担当主任エコノミストは言う。

最近の世論調査で、カルドーソの指名した後継者Mr. Serraは支持率を14%に下げ、Mr. da Silvaは38%、Mr. Gomesも27%に急上昇した。すべての関心が大統領選挙を争うMr. da Silva Mr. Gomesの政策要綱に向けられている。

労働者もフラガの言う「黄金の三角形(インフレ抑制、財政赤字削減、期限を守った債務の返済)」を維持することが成長の基礎であると認めている。しかし、それは豊かな工業国により相応しいものであり、高金利、低成長、債務累積をもたらしてきたものだ、と考える。そこで、da silvaは債務の組替えや削減に言及し、資本市場を不安定化している。Gomesはインフレ抑制を強調するが、その旧政治体質が投資家たちに敬遠されている。

「どちらに賭けるか、と言われたら、私は資金を海外に移す方が良いと思う。」サン・パウロのBBA brokerage firmの主任エコノミストAlexandre Schwartsmanは答える。それは、貯蓄する中産階級の見方では無いかもしれないが、企業の財務担当者なら当然だ、と。


FT August 4 2002

Brazil's only hope of avoiding collapse

By Sebastian Edwards

(コメント) Edwardsの論点は、ブラジルに新しい多年度に渡るIMF融資を行って、ラテン・アメリカが通貨危機の国際的源泉になることを避けるべきだ、というものです。当時、ドーンブッシュは「ブラジルがIMFに融資を求める緊急電話をかけても、受話器を取るな!」と教えました。

まず、IMFの救済融資に以前の非難を繰り返すことは間違っている、と言います。1998年後半のブラジルは、大統領選挙のもたらした政府の支出超過、大幅に過大評価された通貨を抱えていました。しかし、その後、ブラジルはIMFの模範的な改革推進国になったのです。GDPの3.5%も財政黒字を持ち、変動レート制で、インフレ目標政策を採用しています。

それにもかかわらず資本市場や銀行はブラジルへの資本供給を突然ストップしました。Edwardsに拠れば、その理由は10月の大統領選挙です。有力な野党候補が債務の組替えを示唆したことに、資本市場は不安を強めています。また、既存のIMF融資が12月13日で終わり、その後の合意は何もありません。

これは選挙前に、候補者たちの間だけでは「協力の失敗」が克服できないことを示しています。彼らは厳しい内容の合意をIMFと結ぶことで自分が不利になると恐れるわけです。そこでEdwardsは、信頼される外部の中立的な仲裁者が、候補者たちに同時に合意を認めさせれば良い、と考えます。それがチリのRicardo Lagos大統領です。Lagos氏は中道と左派を基盤とし、財政均衡化と債務の返済を重視し、独立した中央銀行の重要性を知っています。そして市場をさらに開放すべきだ、と進言できるでしょう。Lagos氏自身がブラジルの危機による影響を阻止することに利益を共有します。

しかし、Edwardsの主張は、IMF融資の条件に関して曖昧です。その規模を示した後、都合の良い解釈しか示していません。所詮、危機の救済は「事後的」「政治的」なものでしかない、と思わせます。

******************************

The Economist, July 27th 2002

Agriculture: Learning the hard way

Open sesame 「・・・ひらけ ごま!」

North Korea: Stitch by stitch to a different world

(コメント) 口蹄疫の被害は、1945年以来、平時における最大のものであったようです。少なくとも650万頭の羊、豚、牛が殺され、80億ポンド(約1兆5000億円)の費用をイギリス国民は負担したのです。もしこれが日本で起きたら、政府は同じように対処できたでしょうか? と驚嘆します。そして、もちろん、彼らは委員会による調査報告を公表します。

バブルや不良債権、日本的経営のガバナンスや説明責任の欠陥とは、<武家の論理>に由来するものかもしれません。炎暑を避けて藤沢周平の『冤罪』を読みながら、そんなことを思いました。組織の問題であるにもかかわらず、<日本人>は個人で抜刀して片付けるか、家族を思って黙従するのです。

ニュース23で立花隆が紹介した田中真紀子の言葉が強烈でした。彼女にとって人間は三種類しかいない。「敵か、家族か、使用人だ」と。The Economistが紹介する金正日の言葉であっても、不思議では無いと思います。

立花氏らは、田中真紀子が復権するのを期待するような?調子で締めくくりました。しかし、加藤紘一や辻元清美ならともかく、田中真紀子はこれっきりにして欲しいです。彼女が復権するとしたら、それほど日本の政界やエリートたちが動揺して、すすんで毒を飲みたがるからでしょう。政治家としての「華がある」というなら、もっと別の、普通の人間に見るべきです。