IPEの果樹園2002

今週のReview

7/29-8/3

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地域の夏祭りがあって、家族がにぎやかに出入りした夜、NHKスペシャル「負けてたまるか」(7月27日)を観ました。倒産した化粧品容器の工場が、従業員たちの自主生産で再建を目指す話です。

昨年倒産したとき、22人の従業員の内、18人が残って、彼らの給与や年金が未払い債権1億7000万円となり、その代わりとして機械などを所有することになりました。他方、土地と建物は銀行が競売にかけ、新しい所有者が彼らに賃貸しました。倒産した企業に運転資金を貸してくれる金融機関は無く、彼ら自身で資金を出し合って、450万円を工面したと言います。

注文が無い。薄利多売だけではやっていけない。給料が払えない。平均年齢53歳の社員たちは、中国とのコスト競争に勝てず、介護用の自動車に車椅子を乗せる機械の開発に取り組みます。他にも自主生産企業となった板金加工や精密加工の会社が、この開発に加わりました。

板金加工で高い技術を持っていた会社も、バブルの時期に不動産投資に関わって失敗しました。銀行から不良債権を買い取った整理回収機構RCCの方針は、再建よりも競売でした。土地が売れて立ち退きを求められたら、どうすれば良いのか? 彼らは苦しみます。

運転資金どころか、手形を割り引いてもくれない。役所の補助金も出そうに無い。給与を削り、人が減り、それでも遅配。結局、車椅子用のリフト開発は中断されます。もっと、注文さえあれば・・・。この話に、それ以外の答えは無いのです。

熟年から老年に近い彼らが、何とか今月も給与を支払えた・もらえたとか、立ち退きをしなくても良かった、ということで喜びます。苦労をかけた家族を連れて、社員旅行がしたい、と話し合います。私はアニメ映画『紅の豚』のあるシーンを思い出しました。

それは第二次大戦の迫るイタリアの話です。飛行機の解体修理を頼みに来たポルコ・ロッソ(紅の豚、あるいはマルコ)の注文で、世界恐慌の中、戦争や出稼ぎに行かず残っていた女たちも、漸く仕事ができます。大きなテーブルについた工場長は、食事の前に、仕事を与えてくれた<神>に感謝するのです。皆が手を合わせて瞑目し、<神>に、いやマルコのくれた<仕事>に、心から感謝します。

低コストの大量生産は中国に移ってしまうだろう。もっと少ないロットで、高品質の物を作りたい。隙間を見つけたい。彼らはもちろん理解しています。しかし、もし倒産後、解体してしまえば、企業の中で彼らが蓄積してきた経験やノウ・ハウは失われてしまいます。50歳を越えた彼らが、満足できるような職場を得ることは非常に難しいでしょう。

地域社会や雇用を育てる中小企業が、昨年、2万社も倒産したと言います。彼らに融資する地域の金融機関、公的支援制度などが、今までと違って、この不況の中では機能していないのではないか? もっと土地を安くして、生産者に優先的に売却できないのか? 既存の銀行を守るために、不況が長引かされているのではないか?

倒産の効用・不効用、その外部性やモラル・ハザードについて、アメリカや日本など、各社会の合意が修正されつつあります。懐かしい?『悪魔の辞典』によれば、アメリカの企業とは、「個人的な利益を得るために、個人から責任を免れさせる天才的な工夫」なのです。(参照 KATE JENNINGS, “The Hypocrisy of Wall Street Culture,” NYT, July 14, 2002

アメリカ化を進めるドイツでは、企業の雇用維持に配慮して倒産を回避する政府の呼びかけに、銀行が応じなくなったようです。また、債務の維持や再構築より、為替レートの大幅な減価と高金利、倒産による処理を進めた、アジア通貨危機の経緯を思い出します。

バブルを回避し、不況が緩和できなければ、市場による資源配分や、特定の階層が社会的な資本の配分を私的に支配できる資本制社会は、根本的に修正されるべきなのです。

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg


ST/FT JULY 16, 2002 TUE  

US foreign policy's sham idealism

ANATOL LIEVEN

ブッシュ大統領がパレスチナ自治政府とイラクの民主化を要求した演説に対して、同じ保守派の批評家たちは、新しい「ウィルソン主義」だと持てはやし、「ブッシュ・ドクトリン」とも呼んだ。これは知的・政治的な、煽動家の策謀であるが、要するに、民主主義を支持する点で、反論しにくい。これでリベラル派の反対や、トニー・ブレアなどの西側指導者たちを懐柔するつもりだ。それはまた、パレスチナでもイラクでも、住民たちが政治的に抑圧されているという真実を、幾分、示している。

しかし、多くの憂慮すべき点がある。まず、ブッシュ氏の「ウィルソン主義」は、政権内部にある「国家再建」への強い反対によって弱められる。それによれば、ブッシュ政権は気に食わない政治体制を粉砕するために民主主義の創設を提唱しているだけであり、その後の民主主義がどうなるかには関心を持たない。

パレスチナ人に関して、ブッシュ氏の主張は、良くても、サダム・フセインを敗北させるまでの和平推進である。しかし、悪ければ、パレスチナに民主主義が無いことを口実とした、イスラエル占領体制の無期限引き伸ばし策であり、パレスチナ国家の否定である。これは、明らかに、「ブッシュ・ドクトリン」を提唱する者たちの意図である。占領された土地で民主主義を実現する方法など、彼らが真剣に考えているはずは無い。

イラクの場合、「ウィルソン的」なアメリカ政府の意図はより強い。同じ主張が、バルカンやシエラ・レオネへの軍事介入でも聞かれた。しかし、アメリカの一方的なイラク攻撃は、実際には、ウィルソン主義の戯画でしかない。

ウィルソン大統領は、その目的のためにアメリカの軍事力を使うつもりであったが、彼の国際主義的思想の核心は国際機関と国際法を育てることであった。これこそ、アメリカのナショナリストたちが侮蔑するものだ。確かに、NATO軍は国連の承認を得ていないが、少なくともヨーロッパの多数の国に支持されていた。アメリカのイラク攻撃は全く違う。イスラエルを除くほとんどの中東諸国が反対なのだ。

ブッシュ政権の民主主義に関する約束も、アメリカの右派が、国益に適うなら、いつでも独裁者と手を組む習性によって、疑わしい。アメリカやイスラエルの独裁者非難は、政治思想というよりも、アラブの政治文化を何もかも否定し、いかなる妥協も許さない姿勢を示すものである。

こうした考え方には、たとえ正しい意味でウィルソン的であっても、基本的な欠陥がある。西側の民主主義を容易に他の社会に植え付けることができるという自由主義の発想は、西側の帝国主義という過去につながる。民主主義を自ら育成できなかった国は、この前提によれば本質的に劣っているから、より優れた文明によって征服され、改造されるべきなのだ。かつて、そのような介入は「彼ら自身の利益」であると見なされたが、あまりにもしばしば、征服者の利益になった。


The Guardian, Tuesday July 16, 2002

On the edge of a precipice

Larry Elliott, economics editor

3年前に、Time誌はJames Cramerの記事を載せた。彼は拝金主義者のための雑誌TheStreet.comを創刊した人物だ。Cramerのメッセージは単純だった。教えることも、土地を耕すことも、トラックを作ったりすることも、止めろ。投機で暮らせ。これ以上に無い絶好の時代になった、と。

1967年であれば、過去のまともな世界から解放されるというのがLSDだったが、今や貨幣である。革命の教祖は、ビートルズやストーンズでは無く、Cramerや、Dow3万6000ドルを予言したJames Glassmanである。そんな熱狂も終わった。

現在の話題は、Dow3万6000ドルがいつ達成できるかではなく、どこまで下げるかである。集団的な市場の悪化が世界的な不況や本格的な恐慌に向かうのではないか?

何の心配も無い、という空論家も多くいる。大統領の経済顧問、ローレンス・リンゼーも、アメリカに不況は来ないだろう、と述べた。しかし現実には、何が起こりつつあるのか、誰にも分からない。経済学者は、金融が緩和され、消費が堅調であれば、景気は回復するだろう、と言う。

経済学が、錬金術ではなく科学であり、この黒魔術の体現者が、高給取りの呪術師以上のものであれば、私たちも安心して良い。しかし、株式市場の唯一信頼できる理論とは、カオス理論である。ドルの最近の歴史からも、それは明らかだ。過去5年に及ぶドル高は、企業の利益を侵食し、記録的な貿易赤字をもたらした。市場はドルが過大評価されていることを知っていたが、ドルを買い続けたのだ。この2ヶ月間、気分は逆転し、ドルはユーロに対して14%も減価した。まだ30%も過大評価である、と言う者がある。もしドルが急落すれば、投資家は出口に殺到するだろう。

グリーンスパンが本当に怖れているのは、アメリカ市場が累積的な悪化に陥ることだ。株安から、消費の低迷、利潤の減少、金融システムの不安へ。資産価格の下落は、金融機関に資金を確保するための売却を促す。どれほど金利を下げても景気を刺激できないような、深刻なデフレが起きるかもしれない。楽観論者は、そんなこと起こるはずが無い、と言う。しかし、それは既に日本で起きた。

企業の不正が暴かれ、低金利が維持されれば、少なくとも時間稼ぎには成功するかもしれない。しかし、ハイテク部門の過剰投資と企業の過剰債務は解消できないだろう。次にFedは、金利を下げろという圧力を受ける。しかし、それが市場を回復させる根拠も無い。1.小幅の切下げしかできないだろう。2.むしろFedもパニックに冒されたという印象を与える。3.企業や消費者の借入金利は容易に下がらない。

1990年代半ば以降、株価は200%上昇したが、企業利潤は40%しか増えていない。グリーンスパンもブッシュも、一時的に楽観を煽って、結局、企業の利潤が期待に応えられないのを取り繕う手段が尽きてしまう。他方、ヨーロッパも日本も、余りにアメリカの景気回復に頼っている。

もし、私の話が悲観的だと言うのなら、現実がそうなのだ。世界経済は、1930年代以来の重大な転機にある。われわれがこれほどの難局に至った原因を探るなら、それは、CramerやGlassmanなどの金融市場の狂信者たちに騙された政策担当者が、世界資本主義からブレーキを取り外してしまったことだ。ブレーキが無ければ、世界には危険な猛スピードか、死んだような低速しかない。


FT July 17 2002

The paradox of thrift returns

By Samuel Brittan

(コメント) 不況で財政赤字が増えた際に、増税して均衡を回復せよ、という議論は誰もしない、とBrittanは指摘します。Kynesの「倹約のパラドックス」を持ち出すまでも無く、たとえFriedmanでも、不況を必要と認めたオーストリア学派のHayekでも、不況の際に財政を均衡化せよ、とは言いません。

アメリカの消費者が、過剰消費を改め、貯蓄を増やすことは必要ですが、財政均衡化で不況を強めるのは間違いです。しかし、株価の変動に連れて消費者が貯蓄を変化させる点が、新しい問題です。さらに、年金を株式市場で運用すれば、その傾向は強まります。同じような年金改革の結果、世界の景気が悪化するときに、世界中で消費が削られるかもしれません。新しい株式市場型「倹約のパラドックス」が起きるのです。

この増加した貯蓄は、バブルによる過剰設備や過剰債務によって、利益を見込める投資が見つからない、という現実に直面します。こうしてBrittanは考えます。1980年代、90年代の過度の楽観が、本当の代価を支払うのだ、と。


FT July 17 2002

Let the dollar fall

By Fred Bergsten

ドルの為替レートはこの6ヶ月間減価してきた。これで、1995年から続いた25%ものドル高を調整する最初の年となった。過大評価されたドルの水準を是正することは、株価の是正と同じように避けられないことだ。アメリカの経常赤字5000億ドルはGDPの5%に達している。それは、1970年代初め、70年代後半、80年代半ば、90年代半ばという、過去の急激なドル安をもたらした水準よりも高い。

そこで問題は、ドルの是正幅と時間だけである。アメリカはGDPの2〜2.5%の赤字であれば維持できるだろう。ドルが1%減価すると、約2年の後に、赤字は約10億ドル減るから、全体の減価率はおよそ25%となるだろう。これまでにその約3分の1が達成されたわけだ。

調整期間としては、これまで理想的に進んできた。ドルの減価は非常に漸進的で、円滑であったから、物価や金利に影響を与えなかった。さらに、アメリカ経済は回復過程にあり、十分な非稼動設備や失業者が存在する(だから輸出を増加できる)。インフレ圧力は存在せず、金利も40年ぶりの低水準だ。ドル安による物価や貨幣市場への影響は、容易に吸収される。

加えて、アメリカ経済は、ヨーロッパや、特に日本と比べて、はるかに力強い。不況にもかかわらず、アメリカの生産性上昇は続いており、企業のスキャンダルがあっても、資本逃避やドルの急落は起きないだろう。

ドル安が株価を下げ、景気回復を挫折させると心配する者もいる。しかしドル安は、逆に、株価を支えるだろう。1.多国籍企業の海外収益を増やす。2.アメリカ企業の価格競争力を強める。3.外国投資家にドル建資産を安く買えるようにする。

アメリカの政策も秩序ある為替レートの調整を促してきた。既に1年前からドル高を鼓舞する言い方を止めた。そして、調整を妨げる介入は行わない、と示唆してきた。

唯一の問題は、他国の反応である。日本は、貿易黒字が再び増加しているのに、ドルとの為替レートが調整されるのを避けようと激しい介入を繰り返してきた。台湾もそれに続く。中国、韓国などの諸国も、ドルの外貨準備を増やすばかりで、それを金融緩和に結び付けない。ヨーロッパ諸国も不満を言い始めた。

確かに、アメリカの持続不可能な貿易赤字を削減する過程で、彼らの価格競争力はいくらか損なわれるだろう。しかし、主要国が揃ってドル高を修正するなら、貿易取引額で調整された為替レートは大きく増価しない。そもそも、アメリカへの輸出はユーロ圏や日本の経済規模にとって3%に過ぎない。さらに、増価によるインフレ抑制効果は、特にユーロ圏で金融緩和を可能にする。

だから、ドル高の是正は来年も続けられるべきだ。アメリカは為替市場に加入しないし、G7諸国にも調整を妨げるような手段を採用しないように主張すべきだろう。なぜなら、世界経済はその結果より堅固になり、将来の持続的成長を脅かす問題を取り除くことができるのだから。


NYT July 17, 2002  

The Cycles of Financial Scandal

By KEVIN PHILLIPS

アメリカは転機にある。社会のビジネスに対する見方が変化しつつある。それは新しい事態ではない。19世紀の「金ぴか時代」や「繁栄の20年代」にも、富は急増し、富裕層が他を圧倒し、金融や技術の革新がブームをもたらした。それは結局、株式市場の崩壊に至った。しかし、今回は、1980年代、90年代の「フィナンシャリゼーション」が余りに深く根を張ったために、より困難な改革となる。

ブームによる大きな富は腐敗を急増させ、金融的にも、政治的にも、思想的にも社会を蝕む。過去20年間で、議席を得るための費用は4倍に増え、ビジネスや金融を規制する法案に関して、1%の富裕層の反応を無視することはできなくなった。金で政策は買えるのだ。

投機市場は思想やイデオロギーも蝕み、強欲や無慈悲さが賛美された。19世紀の市場賛美、自由放任、社会ダーウィニズムと同じように、公共の国家や、市民的目標、公平さは、公的な議論から締め出された。

それは単なるバブルではなかったのだ。この数十年で、アメリカ経済は「フィナンシャリゼーション」という構造変化を経験した。貨幣の移動、証券の管理、企業の再編、資産の証券化、デリバティブ取引、その他の金融パッケージが、物の生産や輸送に取って代わった。規制緩和、コンピューター、政府による銀行・企業救済とFRBの規弛緩などが、その背景にある。

金融・保健・不動産部門が、他の分野を引き倒しながら、政府の助けで経済を支配し、製造業を圧倒していった。それは政治家への献金やロビー活動でも支配的になった。その結果、社会は、製造業部門の労働者だけでなく、平等を軽視し始める。金融の視点から書き直された新しい経営の教科書には、株価を高くするために、従業員を解雇し、株主や地域社会も無視してよい、と書いてある。エンロンは氷山の一角だ。

一世紀前には、鉄道や工業を支配する富者を規制する法律ができた。それが再び公的な論争になりつつある。


FT July 19 2002

Argentine rescue

来週、4人の賢人がブエノス・アイレスに向けて発つ。彼らの使命はアルゼンチン政府を助け、IMFと経済再建計画で合意することである。もし彼らが成功するとしたら、優先すべきことがある。

賢人たちは、知的には、その任務に相応しい。BIS総裁Andrew Crockettと、3名の元中央銀行総裁、すなわちカナダのJohn Crow、スペインのLuis Angel Rojo、そしてドイツのHans Tietmeyerである。問題は、彼らがこの尋常でない、恐るべき状況に対応する十分な想像力を持っているかどうか、である。

金融危機の多くでは、支払能力のある政府が支払不能になった銀行を公的資金の注入で救済してきた。しかし、アルゼンチン政府が破産したために、これはできない。その代わり、損なわれた銀行の資産に等しいだけ、その債務が減らされねばならない。しかし同時に、国民が銀行システムを受け入れるように、その信頼を維持しなければならない。さらにそれだけではなく、通貨システムにとって信頼できるアンカーが確立されねばならない。

これら三つの目的を同時に達成するのは、ほぼ不可能に近い。この矛盾する目標の間で選択するしかない。一つは、中央銀行が銀行の預金支払に十分な貨幣を供給することである。この場合、経済に流動性が回復する一方で、激しいインフレが起きるだろう。

中央銀行家たちが支持するインフレ抑制的な選択肢は、総債務の35%に当る一覧払い預金だけを払い戻すことである。他の債務は無期限に支払を延期し、おそらく長期の国債に強制転換される。現金化が少ない分だけインフレ圧力は小さいから、通常の公開市場操作や外貨準備を使って、(インフレが累積することは)不胎化できる、と銀行は主張する。

しかし、IMFはより制限的な預金の支払を支持している。それは、IMFが外貨準備の利用に反対だからだ。IMFが認める払い戻し額は、中央銀行家たちの提案のさらに約半分である。もちろん、インフレ圧力はより小さい。しかし、銀行への信頼はより大きく損なわれ、銀行システムの機能は妨げられる。

選択は早急になされるべきだ。最善の道は中央銀行家たちの案に思える。インフレの危険はあるが、固定為替レート制度の崩壊は既に高インフレを避けられないものにした。さらに、政治家たちが必要な銀行の債務削減を行うには、より激しいインフレが必要なのだ。

重要なことは、インフレの爆発が一回きりで、断ち切られることだ。それは、その後のドル化か、政府への融資を禁止された独立した中央銀行を作ることで達成できる。

賢人たちの仕事とは、困難な選択を助けることである。彼らが最優先すべきことは、銀行システムの再建で無ければならない。インフレはこのプロセスに必要である。もしそれが一時的であれば、それが最悪の危険ではないはずだ。アルゼンチン経済の縮小過程を止めることは圧倒的に重要な目標だ。IMFが支持しようが、しまいが、やるしかない。


FEER July 25, 2002

The Way Ahead

By Thomas C. Dawson

クローニー・キャピタリズムと透明性の欠如、資産価格の崩壊、そして大幅な経常収支の赤字、というアメリカのニュースを逃れて、最近、東アジアを訪れる機会があった。この5年間に大きな変化があった。アメリカ経済の信頼性は、東アジアで1997年7月にそうであったように、試されている。危機はIMFをもかつてなく揺さぶり、その教訓は国際金融アーキテクチュアとIMFの作業を全面的に見直すことにつながった。改革は7つの分野で進行中だ。

1.金融構造が歪み、資金流入を吸収できない経済では、短期資本を受け入れることが破滅的な結果をもたらす。IMFは資本勘定自由化の危険性を指摘するようになった。

2.アジア危機は、今までに無く、民間部門の債務が増加し、債務処理を困難にした。それゆえ将来は、民間部門のコスト分担(private-sector involvement:PSI)を求める一方で、破産処理法などを整備しつつある。また公的部門の維持不可能な債務も秩序ある組替えが必要であり、債権者の多数決原理が求められる。

3.民間部門のコスト分担や破産処理は救済融資の必要を減らす。同時に、IMF融資には明確なルールを定めるべきだし、その財源を補う地域的なメカニズムが、チェンマイ・イニシアティブのように、有益である。

4.IMFは、BISや金融安定化フォーラムのような発展した諸国の金融システム強化と協力しつつある。また、加盟国の金融的なチェックでは世銀と協力している。

5.危機が波及するスピードは、IMFが国際資本市場を監視する必要を示した。IMFは世界資本市場に対して基準や行動規範を示している。また、もう一つの伝染理由であった維持不可能な為替レート制度は、新興市場への安易な助言はできないが、インフレ・ターゲットと組み合わせた変動レート制への移行を支持している。

6.危機は、発展途上諸国の社会的セーフティー・ネットが不足していることを教えた。危機によって、異なる社会階層がどのように負担を強いられたかを知ることで、金融危機による影響に脆弱な階層を救済することができるだろう。

7.IMFは危機の際に財政赤字の増加を許し、生産の落ちL込みを緩和するようになった。また融資の条件は、より限定的に、目的に相応しいものだけになった。

これらの改革分野は、J.Stiglitzの著書が掲げた改革とそっくりである。彼は実際の改革を後追いしたかったのかもしれない。


IHT, Friday, July 19, 2002

The financial system doesn't work 

Rubens Ricupero (secretary-general of the UN Conference on Trade and Development)

(コメント) グローバリゼーションや国際金融システムは、ラテン・アメリカの金融危機を回避したい、もっと開発を支援するような貿易制度を作って欲しい、世界の貧困を解消したい、というUNCTAD事務局長の嘆きは、多角主義の実現と南南貿易の促進へ向かいます。なぜなら、彼が国際会議で豊かな国に協力を求めても、全く聞く耳をもたないからです。

UNCTADは、確かに、こうして国際的な政治舞台に登場したのです。彼らがその初期の理想を回復することができれば、それに相応しい創造的な手段や制度を開拓できれば、今まさに重要な役割を果たすべきでしょう。


IHT Saturday, July 20, 2002

A rising tide in Asia: Human trafficking

Akira Seki

毎年、アジアの多くの男女と子供が生活の改善を目指して移住する。田舎から都市へ、さらには他国へ。家族のためにより多くの貨幣を得ようと、彼らは非合法移民組織に捉えられる。世界中で、毎年、約200万人が非合法移民になり、南アジアから15万人、東南アジアからは22万5000人が流出する、という。スウェーデン政府の調査では、犯罪組織の仕事として、非合法移民は、麻薬、武器の密輸に次いで、3番目に重要だ。

女性と子供が最も弱く、犯罪組織の獲物になり易い。Sex産業、家内奴隷、建設労働に利用され、子供は農場や娯楽産業で利用される。サーカスの芸人やラクダ・レースの騎手になる者もいる。

社会的に弱い立場にある女性や子供が、もっと保護されるべきである。教育や健康、技能、信用などを、彼らに与えるべきだ。政府や企業は労働基準を守らねばならない。社会保険や社会福祉を充実させ、特に、田舎から出てきた移民たちが集まる都市のスラムで、こうしたサービスを提供することが重要である。彼らが犯罪組織による偽りの約束に騙されないように。


NYT July 20, 2002

Losing My Stake in the Economy

By ROBERT HEMSLEY

私は製紙工場で機械を操作してきた。この工場は世界的な企業に所有されている。工場が建ったのは1920年代で、株式相場は上昇していた。私は時間給で働き、相場のことなど知らない。カントリー・クラブに属さないし、背広も持っていない。私は定年まで働きたいだけだ。

私の工場は大恐慌や世界戦争、幾度かの地震にも耐えた。しかし、Ken Layのスキャンダルには、生き延びることができないかもしれない。多くの小口投資家と同じように、私も、政治家や金融アドヴァイザー、CNBCなどの薦めを信じて、退職金を株式市場に投資した。今や、企業の幹部は責任を逃れ、乗組員を見殺しにする。

多分、私は自分の401(k)が減ったことの言い訳をしたいのだ。しかし、私は市場が公平さを欠いていると思う。20年前は、C.E.O.の報酬が平均的な時給の40倍であった。しかし今や、それは500倍以上だ。私の会社のC.E.O.は、私の時給の592倍を得ている。最近、私たちは職を失うリスクを前に、時給を減らした。しかし、C.E.O.は株式の「褒美」を140万ドルも得たのだ。

これは資本主義ではなく、貪欲さでしかない。被雇用者が給与を減らす一方で、幹部たちがボーナスをもらのであれば、共通の目的という絆が破壊される。誰もが自社の成功を望んでいる。そこで働くことを誇りに思っている。しかし、幹部たちが労働者の貢献を正しく評価しているとは思えない。被雇用者がリスクを負い、幹部たちは報酬を得るのだ。


NYT July 21, 2002  

Stocks Are Only Part of the Story

By ALAN S. BLINDER

テレビのニュースなど聞いていると、景気と株価は同じコインの裏表のように聞こえるだろう。しかし、これは正しくない。

アメリカ経済は、現在、低下しつつあるのでは無い。株価はTVの人気者だが、雇用をもたらし、食事やテーブルを作るのは経済である。幸いなことに、経済は株式市場よりもはるかに良好だ。もし自信を得たいのであれば、TVのスイッチを切って、ショッピングモールに出かけることだ。

通常、経済と株式相場は同じように動く。なぜなら、好景気は企業の利潤を増やし、高株価の伝統的な基礎となる。株価上昇は消費者に富をもたらし、企業の資本調達を容易にする。

しかし、時には二つが別々に動く。たとえば1987年10月に今の弱気相場と同じくらい下落した際も、経済は力強く拡大していた。だからPaul Samuelsonは、株式市場は過去5回の不況のうち、9つを予測した、という冗談を述べた。

二番底を予測するのは間違っている。消費は好調で、住宅市場は活況を続け、企業の投資も回復しつつある。経済指標は病気を示していない。FRBも今年後半に3%の成長を予想し、民間の予測はそれより少し高い。

ではなぜ株価は下がるのか? スキャンダルの連続で株価が大きく損なわれた、ということだろう。投資家はもっと続くと見ている。アメリカ企業の収益報告は汚れてしまった。

重要な問題は、この病気が経済全体に広がるかどうか、である。もし富を大きく破壊し、不安から信用市場が収縮すれば、経済全体を脅かすような金融混乱が起きる。尻尾は犬を振るかもしれない。われわれは市場のスパイラル的な下降を回避しなければならないのだ。

しかし、どうやって? 言葉も、非常に巧妙に使うなら、効果があるだろう。しかし、話すのはたやすい。たとえ信奉者の多いグリーンスパンの言葉でも、市場に無視された。市場は政府の行動を求めているのだ。

市場が政府に規制を求めるのか? 矛盾しているが、その答えはYesだ。政府の介入に市場は対立した感情を抱く。順調なときは、放っておくように求め、事態が悪化すると、政府の助けを求める。最近のブッシュ氏の演説も、大声で、しかし実効性の無い、改善策だけを述べたから、市場は下落し続けた。

この市場のメッセージに、議会もグリーンスパンも耳を傾けた。しかし、ブッシュ氏はどうか? 民間部門の行動が会計や企業統治を改善するとしても、市場は、たった今、政府の行動を求めている。

(コメント) Robert E. Rubin ( “To Regain Confidence” WP Sunday, July 21, 2002)は、市場の不安をもっと深いものと考えます。すなわち、市場が信頼を回復する長期の条件とは、三つの問題を解決することです。1.財政黒字から、一転して財政赤字の増加。2.貿易自由化の難航。3.テロとの戦争。


FT July 22 2002

America is no Japan

By Richard Katz

(コメント) Katzは、アメリカが日本のようなバブル崩壊後の不況に陥ることは無い、と主張します。なぜなら、日本のバブルは、@株価上昇、A地価高騰、B融資膨張、C生産設備の過剰投資、によって起きたが、アメリカのバブルはハイテク部門の株価に限られるからです。

特に、銀行部門の腐食が、日本とアメリカでは全く違います。さらに、日本の過剰投資は生産性を損なったけれど、アメリカの生産性は上昇しました。結局、今の企業スキャンダルも、バブルがどこでも引き起こすことであり、アメリカは日本と違って競争的な政治システム、企業統治システムが、改革を加速しているのです。

日本型システムに回帰したほうが良い、などと言い出す日本の官僚や企業が、改革する気など無いのであれば、残念ながら、彼の言うとおりでしょう。

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The Economist, July 13th 2002

Cleansing the Augean stables

(コメント)

EUの共通農業政策(CAP)が、今後のアメリカとEUとの主要な貿易交渉事項になります。これはEUの拡大にとって避けて通れない問題であり、また新しい貿易交渉でも主要な議題です。

CAPは、豊かな諸国で最も破滅的な公共政策の一つである、とthe Economistは言います。それは消費者と納税者に大きな負担を強いています。EU予算の半分が、人口の僅か5%でしかない農民に与えられるのです。CAPによって、EUの農産物価格は世界価格よりも大幅に高いものになります。そして農産物を過剰にし、これに補助金をつけて輸出します。関税によってヨーロッパ市場を保護するだけでなく、海外市場の価格を下げて、貧しい国の農民を苦しめます。またCAPは、その目標である小規模農家の所得を維持することに失敗し、人々がますます耕作を諦める一方、大規模なアグリ・ビジネスが栄えています。

改革案では、価格保証を削り、生産への補助金から、直接の所得補償に移行します。納税者は、もっと直接に、環境保護や地域の発展を望んでいます。生産と切り離された補助金は、こうして貿易の自由化に近づくでしょう。

EU委員会は、CAPを新規加盟諸国に拡大するつもりはありません。彼らは既存の加盟国の4分の1だけ受け取れます。それでも、もし彼らが加盟すれば、CAPによる補助金を強く支持し、改革を阻むでしょう。しかし、1999年のように、フランスは改革案をうやむやにできないだろう、とthe Economistは予測します。なぜなら、農業問題は、EUサミットの全会一致と違い、閣僚委員会で多数決を使えるからです。


The unlikeliest scourge

(コメント)

史上かつて無い財界寄りの政府です。Teddy Roosevelt をまねたり、Ronald Reganを気取ったりしますが、ブッシュ氏は財界の悪者を狙撃するSWATチームを司法省に設ける予算を組むだけで、制度には手を付けません。

MBA型の政権運営が自慢でしたが、これほどアメリカ企業の経営にケチがつけば、政府に対してもむしろマイナスです。この政府は、要するに特殊利益の経済学を体現するだけに見えます。企業の喜ぶことが、常に、正しい経済政策であると信じるのは愚かです。景気刺激策の名を借りて、企業や富裕層に報酬を与えたのは間違いでした。補助金などの経済政策を業界のロビーに任せてしまえば、正しい判断は期待できません。

政府の判断は余りに目先の選挙を重視しています。政策は共和党の選対本部長が決めている、とさえ言えます。小さな政府や財界に反対してきた保守派の指導者も、ブッシュ政権が大企業に乗っ取られたことを非難しています。

民主党も、多かれ少なかれ、財界に依存しています。スキャンダルによる国民の不満が、アメリカの企業システムを改革するチャンスは、どうやらこのまま失われる、というのがthe Economistの判断です。