IPEの果樹園2002
今週のReview
5/27-5/31
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国際紛争や戦争の歴史は、事実としてだけでなく、その解釈によって力を得ます。どこかの国に、「政治家は常に過去の戦争を利用し、軍人たちは常に次の戦争を夢想する」と述べた歴史家もいたでしょう。
イスラエルとパレスチナの戦争から日中戦争の歴史を考えることは、重要な思考実験のようです。論説「イスラエルの危機:戦前の日本を想起」(読売新聞)で、アメリカ公使・サウジアラビア大使・タイ大使を務めた岡崎久彦氏は、大日本帝国崩壊の過程に重ねて、現在のイスラエルに同情し、イスラエル指導部の苦しい選択に共鳴しています。
「その頃(1931年)の日本外交の基本は、条約の義務尊重と国際協調を柱とする1922年のワシントン体制の堅持にあった。」「しかし、中国にとっては帝国主義諸国に思うがままにされた過去の怨恨は強く、既存条約は尊重すべき国際秩序ではなく、打破すべき不平等条約であった。しかし、それを変える実力も無く、法的根拠もない中国国民党が訴えたのは現地の反日運動であった。つまり在留邦人、とくに婦人、学童に投石し、唾を吐き、商店は小売りを拒否して、日本人をいたたまれなくさせる事であった。それはまさにインティファーダ…と同じ方法である。」
「1928年張作霖爆殺から華北工作まではすべて、日本軍が裏で事件を仕組んで武力行使の口実を作ったものであるが、盧溝橋事件も含む36年以降の諸事件には、日本側の工作の匂いも全くない。」ではなぜ衝突が起きたのか? @日本人の横暴に対する中国民衆の自発的な意思。A国民党下部組織の暴発。B国民党と日本を戦わせる共産主義勢力の策謀。
戦争をどこまで裁けるのか? 誰が、誰に対して、どのような償いを求めるのか? 「人道に背く行為に対する罪」を裁く「国際裁判所」の設置や、「真実と和解のための委員会」が活動しています。また迫害されたユダヤ人はドイツ企業を相手にアメリカで裁判を起こし、巨額の賠償を認めた和解案を得ました。日本がアジアの地域安全保障を進めたい、と思うなら、私達の政府は何を指導するのでしょうか?
「中でも決定的だったのは、本来在留邦人の安全を守るための中国人保安隊の反乱であった。」「盧溝橋事件の際(1937年)、日本部隊が北京の日本人保護のために町を空けた途端に、保安隊が反乱した。日本人の死者200名。とくに虐殺遺棄された女性の死体に残る意図的陵辱は目を覆わしめるものがあった。」どの国でも、民間人の大量虐殺は、自国の政治家や軍人の罪を見えなくします。数年前、アメリカでは『南京虐殺の真実』という本がベスト・セラーになりました。「アメリカの積極的な介入」「一世代、30年間」の兵力分離、という岡崎氏の提案は、二つの社会の完全な隔離、朝鮮半島の分断を思わせます。
緊密な貿易と投資によって繁栄する世界で起きた、移民排斥と人種差別の高まり、核兵器の拡散、保護主義の連鎖、などの最近の出来事は、あと主要国(例えば日本)で金融危機が発生しさえすれば、大恐慌や世界戦争の条件がすべて揃ったことを意味するのではないでしょうか?
「アメリカは今や世界帝国となりつつある。9・11以降、アメリカは外の世界に介入する意思が出て来た。それは悪いことではない。ローマ帝国がローマ市民の兵士を辺境に送っても帝国の秩序を守る意思のあった間は、世界はより住み易い世界であった。」しかしアメリカの軍事力が圧倒的な優位にあることで国際秩序が維持されているのであれば、アメリカの政治的意思に対して、植民地ではない他国も発言できなければなりません。実際、ドイツはECBに通貨主権を譲りました。
日本政府と国会の安全保障論議は、最初から、次の時代を目指すべきです。
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, ST:Straits Times, FEER: Far Eastern Economic Review
NYT May 14, 2002
A Dutch Radical's Message to Europe
By FOLKERT JENSMA
Fortuynの人気は疑いないものであるが、それはル・ペンやハイダーと同じ極右の進出ではない。彼の政治スタイルは分類することが難しい。右派と中道派と左派の見解が混じり合っている。
彼はオランダがすでに「満腹"full up"」であり、これ以上の移民を直ちに阻止すると主張した。しかし他方で、社会サービスの官庁を改革し、選挙制度も改革することを支持し、特に女性の権利拡大について指導的な発言を行った。また、イスラエルを強く支持していた。
彼はアメリカ型の騒々しい政治に才能があり、個人的な魅力を兼ね備えたカリスマであった。彼の意見が矛盾している場合も多かったが、そんなとき彼は主張を和らげ、自分の声明を明確にして、批判を退けた。彼はレトリックに長けており、テレビ映りが良かった。
要するにFortuynは、オランダの政治家たちが持っていなかった特徴をすべて示していた。すなわち、彼は退屈な男ではなく、政治的な常套句を用いず、あからさまに野心を語った。
オランダの政治家達のスタイルや主張は一般に穏健で、互いに連携することを常とする。すべての反対者が将来の連携相手であるから、互いを侮辱しなかった。政治的常套句はますます多くの有権者達を選挙から遠ざけた。Wim Kok首相は1994年に左右の大連立政権をもたらし、8年間も政権を維持した。彼の政策は、政治的な差異を停止できることが前提になっていた。
それは時代の産物であった。共産主義は崩壊し、ヨーロッパは統合し、自由主義がすべての人を取り込んだ。各国の政治家達は、ゆっくりと、しかし否応無く、ブラッセル(EU本部)やフランクフルト(ECB)、ニュー・ヨーク(国連)で交渉するために出張した。
Fortuynは徒手空拳で、しばしば憤慨して、この婉曲な論争を打ち破った。どんな問題についても、彼は有権者の心配や関心を十分に意識して発言した。交通渋滞、病院の待ち時間、学校の過密、それらをくつろいで、楽しく語った。
彼はイスラム文化を「後進的」と考え、大都市の移民が多すぎるから、衣料、法と秩序、教育におけるすべての問題が起きている、と主張した。これは真実ではなかったが、完全な嘘でもなかった。彼は他の政治家達に激しく批判されたが、既存の政治的正統派には解決できない問題を指摘した点で、彼を支持する政治家もいた。
Fortuynは、選挙でも家にこもっていた多くの有権者を動員することに成功した。彼らはもっとも過密な地区に住む、移民の影響を受けて何もかも変わってしまったと感じていた貧しい有権者であった。典型的なFortuynの支持者は、自分の街に親しみを感じられなくなっていた。アムステルダムの男の子の最もよくある名前は、以前はJanであったが、今ではMuhammadである。
Fortuynは彼らの要望に応えて、強制的な語学教育と、女性や芸を差別するイスラム原理主義の法的な禁止を求めた。この問題でFortuynを公然と批判する政治家はおらず、むしろその政策を政府も採用しつつあると言える。
オランダ人にとって、Fortuynはル・ペンのような「極右」ではない。彼は自分のことを、クリントン大統領のように、内側から政治を変える、改革者であると考えた。彼の政党、the List Pim Fortuynは、さまざまな分野から指名されたが、Fortuyn無しには存在しない政党である。彼の暗殺はオランダの政治改革に暗い影を落とした。彼の政治的メッセージがヨーロッパに及ぼす影響も未知数だ。
ST MAY 15, 2002 WED
New Asian security ideas likely at Asia-Pacific defence dialogue
By Felix Soh
5月31日から6月2日まで、シンガポールのホテルに、アメリカ、ロシア、イギリス、カナダを含むアジア太平洋の諸国から、国防関係の大臣が結集する。このthe 'Shangri-La Dialogue'ではアジアの安全保障問題が議論され、新しい政策の出現が期待される。「アジアの安全保障について一層の透明性を望んでいる。」とロンドンのシンク・タンクthe International Institute for Strategic StudiesのDr John Chipmanは言う。
ミュンヘン会談がそうであったように、この会議でも多くの二国間会議が持たれるだろう。地域安全保障について大臣達が話し合う数少ない機会である。多角的な会合はさらに珍しい。政府ではなくシンク・タンクの主催であるから、話し合いは実質的である。この会合はアジア地域フォーラムを補完する。
(コメント)
日本がこうした国際・地域フォーラムを主催する主導的な役割を果たせているのでしょうか?もしそれができないとしたら、アジアの地域安全保障について日本の立場に不安を感じます。それは日本国内での議論が不十分であることを意味します。有事立法を議論する場合も、こうした対外的な支持を得る問題として、もっと実際的に議論すべきでしょう。
FT May 15 2002
Editorial comment: Tough love from the ECB
スタグフレーションがヨーロッパに忍び寄る。それは1970年代のような破滅的現象ではないが、魅力の乏しい成長と頑固なインフレ継続がもはや無視し得なくなっている。
ユーロ圏の経済大国はほとんど成長していない。イタリアもフランスも第1四半期の成長は0.2%、ドイツはもっと低いだろう。他方、ユーロ圏のインフレは今もECBのインフレ目標である2%を超えている。インフレ圧力が続けば、ECBは金利の引き上げを明言している。それはドイツ連銀の伝統的な政策姿勢である。それは1970年代のドイツに対して行われた。今はヨーロッパが行う番だ。
僅かな金利上昇がもたらす直接の影響は限られる。しかし、それは各国の政府、特にドイツにとって重大な意味を持ち、有権者の好意を得たい政治家にとって悪夢のメッセージだ。
不幸にして、ECBは正しい。世界的な景気後退の中で適切に金融を緩和し、その安価な貨幣がECBの存在意義である物価の安定性を損なった。真の問題は、低インフレで、アメリカやイギリスを苦しめる不均衡も無いのに、ユーロ圏は内需が足りないことだ。投資が回復する兆しは無く、民間企業は今も他の地域に投資している。消費もアメリカほど増加せず、ヨーロッパの政治家たちが将来の成長を期待するほど消費者は強気になれないことを示している。それはどれもECBの失敗ではない。
金利引上げに変わる政策とは、インフレの高進を許して経済成長の高まりを待つことであろう。しかし、成長は一時的に過ぎず、インフレを追い払うために後でより激しい引き締めが必要になる。各国政府が労働市場や製品市場の自由化を進めることこそ必要なのだ。
ECBを愛することは確かに容易ではない。しかし、これこそ総裁としてWim Duisenbergが最後に取り組むべき仕事だ。ECBは不況を引き起こしていないし、回復を妨げてもいない。
NYT May 15, 2002
For China's Wealthy, All but Fruited Plain
By CRAIG S. SMITH
(コメント)
上海の大変な富裕層の暮らしぶりと、その富を得た経緯、そして現在、共産党とのバランスをどのようにとるか、という事情を紹介した記事です。
上海の南に広がるアメリカの首都をまねた町で、Li Qinfuは紫色のランボルギーニを走らせる。彼の自動車が乗り入れた美しく舗装された広場は、ドーム型の丸い建物に囲まれ、その頂上に「自由の女神」を最初は飾ったが、今は、18フィート、3トンの彼に似たブロンズ像があって、右手を上げて未来を指し示す。と言うのも、手を振るのは毛沢東だけに許されたポーズだから。
40歳のLi氏は中国でもっとも裕福なビジネスマンである。共産党は今もこうした個人経営者の資産を奪いたがっているが、彼は捺染業と衣服工場で財を成した。
昨年、上海で5番目の不動産開発業者が、3000万ドルを支払って、この地域でもっとも派手な住宅を購入し、本土の富を見せつけて香港の金持ちたちを唸らせた。Li氏も莫大な税金を支払ってランボルギーニのほかにもベントレー、2台のベンツ、BMWを数台、日本の高級車もいっぱい持っている。彼の会社の上海オフィスは五つ星の高級ホテルのようであり、頂上の3階はガラスの立方体で、上海でも最高の高層建築である。ジャクジーからプライベート・ジムまであり、上海の町並みを睥睨できる。
官僚達の妨害と政府の偏見がある中で、個人がこうした蓄財に成功することは非常に難しいし、危険なことである。政府は、国民が1930年代や40年代のような貧富の格差によって社会混乱に落ち込むことを恐れている。アジア開発銀行の会議で、政府は中国が世界でもっとも格差の大きな国になった、と認めた。さらに富は政治権力をもたらすが、共産党はこれを断じて認めない。
多くの資産を得た者は罪人にされたが、Li氏は富を慎重に分散している、という。実際、彼は中国、日本、アメリカに税金を払っている。彼は、共産党が貧富の格差を最小に維持しようとするのは間違いだ、という。なぜなら、それは成長を妨げるから。むしろ貧富の差が広がっても、民主化することで、社会はより安定するだろう、と考える。むしろ問題は競争が欠けていることである、と。
彼自身も、中国がスターリン主義国家から市場経済に移行する過程をたどってきた。彼も共産党の少年部に入ったが、10年後に、資本主義を唱えたとして電機会社を首になった。1983年にケ小平の改革下で、国営企業を個人が所有し、固定税を支払いながら収益をあげることに挑んだ。21歳のとき、破産した織物工場を年240ドル支払って40人ほどの社員を解雇せずに経営権を買い取り、いくらかの利潤をあげた。60ドルで始めたポリエステルのシャツとパンツを作る工場は、初年度に7000ドルの利益をもたらした。文化大革命ではいた木綿の下着をやめて、多くの中国人はポリエステルの下着を競って買い求めたからである。
1988年に政府は2万4000ドルを請求したが、彼はそれでも2倍の利益を出した。とうとう政府は彼を被雇用者にした。「中国では、法律は指導者に従うのだ。」と彼は言う。彼は外部に助けを求めて、日本企業と提携し、1990年から合弁企業を作った。日本企業のために制服を生産する会社であった。1993年には、日本の新しい支援企業と一緒に高品質の捺染業を始めた。Li氏は地方政府の株式を1500万ドル保有している。「貨幣を刷るようなものだ。」と言う。
中国でビジネスをする時、政府や外国企業の幹部に近づくことは欠かせない。日本人の集まるカラオケ・バーやイタリア人の集まるレストランへ彼は行く。融資を受ける必要は無いが、中国の企業家は隠れているため、銀行やブローカーとの取引が情報源となる。彼は共産党員ではないが政治協商会議に選ばれるだろう。彼の妻は共産党員である。
Li氏のオフィスにはナポレオンと自分の肖像画がある。朱首相やブッシュ大統領、ヨルダン国王と一緒に撮った写真が並ぶ中に、1963年の彼の家族を写した白黒写真が飾ってある。そこには、詰め物をした農民の服を着て、みすぼらしい農民の家の前で、粗雑な竹の道具に腰掛けた彼がいる。
FT May 16 2002
Malthus, Sachs, email
Amity Shlaes
マルサスThomas Robert Malthusは、食糧生産が人口増加に追いつけないという理由で、世界は確実に飢えると書いた。近頃、マルサスの考えは全く破棄されたように見える。農業は改良されたし、一般的な生産性の上昇もあった。今ではMoore’s Lawがコンピューターの性能に関するマルサスだ。
しかし、われわれの時代にもマルサスはいる。特に国際援助の要求には集まってくる。9・11以降、多くの人がマルサスのようにアフリカや中東、アジアの人口増加に注目し、開発援助を増やさなければ成長が破壊される、と主張した。マクロやミクロの基礎的な議論を好んできた経済学者でさえ、援助や教育、地理的宿命を語っている。
その一人はHarvardのJeffrey Sachsである。彼は1990年代の偉大な開発論者であり、ポーランドの「ショック・セラピー」からボリビアでの仕事まで、冷戦後の世界に足跡を残した。しかし、今や財政政策や金融政策ではなく、発展途上国の問題に違う形で取り組もうとしている。
E−mailでの質問に答えて、「遠隔地であると言うだけで破滅を意味することもある。それは世界のもっとも貧しい地域で開発が機能しない理由の一つだ。」と彼は書いた。「マルサスは世界的には間違っていたが、技術進歩から切り離された貧しい地方の問題としては正しい。」
経済学者も西側の政治家もこの問題を無視していたから、今や一層の資源を振り向けるべきだ、と彼は考える。それが彼の新地理的アプローチである。
もちろん貧困の理由は地理的な隔離に限られない。実際には少なくとも三つの理由がある。1.悪政。2.地理。3.貧困の悪循環(人的資本、貯蓄、栄養、生産性、など)。地理的な罠は現実に存在する。資源や商品作物に恵まれた地域は、それが乏しい地域と同じくらい、貧困や戦争に苦しんでいる。
マルサス主義の欠陥は、地理的な側面を強調することで、政府の失敗を見逃しやすいことだ。また、国連などの国際機関はプロジェクトの失敗を弁解する。われわれがいくら残念に思っても、貧しい国に社会の安定や子供達の学校教育を押し付けることはできないのだ。
FT May 16 2002
Forget sovereign bankruptcy plans
Caroline Atkinson
国家が企業と異なるのはいつか? 資金が不足すると、企業は破産する。しかし国家は破産できない。企業の債務処理には破産法がある。国家には無い。国家の破産処理は時間がかかり、混乱している。
だからIMFが国家の破産を提案したのは無理も無い。しかし、その提案は論争を巻き起こして、まだ決着がつかない。債務条件の見直しを認める条項を発行時に認めるという財務省案も不十分だ。
どちらの案もアルゼンチンの崩壊を防げなかっただろう。固定レート制を変えずにデフォルトを宣言しても、資本逃避が増えるだけだ。債券保有者に再交渉を求める条件があっても、金融システムは改善されず、ハイパー・インフレを招く。逆に、もしアルゼンチンが金融の安定化と成長に向けた信頼できる枠組みを整えれば、債権者はすすんで取引に応じる。
メキシコからトルコまで、債務問題は経済破綻の兆候であり、原因でもあった。それを解決するには改革が必要であり、特に成長に必要な為替レートの調整には短期的に生活水準の悪化が伴う。改革を認め、その実施を説得し、彼らがそれを拒めば融資を止める必要がある。
債務処理のメカニズムが問題ではなく、もっと深い三つの問題に関心を集中させるべきだ。1.経済を崩壊させずに、その国は債務を支払えないと、どうやって判断するか? 2.その政策が機能しないときに、国際社会が融資を拒む意思をどうやって強めるか? 3.債務者と債権者とを合意に向けてどうやって既存の手段の利用するか?
機器になれば、政策の変更や公的な一時融資が、投資家の信頼を回復するのに十分であるかどうかは、判断できない。いくつかの場合では、債務が再交渉されるべきだろう。しかし、それを決めるのも、債務国と債権者との間で負担を分担させるのも、実に困難な判断が含まれる。
IMFはその判断を下す唯一の政治的な正当性と技術的能力を持つ機関である。債務の維持可能性に関するより透明なガイドラインによって、これを行うべきだ。既にIMFは税率、歳出・国債発行削減に関する仮定を基に、融資計画を決定している。債務再交渉が必要になる時期に関しても、より開かれた知識が必要なだけだ。
IMFがデフォルトを回避させるために大規模な融資を行うのが正しい時もある。しかし、例外的な大規模融資はもっと制限されるべきであるし、厳しい監視と信頼できる政策により、もっと市場の信頼を回復できるようにしなければならない。固定レート制は排除され、市場が好まなかったり、政策が実行されない場合は、融資を止めて戦略を練り直すべきだ。
国家の破産メカニズムがあれば、IMFや加盟政府は融資を拒否しやすいだろう、という意見もある。しかし、IMFには債権者や債務者に交渉を促す手段がある。債務国政府には、企業と異なり、債務の支払いを停止したり、債権者に合意を強制する力がある。政府がこれを行わないのは、自国の信用を傷つけたくないからである。借り手はIMFIMFによる(再建計画への)公認(お墨付き)や機器を緩和する金融支援を求めている。企業と違って抑えるべき在外資産は余り無く、債権者達はIMFが債務国と意味のある再建計画を合意するのを待つしかない。
なぜIMFはそうしないのか? いつから破産とすべきか、その判断が非常に難しいからである。加盟国政府が耐えられる、あるいは耐えるべき苦しみはどれくらいか? どの程度デフォルトによるシステムへのリスクを覚悟すべきか?
新しい破産法を作っても、こうした判断が楽にならない。国際機関を増やすよりも、国際社会は既にある権力をいつ使うべきか明確にすべきだろう。IMFの新規融資とデフォルトを選択すべきではなく、追い貸しを続けるか、それとも賢明な政策と現実的な債務負担に対して融資を行うべきか、それを選択しなければならない。
FEER May 23, 2002
INTERVIEW: LEON BRITTAN
A Practical View of Economics
FEER:中国の金融改革は?
Lord Brittan:正しい方向にある。不良債権が増えているのは、国営企業に貸しているからだ。国営企業の改革がどこまでできるかは、失業率の上昇に限界があるだろう。
FEER:WTO加盟は中国にプラスか?
Lord Brittan:朱首相は、われわれが中国に求めていることは、彼が国内の改革で訴えていることと同じだ、と述べたことがある。中国は、他の諸国を喜ばせるためにWTOに加盟したのではない。これは彼らの改革の問題なのだ。
もちろん中国経済の開放は、地域によっては大きな痛みを伴う。中国政府は、開放の利益が外国人のものだとは考えていない。外資の算入は中国にとっても利益であり、外国との競争は中国産業の改革を進め、より効率的にする。その限りで支持するのだ。
中国経済の規模とコストの低さから言って、空洞化の心配は無い。
FEER:アジア地域の自由貿易圏FTAは?
Lord Brittan:APECの遅さにはカタツムリも恥じ入るばかりだ。ヨーロッパには、非常に強力な協調への政治的願望が存在した。そして経済的な手段でこの政治的目的を前進させたのだ。アジアでFTAが進まないのは、十分に一貫した政治的動機が欠けているからである。FTAの構築には痛みが伴う。十分な政治的動機なしには不可能だ。
ASEAN内で関税を引き下げて中国に対抗することは可能か? マハティールはそうしようと言った。しかしWTOの規則に不服で、もっと広範なFTAを作れば、格好が都合の悪い分野を除外してしまうだけだ。上手く行くとは思わない。
WP Friday, May 17, 2002
How Bush Stumbled On Steel
By David Ignatius
ブッシュ政権は「偽善の政治」を公然と行うことで、保護主義の連鎖を広めている。鉄鋼産業、反ダンピングを含む貿易関連法案への上院による拒否権温存、廃止するはずであった農業補助金の増額。2004年の選挙を考えた共和党の目的に合わせて貿易を利用している。オニール財務長官は、アルコアで彼がやったように、世界の過剰生産設備を廃棄できると考えている。しかし、保護主義に代わる国際産業政策が成功するかどうかは不確かだ。鉄鋼ロビーはこうした政治家の詭弁を当てにせず、保護主義に走った。クリントンも一括交渉権を得るために議会との裏取引をした。しかし、ブッシュは単純な「正邪」に拘る道徳家である。そのスタイルによって、「偽善の政治」が議会を冒す。
ST MAY 19, 2002 SUN
Japan the sick man of Asia?
GWYNNE DYER
(コメント)
日本はアジアの重病人か? マツダの社長が「日本のグラフをさかさまに見たときだけ良く見える」というコメントの延長です。すなわち、権力を独占してきた自民党に改革はできない。ライオン首相も自民党の延命手段に使われたとしか思えない。外国にだけ人気があったゴルバチョフと同じだ。ソビエト連邦の停滞は20年続き、オスマン・トルコ帝国は1世紀にわたって「ヨーロッパの病人」であった、と。
70歳以上の人口が10代の若者よりも多い国で、改革を売り込むことは難しい。
NYT May 19, 2002
A Failure to Imagine
By THOMAS L. FRIEDMAN
9・11を防げなかったのは、情報収集や捜査機関の協力が欠けていたせいではない。想像力が欠けていたからだ。たとえ情報があって、FBIとCIAとホワイト・ハウスがそれを共有していても、オサマ・ビン・ラディンほどのスケールでそれらを邪悪な目的に結びつけた者はいなかっただろう。
アメリカ人はそれほど邪悪な発想を持たない。たとえ大使館がテロに遭っても、海兵隊員は警備を増やして、何ヶ月か後に、それ以上のテロに遭う。大統領が邪悪な発想に欠けていたとしても、私は彼を責めない。しかしテロの脅威が深刻であれば、われわれもそれに適応する必要がある。「邪悪管理局」an "Office of Evil"の創設である。
しかし私がブッシュ大統領を責めるのは、9・11以後にアメリカで起きた積極的な反応を、彼が無駄にしたことだ。多くの若者達がアメリカの長期的なエネルギーの自律性を高める計画を示した。エネルギーの節約、効率改善、再生可能なエネルギーの開発に向けた取り組みにより、石油輸入を減らす計画であった。
われわれは市民的な価値を認めない国との関係を減らす一方で、最善の世界市民であることを示せただろう。ブッシュ氏には、テロとの戦争に勝つことが、単に軍隊によってではなく、京都議定書を認めて地球温暖化の防止に協力することも必要だと思える、想像力を欠いていた。
FT May 20 2002
EU leaders try to reduce illegal immigration
By James Mackintosh in London and George Parker in Brussels
EUの指導者達は非合法移民を減らすために、これに協力しない発展途上国への援助を減らすという強硬手段を検討するだろう。月曜日、スペインのAznar首相はイギリスのブレア首相の提案を支持して、来月のEUサミットにおける最重要議題に含めると約束した。ブレア首相はヨーロッパで広まる移民排斥と極右の台頭に関する懸念を利用して、EUが共通の難民政策を持つべきだと主張する。難民問題は「動きが取れなくなっている。」と彼は言う。
しかし、フィンランドのTampereで1999年に原則合意した共通の難民政策は、遅々として具体化していない。フランスやドイツは国家主権に関わる決定を委ねることに慎重であり、北欧諸国は人権を損なう扱いに反対する。ブレアはフランス大統領選挙や大陸各国における極右政党の進出、さらにはテロとの戦争で国際協力を実現したことによって、移民の抑制にも協力できると考えている。
ブレアとAznarは、特に、非合法移民を運ぶ仲介人を逮捕し、EUの国境管理を厳しくする一方、合法移民のイメージを改善して人種差別や外国人排斥をなくすべきだ、と主張する。
FT May 20 2002
John Kay: Migration ins and outs
移民に関する意見は、その人の政治・社会的な立場によって変わるように思う。左派は利益を強調し、右派はコストを見る。事実はどうか?
人口密度は関係ない。豊かなオランダも、貧しいバングラデシュも、世界で最も人口密度が高い。逆にザイールとオーストラリアは、ともに資源に富んだ人口の少ない国である。人口増加も関係ない。20世紀を通じて日本は人口が増加し、ドイツは人口が減少し、フランスは一定であった。外部環境に関わらず、良い経済制度が重要だ。人口増加が、1万年前に農業を発明し、産業革命ももたらした。しかし、資源や人口は少数で分け合っていることが最善なようだ。酷使病を生き延びた人々は生活が改善した。もちろん、それは永続するものではなく、人口が回復し、経済システムは自己調整する。
ほとんどの移民は労働人口である。彼らは子供を育て、老人となる。しかし同化が容易なら、短期的には移民は(労働力の追加によって)利益であろう。オーストラリアやアイルランド、ニュー・ジーランドからのロンドンで秘書や会計として一時的な働く移民を考えれば、彼らは平均的なイギリス人よりも良く働く。
しかし多くの移民はそれほど容易に吸収されない。彼らは同じ年齢の、同じ教育を受けたイギリス人労働者よりも、一般に賃金が低い。時間とともに格差は減るが、次の世代にまで続くかもしれない。その理由は人種差別もあるが、経済学の真実、すなわち好ましくない環境が生産性を下げるからでもある。
移民は出身国よりも高い賃金を稼ぐが、受入国の労働者よりも低い賃金しか得られない。これが移民の事実である。ここからほとんどの社会的・経済的帰結がもたらされる。
豊かな国の間に移民は起こらない。他方、アメリカや西欧で彼らの暮らしが改善できるなら、なぜ貧しい国からの移民がこれほど少ないか、が問題である。幸福は、絶対的な生活水準だけでなく、期待に比べた生活の質にも依存する。それゆえ、多くの移民はアフガニスタンや東ヨーロッパから来るし、ユグノーやユダヤ人、東アフリカのアジア系住民など、経済的には成功している少数民族が移民となる。
移民の賃金が低いとすれば、住民の賃金にはどのような影響があるか? かなりの移民の受け入れた地区の研究によれば、住民の賃金は変化しないようだ。もし賃金が下がれば、住民も移民もよそへ行った、ということだろう。右派は移民たちが低賃金で住民汚職を奪った、と主張する。われわれは、他のグループにとって職場が失われたのか、それとも彼らは他の職場に代わったのか、それが分からない。
通常、移民は受入社会の利益である。彼らは住民よりも労働者が中心で、良く働く上に賃金は低い。そして社会的に嫌われている職場にも就く。しかし、この有利さにはコストが伴う。未熟練労働者を含む、相対的に自由な移民政策は、住民よりも所得の低い下層階級を作ってしまう。彼らは差別されていると感じるし、実際に差別されるだろう。この怨嗟の情は政治問題として表面化する。
他方、熟練労働者に限定した移民政策は、政治的・経済的混乱で有効に利用されていない人材を吸収する点で、移民たちにも利益をもたらす。しかし、われわれが援助をしている貧しい国から、医者や看護婦、コンピューター技術者を奪ってしまうことは、その政策が本当に責任あるものかどうか、問われるだろう。
こうして問題は常に政治的なものになる。
ST MAY 21, 2002 TUE
Worker's death exposes migrants' plight in Seoul
(コメント)
The Korea Heraldによる記事の紹介です。韓国で、カザフスタンから来た非合法移民が酔っ払いに暴行されて死亡した、という事件について。
わずか数十年前は、韓国人が富を求めて中東やアメリカに移民していた。今では逆に韓国に移民してくる。33万人の移民労働者のうち、78%は政府の労働訓練計画によって2年間の職場を経て、非合法に滞在を延長した人々だ。主に「3D労働(dirty, dangerous and demeaning)」に就いている。その3分の2は朝鮮系の人々である。多くの債務を負って出国したために、5年もその返済のために働かねばならない。非合法であるために立場が弱く、いつも隠れて過ごすしかない。韓国政府は非合法移民の滞在合法化やゲスト労働者制度の法制化を考えているが、国内の反対が強い。
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The Economist, May 11th 2002
AIDS: How to live with it, not die of it
時は偉大な治癒者である。しかし、AIDSに関しては、時は単に偉大な殺人犯だ。アフリカでは全人口の70%が感染しており、想像できない悲劇が襲ってくる。ボツワナの例はこれを示す。20年前、ボツワナの平均寿命は60歳以上であった。今では40歳を切っている。予測では、2020年までにボツワナの生産額はAIDSが無い場合よりも32%少なくなるだろう。病は収入を減らし、支出を増やす。2010年には21万4000人の孤児が生じる。一部は、生まれながらに保菌者である。もし幸運に親戚が育ててくれても、誰が学費を支払えるのか? 大人の38.5%が発病しているのに、誰が学校で教えるのか?
希望が全く無いわけではない。ウガンダはAIDS撲滅キャンペーンで感染者を30%から11%に減らした。企業も政府も、豊かな国からの支援も、新しい対応がAIDSとともに生きるアフリカには必要だ。
Trade disputes: Dangerous activities
ブッシュ政権の鉄鋼関税には、EUも日本も、WTOに従って報復的な関税を用意している。アメリカ政府はEUの措置に対抗する関税をも示唆している。両者とも自由貿易の世界ルールに従っている、と主張するが、そのような二重思考は報復合戦への序幕に過ぎない。スウェーデンとドイツは対抗措置としての関税引き上げの効果を疑っている。イギリスも私的に反対意見を表明した。
EUは既にWTOにより、アメリカの海外販売に対する保税措置を、輸出補助金として禁止する決定を得ている。その予想される報復関税額10億から40億ドルは、通商政策として空前の規模である。これに対してアメリカもEUの税制や遺伝子組み替え食品への規制に不服申し立てをすることで、EUとの感情的な対立が高まっている。アメリカとEUとの複雑化する対立は、成立して間もないWTOの政治的権威を弱めてしまう。WTOの規則は、所詮、政治家にとっては「スイスのチーズ」と同じように曖昧で、何とでも分類できるものである。
しかし、さらに議会と合意した国内農業補助金の増額は、アメリカが保護主義的なEUの共通農業政策を助けて、ドーハで決まった交渉項目を破壊することにつながるだろう。EUはアメリカがウルグアイ・ラウンドの合意を守る気がないと思っている。選挙のために次々と関税を導入するアメリカが自由貿易を主張するとしたら、大統領は笑いものになる。ヨーロッパも政治的な理由で農業政策を換えようとしない。貧しい諸国は国際システムへの不信感をさらに強めるだろう。それは直ちに世界経済システムを解体しないかもしれないが、長期的にグローバリゼーションを脅かす。