IPEの果樹園2002

今週のReview

7/15-7/20

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アメリカの株価が下落を続け、ドルの大幅な減価に対する警戒感が強まっています。このままではFRBが、デフレを回避するために、ドルの減価を無視してさらに金利を引き下げるかもしれません。アメリカ政府や連銀は、結局、ヨーロッパや日本がアメリカの地位に代わることはない、と思っているのです。アメリカだけが世界の経済成長や国際貿易・金融取引を組織する力を持っています。だから、ドルの大幅な減価が、国内の調整過程を促す以上に、歯止めの無い暴落へ向かうことはない、と自信を持っているのでしょう。

講義やゼミで学生の皆さんから意見を聞き、話し合った結論も、この「再建ドル本位制」が今後も持続力を示しそうだ、というものでした。今も、アメリカが世界の成長のエンジンであり、金融ビジネスの中心であり、新しい技術や製品を生み出すヴェンチャー企業の聖地なのです。アメリカだけが、世界的な規模の制度を構築し、ルールを改変し、自由や民主主義という「理想」を掲げ、自国の安全保障を理由に世界の果てでも戦争を辞さない政府を持つ国なのです。

アメリカのモデルは、ニュー・エコノミー論に示された競争促進と低インフレ、ハイテクによる生産性上昇でした。高速道路とインターネットが作り出す、ますます統合化される世界に対して、アメリカの理想は輸出されます。それにくらべて鉄道を愛するヨーロッパは固定制を守り、日本人は移動することを諦めたように見えます。

グローバリゼーションの時代には、世界政府や世界中央銀行が、遠くの<理想>であるより、厳しい<現実>となるでしょう。アメリカの軍隊が反テロの世界秩序を唱え、国連平和維持軍や国際刑事裁判所に関する論争が、将来の軍事的・法的秩序を強めるでしょう。G7やNATOにロシアを加え、WTOに中国を加えて、世界秩序は名実ともに世界を覆いつつあります。そして、次第に、ECBが準加盟国を拡大し、FRBもAPEC全体に拡大するかもしれません。

それは、これまでの<理想>がにわかに支持者を増やしたわけではなく、グローバリゼーションをめぐる競争的なリンクと、それが支配層にもたらす利益の大きさによるでしょう。世界的な規模の革新や貿易、金融取引にリンクすることで、既存の政治的エリートたちも、資産家階層(あるいは裕福な老人たち)も、新しい利益に寄生できることを理解したのです。

自由貿易の拡大は、既得権との対立と政治的な反動に悩まされました。しかし、革新を促す金融ビジネスの導く世界的統合化は、逆に、政治的勢力のグローバリゼーションも伴います。

かつて、「先進」諸国のケインズ主義的福祉国家が国際レジームを築くことを企て、失敗しました。今では、グローバリゼーション自体が、個々の政治指導者たちに国際的な戦争の抑止と福祉の改善を約束させるのです。ただし、ニュー・エコノミー論が循環的な不況を免れなかったように、グローバリゼーションも繰り返しバブルやデフレを強める徴候が見えます。

アメリカが不況になれば、日本やヨーロッパはドルの減価を抑えるために介入し続けます。それが「再建ドル本位制」を持続させる条件なのです。それでも不況が続けば、本当の意味での金融危機が、遂にアメリカから世界へと波及するでしょう。グローバリゼーションの政治的基礎は、その縮小過程で、政治的な犠牲を強いるはずです。

StiglitzとRogoffが論争したように、グローバリゼーションの弱者や敗者の声を反映する制度が、世界政治を回復させる鍵を握るのです。

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg


WP Sunday, June 30, 2002

Come See the Shanghai Bubble

By David Ignatius

ようこそ! 上海へ。世界最後のブーム・タウンへ。ホテルの窓から見下ろせば、あなたはまだ、昔のTV番組を観ているようだ、と思うに違いない。

世界中でバブルは崩壊し、ヨーロッパもアメリカも再び沈み、日本は倒れたままだ。ドル下落への恐怖が広がる。しかしここ、中国では、心配なんて誰もしない。驚異の国として、人々は警察国家の暮らしに満足している。非公式ながら、そのモットーは、「船を座礁させてはならない」である。

ここでは、一世代前にケ小平が述べたように、金持ちになることが今も素晴らしいことだ。町のいたるところにお金が溢れている。以前の上海が西側の退廃を示す産物であったとしたら、新しい上海の過剰さは中国人自身が生み出したものだ。深夜のディスコや、めまいがするほどの高層ビル、金のためなら近隣をブルドーザーで一掃する住民たち。それさえ我慢できるなら、なんとも素晴らしい町だ。

もちろん、銀行部門はめちゃくちゃだ。The Economistの推計では、融資の30〜50%は返済不能である。しかし、自転車をこぐ人のように、止まることは許されない。中国はバブルを持続させて、経済の開放や透明性・規制の改善、汚職撲滅など、改革を進めるしかない。彼らは、富に至る道を進むためになら、こうした改革を進めることができる。

政治システムの改革がいつ始まるのか、誰にも分からない。多くの中国人たちは、西側で騒がれる民主主義や人権の議論に飽きている。満腹の人を怒らせるのは難しいのだ。中国人は、民主主義が国を安定させるとは思わない。

中国人も変化のスピードについていけないのではないか? と思う。1980年代半ばには、この町に自転車が溢れ、いくらかのバスと、共産党幹部が乗るリムジンしか見かけなかった。しかし、今や、フォルクスワーゲンやGMが現地生産する自家用車で溢れている。ほとんどの人がアパートに住み、その60%が自宅を所有しているだろう、という。沼地と倉庫しかないPudong地区を開発すると言う上海市の計画を、当時は、つまらない冗談だ、と思った。

Xintiandiショッピング地区も、3年前は労働者の住む、倒壊寸前の集合住宅が建つ場所であった。住民の45家族にはそれぞれ1万ドルが支払われ、彼らはそれで新しい素敵なアパートを買った。そして労働者たちの住んだ石の壁は、驚異的な再生を遂げて、今や、上海で最も豪華な小売センターである。

間違いなく、上海のバブルも破裂するだろう。しかし今は、この地球上でもっとも熱い投機都市を見ておくことだ。それが東京やウォール街の後を追う。


The Guardian, Monday July 1, 2002

The number is up for Wall Street

Larry Elliott

ジョージ・ブッシュは躓いた。これは、ウォール街のウォーターゲート事件だ、という声もある。それほど問題は深刻である。大統領は70%もの支持を得ながら、その政治・経済を強欲な詐欺師crookたちの一群が支配している。カナダのG8でブッシュ氏が示した対策は、彼自身の過去によって信用を得られず、中間選挙を睨んで共和党を批判する民主党議員たちの批判をかわせなかった。戦争には勝ったが経済運営に躓いて二期目の選挙に敗北した父親と同じように。

アメリカにとっても世界にとっても、経済の見通しは明るくない。2002年の半ばまでに回復するというシナリオはある。金融政策をそれまで緩和し続けるだろう。減税や軍事支出も加えた刺激策が、国内需要を支えることになっている。対外的にはドル安を放置し、輸出を促すことで成長を刺激する。ドルの下落が続けば、貿易収支の赤字を減らし、個人貯蓄を促すだろう。ECBもアメリカの跡を追っているから、金融緩和で需要を喚起する。テキストに従えば、ワールド・コムの事件は、マクロ経済学の均衡回復に貢献するわけだ。

連銀のアラン・グリーンスパン議長は、回復が行き過ぎないように、借入コストを押し上げるつもりだろう、と最近まで見られていた。しかし、金利を引き上げず、むしろ日本が1990年代前半に悪化する経済を放置したことで、デフレと不況に陥ったことから教訓を学んだわけだ。それでも、まともなストラテジストであれば、最悪の場合に備えようとするだろう。

アメリカ企業への信頼が失われ、債務によって途方も無い拡大計画を建ててきたニュー・エコノミーは、急激に圧縮されている。ウォール街には企業のジャンク債が溢れており、その金利は一気に上昇した。発展途上諸国がそのコストを学んだように、問題のある債券へのリスク・プレミアムは困難な時期に上昇する。借入コストの上昇が意味するのは、拡大計画を諦め、雇用を削って資金を浮かすことだ。

市場の弱気が投資を減らし、企業の見通しの悪さがさらに資金を流出させる。ドル安は輸出を促進するはずだが、この数ヶ月で10%減価しても、1990年代半ばから60%も増価したことに比べるべきである。アメリカが輸出指向で成長を回復するには、まだまだ大きなドル安が必要だ。消費に関しては、金利の低下が、株価下落によるマイナスの資産効果や雇用不安と打ち消しあっている。所得や消費は減少するしかないが、問題はその程度である。

経済政策がこれを補正するのは間違いない。企業家たちはFRBにさらなる金利引下げを求めるだろう。しかし問題は、政策担当者たちにも打つ手が少なくなっていることだ。

アメリカ人たちに鼻柱を折られてきた日本やヨーロッパの政策担当者たちが、アンクル・サムの災難を影で喜ぶ気持ちは理解できる。しかし、日本が円高を止めようと必死になるのは別問題だ。日本もユーロ圏も、アメリカの不況が長引けば深刻な損害となる。アメリカ市場への輸出は落ち込み、ドルに実質的にリンクしたアジア諸国との競争は厳しくなる。グローバリゼーションの活力とは、アメリカ経済からその他の世界への強力なフィードバックであった。アルゼンチンでは暴動が、ブラジルに関しては不安が、ラテンアメリカの不幸を予見させる。

この5年間続いた危機の終幕がいよいよ近づきつつある。ワールド・コムのスキャンダルは、資本主義が自己破綻するとか、アメリカ経済の死滅を意味してはいないだろう。アメリカは、ウォーターゲートやベトナム戦争後にも復活したのだ。しかし、その条件は、アメリカが素早く教訓を学んで、修正を行ったことである。過去20年間、アメリカが巨大な金融企業に経済を委ね、規制緩和でウォール街をルーゼベルト以前の無法地帯に戻したことは失敗であった。アメリカの普通の人々が、彼らの国を立ち直らせるために、勝利すべき時だ。


WP Monday, July 1, 2002

Between a Rock and A Bailout

By Sebastian Mallaby

ジョージ・ブッシュはイスラエル・パレスチナ紛争に関わりたくなかった。しかし、その後、彼はアメリカ大統領が関与する必要を認めて、中途半端なプランを示した。今度は、新興市場について、同様の転換を強いられるだろう。

ブッシュは救済融資の意義を疑っていた。彼の考えでは、新興市場が自分たちの問題を解決するのを、アメリカは妨げるべきではなかった。リンゼーやオニールも、それまでの救済融資を批判していた。

この哲学は、トルコへの救済融資に際して一部修正された。9月11日の後、トルコの戦略的な重要性が高まっていたからだ。昨年8月に、中途半端なプランでアルゼンチンの危機を回避しようとしたが、失敗した。その後、12月、1月には、ブッシュ政権はアルゼンチンの崩壊を見捨ててきた。救済融資は行わない、という哲学を実行した。

しばらくは、それが上手く行ったようだ。暴動や政治混乱はあったが、少なくともブッシュ政権はアルゼンチン国民が自分たちの政策失敗で危機を招いたことを認めさせた。また、アルゼンチンの危機が他国に波及することは無かった。それは、彼の不介入政策の勝利であった。

しかし、半年が経って、危機の伝染が起きはじめた。苦境を強いられたアルゼンチン人たちは、隣国ウルグアイからも預金を引き出し、銀行危機を招いて、その通貨を切り下げさせた。大量のドル預金を抱える他のラテンアメリカ諸国も、銀行システムが怪しくなった。アルゼンチンのドル預金が凍結されたために、周辺諸国でも不安が広まった。また、アルゼンチンで正統派の経済学が破滅した結果、各地のポピュリストが勢力を強め、ペルーでは民営化に反対する暴動で二人の死者が出た。

さらに、ブラジルで高まる不安だ。サッカーへの熱狂は経済の回復をもたらさず、ブラジル通貨が減価している。投資家たちはデフォルトを心配する。左派の大統領候補やブラジルにおける債務増という問題は、国内から生じている。しかし、アルゼンチンの危機は問題を複雑にする。投資家はアルゼンチンの次に危機が発生する国を探して、金利を大きく引き上げ、逆に崩壊の可能性を強める。

不介入政策自体が各国政府の改革を難しくしている。国内の秩序を立て直すどころか、アルゼンチン政府は次々と失策にはまり、意味のある安定化計画を示さなかった。今もまた、尊敬された中央銀行総裁が不満を示して職を辞し、暴動も起きている。アメリカ政府の強い姿勢は、アルゼンチンの改革をもたらしていない。

これは驚くべきことだ。1980年代に債務危機が収拾されないまま、ラテンアメリカで異常な政策が行われた。クリントン政権の救済融資はとんでもない問題を押さえ込んだ。たとえば、1982年のデフォルト後に、メキシコ政府は銀行を国有化した。これに対して、1995年のクリントン政府が行った救済融資は、メキシコを正統的な政策に留まらせた。救済しない政策は、治療よりも毒薬になりうる。たとえば、最近のラテンアメリカでも、イスラエルでも。

ブッシュ政権は難しい選択に直面する。一方では、救済融資は万能薬では無い。しかし他方、不介入の姿勢は問題を悪化させる。もし10月の選挙に向けてブラジルが危機を高めればどうなるのか? オニールは不介入を続けると発言したが、他の高官はそれを直ちに否定した。結局は、ブッシュも次第に干渉するしかないだろう。中途半端なプランと、混乱が基本的に収拾できないとしても。


FT July 2 2002

Top economists engage in war of words

By Ed Crooks, Economics Editor

Kenneth Rogoff on 'Globalization and its Discontents'

(コメント)

Kenneth Rogoff がJoseph Stiglitzの著書を、個人的な激情に駆られて、何とかして痛罵してやろう、と発言したようです。けれども、それがIMFやノーベル賞をまとった経済学者であったために、通貨危機や国際通貨システムをめぐる不協和音を高める結果となりました。

『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』というゴテゴテした表題は、なるほど、彼らの感情的な違和感を示す意味深長な翻訳であったと思います。半分ほど読んだ私の印象は、IMFへの不満が良く分かるけれど、特別なひらめきは感じられない、というものです。Rogoffの結論?の表現(内容ではなく)に少し近いかもしれません。

おそらく唯一の重要な論争点は、通貨・経済・政治危機の国に対して、財政支出の削減や、金利の引き上げを強制することが、IMF(やケインズ)の名で許されるのか? という問題です。

財政赤字を国債の発行でやりくりできず、通貨を増発して自国民にさえも保有してもらえなくなった政府が、IMFにやって来て、飛ぶように売れるホット・ケーキの作り方を一晩で学ぶのは、確かに無理です。

二人の主張は、明らかに前提から食い違っていると思います。Rogoffが言うように、激しいインフレを抑えて、財政赤字を長期にわたって制御することは、通貨危機を収拾して成長を回復する上で、間違いなく必要な条件です。

しかし、Stiglitzが言うように、それは雇用や短期的なコストを無視して行えることではないでしょう。にもかかわらずIMFは、そのために一時的な資本規制を導入したり、外貨建の短期債務を交渉によって長期化したりする余地を認めませんでした。

私は、二人が対立した見解を示すこともできなかった未解決の重要問題がある、と思います。それは、各国の為替レート制度と資本自由化を、国際通貨システムとしてどう扱うべきか? ということです。

「君が100%正しいと、どうして言えるのか」「君の批判のせいで市場の不安はさらに深まり、危機の犠牲者が増えたんだぞ」「そんなことを言って、よく眠れるな」 ・・・

彼らの言い争いを読む限り、多くの点で、正統的な経済学者は似たような議論をしていると思います。経済学者の議論に特有の「Stiglitz-Laffer-Rogoff」問題です。経済学では、議論が正しいことと、現実の問題に対する正しい解決策とを、意図的に単純化して同一視するのです。


FT July 2 2002

Protect the great powers

By Michael Lind

ブッシュ政権は外交問題で多くの過ちを犯してきたが、彼が国際刑事裁判所に反対することについては、その正しさを認めねばならない。

ボスニアの国連平和維持軍を継続することに反対投票してでも、国際刑事裁判所の修正を求めるべきだ。これはまたアメリカのユニラテラリズムの現れだと非難されるに違いない。しかし、その意見は間違っている。思い出すべきであるが、クリントン政権も、ヨーロッパ諸国の反対に逆らって、国連軍が訴追されない権限を安保理が持つように求めた。

一体どんな危険があるのか? たとえば、2001年5月に前国務長官のキッシンジャーがパリを個人的に訪れた際、チリのピノチェト将軍がフランス市民を殺害や行方不明に関わったという訴えについて、フランスの裁判所で証言を求められた。それは、フランスの法廷が、左派の「キッシンジャーを『戦争犯罪』で裁くべきだ」という主張を暗黙に受け入れたものだ。他方で、スペイン政府はキューバの独裁者であるカストロを政府の賓客として扱った。ヨーロッパの諸政府が、右派と左派で独裁者の基準を変えることを、アメリカ人は忘れてはならない。

戦争犯罪者が訴追を免れることは許されない、と誰もが思う。しかし、問題はその方法だ。アメリカとヨーロッパとの間、そしてヨーロッパと世界の間には、隔たりがある。

ヨーロッパ以外のいかなる大国も、国際刑事裁判所を認めない。ロシアも、中国も、インドも、この条約を承認しなかった。むしろ、なぜイギリスやフランスが、自らも国連軍に参加するにもかかわらず、平和主義や中立を主張してきたヨーロッパの小国に協調して国際刑事裁判所を主張するようになったのか?

この問題は、戦争犯罪を超えたものである。冷戦後の世界秩序に関して、三つの異なる意見がある。一つはブッシュ政権が支持するユニラテラリズム(一方主義)、世界的なアメリカの覇権、あるいは「帝国」体制である。これに対して、誤ってユニラテラリズムと見なされている、二つの、マルチラテラル(多角的)な見解がある。一つは、国際刑事裁判所が示す、世界政府論である。もう一つは、よりユートピア的でない、大国の世界協調である。前者は小国の市民がスタッフとなる機関を描き、後者は国連安保理やNATOのような大国の協議機関が考えられる。

国連安保理が、国連軍やNATOの犯した犯罪を処罰し、命令する権限を持つ。安保理は、アメリカや同盟諸国が犯した犯罪に関して現地政府と交渉し、その訴追や処罰に関して「軍隊の地位」を取り決める。こうした枠組みは、アメリカを含む他の大国にも受け入れられるだろう。

たとえそれが高潔ではあっても、小国に依拠した市民的世界秩序は、軍事大国の協調による秩序よりも、実現の見込みが小さい。だが、巨象たちに制限されたクラブの支配は、ねずみを喜ばせはしない。

(コメント)

Hugo Young は、We can't allow US tantrums to scupper global justice (The Guardian, Tuesday July 2, 2002) で、イギリスのHurd卿が「平和をもたらしたのは、どこでも法律ではなく政治であった。」「政策は差別的でありうるが、法律は普遍的でなければならない。」それゆえ国際刑事裁判所の要求は現実離れしている、と演説したことを紹介します。

この国際主義的な国際刑事裁判所への反対と異なり、Youngは、アメリカの例外主義を批判します。キッシンジャーやサッチャーは裁判所の権限が遡及しない点で訴追されないでしょう。そして、大国の政治対立で機能しなくなる心配があるとしても、将来の戦争犯罪や大量虐殺を防ぐことができるのは非常に有意義だ、と主張しています。


ST JULY 3, 2002 WED  

Economic reality exposes analysts who push fads

JEFFREY D. SACHS

(コメント)

Sachsは、企業のスキャンダルに留まらず、そもそも為替レートや株式相場が長期のファンダメンタルズから大きく乖離することがあり、それが実物経済における雇用や投資をゆがめてしまうことを、人々が気にし始めた、と言います。しかも、相場が現実的に見て正しくないことを指摘できるトレーダーは非常に少なかったことを重視します。

専門的な知識を生かして、市場の間違いを指摘できた者もいます。ですから、Sachsは経済学が間違っていたとは考えません。これまでのドル高も、インフレや構造変化によって説明できる水準を大きく超えていました。

レーダーたちがもっと正しい知識を持ち、それに従って売買を行うべきだ、とSachsは考えます。しかし、正しい知識に基づく投資が必ずしも利益をもたらさないことは、ケインズも指摘したことです。市場が美人投票であれば、群衆行動によって相場は異常な水準に押し上げられ、しかも短期で調整されるという正しい予測を裏切り続けます。ブーム・バスト循環の被害がどれほど深刻なものかは、ここ数年のアジアやラテンアメリカの経験が示しています。

どうすれば良いのか? Sachsの答えはむしろ正直で、冴えないものです。@主要な投資銀行はアナリストたちに対する専門的な教育をもっと真剣に行え。Aメディアは、大衆の意見に迎合せず、経済の趨勢を批判的に精査せよ。B専門的な経済学者は、たとえ短期的には市場の動向と離れていても、金融市場がファンダメンタルズを繁栄するように、確かな意見を示し続けよ。C金融市場の規制によって、ホット・マネーがブーム・バストを増幅することを抑えよ。

しかし、ケインズも同じことを求めたのだ、とSachsは嘆きます。

私は、金融市場が長期的な観点から投資を評価するように、“Tobin Tax” のように短期的な利益に対しては課税し、長期的な投資で成功する者を助成するような「日本型?」資産市場を組織できれば良い、と思います。そのために、長期的な結果に照らして、投資機関や調査機関も格付けすることです。


NYT July 4, 2002  

Surging Czech Currency Sets Records

By PETER S. GREEN

(コメント)

チェコの通貨、クローナの増価に関しても、改革が成功して直接投資が増えれば、それ自体が輸出を困難にし、投資の失敗や通貨危機を招きます。予測できるような幅で為替レートが変動してくれれば、調整できるのだが、という国内投資家や政府の望みは切実でしょう。大幅な変動でも利益を確保できるのは、利益を短期間に回収できる業者や、多くの海外拠点と金融技術を駆使して為替リスクに備えている多国籍企業ではないでしょうか?

東欧諸国がEMUに準加盟する制度は、急速に、整備されていくでしょう。その場合、財政赤字やインフレ率など、従来と似た枠組みの収斂基準とともに、金融機関の精査や最後の貸し手機能に関する合意、民営化や市場による調整の円滑化など、包括的に議論する恒常的な機関が設けられると思います。これまでのEMUの議論とは異質な領域に踏み込むわけです。


FT July 4 2002

IMF chief hints at action on dollar

By Scheherazade Daneshkhu and Chris Giles in London

FT July 5 2002

Intervention debate fails to move the dollar

By Jennifer Hughes in London

(コメント)

もちろん、IMFは、マッキノンやウィリアムソンの提唱する為替レートの水準を常に考慮しているのでしょう。介入の水準を具体的に示さないだけで、主要国がどのような水準で為替レートを安定させるべきかは、国内の安定化が互いに矛盾しないための条件です。なるほど、変動レート制においても「N−1問題」は存在します。

しかし、IMFのケーラー専務理事は、介入に言及することで注意を向けたに留まり、ドイセンベルク総裁やオニール長官の公式な対応はそれを否定するものでした。為替レートに制約されるか、国内目標を重視するかは、もっぱら大国の利害であり、その基準を明示するどころか、協調の可能性を議論するだけでも、国際刑事裁判所で裁かれるような恐怖感があるのでしょうか?


FT July 5 2002

The odd couple of global finance

By Ed Crooks

StiglitzとRogoffとの論争を見れば、反グローバリゼーションの活動家たちが憎む「ワシントン・コンセンサス」とは何か? そんなものがあるのか? 疑問が湧いてくる。

論争の焦点は、二人の人物にではなく、提起された諸問題に向けられるべきだ、とStiglitzの後任であるSternは注意する。

互いの機関は余りにその性格が異なり、しかも余りに密接に仕事をしている。Rogoffの批判は度を越しているようにも見えたが、IMFが不当に非難されているという不満はこの組織に広く共有されていた。そもそもStiglitzが本で、IMFのスタッフを三流と呼び、高級ホテルに数日泊まって審査書を捏造する、と侮辱したのだ。

二つの機関は同じく1944年のブレトン・ウッズ会議で誕生したが、その性格は全く異なった。世界銀行は経済発展を、IMFは世界経済の安定性を目的としている。OxfamのJustin Forsythは、「IMFは共産党に似ている。それは前衛であり、非常にイデオロギー的であり、トップ・ダウンである。」「世界銀行はより複雑であり、大学に似ている。多くの異なる意見が渦巻いており、意思決定と組織との関係を確認できない。」世界銀行はIMFの約4倍、1万人を雇用している。

Charles Wyploszは、「IMFはプロシアの軍隊に似ており、世界銀行はメキシコ軍だ」と言う。「IMFの職員は自分たちが優秀で知的であると思っており、世界銀行を見下している。IMFは非常に同質的で、指導的な大学からしかスタッフを雇用しないが、世界銀行はもっと幅広く雇用する。

彼らの文化の違いは明白だ。


FTJuly 5 2002

The bear necessities

By Philip Coggan

(コメント)

株式市場の回復はいつか? という考察です。「通りが血に染まるときは、買いだ」というロスチャイルド男爵の助言に従うのは、いつが良いのか? 相場の下落は、何度も持ち直しては、再び始めるものである、と。

1.   時間:28ヶ月目に入ったのは今世紀で最長となり、大恐慌の記録を超えている。しかし、最長のブームの後であるから。

2.   大衆の意識:人々が完全に株式を諦め、雑誌が「株式の死滅」を特集した頃が底になる。しかし、人々が投資信託を全部引き出したというニュースは聞かない。

3.   価値:株価が大幅に割り引かれた頃が底になる。しかし、歴史的に見ても、企業収益から見ても、株価はまだ高い。

4.   金融危機:金融システムが一種の危機を迎えることで、漸く下落は終わった。

いままで下落すれば買い増して、儲けを増やした投資家たちが、今度は損を膨らませている。彼らが完全に間違いを思い知るまで、まだ下落は続くだろう、と言います。


WP Monday, July 8, 2002

Escapees From a Vicious Cycle

By Jackson Diehl

アルゼンチンを救済する融資に賛成する議論として、危機が地域的に波及する危険が強調されている。確かにウルグアイやブラジルの市場で不安が高まり、市場経済への信頼が揺らいでいる。

だが、ラテンアメリカはもはや同じブームと破綻の循環にあるのではない。最近の債務危機は1990年代の自由主義的な経済学が失敗であったことを示すわけではない。二つの国では目覚しい成功が実現した。すなわち、チリとメキシコだ。

現在の両国はアジアの成功した発展途上諸国に似ている。ともに、次の一世代で、世界の上位所得クラスに参入する機会を狙っている。ラテンアメリカの金融危機は既に昔の話だ。今では、どのように貧困を減らすかが問われている。

15年以上も高成長を続けて、チリは貧困層を、45%から21%へと、半分以下にした。20世紀の大部分を通じて、チリはアルゼンチンよりもかなり貧しかったが、2000年にはアルゼンチンより40%も豊かになった。ペソ危機を経て、1995年からメキシコも確実に成長した。今では一人当たり所得でペルーの2倍、ブラジルよりも40%以上は豊かである。アルゼンチンは昨年末に破綻したが、メキシコとチリの債務は今も発展途上諸国で最良のクラスに属している。

ラテンアメリカでこうした分割が生じた最も重要な理由は単純である。それは自由貿易だ。東アジアと同じように、チリは30年近くも貿易を通じた成長の戦略を採ってきた。メキシコも、カナダやアメリカとともに、NAFTAに署名した。1990年代、チリの輸出は年率9%以上で増加し、メキシコの輸出は4倍になった。メキシコの貿易額は保護主義的なブラジルよりも多く、チリの1500万人は、昨年、一人当たり1466ドルを輸出したが、アルゼンチンは875ドルに過ぎない。

アルゼンチン政府の問題は、自由主義的な経済学ではなく、輸出企業の競争力が失われたのに、過大な価値でドルへの固定制を維持する政策に固執したことであった。同じことがチリとメキシコでも起きた。両国は通貨をドルに固定し、過大評価に陥って、通貨危機に陥った。ともに貿易によって成長を回復し、チリは関税を引き下げて、メキシコはNAFTAに入った。メキシコはEUとも自由貿易協定を結んだ。アルゼンチンは逆に進んだ。関税や税金を引き上げ、IMFとブッシュ政権に救済融資をせがんだ。

アメリカ政府は不幸を長引かせる救済を行わなかったが、正しい薬も与えなかった。すなわち、アメリカと全ラテンアメリカとの南北アメリカ自由貿易圏である。政府は議会の反対にあって、貿易促進法案や二国間の合意、以前からある優遇策さえも後退させている。

これこそ真の地域的な危機であろう。新しいラテンアメリカの離陸を支援することなく、旧いラテンアメリカが戻ってくる。

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The Economist, June 29th 2002

Present at the creation

(コメント)

世界の秩序を築くとしたら、現在、アメリカ以外の国は無いでしょう。Bill Emmottは、ブッシュ政権が描く世界秩序に、一定の批判を行います。

アメリカは圧倒的な力を持つだけでなく、9・11以後、それを行使する意志も持つようになりました。新しい同盟国を選択して組織し、アメリカが邪悪であるとみなした国は軍事的に滅ぼすことも辞さないわけです。しかし、滅ぼされた国から、さらに多くのテロリストが生まれるかもしれません。アメリカは、新しい国の建設にも関与しなければなりません。

Emmottは、三つの方法がある、と指摘します。@共同行動、A多角的援助、そして、B貿易や金融による統合化、です。Haasの議論を受けて、Emmottがこの「統合化」アプローチを重視しているのは明らかです。そして、それが成功する条件とは、豊かな国が市場を開放することだ、と強調します。

狂った独裁者に支配されるよりも、法に支配されるほうが良いでしょう。アメリカが多角的アプローチを嫌う理由を、Emmottは単なる「例外主義」として理解しません。アメリカが唯一の超大国であることが、また、民主主義と法の支配を自国民に保証するためには、戦後のITOがそうであったように、国際刑事裁判所のようなアプローチには反対するのです。

しかし、アメリカが自国の法や民主主義を理由に国際的な制度を回避することにはコストを伴います。Paul Kennedyは20年早くアメリカの衰退を予言しすぎたのです。アメリカの世界的な関与の増大と秩序維持のコスト増大は、過剰な拡大政策によって滅んだ過去の帝国と同じです。ブッシュ政権は、その保護主義や金融バブルの処理において、帝国の能力を後退させるかもしれません。

テロリストや反米感情は、アメリカにとって真の脅威ではない、とEmmottは考えます。そして、国際秩序を築く上で、アメリカ以上に相応しい国は考えられない、と言います。世界中でアメリカが憎まれるとしたら、その強さゆえにであって、庶民たちは圧倒的にアメリカの自由や民主主義、豊かさや弾力性を求めているのです。

「アメリカは出て行け!Yankee go home!」・・・「でも、私を連れて行って!but take me with you!」