IPEの果樹園2002

今週のReview

8/5-8/10

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<金融>や<政治>に関する記述を読んでも、なかなか「面白い」と思うことは少ないです。「分かった」という感覚は得られず、どこかに「騙されている」ような感触が残ります。

それでも、事情に通じた人の話が、重要な決定の「本当の」動機を教えてくれたときや、間違った理由で行われた決定が経済全体に何をもたらすかを解明してくれる、合理的な論述に接したときには、少しだけ「なるほど」と思うことがあります。

丸三証券の前会長、金子太郎氏の「石油危機以降の金融政策批判」(『国際金融』1090号、2002年8月1日)を読んで、久しぶりに、面白いな、と思いました。この記述に従えば、日本の金融当局は資本余剰経済になった日本を正しく監督できなかったし、企業も銀行も、株式市場を正しく活用できなかったのです。都市銀行は、国内の融資競争というパターンを、国際金融へも、不動産や株式市場へも持ち込みました。そして自己資本規制や金融自由化の意味を正しく理解しないまま、既存の競争による経営拡大を続けたのです。そのことが、金融当局の致命的な政策ミスと重なり、バブルは放置され、その後の資産デフレも解決されないままです。

金子氏の対策は明解です。銀行の自己資本規制に株式含み益を入れたことはごまかしであったし、企業の安定株主工作による株式持合い制度は維持できない。株式市場が日本経済全体を衰退させる負の連鎖を断つために、政府が株式を買い上げて、長期にわたって企業に買い戻させるべきだ、というのです。こうして初めて株式市場は正常に機能し、金融政策も、銀行システムも健全化できる、と。

金融市場の変調に対して、マレーシアの資本規制が次第に肯定されるようになり、香港の株式市場介入も認められるようになったと思います。日本やアメリカでも、株式市場の問題解決に向けた根本的な取組が議論されて良いでしょう。

今朝のNHK日曜討論を観ると、各党の政策担当者が出演して、日本経済の再生に向けた改革や政策を議論していました。連立与党を構成する各党は、ペイ・オフ解禁を堅持した、という改革の成果を誇示し、減税先行の予算案など、彼らの景気対策も示しました。

他方、民主党はペイ・オフ問題でも、減税問題でも、改革が中途半端で、不良債権処理と同様、明確な方針が無く、既得権に妥協している、と攻撃しました。自由党は、減税と歳出削減(小さな政府)、市場自由化と地方分権など、明確な自由主義を示しました。社民党は社会保障と雇用を重視し、老後の不安を取り除くべきだ、と強調します。そして共産党も、それに加えて、政府の銀行保護や、資産家と企業に有利な減税策を、庶民に対する将来の増税で行うのは間違いだ、と批判します。

なるほど、長い不況と潜在的な危機を繰り返して、日本の改革論は一定の中身を示し始めたのだな、と私は思いました。日本の政治経済システムが全体として再編成されるべきことを、各政党はさまざまに描こうとしています。自民党に依拠した小泉改革政権が、その支持基盤ゆえに限界や修正を認めるのは当然です。もし今の政府が改革に行き詰まるのであれば、野党が政権を担って、一層の改革を実現して欲しいです。どの政党が、ではなく、どの政党も。

選挙次第では、民主党と自由党の連立や、民主党と公明党との連立が政府を組織し、既得権を断つような改革をより多く実現できるでしょう。また、社民党や共産党を加えることで、社会保障や労働者の地位向上、公平な負担と分配のあり方に関する新しい社会的合意を、本格的に摸索できるでしょう。

新しい政治組織や選挙制度、地方分権や情報公開により、ダイナミックな政治システムを構築することこそ、日本が社会全体として再生する不可欠の条件であるはずです。

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg, FEER:Far Eastern Economic Review


The Guardian, Monday July 22, 2002

It's time for special K factor

Larry Elliott

株価暴落、世界金融不安、デフレーション。これこそケインズの描いた世界だ。自由放任主義者の長い夜に、昔の悪魔が甦った。

ケインズは嵐の海を漕ぎ渡る。投機、銀行倒産、物価下落によって、1930年代に大量の失業者が生じ、生活水準は低下した。ケインズは、長期的に見れば市場は平静さを取り戻す、という考え方を拒否した。今や、70年前に彼が起こした革命に帰るべきだ。

ケインズは、民間需要が落ち込む時期に、政府が投資を増やすことを賢明な予防策と見なした。しかし、多くのいわゆる「新ケインズ主義者」たちと同様に、ブラウン蔵相は、ケインズが述べたのは特殊な状況であり、市場の失敗が明らかな場合だけだ、と考える。

ケインズは、市場とは不完全なもの、と考えていた。市場の失敗は慢性的な資本主義の病であり、新古典派経済学の方が特殊なものであった。なぜなら、それは現実にありえないような一連の前提に依拠している。個人が自分の利益だけを切り離して追求するというのは、彼らが無知で、無力であることを忘れており、社会的な集団行動を無視している。

今、ケインズが見直しを求めるとしたら、以下の三つであろう。

1.民間部門が支出せず、正常な対策、すなわち低金利政策の効果がない場合(日本が陥っているような、流動性の罠)、政府が積極的に投資計画を立てる。

2.物価の下落が世界経済の需給のアンバランスを示す場合、世界の有効需要を補う必要がある。セー法則は現実に成立しておらず、むしろRobert Kuttnerが指摘したように、グローバリゼーションは購買力の乏しい住民しかいない貧しい国に工業生産力を大規模に移転し続けている。国際収支不均衡は、IMFがアルゼンチンで強いているような、赤字国の引き締め策ではなく、黒字国の拡大策で調整するべきだ。

3.金融市場の規制緩和が資本主義をますます不安定化している場合、投機家たちによるギャンブルを規制しなければならない。より流動的であることが、必ずしも、より効果的であることを意味しない。企業が投機のバブルに巻き込まれれば、その国の資本蓄積はカジノの盛況さにともなう副産物となってしまう。そしてまともな職場は汚される。


FT July 23 2002

Boom-time in Europe

By Bradford DeLong

(コメント) DeLongは、ヨーロッパでもハイテク投資による生産性の上昇が実現する段階まで、あと少しだろう、と言います。アメリカが実現した長期の繁栄は、世界中で起こすはずであって、そのための “critical mass” がヨーロッパでも近づきつつある、と考えるからです。

イギリスの産業革命でも、技術の革新や設備投資は何年も前から増えていたが、生産性を上昇させて急速な成長と拡大を実現したのは後になってからでした。ヨーロッパ経済や企業の硬直性を誇張するのは間違いだ、と言うのです。他方、DeLongは、ケインジアンが言うように、需要が不足しているから成長できなかった、とも考えません。

アメリカではじまったハイテク投資による生産性上昇は、バブル崩壊を超えて、世界中に波及し続ける、というのが彼の予想です。


NYT July 23, 2002  

Living With Bears

By PAUL KRUGMAN

『ダウ3万6000ドル』の著者は、そのタイトルを間違っていたようだ。ただし、最初の3が削られるべきであって、最後のゼロではないことを願うのだが。(ダウ6000ドルなら我慢できるが、ダウ3600ドルは止めて欲しい!)

バブルは完全に弾けた。そこで、アラン・グリーンスパンやブッシュ大統領、名前も忘れた財務長官は、市場の回復を煽り、口約束し始めたわけだ。経済は基本的に好調である、と。

しかし、ファンダメンタルズにも疑問がある。企業統治の欠陥。州政府や地方政府の赤字。雇用の伴わない回復。

勝手な前提ばかり並べた予測が過度に楽観的である場合、さらなる暴落が起きかねないが、グリーンスパンは金利を再び下げることなど考えられないのか? 日本の経験は、国民がデフレの心理的な罠に落ち込む前に、連銀が行動すべきことを教えている。金利引下げはパニックをもたらす、と言うが、既に市場はパニックだ。

政府にできることは、企業の改革だ。もし投資家たちが公平に扱われていないと思えば、彼らは資金を引き揚げてしまう。しかし、一度失われたら、信頼を回復するには時間がかかり、不況対策には間に合わない。

バブル崩壊と景気悪化で財政赤字が生じるが、医療保険や年金制度では深刻な問題が予想される。それでもこの時期に緊縮予算は組めない。

そこで解決策は手綱を緩め、経済が回復の兆しを見せれば引き締める準備をしておくことだ。たとえば、ブッシュ政権は、支出計画を削減しようとしている地方の財政赤字を助けてやらねばならない。そして長期の赤字については、将来の減税を止めて、債務返済に充てさせるのだ。

このような態度は、ワシントンへの非難を強めるかもしれない。しかし、こう考えてはどうか? ブッシュ政権の経済計画は、S.フォーブズの挑戦を受けていた1999年秋(選挙戦)以来、大きく変わらなかった、と。減税法案が通過した頃は、『ダウ3万6000ドル』がベスト・セラーの棚に並べられていた。経済環境は完全に逆転したが、政府の方針は少し変わっただけだ。

経済問題は深刻であるが、破滅的では無い。むしろ、問題を解決するべき人々の頭が硬いことで危機を招くことを、私は心配する。


WP Tuesday, July 23, 2002

A Computerized Smoke Machine

By Richard Cohen

皮肉なことに、AOL Time Warner の変化、つまりシナジー効果についてインターネットで調べているときに、私のコンピューターは潰れた。どこで、何が起きたのかわからない。技術者を呼んで尋ねても、彼らにもわからない。

何日もコンピューターを回復させるために、多くの人や手段を講じたが、無駄だった。私は昔のロイヤル・タイプライターが懐かしかった。テープが切れれば、取り替えれば良かった。私はコンピューターを非難し、昔の素朴さを賞賛しているのでは無い。

しかし、ダヴォスの話をしたい。3年前に、私は世界経済フォーラムでドット・コムやインターネットに関するパネル・ディスカッションに参加した。彼らは勢いに乗っており、特にヴェンチャー資本家たちは技術革新で財を成していた。誰かが質問した。「あなた方も利潤を出す必要がある、という経済学の法則を、誰も無視できないのでは?」

ヴェンチャー資本家たちは質問者に抗議した。「君は分かってないね。」「何も分かってないよ。」と繰り返した。私は衝撃を受けた。私は恥ずかしかった。告白するが、彼らは正しかった。私には何も分からなかったのだ。

なぜなら、新時代の核心はコンピューターであった。それは、分からないけれど、何かを成し遂げる。タイプライターなら何をしているか分かったが、コンピューターは全然違う。それは記憶し、資金を動かす。エンロンは電力を売り、それでも分からないのに、次には水を、さらに何でも売り始めた。経済はエーテル(仮想媒体)の中で機能し、何も作らず、利潤も出さないのに、人々が豊かになっていく。

私は父に、株式のことを説明するとしたらどうなるか、と思った。彼は断固として尋ねるだろう。「それは何に対して支払うのか?」 私は見事に説明する。「そんなこと重要じゃないんですよ。株価は上昇しますからね。」と。しかし、彼は正しい質問をした。それはほとんどの経済新聞が尋ねないことだ。われわれは、自分が理解できないものを信じるほど愚かで、怠け者であった。

われわれは皆間違っていた。多くのメディア、事業家、ドット・コムの若造たちが、なにか「分かった風な」口を利いていた。政治家たちも同じだ。エンロン、ワールド・コム、グローバル・クロッシング、すべてがとんでもない煙幕装置でしかなく、カーテンの裏では「魔法使い」たちを雇っていたのだ。

しかし、このカーテンは彼らだけのものではなく、われわれにもあった。われわれもシナジーを信じ、世界のどこかで、われわれにはわからない方法で、ゼロと1から金を作り出す錬金術が働いていると信じたのだ。

今回の金融危機には多くの要素がある。その中には、詐欺師や多くの嘘と空論、ブッシュ政権に見られる政治指導力の欠如、などとともに、われわれも含まれている。誰もが経済の法則を無視していた。

犯人探しは続いている。しかし、われわれの騙されやすさは疑いない。


BL 07/25 13:03

U.S. Automakers Paying for Bush Tariff: Doron Levin

By Doron Levin

アメリカの鉄鋼産業にとって祝福であるものが、その顧客にとっては呪いとなることもある。たとえば、アメリカの自動車産業や部品メーカーである。自動車業界は、日本、ブラジル、ヨーロッパからの輸入鉄鋼製品に30%の関税を課した政府の3月の決定を批判している。

大統領が自由貿易を支持する政党の指導者であるにもかかわらず、その政治戦略家たちは、2004年の選挙に向けて、各州における鉄鋼業界の利益が決定的に重要であると考えた。すなわちペンシルヴァニア、西ヴァージニア、インディアナ、イリノイ、オハイオである。

自動車1台に約1トンの鉄鋼が使われるから、鉄鋼価格の上昇は100ドル以上もコストを高くした。2万ドルの値札に対して大した額でもないと思うかもしれないが、自動車業界は1ペニーでも価格を下げようと競争しているのだ。鉄鋼価格が上がれば、価格引下げの圧力は部品メーカーに及ぶ。

ホンダ自動車は、オハイオ州ミドルタウンのAK Steel Holding Corp.が求めた値上げに当惑した。しかも、オハイオの組立工場に供給する他の鉄鋼会社が無いことに酷く驚いた。ホンダは約200トンの鉄鋼を日本から輸入していたが、さらに200トンが必要になるかもしれない。それは60万ドルの追加コストを意味する。あるいは組立工場を閉鎖するか。

ミシガンの自動車部品メーカーであるGR Spring & Stamping Inc.も鉄鋼価格の値上げに憤慨する。顧客たちは値上げに応じない。鉄鋼価格が下がるか、自動車の店頭価格が上昇しなければ、三つの工場に従業員200人を抱えるGR Spring & Stamping Inc.のような部品供給会社は、倒産するか買収されるしかない。「顧客のうち、3社は中国に移転し、1社はメキシコへ移転する。」

鉄鋼価格は何年も下落しており、今や1950年代初めの水準である。関税を課す際、アメリカ政府は1998年以来19社が倒産したことを挙げた。何千人もの鉄鋼労働者たちが、鉄鋼製品の輸入と国内の高コストによって、職を失った。鉄鋼会社は、関税だけでなく、生産能力の縮小が価格を上昇させているという。

ブッシュの関税政策は、輸入自動車を有利にするだけでなく、海外からの部品の輸入も増やすだろう。あるいは「プラスチックなどの代替素材がより多く使用されるだろう」とトヨタの北米工場副社長、Dennis Cuneoは言う。教科書風に言えば、鉄鋼の高価格で資本家たちが機会費用に敏感になる。

今後、自動車部品メーカーで働く多くの労働者がどうなるか、さらに注目しなければならない。


FEER, August 1, 2002

Thaksin's New Deal

By Shawn W. Crispin/BANGKOK

タクシンThaksin Shinawatraが首相になって、ビジネス風の政府が経済を動かし出した。国民に人気のあるテレコム資産家である彼が、その個人的な成功をタイの新しい繁栄に転換してくれると、大衆は期待している。

18ヶ月が経って、タクシンは景気を回復させつつある。企業は強気になり、消費は回復し、長く低迷していた不動産市場も上向きつつある。道路は再び高級車で渋滞し始めた。

その経済政策は「タクシノミクス」"Thaksinomics."と呼ばれる。IMFによる市場型の改革から慎重に離れて、より介入主義的な政策を採用している。市場によれば、債務を抱えたタイの企業を外国投資家に売却するような場合、タクシンは政府の資金でタイの企業家を守った。「タイ人はタイが好きだ」という愛国党の趣旨に沿う。

国営銀行は政策に従って中小企業に融資している。政府資金で不動産や株式市場を支えてきた。7000億バーツ(172億ドル)以上の不良債権がタイ資産管理公社に買収され、そこで倒産させずに、資産価値の回復と企業の再建を図る。

「危機後の数年間で、100%西側のアプローチは、世界のどこでも機能しないことがはっきりした。」と、タイ商工会議所のKongkiat Opaswongkarn理事は言う。「市場に均衡を決めさせたら、タイ企業のほとんどが殺されてしまう。」

こうした勘定はタイ企業の改革を唱えたアメリカ自身のスキャンダルが発覚したことで強まっている。多くの指導的なタイ企業家たちは、今でも1997年の危機の原因をヘッジ・ファンドや通貨投機だと思っている。

タクシンのやり方は政治的な便宜主義や経済的反動だけでは無い。彼は、高い利潤をあげた独占的なテレコム企業を経営したように、タイも統治したいのだ。そのために経済政策も高度に集権化される。最近、危機後に市場型の改革を唱えた多くの官僚たちが失脚した。

伝統的な経済閣僚たちによる会議は戦略的な特別委員会に代わり、一握りの幹部が牛耳っている。より高い弾力性を口実として、首相府の予算は250%増額された。「タクシンは絶対的な権力を求めている」とメリル・リンチのバンコク支店長Therapong Vachirapongは言う。マレーシアやシンガポールの強力な政府が主導する開発モデルを賞賛し、タイ型の指令資本主義を形成しつつある。

その思想的な核心は競争的優位の理論である。タクシンの経済官僚のトップであるSomkid Jatusripitak財務大臣はマイケル・ポーターの『国家の競争優位』をタイに翻訳した学者でもある。その講演において、Somkidは一種の親しみ易い産業政策としてタクシンの「二重路線」政策を説明した。政府は中小企業を育成し、付加価値の階段を登らせるとともに、ブランドを発揮できるような市場の隙間を見つけさせる、と。

モルガン・スタンレーのDaniel Lianは、タクシン・モデルの強力な提唱者であるが、タイの本当の競争的優位は「大量生産製造業部門のための低賃金労働力」であると誤解されてきた、と言う。しかし本当は、「美的、文化的、伝統的な労働者と、豊かな自然資源」にある、と言うのだ。タクシンの幹部たちはタイを「東のイタリア」にしようと言う。すなわち、食事やファッション、旅行、自動車、ソフトウェアに優位を持つのだ。Somkidによれば、「政府は救済者を目指すのではなく、ヴェンチャー資本家を目指すのだ。」

しかし、タクシンの介入は短期の経済的利益を求めて、長期の当地を損なう、という批判がある。特に金融部門では、危機後の銀行による資産再評価や融資の見直し、金融システムの強化に向けた要求が緩和された。タイ銀行が不良債権を評価し直したその額は、国際基準で格付け会社フィッチの推計によれば二倍になる。

タイ中央銀行のPridiyathorn Devakula総裁は、「病気を治すのは強い体力だ。もし銀行が基準に従えば、患者を殺してしまう。」そして危機後に強化された会計基準を緩和したことで、資産価格は上昇した。最も心配されるのは、政策による政府系銀行融資が増えていることだ。それは結局、新しい不良債権となるだろう。

反対派は、タクシンが1997年の危機を再現しつつある、と信じている。彼の考えで、金融や制度が改善できるのかどうか、疑問が残る。


FEER, August 1, 2002

No More Micro-Managing

INTERVIEW: HIDEHIRO KONNO

Seoul's Old Guard Takes a Bite

By Aidan Foster-Carter

(コメント) 経済産業省の今野?氏は、メイン・バンク制度が機能しなくなった、と主張し、資本市場の自由化と直接投資の誘致を主張します。しかし私には、何か、よそよそしい作文に思えます。競争を促し、外資を参加させることが、特別な主張ではないはずです。

他方、ワールド・カップ後の韓国で強烈な政治的反動が示された、というFoster-Carterの指摘は的を得ています。韓国の政治は、イデオロギーではなく議員たちの博打であり、潰し合いであり、金大中が指名した初の女性首相など、彼らの保守的序列を無視した暴挙なのです。未だに外国人排斥や日本による「占領」の歴史を政治的に利用し続け、息子がアメリカ国籍を選択したことで愛国心を疑い、何よりも女性であることが彼らの男性支配を脅かすから、この指名を承認しないのです。それどころか、健康状態が悪化する大統領に代わる首相の任命を遅らせ、韓国の政治的危機を私的に利用するつもりです。

タイ、日本、韓国は、欧米社会をそっくりまねる必要などないでしょう。民主的な仕組みを工夫し、企業家・銀行の責任追及を行う制度を築く点で、アジアはアメリカやヨーロッパがそのまま手本になると考えてはならないでしょう。正しいことを行うには、それが何であれ、その社会に有効で、支持されるかどうかが基準なのです。


ST JULY 26, 2002 FRI  

US dollar's glory days not over yet

PHILIPPE BACCHETTA and ERIC VAN WINCOOP

アメリカ・ドルの絶頂期は過ぎて、ユーロに対して安くなってきた。とはいえ、その国際通貨としての重要性は貿易でも投資でも圧倒的だ。ユーロが勝利したとは言えないのか?

世界貿易で契約に使われる通貨は、今でもドルが支配的である。アメリカの輸出入ではドルが圧倒的であり、アメリカが含まれていない国際取引でもドルが使用されている。

しかし、1980年以来、ドルの地位は少し低下した。欧州委員会の推計では、1980年から1995年に、ドル建の貿易額は世界貿易の56%から52%に減り、ユーロ建は変化せず、円建は2%から5%に増えた。

長期にわたってドルが国際通貨となった理由は三つある。1.為替市場における取引コストが安い。2.戦後の世界貿易に占める役割。3.アメリカ市場の相対的な規模。世界第二の経済規模を持つ日本が、その貿易額の一部しか円建で行わない。

企業が契約通貨を選択する場合、輸出業者は二つのリスクに直面する。価格リスクと競争力リスクである。たとえば、日本企業がスイスに製品を輸出する場合、もしスイス・フランで契約すれば、価格リスクにさらされる。円とスイス・フランとの為替レートによって、円建価格が変動するのである。そこで輸出企業は円で契約することを好む。しかし、同時に、企業は競争相手を意識する。

もし日本企業がスイス企業の支配的な市場で製品を売りたい場合、円の増価によって市場シェアを失いたくないから、スイス・フランで契約することを好むだろう。もしその製品のスイス市場で日本企業が支配的なら、円高になっても競争に影響しないから、円による契約を好む。

こうした事情が、ドルの支配的な地位を説明する。アメリカが巨大な市場であることから、アメリカ企業は各製品の市場でも支配的であることが多いだろう。それゆえ、国内でも外国でもアメリカ企業はドルで契約し、外国企業は競走場の理由でアメリカにドル建で輸出する。

競争力への関心は、円が国際取引で重要になれない理由である。まず、アメリカが日本の主要貿易相手国である。日本と工業諸国との貿易のうちで、半分以上をアメリカが占める。第二に、アメリカ以外の国に輸出する場合も、日本企業はアメリカとの厳しい競争に直面する。東南アジア向け輸出の場合でも、半分以上がドル建であるのは、アメリカ企業との競争があるからだ。こうした要因は短期間で変化しそうに無いから、世界貿易における円の利用は低いままであろう。

そのことがユーロの国際通貨としての地位向上を妨げる。ユーロの勝利宣言は時期尚早だ。


LAT July 26, 2002

Most of Us Aren't Rich, and Thank Goodness for That

By ROBERT KUTTNER, Robert Kuttner is co-editor of the American Prospect.

熟慮すべき問題がある。もし株式市場の暴落が不況をもたらさないとしたら、それは政府の財政支出によるだけでなく、アメリカの民間における極端な富の集中によるかもしれない、ということだ。

アメリカ人の約半分が株式保有者である、というのは正しい。しかし、それは非常に集中している。多くの株式は最も裕福な10%の国民に保有されている。平均的なアメリカ人は、2万5000ドル以下しか株式を保有していない。だから労働人口の家計にとっては、給与に比べて株式の配当やキャピタル・ゲインは重要でない。

さらに、人々は株式を退職年金などの制度で保有しており、これを退職前に現金化するのは、高率の課税があるので、難しい。だから計算上の損失は現在の消費に影響しない。これらの事情で、今の株価暴落は消費を妨げていないのである。

しかし二つの例外がある。非常に裕福な人々は、いずれにせよ、収入の多くを支出に回さない。他方、退職した人やその年齢に近づいた人々は株価暴落によって影響を受けるだろう。

株価暴落は退職者をさまざまに苦しめる。それは株式の形で保有された彼らの貯蓄や退職金を減らし、退職後の所得を減らす。また、経営者たちがストック・オプションにより利益を得るため、株式を買い戻して株価上昇を狙うせいで、利益は配当に回されなくなった。株価が上昇すれば彼らもキャピタル・ゲインを得たが、株価暴落でむしろ損失を受けている。さらに、極端な低金利で、債権保有にシフトした彼らの資産が利子を産まなくなった。インフレが抑制されたために、年金などの引き上げも無い。

こうした事態は、退職者にとって厳しいものであるが、経済全体を不況にすることは無いだろう。65歳以上の人口は約12%でしかないし、彼らの最大の所得源泉は年金だ。保守派による民営化論にもかかわらず。まだ年金給付は株価の変動に影響されない。55歳から64歳の人でも、平均的な株式保額は5万ドル以下であり、彼らの最大の資産は住宅である。

株価暴落は深刻な心理的影響をもたらす。しかし、政府が本格的な不況を免れるとしたら、それは資本主義の最悪の側面、多くの人は投資家になるほど豊かになれない、という事実によるだろう。これは、もちろん、自慢できる話ではないが。


FT July 27 2002

Where's the risk?

(コメント) Enronスキャンダルに銀行が関わっていたとしても、すでに銀行システムは非常に健全であり、リスクを分散し、市場で転嫁してしまっている、という議論があります。しかしFTは、たとえCitigroupでも、銀行システムの危機を完全に免れているわけでは無い、と指摘します。

リスクの市場による分散は、歓迎されることですが、ますます予測しにくい事態をもたらしています。たとえ他の機関がリスクを負っているとしても、銀行がリスクから完全に切り離されたわけではない、と警告します。デリバティブで突然の損失を計上する銀行があったり、LTCMのように投資モデルが正しいかどうかは、突如として、変化したりします。分散されたはずのリスクが市場の不安を高める形で連動するかもしれません。

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The Economist, July 20th 2002

Turkey in trouble: More than enough to worry about

(コメント)

トルコとは何か? という問題を提起しています。完全な西洋化を目指したイスラム教国家。自由な市場を唱え、しかも非常にナショナリスティックである。トルコはかつて帝国の中心であり、国民は復興を望む。キプロス問題でも、クルド人問題でも、彼らは強い国家を支持する。イスラム教徒であり、EU加盟国でもあるような、第三の道を求める。彼らはサダム・フセインやアル・カイダを支持しない。トルコの軍隊はイスラエル軍とも協力する。しかし、アメリカがトルコの基地を使用するなら、IMFに融資を承認させることが条件となる。湾岸戦争のとき以上に、イラク攻撃は戦後も含めた費用が嵩みそうだ。イラクやクルド人のその後の体制にも不安がある。

現在の通貨危機、政治危機を越えて、トルコがどのような政治・社会システムを選択するのか、それが問題だ、と the Economist は考えます。


Lexington: In praise of the unspeakable

(コメント)

企業スキャンダルにもかかわらず、あるいはそれを含めて、アメリカの社会・政治システムは繁栄し続けてきた、という考察です。

企業会計や税制、株式市場を、厳しい法律と多くの規制で縛り上げ、アメリカもヨーロッパや日本の社会に近づくのか? とんでもない、と思っているでしょう。アメリカの自由で無法状態の市場は、巨額の富をもたらし、はなはだしい不平等や腐敗をもたらします。しかし、それに対する社会的な非難が高まれば、政府ではなく企業自身が社会的貢献を行い、資産家たちは富を寄付するのです。

世界でも最高の病院や大学、国際援助や研究開発、自然環境の保護などに対して、アメリカの資産家たちは莫大な寄付を行ってきました。ハイテク産業の資産家たちは非常に若かったから、こうした貢献を始めたのはビル・ゲイツやテッド・ターナーなど、まだ少ないですが、企業スキャンダルのもたらす社会の長期的な変化は、この記事が指摘するように、こうした社会的貢献が増えることかもしれません。


Transformed: A survey of the defence industry

(コメント)

軍事技術と軍事産業のあり方が、世界の政治経済秩序を決定する重要な要因であることは疑う余地がありません。

ポスト冷戦型核抑止体制において、ハイテク化と無人化、情報ネットワークの工場と精密化、戦力の迅速な移動距離とその規模、スピード、などが重視されています。たとえ、こうした新しい軍事的課題が明確であっても、今まで予算は冷戦後の縮小傾向を維持していました。それが9・11によって一気に変化したのです。

軍事産業は特殊な性格を定められています。莫大な開発費用、買手はほとんど政府だけ、資本集約的で、政府の補助金に依存した独占的企業しか存在しません。それゆえ、一方では政府の軍事支出が大きくなければならず、国際市場でも圧倒的な技術的優位を示す、アメリカ企業だけが生き残り、他はヨーロッパやイギリスの企業が連携して対抗するだけです。

軍事産業は技術的に特殊で、雇用も維持しなければならない、という保護主義の根拠は疑わしいものです。しかし、その大規模な投資額は、民間部門の産業と併用するか、あるいは複数の市場が連携するしかないでしょう。アメリカとEUではその両方が摸索されています。特にヨーロッパで、エアバスに加えて、独仏連携のEADSが誕生し、そのドイツ側がダイムラー・クライスラー社であることから、米欧連携が現実味を増したのです。

世界軍事企業が成立すれば、開発予算が国際分担でき、市場も分割して、世界中で軍備拡張を煽ることも無いでしょう。技術的な共通化が進めば、国際的な軍事行動の連携や部品供給、情報交換なども可能になります。

現状では、こうした軍事的統合化が政治的な限界によって阻まれます。軍事産業自身がグローバリゼーションの圧力で変身し続けるしかないでしょう。また、アメリカの軍事予算は、今後も一定の水準で維持されるでしょう。それがthe Economistの予想する競争条件なのです。


Japanese corporate restructuring: Uncut

日本企業の再構築は非常に遅い。それは過剰な労働力を切り捨てようとしないからだ。資本注入や合併のたびに、人員削減計画も示される。しかし、それは数年にわたるものであり、しばしば粉飾されている。たとえば、子会社を作って余剰人員を吸収させるのである。資産を有効に利用することも無ければ、収益の高い分野に事業を集中することも無い。

資本市場が企業の再生に失敗する一方で、中国の成長とデフレ圧力が日本に改革を強制するかもしれない。日本企業で中国に生産拠点をシフトできるのは非常に限られている。それ以外の企業は輸出や生産を諦めるしかない。

ゴールドマン・サックスは、この圧力が予想以上に急速に影響し始めると指摘する。1兆円(83億ドル)に達する日本の経常黒字が急激に消滅する、と言うのだ。おそらく5年以内に黒字は失われ、日本企業を一層の世界的圧力にさらす。1980年代にアメリカが、1990年代にドイツが経験したように、経常収支が赤字になった後すぐに、株式投資の収益が増加し始めるだろう。それにはより大きな苦痛が伴う。